フレームアームズ・ガール外伝〜その大きな手で私を抱いて〜 ep27
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「どうですか?ご主人様……」

 

 安物の木造アパートの一室にて、丸型テーブルの上に置かれたカレーライスの器の横に立ったフセットは問いかけた。

 

「……凄いよ。うまい」

 

 フセットのマスターであり、スティレットの元マスター、甫周月夜は意外そうにフセットに言った。

 

「本当ですか?!よかったぁ!」

 

 間接的ながらも自分でやり遂げたという事実はフセットに大きな満足感を与える。

 

「何時の間にここまでスキルを。どこかで習ったのかい?」

 

 食べ終わると月夜はナプキンで口を拭う。お金は失っても育ちの良さの雰囲気は消す事は出来ないと言った所か。畳、テーブル、壁、室内は全体的に色あせており歴史を感じさせる。その中で月夜とフセットの二人は余りにもミスマッチだった。

 

「……習ったんです。ご主人様の前のFAG、スティレットお姉様と……」

 

「え……そうか」

 

 若干躊躇いながらもフセットは月夜に言った。驚いた様な素振りを見せるも月夜は一言だけ返した。

 

「今までの様に可愛がってもらってるだけでは済まない事になりましたから……、ご主人様に何かしてあげたかったんです」

 

「……元気だったか?あいつは」

 

「はい。色々な事を知ってるんですねお姉様は、いずれは洗濯や掃除もマスターしたいです」

 

 そんな健気さを出すフセットに月夜は何だか愛おしく思えた。親や友達が去っていった中で、彼女が唯一の心の支えだった。

 

「そっか。お前も成長していってるんだなぁ」

 

「自分で行動すると始めて解る事ばかりですね……」

 

「羨ましいな……。でも僕は駄目だ……学校でも孤独で……」

 

「ご主人様……」

 

 弱気な月夜に対して、フセットは何か自分でしてあげられる事はないかと思案する。

 

――ワタクシだけじゃ思いつかない……。こんな時、お姉様だったらどうするんだろう……――

 

 と、スティレットを頼りに考えるフセット。と、フセットにある事が思いついた。

 

「そうです!ご主人様!お姉様達に会ってみましょう!」

 

――

 

 翌日……。ヒカルの家にて……。

 

「へ?あなたのマスターをお店で皆に会わせるって?!」

 

 スティレットが予想外とばかりに素っ頓狂な声を上げた。

 

「はい!相談して頂いて、ご主人様の心の傷を癒してあげたいんです!」

 

「ちょ!何言ってるんですか!駄目に決まってるでしょう!?」

 

 慌てて轟雷が止めに入る。フセットはかなり世間知らず、もしくは天然が入ってるらしく、突拍子の無い事を言い出す。フセットに打算がないか警戒する轟雷だが、彼女の行動はどこまでが本気なのか読めない。

 

「轟雷お姉様……ですが……」

 

 泣きそうな表情になるフセット。彼女としてはスティレットが唯一の頼れる拠り所だった。

 

「あぁいや!でも住んでる町が違うじゃないですか!そんな手間かかる事出来るわけがないでしょう?!」

 

「心配いりませんよ!土曜日ですから!」

 

「ぐ……」

 

「ねぇ轟雷……、別にいいんじゃないかしら」

 

 それをスティレットが了承する。

 

「スティレット?!」

 

「フセットも頼れるのが私達しかいないんでしょう?それじゃ可哀想じゃない」

 

「そ、それはそうですけど……」

 

 轟雷としてはかなり不利だった。フセット自身がマスターに恋愛感情を抱いている以上、スティレットはフセットの味方と言っていい。フセットの敵と言えるであろう轟雷としてはどうしても分が悪くなる。

 

「じゃあ決まりね。明日マスター連れてきなさいな」

 

「有難うございます!お姉様!」

 

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 その日の夜、黄一と轟雷の家にて、黄一の部屋で轟雷は報告する。

 

「と言うわけなんです。元マスターさんが会いに来ると言うわけです」

 

 勉強机の上に立った轟雷は椅子に座った黄一に手振りを交えて体験した事を報告した。

 

