小説「深海の天秤」一章 ファーストインパクトの挿絵D
説明
「落谷さんッ。今の今まで何していたんですかッ?!」

「何って…今回の事件の捜査に決まってるじゃん」

 腹立つほどキョトンとした顔で返してくる落谷。今度は小野塚の左拳も震えだす。

「捜査といいますが、一通り現場と被害者を見た後、すぐにいなくなったじゃないですかッ」

 そう、落谷が現場にいたのは十五分程度だ。
 それも小野塚含め六人ほどの一課の刑事が初動捜査にいたが、仲間たちの事件の見立てには加わらず、被害者の身体中にある無数の外傷を一点一点確認していた。
 本当に、被害者は酷い有り様だった…。
 ほとんどが酷い打撲痕。顔は赤紫に腫れあがり、打撲から裂傷したところから血が滲んでいる。たぶん泥だらけの服の下も骨が折れていたりと、酷いことになっているだろう。
 だが最終的な死因はその後の検視によると、まるで鎌のような鋭利な刃物で、右脇を引っかけるように太い動脈を切り裂いたことによる大量出血だった。
 「変わった刺傷だな。まあでも財布が無くなっているし、複数で揉み合った形跡もある。たぶん集団で物取りをして、被害者をリンチしたあげく刺し殺した…ってとこだろう」と、落谷の後ろに立っていたベテラン刑事の一人が言った。小野塚もそれに同意見だ。
 でも落谷は返事をしなかった。そして、そこからフラ〜ァといなくなったと思ったら、その後一度だけ、現場付近の立ち入り規制を掛けている初老の地域警察官とくっちゃべっているところを見かけただけで、今の今まで落谷の姿を見ることはなかった…。
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