真・恋姫無双〜魏・外史伝53 完全版B
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第二十二章〜それは天に昇る龍が如く・後編〜の続き

 

 

 

  ブゥオンッ!!!

  ガッギィイイイッ!!!

  「ぐっ・・・!」

  翠の放った銀閃の一撃を凪は篭手で受け止める。

  「おい翠!!止めんかいな!!」

  真桜の言葉に反応した翠は今度は真桜に攻撃を仕掛ける。

  ブゥオンッ!!!

  「うわぁああっ!!」

  ガッゴォオオッ!!!

  真桜は咄嗟に螺旋槍で翠の攻撃を受け止める。

  「・・・・・・。」

  「くぅ・・・っ!」

  競り合いの中、正気でない目で翠は真桜に睨みつける。

 その横から凪が翠に打撃を叩き込むために近づく。

  「はぁあああっ!!!」

  ブゥオオオッ!!!

  「・・・。」

  ガギィイイッ!!!

  「っ!?」

  だが翠はその打撃を銀閃の腹の部分でいなす。一瞬体勢を崩す凪の体をそのまま流す様に真桜の方に

 押し倒す。

  「ぅおわっ!」

  「がはっ!」

  真正面にぶつかった二人はそのまま仲好く重なって横に倒れる。

  「・・・ちょ、あぶなっ!!」

  真桜は凪の体を抱き締めながら、一緒に横にぐるっと回転する。

  ガチィイイイッ!!!

  二人が居た場所に翠の銀閃の切っ先が突き刺さる。

 凪と真桜は素早く立ち上がると、翠の方を見る・・・。

  「凪、どう思うよ?」

  「翠のあの目・・・、街の住民達と同じだ。」

  「じゃあ、翠と街の連中は同じ症状って事かいな?」

  「あぁ、まるで誰かに操られている様な・・・。」

  「操るって、誰によ?」

  「思い当たる人物が一人いる・・・。」

  「せやかぁ・・・。うちも一人だけ心当たりがあるねん。」

  そう言って、二人は祝融の方を見る。その二人の視線に気づいた祝融はにやっと笑う。またその手には

  全身黒の人型の駒が握られていた・・・。

  「ふふ・・・、察しがよろしいようで。・・・私はどちらかと言うと指揮官派でして、戦う事よりも相手

  を操って戦わせる方が得意なのですよ。ついでに言えば、街の住民達も私が操っております。後、曹洪も

  ・・・。」

  「な・・・!」

  「何やてっ!!」

  意外な人物の名前が祝融の口から出てきた事に、二人は驚きが隠せなかった・・・。

  「操られていたような雰囲気は無かったでしょう?時間をかけて熟成させれば、彼女の様にごく自然な

  状態で操る事が出来るんです。あなた方は知らず知らずの内に、私の手中で踊っていたのですよ。」

  「・・・何て卑怯なっ!!」

  凪は祝融を罵る。だが、そんな言葉に祝融は動じはしなかった・・・。

  「卑怯?いいえ、これは戦略ですよ・・・。」

  「よう言うで、おばはん!!はよ、翠を解放しぃや!!」

  「そう言われて、私が解放すると?」

  「・・・せやろうな。」

  「そして何より、彼女自身がこうなる事を望んでいるのですからね。」

  「んなアホな・・・!」

  真桜は手を振り払って祝融の言葉を否定する。

  「気付きませんか?彼女から発している憎しみの感情を・・・、そしてそれがあなた方に向けられている

  事に・・・。彼女は憎んでいるんですよ、自分の母親を死に追いやったあなた方を!」

  「そ、それは・・・!」

  凪は言葉を紡ごうとするが、その前に祝融が話を進める。

  「違うと言いますか?ですが、あなた方が涼州に攻め入って来なければ、彼女が母親の死に目に会えなく

  なる事も、涼州を追われる事も、一族がバラバラになる事もなかった・・・。彼女がこれ程にまでに

  苦しむ事もなかったはずです。」

  「「・・・・・・。」」

  「私に操られたまま、あなた達を殺しても・・・『自分は操られていたから、仕方が無かった』とでも

  言えば良いと、そう思っているのですよ・・・。そうすれば、自分が責められる事はないと、彼女はそう

  思っているのです。」

  祝融の話が終わり、真桜は後ろの翠を見る。翠は相変わらずこっちを睨んだままだった・・・。

  「凪。」

  「何だ。」

  「翠はうちが何とか喰いとめとくさかい・・・。凪、あのおばはんはお前が何とかしてくれないか?」

  「・・・一人で大丈夫なのか?」

  「あいつとは、ちぃと話したい事があるねん・・・。」

  「そうか・・・。」

  「あぁ・・・。」

  そして数秒の沈黙、そして二人は反対の方向へと走り出す。

  バチィンッ!!!

  この時、すれ違いざまにお互いの手の平を叩くのであった・・・。

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  「うおっ・・・!」

  ドガァァアアアアッ!!!

  家と家の合間から爆音と共に大量の埃が大通りに吹き出す。それはその埃と一緒に大通りに飛び出す。

  バゴォオオオッ!!!

  そして家の壁だ、道具だ関係なく破壊しながらケンタウロスが飛び出してくるとそのまま俺に四本の腕

 から繰り出される槍と戟の乱れ撃ちを放ってきた。

  ブゥオンッ!!!ブォウンッ!!!ブゥオンッ!!!ブォウンッ!!!

  「ふぅっ!」

  俺はその槍と戟が交わる軌道の合間を縫うように加速して避けていくが、ケンタウロスは中々に懐へと

 近づけさせない。

  ブォオンッ!!!

  ガギィイイイッ!!!

  ブォウンッ!!!

  ガゴォオオオッ!!!

  「ぐぉおおッ!?」

  加速が終わった所に二本の戟が襲いかかって来る。それを刃で受け止め、弾き返すと一旦後ろへと下がる。

 腕が二本増えただけでここまで強くなるのか・・・。後ろに下がった俺に近づこうとケンタウロスは駆け出

 したので俺はぎりぎりまで引き付けて・・・、寸前で横にさける。

  バッゴォォオオオッ!!!

  ケンタウロスはその勢いが止められず、俺の後ろの家の壁に激突し、壁に穴を作る。身体の半分が家の中に

 入ってしまったケンタウロス。俺はこの隙にと一気に近づいた。

  ダゴォオオオッ!!!