「もっと止めろよお前なぁ。何の為の監視だよ……」

 

 不甲斐ないと感情を込めた視線で轟雷を見つめる黄一、

 

「いたたた視線が痛い!なんですか人の気も知らないで!スティレットがフセットの味方である以上、フセットに賛同しがちになっちゃうんですよ!」

 

 無神経ともいえる黄一に轟雷は怒りながら反論。

 

「悪かったよ。確かに考えて見りゃ恋愛感情持ってるFAG同士だからな……」

 

「そら見なさい。で、知らせますか?ヒカルさんに」

 

「引きはがした方がいいかもな……。元マスターとヒカルを会わせてみるか」

 

「確かに最終的な判断はヒカルさんに委ねる事になっちゃいますからね。……でもマスター……本当に私達のやってる事って、正しいんでしょうか……。考えてみればこっちで勝手にフセットや元マスターさんを敵視してるだけじゃないですか」

 

 どうにも自分達のしている行動は、話をややこしくしているだけじゃないのか?と轟雷は不安と罪悪感が湧いていた。

 

「確かにそうかもしれないけれど……万が一何か企んでるかもしれないだろ?」

 

――

 

 翌日、学校にて……。

 

「ヒカル、土曜日俺といつもの店に付き合え」

 

「また唐突だな黄一」

 

「別に玄白さんとデートがあるわけじゃないんだろ?」

 

「決めつけんなよーまぁ土曜日ならその通りだけどさ……」

 

 バツの悪そうなヒカルに黄一は呆れる。告白されて積極的にデートしようともない。目の前の親友がアホとしか思ってなかった。

 

「まぁいいか、元々日曜日に玄白さんとFAGの対戦イベント出るからその時にセッティングでも……」

 

 ピクっと黄一の眉が動いた。

 

「……おい、初耳だぞ」

 

「いやあくまで一緒に対戦するだけだし」

 

「デートだろうがどう考えたって!!なんでもっと早く言わなかったぁぁっ!!」

 

「だぁぁ!やめろぉぉ!!」

 

 ヒカルの首を掴んでブンブン振る黄一。こんな様子ではあっても今の状況ではこのど付き合いも何だか安心できた2人だった。

 

 ……そして放課後、ヒカルは部活のバスケに行った為に黄一は一人で帰る事になる。

 

「さて、ヒカルは部活だし一人で帰るか……」

 

 土曜日どうなるかな……とそんな事を黄一は考えてると、誰かが声をかけた。

 

「ねぇ諭吉君?」

 

「?あ、玄白さん」

 

 廊下に出た黄一が振り返ると朱音がいた。

 

「ちょっといいかな。……一緒に帰りたいんだけど」

 

「っ!?俺と?!」

 

 歓喜の声を上げる黄一。結果論だけ言うと、黄一自身朱音の事が好きだ。故にその瞬間黄一のテンションは振り切っていた。

 

「ちょっとヒカル君の事で相談したくて……」

 

 直後に黄一のテンションは駄々下がりになった。

 

「あ、そう……」

 

 

 そしてその日は黄一と朱音が並んで歩く。ヒカルより身長の低い黄一ではあるが、まだ朱音より若干背は高い。

 

「うん。あいつヤギ肉とドジョウ好きだから。それで弁当作ってあげたら喜ぶよ」

 

「有難う!ヒカル君の事よく知ってるね諭吉君」

 

「……直接聞けばいいじゃない。ヒカルの奴にさ。どうして俺に?」

 

「それは……ヒカル君がね、どうもよそよそしくて……、私、避けられてるのかなぁ」

 

「……確かにあいつは頭は悪いけど、女の子を泣かせる様な奴じゃないよ。女の子だけじゃない、友達にだってそうさ。曲がった事が嫌いで、思いやりは人一倍ある奴だよ」

 

 素直に思っていた事を黄一は吐き出した。考える事無くスラスラと口に出てくる。

 

「わぁ……諭吉君て、ヒカル君の事よく知ってるんだね。男の友情って感じ」

 

