英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜
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久しぶりの故郷を歩いて見て回っていたリィンは眺めのいい場所で景色を見ているクルトに近づいた。

 

〜ユミル〜

 

「本当にいい景色ですね。」

リィンが自分に近づくとクルトは感想を口にした。

「ああ、俺も何年も見てきたが一向に飽きないな。雪が完全に溶ければこの景色も見納めにはなるが。」

「ですが、それはそれでまた別の趣きがありそうですね。」

「よくわかっているじゃないか。いつでも歓迎するから、また別の季節にも来るといい。」

クルトの推測を聞いたリィンは口元に笑みを浮かべて同意した。

 

「ええ、ぜひ機会があれば。リィン少将は、この辺りで”八葉一刀流”の修行を?」

「ユン老師に鍛えてもらったのはもっと山奥の方だ。一ヶ月ほど、自然と共に生活しながら集中的に稽古をつけてもらったな。」

「山籠り……アルゼイド流にも似たような修行法があるそうですが。東方では、割と一般的な修行法なんでしょうか?」

「確かに東方武術には、自然との一体化に重きを置く側面もあるが……あれは多分、ユン老師独自の教え方だろう。食糧と寝床の確保も大変だったが、時にはわざと魔獣をけしかけられたりもして……今思えば、無茶なことも結構やったな。」

クルトの疑問に対して考え込みながら答えたリィンは当時の自分を思い返して苦笑した。

 

「リィン少将が自覚するくらいなら、相当無茶なことだったんですね。」

「何なんだ、その基準は……」

笑顔を浮かべたクルトの指摘に対して冷や汗をかいたリィンは気まずそうな表情を浮かべた。

「はは、すみません。山籠りか……僕もやってみようかな……」

「クルト……その、何か焦っていないか?」

「そんなことは……いえ、仰る通りかもしれません。」

リィンの指摘に対して一瞬否定したクルトだったがすぐに考え直して肯定した。

 

「よかったら、話してみないか?」

「……そうですね。男爵夫妻と挨拶している時に改めて感じたことなんですが……皇女殿下が出会った頃に比べて本当に大きく成長しました。皇女殿下だけじゃありません。アルティナやミュゼ、エリスさんも……灰獅子隊―――いえ、リィン隊に所属してから僅かな期間で、それぞれ目覚ましい変化を遂げたように感じます。ですがその中で、僕だけがあまり成長できていない気がして。日々の鍛錬は欠かしていませんし、”戦場の洗礼”も乗り越えたことで”本物の戦場”も平常心で挑み続けられるようになりましたから、それなりに手応えもありはするんですが……」

「……………………そう感じるのはクルトが優秀だからだろうな。」

「というと……」

リィンの指摘を聞いたクルトは不思議そうな表情を浮かべて続きを促した。

「単純な話さ、クルトは優秀だからこそ周りよりも基準点そのものが高いんだ。それでもなお、更なる成長を示すということ……それが人一倍、大変であることは当然だろう。」

「ですが……それだと僕の才能が既に頭打ちとも言える気が……」

「はっきり言っておくが、それは違う。そこから先に進むには確かに難しいが、クルトは既にその壁を乗り越えたはずだ。俺達と挑んだ数々の”本物の戦場”による実戦に、それらを成果として確かめる事ができたノーザンブリアでの西風の旅団の破壊獣(ベヒモス)との一戦や黒の工房の本拠地でのオズボーン宰相との一戦……その後の戦いを考えても、クルトは決して歩みを止めていない。そのことに気づけていないのは他でもない、君自身くらいだろうな。」

「…………」

「クルトの成長は、誰よりも上官である俺が把握している。とにかく自信を持てってことだ。」

「リィン少将……」

リィンの言葉を聞いたクルトは驚きの表情でリィンを見つめた。

 

