新・恋姫無双 〜呉戦乱記〜 第18話
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結局は呉軍の猛攻に耐えることはできず武陵郡も陥落し、呉が残すのは南郡と南陽郡のみとなった。

 

冥琳たち参謀本部前線での指揮を亞莎と蓮華に任せ、南郡の最前線へと派遣させる一方で、魏の首都でもある許昌は南郡の陥落の報せを聞き、動揺の色が広がり始めていた。

 

魏としては南郡が陥落してしまえば敵は南と東から南陽郡を取り囲む形を取れることもあり、荊州防衛に大きな支障をきたしかねない重要な地域でもあったからだ。

 

曹操は荀ケを筆頭に夏侯惇姉妹を軍大将とし、直ぐ様防衛軍を派遣させる事を決めた。

 

曹操の本気の防衛ということもあり、夏侯姉妹と神速の張遼を筆頭にし、急遽の出兵であるにもかかわらず2万人の兵力の組織を行う。

 

曹操としてはまず第一は最後の砦となった南陽郡の守備ではあり、なんとしてでも荊州の防衛を行わなければならないと彼女は躍起であった。

 

「講和の話はどうなっているの!!話が進まないではないの!」

 

曹操は珍しく苛立ちをむき出しにし立ち上がると、家臣たちに一喝をする。

 

「華琳様・・・・呉は休戦をのむつもりはないなようです。再三使者を送っていますが、追い出される始末で・・・・」

 

荀ケの報告に曹操は息を荒くはき、深く椅子に腰を下ろした。

 

「呉の連中はもっと利口な連中が多いと思ってはいたが、こうも頑固だとはね・・・・」

 

呉は荊州の領土を奪うことで有利に講和を引き出したい狙いであると考えていた曹操であったが、読みが外れ、内心舌打ちをする。

 

彼女自身、撤退を行った際の荊州を強襲したことは予想は出来ていた。

 

荊州は最前線であり兵を結集させていた場所でもあり、また現状では結集させていた兵を再度本国に撤収させ兵力が足りていない地域でもあったからだ。

 

この連合軍との戦闘から魏が撤退した機会を逃さず荊州を攻め込む、ということなのだろうと考えていた。

 

だが呉単独で荊州全土を征服するとなれば出血を覚悟しなければならず、魏がいつ攻めてくるかわからない事態である以上は戦力の消耗は避けたい、と考えるはずだと魏の軍師たちは結論づけるのは無理もない話だった。

 

だが曹操たちの予想と大きく異なり、休戦を呉に持ちかけても話は一向に進むことはなく、荊州を一気に制圧せんと虎視眈々の姿勢を崩すことはない。

 

そして曹操の耳に宜しくない報せが入る。

 

その報せというのは、この稲作の期間を狙われ、兵が揃わない時期である今日の荊州は呉の猛攻前にもはや陥落寸前であるということであった。

 

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曹操は未だに呉の、そして実質政治の頂点に君臨する周瑜の考えていることが理解できず、混乱していた。

 

魏の軍師たち全員が、孫策や周瑜の性格から鑑みて合理的な行動を必ず取るであろう事は予想していたから尚更だ。

 

敵は伝令兵を徹底的に捕殺しているようであり、こちらに来る情報の鮮度も非常に悪い事も許昌たちの軍師たちの判断を曇らせる大きな要因となっていた。

 

許昌、洛陽直属の軍師たちを荊州に派遣してはいたが、陥落した地域から彼らが生還したという報せも一切なく敵の動きが一切読めずにいる。

 

情報を秘匿し、素早い奇襲攻撃と卓越した世論掌握術を展開するのは、呉がよく用いる組織的な用兵術でもあり、それを駆使している以上兵士が勝手に動き回ってでの暴走等は考えられないだろう。

 

(孫策たちはワザと我々を無視しているということね?ウラをついてくるとは・・・流石ね)

 

 

荊州を一気に制圧してしまえば、蜀と呉の経済行路が実現してしまう。

そうなってしまえば我々の覇道への道もさらに険しく、厳しい道なりとなる事は覚悟しなければならない。

 

ゆえに曹操としては荊州の南陽郡をなんとしてでも死守し、時間を稼いで態勢を立て直した後、反攻戦を実施すべきであると考えていた。

 

南陽郡をまず死守し、そのあいだに魏国内で兵士を徴兵し大軍で救援を行えば敵が連合軍でない以上、数の暴力と物量で押し切ることは可能であり、脅威はそうないはずである。

 

曹操は落ち着きを直ぐ様取り戻し、珍しく怒りを露わにした主君に動揺する家臣たちを見て少し自分の行いを後悔する。

 

「皆、落ち着きなさい。数での優位はこちらがある以上、奇策に頼らず正攻法で相手と組み合えば負けることはないはず。慌てることなく、自分たちの仕事をこなしなさい」

 

「「御意」」

 

家臣たちは頭を下げる。

 

曹操の自信ある口調に家臣たちも幾分落ち着きを取り戻したようで、曹操も安堵を気取られぬよう聞こえぬ息を吐く。

 

そう我々はまだ優勢である。そう考えたのだが・・・・。

 

曹操は自分の背中から生じる、ヌメヌメとした不愉快さを感じ、思わず舌打ちをする。

 

(大丈夫だと・・・・そう思うのに・・・。なんなのこの感覚は・・・・?!嫌な予感がする・・・・)

 

だが曹操が感じた嫌な予感、つまり自分の運命の歯車がたった数人の裏切り行為により狂ってしまった事を知るのは、伝令兵、軍師たちが捕殺れている現状ではどだい無理な話であった。