 感心した様に言う朱音。黄一の表情と口調からしてヒカルへの信頼を感じ取った様だ。

 

「そ、そうかな?幼馴染だからさ。アイツとは」

 

「でもやっぱり、避けられてるみたいで、不安なんだよね……。私としては大勝負のつもりだったんだけどな……」

 

「大丈夫。アイツは悪知恵なんてないよ。バカではあるけど最終的にちゃんと決断は出来る奴だから」

 

 今の所、朱音に告白されたという理由で黄一はヒカルをよく思っていなかった。しかしながら、ヒカルを悪く言う事はなかった。朱音の前でなくともそれは覆る事はないだろう。

 

「駄目だよ。友達をそんな風に言っちゃ、でも妬けちゃうな。そんな風に言い切れる仲って……」

 

 自分に対する態度からしてヒカルに不満のある朱音だった。

 

「……玄白さんだから言うけど、今週土曜日に出入りしてる模型店でウォーミングアップするんだ俺達。たるんだヒカルをみっちり叩き直すから安心してくれよ」

 

「土曜日に?……じゃあ、お願いしようかな……」

 

 安心したような表情になる朱音。そうこうしている内にバス停についた。ここでそれぞれ道が違うために別れる。

 

「じゃあ、ここで俺は……」

 

「バスが来るまで時間はあるよ?もうちょっと話していよう?」

 

「……そうしたいけど、俺も予定があるからさ……」

 

 本当は黄一としても話をしたい所ではあるが、このまま話をしていてもヒカルの話が出るのは高確率だった。さっさと逃げるに限ると黄一は退散。

 

「待って!諭吉君!……ありがとう!!」

 

 離れていく黄一に朱音は大声で感謝を伝えた。振り返った黄一は微笑みつつ軽い会釈をして返した。

 

――こんないい子を……何やってんだよヒカル……――

 

 黄一は笑顔の裏で、煮え切らないヒカルに対して苦虫を噛み潰したように歯を食いしばっていた。

 

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 そして土曜日……。いつもの模型店のコミュニケーションスペース内のバーにて、スティレットはフセットを加えて集りに参加させる。彼女自身が何かしらコミュニティに悪影響を与えているかといえばそういうわけではない。逆にかなり控えめだった。

 そしてこの日は月夜も来ていた。バーの一方向の壁は取り払われており、それを月夜が覗き込む。

 

「……と、いうわけよ。この子が色々あって面倒見てるフセット。そして……この人がフセットのマスター」

 

 店内で椅子に座らずに立ったままのスティレット。そして後ろに隠れたフセットを周りに紹介。続けて月夜を、初対面の様に装って紹介した。バー内で集まってるFAGはいつものメンバーに加え、レーフとライにバーゼラルドに迅雷。イノセンティアとレティシアにマテリア姉妹。ほぼ勢ぞろいと言っていいだろう。

 

「あぁ、よろしく……」

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 スティレットの後ろに隠れながら様子を伺うフセットである。

 

「どうも大人しい子って感じだね。スティレットと大違いだ」

 

「どういう意味よフレズ……」

 

「ねぇ!元お嬢様だったんでしょ?どういう生活していたの?」

 

「イノセンティア、古傷を抉る様な質問は駄目よ」

 

「どうもバトルの実力は期待できそうに無いね。倒して名を上げたかったんだけど……」と物騒な事を言う迅雷。

 

「はわわ……」

 

 慣れてない状況に戸惑うフセット。彼女に轟雷がフォローを入れる。

 

「そんなに一辺に話しかけちゃ駄目ですよ。こういうの慣れてない子なんですから」

 

「轟雷は面識があるんだっけ。……ヒカルさんはなんて?」

 

 アーキテクトが問う。アーキテクトはスティレットの過去話にて、ヒカルがフセットと月夜の二人をよく思ってないのは知っていた。ヒカルの名を聞いた月夜とフセットの表情が曇る。

 

「マスターには……会わせられないわね」とスティレット。

 

「そうなんだ……」

 

