フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep21
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 海の家……、海水浴場で海水浴客の更衣室やシャワー、そして飲食等を提供する場所である。吹き抜け同然になっている内装、そして幾つも並んだテーブルはマスターと、等身大になったFAG達で溢れかえっていた。お互い同じサイズで同じ時を過ごせる機会というのは中々に希少である。時折店内を通り抜ける風が心地よい。

 

「……ぐふっ。もー無理です。このお腹の圧迫感。これが人間の言うお腹いっぱいって奴ですねきっと……」

 

 その店内の一角にて、競泳水着を着た小学生ボディの絶壁少女、轟雷は片手でお腹を押さえながら呟いた。胸はまな板と形容できるほどだが、お腹は食べ過ぎの為かぽっこりと膨らんでる。轟雷の眼の前のテーブルにはラーメンのどんぶりが二つ重なっており、それを食べたと言うわけだ。

 

「えぇ〜もう?轟雷ってば小食だよぉ。あたしはまぁだ全然食べられるよぉ。ふー、ふー、ちゅるるるっ!」

 

 その隣で、明らかに十杯は越えてるであろう重なったドンブリ、それを食べた張本人、もとい張FAGはまだまだ余裕とばかりにラーメンを食べ続ける。

 

「本当どうなってんですか((輝鎚 | かぐつち))。あなたのお腹……」

 

「あたし重量級だからかなぁ、バッテリーの減りが早くてぇ、だからこんなに大食いになっちゃったみたいだよぉ」

 

 轟雷はさっき知り合って打ち解けたFAGの食べっぷりに呆れる。食べるペースに乱れが一切ない。

 

「でも一人じゃきっとこれだけ食べられないよぉ。誰かと食べるゴハンの方が美味しいって本当なんだにぇ」

 

――……一人で食べてても変わらないと思いますけど――

 

 にこやかに笑う友達に対して、轟雷は唖然としながらそう思った。マイペースな性格なのは会って時間の浅い轟雷にもよく解る。

 

「おい轟雷。ヒカル達が来たぞってお前、もう食べてたのか」

 

 と、そうしてる内に黄一達が来た。

 

「あ、マスター。早速友達が出来ましたよ」

 

 轟雷も黄一の声に反応を見せる。

 

「んなになにぃ?轟雷のマスターさんん?」

 

 若干の訛った言葉を発しながら輝鎚は食べるのを中断して黄一に反応する。やはりマスターという存在は興味があるのだろう。

 

「輝鎚型?あ、どうもうちの子がお世話になりました」

 

 ((輝鎚 | かぐつち))、防御に特化し、積載能力に優れたFAGだ。機動力は申し訳程度ではある物の、戦線維持、及び拠点防衛のバトルでは真価を発揮する。

 

「はじめましてぇ。いえいえ〜あたしも新しい友達が出来て嬉しいですよぉ」

 

 輝鎚は立ち上がり黄一に向かい合って頭を下げる。ビキニ姿の輝鎚は全体的にふとましい。……余ってるお腹の肉が一番目立つ。

 

「ちょっとマスター。なんで私がお世話になる前提なんですか!」

 

「日頃の行いだな」

 

「ムキー!」と2人が言い争っていると、

 

「……轟雷、自分で食べるってどんな気分?」

 

 アーキテクトが轟雷に問いかける。アーキテクト自身飲食には興味があったらしい。

 

「?そうですねー。舌への刺激が止まらないって感じですね。そうなると貪欲にその刺激を求めるのですが、反面満腹になるともう嫌だって気分になります」

 

「そう」

 

 そっけない返事だが、彼女はこういった反応なのがデフォルトだった。

 

「食べるのって初めてだけど楽しいよぉ。皆で一緒に食べたらもっと美味しいって言うから皆で食べようよぉ」

 

「こーら、折角海水浴に来てる人にそう言う事言っちゃ駄目だよ輝鎚」

 