 

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冥琳も最前線で指揮を採りたいのはやまやまではあるが、占領した地域の軍政や建業との兵站の確保に全力を注がねば成らず、占領した各地に建業に勤務する文官を派遣させそれらを冥琳が監督する形をとった。

 

建業軍令部には補充兵の要請は再三してはいる。

 

だがやはり今回の激戦で、苦しいようでもあり補充される兵士の数が段々と少なくなってきており、呉国内で練兵所で養成できる兵士の数と、死者の数が逆転し始めているという報告も受けている現状では、苦しい運営を強いられ始めてはいるのは事実であった。

 

ただ荊州の広大な領地を占領するのにも必要な兵力は一万は最低でも必要である。

 

呉軍は補充兵がいるものの兵を供給できる数は減り続けており、さらに今では死者は増え続け、五万と少しいた兵力も四万近くまで兵力が減っている現状では、そこからさらに一万も兵力を持ってかれてしまうことに、参謀たちも不安感を覚えるのは無理もない話であった。

 

激戦が予想される南郡・南陽郡攻略には投入できる兵力は多い方が良いはずであり、現地で駐留する参謀たちが強い反感を覚えていることに看過できない冥琳はその対応に追われていた。

 

しかし建業にいる予備兵役に服している兵もすでに全員投入しており、これ以上の兵力増強は呉国内の防衛を考えれば正直厳しいところまで来てはいる。

 

そこで冥琳は建業と寿春等で治安維持を行っている警邏隊を暫定的に軍に編入し、荊州に就かせるように便宜を図り、荊州での占領政策に余計な兵士を使うことがないように配置替えをすぐさま行った。

 

これにより占領地で兵士をなんとか前線に送り込むことが可能となり、南陽郡前に本部を構える荊州攻略軍は4万近い戦力を揃えることに成功している。

 

だが呉国内の警邏隊の異動は、主要都市である建業と寿春の治安維持に支障が出ることにはなるが、今の現状では背に腹は変えられない状況である。

 

総力戦を謳う以上、全ての兵力を最大限有効活用したい思いもあったからだ。

 

だが冥琳としてはただ放置しておくということせず、さらに手を打つ。

 

警邏隊の代替として、待機させている建業守備隊を警邏部隊として暫定的に組織させ、治安が著しく悪い地域に集中的に投入させることで出来うる限りの治安悪化の悪影響を凌ごうと考えたのである。

 

建業の行政府には国民の自由を一時的に制限する戒厳令を発するように指示するなど、先手先手で対策を講じてはいるが・・・・。

 

ただ今の状況では建業と寿春の治安維持に支障が出ることにはなるが、苦しいことだけでもなく吉報も数多く来ているのは確かである。

 

数々の連戦連勝での荊州解放は現地人から大きく歓迎をされた。

 

敵の基地を壊滅させれば、荊州の町民たちはこぞって街へと呉軍たちを招き入れ、補給面では現地人の協力もあり、前線まで支障が出ない範囲で物資搬送が行うことができている。

 

また現地人しか知らない通行路もやはり存在するようであり、道案内として現地人を用いていたりと長所を最大限活かし、ほぼ無傷な状況で補給を行えている事は冥琳としても喜ばしいことでもあった。

 

兵力は減退してはいるが、兵站は確保されているのが戦争継続ができている大きな要素でもあり、また救いでもあった。

 

もし現地人の協力なく、我々だけで長期戦を賄うとなると後方部隊に大きな負担を課すことになってしまう。

 

そうなれば前線に投入できる兵士の数が減れば補給も減る、補給ができなければ兵士たちの装備が劣悪になる、装備が劣悪になれば戦況を打開するために人員をより多く割かないといけない、と悪循環が続き、そうなれば攻略は困難をさらに極めていたであろうからだ。

 

戦死者は既に八千近くにまで膨れ上がってはいるが、前線の兵士の士気は依然として高いことが冥琳からしたら救いでもあり、またこの戦争の勝利が手の届くところまで来ていることを彼女は実感していた。

 

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「冥琳様、よろしいでしょうか?」

 

執務室の前で聞き知った声が聞こえてきた事から気難しい表情を多少和らげ、冥琳は顔を上げる。

 

「明命?帰還したのだな。入れ」

 

「はい、失礼します!!」

 

部屋に入ると明命が敬礼をし、帰還報告をするので私も敬礼を返す。

 

「帰還しました!!」

 

「ご苦労だった」

 

「南陽郡と南郡を偵察に向かわせた結果をお知らせします」

 

「よかろう、続けろ」

 

「はい!現在魏軍は南郡の守備隊を後退させており、南陽軍と南郡の境界線で守備隊を再編成しているようです」

 

「南郡を放棄し、南陽郡に絶対防衛圏を構築したか・・・。魏はこのまま本国からの増援を待つという考えか」

 

冥琳は置いてあった敵の駒を南陽軍へと下げ、考案をする。

 

「はい、そのようです。敵の数は増え続けており、増援部隊も到着しています。牙們旗を見る以上は張遼、夏侯惇、夏侯淵を筆頭とした三つの部隊で再編成を行っているようですね」

 

ほぉと冥琳は声を上げると、冷静な態度は崩さず自分の机の前にある大きな机に置かれている呉の駒をアレコレと動かし始めながらも明命の報告に耳を貸す。

 

「なるほど・・・・敵もついにお目覚めということか。南陽郡で我々を凌ぎきり、時間を稼いでいる最中に本国から増援を呼びこみ、戦力を増強させ数の暴力で占領地を奪還する。という考えなのだろうな」

