真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 73
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「も、申し上げます! 申し上げまぁああああああああす!」

「何事だ!」

 

 いつもの飛び込み兵にいつものように対応する。と、いつもであれば兵はそこで委縮してしまうのだが、今回は違った。

 

「え、え、袁術軍が国境を越え、我が国へ侵攻を始めましたぁあ!」

「何っ!?」

 

 この報告で全員に緊張が走る。

 

「宣戦布告は!?」

「いえ、そのような報告は届いておりません!」

「じゃあ、宣戦布告なしで突っ込んできたってことか!?」

 

 俺の問いに兵士は肯定を返した。

 

「はっ! 現在は国境の警備を突破し、猛烈な勢いで侵攻しております! このままでは州都に到達するのも時間の問題かと思われます!」

 

 その報告を聞いた北郷が号令をかける。

 

「星、愛紗、鈴々! すぐに迎撃準備を!」

「“御意!”“はっ!”“応なのだ!”」

「朱里、雛里は輜重隊の手配を。それと、最悪の場合を想定して籠城戦の準備も並行して。あと、他の諸侯に援軍を頼むのは可能?」

 

 その問いには雛里が答える。

 

「私は反対です……。下手をすれば袁紹さんたちに合流される可能性があります」

「そっか、その危険性もあるんだね……。くそっ」

 

 少し焦りを見せる北郷に声をかける。

 

「安心しろ。俺も出るし、連合の時に見ていたが大したやつらじゃない。俺らで十分対処できるさ」

「いいの?」

「当たり前だろうが。それに今は公孫賛の兵たちもいる負ける要素はないさ」

 

 そこへ朱里が注意点を加えてくる。

 

「確かに問題ないと思いますが、素早く収拾させなければ他の飢えた諸侯に狙われます。此度の戦は時間が肝要になります」

「つまり、さっさと終わらせて“俺たちには隙なんぞない”ってのを見せつけるってわけだな」

「その通りです……」

 

 雛里が続きを繋ぐ。

 

「諸侯は援軍を出さずに私たちの戦いを傍観するでしょう。私たちが負けた時の取り分を逃さないために」

「餓狼どもめ……」

 

 愛紗が吐き捨てるように呟く。が、

 

「……今の世じゃそんな行いに戸惑いを覚える奴らから喰われていくんだ。致し方ないところもある」

「……それは」

 

 言葉に詰まる愛紗に公孫賛が首を振りながら口を開いた。

 

「気持ちは分かるが、それが乱世ってやつさ」

 

 そんな公孫賛へ鈴々が一言。

 

「白蓮お姉ぇちゃんが言うと説得力があるのだ」

「うぐ、確かにな……」

 

 再び項垂れる公孫賛。だが、桃香がその肩に手を置いて力強く話しかける。

 

「大丈夫っ! 私たちは絶対に袁術さんに何か負けないよっ!」

 

 その桃香の言葉で皆に気合が入る。

 

「よし、その意気で行こうっ! 皆、出陣準備よろしく!」

「“応っ!”」

 

 こうして、それぞれ自分の部署へと向かっていく。

 

 俺は雪華を桃香と一緒にいさせようと声をかける。

 

「雪華、お前は桃香と一緒に後方へ、」

「わたしも、玄輝と行くっ!」

「なっ!」

 

 予想もしていなかった答えに思わず驚く。

 

「馬鹿言うなっ! いくら鍛錬しているとはいえ戦場に出るのは早すぎる!」

「でも、私も戦わなきゃいけないんでしょっ!?」

「そうにしてもまだその時じゃない!」

「その時っていつ!?」

「それは……」

「玄輝、この戦いが終わったら行っちゃうんでしょ? だったらその時はいつ来るの!?」

 

 確かに、雪華の言う通りではある。だが、かといって……

 

(……いや、いつかは知らねばならんことか)

 

 ここは、雪華の意思をできるだけ尊重すべきだ。

 

「……分かった。ただし、黄仁と常に一緒にいろ」

「…………わかった」

「じゃあ、部屋に行ってお前の鎖帷子を用意して来い」

 

 言われたとおりに部屋へ向かう雪華を見送ってから今後の事を考える。

 

(とりあえず、黄仁には別動隊として全体の真ん中に入るように指示しておこう。あとは朱里や雛里を説き伏せる方法か)

 

それが一番、骨が折れそうだなぁ、と思いつつもやると決めた以上はやらねばならん。

 

(む?)

 

 なんだろう、今一瞬セキトの顔が浮かんだ。

 

(……あの布、持ってくか)

 

 俺は部屋に大切に置いてある布を取りだすために雪華の後を追うように部屋へ向かった。

 

 確保した俺は雪華の支度を手伝い、準備をしている武将たちと合流し城を発った。

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袁術たちが攻め入ってから数日が経ち、俺たちは接敵の緊張感に包まれながら進軍を続けていた。

 

「朱里、こっちの状況はどんな感じ?」

 

 北郷に尋ねられた朱里は周りを見てから報告する。

 

「我が軍の兵力と白蓮さんの兵を加えてようやく形を整えられた……と言ったところでしょうか」

 

 しかし、そこで懸念事項があるようで眉根が寄る。

 

「それに対し、袁術さんの兵力はかなりの規模で、中には正体不明の部隊もいるようです」

「正体不明? まさか」

「いえ、白装束の一団ではないようです」

「そうか……」

 

