真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 88
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「……うっ」

 

 俺は痛みで意識を取り戻すと周囲を見渡した。

 

(こ、こ……は?)

 

 体が動かないので目だけで周囲を見渡す。とりあえず、さっきまで戦っていた城の中ではないのは確かだ。ふと、川のせせらぎが耳に入ってくることに気が付いた。

 

(あ、ああ、ここ、は……あそこ、か)

 

 月明かりだけなのではっきりと見えているわけではないが、多分あの大猪を仕留めた山の中だろう。

 

(……いや、俺は、俺は……生きてるのか?)

 

 そこで、ようやく俺は生きていることを実感した。

 

「うっぐぅ」

 

 実感すると同時に全身に激痛が走る。まさしく“全身が焼かれる”痛みだ。

 

「おーおー、ようやっと目を覚ましたかバカ弟子」

「……は?」

 

 痛みに支配される体に逆らってその声がした方向を見上げる。

 

「神の雷に焼かれて生きてるなんて貴重な経験じゃねぇか。おめぇがとろくさかったおかげで経験できたんだ。後生大事に覚えときな。ああ、ついでにぼろ負けした経験もな」

 

 そこに、あり得ない人間が座っていた。月を背にして座るその姿だけでわかる。

 

「し、し、しょう……?」

「おう、お前の愛してやまない負け犬弟子を持ったお師匠様だ」

「なん、で……」

「その前に、てめぇはいつまで寝てんだ? 俺は座って話してんのに寝ながら受け答えるなんざいつからそんなに偉くなったんだ? あ?」

「ぐっ!」

 

 言われて俺は全身に力を込めて体を起こして、あぐらの姿勢で座る。

 

「お〜、やりゃできんじゃねぇか。うんうん、ちゃんと成長できてんじゃねぇか。俺は涙がでそうなほどうれしいよ」

 

 “よよよっ”と袖で目を隠すがこちとら何年も教えを受けてきた身だ。

 

「……んなこと、思っちゃ、いないだろうに」

「かかかっ! バレたか」

 

 なんも悪びれずにそういう男は俺の剣の師匠だ。だが、師匠は俺がこの世界に来る前の世界にいた人だ。それがどうしてここにいるのだろうか?

 

「だが、お前が成長してんのは事実だ。なんせ始終同迅を完成させたんだからな」

「やっ、ぱりな……」

 

 俺があの時感じた感覚は間違いなかったってことか。だが、それでも俺は……

 

「俺は、負けた」

「ああ。お前は始終同迅の段階で終わらせることができた機会を逃したわけだ」

 

 その一言に心が痛む。しかし、師匠の言葉にふと違和感を覚えた。

 

「始終同迅の“段階で”?」

「おぉ! ちゃんとそこで引っかかったか。そのまま流したらどうしようかと思っちまったぜ」

 

 どうやらワザとだったらしい。だが、それだと尚の事意味が分からない。

 

「どういう、意味だ? 始終、同迅は……奥義じゃない、のか?」

「ああ、始終同迅は確かに奥義だ。だが、あれは奥義の“初歩の初歩”だ」

「っ!?」

 

 師匠の言葉に俺は驚きを隠せないでいた。

 

(あれほどの技が、初歩の初歩!?)

 

 どういう意味なのか? 俺の頭に色々な言葉が湧いては混ざり、消えては浮かびを繰り返す。師匠はそれを見透かしているのか、答えを口にする。

 

「お前に教えてる剣はな、申を狩るためにあるのさ」

「な、なん……!?」

 

 驚きが止まらない。

 

「でだ、申を狩るには“人”の器ではどうにもできない。歯が立たないどころじゃない、歯を立てる前に消え去る」

 

 “だから”と話は続く。

 

「戦うのであれば同じ申に至らなくてはならん。故にこの剣は生み出されたのさ。人の器を砕き、申の器へと至るために」

「…………」

「理解がいまいち追いついてねぇって面だな。じゃあ、分かりやすい変化を教えてやる」

 

 師匠は座っていた岩から立ち上がって俺の目の前に降り立つと俺の額に指を突き付ける。

 

「お前、今体どのくらい動く?」

「え?」

 

 言われて体を動かすが、ものすごくゆっくりとしか動かせない。

 

「さて、ここで問題だ。“雷に打たれた人間はすぐに動けるでしょうか?”」

「……あ」

 

 そうだ、動けるはずがない。そもそも、打たれて生きていること自体が奇跡と言われるような話だ。

 

