ある魔法少女の物語 6「改変された歴史」
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 沢村太志の誕生日パーティーが終わった、次の日。

 

「あれ? 恭一君、早いね」

「ああ、もう寝坊なんて御免だからな。魔法少女とか魔女とか、色々知りたいぜ」

 珍しく、若林恭一は早起きして、幼馴染の柿原奈穂子と共に高校に通う道を歩いていた。

 魔法少女との関わりや魔女との戦いを通じて、恭一も生活を見直さなければと考えたのだ。

 そしてふと、恭一は魔法少女を手助けしている謎の生物、ジュウげむについて思い出す。

「そういえばさ、ジュウげむはどんな奴なんだ?」

「魔法少女を探している生き物だよ。それがどうしたの、恭一君?」

「いや、どうも奴は信用できないんだ」

 ジュウげむは一見、ただの魔法少女のマスコット。

 しかし、恭一は彼(?)を薄々ながらも疑っていた。

 魔法少女が魔女を倒し、災いを取り消すのはいい。

 だが、普通の少女を戦いに巻き込むのはどう考えてもやっている事がおかしい。

 世界平和のためには、犠牲が必要なのか?

 その事に、恭一は疑問を抱いていた。

「何とかあいつの尻尾を掴めねぇか? でも、普通の人には見えないしな」

「そうだねぇ」

 ジュウげむは恭一や魔法少女以外には存在を認識できない。

 そのため、相談しようにも、なかなか相談相手は見つからないのが現状だ。

「おっと! 早く学校に急がなくちゃな」

「そ、そうだね!」

 恭一と奈穂子は、急いで高校に向かった。

 

 午前の授業は無事に終わり、昼食の時間になった。

 同じクラスの恭一と奈穂子、隣のクラスのまり恵は屋上で一緒に弁当を食べていた。

「世界を平和にするとはいえ、ただの少女が戦うなんて、俺は認めたくないな」

「確かに……」

 魔法少女は魔女を倒す事で平和をもたらす。

 しかし、裏を返せば、ごく普通の少女が平和のために戦わなければならなくなっている。

 ジュウげむは善なのか悪なのか、恭一達には分からなかった。

「とりあえず飯食ったら、後で図書館で調べるか」

「でも、ジュウげむの事は載ってるかしら……?」

「それが分かれば苦労はしないけどな」

 

 昼食を食べ終わった後、恭一は図書館でジュウげむと魔法少女に関する本を探していた。

 しかし、めぼしい本はなかなか見当たらない。

「まり恵、こっちは見つかったか?」

「いいえ」

 恭一の言葉に、まり恵は首を横に振る。

 彼女でも、大した成果は上がっていなかった。

 一方、奈穂子は恭一が探しているものと関係なさそうな歴史書を、何故か真剣な表情で読んでいた。

「おーい、奈穂子、どうしたんだ?」

「ねえ、恭一君、これ、見て……」

「ん?」

 恭一は、奈穂子が開いているページを見る。

 そこには、取り留めのない文章が書かれていた。

「特に何もないが?」

「違うの。本来は起こったはずの出来事が、無かった事になっちゃったんだよ。確か、1782年の事だったかな」

「何の事だよ」

「知らないの、恭一君? 1782年、天明の大飢饉が起こったんだよ」

「あ、そういえばそうだったな」

 1782年に何が起こったのか恭一には全く分からなかったが、奈穂子には分かっていた。

 よく授業を聞いている奈穂子と、授業を聞かない恭一との差は歴然だ。

「天明の大飢饉は起こらなかったって事か?」

 奈穂子は首を縦に振った。

「ここから上を見て」

「ん、何々……1777年、少女が天使に導かれ、魔物を倒した。……あぁぁぁぁっ!!」

「静かに!」

 恭一は「少女」「天使」「魔物」という単語を見て大きな声を出す。

 奈穂子はすぐに、恭一の口に指を当てた。

「ご、ごめん、奈穂子……。これ、どこからどう見ても魔法少女とジュウげむと魔女じゃないか」

「うん、これで江戸時代にも魔法少女がいた事が証明されたんだ。歴史家だって認めているからね。

 それで、飢饉は起こらず平和が続いたんだけど、それでも結局、黒船来航をきっかけに開国して、後は私達が知ってる歴史の通りだよ」

「ほっ……」

 大した歴史改変ではないため恭一は安心するが、奈穂子は真剣な表情のままだ。

「恭一君は、歴史が変わった事に何か言わないの?」

「だって、悪い出来事だったら起こらない方がいいじゃないか」

「それがいけないんだよ、恭一君。確かに悪い事が起きて悲しいのは分かるけど、そこから学ぶ事だってたくさんあるんだよ。

 無かった事にしちゃったら、その教訓まで無かった事になっちゃうんだよ」

「……」

 奈穂子の言葉に、恭一は何も言わなかった。

 いや、何も言えなかった。

 

―キーン、コーン、カーン、コーン

 しばらくすると、午後の授業を知らせるチャイムが図書館の中で鳴った。

「二人とも、そろそろ行くわよ。授業が始まるわ」

「「あっ……!」」

 まり恵の一言で、恭一と奈穂子は本をしまい、自分の教室に戻るのだった。

 

 そして、午後の授業が終わり、放課後の帰り道。

 結局、ジュウげむについては何も分からなかったが、江戸時代にも魔法少女がいた事と、歴史が変わってしまった事も分かった。

「私達のよく知ってる歴史は、こうもあっさりと変わってしまうのね」

「だよな。災いは起こらずとても平和な時代でした、ってなれば、きっと羨ましがるだろ」

「はぁ……ジュウげむって、どうしていとも簡単に過去を変える事ができるんだろう……」

 ジュウげむの事をもっと知りたかった奈穂子は、溜息をつきながら歩いていた。

 すると、三人の目の前に、ジュウげむが現れた。

「やぁ」

説明
魔法少女とジュウげむの影響がここで現れます。
悪い歴史は、本当に消した方がいいのでしょうか?
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