 と、そこへラーメンを乗せたトレイを持った青年が現れる。ふとましい輝鎚に反して長見でスレンダーな青年だ。黄一より若干年上と言った感じだ。

 

「ふわぁマスター、マスターも食べるんだぁ」

 

 輝鎚は嬉しそうに青年の横に立つ。

 

「あ、加賀彦さん。マスター、この人です。この人が輝鎚のマスター、 ((『秋坪加賀彦』 | あきつぼかがひこ))さんです」

 

 紹介する轟雷、太めのFAGと痩せてるマスター、並ぶと体型差がよく目立つ。

 

「轟雷さんのマスターですね。助かりました。輝鎚の相手をしてくれて」

 

 黄一達に頭を下げる加賀彦と呼ばれた青年。大学生位だろうか、体型は似ても似つかないが清潔感があり温厚そうな所は輝鎚と似た感じだ。

 

「あぁいえ、こちらこそアイツの面倒を見てもらって、轟雷の奴落ち着きないから……」

 

「いえいえ、輝鎚が誘った中で付き合ってくれたのは嬉しかったですよ」

 

「あれ?轟雷の方から絡んだかと思ったんですけど」

 

 ヤケ食いすると言って海の家に入って行ったわけだ。輝鎚ののんびりした感じからあまり彼女が誘うイメージは無い。

 

「私ではないですよ。食べようとしたら輝鎚の方から『一緒に食べよぉ〜』って言ってきたんですよ」

 

「一人で食べるゴハンって美味しくないんだってぇ。ここでならマスターと一緒に食べられるから、あたし嬉しいんだぁ。マスターもきっと美味しいって言ってくれるよぉ」

 

「……思ったんですけど、妙に誰かと食べるのに拘ってますね輝鎚」

 

「んぅ?だってここでなら、マスターも一人で食べる事ないでしょぉ?」

 

「どういう事ですか?」

 

「マスターはねぇ、親に勘当されちゃったんだぁ、料理人になる夢があったんだけど、親は仕事を継げって言って大喧嘩になったんだよぉ」

 

「輝鎚、それは……」

 

 止めようとする加賀彦だが輝鎚はマイペース故か止まらない。

 

「それで今は、あたしと一緒に一人暮らしで、料理学校行ってるよぉ。家でお話出来るの、あたししかいないからぁ、一緒にご飯食べられたら、きっとマスターも喜んでくれるって思ったんだぁ」

 

「輝鎚。言うな」

 

 バツが悪そうになる加賀彦に対して輝鎚は拒否する。

 

「えぇ〜?やだよぉ。……だってあたし言いたくなる位嬉しいんだよぉ?ずっと一人で食べてるマスター見てたからぁ」

 

「……お前……」

 

 輝鎚の声のトーンが若干低くなる。真面目になっているという事だ。初対面の黄一でもこれが嘘とは思えない。

 

「そうだね。一緒に食べようか」

 

 輝鎚が一番聞きたかった言葉だった。パァッと表情が明るくなる。

 

「ふわぁぁ!やったぁ!皆も食べようよぉ!」

 

「そうは言いたいんですけど輝鎚、私の方はもう食べられませんよ……」

 

「ちょっと僕達の方も、友達と待ち合わせがありまして……」

 

 そう言うと一転して残念そうな表情になる輝鎚。

 

「食べてくれるんじゃないのかぁ……」

 

「輝鎚、一人で食べるのは寂しいけど、無理に食べさせるのも楽しくないし美味しくないんだぞ。……俺が一緒に食べるのじゃ不満か?」

 

「うぅん。そんな事ないよぉ。あたしマスターと一番一緒に食べたかったんだぁ」

 

「マスター……、私はこの二人と一緒に食べたい。かき氷とスイカが食べてみたい」

 

 と、そう提案をしたのはアーキテクトの方だった。邪魔しちゃ悪いと思いつつも、アーキテクトが強く興味を抱いてるのが大輔には解った。

 

