異能あふれるこの世界で 第三十一話
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≪15分後≫

 

赤土「そんじゃ仕切り直しといこう。まずは再確認だ」

 

恭子「はい」

 

赤土「対異能なんてレベルが上がれば大した話じゃない、ってのはすでに話した。世のプロたちを見ていればわかることだ。一つの事象を起こす異能を使うプロは、一部の例外を除き、ほぼ必ずその異能を数ある手段の一つにまで押し下げている。今年インハイで猛威を振るった彼女たちだが、プロで活躍するには鍛え直しが必須だろう」

 

恭子「はい」

 

赤土「じゃあ、それは何故だ。なぜそうなる。プロなら勝てて、恭子たちが勝てない理由は何だ。違いは何処にある? 実力? 経験? もちろんそうだ。それもある。じゃあ、異能持ちに勝てない理由はそこなのか? そうとも言える。納得の理由だ」

 

恭子「はい」

 

赤土「はいじゃない。直していくんだろう?」

 

恭子「え……あっ!」

 

赤土「まあ、今はいいけどな。そこで止まらなければ」

 

恭子「待ってください。ちょっと今のは、その……すみません、気い抜いていました。勝てんことに納得なんてしてませんからっ」

 

赤土「はっはっは! よーし、良い感じだ。休憩で弛緩した緊張感は取り戻せたか?」

 

恭子「汗、出ました。一気に」

 

赤土「ならおっけーだな。つまめる物も用意した。糖分とってさ、どんどん頭回していこうな」

 

恭子「はい。気持ち入れていきます」

 

赤土「今度はちょっと前のめりか? やっぱ、うちの子たちとはさじ加減が違うね」

 

恭子「それ、あえて言うのは勉強のためですか?」

 

赤土「必要はないんだけど、知らないよりはいいだろ。まあ、サービスだと思ってほしいかな。知覚するなり受け入れるなりズラしてみるなり、好きにしていいよ」

 

恭子「では、聞いてみてもいいですか?」

 

赤土「わかってきたね。言っていないことしてくるあたりがさ」

 

恭子「赤土さん、どんだけ頭回して生きているんですか? 日常会話から相手を誘導するとか、精神的な負荷がとんでもないと思うんです。私は後輩の面倒見るだけでも頭が痛なってましたから、できていることがもう想像を超えてしまっていて――」

 

赤土「あー……どう説明するかなあ。んーと……ああ。それ言うならさ、大阪の人の方がすごくない?」

 

恭子「えっ」

 

赤土「あんだけウケを狙い続けるとか、普通の神経じゃ無理だよ。日常会話の中でも、どっかで必ず隙を突いてネタをねじ込んでくるでしょ。アレの方がすごいって。だってさ、メリットが見えないんだもの。私がやってるのは、可能な限りで私にも皆にもメリットがあるようなことだろ? やりがいがあるよね、そういうの」

 

恭子「大阪人にとっての笑いが、赤土さんにとっての操作、ですか?」

 

赤土「まあ、一緒ってわけじゃないけどね。常日頃から、って意味では共通していると思うよ。あと、操作ってよりは改善、って感じかな。私はそう思ってやってる。誰かを不幸にするために、こういうことをやるのは好きじゃない」

 

恭子「ああ、それはありがたいです」

 

赤土「そっちのあの人とは並べないでくれよ。面白がってやってると、どうしたって気分を害してしまうこともあるから。その時々のウケ以外に得がないのは、ちょっとな」

 

恭子「それでも笑いを取ってしまうあたりが、大阪人かもしれませんね。私はあまり笑いを取る方やないので、ようわからんところもありますが」

 

赤土「あの人のは人の悪さもあると思うなあ。楽しいっちゃあ楽しいんだけど、面倒臭いことも少なくない。最低限の節度はあるから嫌うほどではないけど、出会っちゃうと『うわ出た』とか言われる感じ。顔しかめる人、多いよね」

 

恭子「他の高校の監督に挨拶する時、顔に出てしまっている方もいましたね。そういうところ、有名だったのでしょうか」

 

