ルパン三世 対 ガールズ&パンツァー(2)
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 それから数日後、大洗女子学園生徒会室。

 

 生徒会長角谷杏を筆頭に、生徒会役員の小山柚子と河嶋桃、加えて各戦車チームの車長が集められていた。すなわち西住みほ、磯辺典子、カエサル、澤梓、園みどり子、ナカジマ、ねこにゃーの七名である。

 

 彼女達は今、生徒会長室の来客ソファに集まっている。そして今し方、ルパン三世の目的を聞かされたのだ。

 

「いやぁー……アタシ達も、この学園も、色々と際どいトコを切り抜けて来ましたけどねぇ

 ソファに座り直しながら、杏は首を振った。

 

「こんな角度からトラブルがやって来るってのは、流石に予想外でしたねぇ」

「でしょうな、困惑するのも無理はない」

 

 うなずいたのは、杏の対面のソファの男である。彼がルパンの話を持ってきたのだ。

 茶色の帽子とトレンチコート。変わった形のネクタイピン。四角い顔に大きな目をした彼の名は、銭形幸一。インターポールに所属する、対ルパン三世の専属捜査を担当する警部である。

 

「しかし今もお話した通り、ルパンという男は狙った宝は必ず奪い取るとんでもない怪盗なのです」

「あーそれなんですよねー。何だっけ、なんかの遺産?」

「ナチスですよ会長! エルヴィンが聞いたら喜ぶだろうなあ!」

 

 勢いソファから身を乗り出すカエサル。隣のナカジマは危うく湯呑みをこぼしそうになった。

 

「でも前に映画で勉強した時はそんな事しそうな感じの軍隊じゃなかったけどなあ」

 

 黒森峰戦前に見た映画を思い出し、困惑する梓。それとは対象的に、ねこにゃーは興奮を隠さない。

 

「つ、つまりそれは……隠しアイテム! それも激レア!」

「財宝かー。隊長はどう思います?」

「え、私? ええと」

 

 典子に水を向けられ、みほはしばし考える。推論を述べる。

 

「本当に、戦車搬入に紛れてこの学園艦へ価値あるなにかが隠されたんだとしたら。どこかに分かるような目印をつけておくと思うんです」

「おお、流石は全国優勝なされた隊長殿だ。実に聡明ですな、その辺はワタシも同意見なのです」

 

 銭形警部は頷き、杏へ視線を戻す。杏はうなずいた。

 

「ええ、分かってます。それを精査するための資料を、学園艦の設計図を用意しといて欲しいって話でしたもんね。河嶋ー」

「は」

 

 それまで沈黙していた桃が、用意していた封筒を銭形警部の前へ差し出した。

「こちらがその書類なのですが、問題がありまして」

「問題とは?」

 

 怪訝顔をする銭形警部に対し、柚子は申し訳無さそうな表情を浮かべた。

 

「実は学園艦から退去を命令された時、一度すべての書類を移送した事があったんです。御存知の通り大学選抜チームに勝利した事で、退去自体はご破算になったのですが……」

「いかんせん急ぎでやった仕事なもんで、全部の書類がごちゃごちゃになっちゃったんですよね。なんで、その設計図も少し欠けてる所があるんですよ」

 

 と、説明を引き継ぐ杏。

 

「な、なんと。ですがまあ、とりあえず拝見します」

 

 言って、銭形警部は書類を改めていく。女生徒達は固唾を呑んでそれを見守る。

 

「……?」

 

 その中でただ一人、みほだけが微かな違和感を覚えた。ネクタイピンから音がしたような気がしたのである。

 

「ざっと拝見しましたが、重要なのはこの部分でしょう。いやいや、ここは欠けていなかったようで一安心しました」

 

 そんなみほの疑念を押し流すように、銭形警部はテーブルへ数枚の書類を広げた。ひと繋がりとなって図形を表すそれを、女生徒達は覗き込む。

 

「これは、地表部分の図ですね」

「その通り。そしてワタシの推測が正しいなら、財宝の在り処を示す手がかりは、この上に存在していたあるモノが示していたハズです」

「それは、一体?」

 

 その時、閃いたみほは顔を上げた。

 

「……あ。もしかして、戦車、ですか?」

「その通り。戦車道部の車長の皆さんに集まって頂いたのは、これが理由です。最初に車両を発見した位置。それを示して頂きたいのです」

 

 銭形警部の推論に、杏は納得する。

 

「なるほどねー。かつて大洗の戦車は大部分が売り払われてったわけだけど、その網にかからないヤツがあったのは不人気だったから、ってだけじゃあない。目印目的のヤツも混ざってたってワケなのか」

「そう考えると納得いきますねー。水の下とか崖の中腹とか、回収が難儀だったの覚えてますよ」

 

 しみじみとつぶやくナカジマ。移送や整備で苦労するのは自動車部の常である。

 どうあれ、女生徒達はそれぞれ自チームが担当する車両の初期発見位置を指し示す。銭形警部は手早く書き込んでいく。

 

「よし。これで概ねの検討はつきました。ご協力に感謝いたします。後は――」

「かっ会長! すみません!」

 

 と、その時。生徒会長室の扉が勢いよく開かれた。

 当然、その場の全員がそちらを向く。

 

「華さん!? どうしたの一体」

 

 みほが声を上げたのも無理はない。次期生徒会長でもある五十鈴華は、しとやかかつ冷静な人物であり、ここまで慌てふためく事はそうそうないからだ。

 そしてその慌てる理由が、彼女の後ろからずかずかと現れた。

 

「うわーっはっはっは! 見つけたぞルパぁぁーン!!」

 

 現れるなり胴間声を上げる男の名を、しかし戦車道部の女生徒達は知っていた。

 茶色の帽子とトレンチコート。四角い顔に大きな目をした、インターポールの対ルパン三世専任捜査官。

 すなわち、銭形警部である。

 

「げ」

「えっ!?」

「銭形警部が二人!?」

「双子だったんですか!?」

「ロムルスとレムス!?」

「同キャラ対決!?」

 

 口々に動揺を叫ぶ女生徒達を尻目に、後から現れた方の銭形警部は懐から手錠を取り出す。ずかずかと歩み寄る。先の銭形警部の方へと。

 先の銭形警部は素早く立ち上がると、踊るようなステップで机の上に飛び乗る。

 

「あっ、こら! 下りなさい! 校則違反よ!」

 

 反射的に叫ぶみどり子だが、銭形警部達は聞く耳を持たない。

 

「まったくこんな海の上の、しかも女学校まで来て相変わらずのコソドロ稼業とはな! 善良な婦女子の目は誤魔化せても、この銭形の目は欺けんぞ!」

「ソイツぁこっちの台詞だぜとっつあんよォ。あーいかわらずしつけえッたらありゃしねえ」

 

 打って変わった軽薄な口調。更には声色まで変わった先の銭形警部は、己の顔を、マスクを剥ぎ取る。

 その下から、現れたのは。

 この一件の中心人物たる怪盗、ルパン三世の顔であった。

 

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