真・恋姫†無双-白き旅人- 第六章
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「・・・様、準備が整いました」

 

「うむ、ご苦労」

 

 

薄暗い、部屋の一室

そこに、一人の男がいた

 

彼は持っていた杯を机に置き、クッと笑いを零す

 

 

 

「いよいよじゃ・・・いよいよ、この国は儂のモノになる」

 

 

 

その笑いは、段々と大きくなり

ついには、その一室を飛出し

 

不気味なまでに暗い空にまで、届いて行ったのだ・・・

 

 

 

「待っていろ、この儂が・・・この国を統べるのじゃ!!!」

 

 

 

その瞳に

不気味なまでの狂気を宿す

一人の、嗤い声が・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

≪真・恋姫†無双-白き旅人-≫

第六章 建業激震!?ヒーローは遅れて登場するもんだってばよ!!

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

“何故だ?”

彼が自身にそう自問するのは、これでいったい何度目だろうか?

“いったい何故、こんな状況に?”

そのようなことすら考え付かないほどに、彼は繰り返していた

同じ疑問を、何度も何度も

されど、いっこうに答えは出ない

それに伴い、微かに痛んでくる頭

 

しかし・・・

 

 

 

 

「あははははは、なにこの杖〜!

面白〜〜〜い♪」

 

 

 

 

そんな彼とは対照的に、何の悩みも感じさせないような明るい声色で笑う女性が一人

 

孫策、真名を雪蓮である

 

彼女は先ほどから彼の杖を振り回し、小さな炎を出し遊んでいたのだ

その様子を彼・・・司馬懿こと、北郷一刀は痛む頭をおさえ眺めていた

 

 

「ねぇ、仲達!

この杖、本当に面白いわねっ♪」

 

「うん、喜んでもらえたようで何よりだよ

だから、早くそれを返してくれないかな?」

 

「え〜〜〜?」

 

「“え〜〜〜”じゃない

それは玩具じゃないんだからさ・・・」

 

「もう、わかったわよ

仲達のケチ」

 

 

“ケチで結構”と、彼は孫策から杖を受け取る

それからそれを肩に担ぎ、深くため息を吐き出し思いを馳せる

 

“何故・・・こんなことに?”と

 

 

 

さて、話は彼が彼女に捕まった当初に遡る

 

あの飲食店での一件の直後、見事に彼女に捕まってしまった一刀

これは逃げられないと、彼自身も諦めていた

 

せめて自身の正体は晒すまいと心の中、密かに決意しながら

名乗った名はもちろん、“司馬懿仲達”だ

 

そんな折、彼女はまずは一刀の持つ杖“ひのきのぼう”を貸してほしいと言ってきたのだ

どうやらあの一件以来、気になっていたようだ

これを一刀は、渋々承諾

使い方を説明し、孫策へと貸したのだ

 

そして、話は冒頭に戻る・・・

 

 

 

「すごいわね、その杖

それ、自分で作ったのよね?」

 

「まぁ、ね」

 

「へぇ〜、私の知り合いにもそういう絡繰りを作るのが得意って子がいるけど

そういう絡繰りは、見たことがないわ」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

 

“きっと、真桜のことだろう”と、一刀は笑う

それから、ふと込み上げるものがあった

あの真桜でも、このような発明品は作れなかったらしい

まぁ一刀の場合、現代の技術もあるからなのだが

 

それでも、嬉しいと彼は素直に喜んでいた

 

 

「その知り合いは、どんなものを作ってるのかな?」

 

「えっと、確か“全自動お菊ちゃん”っていうのだったようn・・・どうしたの、仲達

そんな前屈みになって」

 

「いや、なんでもない

ただちょっと、息子が“つい最近は、岩に隠れとったのか?(^ω^)?”ってなってるだけだから

すぐに治るから、気にしないで」

 

「なら、いいけど」

 

 

“アイツ、なにしてんの?”と言いながら前屈みになる一刀

そんな彼の様子を見て不思議に思うも、孫策はすぐ笑顔で話をはじめた

 

 

「それより、もっと他にないの?

面白い発明品とか」

 

「ん〜、俺が作ったのはそもそも“面白い”っていうのを目的としてないからなぁ

残念ながら、期待には応えられそうもないよ」

 

「え〜、つまんな〜い」

 

 

“ブーブー”と文句を言う孫策を尻目に、ようやく息子が落ち着いたのか一刀は姿勢を戻す

それから杖を見つめ、軽く溜め息を吐き出したのだ

 

 

「んでさ、俺もう帰ってもいいかな?

宿に酔っ払い二人を置いたままでさ・・・」

 

「それは駄目♪

折角、久しぶりに面白いことに出会えたんだもの

そう簡単には、逃がさないわよ?」

 

「はぁ・・・さいですか」

 

 

“ですよねー”と、溜め息

大体こんなオチだろうなぁとは、彼も予想していた

 

故に、さして驚くこともない

むしろ、この状況を逆に利用してみようなどと思い始めていたのだ

 

 

「じゃあさ、この街を案内してくれないかな?」

 

 

そう思いついての、この発言だった

 

 

「案内?」

 

 

一刀の言葉

首を傾げる孫策をよそに、彼は苦笑してみせる

 

 

「実は今、この大陸を色々旅して周ってるんだけどさ

この街にはまだ、全然詳しくないんだよね

だからホラ、この街をよく知ってる人に案内して貰えると助かるなぁと」

 

 

“どうかな?”と、一刀

それに対し、彼女・・・孫策は、笑顔を浮かべ頷いたのだった

 

 

 

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「ひ、雛里さんっ!?