 

「我々も敵が撤退した南郡の占領、摂取を開始しており、孫策上級佐官、黄蓋、甘寧中級将官らの師団が集結し、蓮華様と穏様が音頭をとり戦力を編成している最中であります。我々も、孫策隊に編入がなされ敵地の情報を収集を続ける予定であります」

 

「そうか、わかった。明命、魏からの諜報員の報告は来ているのか?」

 

「ええ、来ております。許昌、洛陽は騒がしくなっており兵士の徴兵を行いつつあるようです。これが報告書となります」

 

「ふむ・・・となると・・・既に敵の本隊はこちらに向かっていると考えてもいいな。明命、よくやった。報告書は後ほど読ませてもらう。お前たちは激務が続いているだろう。休暇を出そう。二〜三日ほど少し休め」

 

「ありがとうございます。その後は我々も孫策隊へと合流し、任務を全うします!」

 

「引き続き頼むぞ。我が軍の勝利は近い、お前たちの奮闘を期待している」

 

冥琳は明命と強い握手を交わすと、明命は敬礼をして執務室を去っていく。

 

報告書に再度目を通すと、敵の詳細な数がそこには書かれていた。

 

南陽群に兵力を集結させた魏軍荊州守備隊はおよそ3万人、魏本国からの増援は五万以上は確実と書いてあった。

 

「敵の増援部隊が到着したら、我が軍は敗北を喫してしまうだろう。その前に南陽郡を制圧し、連合軍を集結させまもりを固める・・・・か」

 

冥琳は一人呟きながら、チラリと見える朱里からの文を見やる。

 

先ほど届いた朱里からの文通からは現在兵力を再度集結させているという旨の内容であった。

 

「最悪は連合軍での支援も必要となってくる・・・か?どうするべきか?」

 

今現在単独での荊州侵攻は上出来すぎる結果でもある。

 

たった五万程の戦力で荊州全てを制圧せんと戦場を駆ける呉軍の奮闘は連合に強い勇気と希望を与えたであろう。

 

文通からすれば今後は朱里は予定通り内密に山越と連携を取り、連合軍を結成し荊州付近に兵を集結させるであろう。

 

となればここは連合軍として部隊を合流後、我々の戦力を整えて南陽郡を攻め込むべきであろうか?

 

冥琳は大いに悩んだ。

 

ここから連合軍で動くことが可能となれば、南陽郡を陥落させることは可能であろうが、冥琳が連合を組むことを悩ませる要因が多々あった。

 

ひとつは連合軍の集結と魏軍本国の増援隊の到着が同時期になりうる可能性があるということだ。

 

今から連合軍として共同出兵を行っていたら間に合わないだろう。

 

二つ目は連合軍として戦闘となれば、全面戦闘となることから魏軍との講和の話は恐らく消滅する。

 

呉軍単独だからこそ、敗戦を突かれての攻撃を穏便に済ませたい事からも魏はしつこく休戦を持ちかけてくるが、連合となれば話は別だ。

 

魏は自分と相反する思想を持つ連合という組織を危険視している節があり、連合軍相手であれば妥協はしないであろう事は容易に想像ができた。

 

恐らく朱里たちも同じ考えを持っているであろうから、攻め込む時期を様子見て慎重に行動を取るはずだ。

 

以前、冥琳たちが荊州の東側から西征している際にも蜀軍が西から干渉していたことは後の事実として知った。

 

ただ所詮は少数での干渉程度に済ましているところが、朱里や雛里たちの確信犯的な行いであったことは冥琳たち参謀は予想がついていた。

 

賽は投げられたのだ。

 

そうである以上結局は落とし前は自分たちで付けなくては意味がないし、冥琳としてもこの戦いはそういった類の戦いであることを覚悟していたので落胆も焦りも特にはない。

 

だがそういった諸々の理由から冥琳は連合軍を組織することに躊躇いがあったのは事実ではあった。

 

ゆえに結論としては援軍は厳しい状況には変わりはなく、呉軍での攻撃だけで南陽郡を陥落させる必要があるだろう。

 

それに・・・・ここで戦友たちが命をかけて戦っている以上は、彼女としてはそれに報いてやらなければ軍師の名が廃る。

 

「久しぶりね・・・。こんなに胸がたぎるというのも。フフフ・・・・」

 

思わず笑みがこぼれる。

 

冥琳は体から湧き上がる野心的な滾りに身を任せていた。

 

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私たち十五部隊はその後北西へと進軍、南郡を陥落させついに南陽郡へと侵攻を本格化させようと待機命令が下り、暫しの休暇をとっていた。

 

だが戦争中での休暇などあってないようなものであり、私は興奮のあまり収まらない震える手を抑えるように、部下に見せないように、伏せると朝食をとり始める。

 

戦での興奮は私の悪癖でもあるが、一刀が死んでからは興奮状態ではあるものの、以前のような性的な高ぶりを感じることはなく、その悪癖はすっかりなりを潜めていた。

 

「まぁ・・・助かるんけどね。戦いでしょっちゅう発情してたら、わけないわ」

 

自虐的な苦笑を浮かべながらも、一人呟くと大して美味くもない糧食を無理やり口に運び続ける。

 

そうして外で食事をしている最中に配給された食事を手にした副官が途中で通り過ぎ、彼は私に気づいたのか敬礼をして挨拶をしてきた。

 

「お疲れ様であります。雪蓮佐官は食事を?」

 

「お疲れ。見ての通りよ、たった今食事を取ったところ」

 

「そうですか。自分も今食事をするところでして・・・・ご一緒してもよろしいですか?」

 