 バーテンダーコスプレをしたレーフが、バーのカウンター内に立ちながら言った。外側に並べられた丸椅子に座ったフセットは、戸惑いながらもポツリポツリと答えていく。

 

「はい。ヒカル様はなんだか怖くて……」

 

 おびえた様子を見せるフセット。

 

「大丈夫ですよ。ヒカルさんは打ち解けたらすぐ懐いてくれますから」

 

「犬か私のマスターは」とスティレット。

 

 それを打ち解けた風を装って轟雷は監視をしてるつもりだった。フセットの腹の内を探ってるわけだ。

 

「それにしても貴方、なんだか話し慣れてないって感じね。どうもスティレットの陰に隠れて様子を伺っているって感じだわ」

 

 レーフがフセットの態度を評する。そこで初めて月夜が口を開いた。

 

「フセットはね、あまり自分から動く事はしてなかったんだ……。一人で家の外にはほとんど出た事が無かったからね……」

 

「まぁ、色んな子がいるでしょうから、そういう子もいるでしょうね」

 

「同じ家に住んでいたスティレットお姉ちゃんもそういう体験をしていたの?」

 

 レーフの発言の次に、反対側の席に座っていたライが月夜に聞いた。

 

「そうだね……。今となっては驚いたよ。こんなに快活になっていたとはね。スティレット」

 

「……ちょうど今のマスターに拾われた時に轟雷と知り合ったから、轟雷がよく外に出かけようって誘ってくれたんですよ」

 

 距離間を意識しながらスティレットは返した。月夜も遠慮してるといった感じか。

 

「あー……私の場合はマスターの友達のFAGですからね。誘いやすかったんですよ。大事にしてますからね。スティレットの今のマスターのヒカルさん」

 

 轟雷は月夜達にヒカルをチラつかせて、スティレットとの距離間を詰め過ぎない様に話した。

 

「スティレットは前の生活では他のFAGとはどうやって会ってたんですか?」

 

「そうね。昔はよくFAG連れた友達を家に招待したわ。……そういえばその友達どうしたのよ?」

 

 家の関係だったとしても、友人関係にそんなに変化はないだろうとスティレットは聞く。

 

「友達は……お金失った後、ほとんど離れていっちゃいました」

 

 そこでライは無遠慮に口を開く。

 

「あーそれでトラウマになっちゃったんだね。友達っていっても財産目当てだったんdあいたぁ!」

 

 スコーンという音と共にライの顔面にトレイがフリスビーの様に当たり倒れこんだ。相変わらずライの空気読まない発言にレーフがトレイを投げたのだ。

 

「スイマセン。私の妹が要らない面倒を……」

 

 スティレットはフセットに「気にしちゃ駄目よ」とフォローを入れた。当のフセットは「はわわ……」と狼狽えていた。やはりこういうのに慣れてない。

 

「ウッフフ。フセットちゃんたら真っ白のシルクの様な子ね」

 

「そうねお姉様、月夜さんも震えた子犬の様」

 

『揃って穢してしまいたくなっちゃう』

 

 マリとテアの姉妹が黒い笑顔を浮かべながら月夜とフセットを評する。

 

「ちょっと誰よこの姉妹連れてきたの!!」

 

「フフ……久しぶりだな。こういう賑やかさも」

 

 そんなやり取りを見ていた月夜が微笑みながら口を開いた。

 

「お姉様のお友達って、こんなに沢山いたんですね」

 

 フセットも驚いた様なリアクションを取る。ここまで多いとは思わなかったのだろう。

 

「轟雷の友達ってのもあるわよ。今日は特に皆都合がついたってわけ」

 

「そうですねスティレット。友達の友達でも友達は友達です」

 

「後半ワケ解んないわよ」

 

「だから貴方も私達の友達だって事だろう?」とバーゼラルドがフセットにフォローを入れる。

 

「あぁ私が言おうとしたのに」と轟雷が残念そうに言った。

 

「有難うございます。皆様……」

 

――……でも、私はこれから月夜さんをヒカルさんと会わせる。この関係を壊そうとしている。――

 

 笑ってる轟雷ではあるが、月夜とフセット、2人の人柄を知れば知る程、これからヒカルを会わせようとする自分達のやってる事が正しいのかと不安になる。

 