お、お久しぶりです!」

 

 

よく掃除された城内の一室

その中で、一人の女性が慌てて雛里に向い頭を下げていた

 

彼女の名前は“呂蒙”、真名を“亞莎”という

呉の軍師にして、武技にも精通する文武両道の才人である

その才を認められ、今は三国会議に出た重鎮たちに代わり呉国内の些事を任されていたのだ

 

そんな彼女に向い、雛里もまた頭を下げる

 

 

「お久しぶりです、亞莎さん

急にお訪ねして、申し訳ありません」

 

 

雛里の言葉

亞莎は“とんでもない”と、手を大きく振る

 

 

「いつでも、お気軽に訪ねてくださって結構ですよ!」

 

「ありがとうございます」

 

 

礼を言い、また頭を下げる雛里

そんな彼女の様子に、彼女は朗らかな笑みを浮かべ口を開いた

 

 

「それにしても・・・今日はいったいどのようなご用件で?

私はてっきり、雛里さんも三国会議にご出席しているものだとばかり・・・」

 

 

この言葉を聞き、雛里は思う

彼女はまだ、雛里が一年前“旅に出ていった”ことを知らないのだ、と

 

これは、チャンスである

 

 

 

 

「私は少々仕事が残っていましたので、今回は残っていたんです

その仕事の途上、蜀内にある情報では少々難しくなってしまい・・・こうして、建業を訪ねて参りました」

 

 

嘘をつくのは、やはり気が引けるものだが

それでもと、雛里はそれを態度に出さぬ様務める

亞莎はというと、その言葉に“そうだったのですか”と納得したような声をあげていた

 

 

「わかりました・・・どこまで力になれるかは、わかりませんが

わかる範囲でよければ、お手伝いしましょう」

 

「っ、ありがとうございます亞莎さん!」

 

 

三度、今度は大きく頭を下げる雛里

亞莎は、“お気になさらずに”と微笑む

 

そんな中、ふと・・・彼女は、何かを思い出したかのように声をあげた

 

 

「そういえば、意外と言えば・・・雪蓮様も、今回は建業にお留守番として残っているのですよ」

 

「雪蓮さんが、ですか?」

 

 

“ええ、今は少々街に出ていますが”と、亞莎

雛里は、驚いたのか目を真ん丸とさせていた

 

 

「実は・・・出発当日に、急に留守番がいいと我儘を仰いまして

それを見た冥琳様が“なら私たちが帰ってくるまで、書簡漬けにしてやろう”と・・・」

 

「そ、そうなんですか」

 

 

何故だろう

 

その光景を、いとも簡単に想像できた雛里

彼女は苦笑を漏らすと、“ハァ”と溜め息一つ吐き出した

 

それから、ふと思う

 

 

 

 

 

 

(一刀さん、雪蓮さんと出くわしていないといいけど・・・)

 

 

 

 

 

 

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「ごめん、雛里・・・」

 

 

何故か、謝らなくてはいけない気がした

 

我ながら馬鹿なことを考えるものだと思いつつも、今の謝罪は決して間違いなんかじゃないと思う自分もいる

等と心の中呟きながら、歩くのは建業の街中

朝も歩いていた、見覚えのある街並み

 

唯一つ違うのは・・・彼の隣に、桃色の髪をした美しい女性がいるところであろうか

 

言わずもがな、孫策である

彼女は上機嫌に微笑みながら、彼を伴い街を案内しているのだ

 

 

「あ、あそこのお店は肉まんが美味しいのよ♪」

 

「へぇ〜」

 

 

等と、自分が知っている場所、気に入っている場所があればこうして教えてくれるのだ

おかげで、この辺りのことを少しずつだが把握出来てきていた

 

存外、あのときの案内を任せるという判断は間違いではなかったようだ

彼女も楽しそうだし、問題はないだろう

 

一石二鳥、とでも言うのだろうか

 

 

「あと、あそこの装飾品屋さんが個人的にはお気に入りかなぁ」

 

「ん・・・?」

 

 

“ピタリ”と、彼はその足を止める

そんな彼の様子を見て、彼女は意外そうに声をあげた

 

 

「なに、仲達ってば装飾品に興味があるの?」

 

「いや・・・うん、ちょっとね」

 

「なら、ちょっと見てみる?」

 

 

孫策に一言に、彼は“そうだね”と頷いた

そのまま、二人はその装飾品屋に入ったのだった

 

 

 

「いらっしゃいませ

まぁ・・・孫策様、お久しぶりで御座います」

 

「こんにちわ〜」

 

 

そんな二人を、店主らしき女性が出迎える

それに応えつつ、見つめる店内

其処には、珍しい宝石から安価でお洒落な装飾品まで幾つもの商品が揃っていた

 

 

「すごい品揃えだな」

 

「でしょ?」

 

 

一刀の漏らした言葉に、笑顔のまま言う孫策

そんな彼女の笑顔に若干ドキッとしつつ、彼は店内に置かれている品々に目を通していく

 