赤土「まあねえ、そんなに広い業界じゃないから。それに、赤阪さんには善野さんがいたのがなあ」

 

恭子「え、善野さんですか?」

 

赤土「ああ。善野さんは、この業界の同世代なら誰でも知ってるような有名人だ。キャラも立ってるから、ファンもけっこういたよ。恭子もそうだろ? で、あの善野さんが可愛がっている後輩となると、まあ注目される。最初はあんなんじゃなかったと思うんだけど、いつの間にか際物キャラ扱いされてたなあ」

 

恭子「わかるような気もします。でも……」

 

赤土「ん、なんか引っかかっちゃった?」

 

恭子「あの、赤土さんにしては、情報がこう、ふわっとしているなあと思ってしまいました」

 

赤土「痛いトコ突くね。だってさ、仕方ないだろ。善野さんが三年の時、赤阪さんは二年。私は一年だ。赤阪さん自身は、そこまで有名じゃなかった。高校に入ってから調べ始めたけど、優先順位は高くないから私的なところまではほぼ踏み込んでないんだ。善野さんのついで、くらいの情報しか持ってない」

 

恭子「え、でもその後に」

 

赤土「みなまで言わせるなよ。私は一年のインハイで小鍛治さんに出会ったんだ。それ以降の高校麻雀界なんて、気にしていられる状態じゃなかった」

 

恭子「あっ」

 

赤土「いや、いいよ。謝られることじゃない。それより、もういいだろ? 時間は十分に与えた。質問に対する答えを聞きたい」

 

恭子「……少し質問させてください」

 

赤土「いいよ。それで答えの精度が上がるんなら、いくらでも」

 

恭子「今回のインハイでも、宮永照は圧倒的な力を見せつけました。完全勝利とまではいかなくても、まだ世代最強であると思ってます。その宮永でさえ、プロではやっていけないんですか?」

 

赤土「やっていけない、とは言っていない。前の説明を詳しく覚えてちゃいないが、プロの下位なら圧倒できるだろうとは思っている。ただ、シーズンを通して、世の人が言うような活躍が続くことは無い」

 

恭子「断言、ですか」

 

赤土「プロはチームで勝ちにくるからな。当然、勝つほどに強い選手とを当ててくる。そして、情報を完備したプロの上位には絶対に勝てない。これは口止めしておくが、戒能ちゃんは宮永姉に勝てる自信が無いとボヤいていたりするんだ。たぶん相性の問題だと思うんだが、対策を立てにくいらしい」

 

恭子「その時点で、すでにものすごいことだと思いますが」

 

赤土「だが、はやりさんは相手にもしていない。完全に高校生レベルの選手として扱っている。もちろん、私もはやりさん側だよ」

 

恭子「……なら、赤土さんの強さは」

 

赤土「ダメだ。それは言えない。だいたいさ、麻雀打ちに自分の強さを聞いても、まともな回答なんて返ってこないよ。テキトーにはぐらかされて、嘘情報を掴んだ気にさせられるのがオチだ。そんなことよりも今は、お前の話を完結させたいかな」

 

恭子「わかりました。回答は、単純なものになりました」

 

赤土「いいね。続けて」

 

恭子「異能持ちに対して、総合力で劣っているからです。麻雀の強さを語る上で、例えば攻撃力とか防御力とか、そういう各種の力を取り上げることがあります。これら力を上手く発揮することができれば優位に戦えますが、異能持ちは自分の特殊性を上手く使ってきます。だから、場を支配するような打ち方が可能になります。いわば一点突破のような形で、私たちは打ち破られるのだと思います」

 

赤土「なるほどな。補足すると、総合力の一端に異能があって、そこが飛び抜けている。だから総合力として見た時にはプラス加点が大きいと。で、その尖ったパラメーターの利用法も心得ているから、凡人を貫いてくるって理解か」

 

恭子「そうですね。そういう理解です」

 

赤土「うん、悪くない。思ったよりもいい点をつけられるな。えーっと、末原恭子。今回のテストの点数は……」

 

恭子「……」

 

赤土「35点!」

 