  「何ぃッ!!」

  近づいてきた俺を察知したのか、ケンタウロスは後右足の蹄で俺に反撃してくる。思わぬ反撃を胸にまとも

 に食らった俺の体は後ろに吹き飛ばされるが、そこは二本の足で踏ん張って堪える。穴に引っ掛かった身体を

 やっと外に出すケンタウロス。折角のチャンスが無駄になってしまった・・・。

  「けど、まだやれる・・・!!」

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  「はぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  「はぁっ!」

  ビュンッ!!!

  「・・・ッ!!!」

  ブォウンッ!!!

  ガギィイイイッ!!!

  春蘭と秋蘭は鷹鷲に攻撃を仕掛け、鷹鷲も反撃を繰り出してくる。鷹鷲のその巨体から想像もできない

 ような素早い動きに二人は決定打を与えられずにいた・・・。

  「くそぉ・・・!でかい図体のくせにすばしっこい奴だ!!」

  分かってはいたものの、苦戦に焦りが生じる春蘭。

  「姉者!焦りは向こうの思う壺だ!!」

  それを察した秋蘭は言葉をかける。

  「分かっている!」

  そう言って、春蘭は鷹鷲に仕掛けていく。

  「はぁああああああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  春蘭は振り下ろしの斬撃を放つ。

  ガシィイイッ!!!

  「な、何ぃっ・・・!!」

  だが、鷹鷲は振り下ろされた七星狼餓を素手で掴み取る。

  「くそ・・・、離せ!離さぬか、このぉおっ!!!」

  春蘭は振り払おうとするが、その手はがっちりと七星狼餓を握りしめ、離れる事は無く、さらに力が込め

 られる。

  バゴォオオオオオオンッ!!!

  「・・・・っ!?!?」

  「姉者っ!!」

  七星狼餓は春蘭の目の前で、しかも素手で叩き折られてしまう。刃を折られた際、腕に力が入っていた

 せいで春蘭は体勢を崩してしまう。

  「でぇぇぇええええええいーーーっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  鷹鷲の背後から騎馬に乗った霞が斬撃を放つ。

  ザシュゥゥウウッ!!!

  「ッッ!?!?」

  霞の斬撃は鷹鷲の左腕を掠め、その傷口から血が噴き出した。

  「霞っ!」

  「大丈夫かぁ、春蘭!」

  「私はな・・・。だが、こいつはもう駄目だ・・・。」

  春蘭は折られた自分の七星狼餓を霞に見せる。

  「あちゃ〜、そないぽっきり折れてもうたら、もう直せへんなぁ・・・。」

  「あぁ・・・。」

  春蘭は悔しそうな顔をして七星狼餓を見つめる・・・。

  「霞、予備の剣は持っていないか・・・?」

  「それをうちに聞くんかいな・・・。今、手元にあるんはこれだけやで?」

  そう言って、霞は騎馬の横に携帯させていた、一般兵に支給される一般的な両刃の剣を渡す。

  「用意周到だな・・・。」

  霞から手渡された剣を鞘から取り出す春蘭。

  「先に行くで、春蘭!!」

  そう言って、霞は騎馬に乗って鷹鷲に立ち向かっていく。

  「やぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ガッゴォオオオッ!!!

  鷹鷲は霞の斬撃を篭手で受け流して反撃するも空を切る。

  「はぁあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「ッ!!」

  攻撃を外し、隙が出来た所に春蘭が横薙ぎの斬撃を鷹鷲の右脇下を斬る。だが、その分厚い筋肉と鎧の

 せいで致命傷に至らなかった・・・。

  ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!

  春蘭に大剣を振り回す鷹鷲。

  ガゴォオオオンッ!!!

  「くぅ・・・!」

  春蘭はその重い一撃を剣でしっかりと受け止める。そして鷹鷲は春蘭に向かって大剣を振り下ろそうとした。

  ビュンッ!!!

  そこにすかさず秋蘭が矢を放つ。

  ザシュッ!!!

  「・・・ッ!!」

  放たれた矢は先程、春蘭が付けた左脇下の傷口に刺さり、鷹鷲の動きが止まる。

  「隙あり!!」

  ブゥオンッ!!!

  春蘭は動きが止まった鷹鷲に横薙ぎの斬撃を放つが、鷹鷲はそれをステップを踏んで後ろに下がって

 回避する。

  「隙ありやっ!!」

  後ろに下がった鷹鷲の左横から騎馬に乗った霞が偃月刀を振り回しながら近づいて来る。

  「どりゃあああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  ガゴォオオオンッ!!!

  霞の放った斬撃は防御しようとした鷹鷲の大剣の根元に当たり、鷹鷲の手元から弾かれる。

 そしてある程度鷹鷲から離れると霞は騎馬を操って反転、再び鷹鷲に攻撃を仕掛けにいった。

  「こいつでお終いやっ!!」

  霞は無防備の鷹鷲に偃月刀の切っ先を向け、止めを刺しに掛かって行く。

  「よし、いけぇ!霞!!」

  勝ったと確信する春蘭。だがその確信は鷹鷲が取った行動でまたとなく砕け散る。

 何を思ったのか、鷹鷲は正面を霞の方に向けるといきなり身を屈め、そして大地を蹴って霞の方に走り

 出したのであった。

  「何っ!?何をする気だ!!」

  最後の悪あがきかとも取れたその行動・・・。

  「ちぃっ!悪あがきも大概にしぃや!!」

  真正面から突っ込んで来る鷹鷲に舌打ちをしながらも、霞は騎馬の速度を緩める事無く、鷹鷲に突っ込ん

 でいく。

  「・・・っ!待て、霞!!そのまま奴に突っ込んでいくな!!」

  何かを感じた秋蘭は霞に向かって叫ぶ。

  ドゴォオオオオッ!!!