 

「贈り物か何かでしょうか?」

 

 

ふと、店主は彼に尋ねる

彼はというと・・・少々躊躇った後、“はい”と小さな声で言ったのだ

それに反応したのは、孫策だった

 

 

「なになに、もしかして仲達ってば彼女でもいるの〜?」

 

「そこは黙秘します」

 

「え〜」

 

 

“つまんな〜い”とごねる孫策

だが彼はそんな彼女のことなど気にした様子もなく、気になったモノを何個か手に取ると店主に手渡した

 

 

「コレとコレと・・・あと、コレを下さい」

 

「かしこまりました」

 

 

会計を済ませ、満足げに頷く一刀

彼は受け取った装飾品を懐へと仕舞うと、孫策のもとへと歩み寄る

 

 

「さて、行こうか」

 

「わかったわ

次は、どんな所が見たい?」

 

「任せるよ

孫策さんの案内なら、きっと何処へ行っても楽しいと思うから」

 

「っ・・・」

 

 

不意打ち、とでも言うのだろうか

 

ともかくだ

 

不意に笑顔を浮かべそう言った一刀の笑顔に、彼女は胸の鼓動が速くなるのを感じていた

もっとも、笑顔といってもフードを被っているせいか顔はハッキリとは見えないのだが

それでも、彼女には彼の笑顔が見えた気がしたのだ

 

故に・・・“原因不明”の顔の熱さに戸惑いながらも、彼の手を握り足早に歩き出したのだった

 

 

 

「ちょ、孫策さんっ!?」

 

「フフフ、まっかせなさい!

この私がこの建業を隅々まで案内してあげるんだからっ♪」

 

 

 

その表情は、ここ最近見ることのなかった

とても、明るく楽しげなものだったとか・・・

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

“楽しい時間は、あっという間に過ぎていく”

夕刻

朱に染まる空を見上げながら、孫策は久方ぶりにそう感じていた

ここ最近は、退屈で一日が長く感じたものだったが

今日は、そうではなかった

故に嬉しくもあり、また残念でもあったのだ

 

 

「もう、日が暮れるわね」

 

「そうだな・・・」

 

 

そんな彼女の隣

白い外衣を身に纏った仲達こと、一刀も同じように思っていた

捕まった当初は、ここまで楽しくなるものだとは思っていなかったのである

 

 

「そろそろ、帰らなくっちゃね」

 

「そうだな・・・もう、帰らなくちゃ」

 

 

そうは言うが、2人とも中々歩こうとはしない

しかし、このままでは完全に日が落ちてしまう

そう思い、先に口を開いたのは一刀だった

 

 

「今日はありがとう

おかげで、この街のこと色々わかったよ」

 

「ううん、いいのよ

私も、楽しかったから」

 

 

言って、彼女は笑う

それにつられ、彼も笑っていた

やがて、ゆっくりと歩き出す一刀

 

だがしかし・・・その足は、孫策のもとへと向かっていた

 

 

「・・・どうか、したの?」

 

 

孫策の問い

彼は少し照れくさそうに頬を掻いた後・・・自身の懐に手をやる

それから取り出したものを、そっと孫策の手にのせたのだ

 

 

「これ・・・」

 

 

手渡されたのは、“紅い宝石”が中心に飾り付けられた首飾りだった

夕日に照らされ、とても美しく輝くそれを・・・彼女は、唖然とした表情のまま見つめていたのだ

 

 

「今日の、お礼

その、ありがとう・・・色々、案内してくれて」

 

 

“それじゃあ”と、一刀

彼は照れくさそうな表情もそのままに言った

それから踵を返し、宿に向いゆっくりと歩き出す

 

 

“今日が、終わる”

 

 

ふと、改めて実感する

彼女はそのことが、やはり残念だった

久しぶりに、楽しい一日だった

それが、もう終わるのだ

 

仕方ない

 

それは、理解している

時間はいつだって、自分たちの意思とは関係なく流れていくのだから

 

 

「ああ、そっか・・・」

 

 

瞬間

 

彼女は気づいた

確かに、“今日”はもう終わる

 

だったら・・・

 

 

 

 

「明日も・・・また、会えるかしらっ!?」

 

 

 

 

遠くなっていく背に向い、彼女はそう声をかけていた

顔が真っ赤になっていることにも気づかず

周りの視線なども気にせず

彼女は、大きな声でそう言っていたのだ

その声が聞こえたのか、ピタリと足を止める一刀

 

彼はその場でゆっくりと振り返った後・・・

 

 

 

 

 

「ああ、きっと・・・!!」

 

 

 

 

そう言って、大きく手を振ったのだった

 

何時に、や

何処で会うのか、など

そのような約束などではない

 

しかし、それでもいい

 

大きく手を振る青年を見つめ、彼女もまた・・・負けじと手を振っていたのだ

 

それは、お互いの姿が見えなくなるまで続いたのだった

 

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「あ、おかえりなさい一刀さん♪」

 

 

宿に着いた時、その宿の入口にはちょうど今帰ってきたところなのか雛里の姿があった

彼女は行きよりも僅かに膨らんだ荷袋もそのままに、彼にフッと微笑んだ

それに、彼は“ただいま”と笑みを返す

 