「いいけど・・・。肉、あげないわよ」

 

「・・・・とりませんよ。では前失礼します」

 

苦笑を浮かばせながらもそう言って椅子に腰掛けると、静かに麦飯に口を運ぶ。

 

「ここまでは連戦連勝ね。私たち」

 

「はい・・・・。犠牲も大きいのは事実ではありますが、こうして荊州をほぼ手中に収めつつありますね。このまま行けば・・・・荊州を制圧できると信じています」

 

「・・・上層部は和睦講和に持ち込むかしら?ここらで手を引くというのも妙手だと思わない?」

 

「我々を奮い立たせた貴女本人がそう仰るとは・・・・。随分と意地が悪い策を考えなさる」

 

「冗談よ、冗談。お前からその答えが聞けて安心したわ」

 

「ほう?私を試したのですか?心外ですな」

 

少し副官は可笑しそうに笑いながらも、そう返す。

 

試した、心外だ。という彼の台詞は私が彼にかつて言った台詞を意趣返しをしたのだろう。

 

傍目に見れば彼が少しぞんざいな態度であるかのような会話ではあるが、私も彼の考えが分かる以上はバツが悪そうに頭をかく。

 

「ごめん、ごめん」

 

「まぁ・・・・ただ現在南陽郡に敵兵は戦力を集中させています。今後はこれまで以上の激戦が予想されますが、兵もこのところの連勝で幾分気が緩んでいる。再度気を引き締めます」

 

「助かるわ。いつもすまないわね」

 

「気になさらないでください。ただ緒戦では我々も勝利を収めています。そう考えると案外展望はそう暗くはないのでは?」

 

「・・・どうだかね〜。敵は撤退をし、兵力を集中させているわ。緒戦で勝利はしても軍師の捕虜は以前のようにそう多くはなかったしね。きっとお偉いさんがたは我先にと引越ししたと考えるのが普通だわね」

 

「兵を見捨てるのですか・・・?」

 

「荊州はもともとは劉表が統治していた地域だからね。外様が冷や飯を食わされるのは、よくある話よ」

 

「・・・・信じられません」

 

「魏という国はそういう国だということよ。現地の人々の歓迎具合を見れば、お前も良く分かるはず」

 

「・・・・・はい」

 

「ただこちらに裏切る兵士も増えては来ている。今行っている末端から切り崩すと言うのは悪くはないやり方だとは思うわ。現に有益な情報をこちらも得ているし、敵陣にいる兵士たちの裏切りの工作も期待できる」

 

「忠誠心がないゆえ、そこを突くということですな」

 

「そういうこと!蓮華たちも参謀もその路線で様子見を図るはずだわ。暫くしたら明命の部隊も我々の隊に組み込まれる。諜報活動や情報戦も期待できるでしょう」

 

「周泰佐官がですか?」

 

「そうよ。兵の配置はお前に任せるわ。上手に使いなさい」

 

「了解しました」

 

「期待しているわ・・・ご飯食べたら?冷えるわよ」

 

「おっと、これはいけませんな。冷や飯を食わされるのは私としても御免被りたいですからね」

 

「だれがうまいこと言えといったのよ」

 

「ハッハッハ」

 

彼は私が言った外様云々の話をネタに軽口を叩くが私は副官の頭を軽く小突くと、立ち上がる。

 

「どちらに?」

 

「街よ。警邏、手伝ってくるわ」

 

「分かりました。・・・・酒を引っ掛けて職務遂行に支障がないようにお願いしますよ」

 

「わ、分かってるわよ!もう!」

 

顔を赤らめて反論し、ベーと下を出す。

 

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それから外出届けを門兵に提出すると、街へと繰り出した。私が今いる場所は襄陽。

 

かつて私の母である孫堅が劉表と戦いを挑んだ地でもある。

 

戦いは孫呉が優勢であったが、孫堅の急死により退却を余儀なくされ、消化不良であった事からもこの場所は孫家の人間としてはしこりの残った場所でもある。

 

だが現在では我が軍で完全に制圧され、軍政を敷いているにしては穏やかな雰囲気ですらあった。

 

「これが南郡 襄陽とはね・・・・」

 

ひとりつぶやく中、女性の悲鳴に近い声が聞こえてきた。

 

私は声のする方角を直ぐに察知すると、南海覇王を携え走り出した。

 

「何事か!!」

 

「孫策佐官ですか?!」

 

「敬礼はいい。事情を話せ」

 

「はっ!どうやら盗人のようです。我々が近くにいたので、なんとか取り押さえたのですが・・・・如何せん、すばしっこい餓鬼でして・・・」

 

「盗人か・・・・。おい、お前!顔を上げろ!」

 

私は取り押さえられていた、俯いていた盗人を前に顔を上げるように言うと盗人はゆっくりと顔を上げた。

 

「・・・・・・・・!!!!」

 

端正な顔立ちであるが、まだ少年としてのあどけなさが残る顔ではある。

 

だが似ている。そうあの男に、私の・・・愛した、あの男に。

 

「一刀・・・・!!」

 

私が驚きのあまり言葉を失うと、その隙を突いた少年は警邏兵の拘束をスルリと抜け出すと、兵士を蹴り飛ばす。

 

「ぐあぁ?!」

 

兵士が蹴り飛ばされると、捕まえようとする兵士たちをヒラリヒラリと躱し、ついには兵士の腰に携えていた剣を奪うと私に斬りかかってくる。

 

「孫策佐官!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・・!!!」

 