「勿論、現状で満足してもらっても困るけどな。」

「……フフ、当然です。元よりリィン少将もそうですが、フォルデさんを超えるまで、気を抜くつもりはありません。」

「はは、フォルデ先輩はともかく俺はもっと精進しないとな。――――――そうだ、ちょうどいい機会だからクルトに会わせたい人物がいるのだが……少しだけ俺に付き合ってもらってもいいか?」

「リィン少将が僕に紹介したい人物ですか?ええ、いいですよ。」

リィンの提案を聞いたクルトは一瞬不思議そうな表情を浮かべたがすぐに了承の答えを口にした。その後リィンは自身のエニグマで誰かと通信をした後クルトと共に郷の傍にある渓谷に向かった。

 

〜ユミル渓谷途〜

 

リィンとクルトが到着するとそこには既にフランツがいた。

「やあリィン。彼がさっきの通信の話で出た?」

「ああ。」

「リィン少将、そちらの騎士の方は一体……?お互いに親し気な様子から察するに、もしかしてそちらの騎士の方はステラさん達と同じ黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)時代の同期生の方ですか?」

リィンに親し気に話しかけたフランツを不思議に思ったクルトはリィンに確認した。

「ハハ、その通りだ。――――――紹介するよ。彼はフランツ・ヴィント。ステラ達と同じ黒獅子の学級(ルーヴェン・クラッセ)時代のクラスメイトで、今日から”灰獅子隊”に合流する事になった部隊の一つを率いる部隊長だ。」

「初めまして、フランツ・ヴィント大尉です。今後は君達と共に戦う事になっているから、よろしくね。」

リィンに紹介されたフランツは自己紹介をした後クルトに微笑んだ。

 

「灰獅子隊に新たに合流することになった……い、いえ……それよりも今フランツ大尉は名乗りの際にフォルデさんのファミリーネームである”ヴィント”を名乗られた事からして、もしかしてフランツ大尉がリィン少将やフォルデさんの話にあったフォルデさんの……!?」

「うん、僕はそのフォルデ兄さんの弟だよ。それと兄さんを軍位無しで呼んでいるのだから、僕の事はわざわざ軍位付けで呼ばなくてもいいよ。」

驚きの表情を浮かべたクルトの確認にフランツは苦笑しながら答えた。

「寛大な心遣い、ありがとうございます。話を戻しますが、今は失われた”ヴァンダール流槍術”の使い手であるフォルデさんの弟ということはフランツさんも……?」

「うん、当然僕も兄さんと共に父さんから”ヴァンダール流槍術”を受け継いでいるよ。……とはいっても、”皆伝”の兄さんとは違って僕は”中伝”だけどね。」

「ハハ、黒獅子の学級で得た経験もそうだが、卒業してから軍人としての任務に就いていた今のフランツだったら、少なくても”奥伝”にはなっているんじゃないか?」

「うーん……どうだろう?その伝位が上がったかどうかを認める人物はよりにもよって、いい加減な性格をしている兄さんだけだからなあ……」

自身の謙遜に対して指摘したリィンの指摘に対してフランツは困った表情で考え込んでいた。

 

「……あの、フランツさん。出会ったばかりで失礼を承知で頼みたい事があるのですが……」

一方フランツを見つめて考え込んでいたクルトは表情を引き締めてフランツを見つめてある事を頼もうとした。

「アハハ、大方遥か昔に廃れたはずの”ヴァンダール流槍術”がどんなものなのかを見る為の”手合わせ”だろう?別にいいよ。僕も”本家”の”ヴァンダール流”はどんなものなのか、興味はあったからね。それにその様子だと、どうせ鍛錬の類を嫌がっている兄さんに手合わせを頼んでも、適当に流されるか、まともに相手してもらえなかったのどちらかだろう?僕でよければ、相手になるよ。」