「……そうだね。折角だから僕も付き合うよ。黄一、悪いけどヒカル達に伝えといてくれ」

 

「解った」そう言った黄一に大輔は「というわけでご一緒させてください」と加賀彦達に付き合う形となった。黄一と轟雷はそのまま海の家を後にする。

 

 外に出た瞬間に夏の日差しが出迎える。思わず眩しさに目をしかめる二人だった。

 

「……ただ食べるだけってのに、ドラマがあったなぁ……」

 

「……輝鎚、マスターの事どう思ってるんでしょうかね……」

 

 2人はサンダルで砂浜を歩く。印象に残る二人を思い返す黄一。一方でボソッと轟雷が呟いた。

 

「?なんでそう思うんだ?」

 

「いえ……なんかマスターの事話す時、似てたんですよね……スティレットやフレズ達に」

 

「なんだそりゃ?全然姿は違うだろ?」

 

「それはそうなんですけど、雰囲気と言うか、なんかそう思えたというか……」

 

 自分でも変だとは思った。でもそんな風に思えた轟雷だった。

 

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 さてこちらは健とフレズの方である。2人の方は遊んでくると言って出ていったわけだが……、

 

「クッソ!直線の差が縮まらない!」

 

 エアバイクに乗ったフレズが海面を高速で走りながら声を上げた。その姿は水上バイクその物だった。先述のセリフから彼女はレースをしてるのだが、相手に差を開けられてしまってる。前方に同じくバイクに乗ったFAGが見えた。

 

「ヒャッハー!!遅いぜフレズ!!」

 

 フレズの相手のFAG、『ウィルバーナイン』はアーマーを変形させたバイクに跨りながら上機嫌で叫ぶ。ウィルバーナイン。バイクへの変形機能を持ったFAGだ。

 変形させたバイクはタイヤのついた陸上用だが、このバーチャル空間ではお構いなしに水しぶきを上げながらタイヤで海面を疾走する。そのままウィルバーナインは水面にポールが2本立った地点の間、つまりゴールを猛スピードで通り抜けた。少ししてフレズもエアバイクで通過。結果は言わずもがなウィルバーナインの勝利である。

 

「あぁもう!全然適わなかったよぉ!」

 

 ハンドルを握りながら、フレズは項垂れた。

 

「当然だろ?変形機能はお互いあるけどお前の仕様は空中がメインだ。アタイらウィルバーナインやセカンドジャイヴは陸での走りこそ真価を発揮するってなもんさ!」

 

 陸の走りなら誰にも負けないとでも言いたいのだろう。が、フレズとしてはツッコミ所のある発言だった。

 

「陸ってここ海じゃないかぁ」

 

 そう言いながら二人は陸に、砂浜に上がる。バーチャル空間ではバイクに乗ったままでも問題なく陸に上がれた。

 

「フレズ、お疲れ様」

 

 降りる二人をまず出迎えたのは健だ。

 

「御免マスター、勝てなかったよ」

 

「始めてやったんだから気にするなよ」

 

「レースゲームなら慣れてたんだけどなぁ」

 

 悔しそうな表情のフレズに対して健は慰めの言葉をかける。その横でウィルバーナインが得意げにマスターの男に勝利を報告する。

 

「オヤジ。アタイの勝利さ。軽いもんよ」

 

「そ、それはいいんだがナイン!大丈夫か!?怪我はないか?!」

 

 ウィルバーナインをナインと呼んだ30代の男、ダイバースーツを着た筋骨隆々のモヒカンヘアーの大男は心配そうに詰め寄る。

 

「おいおい。オヤジは神経質すぎなんだよ!仮想空間なんだから平気だっての!」

 

 うんざりした風にナインは答える。何時もこれだ。と言った雰囲気だ。

 

「……お前のマスター随分と大切にしてくれてるじゃないか。そんな荒くれ者みたいな外見しているのにさ」

 