「それが“人の器”を砕いてその先へ行った証拠だ」

「……じゃあ、この、先は?」

「よぉし、じゃあ久々に教えてやる」

 

 意気揚々と師匠は話し始める。

 

「お前が覚えるべき技はあと3つ。参刃夜叉(さんじんやしゃ)、四刄昇華(しじんしょうか)、そして申へ至るための奥義、申化伍刄(しんかごじん)」

「3つの奥義……」

「でだ、人の器を破ったお前には参刃夜叉を今から見せてやる」

 

 どこからか取り出した刀を師匠は右足を前にして刀を背中に納めるようにして構える。

 

「これが、参刃夜叉だっ!」

 

 そして、刀は目の前の木へ向けて振られた。

 

 一撃目は首を狙った横切り、二撃目は逆袈裟、三撃目は袈裟。それが始終同迅と同じように同時に振られた。

 

 振られてから一息遅れて木は四つに分かれて地面へと落ちた。

 

「これが、二つ目の、奥義……」

「さて、明日から徹底的に叩き込んでやる」

 

 その言葉に俺は胸を強く握りしめ顔をあげて師匠の顔を見る。

 

「……はいっ!」

「……てっきり驚く面が見れると思ったんだが、やるじゃねぇか」

 

 口の端を釣り上げ、不敵な笑みを見せる師匠。

 

「その意気なら問題ねぇな。明日から地獄を見せてやる」

「……望む、ところ、だっ!」

 

 “いきがりやがって”と言って師匠は背を向ける。

 

「あ〜、そういや俺がこの世界に来た方法、知りたいか?」

 

 突然、師匠からの言葉に面を食らう。

 

「それは、まぁ」

「そうかそうか。じゃあそこの女に聞くといいさ」

「女?」

 

 それだけ言い残して師匠は森の闇へと消えていった。

 

 俺は何と無しに師匠とは反対の方向を見ると、木の陰に誰かがいた。

 

「誰、だ?」

「っ!」

 

 声をかけられた人影は迷っているように感じられた。

 

「……小野小町か?」

「……………」

 

 影は答えない。だが、俺は説明できない確信があった。だから、その確信に従って話を続ける。

 

「……前から、気には、なっていた。なんでお前が、俺に、手を貸すのか」

 

 この世界に行かせたのは菅原道真が理由だろうとは思うが、それにしたって手を焼きすぎだと思う。では、なぜその理由は何か?

 

「前は、見当も、付かなかったが、思えばお前の声色には、何か、負い目や、心配の色が、あった気がした」

 

 だが、俺には雪華とこの世界の住人以外で心配をしてくれる相手は思い浮かばない。だが、“それより前の世界の住人”ならば?

 

「……こまねぇ、なんだろ?」

「……っ!!!!!!」

 

 人影がここから見ても分かるぐらいに体が跳ねた。

 

「こまねぇは、あの時“あなたはこれから他の世界に飛ばされる。”って、言ってたよな?つまり、他の世界を、知っていた、んだよな」

 

 このことから導き出される答えは、こまねぇは元々他の世界の人間で、あの時から他の世界を渡る方法を知っていたんだ。

 

「なんで、あの世界に、いたのかは、知らない。この世界で、俺を、助けてくれる理由も、知らない。でも、一つだけ、一つだけ言わせてほしい」

 

 俺はそろそろつらくなった喉をもう一度動かして伝えたい言葉をひねり出す。

 

「あり、がとう、な」

「……あ、ぁ」

 

 俺の一言で、彼女はその場で座り込んでしまう。そして、すすり泣く声が聞こえ始める。

 

「わた、わたし、は……」

 

 その声は、俺が子供の時に聞いていた、こまねぇの声だった。

 

「あの時も、今も、たす、助けられなく、て……!」

「……でも、俺を、助けてくれた、じゃん」

「それはっ! あなたが、あなたが星に、選ばれた、子だったからっ!」

「それだけで、人助けが、できる、人じゃないだろうに」

 

 6年も同じ村で生活していたんだ。それくらいは分かるってもんだ。

 

「……生きてて、よかった」

 

 その一言が、彼女の涙腺を崩壊させた。

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「で、そろそろ、そこから、でて、話、しねぇ?」

「……やだ。目腫れてるし」

「年頃の、乙女じゃ、あるまい、し……」

「……17歳だもの」

「その設定、まだ、生きてる、のかい……」

 