クルトの頼みを察したフランツは苦笑しながら答えた後自身の得物である槍を構え

「ありがとうございます。それとフォルデさんはリィン少将がわざわざ僕の為に時々鍛錬相手を務めるように頼んでくれたお陰で、ちゃんと鍛錬相手を務めてくれました。」

対するクルトは感謝の言葉を述べた後双剣を構えた。

「へえ?――――――それじゃあ、リィン。合図を頼むよ。」

「ああ。双方構え――――――始め!!」

そしてフランツに合図を頼まれたリィンが合図をすると二人は模擬戦を開始した。

 

模擬戦は一進一退となる激しい戦いとなったが、体力の差でフランツが勝利した。

 

「―――そこまで!勝者、フランツ!」

「ハア……ハア……!この戦争で体力も随分ついたとは思っていたがまだまだだな……今後の鍛錬は体力の増強に重点を置くべきかもしれないな……」

「フウ……体力の差で何とか勝てたけど、体力が互角だったら負けていたかもしれなかったね……」

リィンが模擬戦の終了を告げると地面に膝をついているクルトは息を切らせながら今後の鍛錬について考え、フランツは疲れた表情で溜息を吐き、二人はそれぞれ武器を収め、クルトは立ち上がった。

「―――二人ともお疲れ様。特にクルトは相当健闘したじゃないか。」

「そうだね。特に手数の多さに関しては完全に僕より上だよ。」

「いえ……まだまだ未熟です。ですが、以前の鍛錬でまともに相手してもらえなかったフォルデさんとの鍛錬の時と比べれば飛躍的に成長している事は自覚できました。――――――お二人とも、貴重な休暇を僕の鍛錬の為に時間を割いて頂きありがとうございました。」

リィンとフランツに称賛されたクルトは謙遜した後頭を下げて感謝の言葉を述べた。

 

「やれやれ……せっかくの休暇を鍛錬で過ごすとか、クソ真面目なお前達らしいねぇ。」

するとその時フォルデが渓谷の奥へと続く道からリィン達に近づいてきた。

「フォルデ先輩……その様子からすると、もしかして今まで渓谷で釣りをしていたんですか?」

フォルデが持っているバケツや釣り竿に気づいたリィンはフォルデに確認した。

「おう。お前の親父さんに釣りができる場所がないか聞いた時に、いい場所を教えてくれた上釣り竿も貸してくれたんだ。お陰で大量に釣れたから、今からお前の実家に持って行って晩飯の材料にしてもらうつもりだ。」

「そうですか。わざわざすいません。」

「それよりも兄さん。クルトとの鍛錬をリィンから頼まれるまで、まともに相手をしなかったそうだね?クルトは複雑な事情があって、エレボニア帝国人でありながら僕達に力を貸してくれているのだから、そんなクルトを気遣って誰かに言われるまでせめて鍛錬はまともに相手をするという心遣いもできないの?」

フォルデの話を聞いたリィンが感謝の言葉を述べた後フランツは呆れた表情でフォルデに指摘した。

 

「まあまあ、せっかくの休暇なんだから固い事を言うなって。それに今後はお前がクルトの相手をしてくれるんだろう?だったら、それでいいじゃねぇか。クルトもお前と同じクソ真面目なフランツだったら話も合うし、フランツならいい加減な戦い方をする俺と違って真面目な戦い方だからそっちの方がいいだろう?」

「…………いえ、むしろフォルデさんのトリッキーな戦い方でヴァンダール流を振るうフォルデさんのヴァンダール流は今まで経験したことがなく、僕にとっては色々と勉強になる鍛錬ですから、むしろフォルデさんとの鍛錬をもっとお願いしたいくらいです。」

フランツの指摘を軽く流したフォルデはクルトに訊ね、訊ねられたクルトは静かな表情で答えた。

「うげっ…………親父やフランツといい、お前といい、ヴァンダール流の系譜はホント真面目で鍛錬が好きな奴ばっかだよな……」

「ふふっ、それについては夫もそうですがゼクス将軍やミュラーさんもそうですから、否定はできませんね。」

クルトの答えを聞いたフォルデが嫌そうな表情を浮かべて呟いたその時郷の方角からオリエが苦笑しながら歩いてリィン達に近づいてきた。

 