 ここで俺は一安心してしまうが、全体から見れば安心できない情報だ。

 

「で、その正体不明の部隊ってのはどんな部隊なんだ?」

「斥候さんが言うには、その部隊だけ兵の練度が段違いで高いそうです。……でも、誰が率いているかは見当が付かないと……」

 

 その雛里の報告に武将たちの気がより一層引き締まる。

 

「謎の部隊、か。どうにも嫌な予感がする」

 

 愛紗の一言に星が頷き、自身の考えを述べる。

 

「練度が違うという事はそれだけ優秀な将がいるという事だろう」

 

 だが、そこで俺は疑問が浮かぶ。

 

「……連合軍の時にそんな優秀な奴いたか?」

 

 たしか、傍にずっといた短髪の女ぐらいしか目立つ将はいなかったような気がする。と言っても、そいつの名前も忘れたが。

 

「袁術さんのところにいる主だった将といえば張勲さんですが、報告に上がるほどの練度には仕上げられないような気がします」

 

 ああ、そうそう。そんな名前だった。朱里のその言葉に名前を思い出す。

 

「なら、張勲でないとすりゃ、いったい誰だ?」

「可能性としては、客将という扱いで袁術さんに保護されている孫策さんかもしれません」

「孫策かぁ……」

 

 しかし、それに対して俺は再び疑問を抱く。

 

「孫策がここまで出張るか?」

 

 確かに連合の時には袁術に従っているようには見えたが、正直“あぁ、こりゃ扱いきれてないな”という感じがビンビンしてたのだが……

 

「まぁ、なんにせよ孫策云々は置いておこうよ。影に怯えたところで消える訳じゃないしさ」

「それもそうだな」

 

 北郷の言う通りだ。怯えたところで状況が好転することはない。

 

「お兄ちゃんたちの言う通りなのだ! 今は袁術をケッチョンケチョンにする方法を考えるのだ!」

星がそれに同意する。

「うむ、いかにも。そうなると我が方より多い敵の軍勢をいかにして撃退するかになるが……」

「やはり策が必要だろう」

 

 愛紗がそう返し、雛里の方へ向き直る。

 

「雛里、敵との会敵予想地点はどのあたりだ?」

「そうですね、おそらくここより東方の東海地方曲陽周辺かと」

 

 その予想に驚いたのは桃香だ。

 

「曲陽って、確か張角さんが討ち取られた場所だよね? あそこってすごく東の方だったはずだけど、なんでそんなところから来たんだろ?」

 

 確かに、言われればその通りだ。

 

「奇襲のためじゃないか? 俺たちの城の裏口だし」

「それならまだわかるのですが……」

 

 俺の意見に朱里がまたも眉根にしわを寄せる。

 

「それにしたって遠すぎると思うんです。現に、私たちに気が付かれて失敗しているわけですし」

「となると、他の意図があるってことか」

「ぬぅ……動きが読めないなぁ……」

 

 どうやらこれは北郷だけでなく、全員の意見の様だ。

 

「なんにせよ、策がなければ出来ない動きです。用心をすべきかと」

「そうだね。斥候の数を増やして、もっと密度の濃い情報を集められるようにしておいて」「御意です♪」

 

 朱里が返事を返したところで、桃香が決まった方針を口にする。

 

「じゃあ、素早く情報を手に入れて、素早く敵と対峙して、素早くやっつけちゃおう! ってことだね♪」

 

 言葉にすればまぁ、その通りなんだが。

 

「相変わらずなんというか」

「ノーテンキなのだ♪」

 

 その言葉に笑いが起きるが、北郷が咳ばらいを一つ。

 

「ゴホンっ、まぁ、桃香が言ってることは正論だ。さっさとケリをつけてしまおう」

「じゃ、方針も決まったところで曲陽に向けて進軍開始ぃー♪」

 

 鈴々ではないがなんとも気の抜けた号令で俺たちは進軍することとなった。

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〜袁術の陣〜

 

「……来る」

「恋殿? 何が来るのですかー?」

「……敵」

「なんですとぉ!?」

「……準備、して」

「はいなのですっ!」

 

 恋、と呼ばれた少女の指示で小柄な少女がパタパタと通達するために走り去っていく。

 

「……?」

 

 その背を見送った後、彼女の鼻に嗅ぎなれた匂いが入ってきた気がした。

 

「…………セキト?」

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

さて、袁術に攻め込まれる北郷たち。となると相手は……

 

と、いったところでまた次回なお話ですが、ここらで身近な話へ移らせていただきます。

 

ここ二日は気温が下がって、少し落ち着いたような気がしますが、果たしてこのまま素直に”秋”が来るのかが心配な作者です。

 

いや、だってここ数年秋ありました? 春夏、秋飛んで冬じゃありません? 正直、”あれ? 秋ってどんな感じだったっけ?”って本気で悩んでことも無きにしも非ずです。

 

いいかげん、この気温どうにかならないもんですかね? と、言ったところでどうしようもないので、おとなしく今年は秋が来るように祈ります……

 

さて、身近な話はここぐらいにして、また次回お会いしましょう。

 

誤字脱字等ありましたら、コメントの方にお願いいたします。

 

では、秋が来ることを祈って!

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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鬼子 蜀√ 真・恋姫†無双 

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