艦隊 真・恋姫無双 147話目 《北郷 回想編 その12》
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【 拠点 の件 】

 

? 南方海域 元海軍拠点 にて ?

 

 

先程まで見えた月が雲に隠れ、辺りは闇により視界が阻まれてよく見えない。 ただ、波が砂浜に打ち掛かる潮騒の音、強く鼻腔を刺激する塩の香りで、場所は砂浜だと分かる。

 

この場所は、深海棲艦に対する橋頭堡として頑強に造成された元海軍の拠点跡。 かの三本橋と腰巾着達が一緒になり、北郷一刀を散々痛め付けた、あの建物があった島である。

 

その場所も、先の南方棲戦姫の襲撃により、既に廃墟と化し、皮肉にも敵である深海棲艦達が泊まる、重要拠点と成り変わていた。

 

 

『──◯◆■!!』

 

『報告! 敵援軍ヲ発見! 確認出来タ……敵艦……四隻!』

 

『───▲◇○▲!!』

 

『報告。 味方損害……二割ヲ……越エタ……ト』

 

 

そんな場所より少し離れた波打ち際での砂浜に、暗き海面から顔を出し、急いて戦況報告を語る駆逐イ級。

 

彼らは、三本橋達の監視と連絡、更に戦場の情報収集という大役を任されていたモノ達であり、何かあった場合は、直ぐに報告をよこすように義務付けられている。

 

そして、駆逐イ級の報告を真摯に聞き取り、誤報が無いよう正確に伝達するのは、戦艦タ級と戦艦ル級。 

 

因みに書記役は、陸に上がった潜水艦ソ級である。

 

 

『援軍ハ……アノ小娘ノ情報デ……予測済ミ。 ダケド……被害ガ……想定範囲ヲ……大分越エテイルワ。 何カ……他ノ外因ガ無イカ……疾クト調ベサセナサイ!』

 

『『 ────ハッ!! 』』

 

 

これらの集まった情報に更なる精査を要求するは、ここの海域エリアのボス、南方棲戦姫。 

 

拠点に残っていた椅子へ深く座って足を組み、顎に手を添えて、ボスとしての風格を漂わせながらも、一刀率いる艦隊の攻略を思案していた。

 

今度の作戦は、三本橋が率いる艦隊で敵艦隊(一刀側)を捕捉、暫し足止めした後、南方棲戦姫率いる艦隊が後方より強襲し、前後で挟み撃ちして敵艦隊を壊滅させる。

 

俗に言う、啄木鳥戦法である。

 

だが、緊急連絡で《 別の援軍が現れた 》と連絡が入ってから、三本橋から新たな連絡が入らない。

 

そのため、駆逐イ級を多数向かわせた結果、このように多数の報告が上がるのは必然であった。

 

 

◆◇◆

 

【 聖典 の件 】

 

? 南方海域 元海軍拠点 にて ?

 

 

『……海上ヲ走破シ……深海棲艦ヲ撃破スル……人間ガ……大勢……イタ? 私達ヲ相手ニ……ソコマデ……??』

 

『ハイ……複数ノ駆逐イ級ニ問イ……断片的ナ内容ヲ……合ワセタ……結果………デ……』

 

 

困惑する南方棲戦姫に対し、報告した戦艦タ級さえも歯切れが悪い。 まあ、喋り方が元より同じだから、変わりが分からないかも知れないが、当艦も困っているのは間違いない。

 

 

三本橋が報告を遅滞させる要因が………

 

『大昔の軍勢が現れ、我が艦隊を強襲している』

 

………となれば、誰が信じるだろうか?

 

 

だが、駆逐イ級の報告は、更に詳細であった。

 

 

───海の上を補助無しで、生身の人間が疾走する。

 

───相手は一人二人ではなく、明らかに大人数。 

 

───装備は、古代中華の鎧兜を着用?