  だが、その時すでに騎馬と鷹鷲が激突した後だった・・・。

  「な、なん・・・、やとぉっ!?」

  騎馬に激突した鷹鷲は低い体勢を保ったまま、騎馬の両前足の付け根部分を脇でしっかりと押さえ、

 騎馬の動きを力任せに止めた。騎馬の前足は宙に浮き上がり、後ろ足を軸に持ちあげられていた・・・。

  「そんな・・・、いくらなんでも無茶苦茶過ぎるぞ!!」

  騎馬の突進を真正面から止める荒技に開いた口が塞がらない春蘭。

  「く、このぉ・・!」

  攻撃しようにも鷹鷲は騎馬の足元の内側に入り込んでいて、偃月刀が届かない・・・。そう思っていた時、

 少し傾きが緩くなった。

  「霞!早く騎馬から降りるんだ!!」

  「え・・・っ?」

  ブゥオオオオオオッ!!!

  秋蘭の言葉よりも早く、霞の視界はぐるっと上に移動する。何が起きたか理解出来なかった霞だったが、

 このままひっくり返る事は理解出来た。鷹鷲は騎馬を力任せに持ち上げ、ひっくり返したのだ・・・。騎乗

 していた霞も一緒にひっくり返り、為す術も無く、そのまま騎馬の下敷きなってしまった・・・。

  ズドォォオオオンッ!!!

  完全に仰向けになってしまった騎馬・・・。四本の足をばたつかせるも意味は無く、ただ横倒れになった

 だけだった。

  「ぅ、・・・ぅう、ぐぐ・・・。」

  両足の上に騎馬の体が圧し掛かる形で身動きが取れない霞。

  「霞っ!!・・・おのれぇぇえええっ!!!」

  春蘭は怒りに身を任せたまま鷹鷲へと突っ込んでいく。

  「姉者、待て!!」

  頭に血が上ったまま敵に突撃していく姉を止めようとするが、姉は止まるはずも無く・・・。援護をしよう

 と弓を構えるも、その軌道上に姉がいるせいで矢を打つ事が出来なかった。

  「春蘭さま〜〜〜っ!!!」

  と、そこに春蘭を探していた季衣が現れる。

  「はぁぁああああああっ!!!」

  春蘭は剣を振り上げながら、鷹鷲に突撃していくが・・・。

  ドゴァァアアアアッ!!!

  春蘭が剣を振り下ろす前に、鷹鷲の右拳が春蘭の顔面にめり込み、そのまま吹き飛ばされてしまう。

  パリィィインッ!!!

  その際、春蘭が身に着けていた蝶の形を模した眼帯は砕け、地面に散らばった・・・。

  「春蘭さまーーーっ!!!」

  「姉者ぁあああっ!!!」

  「春蘭っ!!!」

  ドサァアアアッ!!!

  受け身を取る事も出来ず、春蘭はごろごろと地面を転がり、うつ伏せの体勢で止まった・・・。

  「姉者ぁあああっ!!」

  姉が殴り飛ばされたのを見て、冷静さを失い慌てふためく秋蘭。秋蘭は春蘭の元に駆け寄ろうとした。

 だが、春蘭の指がぴくっと動き、そしてゆっくりと体を起こしていく・・・。

  「あ、姉者・・・。」

  不安そう顔で姉を見つめる秋蘭・・・。春蘭はやや前のめりに立ち上がると、顔の方から血が滴り落ちて

 いた・・・。

  「・・・どうした?それでお終いなのか?」

  そう言うと、春蘭は顔をあげ、鷹鷲を見る・・・。

  「だとしたら・・・この勝負、私の勝ちだな・・・!!」

  こんな状況の中、春蘭は不敵な笑みを零す・・・。彼女の闘志は、まだ挫けてはいなかった・・・。

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  シュルルルッ!!!

  「ふっ!」

  シュルルルッ!!!

  「ふっ!」

  シュルルルッ!!!

  「はぁっ!」

  凪は祝融に近づこうと試すも、その度に周辺の根達が行く手を阻む・・・。それをかわして近づこうと

 するが、根達の全ての動きが把握できず、手こずっていた。

  「ならば・・・っ!」

  凪は右拳に氣を集中させていく。その間にも根が彼女に襲いかかるが、それをかわして行きながら氣弾を

 作る。

  「はぁぁぁああああああっ!!!」

  そして右拳に宿った氣の塊を祝融に目がけて投げ放った。

  ブゥオオオオオオッ!!!

  だが、祝融に当たる寸前で根達が壁になって阻止されてしまう・・・。壁になった根達は黒い煙を上げ

 ながら燃える・・・。

  (やはり、もっと近づいて直接叩き込むしかないようだな・・・。)

  凪は再び祝融に近づこうと駆け出す。それに合わせて根が彼女の行く先を阻み、一本の根の先端が凪に

 襲いかかろうとした。

  「はぁあっ!!」

  バゴォオオッ!!

  凪はその根の先端をを回し蹴りでいなす。

  「でやぁあっ!!」

  ドガァアアッ!!!

  今度は打撃でいなす。自分に襲いかかって来る根を片端から殴って、蹴って叩き落とす凪。

  「はぁぁぁあああ・・・・・・!!!」

  そして凪は拳、足に氣を溜めていく・・・。

  シュルルルッ!!!

  「でぁあああっ!!」

  バァアアアンッ!!!

  凪は溜めた氣を氣弾として使わず、そのまま覆う形で根達を迎撃する。氣に覆われた拳と足を喰らった

 根は例外なく燃えていく。そして丸太並の太さを持った根が襲いかかってくると、凪は横にさっと軽く避け、

 そこからさっと根の上に昇り、その上を走る。凪が走った後に次々と根の先端が飛んでいく。

  「ふぅっ!!」

  正面から来た数本の根を凪は頭上の根に飛び移って回避すると、今度はその根を伝って移動する。

 根から根へと飛び移りながら根の攻防を回避していながら、凪は確実に祝融へと近づいて行く。

  「はぁっ!!」

  後ろから襲いかかって来た根から逃れるために、凪は少し高い所に伸びている手頃な太さの根に手を

 伸ばしながら飛び跳ねる。ガシッと片手で根に捕まると、もう片方の手でも捕まり、ぐるっと一回転

 させてると、もう一回、そしてもう一回と回り続け、ある程度速度が乗って来ると両手を離す。手を離した

 凪は体を丸めてそのまま祝融の所へと勢いよく落ちていく・・・。

  「ほう・・・。」

  凪の意外な頑張りに感心する祝融。彼女自身、伏義や女渦の様に自らが戦うタイプでは無い事は十重に

 理解していた。だからこそ、凪を近づけさせまいとしていたのだから・・・。

  「・・・っ!」

  丸めていた体をばっと広げ、氣を覆った拳を振りかぶりながら、凪は祝融の懐へと飛び込んでいく。

  「はぁあっ!!」

  ブゥオオッ!!!