「外見で人を判断するなよフレズ。すいません長淑さん」

 

 とはいった物の、感想自体はフレズと同じだった。((『長淑直哉』 | ながぶちなおや))、それがナインのマスターの名前だ。

 

「あぁすまない取り乱してしまって。直哉おじさんでいいよ」

 

――この外見の割に人当たりはいいんだよなこの人――

 

「見かけによらないって思ったか?オヤジの本業はバイクショップの店長なんだよ。なのにアタイが外で走ろうとすると顔真っ赤にして止めんのよ」

 

 考えを読まれたわけではないが、だからか、と健とフレズは納得する。

 

「いや!外で走っちゃ危ないだろ!?心配で心配で!」

 

「あーあ、いつもこれだよオヤジは、こんな世紀末でヒャッハーとか言いそうな外見してるくせにさ」

 

「オヤジって言ってる通り、お父さんみたいですね」

 

 健としては、親との過ごした時間の関係上ナインと直哉の関係は興味深かった。

 

「?まぁな、いつの間にかアタイも呼んでいた。独身だってのにさ……なぁお前、誰かオヤジの嫁さんに良さそうな人間知らねぇか?オヤジの周りが結婚しろってうるさくてよ」

 

「あー、悪いけどボク達、山奥の診療所暮らしが長かったからさ。平均年齢70代ばっかりで……」

 

「いいんじゃね?」

 

 認識のずれたナインの発言にフレズと健は言葉を詰まらせる。さすがに直哉もその発言は看過できなかった。

 

「ナイン勝手に話を進めないでくれぇ!さすがに年上好きも限界がある!」

 

「あ?そうなのか?人間ってよく解んねぇな」

 

 認識のズレはあれど、お互いが心を開いていて、仲がいいのはよく解る。

 

「とりま、もう一回走ってくらぁ、フレズも付き合えよ」

 

「ちょっと待て!準備体操をしてなかったろ二人とも!ちゃんと体操してからだ!それに救命胴衣もつけていきなさい!」

 

「んだよー。泳ぐわけじゃねぇからいいだろ」

 

「そもそもお前ら泳げる設計じゃないだろ!」

 

 直哉の言葉に「あ、そういえば」とフレズ達は思い出した。FAGは水に弱い故に泳げない。

 

「ったく、オヤジは神経質すぎんだよ。このイベントだって何があるか解らない怪しいイベントとか言ってたしよ」

 

「変な顔の怪しい女に誘われたイベントだぞ。心配にもなるだろ」

 

 変な顔の怪しい女、というのは健達も心当たりがある。なんだか気になった。体格差故に健は見上げながら直哉に聞いてみた。

 

「?あの、変な顔の女って顔がフレームアーキテクトの?」

 

 本業で客商売をしてる所為だろうか。直ぐに健に目線を落とすと直哉は丁寧な対応で答える。

 

「うん?そうだね。話をしてみると普通の人ではあったんだけど、見た目が怪しさマックスだからか、話をしてても怖くて怖くて……」

 

「そんなツラしたオヤジが言えた事かよー」

 

――大輔さんじゃないけどなんか気になるな……。アーキテクトウーマンは一人じゃないのか?――

 

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 そしてその頃ヒカルとスティレットの二人はと言うと……、

 

「で、遊ぶとは言ったけどさ。まさか泳げないとはなー」

 

「笑わないでよ!元々私達は水は駄目なんだから!」

 

 ヒカルに両手を引かれ、海面に浮かびながらバタ足をするスティレット。海で遊ぼうにも先述の通りなのでこうなるのは必然だった。水着越しのお尻がぷかぷか浮く。態勢の恥ずかしさをごまかす為か若干声を荒げるスティレット。

 

「ふふっ……」

 

「ゴボッ!何笑ってんのよ!」

 