 

───手にした武器も槍、剣、弓が主。 どれもが、通常の武器にしか見えない。 

 

 

そんな旧式装備の人間達が、海上を自由自在に走破し、艦娘に勝るとも劣らない働きをしているという謎判定。

 

南方棲戦姫でなくても、頭を抱えるのは無理もない。

 

 

更に───

 

 

『………アト……断片的デスガ……ソノ者達ハ……呼ビ掛ケル時ニ……ギ、ゴ、ショク……ト……叫ンデイタトモ……』

 

『……………………』

 

『コレハ……人間達ガ使用スル……何カシラノ……符号ダト思ワレマスガ……詳細ハワカラズ……申シ訳………』

 

 

この言葉を聞いて、南方棲戦姫の頭に浮かぶのは、魏、呉、蜀。 

 

即ち……天の御遣いが現れたという国名。

 

御遣いの件を初めて聞かされた時は鼻で笑ったが、三本橋の説明、そしてかの聖典《 江◯三国志 》で知った今は……違う。 

 

身に纏う物しかないまま地に降り立ち、その膨大な力を顕現して大陸を救済したという、英雄と呼ばれし人物。

 

深海棲艦の中で極秘に語られた、人類殲滅における最大の強敵にして、最後の障害であろうと目された人間。

 

そして、寝台上で圧倒的な力、数々の壮絶なる技を持って余多の女を虜にし、特に魏国から畏怖され《 種馬 》の二つ名を授けられたという、寝台の支配者。

 

 

それが………実在するのだと、急激に目の色を変えた!

 

 

『────コレガ……天ノ御遣イ……ノ……ッ!?』

 

『────ッ!?』

 

 

一瞬、ほんの一瞬だが、南方棲戦姫の戦力が急に上がるのを感じ、戦艦タ級は思わず恐怖を感じ取り、主砲を彼女の方へ回そうとしたが、その直前にして動作を押し止める。

 

かの南方棲戦姫も自分が興奮した為に、戦艦タ級が恐怖したのが表情で分かり、慌てて呼吸を繰り返し冷静さを保つ。 

 

 

『ハッハッフー! ハッハッフー! ヨシ……!』

 

『…………………』

 

 

そんな双方の努力の末、暴発は塞がれたが……その原因を知りたがるのは、実に当然の心情なのであるが。

 

 

『イヤ……何デモ……ナイ。 何デモナイデ……ゴザル………』

 

『……………………』

 

 

こうも明白(あからさま)に挙動不審な南方棲戦姫であり、それを見た戦艦タ級は、敢えて押し黙った。 

 

そもそも、今の南方棲戦姫は……深海棲艦の間で話題が持ちきりの、超有名な深海棲艦だ。 

 

南方棲戦姫が持ち帰った聖典は、深海棲艦達の間で急速に興味を持たれ、幅広い深海棲艦達へ急速に拡散している、こう言っても過言ではない。

 

深海棲艦の大半が女性型が多いので、この結果は当然とも言えるのだが、そもそも腐の文化がない深海棲艦にとって、この刺激は麻薬にも等しいものであったらしい。

 

そのため、この海域の深海棲艦同士が出会すと、挨拶もそこそこに受け攻めの口論。  そこからカップリングに移行してからの舌戦までが、日常の風物詩となった。

 

中には、《 この聖典を理解しなければ、深海棲艦にあらず 》と、公言を憚らぬ輩までも出てくる始末。

 

まあ、兎に角、今の南方棲戦姫は、深海棲艦達に《 先覚者 》とまで称され、強固な一大勢力を築く勢いである。 

 

だから、そんな彼女の機嫌を損ねる愚かさを、戦艦タ級は弁えていたからでもあった。

 

 

────たが、南方棲戦姫が持ち込んだ物の影響は、それだけではない。

 

中には人間に興味を持ち、積極的な交流をしようと志す革新的な輩も現れた。 その深海棲艦は人との垣根を越えて、両者が交流するまでに至るのだが、その話は別の機会に。

 

 

『………………作戦ハ変更。 相手ハ……未知ナル者ユエ……アノ小娘ニ先ズ当テサテ……様子ヲ見マス……』

 

『………心得マシタ……』

 

 

変な空気になった南方棲戦姫と戦艦タ級だが、取り敢えず南方棲戦姫が取り繕い、何時もと変わりない状況となり、必要事項をやり取りした後、会話を終えた。

 