 

「お城のほう、どうだった?」

 

「あ、はい

色々と、興味深いお話が聞けました

そのことで、幾つかお話したいことがあるのですが・・・」

 

「なら、雛里ちゃんたちの部屋で話を聞こうか

華雄達の体調も、良くなってるかもしれないし」

 

「はい」

 

 

“では、参りましょう”と、雛里

その後を、彼はゆっくりとついていく

やがて辿り着いた部屋の中、朝よりも顔色の良くなった華雄と霞が話をしていた

 

 

「おっ、一刀おかえり〜〜」

 

「ただいま

体調のほうは、どうかな?」

 

「うむ、だいぶ良くなったさ

すまなかったな」

 

 

“気にしないで”と、寝台に腰をかけながら彼は言う

それから、その向かいの寝台に雛里が腰をかけた

 

 

「まずは、雛里ちゃんのお話から・・・で、いいかな?」

 

 

“はい”と、頷く雛里

彼女は傍に置いた荷袋から一本の竹簡を取り出し、それを皆に見えるよう広げた

 

 

「まずは、ここ最近の呉国についてなのですが

ここ最近、“山越”の動きが活発になってきているみたいですね

流石に、それほど詳しくは教えてもらえませんでしたが」

 

「山越・・・ね」

 

 

 

山越とは、呉の地に長く住む民族のことだ

乱世が終わった今、大きな争いなどは起こっていなかったが

それでも、決して友好ともいえる間柄ではなかった

その山越が、活発に動いているというのだ

 

 

 

「なんや・・・戦でも起こすんかな?」

 

「さぁ、そこまでは・・・」

 

 

“まだ、何ともいませんが”と、苦笑する雛里

その後すぐに、もう一本竹簡を取り出し広げる

 

 

「次に、荊州の問題です・・・こちらは、私が蜀を出る頃から変わっていませんね」

 

「ちゅうと、未だにあのままっちゅうわけか?」

 

「そうなります

だからこそ、少しマズイかもしれませんね」

 

 

荊州の問題

言われて、一刀は苦笑する

 

 

「荊州の“領土問題”、だね?」

 

「はい」

 

 

荊州とは、三国の丁度中心に位置する場所にある

その位置関係から、この荊州に関して三国それぞれが“自分達に、この土地の主権がある”という意見をそれぞれ口酸っぱく言っていたのだ

また位置だけでなく、その広大な土地も争いの種となっているのだが・・・

 

 

「故に、荊州あたりの治安はお世辞にも良いとは言えません

勿論、桃香様や華琳さん・・・それに蓮華さんも何とかしようと頑張ってはいるのですが・・・」

 

「中々、皆が納得するような案が出ないと?」

 

 

“その通りです”と、雛里は溜め息を吐き出す

そんな彼女の心中を察してか、一刀もまた溜め息を吐き出していた

 

 

「今のところ、このくらでしょうか

あとは、概ね私が知っているものと同じような話でした」

 

「うん、わかった

ありがとう、雛里ちゃん」

 

 

笑顔のまま、そう言って彼は雛里の頭を撫でた

その瞬間、顔を真っ赤にさせたまま“ひゃい”と奇声をあげる雛里

しかしその表情は、すぐに笑顔に変わっていた

だが・・・

 

 

 

「そう言えば、一つ注意しなくちゃいけないことがあったんです」

 

「なにかな?」

 

「それが・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

〜三国会議で皆いないと思っていたんですけど、実は雪蓮さんが・・・なぜか留守番としてこの地に残っているみたいなんです〜

 

 

 

 

 

 

 

「勘の良い雪蓮さんのことですから、もしかしたら一刀さんのことにも気づくかもしれません

ですので、くれぐれも・・・あの、一刀さん?」

 

 

 

言葉を止め、雛里が見つめた先

小さく体を震わせ、大量の冷や汗を流す一刀の姿が・・・そこにはあった

その様子を見つめ雛里は、いや華雄と霞までもが

 

“まさか・・・”といった目で、彼を見つめていた

 

 

 

「一刀さん、もしかして・・・?」

 

「はい・・・会いました」

 

 

 

瞬間、三人は“やりやがった”といったふうに溜め息を吐き出す

そんな三人に対し、一刀は慌てて口を開いた

 

 

「け、けど安心してくれ!

ほら、正体とかはバレテないから!!

アイ・アム・パプテマスシロッコ!!!」

 

 

“ね?”と、一刀

その言葉に、雛里は安堵の息を吐き出した

 

 

「なら、いいんですけど

けど雪蓮さんの勘の良さは、凄いですよ?

今回は運が良かったとして、次はわかりませんからね」

 

「あっはっは、任せてよ雛りん!