少年は剣を右に横にと振り回すが、私からすれば其れは規則性のない酷い剣術でしかなく、苦もなく躱していく。

 

だが私は南海覇王の鞘に手をかけるものの、愛用しているこの武器が今では凄まじい錘がついたかのように重く、抜くことができずにいた。

 

私は剣を抜かず、躱し続けていると少年は苛立ちを見せ始め、私を睨みつける。

 

彼が縦に振り下ろした剣をがしっと掴むと、少年が驚く暇を与えずに少年が振り下ろした力を利用してクルリと投げ飛ばす。

 

「がは・・・・」

 

地面に強く叩きつけられた少年は肺の空気を全て持って行かれ、立つことが出来ずにいた。

 

「取り押さえろ!!!まったくこの糞餓鬼が・・・・。孫策佐官、お怪我はありませんか?」

 

兵士を再度取り押さえると、縄で動けないようにきつく縛り、少年は今度こそお縄についてしまった。

 

「私は平気よ。ただあの少年・・・・・」

 

「身寄りのない孤児でしょうな」

 

「・・・・そうか。この少年、私が預かる。構わないな?」

 

「は!構いませんが・・・・」

 

「すまない、助かるわ。ではお前たちは引き続き任務に戻れ!」

 

私が命令をすると兵士たちは疑うことなく、警邏へと戻っていく。

 

「お前の身柄を保護するわ。付いてきなさい」

 

私は少年を引きずるように同行させると、軍本部に直ぐ様連行し、独房に入れた。

 

少年は透き通った茶色の目で私を睨みつける。

 

その目つきは野犬のように野性的でもあり、狂気をまとった目つきでもあった。

 

この子はきっと殺しもやっている。雪蓮は少年の燃え上がる目つきからそう感じた。

 

「俺は処刑されるのか?」

 

「他人の飯を盗んだくらいで処刑するのなら、この大陸はとっくに滅んでるわ。・・・・お前、身寄りは?」

 

「ない」

 

「・・・・・そうか。少し待ってなさい」

 

「・・・・・・これは?」

 

「食事よ。盗みたくなるほど、腹が減ってたんでしょ?食べなさいな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・」

 

「毒とかは入ってないわ。入れる意味もないしね。ほら食べないの?食べないなら私が食べるけど?」

 

食べ物が入った器を下げると、少年はショボンと顔を曇らせるの見て私は苦笑する。

 

「あ・・・・!」

 

「ふふん?まったく・・・素直じゃないわね。冗談よ、ほら食べなさいな」

 

「・・・・うまい・・・・うまい・・・・」

 

凄まじい速度で食事を口に運んでいく少年を見て私は思わず微笑む。

 

彼の子供っぽさを残す素直さが私の荒んだ心に幾分かの潤いをあたえていた。

 

「なんだよ・・・・ニヤニヤと」

 

「あら〜?そんなことを言うのね。さっきまでは子犬のようにションボリとしてた餓鬼だったのにね」

 

「・・・・・く、クソ・・・・・!」

 

「まぁ今回のことは見逃してあげるわ。ちゃんと陽の当たる行いをこれからは行いなさい。さもなければ・・・・」

 

私は脅しも少し兼ねて南海覇王に手をかけると少年は私の殺気にあてられたのか、顔を青ざめゴクリと唾を飲み込む。

 

「あんた・・・・何者だ?」

 

「最初に名前を聞くときは自分から名乗るのが礼儀なのよ、坊や。お前の名前は?」

 

「・・・・・・ない」

 

彼が劉表の圧政に耐え切れずに捨てられた子どもであるというのは容易に想像がついた。

 

売られ、奴隷だった子ということか・・・。

 

「そう・・・・・。私は名は孫策 字は伯符というわ」

 

「孫策?・・・・聞いたことがある名前だ・・・・」

 

「あら!?江東の小覇王と呼ばれるこの私を知らないなんて、私も腕が落ちたようね」

 

「・・・・?」

 

「本当に知らない?」

 

「知らない」

 

「あ、そう・・・・。はぁ・・・調子狂うわねぇ・・・。ま、いっか。お前はこのまま拘留されるが・・・文句はないわね」

 

「・・・・ないといえば嘘となるけど・・・・。そうなる事をやってきたんだ、覚悟は出来ている」

 

「へぇ?・・・・いい目をしてるわね。お姉さん、そういう男はすきよ」

 

「な?!」

 

「フフフ・・・・まぁ縁が合えば会えたらいいわね、少年。それまでは強く生きなさい」

 

私はそう言うと拘留所をあとにし、門番をしている憲兵に声をかけた。

 

「なんでしょうか?」

 

「呼び立ててすまない。さっき拘留した少年だけど・・・・まだ子どもだ。狼藉や乱暴はせず丁重に扱うように」

 

「了解しました」

 

憲兵は敬礼をし命令を受理するのを私は確認すると踵を返した。

 

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陣地へと戻り執務室に入るやいなや、椅子に体を投げ出すようにドカリと預ける。

 

「はぁ・・・・・ホント驚いたわ。あの顔は・・・・北郷一刀・・・・・よね」

 

あの少年の前では余裕を保つので実は精一杯であり、今更疲労が体から浮き上がってきており、ため息を深く吐いた。

 

「まだ少年だけど・・・・あんなにそっくりな顔で・・・・・・」

 

私は目の中がジンと痛みを生じたのを自覚すると上を見上げる。

 

視界は歪み・・・水滴が止めどなく頬を伝うのを私はただ静かに感じていた。

 

(貴方の生まれ変わり、だということなの?一刀・・・・?)