 まだ足はつく深さだ。口に水が入る事をお構いなしに、スティレットは立ち上がると食って掛かる。ヒカルと、等身大のスティレットとの身長差は若干スティレットの方が見上げる形となる。

 

「いや、なんか安心した」

 

「何がよ」

 

「お前、雨に関してトラウマあったからさ。もしかしたら同じ水の海も駄目なんじゃないかと思ったけど、平気みたいでよかったよ」

 

 数か月前の期末勉強の時もそうだった。本当の意味で立ち直りつつあると言うのはずっと見ていたヒカルとしてはやはり嬉しい物である。

 

「あーそっか。これも雨と同じで水なんだっけ」

 

「って、知らなかったのかよ」

 

 いつも自分に勉強を教えてくれる割に、こういう予想外の言葉をヒカルはひどく意外に感じた。

 

「良いでしょ別に、FAGにとって水は大敵なんだから。別に泳げなくても問題ないのよ」

 

「って、今泳ぎの練習してるんでしょうが。……浮き輪借りてくるか?」

 

「嫌よ格好悪い。……別に泳げなくてもいいのは本当よ。……マスターと同じ大きさで遊べるってだけで、私……」

 

 眼を逸らしながらスティレットは言う。

 

「お前……」

 

「……なーんて、冗談よ冗談。マスターに彼女が出来た時の為の練習相手になってあげてるだけなんだから。本気にしないでよ」

 

「……そう……だな」

 

 舌を出しながら茶化すスティレット。人間とFAGの違い、そんなのはお互い解ってる。ここでの体験はあくまで仮想空間内での出来事であって本来の二人の大きさの差は知っての通りだ。

 

「ま、イベント内のバトル大会まで時間はあるんだし、今のうちに身体を温めておこうって事よ。折角の新装備のお披露目なんだからさ」

 

 元々スティレットが今日のイベントに出る理由はその大会だった。忘れていたヒカルは、言われて思い出す。

 

「あ、そうか。今日のイベントそれもあったんだっけ」

 

 と、その時だった。

 

「あの。バトル大会のイベントに出場するのでしたら私と出ませんか?」

 

 その時、突然声が響く。誰かいると辺りを見回す二人だが近くには誰もいない。

 

「あ、失礼しました。こちらです!」

 

 直後、水しぶきをあげて一人のFAGが姿を表した。半透明の仮面の様なヘルメットを被り、副腕付きのパワードスーツを着込んだ、水着ともセーラー服とも付かないボディ。彼女の名は、

 

「水陸両用FAG、グライフェンであります!」

 

 内側の片手で敬礼ポーズを取りながらグライフェンと名乗った少女は快活な口調で話す。

 

「な、なんなのよいきなり!なんで海中から!」

 

 もしかしてさっきのやり取りを見られてた?!そんな懸念がスティレットを襲う。

 

「あぁ、申し訳ありません!ダイビングを楽しんでいたのですが、イベント出場の2人のお話が耳に入りまして!……お二人とも、仲がいいんですね」

 

 羨ましそうに言うグライフェン。しかしスティレットにとっては地雷を踏まれた様な物だ。

 

「な!何を言ってんのよ!どんなに仲が良くってもFAGと人間の関係は所詮人間と機械でしかないわ!こいつとの関係なんて他のFAGと変わらないわよ!」

 

 顔を真っ赤にして否定するスティレット。

 

「そうなのですか?どうも2人ともお付き合いでもしてるのかなと思いまして」

 

「だだだ誰がっ!!!」

 

 そう言ってスティレットは照れ隠しでヒカルを突き飛ばした。浅いとはいえ海面に突っ込むヒカル。

 

「ぶふぉ!うぉいスティレット!」

 

「あぁスイマセン!なんだかそういった独特なオーラを感じたのですよ!」

 

「おいおいグライフェン。もうちょっと普通に声かけられないのかよ」

 