 と、呆れるが、彼女はそれに抗議する。

 

「設定じゃないからね。私、17歳で本当に歳が止まってるのよ」

「んなっ」

 

 バカな、と思ったがよくよく考えれば他の世界から来ていることを考えればあながち嘘ではないのかもしれない。

 

「ってことは、今は俺が、年上って、わけだな?」

「……17歳の時間は、玄輝より長いわよ」

「じゃ、今度から、ババアって、呼ぶわ」

「しめるわよ?」

「こっわ」

 

 

 ケラケラと笑おうとするが、のどが痛み激しくせき込む。

 

「玄輝っ!?」

 

 そこでようやっと木の影からこまねぇが飛び出してきた。

 

「まったく、本当に、変わってねぇじゃん……」

「……」

 

 俺の一言にこまねぇは気恥ずかしそうに顔を背ける。

 

「……だから言ったでしょ。私は17で止まってるのよ」

「どういう理屈だよ……」

「……そうね、あなたもここまで来たなら知っておくべきね」

 

 こまねぇは動けない俺の傍に座って話し始めた。

 

「この世界、あなたはどう思った?」

「……どう、ってのは?」

「関羽や曹操が女の子だってこと」

「……正直、歴史、ってわけわからねぇって思った」

「でしょうね。でも、これは“本当の歴史”ではないのよ」

「……は?」

 

 何を言ってるのか分からない俺を置いて話は続けられる。

 

「この世界はね、“外史”と呼ばれる世界なの」

「外史?」

「“こうなっていてほしい”“こうだったら面白いな”そうやって人が想ったものが集まった世界、それが外史。幹から延びる枝葉の世界」

「じゃあ、偽物って、ことか?」

 

 彼女たちは、愛紗は……

 

 だが、俺の迷いは一瞬で吹き飛ばされる。

 

「断じて違うわ」

「っ!」

「この世界は枝葉。でも、それは確かに存在している。嘆き、苦しみ、喜び、助け、愛し合う。だから偽物なんかじゃないわ」

「……そ、っか」

 

 それはそれで安心した。まぁ、心に残るものがないとは言えないがそれでも偽物なんかじゃないと分かっただけでも良しとする。

 

「……ちょい、まった、じゃあ、俺や、こまねぇは? 俺たちも外史の人間なのか?」

「同じ、とは言えないわね。そこも説明するわ」

 

 “まずは”と言って始めたのはこまねぇについての説明だ。

 

「私たちは“管理者”と呼ばれる存在なの」

「管理者?」

「外史も無限に存在できるわけではないわ。時には無理やりにでも終わらせなければならない外史というのもあるのよ」

「……つまり、他の世界を、残すために、世界の剪定をする、存在ってわけか」

「……まぁ、そうね。それにもいろいろあるけど、その認識でいいわ」

「……しんどくないか?」

 

 その言葉に驚きの表情を見せるこまねぇだが、それはすぐに寂しそうな笑顔に変わる。

 

「慣れちゃったから、大丈夫よ」

「……そっか」

 

 俺はそれ以上、聞かないで俺についての話を頼んだ。

 

「あなたは外史の人間ではあるけど、少しだけ違う点があるの」

「違う点?」

「限りなく本史に近い外史から生まれた存在なのよ、あなたは」

 

 ……よくわからないな。

 

「てか、本史ってのは本当の歴史ってことか?」

「と、その説明が抜けてたわね。その通りだし、そのまんま。で、そんな外史に生まれたあなたは他の外史の人間より本史の人間に近しい。それ故に管理者の影響をあまり受けないのよ」

「……管理者の影響?」

「あなた、記憶が消えないでしょ?」

「……それが理由なのか?」

「ええ。簡単に言えば上位権限がある存在、とでも言えばいいかしら? 管理者になればすぐさま重役の席に案内されるぐらいのね」

 

 ……それほどまでにすごいのか、俺?

 

「自覚ねぇ……」

「あったら逆に怖いわよ」

 

 呆れたように笑うこまねぇ。だが、そこで唐突に疑問が湧いてきた。

 

「……ちょっと待て、だったら雪華はどうなんだ?」

 

 俺が影響を受けないのは本史に近い人間だからというのは分かった。だが、それだと雪華はどうなる?