「それで、昔の話はどうでもいいわ。……学校含めて今のあなた達の生活はどうなってるんですか?」

 

 本題に入るスティレット。今回の目的は月夜の精神的ケアだ。敬語で話す。

 

「うん……今は親と離れてフセットと生活してるよ。学校の方は、ちょっと孤立する様にはなったかな……。周りも遠慮する様になってしまった感じで」

 

「別にイジメとか嫌がらせを受けてるわけではないのでしょう?」

 

 受け答え自体は真摯にする。「うん」と月夜は答えた。

 

「だったら自分から輪の中に入ろうとすればいいじゃないですか」

 

「でも話辛くて……、失敗するのが怖くてね」

 

「自分からアプローチをかけなかったら何も変わりませんよ。失敗したら逆にいい話の種になるじゃないですか」

 

「スティレット……」

 

「最も私を捨てて他人のふりをした事は話のネタとしては最悪ですけど」

 

「う……」

 

「なんてね」

 

 スティレットは冗談交じりではあるが月夜を突き放す。ある程度の誠意は持っているが距離感を必要以上に詰めようとしない。

 

――心配は無用だったかもしれませんね――

 

 それを見ていた轟雷は杞憂だったかもしれないと思っていた。しかしこの後ヒカルと会わせる事を考えると、この空気も重苦しくなるだろうな。と憂鬱でもあった。

 

「貴方は昔は周りの方から人が寄ってきたタイプですから、自分から動くなんて慣れてないでしょうけど。自分から動かないと何も変える事なんてできませんよ」

 

「そっか……。本当、変わったねスティレット」

 

 かつて一緒に暮らしていたFAGの変わり様に、月夜は静かな驚きを見せた。一緒に暮らしていた時は少なくともこういうアドバイスをくれる子ではなかった。

 

「今のマスターが考えなしなだけですよ。あいつったら考えなしで行動するからこっちがフォローしてあげないと駄目なんだから……」

 

「お姉様……」

 

「って何他人事みたいに感心してんのフセット!今はあんたが月夜さんの心の支えでしょうが!」

 

 スティレットとしては別に元マスターの月夜を気にかけてるわけではない。しかしながら彼の事が好きだと言うフセットを気にかけてる。

 

「わぁ!そ、それはそうですけど……。でも私一人だと荷が重くて……。あの、お姉様……」

 

 もじもじとフセットは身悶えする。暫くして決意すると、スティレットに言い放つ。……次の瞬間、とんでもない発言がフセットの口から飛び出す。

 

「わ!私達と一緒に暮らしませんか?」

 

「……な!?」

 

 突然の発言にスティレットは、周囲のFAG達含めて愕然とした。

 

「フ!フセット?!何を言い出すんだいきなり!!」

 

「そうですよ!何無茶なお願いを!!」

 

 月夜と轟雷が止めようと叫ぶ。

 

「だ!だってお姉様と一緒にいると楽しいし、頼もしくてもっと色々教えて欲しくて……」

 

「あんた……気持ちは嬉しいけど、私には私のマスターがいるの、yesとは言えないわ」

 

 やや困惑しつつもスティレットはフセットを止める。

 

「そのマスターです……。ヒカル様と一緒にいるの、辛いのではないのですか?」

 

「え……?」

 

 その瞬間、スティレットの動きがビクッと止まる。

 

「その……お姉様のマスターが、ヒカル様が告白されたというのはワタクシも知ってます。それでお姉様が辛い想いをしているのも……」

 

「!それはいけません!」

 

 戸惑うスティレット。若干心が揺れ動いてるといった所か。そんな状況に轟雷が待ったをかける。

 

「轟雷お姉様?」

 

「わ!私達はFAGです!マスターの許可なしではそんな事!ヒカルさんが許可すると思ってるんですか?!」

 

 必死の形相で轟雷はフセットに食って掛かる。

 

「ですが……」

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 その時だった。轟雷との口喧嘩になると思いきや、乱入者によってそれは中断される。

 