また会うなんてこと、絶対に・・・」

 

 

 

 

『明日も・・・また、会えるかしらっ!?』

 

 

 

 

「ぜ、絶対に・・・」

 

 

 

 

 

『ああ、きっと・・・!!』

 

 

 

 

 

 

 

「す、すいませんでしたーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

「「「謝ったぁぁぁああああ!!!!???」」」

 

 

宿の一室

天の御遣いは、後に“天下一”と称されるほどの素晴らしい土下座を披露したのだった

 

こうして賑やかなまま

今日も、一日が終わっていく・・・

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「朝・・・か」

 

 

寝台から体を起こし、彼女は小さく呟く

それから小さく欠伸をし、机の上へと視線をうつした

そこには・・・窓から差し込む光を浴び輝く朱色の宝石が入った首飾りが置いてあったのだ

 

 

「ふふ・・・」

 

 

それを見つめ、彼女は笑う

思い出すのは昨日のこと

偶々立ち寄った飲食店で出会った、一人の青年のことだった

 

“司馬懿、字を仲達”

 

見るからに怪しいその身なりに反し、好感のもてる空気の持ち主

 

 

「今日も・・・会えるかしら」

 

 

 

 

『ああ、きっと・・・!!』

 

 

 

 

呟き、昨日の別れ際の言葉が脳内で再生される

その瞬間、彼女は自身の顔がまた熱くなることに気付いた

そんな自分がおかしくて、彼女はまた小さく笑う

 

 

「今日も・・・会えると、いいわね」

 

 

“よし!”と、勢いよく寝台から飛び出す

目的は決まったのだ

ならば、急がなくては

彼女は自然とニヤケテしまうのを抑えることが出来ず

だがそんな自分が、どこか嫌いになれないと

笑顔のまま、準備していく

 

だが、しかし・・・

 

 

 

 

「雪蓮様!!!!

た、たいへんですっ!!!!」

 

「ん〜?」

 

 

 

 

その笑顔は

その心の奥、芽生えた新たな感情は

 

 

 

「たた、大変ですぅ!!!」

 

「ちょっと、亞莎

いったい、なにが一大事なの?

まさか、冥琳が新しい竹簡の山でも送ってきたの?

言っとくけど、そんなのが来たって私は“それを燃やして暖をとる”くらいしか出来ないわよ?」

 

「違いますよ!!?

わざわざ魏国から、そんなことしませんよ普通!!?

ていうか、せめて読んでから燃やしてくださいっ!!」

 

「じゃぁいったい何が・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜山越が・・・山越の軍が、この建業の間近に迫ってるんですっ!!!!!〜

 

 

 

 

 

 

 

 

この一言によって、一気に崩れ去ってしまうのだった

 

 

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーーー

 

 

「む・・・?」

 

 

朝起きて、まだ間もない頃

宿の一室にある窓から外を眺めていた華雄がそのような声をあげる

 

 

「どうしたの、華雄?」

 

 

そんな彼女に向い、一刀は声をかける

この一言に、皆の視線が華雄に集まった

そんな中、華雄は窓の外を眺めたまま口を開く

 

 

「おかしい・・・」

 

 

“おかしい”

その一言に、三人は一様に首を傾げていた

 

 

「なんや、何がおかしいねん?」

 

「いや・・・何か、街の様子が慌ただしく感じるのだ」

 

「はぁ?」

 

 

言いながら、同じように窓の外を眺める霞

それに続くよう、雛里と一刀も窓から外の景色を眺めた

 

瞬間、二人の表情もわずかに曇った

 

 

「確かに・・・どこか、おかしいな」

 

「はい・・・」

 

 

一刀の言葉

雛里は、真剣な表情のまま頷く

その隣、霞は小さく舌打ちをした

 

 

「兵士の姿も、なんや妙に多いで

それに、皆どっか焦ったような顔しとるわ」

 

 

彼女の言うとおりだった

街中を巡回する警邏隊だけでなく、明らかに一般の兵も多く混ざっている

それに皆、焦ったような表情を浮かべていた

 

 

 

“何かが、起こっている”

 

 

 

「行ってみよう、皆!」

 

 

 

一刀の言葉

三人はそれぞれ真剣な表情を浮かべ頷いたのだった・・・

 

 

 

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「山越の軍・・・確認できました!

数はおそよ五万っ!!」

 

「五万、か・・・」

 

 

城壁の上

兵からの報告に、孫策は苦笑と共に呟いた

 

現在、建業の兵力は多くて二万

おまけに、三国会議の為主だった将兵は皆出はらってしまっている

量・質、共に危うい状況だったのだ

せめてもの救いは、孫策が此処に留まっていたことだろう

 

 

「あの勘は、当たりだったってことかしらね」

 

「どうかしましたか?」

 

「ん〜、何でもないわ

それよりも亞莎、いつでも動けるよう準備しといて」

 

「はいっ!!」

 

 

礼をし、足早にその場から離れていく亞莎

その背を見送った後、彼女は深い溜息を吐き出していた

 

 

「でも、おかしいわね

あの勘は、“悪い方の勘”じゃなかった気がしたんだけど」

 

 

“悪い方の勘”というのは、言ってしまえば現在のような状況のことだ

 

“この先に罠がある”

“今夜、夜襲をかけてくる”

 

そういったものを、彼女は総じて“悪い方の勘”と呼んだ

それにより、今まで何度も助かってきたのだから・・・勘というのも、馬鹿には出来ない

 

しかし、彼女が留守番を決める切欠となったものは違ったのだ

今のままでいくと、“良い方の勘”とでも言うのだろうか

 

故に、彼女は苦笑を浮かべることしかできない

 

 

 

「ま・・・なんにせよ今は、あの山越共を何とかしないとね」

 

 

 

彼女がそう呟くのと、ほぼ同時のことだった

 

 

 

 

 

 

 

「愚かな呉の民よ!!!!