  祝融に拳を叩き込む凪。しかし、祝融はそれを難なく回避する。だが凪はその一撃が避けられる事は

 分かっていた。そのため受け身を取って着地すると、祝融に一気に近づき拳打を叩き込みにかかる。

  ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!

  凪の拳打を猛牛の相手をするマタドールの様にさらっと避ける祝融。そして・・・。

  ガシィイッ!!!

  「うっ!?」

  祝融は拳打を放った直後の凪の顔を掴みとると、そのまま地面に後頭部を叩きつける。

  ダゴォォオオオッ!!!

  「がはっ・・・!」

  「指揮官派とは言いましたが、戦えないと言った覚えは・・・ありません。」

  意識が朦朧とする凪に話しかける祝融。

  シュルルルッ!!!

  「う、ぁあ・・・。」

  右足に根が絡みつき、そのまま逆さ吊りに持ち上げられる凪。拳と足を覆っていた氣は既に拡散して

 しまっていた・・・。

 

  「どぉぉりゃぁぁああああっ!!!」

  ブウゥオオオオオオンッ!!!

  真桜は螺旋槍で翠に仕掛けると、翠は銀閃の切っ先を使って螺旋の先端をいなすと、真桜に反撃の横薙ぎ

 を放つ。

  ブゥオンッ!!!

  「おわぁああっ!?」

  真桜ははそれをしゃがんで避ける。

  ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!ブゥオンッ!!!

  翠の攻撃の手が緩む事は無く、次々と真桜に襲う。

  「だだだっ!速い速い、速すぎるでぇっ!!」

  真桜はそれを紙一重でぎりぎりでかわしていく・・・。

  ブォウンッ!!!

  ガゴォオオオッ!!!

  翠の一撃を螺旋槍の腹の部分で受け止める真桜。

  「ちぃ・・・、ほんま容赦ないな、翠!殺す気満々やないかぁ!!そんなにうちらが憎たらしいんか!?」

  「・・・・・・。」

  「お前の母親を死に追いやった事を・・・!お前等を涼州から追い出した事を・・・!一族がばらばらに

  なってもうた事を・・・!」

  「・・・・・・。」

  「確かに、そないな事になったんはうちらのせいやろうさ!!お前が怒るんも当然やでっ!せやけど

  いつまでも根に持っておったってしゃーない事やろう!!」

  「・・・・・・!」

  「憎んだ所で、母親が生き返るわけでもないんや!そうやろう、翠!?」

  「・・・う、る、さい・・・。」

  「いつまでも過去にしがみついとったって、それが何になるんや!?過去を忘れないためかいな!?

  それならええよ!でもなぁ、過去に逃げるんは、それはちと違うんやないか!!」

  「・・・だ、ま、れ・・・。」

  「翠、お前は過去に逃げて・・・、そんで復讐に走って、そんでええんか!?それはお前の母親が

  望んじゃいないで!!」

  「・・・うぅうううぁあああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!

  黙れぇぇえええ!!黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れ、黙れぇえええ!!!」

  ガゴオオオッ!!!

  「ぐぅうっ!?」

  翠の振り下ろしを踏ん張って螺旋槍で受け止める真桜。

  ガゴオオオッ!!!

  「お前に何が分かるんだ!!母様の何を知っているていうんだ!!」

  ガゴオオオッ!!!

  「お前達が母様を殺しんたんだ!!お前達さえ来なければ母様が死ぬことなんてなかったんだ!!」

  ガゴオオオッ!!!

  「過去に逃げて何がいけない!!あたしにこんな過去を押しつけてた奴が何偉そうなこと言ってんだよ!!」

  ガゴオオオッ!!!

  「あたしには、もうそれしかないんだ!!何も無いんだ!!こんな所に戻って来たって、何も無いんだよ!!」

  ガゴオオオッ!!!

  「思い出しか残っていないんだ!!それしか残ってないんだ!!思いだしても辛くなるだけなんだ!!」

  ガゴオオオッ!!!

  「忘れたいのに!!忘れたいのに忘れられないんだ!!あの日のことを!!」

  ガゴオオオッ!!!

  「憎いっ!!こんな過去を押し付けたお前達が!!返せ!!返せ!!あたしから奪っていったものを!!

  返せよーーーっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  「・・・っ!この・・・、アホんだらがぁぁぁあああっ!!!」

  バゴォオオッ!!!

  「がふっ・・・!」

  翠の左頬に拳打を叩き込む真桜。

  「翠っ!!うちらがそんなん憎たらしいっちゅうなら、別にそれでもええ!!でもなぁ、そこで止まっと

  たら、いつまで経っても同じ事の繰り返しやないんか!?」

  「ぬぅ・・・っ!」

  「成都を出る前に、あの姜維の小僧に言っていたあれは、ただの上っ面から出ただけのものやったんか

  !!そんな軟なもんやったんか!!だとしたらお前、最低やで・・・!!自分の心が傷つくのが怖いから

  そんな口実を立てて、それで周りから良い子やなって言われて!そないなことをしとるから、あのおばはん

  につけこまれるんや!!ほんまそんでええんか!?満足なんか!?誰かに操られているばかりの生き方に、

  お前はそれで満足なんか!!!どうなんや、翠!?答えやぁっ!!」

  「ぐ・・・、うぅぅ・・・、ぐぅう・・・!」  

  苦しそうな顔をする翠。

  「翠っ!!どうなんや!?」

  そんな翠を問い詰める真桜・・・。

  「聞くだけ無駄ですよ・・・。どうせ答えはしないのですからね。」

  「何やと・・・!」

  真桜が後ろを振り向くとそこには祝融が、そしてその横には上から逆さ吊りにされている凪の姿があった。

  「凪ぃ・・・!」

  「ぅ、・・・ぁああ、・・・。」

  真桜の声に反応する凪。無事の様ではあるが、頭に血が上っているのか顔色が悪い・・・。

  「く、っそぉお・・・。」

  万事休す・・・、真桜の頭にその言葉がよぎる。

  「ふふふ・・・、さぁ、馬超孟起。その者に止めを刺しなさい。あなたの憎むべき相手をその手で!」

  祝融は手のひらの上に駒を立たせてながら、翠に命じる。

  「・・・・・・。」

  だが、翠は動こうとしない。

  「?」

  不審に思った祝融は手の平の上の駒を見る。すると、駒から青白い炎が吹き出していた・・・。

  「・・・馬鹿な。私の力から自力で抜け出そうとしているのか・・・?」

  真桜にはよく分からなかったが、祝融にとって予想外の展開になっている事は分かった。

 その時、翠が動き出す。翠は真桜の横をすり抜けて行き、まっすぐと祝融に向かっていく。

  ブゥオンッ!!!

