ラブライブ! 〜音ノ木坂の用務員さん〜 第9話
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アイドル研究部の部室。

そこはアイドル研究部と称しているだけあって、アイドル関連の資料(グッズ)が壁にズラッと並んでいる棚に隙間なく埋まっている。

始めてここに入った時など一体何処からかき集めたのかと、驚きのあまり開いた口がふさがらない状態だった。

そしてこれのほとんどが矢澤さんの私物と知った時など、そんな開いた口から乾いた笑いが漏れてしまったものだ。

 

今日は仕事もあらかた早めに終わったから、部室の方に立ち寄ってみた。

部室に入ってみると皆いつもの練習着に着替えているものの、テーブルでお喋りをしてたり、読書をしたり、タロット占いなどをしていた。

どうやら絢瀬さんが備え付けのパソコンで簡単な作業をしていて、そんなに時間もかからないからと終わるのを待っているらしい。

いったい何をしているのか少しだけ興味が湧いて、俺は絢瀬さんの作業を見学させてもらうことにした。

 

「へぇ、これがアイドル研究部の部活紹介か」

 

「まだ作り立てですけどね。今後のライブの映像も、でき次第載せていく予定です」

 

絢瀬さんは部活紹介の編集をしているらしい。

今までやってきたライブのなのか、活動紹介のところに2つほど映像が載っていた。

 

「あ、そうだ。松岡さん、せっかくですしライブの映像でも見てみますか? まだ私たちのライブ、見たことなかったですよね?」

 

「ん? あぁ、確かにないけど。でも、いいのか? これから練習始まるんだろ?」

 

「そうですけど、ほんの2、3分程度ですから。顧問になってくれた松岡さんにも、私たちの活動はぜひ見てほしいですし、あまり気にしないでください」

 

「そうか? じゃぁ、一つだけ見せてもらおうかな」

 

一応練習とかで彼女たちが歌ったり踊ったりしているところは見たことあるけど、実際のライブ映像は見たことないから少し気になっていたのだ。

以前、三宅さん達にμ'sの曲が入ったCDを貰ったけど、あくまでそれは曲だけで映像はなかったし。

そんなに時間もかからないというし、残りは後で見せてもらうとして、とりあえず今は一つだけ見せてもらうことにした。

 

「そうですね……それじゃぁ、取り合えず一番初めのにしましょうか」

 

そう言って絢瀬さんが開いたのは、高坂さん、園田さん、ことりちゃんの3人が映っている映像だった。

場所は音ノ木坂の講堂らしい。

 

「これは新入生歓迎会の時の映像で、穂乃果達が初めてμ’sとして出たライブです」

 

この時はまだ3人しかいない時だったらしく、他の子達は映っていない。

映像が動き出すと同時に曲が流れ、スポットライトが3人を照らしていく。

そして、3人だけのライブが始まった。

 

 

 

 

 

「……おぉ」

 

約3分ほどの映像が終わった。

見た感想としては、初ライブということもあってか歌もダンスも今よりまだまだぎこちなく感じたし、表情も少し硬かったように思う。

だけどそれ以上に自分たちを見てほしい、聞いてほしいという一生懸命な想いがひしひしと伝わってくるようなライブだった。

それに編集がまた上手い。

真正面からだけでなくいろんな角度で、そして要所要所でそれぞれに焦点を合わせていて、3人だけとはいえ中々に凄い出来に仕上がっていると思う。

 

「この映像って、誰が編集してるんだ?」

 

「これですか? 穂乃果のクラスの三宅さん達です」

 

「三宅さん達……ってことは、μ’sファンクラブか」

 

μ'sファンクラブ、それは話に出た三宅ヒデコさんの他、山本フミコさん、原紗ミカさんの女子3人で構成されたμ's公認のファンクラブのことだ。

少し前に俺もその一員となっている。

ちなみに正式名称は“μ'sを応援し隊”らしい。

 

「ふふっ。はい、彼女達です。まだ駆け出しの私達にもファンクラブができて、とても励みになってます。それにライブの協力までしてくれて……本当に感謝してもしきれないわ」

 

「うーん、作詞に作曲、ダンスの振り付けに衣装作り、そして映像の編集まで全部学生だけでやっちゃうんだもんな。これ、他のところもそうなんだろ? ……はぁ、スクールアイドルってほんと凄いなぁ」

 

まさか学生だけでここまでの物が作れるとは、ほんと子供だからと侮れるものではないな。

しかし感心する俺に、絢瀬さんは小さく首を横に振る。

 

「あぁ、いえ。スクールアイドルの全てが全て、学生だけで作っているわけではないそうです」

 

「あ、そうなんだ?」

 

「そうなんです!」

 

「うぉ!? こ、小泉さん?」

 

絢瀬さんと話していた俺の耳に、突然大きな声が響いてくる。

ビックリして振り向くと、いつの間にか小泉さんがキリッとした表情でこちらを見ながら立ち上がっていた。

 

「ちょっと待っててくださいね!」

 

そういうといつにも増してスピーディーな動きで、棚に入っているいくつかのCDを取り出しこちらに急接近してくる。

CDを持っている小泉さんの目はキラキラと輝いていて、すごく生気に溢れているように感じる。

というか、なんだか性格が変わってるように見えるのは気のせいだろうか?

