異世界雑貨店ルドベキア3
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アルから預かったカメラを分解して、大体必要な部品はわかってきた。

カメラの箱を作っている素材は大体簡単に仕入れられそう。

 

問題はレンズとフィルムの材料。

レンズは未知の技術ではないけど、とにかくお金がかかる。

ただでさえ原料の流通が滞って高騰している上に、透明度が高くて大きな塊となると尚更技術料がかかる。

 

フィルムについてはお店で買うのは絶望的だった。

でも、こっちは自分で採取するなら心当たりがあった。

 

 

(ルド)「ああ、いらっしゃいアル君。ちょうどよかった、君も今度カメラの材料の調達にいかない?」

(アル)「わあ!カメラ作れそうなんですね!行きたいです!何を取りに行くんですか?」

 

カメラが作れるかどうか様子を見にきたアルは、聞くまでもなく満面の笑顔になった。

相変わらず氷の入った桶で足の踏み場が少ない店内をアルは必死に歩いてくる。

 

(ルド)「レンズの材料と、フィルムの材料だね。サモナンから南にナダラ森ってあるでしょ?そこのマジックゴーレムの目がかなり良い純度と大きさのクリスタルなんだ。フィルムは・・・・。アルくん?」

 

アルは一気に暗い表情になって、小刻みに震えてる。

 

(アル)「そ、それってナダラ遺跡の魔法生物のゴーレムですよね・・・。あそこのゴーレムは普通のゴーレムなんて目じゃない強さって言うじゃないですか!」

(ルド)「大丈夫だよ。必要最低限の採取しかしないから、すぐに復活するよ」

(アル)「ややや!ゴーレムの心配じゃなくってですね!」

 

アルの猫耳がすっかりヘコたれてしまった。

 

(ルド)「あはは。わかってるわかってる。ま、私に任せておきなさいって」

(アル)「にゃぉおん・・・」

(アリス)「ッブ!」

 

あまりにも情けない声を出すものだから思わず吹き出しそうになったら、アリスが代わりに吹き出した。

ナダラ森に出かける準備をしていたアリスは、お店に並んでいる保存の利く食べ物をいくつか見繕いにでてきたところ。

ビスケットに氷砂糖を携行用に。お湯は用意できるから、カップ麺なんかもカバンに入ってる。

店先の食べ物をカバンに入れた手は流れるようにアルの頭に手が伸びる。

 

(アル)「アリスさあん・・・。あまり頭を撫でないでくださいよお」

(アリス)「へへ。でさ、行こうよ。ルドさんが大丈夫っていうから大丈夫だよ。むしろルドさんとなら楽しいから」

 

自分とほとんど同じ身長の猫を撫でるアリスは、友達・・・というよりペットを撫でているようでちょっとヒヤヒヤした気持ち。

猫獣人の前でしないようにね・・・。

 

 

(ルド)「そうそう、フィルムの材料はブラックスライムなの。アレを薄く伸ばしてフィルムの代わりにしようと思ってるんだ」

(アル)「おお!でも、光で焼けるなら作る前にダメになってるんじゃないですか?」

(ルド)「スライムをそのまま使うわけじゃないから大丈夫だよ。濾過(ろか)して必要な材料を取り出すんだ。ゴーレムは私がなんとかするし、あの辺は魔物が出ないから安心して。」

(アル)「ルドさんって戦えるんですね・・・」

(ルド)「多少は・・・ね」

 

この世界に来たばかりの異世界人には勘違いされがちだけど、この世界の魔物は通常の生命体とは明らかに違う特徴を持っている。

説明すると長くなるけど、ひとまずゴーレムやスライム、ゴブリンやコボルトなど異世界人に魔物と思われてるものは大抵魔物ではない。

 

(アリス)「ルドさん!私たちの準備はできましたよ!」

(ルド)「ありがとう。そうしたら、あとはアル君の分だね」

(アル)「え、ええ?ご、ゴーレムがでるんですよね・・・。戦うんですよね」

(ルド)「あはは。怖い思いはさせないって約束するよ」

 

アルは少し迷ってギラっと猫目を光らせた。

 

(アル)「行きます!この世界に来てからその日暮らしでずっと働き詰めでしたから。あ、休みはちゃんとありますよ?」

(ルド)「うんうん。ピクビック気分で楽しく行こう」

 

 

アルの荷物の準備をしにいつもの街へ買い出しにいこう。

もうオヤツの時間、今日のところは服をお願いして終わりかな。

猫獣人は普通チョッキみたいな手軽なものしか身につけないから、オーダーで作ってくれるところにお願いしないといけない。

 

先週から丁度エルフの里から知り合いの服屋が街にきている。

しばらく会ってなかったし、挨拶がてらお願いしに行こう。

 

帰ったら、来週明けに店に並べる”とある物”のために準備をしないと。

今日が木曜。

土日のどちらかでナダラ森に行って、月曜の祝日に品物本体の準備をしたいから大急ぎだ。

 

 

街に出て、先を歩く私と横に楽しそうなアリス。

後ろからおずおずとアルがついて歩いている。

 

(アル)「あの・・・、本当にいいんでしょうか。僕の荷物までお金をだしていただいてしまって」

(ルド)「あはは。気にしないで。これからウチをご贔屓によろしくね」

 

まだ会って間もないけど、なんとなくウチによく来てくれたら嬉しい良いお客さん。

時々毛感触のいい猫毛を撫でさせてくれたらいいなあ・・・。

その辺の猫獣人じゃ絶対にできない所業だからね。

 

 