「母上?何故郷から外れているこの渓谷に……」

「……いや、オリエさんは結構前から俺達を見守っていたよ。具体的に言えば、俺がクルトの相談に乗っている最中辺りですよね?」

オリエの登場にクルトが驚いている中リィンは冷静な様子でオリエに確認した。

「ええ、シュバルツァー男爵閣下とルシア夫人にご挨拶をした後に屋敷を出た際に二人を見つけましたので。」

「あの時から既に……というか、僕との会話の最中に遠くから見守っていた母上の気配まで察知できるなんて、リィン少将の気配察知は尋常ではありませんね……」

「ハハ、クルトもいずれできるようになるさ。」

オリエの話を聞いて驚きの表情を浮かべたクルトに見つめられたリィンは苦笑しながら答えた。

 

「―――こうしてご挨拶をするのは初めてになりますね。ヴァンダール子爵家が当主マテウス・ヴァンダールの後添いのオリエ・ヴァンダールと申します。フォルデ殿の事は息子(クルト)より色々と伺っております。色々と至らぬ息子をフォローして頂いている事、心より感謝しています。」

「あー……俺はそんな大した事はしていませんから、わざわざ頭まで下げる必要はないッスよ。」

オリエに頭を下げられて感謝の言葉をかけられたフォルデは気まずそうな表情を浮かべて答えた。

「ふふっ、ご謙遜を。――――――クルトからフォルデ殿が獅子戦役時に廃れたはずの”ヴァンダール流槍術”の使い手だという話も聞いています。それで、もしよろしければ、フォルデ殿もそうですがフランツさんも今回の戦争後我が家に”ヴァンダール流槍術”の師範として、私達ヴァンダール家の者達もそうですが門下生達にも”ヴァンダール流槍術”を教えて頂けないでしょうか?勿論、お二人が望むのでしたら、お二人をヴァンダール家の一員になって頂いても構いません。」

「”ヴァンダール家の一員になっても構わない”ということはフォルデ先輩とフランツの家名に”ヴァンダール”を追加する事を許可するという事ですか?」

オリエの提案を聞いたリィンは目を丸くしてオリエに訊ねた。

 

「フフ、”許可する”といったそのようなお二人に対して失礼な事を言うつもりはありません。ヴァンダール家の一員になって頂けるのでしたら、当然帝都(ヘイムダル)にある我が家にお二人それぞれの私室を用意させて頂きますし、家系図にもお二人の名を記させて頂きます。ですから別に今就いておられるメンフィル帝国軍を辞めて、ヴァンダール家に来て欲しいといった”ヘッドハンティング”の類ではないのでご安心ください。」

リィンの確認に対してオリエは苦笑しながら答え

「母上、”ヴァンダール流槍術”の師範の件はともかく、二人をヴァンダール家の一員にする件を父上や叔父上の許可もなく決めてよかったのですか?ちなみに僕は母上の提案に賛成ですが……」

クルトは僅かに驚きの表情を浮かべてオリエに訊ねた。

「ゼクス将軍には既に話して賛成してもらっていますし、あの人も私の提案を聞けば賛成すると思います。”ヴァンダール流”の伝承者として”ヴァンダール流槍術”が既に廃れていて、存在だけしか伝わっていない事実に残念がっている事は貴方も知っているでしょう?」

「言われてみれば、”ヴァンダール流槍術”の存在を僕に教えた時の父上はどことなく残念がっていましたね……」

オリエの説明を聞いたクルトは苦笑しながら答えた。

 

「それで二人はどうするんですか?」

「あー……俺は別に大昔の先祖の家系に拘っていないから、ヴァンダールの一員云々の件はパスで。」

「オリエさん達のご好意はありがたいですが、僕も必要ありません。父さんもそうですが、先祖達も今まで”ヴァンダール”の家名を名乗っていない事からして、恐らく”ヴァンダール”の家名に拘っていなかったでしょうし、僕も兄さん同様家名もそうですが身分にも拘っていませんので。」