 

「例えばこのグループのこの曲なんですが、なんとプロの作詞家さんにわざわざ依頼して作ってもらった曲なんです! ほら、裏側のここにその名前が!」

 

いつもの落ち着いているというか、少し控えめな小泉さんは一体何処へ行ったのやら。

小泉さんは手に持ったCDをズィッと、顔に押し付けるように差し出してくる。

 

「あの、小泉さん? そんなにぐいぐい押しつけられたら、逆に見れないんだけど……」

 

「こっちのグループはプロの作曲家さんに頼んで曲の作成をしてもらってるんです! こっちは衣装ですね! 流石プロの仕事、細かいところにも手が行き届いていて素晴らしい出来です! 松岡さんもそう思いますよね!? ですよね!

このように、全てではなくても所々にプロの手を加えて製作しているところは結構あるんですよ! 流石にすべてお願いしているとお金がかかりすぎますので、本当に所々ですけど!

中には直接手を加えてもらうのではなく、技術面で指導を受けて製作しているところもあるとか! 時間はもちろんかかりますが、それでも自分達で製作するという達成感が得られますし、後々のことを考えると技術を教えてもらうことは、その人たちにとってはプラスに働いていると言えます! 自分たちで好きなデザインで作れるようになれますし、なにより毎度プロに依頼するより安上がりですから!」

 

「お、おう」

 

俺の言葉が聞こえていないかのように、こっちは、そしてこっちはと、持っていたCDを矢継ぎ早に見せてくる。

そして、本当に距離が近い。

小泉さんがぐいぐいと近づいてくるし、俺はどんどん後ろに後退して今では壁際に追い詰められている状態だ。

皆はそんな小泉さんを見て笑っていたり、苦笑いしていたり、やれやれと溜息をついていたり、反応はそれぞれだった。

 

「ですが! なんといってもすごいのは、今一番有名なスクールアイドルグループの“A-RISE”!

なんでもA-RISEは学校が活動を全面的にバックアップしているらしく、資金がとても豊富なんです! その豊富な資金で作詞に作曲に衣装作り、ボーカルレッスンにダンスレッスン、はてはPVなどの宣伝活動まで専属のスタッフを雇って行っているんです! この間なんて1本のPVを撮影するためだけに、わざわざ海外へ赴いたとか! 本当にレベルが違いすぎますよね!?」

 

「う、うん、そうだね。その、A-RISE? っていうのも他のアイドルもみんなすごいよ、うん」

 

「ですよね! それでですね!」

 

少し引きながらも小泉さんの話に合わせて頷いたのに気をよくしたのか、目をキラキラさせながら小泉さんは更に語り続ける。

なんだかその目は俺を見ているようで見ていないような、まるで自分の世界にトリップしてるように見えた。

試しにちょっと横に移動してみたら……あら不思議、その視線は俺を追いかけることなく壁に向かってそのまま話し続けていた。

はた目から見たら、何とも凄い光景だ。

 

「……ね、ねぇ。なんか小泉さん、キャラ変わってない?」

 

「すみません。花陽はアイドルのことになると、性格がガラッと変わりますから」

 

「凛はハイテンションなかよちんも好きだよ!」

 

「そ、そっかぁ」

 

どうやら小泉さんは、矢澤さんに並ぶアイドル好きらしい。

流石はアイドル研究部に所属しているだけはある、のかな?

ここまで熱狂的なアイドルファンも、そうそういないとは思うけど

と、他のスクールアイドルを褒める小泉さんや俺が気に食わないのか、矢澤さんが椅子にふんぞり返りながら不機嫌そうな顔でこっちを見ている。

 

「A-RISEがプロレベルに凄いのは当然だけど……なによ、よそのアイドルばっかり褒めちゃって。そんなのうちだって同じよ! 他のグループにだって、負けてなんかないんだから!」

 

「い、いや、別にうちが劣ってるなんて言ってないからな? というか、俺だって負けてないと思ってるから」

 

矢澤さんに、ほんとかよ? とでもいうような疑わし気な目で見られるけど、これは嘘でもお世辞でもなく本心で言っている。

それこそさっき小泉さんが見せてくれた、プロの手が加わっているというスクールアイドルの衣装にだって。

 

「そうね。μ'sだってみんな本気で頑張って作ってるんだもの、他のところにだってそう簡単に遅れを取るつもりはないわ。特にうちの衣装担当の熱意には、常々頭が下がる思いだわ。それにあてられて、みんなもより一層頑張らないとって気になるもの。ね?」

 

「確かにそうですね。ことりが作ってくれる衣装に負けない素晴らしいダンスにしたいと、振り付けを考える時つい熱が入ってしまいますから。真姫もそうでしょう?」

 

「……別にそこまでじゃないけど。でも、そうね。ま、わからなくはないわ」

 

「えへへ〜、みんなありがとう。そう言ってもらえると、うれしいなぁ。でも私は、みんなが言う程じゃないと思うけどなぁ。ただ楽しんでやってるだけだよ」

 