愚かな呉の将兵よ!!!!

儂の名は“厳白虎”!!!!

山越を統べる“徳王”とは、儂のことじゃぁっ!!!」

 

 

 

 

 

そのような耳障りな声と共に

朱い鎧を身に纏う一人の武人を伴い、小太りの男がそう叫んだのは

 

 

 

 

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ーーーー†ーーーー

 

 

「厳白虎って、確か・・・」

 

「確か・・・もとは、呉群にいた豪族だったかと」

 

 

城壁の上

眼下に広がる光景を見つめながら、一刀が漏らした言葉

それに、雛里は曖昧ながらそう答える

 

その隣では、華雄と霞が自身の獲物を片手に同じよう眼下の光景を眺めていた

 

 

「それにしても、ようこれだけの兵がバレずに此処まで来れたもんやね」

 

「そうだな

ざっと五万、といったところか」

 

 

2人の言葉

雛里は“確かに”と、小さく声を漏らす

そんな雛里の頭をポンと撫で、一刀は微笑んだ

 

 

 

「ま、今はいいよ

それよりも、今は他に考えることがあるはずさ」

 

「一刀さん・・・そうですよね」

 

 

“考えること”

それが一体何なのかというと・・・

 

 

 

 

 

 

「貴様ら、よくも兵長を!!!!」

 

「囲め!!囲んで、一気に叩くんだ!!!」

 

 

 

 

 

彼らが今、城壁の上で呉の兵士に絶賛追いかけられ中だということだった。ブスリ♂

 

 

 

 

 

「あぁもうっ、なんでこんなことに!!!??」

 

「いやぁ、せやかて城壁から見たい言うたんは一刀やん?」

 

「うむ

だから私と霞で、邪魔な兵をどけたんだ

それが偶々、他の兵士に見られてしまい・・・」

 

「こんな状況になってまったんや」

 

「「テヘペロッ☆」」

 

「“テヘペロッ☆”じゃなぁぁぁあああい!!!」

 

「追え、追えぇぇぇええ!!!!!」

 

「うは、きたぁぁぁあああ!!!!!???」

 

 

 

逃げる四人を追う、数十人もの兵士達

何故このようなときに、城壁の上で追いかけっこなどしなくてはならないのか?

“ああ、不幸だ”と、一刀はまた一人溜め息を吐き出す

 

虎・熊ときて、ついには人である

 

 

 

 

「一刀・・・どうする!?」

 

「ひとまず、このまま逃げよう!

これ以上、ここの兵士に怪我はさせられない!!」

 

「しゃーないか!」

 

「ひゃ、ひゃいっ!!」

 

 

言いながら、チラリと見つめた先

小太りな中年の男、厳白虎はこれまた大きな声で何かを叫んでいる

 

 

 

『数年前、奪われた儂の領地!!!

この国ごと、返してもらうぞ!!!!』

 

 

 

響く、嗤い声が・・・酷く、不快だ

そう思いながらも、一刀は駆け続ける

 

 

 

 

 

「させないよ・・・絶対に、な」

 

 

 

 

-11ページ-

 

ーーーー†ーーーー

 

『数年前、奪われた儂の領地!!!

この国ごと、返してもらうぞ!!!!』

 

 

「ふざけんじゃないわよ・・・まったく」

 

 

厳白虎の言葉

孫策は、呆れたよう息を吐き出した

 

彼女は、この男のことを知っていた

もとは呉群に住む、豪族の男

それが突如、辺りの豪族を吸収し勢力を拡大

自らを“東呉の徳王”と称し、彼女の前に立ちはだかったことがあったのだ

 

しかし、所詮は彼女の敵ではなかった

“徳王”等とは名ばかりで、その“徳”の欠片すら持たない狭量な男が

当時“小覇王”として名を馳せていた彼女に敵う筈がなかったのだ

 

その後、彼を見た者はいなかった

 

てっきり、一平卒に混じりそのまま死んだのかと思っていたのだが・・・

 

 

 

「しかし、厄介ね・・・」

 

 

厳白虎が、ではない

彼が率いてきた山越の兵が、だ

 

さらに・・・彼の隣に侍る、一人の男

 

朱色の鎧を身に纏い、腰に二振りの曲刀を携えた武人

相当の実力であろうことは、この距離からも見て取れた

 

故に彼女は思う

 

これは、一筋縄ではいかないと・・・

 

 

 

「そもそもあの当時、儂は手加減をしておった!!!

故に、あのような敗北に終わったのだ!!!!」

 

「ぷ・・・今さら、あの頃の言い訳するのね」

 

 

相変わらずの小物っぷりだ

そう思い、彼女は笑いを堪えるのに必死である

 

 

「あの頃、この儂は・・・“半身”を失っていた

その為、この身を上手く操ることが出来なかったのじゃ!!!」

 

「は、はい?」

 

 

しかし、その笑いもふと止まってしまう

 

“わけがわからない”

 

そう思った故だ

それは、他の兵も同様だった

 

厳白虎のいきなりの言葉に、皆が皆言葉を失っているのである

 

 

「ちょっと、そこの“メタボリック”!!!