  「ぬぉおおッ!?」

  翠が放った切り上げの斬撃を寸前でかわす祝融。

  「翠っ!」

  「ぐ・・・っ!『駒』風情で私に盾突くとは・・・!生意気です!!」

  そう言って祝融は手を振り上げると、翠に複数本の根が襲いかかる。

  バチィイイイッ!!!

  「うぐ・・・っ!」

  バチィイイイッ!!!

  「が・・・っ!」

  根の先端が次々と翠に襲いかかる。

  「翠ぃっ!させるかいなって!!」

  真桜も加勢するべく、螺旋槍を構えて突撃を掛ける。

  ブワゥアアアアアアアアアッ!!!

  螺旋槍で根を刻みながら、真桜は祝融へと突撃していく。

  「でいやぁあああっ!!」

  ブワゥアアアアアアアアアッ!!!

  「・・・・・・っ!!」

  ブゥオンッ!!!

  そこに翠の追撃が加わり、祝融は二方向から攻撃を仕掛けられる形になる。

  「無駄な事を・・・。」

  シュルルルッ!!!

  バチィイイイッ!!!

  「うおあぁっ!!」

  バチィイイイッ!!!

  「ぐぁあっ!!」

  横から襲いかかって来た根によって二人は攻撃を阻止されてしまう。だが・・・。

  「ぐ・・・、今や凪!やってまえ!!」

  「んッ!?」

  ブワァアアアッ!!!

  真桜と翠の背後から飛び出して来た凪が祝融の懐に入る。凪は祝融が二人の方に注意が向いている間に

 右足に絡みついていた根から脱出していた。

  「な、しまっ・・・!?」

  自分の懐に凪を入れてしまった祝融は凪の背後から二本の根で襲いかかるが、凪が氣の込められた蹴り

 を祝融に叩き込む方が先だった・・・。

  「はぁああああああああっ!!!」

  ドガァアアアアアアアアッ!!!

  「うぁああああああああああ・・・・・・っ!!!」

  氣の爆発で祝融の体は吹き飛ばされ、中央にそびえる根の束に激突する。そして、そのままもたれ

 掛かり、ついに動かなくなってしまった・・・。

  「くっ・・・。」

  力が抜けたように翠の体は崩れ、四つん這いの体勢になる。

  「翠っ!」

  真桜は翠の側に駆け寄る。

  「・・・真桜・・・。」  

  「何や?」

  「あたしは・・・あんたの言う様に・・・本当、最低だよ・・・。」

  「翠・・・。」

  「結局、あたしは自分を変えようなんてしていなかった・・・。自分を変えたいんだとか言って

  おいて・・・、その実、この気持ちを変えようって気が・・・、無かったんだから、さ。

  ・・・ははは、笑っちゃうよな?」

  そう言って、翠は自分で自分を笑う・・・。そんな彼女の痛々しさに真桜はかける言葉を無くした。

 だから、代わりに凪が口を開いた。

  「その感情を肯定するんだ、翠・・・。」

  「凪・・・。」

  翠は顔を上げ、凪を見上げる。

  「私達はお前に憎まれるだけの事をした。それは紛れも無い事実であり、決して消える事は無い。

  だから否定した所で意味は無い・・・。」

  「・・・・・・。」

  「重要なのは・・・、その気持ちを認め、その気持ちを自分自身で受け止める事だと私は思う。誰かに

  向けるのではなく、自分自身に・・・。」

  「・・・・・・。」

  再び顔を俯かせる翠。真桜は工具箱からあるものを取り出し、翠の前に差し出す。

  「これは・・・?」

  それは一枚の封筒・・・。その封筒には『翠へ』とだけ書かれていた。

  「お前の母親の寝室で見つけたんや。二年間、ずっと机の引き出しの中にあったんやな・・・。」

  「・・・!」

  翠はその封筒から中身を取り出し、内容を読んだ・・・。

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  ガッゴォオオオッ!!!

  「ぐぅううッ!!」

  俺はケンタウロスの一撃を刃で受け流す。何とか、奴の動きを封じないと・・・。

  「はぁあああッ!!」

  ブゥオンッ!!!

  ブゥオンッ!!!

  ガッギィイイイッ!!!

  俺が放った斬撃とケンタウロスの斬撃がぶつかると、そのままその刃同士が接している部分を軸に

 奴の左側に入り込むと、前右足の関節部分、膝に向けて突きを放った。

  ビュンッ!!!

  ザシュウウウウウッ!!!

  「・・・ッ!!!」

  刃の切っ先が膝から飛び出すと、そこから黒い血が噴き出す。俺は刃から手を離し、その場から離れると

 ケンタウロスは右膝を折って体勢を崩した。・・・よし、今だ!!

  「ふ・・・、はぁぁぁあああああああ・・・・・・っ!!!」

 俺はあの時の事を思い出しながら、左手に意識を集中させる。体の中央で生じた力を左拳に注ぎ込む

 イメージを頭に描き、ギュッと拳を握りしめる・・・。自分の想いと力を一緒に注ぎ込み続けると、

 次第に俺の左拳は青白い光に包み込まれ、次第に炎に姿を変える・・・。

  「出来たっ!!」

  俺は左拳を振り上げながら、加速で一気に奴の懐へと入り込む。

  ブゥオオオオオオオッ!!!