 そこを高校生らしき少年が状況をややこしくするグライフェンを止めた。髪が逆立っており、ヒカルとは違った感じだが同じ体育系と言った所か。

 

「あ、司令官!申し訳ありません!どうも2人の雰囲気的に声をかけ辛くて!」

 

「司令官じゃないって」

 

「あ、すいませんマスター」

 

『……』

 

 敬礼をして謝罪するグライフェンを少年は諌める。その光景をヒカルとスティレットはどう声をかけていいか解らなかった。

 

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「じゃあ益次君もアーキテクトウーマンから誘われたってわけだ」

 

 砂浜に上がったヒカルとスティレット。そしてグライフェンとマスターの((『益次蓮』 | ますつぐれん))。四人はヒカルの敷いたシートの上で話をしていた。イベントがなければ縁のないFAGとマスターの会話だ。皆新鮮に感じていた。

 

「蓮でいいよヒカル君」

 

「じゃあ俺も呼び捨てで」

 

「お付き合いしてる。と勘ぐってしまったのは謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」

 

 マスター達が談話してる横でグライフェンはスティレットに重ねて謝っていた。

 

「いいって、そんな何度もやられても却って失礼よ」

 

「すいません。どうもこういうのはキチッとしておかないと気が済まない性分でして……」

 

「アンタ生真面目ねー。私の友達に見習わせたいわ」

 

「見習うなんてそんな……私なんて金剛姉さん達の足元にも及びませんよ」

 

 謙遜するグライフェン、本当に真面目過ぎる。そんな印象だ。

 

「姉さん?あんた姉妹が……ぁー、一緒に暮らしてるFAGがいるの?」

 

 FAGの場合一緒に暮らしてれば姉妹機でなくとも姉妹と表現できる。一度言い直して質問するスティレット。

 

「いや、一緒に暮らしてるってわけじゃないよ。俺達は帰国子女でね。暫く前まではイギリスにいて、そこで暮らしてた俺の姉2人が、金剛型をそれぞれ相方にしてたんだ。俺達だけ今日本に帰ってきてるってわけ」

 

 金剛型、艦艇への変形機構を持ったアーマーを装備し、水上戦闘と射撃戦に優れたFAGだ。水面を滑走する様に移動し、マルチロックオンにより一対多で真価を発揮する。

 

「イ・イギリス……すげぇな」

 

 帰国子女、そんな言葉だけでなんだか自分と違う世界に生きてる様に感じるヒカルだった。

 

「そんな物怖じしないでくれよ。ただ別の場所で暮らしていたってだけさ」

 

「でもバイリンガルって奴なんだろ?すげぇな。俺英語全然駄目だから」

 

「そんな事ないよ。俺だってこっちで生活してるだけで順調に英語忘れているからさ」

 

 ハハハと明るく笑いながら蓮は答えた。快活で明るい少年と言った所だ。

 

『イベント参加の皆さんにお知らせします。イベント内でのバトル大会の申請を開始しますので参加希望の方は指定の場所にて申請を行ってください。場所は……』

 

 その時だった。フィールド内全体に放送が響く。

 

「と、そうだった。折角だから一緒にチーム組んで出ないかヒカル。組む相手を探していた所なんだ」

 

 今回の大会は二人一組のタッグ形式だ。ヒカルとしてはスティレットの考えを尊重したくて聞いてみる。

 

「スティレットはどうする?」

 

「私は……別にいいわよ。特に轟雷と組むとも話してなかったし」

 

「本当ですか!?嬉しいです!グライフェン頑張ります!」

 

 立ち上がって敬礼する少女に「やっぱ生真面目ね」とスティレットは思う。

 

「じゃあここで待っていてくれ。申請してくるから」

 

「!マスター。でしたら私も……」

 

 ヒカルと一緒に申請に向かおうとする蓮をグライフェンは止める。自分も同行しようというわけだ。

 

「いいよ。これ位だったら俺だけでも出来るから、心配するなって」

 