『本当に先にスティレットの方は来ているのかよ黄一』

 

 ヒカルの声が響いた。轟雷と黄一によって来る様に仕向けたのは計画通りだ。

 

――ヒ・ヒカルさんが来る?――

 

 乗り気でなかった轟雷としては顔面蒼白となる。この後の惨状は予想出来る事だ。そしてそれはスティレット達も同様だった。

 

「いるかー?スティレット?ん?」

 

 黄一に連れられたヒカルがこちらへ歩いてきた。スティレットを探している為、真っ先に彼女がいつも使っているコミュニケーションスペースへ向かう。

 

「甫周さん!早くフセット連れて隠れて!」

 

 何故こうなる。とスティレットは思っていた。今日はヒカルはここへ来る用事はなかった筈だ。……つまりヒカルは、明日朱音とFAGの大会に出る事をまだスティレットに話していなかった。

 

「スティレットの声?やっぱりそこにいたのかよスティ……」

 

 間に合わない。スティレットの叫びで気づいたヒカルは、離れようとしていた月夜と鉢合わせとなる。

 

「……お前」

 

 ヒカルは一瞬で嫌悪感丸出しの表情となる。対する月夜とフセットは怯えた様な表情だった。昔胸倉を掴まれた経験からか、ヒカルに苦手意識がまだある。

 

「マスター……。なんで……今日来るって言ってなかったのに……」

 

「スティレットもいるのかよ……なんだよ。お前、今度はスティレットに何をやろうってんだ」

 

 スティレットを捨てた男だ。ヒカルとしては信用出来るわけがなかった。

 

「今は違うよ……」

 

「待ってマスター!今の彼は前と事情が違うわ!」

 

 それをスティレットが止めようと割って入る。しかしヒカルとしては彼を庇うのが理解出来ない。

 

「スティレット!?何簡単に信じようとしてるんだ!こいつがお前にした事忘れたのかよ!」

 

「忘れられるわけがないじゃない!でもね!昔と違って彼にはもう家のお金も友達も失ったのよ!貴方に拾われた時の私と同じ!忘れられないからこそ放っておけないのよ!」

 

 その剣幕に、黄一や他のFAGにも入る事は出来なかった。轟雷はこの状況を後悔していた。反面黄一としては予想通りと言った所か。

 

「?!……気持ちが解るからって!信用出来る理由になるか!大体なんで俺に黙っていたんだよ!」

 

「!それは……マスターが怒るのが目に見えていたから」

 

「や!やめて下さいッッ!!!!」

 

 見かねたフセットが一際大きい声で叫んだ。ヒカルとスティレットが揃って驚く。

 

「ワ!ワタクシがお姉様に言ったのがきっかけなんです!この間のイベントでお姉様の事が気になったのがきっかけで!」

 

 ヒカルを怖がってるのか若干どもり、震えながら訴えるフセットだ。

 

「もうご主人様には家もお金も残っていません!ワタクシがご主人様の力になってあげたくて、お姉様に接触したんです!」

 

「……でもそれが信用出来るかどうかはまた別問題だ」

 

 震えながら勇気を出している少女にヒカルは何かを感じ取りつつも態度を改めはしなかった。

 

「ぼ、僕は……あの後に全てを失いました。その時にフセットに救われたんです」

 

 月夜の方も、ヒカルと向き合いながら怯えつつ気持ちを伝える。

 

「……僕の事は信用しなくてもいいし、してほしいとも思いません。でもどうかスティレットの事は信じてあげて下さい……」

 

「隠し事はありません……。純粋な気持ちでお姉様と繋がりたい。これが全てなん……です」

 

「隠し事……」

 

 隠し事と言う言葉にヒカルは反応を見せる。少し考える様な素振りを見せるとヒカルは、

 

「……仕方ないな」

 

 渋々ながらそう言った。その言葉に2人は安堵の表情を見せる。

 

「あ、有難うございます!」

 

「勘違いするなよ。信用したわけじゃない」

 

 喜ぶフセットに対し、表情を変えずにヒカルはそう言った。スティレットの方も安堵したようだ。

 