ダンスや作曲を担当する絢瀬さん、園田さん、西木野さんに褒められ、ことりちゃんは少し頬を染めて謙虚に言う。

そう、彼女達の衣装は基本的にことりちゃんが一手に引き受けている。

もちろん他の子達も手伝いはするけど、衣装の構想を立てたり、細かいところの最終調整はことりちゃんに任せているそうだ。

衣装作りなんて、それこそ小学生の時のエプロン作り程度の経験しかない俺でも、どれだけ大変か想像くらいはできる。

しかも一着だけではなく9人分とくれば、俺なら考えただけで泣きたくなってくるレベルだ。

得意不得意はあるのだろうけど、大変なのに違いはないはず。

本人はそれを苦にせず、むしろ楽しみながらやっているのだから、それはことりちゃんの持つ一つの才能なのだろう。

そういえば昔からいろんな服を着るのが好きだったようだし、きっと衣装作りはことりちゃんにとって趣味と実益を兼ねたものなのかもしれない。

 

「……さて、だいぶ時間も過ぎてしまいましたね。皆さん、そろそろ練習を始めましょう……ほら、花陽? いつまでもそうしてないで、行きますよ」

 

「だから私たちももっとこう……ふぇ? あ、あれ?」

 

「かよちん、練習にいくにゃ!」

 

「う、うん! ……あ、松岡さん! すみませんけど、この話はまた今度で」

 

「え? ……ま、まぁ、時間がある時に、な?」

 

「はい!」

 

声をかけられて我に返ったようで、一人でヒートアップしていたことに恥ずかしくなったのか少し頬を赤くする小泉さん。

その様子は微笑ましいものがあるけど、あのアイドル談義はもういいかなぁと思ったり。

正直、俺じゃついていけないし。

 

「よーし、今日も頑張ろう! 海未ちゃん、今日の練習ってなにするの?」

 

「そうですね、最近は歌の練習に力を入れていましたので、今日は基礎を鍛えるために体力トレーニングをメインにやっていこうと思っています。

まずは軽く、神田明神と音ノ木坂の間を5往復くらいランニングしましょう」

 

『……え?』

 

園田さんの告げた内容に、一瞬で部室内が静まり返ってしまう。

隣にいた絢瀬さんなんて、さっきまで柔らかい笑顔を浮かべていたのに、今では表情が固まってピクピクと頬を引きつらせ、小さく「は、はらしょー」などと呟いている。

ちなみに音ノ木坂から神田明神までは、最短ルートを通ると仮定して約1q弱。

往復で2qとして、それを5回とするとだいたい10qくらいの距離だ。

結構長い距離だと思うけど、これだけなら運動系の部活でもやってるところはあるだろう。

だけど園田さんは先ほど「まずは」と言っていて、これを「軽く」とも言っている。

つまり彼女からしたら、これはまだまだ序の口でしかないのだ。

園田さんの脳内では、その後に更に辛いトレーニングメニューが組み立てられているのだろう。

 

「あ、そういえばダンスの練習も「体力トレーニングです」……えっと」

 

「穂乃果、確かにダンスも大切です。私たちはスクールアイドルなのですからね。ですけど、そのダンスをするにも体力は欠かせない要素です。

1に体力、2に体力。3,4も体力、5も体力。とにかく体力をつけていれば、後半になって息切れを起こしてみっともない姿を観客に見せずに済みます。

あぁ、安心してください。ダンスや歌の練習も、スケジュールはしっかり立ててありますから。なので今日は、 体 力 ト レ ー ニ ン グ です」

 

「……は、はい」

 

「よろしい、それでは行きましょう」

 

何とか方向転換しようと頑張るも、結局変えることが出来ず項垂れながら立ち上がる高坂さん。

皆も少し重い足取りだが準備に取り掛かる。

やる気があるとはいっても、やはり辛い練習には気が重くなってしまうようだ。

それでも皆、しっかり最後までやりきるのだから偉いものだけど。

 

「……それじゃ、俺は冷たい麦茶の準備でもしておくか」

 

汗だくで喉もカラカラになるだろうことを予想し、俺は飲み物の準備に取り掛かる。

 

 

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(あとがき)

A-RISEがプロの手を借りてるってところ、漫画からとった設定ですね。

プロの手を借りて活動するって、それってもう普通にアイドルじゃ……と思ったのはきっと私だけじゃないはず。

もしかしたら他のスクールアイドル達も、お金に余裕があるところはプロに手伝ってもらってるんでしょうかね。

アニメでも漫画でも主要グループ以外ってそんなに触れられてないので、よくわかりませんでしたけど。

 

ランニングの距離に関しては、合宿の内容を参考にしています。

私が一番運動量が多かった高校時代でも10qなんて滅多に走りませんでしたけど、ほかの運動部って体力トレーニング中心の練習メニューだとどれくらい走ってるんでしょうね。

 

そういえば漫画版、まだ続き出ないですねぇ。

最近久しぶりに倉庫から引っ張り出して一気読みして続きが気になり、ネットで調べてみてもまだ続きが出てなかったことが残念です。

いつ続きが出るんでしょうねぇ。

 

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