リィンに訊ねられたフォルデとフランツはそれぞれ断りの答えを口にした。

「そうですか……でしたら、師範の件はどうでしょうか?勿論、師範―――”講師”を務めて頂くのですから”講師代”は用意させて頂きます。」

「まあ、それくらいだったら。……ただ、僕の伝位は”中伝”ですから、それでもいいと言うのでしたら構いません。」

「俺も”講師”でしたら構わないっすよ。将来用の貯金の為のちょうどいい小遣い稼ぎにもなりそうだしな♪」

「せめて、”ヴァンダール流槍術”を教える時は真面目な態度で接してくださいよ、先輩……」

オリエのもう一つの確認にフランツの後に同意したフォルデの答えに冷や汗をかいたリィンは疲れた表情で指摘した。

 

その後クルト達と別れて、郷の見回りを再開したリィンは郷の中央にある足湯にそれぞれの足を足湯に浸からせて足湯を堪能しているレジーニアとルシエルに近づいて声をかけた。

 

〜ユミル〜

 

「レジーニア、ルシエル。さっそく足湯に浸かっているのか。」

「ええ、お先にいただいています。」

「中々いいものだね、この”足湯”というものは。確かにこれなら、主や主の両親も言っているように英気を養う事はできるだろうね。」

「ああ、ユミルの自慢の一つでもあるからな。折角だから、俺も堪能させてもらうとするか。」

そしてリィンは靴下と靴を脱ぎ、ズボンも膝まで上げて足湯に浸かり始めた。

「ふう……温まるな。」

「ええ、それに考え事をする時にもちょうどいいですね。」

「体との接触面がそんなに大きくないのに不思議だな。」

足湯に浸かったリィンの感想にルシエルは同意し、レジーニアは興味ありげな表情を浮かべていた。

 

「それにしても、二人の相性は悪そうに見えていたが、なんだかんだ言っても、二人が一緒にいる所を割とよく見かけるな。」

「別にあたしは望んでルシエルと一緒にいる訳じゃないんだがね。大体はルシエルがあたしに近づいて、色々と五月蠅い事を言ってくるんだよ。」

「貴女がその異端な考えを改めるのであれば、わたくしも一々貴女に説教することもないのですが?全く……仮にも貴女は”守護天使”なのですから、せめて貴女が”導く”相手であるリィン少将の為に貴女が今まで手に入れたその知識を活用するといったこともできないのですか?」

リィンの指摘にレジーニアが不満げな様子で答えている中、顔に青筋を立てたルシエルは溜息を吐いた後呆れた表情を浮かべてレジーニアを見つめた。

「生憎ながら、今までのあたしの知識は常識等何もかもが違う異世界であるこの世界出身の主にとっては不要のものだよ。そしてあたしは異世界の事を知る事であたしの探究心を満たすと共に主の役に立つ知識を手に入れる為にも、こうやって日々この世界の事を学んでいるじゃないか。」

「貴女の場合、リィン少将の為に知識を増やす事は”ついで”のようなもので、貴女自身の探究心を満たす事が”本音”でしょうが。」

「まあまあ……」

読んでいた導力技術関連の本をわざとらしく見せて答えたレジーニアの答えを聞いたルシエルが顔に青筋を立ててレジーニアを睨んでいる中、リィンは苦笑しながらルシエルを諫めようとしていた。

 

「そういうルシエルこそ、あたしやユリーシャのような”守護天使”でないにも関わらずわざわざ”参謀”を務める事を申し出て君自身に備わっている智謀をリィン少将の為に存分に活用することと言い、生き残った部下達を君や主と共に戦う事を説得したことといい、先程言ったようにあたしに主にもっと尽くせと注意した事といい、随分と主に対して忠義を尽くしているじゃないか。トリスタでの件が終わってから君がそんな風になっていることから推測すると、生き残った部下達の治療に加えて保護してもらった事で主に対する情が移ったのかい?」