  だがケンタウロスは俺に気づき、やらせまいと俺の進む軌道上に(一刀の加速は伏義のそれと異なり、直線

 上にしか動けない。伏義と戦った時は、彼と同等の加速を使えたが、一刀はその時の事を覚えていないため、

 不完全な加速となっている。)四本の槍と戟を俺に刺し向けた。

  「うぉおおおおおおおおおっ!!!」

  俺はその四本の槍と戟に突っ込んでいく。そしてその勢いを左拳に乗せ、そのまま前方に伸ばした。

  ガゴゴゴゴゴッゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

  青白い炎に包まれた左拳はその槍と戟達を先端から砕き、俺の進む道を作る。

  「これで・・・、終わりだぁッ!!!せぃやっ!!!」

  ドガァアアアッ!!!

  俺は奴の体に左拳を叩き込むと、周りが一瞬静寂になる・・・。

  ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

  だが一瞬の静寂はその轟音と共にかき消され、左拳を軸にケンタウロスに向かって青白い光が大量に

 放たれる。一瞬にしてその光に包みこまれるケンタウロス。光はそのまま地面と平行に通りを駆け抜けながら、

 次第にその軌道を上方へと逸れ、雲を掻き消しながら、空の彼方へと進んでいった。

  ケンタウロスの鎧の下、肌に密着していた黒い膜状のものが次々と鎧の隙間から溶ける様に光の中へと

 消えていくのが分かる・・・。まるでたこの様な姿をしているそれは光の流れに抵抗しようとしているが、

 それも虚しく、そのまま流されて光の中へと掻き消されていった・・・。

 空の彼方へと伸びて行った光の柱は次第に中心へと収束し、そして消滅した。そしてそこに残ったのは、

 白銀の鎧、そして彼女、呂布だった・・・。呂布の体を俺は何とか受け止める。そして彼女の口元から

 寝息が聞こえてきた・・・。

  「・・・全く、俺が命がけで助けてあげたって言うのに・・・、呑気だな〜。」

  呆れながらも、俺はとりあえず裸の彼女に俺の学生服を着せる事にした・・・。

-6ページ-

 

  「姉者!大丈夫なのか!?」

  「あぁ、今ので頭に上っていた血が引いた・・・。」

  そう言うと、春蘭は剣を構え直す。

  「秋蘭、援護は任せるぞ!!」

  そう言って春蘭は再び鷹鷲に突撃していく。そして秋蘭はそれに合わせて、矢を放つ。

  ビュンッ!!!ビュンッ!!!ビュンッ!!!

  秋蘭の放った矢は春蘭の横をすり抜け、鷹鷲に飛んでいく。

  カチィンッ!!!カチィンッ!!!カチィンッ!!!

  だが、鷹鷲はそれを大剣を振り回して叩き落とし続ける。

  「はぁああああああっ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  矢を叩き落とすのに注意がそれていた鷹鷲に春蘭は振り降ろしの斬撃を放つ。

  「ッ!!」

  ガッゴォオオオッ!!!

  だがその斬撃を鷹鷲は寸前で受け止める。

  ビュンッ!!!

  ザシュッ!!!

  「ッ!!!」

  秋蘭の放った矢が鷹鷲の右肩に刺さり、わずかばかりに怯んだ所を春蘭は次の攻撃に移る。

  ブゥオンッ!!!

  ザシュッ・・・ッ!!!

  春蘭の放った横薙ぎは鷹鷲の右脇を捉えたが、春蘭が力を込めようとした瞬間、刃の真中でぽきっと

 折れてしまう。鷹鷲の一撃を受け続け、強度に限界が来ていたのだ。そのため、さほど深い傷にはなって

 おらず、鷹鷲に反撃を許す事となる。

  ブォウンッ!!!

  ガギィィイイインッ!!!

  「ぐぉおおおっ!!」

  鷹鷲の放った大剣の一撃を折れた剣で受け止めるが、一度折れた剣にはもはや強度は無く、いとも容易く

 破壊されてしまう。そして鷹鷲は止めを刺すために大剣を振り上げた。

  「姉者っ!!!」

  ・・・だが、春蘭はまだ諦めてはいなかった。

  「まだだっ!!まだ、終わっていない!!」

  そう言う春蘭の右手にはいつの間にか折れた七星狼餓の切っ先だった。

  「うおぉおおおおっ!!!」

  ドスゥウウッ!!!

  「・・・・・・ッ!?!?!?」

  七星狼餓の切っ先は鷹鷲の喉を抉り、春蘭は力を込めさらに奥へと押し込むと切っ先が首の後ろから

 飛び出し、そこから大量の血が噴き出す。

  「何と・・・!」

  春蘭の思わぬ行動に驚く秋蘭。

 そして、致命傷を負った鷹鷲は春蘭の前で仰向けに倒れるのであった・・・。

  「・・・ふぅ。」

  春蘭は左目の下を袖で拭いながら、秋蘭の元へと戻って行った。

  「姉者・・・!」

  「心配をかけたな、秋蘭。」

  「・・・全くだ、馬鹿姉者・・・。」

  「春蘭さま・・・。」

  「季衣、何故お前がここにいる?持ち場を離れては駄目ではないか。」

  「いや、それは姉者が言える事では無いだろう。」

  「・・・そうだった。そういえば霞は大丈夫なのか・・・?」

  「霞は今本陣で治療を受けている。問題は無かろう・・・。」

  「そうか、よかった・・・。では季衣、我々は持ち場に戻るぞ。」

  「待て、姉者。その前に治療を受けるのが先決だ。」

  「・・・この程度の傷なら、私は何の問題もな・・・」

  「姉者。あまり私に心配をかけさせないでくれ。」

  「・・・わ、分かった。」

  春蘭は秋蘭に言われた通りに、治療を受けるのであった・・・。

-7ページ-

  

  『翠へ

   今お前がこれを読んでいると言う事は、私はすでにこの世にはいないのだろう。

  だが、悲しむ必要はない。人はいつか死ぬもの、私もまたその例外では無い。

  そしてこ度の戦で我々は敗北を喫する事になろう。だが翠よ、曹操殿を憎む事は

  しないで欲しい。私は曹操殿の話を断ったとはいえ、曹操殿の考えもまた決して

  間違いと言う事では無いからだ。それは飽くまでも人の見方の違いから生じる

  問題、何を信じて生きるのか、ただそれだけの事であり、私と曹操殿の信じる

  ものが違っていただけに過ぎないのだ。

   とはいえ、私は不治の病を患い、幾ばくも無いこの命。私は自らの手で

  この戦いの幕を閉じる事にする。先逝く私を許してほしい。願わくばお前には

  復讐などに囚われる事無く、一人の女としての幸せを手にする事を一人の母親

  としてあの世から祈っている。』

 

