連載小説76?80
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なぜだか、唐突に声をかけられた私達二人。

でも、意を決して振り返る事にした。

 

 

「誰だ!」

 楓が叫びながら振り返る。

 逆光のせいか、相手の顔は良く見えない。

「誰だとは失敬だな」

「失敬? そう思うんなら、もっと近づきなよ」

 ちょっと怖いけど、相手の顔が見えないのは、私には不安だ。

「そうだな、こんな遠くにいる事はねーか」

 つかつかと歩いて来る相手。一体どんな男なのか。

「声の感じじゃ、同い年くらいだね。えりか、耳に覚えは?」

「ない」

 楓がわざわざ訊くって事は、楓も耳に覚えがないんだろう。一体、誰なのか。

「これで、俺の事が分かるだろ?」

 至近距離までやって来たその男は、

「!」

「!」

 その男は!

「な、何驚いてんだよ」

「若い!」

「もしかして、高校生?」

 どう見ても、高校生だ。

「がくっ。そんなの見りゃ分かるだろ。つーか、驚きどころはそこか?」

「そこだね」

「いきなり私達に向かって叫ぶんだもん、どんなおっさんかと思うじゃん」

 私を不安にさせた罪は重いし。

「おっさんってなぁ! それよりも、それ以外に感想はねーのかよ」

「ないね」

「うん」

 全く、なんで私達に声をかけたのやら。そうだ、それは訊かなくちゃ!

「ね、君はなんで声をかけて来たのかな?」

「私達、すっごい不安になったんだけど」

「あ、いや、すまん。知ってる奴がいたんで、つい…」

 知ってる奴?

「楓、やっぱり知り合い?」

「あぁいや、知らない。えりかこそ、知り合い?」

 私達はしきりに首を振り合う。

「お、お前らなぁ」

 がっくりしてるって事は、やっぱりどっちかの知り合いなんだろう。

「でも、知らないものは知らないし…」

「ね」

「加藤清隆! 思い出せ!」

 加藤…清隆?

「思い出すも何も、私の人生にはそんな男はおらん」

「楓に同じく」

 正直、即答。

 

 

この男の子、一体誰なんだろう…

 

 

〜つづく〜

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加藤清隆と名乗った男の子。

でも、私達の知り合いを自称していながら、面識がない。

一体、どこで知り合ったの?

 

 

「なあ、ホントに俺の事記憶にないのか?」

「ないね」

「ないね」

 くどいよもぅ…めんどくさいなぁ。

「お前ら〜〜〜! 特に、そっちのぱっつん前髪!」

「あ〜〜っ! 私の事、そんな風に言ったね?」

「あ〜あ。逆鱗に触ったよこの人」

 私が気にしてる事をぬけぬけと!

「逆鱗? だってそうじゃないか。って、そんな事はどうでもいい!

そんな事より、なんで記憶にないんだ倉橋えりか!」

「なっ!」

 わ、私の名前を…知ってる…

「この人、えりかの知り合いなんじゃん」

「し、知らない知らない」

「失礼な奴だなあ! クラスメイトの顔くらい覚えとけ!」

 えぇ?

「クラス…メイト?」

「聞き返すな!」

「ちょっとえりか。クラスメイトの顔を覚えてないの?」

 う。

「それはまずいよー。男子は交流ないかも知れないけどさあ」

「き、気まずい…」

 そういえば、佐々木君の時もそうだったっけ…

「まじで覚えてなかったのかよ…」

「あー、そういえば、中学時代もそうだったっけ」

 か、加藤君をがっくりさせてしまったわ。仕方ない事だけど…

「おい、倉橋の友達。よく言い聞かせとけよ」

「言っても無駄だと思うけど…それより、声をかけた目的は?」

「そうだそうだ。それを教えてよ。私を罵倒したんだから、答える義務はあるよねー」

 何しろこの人、私の前髪の事を言ったんだから…フフフ。

「そ、それは…」

 ごくり

「そ、それは?」

「なにかななにかな?」

 

 

〜つづく〜

-3ページ-

私に声をかけて来た、クラスメイトの加藤清隆君。

正直見覚えのない男子だけど、そんな事より、

声をかけて来た目的って、何?

 

 

「俺がお前らに声をかけた目的はなぁ」

「うん」

「目的は?」

 なーんか、言いにくそうにしてる。ちと気になるね。

「知ってる奴を見かけたからだよ!」

「へ?」

「何、それ」

 正直拍子抜け。でもって、ちょっと憤慨。

「あのさ、そんだけの事で、あんな風に呼び止めないでよね!」

「そうそう。えりかがどれだけビビってたか」

 ちょ! 楓!