戦艦タ級は、仕事の相方である戦艦ル級の下へ急ごうと、軽く挨拶して動こうとした。 大事な報告だったので、彼女自身が伝えに行ったので、後の仕事は全部丸投げ状態。 

 

まさか、ここまで長くなるとは思わず、戦艦ル級の困り顔を思い浮かべて、どう謝罪しよかと考えながら。

 

だが、背後より唐突に南方棲戦姫から肩を叩かれ、意味有りげな笑顔を向けられながら、『身体ヲ労ルヨウニシナサイ』と優しく声を掛けられた。

 

これは、後に知ることになるが、あの風潮の中で興味を示さず、しかも先程の行動にも動じなかった戦艦タ級は、南方棲戦姫より見所があると認められたらしい。

 

この後、幾度かの戦場を経験して、戦艦タ級は南方棲戦姫の副官となり、上官に対しても容赦なく突っ込みするという稀有な存在になるが、この話も……別の機会に。

 

 

◆◇◆

 

 

【 対峙 の件 】

 

? 南方海域 深海棲艦側 にて ?

 

 

──時間は少し戻り、一刀達艦隊が深海棲艦と会敵する頃。

 

 

少し離れた場所より、少数の深海棲艦を護衛に従え、少し興奮気味の戦艦レ級と共に、戦場を視察する三本橋。 

 

南方棲戦姫の軍門へと下った彼女は、早速その忠義を示すため、借り受けた艦隊を指揮し、元味方である一刀達の艦隊に攻撃を仕掛けようと進めていた。

 

そして、一刀達が来る航路に深海棲艦達を配置し、準備を終わらせた後、この特等席で待ち、一刀達の艦隊が敗れる情けない姿を嘲笑うつもりで、今か今かと待っていたのだ。

 

 

『───来タカ』

 

『……………………』

 

 

そして、少し経って………待ち人達は訪れた。

 

 

傷付き、息も絶え絶えの艦娘達が、各々の仲間達を支えながら、ゆっくりと先へ進む。 既に艤装もボロボロで、曲がった箇所、破損した箇所は枚挙に枚挙に暇がない程だ。

 

だが、そんな彼女達が、進む度に気遣う箇所がある。

 

その艦隊で、特に破損が酷く、いつ浸水して沈没するか分からない漁船が一隻、艦娘達の中央へと配置され、物々しい警備態勢を取りつつも一緒に移動している。

 

これが、この艦隊の提督である、北郷一刀が乗船する船であるのは、たとえ報告が無くても、実際に指揮して投げ込まさせた三本橋にとって、よく記憶していた船と一致していた。

 

 

『大方ノ予想通リ……ダッタネ……一刀君。 君ガ……僕ノ誘イヲ……受ケイレバ……コンナ事ニハ……ナラナカッタノニ……』

 

 

この有り様を見て、三本橋は確信。

 

何度も、何度も、南方棲戦姫からの追撃を受け、此処まで逃げ延びてきた一刀達艦隊だが、この海路では補給も休息も取れない。 既に、身体も精神も限界の筈だ。

 

敵艦隊の艦娘も練度の低い者ばかり、しかも最初の頃より数が減り、今は二十隻居るか居ないか。 しかも、既に戦闘など出来そうもない、殆んど死に体となった者ばかり。

 

それに比べて此方の状況は、駆逐艦が主の艦隊ばかりだが、全て無傷、補給も済ませている艦ばかり。

 

しかも、その数……凡そ六千隻。 

 

正に数の暴力。 どう足掻いたとしても、三本橋の勝利は定まりつつあった。 と言うか、勝利は目前。 

 

どこかの一航戦の台詞ではないが、鎧袖一触と言っていいほどだ。

 

 

『………圧倒的……ジャナイカ………我ガ軍ハ………』

 

『………ナーニ、ソレェ?』

 

『フフフ……生涯デ………一度ハ言ッテミタイ……言葉ダヨ……』

 

 

後、懸念するのは………帝国海軍からの援軍。

 

 

『父ノコトダカラ……必ズ援軍ヲ……送ッテクルヨ。 デモ……ソレサエモ……僕ノ手柄ニ……変エサテテ貰ケドネ』

 