 申請にFAGを同行させる必要はない。

 

「ですが……、解りました。スティレットさんと話をしながらお待ちしてます」

 

 敬礼を取りながら二人を見送るグライフェン。

 

「なんか、大げさだなグライフェンの奴」

 

「いつもああだよ。もう少し砕けたっていいのにさ。……おっと」

 

 苦笑しながら歩く少年達、と、蓮が転びそうによろける。

 

「あ、大丈夫か?」

 

「あぁ悪い。ちょっとVRに慣れてない所為かな。歩きづらくて……」

 

 そうは言うがヒカルは蓮の歩き方が気になっていた。左右で歩幅が合ってない。左足を引きづる様に見えた。

 

「お前……その足……」

 

「……そこは聞かないでくれないか……」

 

 その言葉とグライフェンの反応からして、大体の予想はついた。それを察しながらも二人は申請会場へ向かっていった。それに気づいていたのはスティレットも同じである。

 

「ねぇ、アンタのマスター……」

 

「ステイレットさん。……あなたはマスターのヒカルさんをどう思ってますか?」

 

「え?」

 

「私の司令官はですね。イギリスではあるハイスクールで、水泳のホープでした。でも無理がたたって泳げない足になってしまったんです」

 

「……」

 

「……泳ぐのが大好きな人でしたから、荒れに荒れましたよ……私たちの様にパーツ交換でどうにかなるわけじゃないですから。……不便ですよね、どんなに辛い事でも受け入れなければいけない時もある。立ち直るのに時間かかりました……」

 

 言葉の意味も、声のトーンからして、辛い思いをしてきたのは容易に想像できた。

 

「気休めを言いながら、見守るしか出来ませんでしたよ。……こういう時、私が人間の女だったらと、どれだけ思った事か。それだったら元の小さな体よりも支えになる事が出来たのに……」

 

 言葉に含んだ意味をスティレットは想像できた。

 

「アンタ……もしかして……」

 

 グライフェンもまた、スティレットが自分の言葉の意味を理解してくれたと思った。

 

「これが恋愛感情って奴なんですかね……おかしいですよね……」

 

「まさか……私もそうだって思った?だから近づいたの……?」

 

「正直に言います。その通りです。普通恋愛感情があったとしても主従関係は抜けません。あなたとヒカルさんのやり取りが、なんだか人間同士の関係の様に見えたんです」

 

 違う。いつもならスティレットはそう答えたろう。でも白虎に言われて悩んでいた事と、グライフェンの気持ちはよく解るから……こう答える。

 

「……好きよ……。アイツの事」

 

「やっぱり……」

 

「……お互い難儀な病気にかかっちゃったもんだわ」

 

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 その頃ヒカル達は申請手続きの受付に向かう。……その途中での出来事だった。

 

「マキー!ねぇマキー!何処にいるのー!?」

 

 一人の小さな少年が誰かの名前を呼んでいた。小学生位だろうか。と、ヒカル達を見るや否や駆け寄ってくる。

 

「あ、あの……この辺でマガツキ型のFAGをみませんでしたか?褌を水着にしてたんで解りやすいと思うんですけど……」

 

 マガツキ、女の鎧武者を模したFAGだ。問いかけてくる内気そうな少年は、一瞬性別が解らなくなる様な中性的な外見だった。水着の所為で男と一瞬遅れて判断した。悪い言い方ではあるが、軟弱か、女々しい印象だった。……ある一部分を除いて。

 

――眼帯をしてる?ケガかな?――

 

 右眼の部分に医療用の眼帯をかけていた。そこは気にはなるがヒカルは聞くわけにもいかず、質問に答えた。

 

「マガツキ型?暫く前に海水浴場で見たけど……」

 

 褌と聞いたらヒカルは覚えがあった。

 

「あ!ありがとうございます!」

 

 そう言って少年は砂浜に向かおうとするが気になったヒカルは止めようとする。が、先に蓮が聞いた。

 