 

「雪華は、俺と似たような存在とは思えない。アイツは何が違うんだ?」

「……おそらくだけど、あの角が関係しているわ」

「雪華の、角?」

「ええ。彼女、多分本物の鬼が宿ってるわ」

「なんっ!?」

 

 思わず体を起こそうとするが、それをこまねぇが慌てて制する。

 

「落ち着きなさい。宿っているって言っても、そこまで影響がある物ではないわ」

「……どういう事なんだ?」

「さっき、私たち管理者の仕事は話したわね?」

「外史の剪定だろ?」

「そう。でも、外史は本物の枝葉ではない。消え去るときに数多の“残滓”が散っていくの」

「残滓?」

「その世界で大きな力、強い意志を持つ者。それらは世界が無くなっても漂っているの。普通ならそのまま消えていってしまうんだけど、稀に他の外史に紛れ込んでしまうことがあるのよ」

 

 と、いう事は……

 

「その残滓が、雪華の中に?」

「そういう事でしょうね。でも、しょせんは残滓。見た目は変わってしまったけど、意志もなければ力もないわ。雪華ちゃんがそれに侵されるということは無いはずよ」

「だが、管理者の影響は受けてないんだよな?」

「ええ。とは言っても、影響はそのぐらいよ。さっきも言ったけど、残滓は残滓。人を変えるほどの力は持ち合わせていないわ」

 

 こまねぇの言葉に一安心して、息を大きく吐いた。と、ここでまた疑問が出てくる。

 

「なぁ、その影響ってのは、外史の人間はどう足掻いても消せないのか?」

「それって、外史の人間の記憶を消させないようにするってこと?」

「ああ」

「できなくはないけど、それは管理者としては禁忌ね。特例でもない限りはできないわ。あとは、その外史の人間の格次第かしら?」

 

 …………どういう事だ? と口に出す前に察したのか、続きをこまねぇは話す。

 

「外史の人間も本史の影響を大なり小なり受けるわ。例えば、本史で神様扱いされている人間がいたら、それに合った特性を持ってたりするし、本史の誰でも知っているような有名人ならその分、影響を弾き返せることもあるわ」

 

 という事は……

 

「たとえ、ば、アーサー王とかだと影響を弾き返せる可能性があるってことか?」

「そうね。アーサー王ならあり得るわね。この世界でも対象の娘は何人かいるけど……」

「……それだけ道真の影響が強いってことか?」

「ええ。まぁ、神様だからね。それに有名人でもある」

 

 怨霊と畏れられ、そして現代においては学問の神。おまけに教科書にも載ってるから日本における有名度はかなり高い。

 

「……現状は、無理か」

「そうね。さて、今日はここまでにしましょう」

「待ってくれ、まだ」

「無理しないで。大丈夫よ、しばらくはあなたたちに同行するわ」

「たち……?」

 

 と、そこで翠たちの顔が浮かんだ。

 

「そうだっ、翠達、馬超たちはっ!?」

「馬岱ちゃんは寝てる。馬超は周囲を見張ってるわ」

「そ、っか……」

 

 話を聞いて安心したからか、急激に瞼が重くなる。

 

「あ、あ、れ……?」

 

 抗うことはできず、俺はそのまま気絶するように眠りに落ちてしまう。ただ、落ちるまでの短い時間にこまねぇの“おやすみ”だけは何となく聞こえた気がした。

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はいどうもおはこんばんにゃにゃにゃちわ。作者の風猫です。

 

いやはや、GWも終わりましたね〜。へ? GWは水曜日に終わっただろうって?

 

いやいや、木金はあれですよ、GWの中休みですよ。つまり、GWが終わったのは昨日なのですっ!

 

……すんません、少しでも長く続いてほしいという現実逃避ですはい。

 

で、そんな現実逃避はここまでにして、日常の話をば。

 

つい昨日の話ですが、バイオ8が発売になりましたね。正直、バイオは4ぐらいしかやったことがないので、あんまり興味がなかったのですが、とある配信者のクリアするまでぶっ通し配信を見たらなんと、4と似たシステムがいくつかあるじゃぁありませんかっ!

 

で、先日ZONEのキャンペーンで3000円当たりまして、買おうかどうか、買うとしたら7とセットになってるやつか普通の豪華版を買うかで悩んでいる最中です。

 

もし買ったらまた話に書くかもしれませんのでお楽しみ(?)に!

 

さて、今回はここらへんで。

 

誤字脱字がありましたら、コメントにお願いします。

 

では、また次回っ!

 

 

 

説明
オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話です。

大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。
































ちゃんとオリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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