近未来文明が残る惑星 第13話
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前回のあらすじ

 

突然何者かに誘拐されたリック。その誘拐犯の正体は真田軍の忍びだった。

真田軍の小田原侵攻を聞き、なんとか小田原に戻ろうと抵抗するが大怪我を負ってしまう。

そこに白い着物を着た美しい女性が通りかかり、その女性が管理する館で治療を受けるリックだったが…。

 

 

 

「こうして人類は生き残る為に宇宙進出の道を選びました。……しかし滅びゆく地球で何とか生き残ろうと人体実験をする人々もいたのです。地球脱出の際、星に残り今はどうなっているか確認する手段はありません。」

 

夢の中なのか記憶の中なのか、ぼんやりと女性の話を聞いていた。宇宙開発史の授業だ。

 

「宇宙進出を選んだ人類でしたが、船に持ち込める文化遺産や文明機器はごく僅かでした。

高度な文明も全て地球に取り残されたままなのです。」

 

授業をしている女性教師は少し悲しそうに説明をしていた。

 

 

 

 

「うう…ここは…」

 

目が覚めるとまた知らない場所で寝ていたようだ。突然忍びに襲われて誘拐され二度も罠にはまるというマヌケな自分に自己嫌悪する。

 

「はあ…上官に知られたら説教と体罰では済まないぞ…」

 

そう呟いては天敵と思うほどかつて苦手だった、自分の上官の事を反射的に考えてしまった。

そして辺りを見渡す。今まで過ごしてきた場所とはまた違う真っ白な部屋だった。

 

「……やっぱりコンクリートだな。アスファルトといいどうしてこれが、この時代にあるんだろう?」

 

リックは布団から立ち上がり、白い壁に近づいた。所々傷が痛み、無理は出来ないようだ。

 

「手当てされてる。あの忍びがやってくれたのか?」

「あっ!本当だ、元気そう良かったー!」

「お前っ…!」

 

部屋の入口からリックを誘拐した真田の忍び松利と白い着物の女性がやってきた。

手には水色の着物と木箱を持っていた。

 

「ここは何処なんだ!」

「まあまあ、落ち着いて。そんなに興奮すると傷が開きますよ。簡単に言うとここは神様の館です。真田軍忍び隊の隠れ家の近くでもあります」

「身体はどうですか?痛む所や痺れる所はありますか?」

 

相変わらず短気なリックをなだめて、状況を説明する松利とリックの顔や腕の傷を見て、傷口の状態を確認する女性。

 

「あと、何回も言うようですが私は神ではありません。個体名は美月です。」

「個体名?人間じゃないのか?」

「……それについてはまた改めてお話しします」

 

美月と名前の女性は、少し俯き呟いた。

再び入口の方から駆けて来る足音が聞こえる。

 

「おい!!軍が、上田に戻るらしいぞ!俺達も一緒に同行させてもらおう!」

「本当に!?りくさん、急いで支度をして真田軍と合流しましょう!」

「えっ…ちょっと待ってくれよ!」

 

狩りに行っていた那岐が帰ってきた。服には獲物を狩っていたのか少し獣の血が付着している。

「要求した獣はどうしましたか?」

「あっ…あー…すまん。猪狩ったんだけど、途中で真田軍見かけてさ…そっちに夢中になって、取り逃がした…」

「はあ……まったく」

 

那岐のうっかりさに美月はため息をつく。さっきまで無表情で喋っていた美月だが、初めて人間らしい表情を見て松利は少し驚き、同時に親近感を抱いた。

 

「応急処置はしましたが、完治していません」

「でも、行かないと!」

 

リックの手当てがまだ完全に終わっていないのか、美月はリックを止めようとする。

 

「それじゃ、真田軍…引き上げたって事はもう、小田原は……」

 

結局何も出来ずに自分に親切にしてくれた人達の死を悟った。

もしかしたら助けられたかもしれない、自分が力不足を呪った。

 

「ううう…くそ!俺のせいで……」

「……行こう。時間が惜しい、幸村様が待っておられるんだ」

 

俯いて泣くリックに那岐は静かに言葉を掛け、手を差し伸べる。

 

「顔を上げて下さい。お気持ちはよく分かります。でも決して貴方のせいではないのです。

この星の、この国の運命の一つです。外部から来た来訪者である貴方のには責任はありません。」

「この星?らいほうしゃって何ですか?」

「…いずれ、貴女方にも詳しくお話ししますよ」

 

自分を責めるリックに美月は意味深い言葉を並べながら、この国の運命通りだと告げた。

そして松利と那岐は手際よく荷物をまとめ、出発の支度をする。

リックはまだ病み上がりの為、美月が調合した薬を飲ませた。

 

「…げほげほっうええ、まずい。やっぱり粉末タイプは苦手だな…」

「すみません。本当は錠剤の形にしてお出ししたかったのですが…」

「っ錠剤にも出来るのか?それに美月さんってやっぱり……」

「はい、貴方と同じこの時代の存在ではありません。必ず真田幸村に会い、再びここに来てください!貴方に手伝って貰いたいことがあります!」

 