「待ちなよ。何かあったのかい?」

 

「ふぇ!?バ・バトル大会に出ようって約束してたんですけど、いなくなっちゃいまして……」

 

 困惑する表情の少年。というか元々困り眉の顔だった。

 

「申請だったらマスターだけでも出来るよ。その時にスタッフと会うだろうし、そのマガツキを呼んでもらったらどうだろう」

 

「あ、そうですね。……ご一緒してよろしいでしょうか」

 

 断る理由もない。構わないよと了承すると三人は申請会場の海の家に向かった。

 

――

 

 場所は海の家のカウンター内で名前を言えば受付完了だ。

 

「結構混んでるなぁ」

 

「申請できる窓口が一つだけだからなぁ。必然的に人が集まりすぎる」

 

 マスターやFAGが列となって長い行列を作る。ヒカルと蓮の2人は海の家の外側にいた。

 

「よぉヒカル、お前はその人達と出るのか?」

 

 と、後ろの方から聞きなれた声がした。振り向くと黄一と健、ヒカルとは初対面の直哉と加賀彦である。並ぶFAGは轟雷とフレズとナインだ。

 

「お、黄一か。まぁな。紹介するよ。さっき友達になった益次蓮君だ」」

 

「よろしく。相棒はグライフェン型だよ」

 

「どうもこちらこそ。俺の方もこちらの秋坪加賀彦さんと組む事になったよ」

 

「よろしく。輝鎚型が相棒だけど、今いないのが残念だよ」

 

 いえいえとヒカルの方もスティレットがいない為、紹介出来ない事を残念がる。そしてヒカルがさっき会った少年を紹介しようとするが……。

 

「で、こっちが……えと君名前は?」

 

「ふぇ?!し、((信道駿 | しんどうしゅん))です……、相棒はマガツキ型です。お兄さん達とはさっき会ったばっかりで……」

 

「眼帯とは珍しいですね。なんか女子のスク水着ても似合いそうです」と轟雷。

 

「失礼な事言うなよ轟雷。中々合流できないと思ったらお互い新しい友達が出来たってわけだ」

 

「そうだなぁ。黄一の方も同じ理由?」

 

 黄一は轟雷を呼びに行ってたわけだ。それが今まで合流できなかったと言うのも、新しいFAG仲間と話し込んでいたのかな。とヒカルは今まで合流しなかった理由を分析する。

 

「いや、轟雷の奴が一通り会場内を見て回りたいって言ってたのが原因だわ。加賀彦さんや健君とはさっき再会してさ」

 

「……気になる事があったんです」

 

「気になる事って?」

 

「今回のイベントのFAGとマスター……」

 

 と、その時だった。

 

「ちょっと、話してないで前詰めてよー」

 

 真後ろにいた一人のFAG、ジィダオが列を詰める様に言い出した。前の人との間が結構空いている。

 

「っと、いけね!」

 

 そう言って走るヒカル達、ただ一人、轟雷は進みながら指摘したジィダオの方を見た。マスターらしき女性と会話してる。

 

「全く、話すのはいいけど周りもちゃんと見て欲しいよねマスター」

 

「あぁもうこのサイズでこんな事言うなんて!もう可愛いったらないわ!!」

 

「あはは!くすぐったいよマスター!」

 

 マスターがジィダオを抱え、頬同士をこすり合わせるのが見えた。笑ってるジィダオの様子から溺愛されているというのは一目で解る。

 

――……妙に仲良いのが多い気がするんですよ。今回のイベント参加のマスターとFAG……――

 

 誰にも聞こえない位小さい声で、轟雷は呟いた……。

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 この倍はかかりそうなのでとりあえずここまで、キャラ増えましたけど覚え辛いか不安です。

 ていうかマガツキ出せてないなー

 

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ep21『人間とフレームアームズ・ガール』(中編)
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