『………ソレッテ……強イ?』

 

『ンン………レ級ニハ……物足リナイカモ。 デモ……艦隊ダッタラ……結構ヤルカナ?』

 

 

ここでも三本橋は、援軍の対応を自分の作戦にと、既に組み込ませていた。

 

援軍が早急に現れれば、戦艦レ級に相手をして貰い時間稼ぎ。 そして、後続で駆けつける南方棲戦姫と共に一刀達を撃破し、後は返し刃で援軍を迎え撃てば、簡単に楽勝。

 

海軍に居た時、才女と鳴らした三本橋にとって、状況を冷静に観察すれば、この戦いはゲームのチュートリアルに匹敵するぐらい、余裕を持って攻略できた戦だったのだ。

 

 

だが……天は……御遣いの味方だった。

 

 

『…………アレ? 何カ……聞コエル……』

 

『…………エッ?』

 

 

そんな圧倒的な勝利を予測していた三本橋だったが、突如、海上に現れた者達により、その安楽な考えを阻まれてしまう結果となる。

 

 

『三国の将兵達よ! 大恩ある、天の御遣いが緊急存亡の時! 彼の者に、恩を、義を、借りを返そうと思う者は、この場に顕現せよ!』

 

 

 

『─────!?』

 

『………………………』

 

 

三本橋は………十分過ぎる程に理解していた。

 

自分を思い切り溺愛する父なら、公の権力だろうが全力全開にして、自分を救おうと手を差し伸べるだろうと。

 

だから、自分達に対抗してくる援軍の艦隊は、父の元帥が率いる元帥直属艦隊であると。

 

しかし、その予想は斜め上に天元突破として、趣味で読んでいた江◯三国志の世界に突入したような、摩訶不思議な現象を三本橋達に見せ付けた。

 

 

『……ハ……ハハハ……ドウ見テモ……アレ……鶴翼ノ陣形……ジャン。 ソレニ……何ダヨ……アノ軍勢? 本当ニ……何ナンナンダイ? 僕ノ頭………ドウ……ナッテシマッタンダイ……?』

 

『…………アレッテ……凄イ!? ………強イ!?』

 

 

天上から威厳溢れる声は、朗々と命じるように呼び掛けると、その命令に応じるかの如く、暗闇の海上から幾十、幾百の者達が集結し、定められたかのように陣形を組み出した。

 

余りの見事さに見惚れて、三本橋は突撃の命令を出す事を忘れる失策を犯すが、深海棲艦達は本能的に突き進み、命令を受ける前に謎の軍勢へと攻撃を開始した。

 

 

 

─────ッ!!

 

 

 

その様子を待っていたかの如く、同時に軍勢からも戦闘開始の合図である銅鑼が叩かれ、広大な海上に大きく響き渡る。

 

合図を聞いた各々の定まった色の兵士達が、矛、槍、剣を掲げて進軍を始めて、迎撃態勢に入った。

 

 

『─────!!』

 

『…………………!!』

 

 

───双方は程なくして激突し、互いが有利な状況を作りだそうと、持てる手段を使って攻撃を仕掛ける。

 

しかし、相手は人類より強大な力を持つ深海棲艦。 

 

通常の近代兵器では役に立たず、艦娘しか対抗できないのが常識だ。 そのため、第三者の目からすれば、この戦闘自体、兵士の方が天と地ほども分が悪いのは明らかだった。

 

だが、その兵士達は、襲い掛かる深海棲艦たちを相手取り、此処を先途と言わんばかりに雄叫びを上げ、一心不乱の猛撃を繰り出し、一隻も通さんとばかりに奮戦した。

 

無論、体躯の差、長短の間合い、武器の性能で、多数の兵士が上空へ消し飛び、または物理的に潰され、または爆発で粉々と化したりと、その最後は無残な者が多かった。

 

されど、どの兵士も最後まで退かず、諦めず、躊躇せずに戦い、倒れれば次の兵士が後を継ぎ、果敢に立ち向かう。

 

そして、軍隊蟻の群れの如く殺到し、確実に狙った相手を仕留め、次の標的に狙いを定めて行動する。

 