「…………確かに、部下達の件でリィン少将にわたくしの治療と保護の件の時以上の恩義を感じて、その恩返しの為にリィン少将に色々と”尽くしている”事に関しては否定しませんが、別にエリス達のようにリィン少将に心を寄せているという訳ではありません。」

意味ありげな笑みを浮かべたレジーニアの指摘に対してルシエルは静かな表情で答えた。

「おや、そうなのかい?君が参謀を務める事と君の部下達を灰獅子隊に協力させることを説得した事をリィン少将に申し出た時にベルフェゴールは君が主に”守護天使契約”を申し出て主が侍らす女の一人になるのも時間の問題のような事を言っていて、あたしもその推測に納得していたがね。」

「何で、すぐ”そっち方面”の話に持っていきたがるんだ、ベルフェゴールは………」

「睡魔の魔神の戯言に納得する等、貴女、それでも”天使”ですか!?」

レジーニアの指摘にリィンが冷や汗をかいて疲れた表情を浮かべて頭を抱えている中、ルシエルは顔に青筋を立ててレジーニアを睨んで指摘した。

 

「全く……リィン少将。改めてになりますが、生き残ったわたくしの部下達の治療と保護に加えて、突然の戦力としての加入まで許可して頂いた事……本当にありがとうございます。彼女達もリィン少将に恩義を感じ、その恩返しの為にもリィン少将の指揮下で戦う事は彼女達自身の”意思”であり、そして”巨イナル黄昏”によって大陸全土が呪われようとするこの世界を”救う”事が”天使としての正義”でもありますから、何もわたくしの説得によって彼女達がリィン少将達に力を貸すように強制した訳ではありませんから、その点はどうかご安心ください。」

「ハハ、感謝したいのは俺の方だよ。俺達もセシリア教官から様々な戦術や戦略は学んだが、さすがに”専門家”である”参謀”を務められるようなレベルじゃないから、その”欠点”を補ってくれているルシエルもそうだが、メンフィル(おれたち)にとって貴重な存在である”天使族”が十数人も協力する事でゼムリア大陸の人々からメンフィル(おれたち)に”大義”があるように見られるようにしてもらっている事には本当に感謝しているよ。」

ルシエルに感謝の言葉を言われたリィンは苦笑しながら答え

「そうですか……」

リィンの答えを聞いたルシエルは微笑んだ。

 

「話は変わるが主。ちょうどいい機会だから聞いておきたかったのだが……主の昔の仲間―――”紅き翼”だったか?彼らは一体何の為に主達が為そうとしている事を阻もうとしているのだい?その”紅き翼”とやらは主やあたし達が戦っている敵軍――――――”エレボニア帝国軍”に協力している勢力という訳ではないのだろう?」

「……それはやはり、”エレボニアの第三の風”として”どちらかが倒れるまで多くの犠牲者を出し続ける”という”結末”にさせない為だろうな。」

レジーニアの質問に対してリィンは静かな表情で答え

「そう、”そこ”があたしには一番理解できないのだよ。主の国は”報復”の為に、主の敵の国は”野望”の為に”戦争”をしている状況で、双方を和解に導く等正に”夢物語”のようなもので、”戦争を終わらせる為には”どちらかが必ず犠牲にならなければならない。”彼らは”正義”は主の国にあり、自分達の国に”非”があり、主の目的が結果的には彼らの国を”救う”事になると理解していながら、主のやろうとすることを阻む事が理解できないのだよ。」