(やはり美月さんは戦国時代に生まれた人物では無いらしい。俺と同じこの先の歴史や文明を知っているようだ。そうなると…)

 

「最後に答えてほしい、貴女は人間…なのか?」

 

リックは美月に問いかける。松利や那岐とは違う、自分と同じ別の存在に感じたからだ。

そして、美月との出会いでリックはこの星について一つの仮説を考えた。

 

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「違います。でも皆と同じように人間として振る舞っていました。」

 

彼女はその一言だけを言い、それ以来黙り込んでしまった。

そして軍に置いて行かれない様に足早に美月に別れをする3人。

 

「治療してくれてありがとうございます!また必ずここに来ます!」

「りくさんを助けてくれて有難う!」

「ここら辺も最近物騒だから、あんたも気をつけろよ」

「…気をつけて」

 

美月は優しく微笑みながら3人を見送った。

 

「…これから軍と合流して、上手くお前を馬に乗せてもらうよう頼んでみる。その体でまたしばらく歩くのも辛いだろう。」

 

獣道を慎重に進みながらリックに作戦を伝える。

 

「…分かった」

(またここで無理して逃走してももう、小田原は……生き残る為にここは大人しく指示に従おう)

「りくさんは、一応人質でもあるから変に抵抗しなければ、酷い扱いはしないよ」

「…よし頃合いだな、行くぞ!」

「えっちょっと!うおあ!」

 

 

真田軍の目の前に崖から3人が駆け下りて来た。リックは那岐の背に掴まっていた。

 

「何者だ!?ん……?お前は那岐か。なんだ忍び風情が態々どうした」

 

軍を引き連れていた部隊長は勢いよく馬を止めた。どうやらこの武士と那岐は知り合いの様だった。

那岐はリックを降ろし、武士の前にリックを連れて行く。いつの間にかリックの両手と腹には縄が何重にも巻き付いていて拘束されていた。

 

「いやあ、こっちも幸村様のご命令で例の人物を捕まえてきたんですよ。でも、この人案外身体が弱くて、長く歩けないしおまけに怪我もしてるし…そういう事で、馬に乗せてあげてくれませんか?」

「ふん…幸村様の命令なら仕方ない。おい、荷台がまだ空いているだろう?そこにでも乗せておけ」

 

先ほどと打って変わって、ひょうきんに話す那岐。部隊長は少し悩みつつも、すんなりと那岐の要件を受け入れてくれた。

小田原城から奪ったのか上質な武器、骨董品を乗せていた荷台にリックは積まれた。

 

「じゃあな、死にたくなければ上手くやれよ」

「っ……ありがとう…」

 

そう那岐は呟くとさっさっと松利と共に部隊から離れ、茂みの中に消えていった。

どうして、礼なんか言ってしまったのかリック自身も分からなかった。

 

元はといえばこいつらが勝手に自分を誘拐して、小田原を攻め、もしかしたら瑠璃やカムイなど戦いに巻き込まれてしまったかもしれない。しかし、今更抵抗しても無残に殺されるだけだ。

でも、逆に松利や那岐が居たからこそ美月という恐らく重要人物にも出会えた。

憎しみと戸惑いと少しの感謝の気持ちで複雑な心境になった。

 

 

「よし、出発するぞ」

 

部隊長が軍に声を掛け、上田に向けて出発した。

 

 

疲れてしまったのか長い間寝てしまっていたリックは勢いよく起き上がる。

武士や足軽達の話声で目が覚めたのだった。約丸一日歩いたのだろうか、荷台に積まれた時と同じ晴れ渡る昼間だった。

 

「おうおう、やっとお目覚めか。中々起きないから死んでたらどうしようかと思ったぞ」

「もうすぐ上田に着くからな…今回もなんとか生きて帰って来れて良かった…」

「本当に綺麗な金の髪なんだな、触ってもいいか?」

 

リックが飛び起きて周りを見渡すと、話しかけてくる人や物珍しがってチラチラとリックの顔を見てくる人物など居た。

 

「あ、あの…もうすぐ上田に着くんですか?」

「ああ。もうすぐって言うか、もう着いてるぞ」

 

リックは自分に話しかけてくる武士に恐る恐る尋ねると、武士は顔を見上げた。

目の前には大きな門が見え、奥には城下町が見え、そして城が見えた。

 

「あれが上田城。幸村って人に会わないと…」

 

リックは城を見るなり自分の中で覚悟と決意を決めた。

 

 

次回につづく

説明
閲覧有難うございます。ついに第2章に移り変わりました!今後も様々な展開が起こります。なんとか自分が書きたかった作品に出来るよう努力するので応援お願いします!感想やアドバイス等ありましたら、宜しくお願いします。

2021/8/8 誤字脱字の為本文編集しました。
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