「ヒカル。お前許したのかよ」

 

「そんなんじゃない」

 

 黄一の発言にヒカルは渋い顔のままだ。

 

「それにしてもマスター、随分唐突に来たのね。今日来るって言ってなかったじゃない」

 

 安堵しつつも、この状況に驚いたスティレットだ。その言葉にバツが悪そうになるヒカル、それに対して黄一は眉をしかめる。

 

「……おいヒカル」

 

 そう言って黄一はヒカルの腕を掴み、少し離れた物陰に移動。誰にも会話を聞かれない様にする為だ。

 

「……お前まさかまだスティレットに言ってなかったのか?」

 

「!い、言う機会がなかったから」

 

「……都合のいい事いってんじゃねぇよ。玄白さんに誘われたって事、スティレットに言えないだけだろうが」

 

「う……」

 

 図星を突かれたと言った表情に黄一は呆れる。ヒカルより身長の低い黄一だが、今の黄一はヒカルを完全に圧していた。ヒカルが煮え切らないのも強く出られない原因か。

 

「あのな……。お前何考えてるんだよ」

 

「だって、言ってスティレットが機嫌悪くするんじゃないかって思って……」

 

「だったら明日の本番はどうするんだよ。玄白さんはどうなるんだよ」

 

 ヒカルは言葉を詰まらせる。朱音とスティレットを天秤にかけ、悩んでると言った所か。

 

「なぁヒカル、玄白さんだって勇気出してお前に告白したんだろうが」

 

「それは……そうだけど」

 

「要はスティレットが傷つくのを見たくないってんだろ。俺だって解るわ。でもスティレットはFAGだろうが。人間とは違う。そりゃ俺はいつもスティレットをお前の彼女と例えてはいたけどさ」

 

 黄一はスティレットがヒカルの事を好きなのは知っている。でもそれで人間とFAGが結ばれるのはさすがに無理があるというのが黄一の認識だった。

 

「伝えるのが遅くなれば遅くなる程スティレットを傷つけるって解ってんのかよ」

 

「解ってるよ……」

 

「だったら戻って伝えるぞ。いい加減腹くくれ」

 

 そう言って戻ろうと促す。ヒカルはおずおずと黄一に従いながら戻っていった。

 

――ったく……ホンット何やってんだよヒカル――

 

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「マスター、どうしたのかしら……」

 

 ヒカルが明日、朱音とFAGで対戦。要は自分を使ってデートするという事にスティレットは知らない。

 

――い、胃が痛い……――

 

 胃は無いが轟雷はそんな感想を抱いていた。事情を知っているだけに、これからスティレットにヒカルが何と言うか。そしてそれで親友がどんなショックを受けるか……。と、そうこうしてる内にヒカルが戻ってきた。

 

「あー、スティレット……」

 

「何よマスター、珍しく思いつめた顔しちゃってさ」

 

「スティレット……あのさ……明日、玄白さんと組んでFAGの大会出るんだ」

 

 ビクッとスティレットの体が震える。ショックを受けてるのは見てた全員が簡単に予想できた。

 

「え……。あ、そ、そうだよね。付き合ってるんだからそれ位するよね!」

 

 が、気を取り直してか平静を装う。

 

「う……だ、だけど!別にデートとかそういうんじゃないよ。その、一緒に出て欲しい」

 

「そ、そう?まぁ仕方ないわね。一緒に出てあげる」

 

 ヒカルとしても気まずい。しかしギクシャクしつつもどうにか伝える事は出来た様だ。しかしその時だった……。

 

「ははっ!まだ自分にもチャンスはありそうってか?!もうねぇよスティレット型!」

 

 気まずい空気を歓迎する笑い声が、ずかずかとバーに入ってくるFAGが1人。ツインテールと白いボディ、忘れもしないその声の主は……。

 

「白虎……」

「ようスティレット型!失恋をいい加減受け入れたらどうだ!?」

 

 以前のバトル大会において轟雷と揃って完敗した白虎型だった。勝ち誇る様にしてスティレットの心の傷に塩を塗りたくる。

 