「……そうですね、その点についてはわたくしもレジーニアと同意見です。そもそも”第三の風”とはいっても、それが通じるのはエレボニア帝国内での話で、他国であるメンフィルやクロスベルからすればヴァイスラント新生軍と違って毒にも薬にもならない何もかもが中途半端な勢力のようなものです。ましてや彼らには”軍”という”力”すらもないのですから、”力無き正義”を掲げた所で、軍と軍のぶつかり合いを止めること等不可能です。」

「……それでも……それでも、最初から諦めて、”自分達では何も変えられない事と判断する事”はできないんだと思う。後は内戦での活動の件もあるだろうな。内戦は今回の戦争程絶望的な状況ではなかったが、それでも当時の俺達にとっては絶望的な状況で、俺達はその状況を少しでも変えるために活動して、その結果何とか内戦を終結させることはできたからな。」

レジーニアとルシエルの意見を聞いたリィンは複雑そうな表情を浮かべて答えた。

 

「なるほど。なまじ”実績”がある事で今回の戦争の件も”どんな絶望的な状況であるおろうとも自分達で状況を変えられるという自信”がついているから、今回の戦争でも引き続き”第三の風”とやらを名乗る勢力を保っているのか。」

「その件に加えて”学生”という若さでありながら、どんな絶望的な状況であろうとも諦めない不屈の心が備わっている事も関係しているでしょうね。―――どうやら彼らに対する評価を上方修正しておいた方がよさそうですね。」

リィンの説明を聞いたレジーニアは納得した様子で呟き、レジーニアに続くように言葉を続けたルシエルは表情を引き締めた。

「おや、優秀で今まで高い戦果を挙げ続けてきた君の事だから”愚か”の一言で”紅き翼”とやらを評価すると思っていたのだが、意外な答えだね。」

一方ルシエルの答えを聞いたレジーニアは目を丸くして指摘した。

「…………確かにこちらの世界に来るまでのわたくしでしたら、そのような事を言っていたでしょうね。ですが、わたくし達がこちらの世界に来る切っ掛けとなった戦いでどれだけ有利な状況でその為の準備をしても、”戦場”では様々な想定外の事態が起こり、それらの事態によってどれだけ有利な状況であろうとも敗北の戦局へと変えられてしまう事をわたくしは学びました。………そんな想定外の出来事に対処できなかったわたくしの失策によって多くの部下達を失い、神殿を奪われながらもなおわたくしについて行く事を決めてくれた生き残った部下達を2度とあのような目に合わせない為にも、エレボニア帝国軍は当然として”紅き翼”が挙げた実績もそうですが、彼らの不屈の精神を侮る事はできません。」

「ハハ……”紅き翼”が……”Z組”がルシエルにそこまで高評価されるなんて、”灰獅子隊軍団長”としてはともかく、俺個人としては嬉しいよ。―――それとルシエル。以前の君の周りの人達との関係はどんな状況だったのかはわからないが……今のルシエルには俺達という”仲間”がいる。だからあまり気負わず、いつでも俺達を頼ってくれ。俺達にとってもルシエル達は大切な仲間なんだから、もしルシエルが何か”失策”をしても、俺達がそれを挽回できるようにカバーするよ。」

決意の表情を浮かべているルシエルにリィンは苦笑した後静かな表情でルシエルを見つめて指摘した。

「リィン少将………ええ、もしまたそのような事があれば、遠慮なく頼らせて頂きます。」

(フム……本人(ルシエル)は否定しているが、やっぱりルシエルは主に好意を抱いているとしか思えない接し方だとあたしは思うのだが……フフ、ルシエルの心変わりもまた興味深い出来事だから、あたしは主の”守護天使”として…………そしてルシエルの”知り合い”として、二人の関係がどうなるか見守らせてもらおうじゃないか。)

リィンの指摘に目を丸くしたルシエルはリィンを見つめて優し気な微笑みを浮かべ、その様子を見守っていたレジーニアは意味ありげな笑みを浮かべて二人を見つめていた。

 

その後二人と別れたリィンは郷の見回りを再開した―――――

 

説明
第108話
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