 

涙を拭うと俯き頭を抱えこみ、考えこむが結局は答えなど出てくるはずもなく頭はぐちゃぐちゃに混乱している。

 

「雪蓮佐官、よろしいですかな」

 

副官の声が聞こえると涙を完全にぬぐい去り姿勢をただし、無機質な声になるように努めた。

 

「だいじょうぶよ。入りなさい」

 

「失礼します。現在、南陽郡攻撃隊が帰還してきましたので、再度軍議を開きたいと参謀から伝令が」

 

「帰還してきたのね・・・。分かった、すぐに行く」

 

そうして参謀たちが集まり、攻撃隊の司令を務める祭と思春ら二人を交えて敵の情勢を説明し始めた。

 

敵は強靭な防衛網を築いているようであり、それを束ねる要塞が侵攻の行く手を遮ってるようだ。

 

「と・・・なると敵の内部に潜入、破壊工作という事かしら?」

 

「私も孫策佐官の意見に同調したいわ。要塞攻略は十五部隊が得意とする戦い、明命の部隊を加えより隠匿な行動ができるようになった十五部隊を今こそ活用すべきだと私は思うが・・・・」

 

私が案を提示すると、蓮華も私の考えには同調意見を示すものの参謀たちと穏は難しい顔をする。

 

「私も雪蓮佐官、蓮華様の考えには同調したいのですが・・・・できない訳があるんです〜」

 

「それはなぜじゃ?」

 

祭が疑問を呈すると、穏は説明を始めた。

 

「現在魏が構えているという要塞は四方が水で固められており、籠城を決め込んでいます〜。要塞自体も城壁も高く、また正面からの突破は多数の罠と柵、堀などが設けられており騎馬隊や戦車隊が前に出ることができません」

 

「潜入は困難を極めます。水路からの侵入も考えてはいますが、現在発見は出来ておりません」

 

思春は悔しそうに僅かに顔をしかめながらも状況を報告した。

 

「現地民の協力はどうじゃ?隠し水路の存在などを知っているなどは・・・」

 

「現在協力を呼びかけてはいますが、南陽郡の要塞の出入りをしている現地人はいる事はいますが・・・隠し水路等の存在を知る者はいませんでした」

 

亞莎は暗い表情で報告をすると、軍議は重苦しい雰囲気のまま進んでいく。

 

「ここは工兵を前面に押し出し、柵や塀を破壊しながら進むというのはどうかしら?」

 

「その作戦で行けば我が軍の出血を覚悟しなければならません。この要塞戦を攻略すれば、確かに敵の防衛網を壊滅させることは可能ではあります。ですが連戦での追撃戦が困難となり、兵を失えば右翼・左翼からの攻撃隊にも悪影響を与えてしまいますので、敵からの反撃にも対処が困難となる可能性があります」

 

私の再度の提案も却下され、互いに顔をしかめ堂々巡りが続く中、先ほどの私が命令した憲兵が入ってきた。

 

「なんだ!!軍議中だぞ!」

 

思春が青筋を立てながら憲兵を叱責するも、私は彼女を制し困惑顔の憲兵を見て彼に話を促してみた。

 

「思春殿、落ち着いてください。どうした?」

 

「はい、先程の少年が協力をしたい・・・としつこくて」

 

「ほかに何か言っていたか?」

 

「はい、巨大な建物に隠し水路がある・・・・と」

 

憲兵の話を聞き、参謀たちは一気にざわめき始めた。祭は憲兵に少年をここに、と命じた。

 

「孫策佐官、お主何やらその少年とやらと見識があるのかの?」

 

「はい。本日警邏隊と街を巡回中に盗みを働いていた少年がいましたので、直ぐ様拘束し留置所へと拘留しております」

 

「なるほど・・・・。まぁ話は聞いてもいいかもしれないわね。穏、亞莎よ、それでいい?」

 

「問題ありません〜」

 

「私も傾聴の価値はあると考えています。まずは話を聞き、それから考えてみるのが吉かと」

 

「亞莎と穏は賛成かの。うむ・・・他の者は依存ないか?・・・・ないようじゃな。では少年をここに」

 

「は!」

 

それから暫くして憲兵が少年を連れてきたとき、一同は驚愕の表情を浮かべ思わず声を失う。

 

「一刀・・・・?!」

 

「・・・・・北郷・・・?!」

 

「お主、北郷と・・・・?」

 

「北郷って誰のことだ?」

 

「「・・・・・」」

 

「ごめんなさいね。私たちが知ってる知人とあまりにお前が似ているものだから、少し驚いただけよ」

 

「ふぅん。まあいいけどな」

 

「お前が先にある要塞の隠し水路を知っているらしいわね。本当なの?」

 

「・・・・・知っているぞ」

 

「なるほどね・・・・。嘘は言ってないでしょうね?」

 

私は少年を睨みつけると彼は心外だと言わんばかりに睨み返す。

 

「本当だってば。つい最近俺はあの要塞の食料をくすねてたたんだからな。最近・・・あの連中が兵士を大勢連れて行くのを見かけた俺は、軍であるのなら食料も置いてあるだろうと考えたんだ。そこでアイツらのあとをついて行ったんだ」

 

「それでお前は奴らが水路を用いて要塞に入っていくのを見かけた・・・と」

 

「うん」

 

「これは・・・・活路が見えてきましたねぇ〜」

 

「そのようですね、穏様」

 

亞莎は強く頷くと再度内容を煮詰めて、作戦内容を再度亞莎が伝える。

 

「蓮華様、まず孫策佐官と周泰佐官の部隊と共同で水路から要塞へと侵入し、敵の武器庫や食料庫を破壊、一気に敵の中枢を抑えます」

 