正に《 俺の屍を越えて行け! 》と言わんばかりの人海戦術。

 

だが、そんな泥臭い戦いの中で、つい目を引き寄せられる華ある武人が居るのを、三本橋は見逃さなかった。

 

 

『武人の誇りにかけ! ご主人様の前で、負けるわけにはいかぬ!! 皆も奮起せよ!!』

 

 

しなやかな黒髪を靡かせ、青く煌めく青龍偃月刀を振り回し、下級の深海棲艦を重き一撃で断割る美少女。 その少女の活躍により、後ろに居た兵士達の動きに勢いが増す。

 

 

『にゃあぁぁぁっ!! みんなぁぁぁ! お兄ちゃんの為にも負けるなぁ!! 粉砕突撃勝利なのだぁ!!』

 

 

身長に合わない蛇矛を振り回し、大声で兵士達を激励しつつ、自ら突撃し敵を粉砕しては勝利を重ねる幼き少女。

 

 

『なかなか筋は良さそうだけど、それだけじゃ私に勝てないわよ。 もう一度、あの世に戻って出直してらっしゃい!』

 

 

どこか陽気そうだが、一度相手をすれば過激なまでに相手を叩き切る、どことなく猛虎の特性を感じる活発な美女。 敵を倒した後、唇を舐める仕草は何処と無く妖艶さを感じる。

 

 

『如何に疾風の如く飛び回っても、その狙いが分かれば対処など容易いもの! 我が神弓の餌食となれっ!!』

 

 

中央部で飛びまくる艦載機に、冷静な態度で狙いを定めては悉く射落す、神弓と自称するに相応しい腕前を持つ麗人。

 

 

他にも、一騎当千の武人らしき女性が何人も姿を現し、味方の深海棲艦を何隻も轟沈させていく。 

 

多分、あれが将軍位の者だと見当をつけるが、どの女性も鎧兜を殆んど着けず、普段着に近い装備品なのに、かすり傷一つ付く様子がない。

 

 

こんな余りの想定外な敵方の援軍、そして活躍に、つい我を忘れて呆然とする三本橋。 

 

そして、三本橋とは対照的に、新しき玩具を見つけた子供のように目を輝かせ、かの武人達を見つめる戦艦レ級の姿が、この戦場の異常さを物語っているのであった。

 

 

 

◆◇◆

 

【 分岐 の件 】

 

? ??海域 南方棲戦姫 回想 にて ?

 

 

 

───南方棲戦姫の躍進が始まったのは、約一年前のこと。

 

 

南方棲戦姫の海域エリアより少し遠くにあった別の海域エリアから、《海域ボスである港湾棲姫が謎の失踪を遂げた》という報告がもたらされてからだ。

 

別に仲が良いから報告が入った訳では無い。 

 

他の海域にも情報が送られているのだが、一番早く情報を受け取り行動を起こしたのが、この南方棲戦姫だった。 

 

それに、南方棲戦姫は……港湾棲姫を嫌っていた。 

仲間と思われるのに嫌悪感を抱くほど、嫌い抜いていたからだ。

 

 

その理由として……まず、最初に挙げねばならないのが、南方棲戦姫との対照的な存在。

 

初め、南方棲鬼と生を受けた彼女は、自分の力を過信し、挑発的な態度、刺激的な服装で、艦娘達と死闘を繰り返した。

 

彼女の頭に過る幾つかの記憶の欠片。 南方棲鬼となる前の彼女が見た、あの時、あの場所、あの絶望視する光景を。

 

 

───雲霞の如く迫る艦上機、雨霰のように落ちる爆弾。

 

───巨大な肱(かいな)で狙うが、当たること叶わず。

 

───万策尽き、海面下へ身を沈める……僚艦達。

 

───そして、閃光と共に見えた、最後の──

 

 

彼女の中に滾る怒りの焔は、その光景を思い起こす度に身を焼き焦がし、前へ前へと歩を進ませる。 幾ら勝利しても、あの幻の戦いでの勝敗は……変わらぬままなのに。

 

その戦果により、南方棲戦鬼と昇格するのだが、彼女の態度は変わらない。 生死を無視した彼女の戦い振りは、正に鬼であり、修羅でもあった。

 