  「・・・母様。・・・母様!・・・う、ぅぅうう・・・、うぁぁああああああああああああああああ

  ああああああああああああっっ!!!」

  馬騰が翠に書いた遺書を胸に抱き締めながら、大粒の涙を流しながら、まるで子供の様に泣き出す翠。

  

  

 

 

 

 

  「・・・ぐすっ。・・・取り乱して、悪かった。」

  翠は袖で自分の顔をごしごしと涙の跡を拭く。

  「もう、ええんか?」

  真桜は翠に尋ねる。

  「あぁ・・・、何か憑きものが取れた様な気分だよ・・・。」

  それを聞いた真桜はにこっと笑う。

  「そっかぁ・・・。それだけでもここに来た甲斐があったちゅうもんや。」

  「・・・良し。なら、この植物を・・・っ!?」

  咄嗟に身構える凪。

  「どないしたん?」

  真桜と翠は凪が睨む方向に目をやる。

  「な、何やてぇっ!!」

  「あいつ、まだ生きてんのか!?」

  死んだと思っていた祝融が、根の束にもたれ掛かりながらゆっくりと立ち上がっていた・・・。

  「・・・ふぅ。・・・指揮官タイプの私に、やはり戦闘は向かなかったようですね・・・。

  見事なまでにやれてしまいました・・・。」

  再び自分の得物を構える真桜と翠。

  「止めましょう・・・。もう、戦うのはこりごりです。」

  「何だと・・・っ?」

  「今更、戦うんを止めるやと・・・?」

  「一体何を企んでいるんだ!?」

  「・・・そうですね。麒麟も北郷一刀の殺害に失敗したようですし・・・、こうなったら

  強行手段を取るとしましょうか。」

  そう言うと、祝融の体に根が次々と絡みついてくる。そして祝融の体が根に覆い尽くされると、

  そのまま根と一緒に中央にそびえる根の束の中へと潜り込んでいった・・・。

  

  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

  「うおおお、何だ!?地震か・・・!?」

  突然地震の様な激しい揺れが起こる。それと同時に、根達が活発に動き出す・・・。

 そしてさらに揺れが激しくなり、柱が次々と倒れ、天井が崩れ落ち始めた・・・。

  「二人とも、ここから出るぞ!!」

  「お、おうっ!」

  「せやなっ!」

  三人は上から落ちて来る瓦礫に気を付けながら、この城からの脱出を図る・・・。

-8ページ-

 

  「撤退していく・・・?」

  「はっ!稟、風の報告から東西ともに敵の撤退を確認したと・・・。」

  桂花の報告に華琳は疑問を抱く。この状況で何故、撤退なのだろうか・・・?

  「華琳様、各部隊から追撃の許可の要請が出ております。如何なさいますか?」

  「・・・そうね。とりあえず・・・」

 

  ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

 

  「・・・っ!?地震・・・?」

  「華琳様!」

  華琳のいる本陣にも激しい揺れが起こる。揺れのせいでかがり火の台や天幕が次々と倒れていく・・・。

  「一体何が起きているというの・・・?」

  

  その頃・・。

  「な、何・・・今度は何が起きているの?」

  「わ、分かんないよそんなの〜〜!!」

  城の前に辿り着いた沙和と蒲公英。今の状況が理解出来ず、混乱していた・・・。

  「沙和!」

  「蒲公英!」

  そこにちょうど良く現れたのは城から脱出した凪、真桜、翠だった。

  「凪ちゃん!真桜ちゃん!」

  「姉様!」

  「何や二人とも、ここにおったんか!?」

  「う、うん、ちょっと訳ありで。実は・・・。」

  「あぁ・・・沙和!悪いんやけど、今は話なんかしとる場合やないんや!!」

  「え?どう言う事なの?」

  「この地震と何か関係があるの?」

  「・・・はっ!まずい!皆、ここから離れるんだ!!」

  「やばっ!!蒲公英、ここは逃げるんだ!!」

  「え?え?え?」

  「な、何なの〜?」

  三人が何を慌ててるのかが分からない沙和と蒲公英。

  ブゥオオオオオオオオオオッ!!!

  すると、城の方から轟音が聞こえてくる。そして、霧の中から現れたのは、波の様にうねりを

 あげながら道一杯に溢れ返りながらもこっちに来る触手状の根達だった。

  「ひゃぁあああっ!?」

  「な、なにあれ・・・?気持ち悪ぅ・・・!」

  「せやろ!だから早くこの街から出ようで!!」

  「「う、うんっ!!」」

  今、城内だけにとどまっていたはずの大樹の根が急速に成長し、城内を飛び出して街全域にまで拡大

 しつつあった・・・。祝融に操られていた街の住民達は彼女の力から解放され、気を失っていた・・・。

 根達はそんな住民達を無差別に取り込んでいく。取り込まれた住民達は城の中央にそびえ立つ、大樹の中

 へと次々と送られていった・・・。

  

  「・・・なんだ、この揺れ?地震にしては少しおかしいぞ。」

  さっきから地震の様な揺れがずっと続いている。だが地震はここまで長く続く事は無い・・・。

 それに何か嫌な感覚が・・・、悪意に満ちた嫌な感覚を感じる。一体この街に何が起きているんだ?