「アンタ!!何しに来たのよ!!」

 

「別に?誰かさんに現実を知って欲しかった位かね」

 

「!あなたは!!」

 

 見かねた轟雷達が一斉に白虎をにらみつける。フセットと月夜を覗き、全員が白虎に敵意を集中させた。

 

「失恋って……」

 

 ヒカルはその言葉に戸惑う。

 

「あ?鈍いねぇアンタ。そこのスティレット型に決まってんだろ」

 

「!」

 

「っ!やめて!!」

 

 折角抑えていたのに。悲痛な叫びを上げたスティレットに白虎は追い打ちをかけようとする。

 

「お前!!出てくる度になんなんだよ!!」

 

 それをヒカルが制止する。以前のバトルといい、態度が横柄すぎる。

 

「……これだけは言っとく。オレらFAGが人間と結ばれたとして、人間にあげられる物は何もねぇ。人間同士でなけりゃ奪ってく一方だ」

 

「!」

 

「聞かないでスティレット!!ここでそう言ったからには覚悟は出来てるんでしょうね!!」

 

 何も言い返せないスティレット。だが他のFAGは違う。怒りの轟雷が、アーキテクトが、フレズヴェルクが、バーゼラルドと迅雷が、仇討と言わんばかりにバトルに持ち込もうとする。

 

「悪いけど今日はそういう気分じゃねぇな」

 

「ふざけないで!!」とアーキテクトが感情を込めて叫んだ。感情表現が苦手な彼女も白虎の態度には怒り心頭だった。勝手に自分の気持ちを言われる辛さは彼女はよく解る。

 

「……オレにだってな。責任があんだよ……」

 

 声のトーンを落としながら呟くと白虎は指をパチンと鳴らす。すると大型のマシンが白虎に従う様に飛んできた。いかつい手足に反し、ひょうたんの様なずんぐりした胴体の黒い大型マシン。それが胴体部が開き、操縦席が露わになる。

 

「オーダークレイドル?!アルティメットガーディアンだ!」

 

 フレズヴェルクが叫んだ。白虎の呼び出したマシン。アルティメットガーディアン。FAGが操縦する事を前提としたギガンティックアームズ最新型。

 

「デジセクシャリティって言葉があんだろうが。仮にだ。オレらが人間と付き合って、それで幸せになれると思ってんのか?世間が祝福してくれると思ってんのか?!後ろ指を指されんのは目に見えてんだろうが!」

 

「だからって!」

 

「近い内に解るわ。お前らが……いや、オレらFAGが笑えば笑うほど、泣く人がいるって事をな!それを解りな!」

 

 そう言って白虎はオーダークレイドルに搭乗。コクピットを閉めると起動。大型の巨人は腰部のブースターを使いその場から出ていった。

 

『……』

 

 全員が沈黙、ただ一人、へたり込んだスティレットが、無言で俯いていた……。

 

「黄一……。悪い。俺練習どころじゃなくなった」

 

「あ、あぁ……」

 

 黄一としてもバツが悪そうだった。さすがにこの結果は予想してなかっただけに。

 

「スティレット……帰ろう」

 

「……ゴメン。後で1人で帰りたい」

 

 俯いたまま、目をごしごしとこすると、目を赤く腫らしたスティレットが力なく答えた。泣いていたのは誰だって解る。

 

「お姉様……」

 

 それを心配そうに月夜とフセット達は見ていた。ただ二人、マリとテアの姉妹を除いて。

 

――……スティレットちゃん……私達はピノキオになれないのよ――

 

 そう誰にも聞かれない位小さい声でマリは呟く。これも運命と言わんばかりに姉妹はスティレットを見つめていた。

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 本日はここまで、続きはまた明日

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ep27『その大きな手で私を抱いて』(承)
お待たせしました。続き行きます。
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コメント
mokiti1976-2010さん 有難うございます。信じなくともブレイクスルー次第ではもっと早くなれるかも?(コマネチ)
信じ続ければピノキオになれる日がいずれ来る…かも?でも、それはとんでもなく遠い未来かもしれませんが。(mokiti1976-2010)
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