アンタ、なにいきなりワケわかんないこと言ってんのよ!」

 

「貴様、孫策!!!?

三国会議でいないかと思えば・・・くはは、ちょうどいい!!!!

あの時のカリ、この場で返してやるわ!!!!」

 

「いや、その話は置いといて

今の“半身”とかなんとか、頭がいっちゃってる発言があったでしょ?」

 

「なっ、置いておくだと!!!??

く・・・まぁいいだろう、教えてやる!!!!

この儂が何故、あの時に敗北したのか!!!!!」

 

 

納得いかないという表情をしながらも、彼は大声で話を続けた

 

 

「儂は、ある使命を背負いこの大陸にやって来た!!!!

その使命を果たすべく、儂は自らの半身を作り出したのだ!!!!」

 

「へ、へぇ〜」

 

「ぬ!!?

貴様、信じとらんな!!!?」

 

「そ、そんなことないわよ?

スゴイスゴイ(棒読み)」

 

「く・・・しかし、儂の正体を知ればそのような顔も出来まい!!!!」

 

「正体・・・?」

 

「そうじゃ!!!!

自身の身を犠牲にしてまで、その半身を儂は魏へと向かわせた!!!!

何故か!!!??

この儂には、天より託された大事な使命があったからじゃ!!!

ここまで言えば、馬鹿なお主でもわかるじゃろう!!!??」

 

「いや、全然わかんないんだけど

あと誰か〜、腕のいいお医者さん呼んできて〜〜

あそこに、頭が可哀想なおじちゃんがいるから」

 

「貴様ぁぁぁあああああ!!!!!」

 

 

顔を真っ赤にし、叫ぶ厳白虎

その隣で、朱の鎧の男が「どう、どう」と落ち着かせようとしていた

 

 

「よかろう!!!!

教えてやる・・・儂は、この厳白虎こそが・・・・・・!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

〜真の、“天の御遣い”じゃっ!!!!!!〜

 

 

 

 

 

-12ページ-

 

ーーーー†ーーーー

 

ピタリと、四人の足が止まる

それを見て兵たちが“今だ、囲め!”等と言っているが、今の彼には聞こえていないようだった

他の三人も同様である

 

 

「今・・・あのオッサン、何て言うた?」

 

 

霞の言葉

 

皆が、眼下に広がる光景の中

不快な声で高笑いを続ける厳白虎を見つめていた

 

 

「慌てるな、霞よ

きっと聞き間違いだったのだろう

なぁ、雛里?」

 

「はい、きっとそうですよ♪」

 

「そ、そうやね

うん、きっとそうや」

 

 

“な、一刀?”と、霞

それに、彼は柔らかな笑みを浮かべ・・・

 

 

 

 

 

『この儂こそ天の御遣い!!!!

つまり、魏国の将兵は皆儂の“コレ”よぉ!!!!!』

 

 

 

 

再び、固まってしまう

無言のまま、見つめた先

厳白虎は下品な笑顔を浮かべたまま、自身の小指をピンと立てているのだ

 

 

 

『がっはっはっは!!!!

どうじゃ、孫策!!

今降伏するのであれば、お主もこの儂の酒池肉林に加えてやらんでもないぞ!!!!???

“魏の種馬”の名は伊達ではないからな!!!

お主もたっぷり可愛がってやるわい!!!!!!』

 

 

 

そして、再び“笑う”

だがしかし・・・“彼は笑っていない”

 

 

 

「く、くはははは・・・」

 

「か、一刀さん・・・?」

 

 

笑っているはずなのに、笑っていない

等と、随分と矛盾する話である

しかし、これは紛れもない事実

 

もう一度、言っておこう

 

 

 

彼は・・・“笑っていない”

 

 

 

 

「あの、くそじじいっ!!!!」

 

 

 

 

叫び、彼はいきなり雛里を脇に抱える

突然のことに、慌てる雛里

そんな彼女もよそに、彼は駆けだしていた

眼下に広がる景色に向かって

 

つまり・・・

 

 

 

「ちょ、一刀さん!!?

もしかして・・・!!!!」

 

「おっらぁ!!!!!!」

 

「一刀さん!!?

御願いでしゅ、おちおちおち落ちりゅうううううぅぅぅっぅうううううう!!!!???」

 

 

 

 

 

 

彼はなんと・・・そのまま、城壁から飛び降りたのだ

 

 

 

 

 

 

 

「って、着地考えてなかったぁぁぁあああああああああ!!!!????」

 

 

 

このタイミングで、凄まじく致命的なミスを叫びながら

 

 

 

「「一刀おぉぉぉおおおお!!!??」」

 

 

 

そしてそれに続くよう、華雄と霞も城壁から飛び降りる

 

このままでは、一刀が・・・!