恭子「少なっ! いや、え? これがいい点ですか?」

 

赤土「うん。いやホントにさ、ここまで答えられる高校生はそうそういないと思うよ。高校生基準だったら、80〜90点くらいあるんじゃない? 採点者の考え方にもよるから、一概には言えないけどね。まあでも、今回の採点者は赤土晴絵で、基準も赤土晴絵なんだ」

 

恭子「……激辛です」

 

赤土「そうかぁ? いいじゃん。今のうちなら合格点ってことさ。色々と惑わせることも言ってみたのに、それでも敢えて単純な結論を出せた。そこは評価したい。やっぱ恭子は情報系のセンスが高いね」

 

恭子「そう言って頂けるのは嬉しいんですけど、ならばもっと質の高い答えを導き出したかったですね」

 

赤土「納得いってない?」

 

恭子「納得というよりも、悔しいです」

 

赤土「なるほどね。悔しいってのは、いいね。うん」

 

恭子「それで、答えの方をお願いしてもいいですか?」

 

赤土「答え? そんなもんは無いよ。毎度言ってるけど、私は私の考えを述べることしかできない」

 

恭子「いや、それはわかってますけど……」

 

赤土「おっと、イラつかせちゃったかな。でもさ、ここだけは間違えないで欲しいんだ。だから恭子が心の底から自然に納得してしまうまで、ずーっと言っていくよ」

 

恭子「納得、できてませんか?」

 

赤土「全然。だってさ、まだ先生に唯一の正解を教えてもらおうとしているだろ。そういうのは、高校生の部活動までで卒業しような。ここから先は、自分で編み出した解答を信じて、自分なりの方法で、対局に反映させていくんだ。疑問も課題も問題も、何もかもそうだ。自分で考えて、試して、修正する。その繰り返し。現役を続ける限り、延々とやっていくサイクルさ。早めに慣れておいてくれ」

 

恭子「では、今回も赤土さんの答えは無いということですか?」

 

赤土「いやいや、それは流石にね。打ち手同士の議論なんてのは日常だから、意見はいくら言ってもいい。もちろん隠す時は隠すが……今日はさ、言っただろ。私の考えを話すって。だがもちろん、鵜呑みにするんじゃないよ」

 

恭子「難しい、ですね。目上の方のお話ですから、まずは受け入れてしまいそうです」

 

赤土「ははっ。恭子は本当にいい子だなあ。うちの子たちなら、話の途中でも平気で異論反論をぶち込んでくるぞ。それも理屈じゃなくて、なんとなくそういうのはイヤ、とかいうレベルでだ」

 

恭子「いやいや、それこそおかしいですよ。こんなこと言うたらあかんのかもしれませんけど、阿知賀の子らは、赤土さんから教えてもらっていることに感謝とかないんですか?」

 

赤土「だよなー。たまに思うよ。私がいなかったら、インハイなんか行けやしなかんだぞーって。だけどさ、まあ感謝はしてくれているのはわかっているんだ。私らの関係って、小学生の頃にも教えてたりしたから、距離感がそのまんまなんだよね。私もそんなに悪い気はしてないし、だからこそ得られるものもあったから」

 

恭子「あっ、そうや。そうでした。すんません、言い過ぎました」

 

赤土「いや、いいよ。インハイ会場での阿知賀、ちょっと浮いてたもんな。他から見たらどうなんだろ、とは思っていたから」

 

恭子「いえ。いらんこと言いました。そのあたりも、新子から話を聞いておきます」

 

赤土「まあ気にすることでもないから。ああでも、自分のついででいいから。憧のことも、よろしく頼む」

 

恭子「私でいいならやらせてもらいます。色々な方にお世話をかけっぱなしですから。少しでもお返しになるなら、ありがたいことです」

 

赤土「うん。ありがとな」

 

恭子「こちらこそです」

 

赤土「……」

 

恭子「……」

 

赤土「さて。じゃあ、話を戻すよ。私なりの理屈を説明していこう」

 

恭子「お願いします」

 

説明
赤土先生の適当カウンセリング
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 麻雀 末原恭子 赤土晴絵 

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