  「・・・隊長ーーーっ!!!」

  通りの向こうから聞き憶えのある声が聞こえる。そして霧の中から出てきたのは、凪達だった。

  「お前達っ!無事だったのか!」

  俺はとりあえず全員の無事を確認できて、一安心する。・・・だが、皆の表情を見ると、まだ安心する

 にはまだ早そうだな・・・。

  「隊長もご無事の様でっ!」

  「・・・あれ?あそこで寝ているのって・・・、恋じゃないか!?」

  「ほんとだぁっ!!恋だよ!」

  モーフの様な布で体を覆って、家の壁にもたれかかっていた呂布を馬超と馬岱が見つけ、彼女の元へと

 駆け寄る。

  「それよりも隊長!ここは危険です!早くここを出ないと・・・!」

  「城で・・・何かあったのか?」  

  「そりゃぁ、色々と・・・。得体の知れない巨大な植物が城を苗床にしておったり、祝融っちゅう親玉が

  でてきたり、翠が操られたり、凪は根っこに弄ばれたり、大変やったでぇ〜。」

  「良く分からないが、とにかくお前達は頑張ったって事は分かった。」

  「とりあえずその祝融を倒したんはええが、今度は植物の方が暴れ始めおって・・・。」

  「今、街はその植物の根で溢れ返りつつあります。いずれここも・・・。」

  「だから隊長、早くここから出ようなの〜!」

  「・・・そうか。」

  成程・・・。どうやらもう一つ、やる事が増えたようだな・・・。

  「隊長・・・?」

  「ど、どないしたん?急に黙ってしもうて・・・。」

  「隊長〜・・・。」

  部下三人が不安気に俺を見て来る。

  「凪。」

  「は、はい・・・。」

  「悪いが・・・、少し手伝ってくれないか?」

  「手伝いですか・・・?」

  「正直、あれを一人でやるのは少し大変なんだ・・・。」

  「隊長、一体何をする気なの〜?」

  「最後に、もう一仕事をするのさ・・・。」

  俺は沙和にそう答えた。

-9ページ-

  

  俺は凪に一通り説明すると、急いで作業を実行する。

  「凪!流れに乱れが生じている!気の循環だけに集中するんだ!」

  「は、はい・・・!」

  俺と凪は両手を数センチほど離した状態を保ちながら、その間に青白い光を行き交わせながら、俺は凪に

 指示をする。

  今、俺は自分の中の無双玉が生み出すエネルギーを、凪の協力を得てそのエネルギーを精製し、濃縮する

 作業をしていた・・・。無論、これは伏義やケンタウロスの時同様、俺一人でも出来る事だ。だが、エネルギー

 を抵抗なく完全に流す事は出来ず、どうしてもそこで無駄が生じてしまう。気を使って戦う凪ならば、俺の

 エネルギーを抵抗なく流す事が出来ると思い、手伝ってもらっているが・・・、やはり一度に流れるエネルギー

 量が多いせいか、凪は額に汗を流し、苦痛に顔を歪ませている。

  「凪・・・。頑張ってくれ!もう少しだけ・・・!もう少しだけ踏ん張ってくれ!!」

  すでに両足がガタついている凪を俺は鞭を打ちつける思いで頑張らせる・・・。そして凪は俺に

 応えようと辛いのを我慢しているのが見て分かる・・・。

  そして、俺と凪の両手の間に一つの光の塊が出来る。濃縮されたエネルギーは青白い色から紫色へと

 変色していた・・・。頃合いだと判断した俺はその紫に輝く光の塊を左手に取る。

  「う・・・。」

  作業を終えた途端、糸が切れたように凪はその場に崩れ落ちる。

  「凪っ!」

  「凪ちゃん!」

  凪の元に真桜と沙和が駆け寄ってくる。

  「二人とも、凪を連れて下がっていろ・・・。」

  「分かったで!」

  「分かったの!」

  二人は俺の言う通り、凪を連れてその場から離れていく。それを確認すると、俺は左手の上の光の塊を

 思いっきり握り潰した・・・。

  

  「凪ちゃん!しっかりしてなの!」

  凪の額の汗をせっせと拭う沙和。

  「す、凄い氣の量だった・・・。あれだけの氣が一度に放たれたら、一体どうなってしまうんだ

  ・・・?」

  ぐったりとしながらも、凪は一刀から目を離さない・・・。これから彼が何をしようとするのかを

 その目に焼きつける為に・・・。

 

  握り潰した光の塊は俺の左拳と一体化し、拳は紫色に輝き出す。

 俺は左拳を後ろに力一杯に引き、右手で標準を定める。さっきから全身に感じる悪意の感覚を辿って、

 俺は問題の植物とやらを霧の中から探り出す・・・。この悪意の感じはきっとそこから出ているんだ

 ろう。・・・そして、俺はその悪意の源を感覚的に捉える。  

  「そこだッ!!!うぉぉぉおおおおおおおおおーーーーーーーーーッ!!!」

  ブゥオオオッ!!!

  俺は左拳をその悪意の源に叩き込む様に、勢いよく前に伸ばした。

  

  ブゥオゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!

  

  前に伸ばした左拳から紫に帯びた光が洪水の様に大量に放たれ、真っ直ぐに飛ばず、くねりながらも

 凄まじい速さで前進していく。そしてその光は街を包む霧をかき消しながら、次第にある姿を模していく

 ・・・。その姿は、まるで天に昇る龍のようだった・・・。

 

 

説明
 おはようございます、アンドレカンドレです。
続きを投稿しようとしたら、文字数オーバーでやむなくA,Bと分けて投稿します・・・。まさかこんな事になろうとは、思ってもみなかった・・・。
 と言う訳で、真・恋姫無双 魏・外史伝 第二十二章〜それは天に昇る龍が如く・後編Bパート〜をどうぞ!!
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コメント
昇龍拳っすね。懐かしいっす(VVV計画の被験者)
ヒトヤさん、ですよねwww。(アンドレカンドレ)
うん、俺も真似してたな(ヒトヤ)
昇龍拳か〜、昔よく真似して飛び跳ねていた記憶があります。「昇龍拳!!」www。(アンドレカンドレ)
スターダストさん、報告感謝します。今回はA、Bに分けただけあってその文字数も膨大。誤字脱字を探すのも大変だったと思います。本当にお疲れ様でした。(アンドレカンドレ)
一刀の渾身の一撃よ・・・・・・・悪を貫け! 天に昇る龍か〜・・・・・・・昇龍拳!なんてなww(スターダスト)
3p「想像も想像できない」 4p「祝融拳打を放った」 8p「地震の様な揺れずっと」(スターダスト)
キラ・リョウさん、次は早めに投稿する予定ですので、しばしお待ちを!!(アンドレカンドレ)
なんかすごいの出たぁー!!  続きが楽しみです!!(キラ・リョウ)
jackryさん、本当はそのシーンも書く予定でしたが、膨大な量になりそだったのでやむなく次の回へ移しました。(アンドレカンドレ)
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