「潜入を敢行しているあいだは敵の目を欺くために、我々は再度正面から攻撃を仕掛けますぅ。蓮華様、祭様、思春さんと正面を固め大規模な攻撃を行うことで、敵の目を外に向けさせます」

 

「潜入をする際は十五部隊は少数の兵を抜粋し少数精鋭でいきます。魏軍の武器、制服、武具は三百着ほど、保管がされています。これを利用し敵の姿をすれば、敵の目を欺くことは出来るでしょう」

 

「潜入するまでの道案内は少年に担わせるけど・・・構わないですね?」

 

私が穏に確認のために質問をすると、笑顔で頷く。どうやら私の考えている事が分かっているようだ。

 

「ご安心ください。こちらの少年は戦闘に参加させることはさせません〜。あくまで道案内ですぅ」

 

「どうしてだよ!!俺も戦う!!」

 

穏の台詞を聞き、信じられないという顔で彼女を糾弾する少年に私は本音を交えて、落ち着くように諭す。

 

「身の程をわきまえなさいな、坊や。お前ごときが戦っても足でまといになるだけ」

 

「なんだと?!俺は一人で今まで生きてきたんだ!賊とだって戦い、生き残ってきた!!それを――――」

 

「孫策佐官の言うとおりじゃ。お主ごとき餓鬼が戦場に立たれてもな。魏軍は今、闘将夏侯惇を筆頭とした守備隊じゃぞ。賊やチンピラを相手にするのとは違う」

 

祭が少年の戯言を遮ると、厳しい表所を崩さず少年の無謀な考えを否定した。

 

「でも!!」

 

「だまれ」

 

「ッ?!」

 

私は底冷えするような低い声をあえて出す。少年は私の変わり身に驚きと恐怖が入り混じるのが見て分かる。

 

「この私にあの時、勝てなかった程度の技量で自惚れられても迷惑だということがなぜ分からない?お前に足を引っ張られれば、私の部下が死ぬ。子どものお守りをしながら戦える余裕は我々にはないのよ?」

 

「はん?お前だって俺を見て、その腰にかざしている剣を抜くのを躊躇っていたじゃないか!お前のような腰抜けに後を任せるのが我慢できないから言ってるんだ!!」

 

少年の売り言葉に祭や思春、穏や蓮華の表情がギョッとなり、雰囲気が一気に冷める。

 

それは私がなぜこの餓鬼に対して毅然と振る舞えなかったのか?

 

私の愛する彼に似過ぎているこの餓鬼に対し言われることが、この上ない侮辱であるのかを知っていたからである。

 

「・・・・・・・・あらあら・・・この私に向かって・・・言ってくれるわね小僧――――!!」

 

言い終わると同時に南海覇王を抜き椅子から立ち上がり、直ぐ様あの餓鬼の前に飛び込む。

 

彼は私の動きにまったく反応することができず、突っ立っている彼の顔の目の前に南海覇王を突き刺した。

 

少年のボサボサな髪が南海覇王に切られ、ハラリハラリと宙に髪が舞う。

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

餓鬼の顔は一気に青ざめると私の殺気にやられ、わずかに震え、怯える。

 

きっと死の恐怖を彼は初めて感じたのであろうか。

 

だがそんな彼を見てどうでもいいように、私は剣を地面からザクっと抜くと彼の顔の前にチラつかせた。

 

「・・・・・・私の手には、体には大量の血がついている。助けてくださいと命乞いをする者、母の名を叫びながら逃げ惑う者を皆殺しにしてきた。今更・・・お前ごときを殺すことなど、私には造作もないのよ。坊や・・・・・?おいたが過ぎると、せっかく私に助けてもらった命も無駄になるわよ・・・・・・?」

 

「クソ・・・・・・!」

 

「・・・・どうやら決まったようね。では各自陣営を形成し、準備を進めるように!!決行は二週間後とする」

 

「「御意」」

 

餓鬼が悪態を悔しさからか顔を歪ませ悪態をつく中、蓮華は落ち着いて会議を終わらせた。

 

蓮華は少年の顔をワザと見ることなく部屋を早々とあとにした。

 

彼女のその行動が、強く少年を意識してでた行動であることを私は察する。

 

-8ページ-

 

「孫策佐官よ、儂じゃ。黄蓋じゃ」

 

「黄蓋将軍?どうぞ」

 

「失礼するぞ。・・・・策殿よ、先程の振る舞い少し大人気ないのではないかの?」

 

祭が開口一番で先程の少年への態度を咎めた。

 

私としても彼に対して少々大人気なかった事は自覚していたため、苦笑する。

 

「・・・・・・そうね。悪かったわ」

 

「うむ、まぁわかってくだされば結構じゃが・・・・・・・しかしあの少年、そっくりじゃったな。儂も随分と驚かされたよ」

 

「私もよ・・・・・・・・。アイツ一刀そっくりだったのよ。・・・・本当は彼は死んでなんかいなくて・・・・私に会いに来てくれたのかって・・・・そう思ってしまったの」

 

「策殿・・・・」

 

「彼の顔で、聞きなれた彼の声で私を罵倒してくる。それが・・・一番耐えられない拷問だわ。あの時一刀を死なせてしまった私の事を攻めてくるような・・・・そんな気がしたの」

 

「もうよい・・・・。辛かったのですな・・・・・」

 

私は言っているそばから自分の感情を制御することができず、声を震わせる。

 

祭は椅子に座る私のそばに立つと、頭を優しく撫でた。

 