そして、ついに南方棲戦姫として、鬼級より上位種である姫級に至る。 だが、彼女の怒りは収まらないままに。

 

そんな彼女の海域エリア近辺に、新しい海域エリアが誕生する。 彼女や他の深海棲艦達の不断の努力により、人類から奪取した、新しき海域エリアだった。

 

そして、その海域エリア内にエリアボスが入ったのだが、そのボスが何かとつき癪に障るのだ。

 

 

例えば………

 

 

★)『何ドデモ……何ドデモ! 私ト同ジ………暗キ冷タイ……水底へ! 落チテイクガ……イイ……!!』

 

 

海域エリア内に入る艦娘には、全く容赦ない洗礼を浴びせている南方棲戦姫。

 

 

☆)『来ルナ……ト……言ッテイル……ノニ……! 危ナイ……カラ……早ク……!! ダ、ダカラ……ダメ………!!』

 

 

南方棲戦姫と比べ余りにも温厚な港湾棲姫は、艦娘に対し注意喚起をして追い返すだけ。

 

これがで、南方棲戦姫にとっては、気に食わなかった。

 

勿論、配下である深海棲艦達には、通常通り艦娘達を攻撃して轟沈もさせていたので、多くの深海棲艦としては余り問題にしていなかったのだが。

 

他にも、古参の自分よりも人気だとか、胸部装甲の差とか、色々とあるのだが……切りがないので捨て置く。

 

 

まあ、早い話が、叩き上げの彼女からして、港湾棲姫のお嬢様然が許せない。 自分の苦しみさえも知らず、のうのうと過ごす……その幸せそうな態度に。

 

 

そんな港湾棲姫の唐突なる失踪に、南方棲戦姫は自分の勢力拡大の為、港湾棲姫の海域エリアを取り込んだ。 

 

他の海域エリア内のボスも距離的な問題もあったが、支配する管理等の複雑さに嫌気を覚えていたので、すんなり吸収する事ができたのは、実に僥倖であった。

 

そんな文字通り水面下のやり取りを、門外漢の人類が知るわけもなく、元港湾棲姫の縄張り近辺に砦が建設され、艦娘が艦娘を攻撃し練度を上げるという馬鹿げた事を始め出した。

 

ここのエリアボスが、比較的温厚である事を今になって知り、ここを深海棲艦対策の練度を上げる、訓練場にした訳である。 無論、海域エリアボスの南方棲戦姫に無断で、だ。

 

だが、いつしか正義の名に隠された悲惨な実験場となり、数多くの艦娘達が、恨みを抱き哀しみながら轟沈した、忌まわしき場所と化した。

 

当然、轟沈された艦娘に怨嗟は満ち、復讐の概念に取り込まれて、最後は深海棲艦化。

 

海底で見上げた南方棲戦姫は、この一連の有り様を狂喜と愉悦を持って見守る。 如何なる邪魔者が入らないように、自分自身が手間暇を掛けて、万全に、と。

 

何故ならば、これは南方棲戦姫にとって、とても楽しめる唯一の娯楽だった。

 

人間達の滑稽さを嘲笑い、艦娘達の絶望する様子を楽しみ、轟沈後には勝手に自分の駒として参入させるという、三度も美味める、至極の娯楽だったのだから。

 

 

だが、今回は───違った。

 

愚かな人間同士の仲間割れが起こり、艦娘を擁護する者が粛清。 余りの馬鹿さ加減に珍しく南方棲戦姫も興に乗り、偶々出会った戦艦レ級共々、首謀者達を褒美に可愛がる。

 

更に、粛清されたと思った人間は、配下と思える艦娘達の手助けを受け、一緒に連れて来た有象無象の艦娘達と逃走。 

 

毛色の異なる人間と弱小艦隊に、ほんの戯れ程度と考え手を出したのが、南方棲戦姫の………凋落の始まりだった。

 

 

説明
きりが良いところまで書こうとしましたら、長くなったので分けました。後半はもう少し書いて、一週間以内には出そうかと。
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艦隊これくしょん 真・恋姫†無双 

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