そうこうしているうちに街並みは人間たちのお店から、エルフのお店が集まるあたりまで来た。

この辺りはエルフの里からの交易でエルフが行き来している。

残念ながらこれだけ人数がいても、サモナンに住み着いているエルフは私以外一人もいない。

 

ちょうど今日来る予定だった服屋さんに即席でお願いできないか、いつも来る場所を目指していく。

目当てのお店には、顔見知りの赤髪エルフの女性が私を見つけて手を振ってる。

 

(ルド)「ローズさん。お久しぶりです」

(ローズ)「ルドちゃんお久しぶりねえ。もう全然エルフの里には戻ってこないじゃない」

(ルド)「あはは・・・。流石に堂々と帰れる身の上ではないので・・・」

 

ローズさんは人間とは親しくはないけど、人間の街に暮らす私によくしてくれてる。

数ヶ月に一度、商隊と一緒にサモナンに来た時は、私のお店にもきてくれるだよね。

 

(ルド)「今度面白いものができそうなんです。そうしたら久しぶりに帰ろうかなって思ってます。もちろんこっそりと、ですけど」

(ローズ)「ルドちゃんはいろんなものを作るわねえ。私は長居しないで帰るつもりだから、里で楽しみに待ってるわ。」

 

カメラができたらなかなか帰れない故郷を思い出に残しにいきたいな。

追い出された建前上あんまり帰れないんだけど、それでも私にとっての大切な故郷だから。

 

もう何年も会っていない両親の様子を見にいきたかった。

 

(ローズ)「さて、今日は何をお求めでしょうか?」

(ルド)「今度採取にナダラ森に行くんです、それで今日はこの子の服をお願いできませんか?」

(ローズ)「あら、猫獣人に?」

(アル)「ゴロナオ・・・」

 

森林を歩く上で、猫の毛皮でも二足歩行の猫獣人は足元が冷える。

だからズボンと長靴くらいは欲しかった。

猫獣人でも、街暮らしは毛繕いができないからね。

 

ただ、普通街で暮らす猫獣人には合う服はまず店に並んでないんだよね。

 

ひとまずアル君の採寸をしてもらうことにした。

 

(ローズ)「なるほどね。それならルドちゃんの持ってる袴パンツと同じようなのを作りましょうか。あれなら猫足でも動きやすいわ。」

(ルド)「いいですね!」

 

サモナンはこの大陸の中でも比較的温暖で湿度が高い。

和服のような通気性がいい服は結構着心地がいいんだよね。

きっと、猫獣人が切るにしてもマッチするかもしれない。

 

(ルド)「あ、アル君どうかな?勝手に話進めちゃってるけど・・・」

(アル)「ルドさんとお揃いの柄でお願いします!」

 

(アリス)「あ!いいなあ。私も今度ルドさんとお揃いで作ってもらおうかなあ」

(アル)「あ、えっと、僕は服はよくわからないからで・・・」

 

自分が好かれているのは嬉しいけど、お揃いってどうかな?

想像してみて、それもいいかもしれない・・・。

 

そういえばエルフの里でもみんな似たような格好してるなあ・・・。

 

 

(ルド)「それじゃあローズさん。よろしくお願いします」

 

服を受け取るのは明日の夕方。

他に行くお店は少し距離があるから、予定通り今日のところは帰ろう。

 

(ローズ)「あ、そうそうルドちゃん・・・。」

(ルド)「あ・・・、新巻きてますよ。丁度先週バーバラさんが納品にきたので」

(ローズ)「せ、せせせせせ先週!?ざ、在庫は?在庫はあるの!?」

 

ローズさんは血相を変えて私の両方を掴んだ。痛い。

 

(ルド)「ろ、ローズさん痛いです・・・。爪は立てないでください・・・。まだお店には並べてませんから!」

(ローズ)「ご、ごめんなさい。つい興奮してしまって・・・。」

(ルド)「今日ローズさんのところにお邪魔するつもりだったので持ってきてます」

(ローズ)「本当!?流石ルドちゃんだわ!エルフの里はとんでもない人材を流出させたわ!」

(ルド)「・・・・・・。」

 

 

(アル)「あ、アリスさん。あのローズって人が言ってる物って・・・?」

(アリス)「ああ・・・うん、BL本のことだよ」

 

ホモゥ・・・・。

 

ウチの店の比較的近くに住んでいるバーバラさんは異世界人でマンガ描き。

でもその内容が私には難解なものなんだけど・・・。

 

ローズさんみたいに熱狂的なお客さんが意外と結構いるんだよね。

普段は静かなウチのお店も、3、4ヶ月置きにくる新巻発売がされると異様な雰囲気の行列に襲われる。

 

今のところマンガ描き自体が異世界人だけしかいない上に片手で数えるくらい。

なかでもBL作家はこの世界にバーバラさんしかいない。

 

『弱小サークルのBL作家が異世界に行ったらBLの神になった件』

 

後にしたローズさんのお店から歓喜の悲鳴が聞こえる。

今月の新巻はいつもの倍は必要かも。

帰ったらバーバラさんに追加発注の連絡をしよう・・・。

 

(ルド)「アリスちゃん。帰ったらスポーツドリンクと軽食の材料を発注をするから、置き場の準備を手伝ってくれる?」

(アリス)「戦争ですね・・・。」

 

ローズさんにBL新巻を渡す。

それがこの戦いの火蓋を切る合図だった・・・。

 

(ルド)「きっといつもの量じゃ不足だなあ・・・。今度の土日にナダラ森に行くのは無理かも。とほほ・・・」

説明
【服屋のローズ】
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