「そういう余計な事は言わなくていいから!」

「でも、事実じゃん」

 あー、もう、そうじゃなくて!

「女の子相手にあんな呼びかけ、デリカシー0だねっ!」

「す、すまん…」

「お? 意外と素直?」

 素直に謝ったからって、それで許してあげられるようなもんじゃない。

「あのさあ。謝る気持ちがあるんなら、なんで最初にもっと普通に声かけ出来なかったの?」

「そ、それは…距離が空いてただろ? だから…」

 そんなの、ぜーんぜん理由にならない!

「楓、それって、理由になる?」

「ならないね。少なくとも、私達はビビったんだし」

 よし、今度は楓も同意見だ。

「ちょ。じゃあどうすれば。謝罪ならするから!」

「ふふん。本気? じゃあ、私達これから買い物するんだけど、

荷物持ちをして頂戴」

「ちょっとえりか、都合確認からしなきゃダメじゃん。で、どうなの?」

 私としては、そんなに買い物するつもりはないから、大した事は要求してない。

「都合か…あ、あいにくと予定はない」

「あっそ。じゃあ決定ね。私達が買い物を終えて、駅に戻るまで、

荷物持ちをすること。これが罪滅ぼし。OK?」

 仕方なさそうな顔で了承する加藤君。これはこれで、アリかも。

「それじゃ、行きましょ。あ、できれば、道案内もよろしく」

「うんうん。私達より、詳しそうだ。っと、早速だけど、この荷物もよろしく」

「へい」

 よし、これで私達の買い物も、はかどるってもんだ!

 

 

〜つづく〜

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加藤君を荷物持ちに従えた私達。

よし、これで買い物もはかどるに違いない!

 

 

「んで、二人はどこに行くんだ?」

「ハチキュー」

「じゃのぅ」

 ハチキューってのは、おしゃれなお店がいっぱいあるビル。

正式名称は「蜂須賀第九ビル」っていうんだけど、

渋谷の「マルキュー」を真似して、みんなこう呼んでる。

「だったら道は分かるか」

「それは心強いね」

「えりか、結構いいアイディアだね、荷物持ちと道案内とは」

 ほっほっほ、そうなのです。

「でもな〜、ハチキューだろ?」

「だね。えりか、間違いはないよね」

「うん。異論があるのかな?」

 立場上、私達には逆らえないはず。何を言い出すのかな? このクラスメイトは。

「あそこ、男は入り辛いんだよな〜」

「おや、行った事が?」

「行った事があるなら問題ないと思うんだけど?」

 しかし、行き辛いと言いながら行った事があるとは、これは異な。

「あの時だって荷物持ちだったんだ…またかよ」

「ほほぅ。これは興味深いですな。ねえ、楓さん?」

「ですなあ。詳しく聞かせて頂こう」

 私達は加藤君に詰め寄った。場所は薄暗い路地だけど、構うもんか。

「〜〜っ。詰め寄るな。彼女と行ったんだよ。おかしくないだろ?」

「おかしくないけど、彼女持ちとは許せん!」

「恋愛を楽しむ男は罪だね」

 私達は一致団結した。

「それに、彼女がいながら私達にあの態度。ますます許せませんな」

「うむ」

 ふっふっふ。

 

 

私達二人は、満場一致でさらなる制裁を決定した。

 

 

〜つづく〜

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まさか、加藤君に彼女がいたなんて。

私達女の子二人としては、制裁措置を追加するしかない。

急遽制裁会議を開始した。

 

 

「ねえ、楓さん。どうする?」

「そうだね、えりか君。ここは一発、加藤君が恥ずかしくなるようなので、

どうかね?」

「おーい」

 恥ずかしくなるような…か。

「安直ではないかね?」

「だが、それ故に効果的だとは思わんかい?」

「ちょっとー?」

 安直故に効果的か。ふむ、一理あるな。

「で、具体的に何を考えてるんですかな?」

「それはね?」

 楓が私に耳打ちをする。

「ほうほう、それはすごいですな」

「でしょう? 異論はないようだね。では実行という事で」

「ちょっと、何を企んでるのさ!」

 会議は満場一致で結した。

 

「ーーというわけで、追加制裁措置を決定したので通知します」

「通知します」

「で、俺はどんな辱めを受けるんだ?」

 ま、追加制裁はともかく、まずは服を買わなきゃだ。

「とりあえずハチキューに行こう」

「予定通りにね」

 私達は、歩みを止めない。

 

 

〜つづく〜

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第76回から第80回
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