 

そんな彼女たちの心配もよそに、彼は何か思い出したのか慌てて懐に手を入れる

それから取り出したものを、思い切り地面に投げつけたのだ

 

 

「“ぼくのかんがえたかっこいい武具シリーズNo,55”・・・“人を駄目にするクッション”っ!!!!」

 

 

直後、凄まじい煙と共に広がったのは“巨大なクッション”だ

彼らはその上に、何とか着地するのだった

 

 

「し・・・死ぬかと思った」

 

「な、なんで飛び降りたんや・・・アホ一刀」

 

「いや、なんかもう色々と限界だったから・・・って、雛りん気絶しちゃってる!?」

 

「いや、無理もないだろ

ひとまず、私が預かっておこう

一刀は・・・」

 

「な、なんじゃ貴様ら!!!???」

 

「あっちのケリを着けて来い」

 

 

 

華雄の指さす先

 

そこには、驚いたような表情で彼らを見つめる厳白虎の姿があった

一刀は“任せるよ”と雛里を華雄に預けると、霞を伴い歩き出す

 

 

 

「いやぁ、なんかすいませんね

大切なお話の時間を邪魔しちゃって」

 

「ま、まったくじゃ!!!」

 

「いやぁ、貴方のお話を聞いてたら居ても立ってもいられなくなっちゃって」

 

 

言って、一刀は笑う

 

その言葉に、厳白虎は先ほどまでの警戒はどこへやら

上機嫌に笑うと、一刀の肩を叩いてきた

 

 

「がっはっは!!

なるほど、この儂に・・・天の御遣いにあやかりたいというのじゃな!!!

若いもんの考えそうなことじゃ!!!」

 

「ははは、そうっすねww」

 

「よし、わかった

お主にも、儂の女をわけてやろう!

どのような者が好みじゃ?

孫策のような女か?

それとも・・・」

 

 

 

 

 

 

〜曹操や、魏の女がいいか?〜

 

 

 

 

 

 

彼は知らない

 

その言葉が

この場で、どれほどマズイものだったかということを

 

故に、その口から零れ出たのだ

 

 

「・・・れ」

 

「む?」

 

 

彼は気づけない

 

その言葉が

青年の心の中、どのように響いたのか

故に、彼はその場から動こうとはしない

 

そして・・・

 

 

 

 

「黙れって言ったんだよ・・・このくそジジィッ!!!!!」

 

「ぶぺらっ!!!???」

 

 

 

 

自身が、目の前の青年に思い切り殴り飛ばされた後に

彼は、ようやく気付いたのだ

自分がやってしまったことに

 

 

 

「がっは!!?」

 

「げ、厳白虎様!!」

 

 

吹き飛ばされた厳白虎に、慌てて駆け寄る男

その光景をしり目に、一刀は深い溜息を吐き出したのだ

 

 

「いってぇ・・・手首、ぐにゃったかもしんない

俺ってあんま人のこと殴ったりとかするキャラじゃないんだから・・・あんま、怒らせないでくれよ」

 

「き、貴様が勝手に怒ったんじゃろうが!!!??」

 

「勝手に?

おいおいおいおい・・・ま〜だ言いやがりますか、このじいさんは」

 

「そやね

今のは一刀が殴らんかったら、ウチがなぐっとったわ」

 

 

言って、二人は笑う

そんな二人の態度が気に入らなかったのか、厳白虎はさらに怒り狂った

 

 

「貴様ら、儂を誰じゃと思っておる!!!

あの、天のみつかびゅっ!!!??」

 

「あ〜っと、手が滑ったぁww

なんか間違って“偶然手に持っていたベイブレード投げちゃったぁ”、テヘぺロッ☆」

 

「手が滑ったんなら、しゃあないよなww」

 

 

“あっはっは”と、また二人は笑う

この態度に、厳白虎は我慢ならんといった表情を浮かべ叫ぶ

 

 

 

「“徐盛”っ!!

見せしめじゃ・・・あの二人をぶち殺せ!!」

 

「・・・御意」

 

 

そして、2人に歩み寄るのは先ほどの朱色の鎧を着た武人

 

“徐盛”

 

彼は二振りの曲刀を構えると、二人のことを睨み付ける

 

しかし・・・二人は、構えない

 

 

 

「あのさぁ・・・まだ、お話は終わってないんだけど」

 

「うるさい!!

いったい、なにを話すというのじゃ!!?」

 

「それはもう、色々と聞きたいこととかもあるけど・・・まずは、そうだな」

 

 

言って、彼は自身の身に纏う外衣を掴み

 

 

「まずは、“自己紹介”から・・・かな」

 

 

そして・・・それを、勢いよく脱ぎ捨てたのだ

 

 

 

-13ページ-

 

「なっ・・・」

 

 

瞬間、辺りを静寂が包んだ

 

山越の視線も

呉の兵士たちの視線も

 

全ての視線がその青年に・・・“彼”に集まっている

 

そんな中、彼は唱えるように口ずさむ

 

 

 

「俺の名前は司馬懿仲達、またの名を・・・北郷一刀

もっとも・・・」

 

 

 

自身が背負う

 

その白き光の名を・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜人によっては俺のことを・・・“天の御遣い”って呼ぶ人もいるけどね〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・続く

 

 

-14ページ-

 

あとがき

 

 

この話が、ある意味で一番大変でした

 

魯粛さんを、亞莎に

太史慈さんを、徐盛に

 

と、二人の配置換えがあったからです

 

新作の絡みで、この二人は改変させていただきました

 

次回、建業編クライマックス

 

 

では、またお会いしましょう

説明
第六章となります
今回は、キャラの配置換え等々あります

初見さんは、大丈夫かもですが既読の方は注意してください


では、お暇を潰していってください


序章
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コメント
徳王wwお疲れ様〜ww(marumo )
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