「・・・・・・・・・・・うん」

 

「・・・・・・あの少年はどうなさるおつもりか?」

 

「・・・どんなことがあっても死なせてはならない、そう考えているわ。この戦いが終われば、できれば呉で保護して・・・・彼を保護してくれる里親でも探そうかなと考えているわ」

 

「ふむ・・・・・一つらしくない助言をしてもよろしいですかの?」

 

「・・・・ええ」

 

「策殿があの少年を引き取り、育てるのはどうですかな?」

 

「・・・なぜ?」

 

「お主は未だに北郷のことを引きずっておる。・・・ただそれはそれで仕方のないことじゃ。儂も・・・あいつが夢に出て来ることがあるくらいですからな。ですが・・・・あの一刀にそっくりなあの少年が、お主の目の前に現れたことは・・・・きっと策殿にとって、何か意味のある出会いなのではないか・・・と考えましてな」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

私は祭の提案に対し深いため息で返すと、それ以上話す言葉が出てこなかった。

 

「私もね・・・・あの子にはまっとうな人生を歩んで欲しいと思っているのよ。・・・・彼の境遇にただ同情したわけじゃなく、一人の女として強くね」

 

「策殿・・・・・・」

 

「ありがとう祭。少し考えてみるわ」

 

「策殿がどう考えるようとも儂は咎めはせん。じっくりお考えになられたらと思う」

 

そう言うと祭は頭を下げ、執務室を去っていった。私は椅子の背もたれに背中を預けると考えを整理しようと天井を見上げる。

 

祭はああはいったものの、私としては彼と向き合える自信がなかった。

 

北郷一刀とは別人だとしても、少年に彼の面影を重ねてみてしまう。

 

その行いは里親が持つべき感情ではないのは確かではあった。

 

だが・・・私としても彼に対して「守ってやりたい」という強い母性が私の心に芽生えていたのもまた紛れもない事実であった。

 

(一刀と・・・・私の子ども、とでも言うのかしら・・・・。将来そうなるはずであった幸せな家族を・・・・彼となら築きたいと・・・?ふん・・・それこそ傲慢な行いね)

 

だが子育ての経験もなく、ましてやあの頃の多感な年頃の難しさは今の私でも理解はできるている。

 

私が果たして・・・・里親となりうることができるのか?

 

小覇王と呼ばれ畏れられ、少年に言ったように数多くの人間の命を奪ってきている、愛しき人を守ることができなかった、この鬼の所業を良しとするこの私を彼は受け入れてくれるのか?

 

答えの出ない悩みを私は抱えると、再度深い溜息をはき、目を閉じたのであった。

 

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それから二週間、準備を整えた私たちは彼の案内のもと進軍を開始した。

 

魏兵に紛れ込めるように服装や装備を魏兵に揃え、三百名程の選抜を行い潜入を行うというわけだが・・・。

 

少年はやはり私に遺恨があるようであり、若干不貞腐れた態度を取りながらも案内を行っていた。

 

私は彼の振る舞いに思うところはあるものの、それについて指摘する事はせず慎重に進軍をする。

 

「見張りですな」

 

副官が静かにつぶやくと、私は明命に命令をする。

 

「明命、敵の見張りを片付けなさい。敵は右に一、中央二よ」

 

「はい。分かりました」

 

明命が五人ほどで連れて隊列を離れると、私は彼に話しかける。

 

「見張りがいる。今から片付けるから待ってもらえる?」

 

「分かった・・・・」

 

少年は相変わらずぶっきらぼうな態度ではあったが噛み付くようなことはせず承諾をする。

 

それから暫く、男たちのうめき声が聞こえたと思うと、茂みのガサガサという音が聞こえ静かになる。

 

「・・・よし、片付いたわね。ただこのあたりに兵を配置しているあたり、やはり敵は・・・」

 

「このあたりに敵の補給路があるということなのでしょう。やはりこの少年の言うことは正しかったようですね」

 

「そのようね。各員、これから敵の心臓部に入り込むぞ」

 

私は兵士たちに告げるとゆっくりと、そして確実に進んでいく。

 

「ほら、あそこだ」

 

「ほんとね、森林に隠れてはいるけれども・・・水路がある」

 

言うと同時に轟音が遠くから聞こえてきた。きっと蓮華たちが戦闘を始めたのだろう。

 

「さぁ行くわよ。お前は・・・・ここで隠れていなさい」

 

「いやだ!!俺も行く!!」

 

「頼むから・・・・、ね?貴方に死なれては・・・私は今度こそ一生立ち直れない気がする。お願い・・・いい子だから」

 

私がそう言うと副官は少し表情を曇らせ、少年のそばにたち頭を撫でた。

 

「このお方の言うとおりだ。この戦地に怯えることなく我々を案内してくれた君はよくやった。ただ汚れ役を君にまでさせることはできない。それは大人である我々がしなければならないことだからね。我々に任せなさい」

 

「・・・・・・分かった」

 

少年は撫でられた手を恥ずかしそうに払いのけると、渋々承諾をしてくれた。

 

副官は私に笑いかけると少年に偽装用の羽織を渡す。

 

「これを被っていなさい。ジッとしてれば見つからないはずだ。戦いが終われば、君をすぐに保護するからな」

 

副官はそう言うと、直ぐ様部下たちに潜入の音頭をとり始めた。兵士たちが準備をしている最中に私に少年は声をかけてきた。

 

「なぁ、孫策」

 

「ん?」

 

「・・・・・お前、立ち直れないって言ってたけど・・・・何かあったのか?」

 

「あら〜?心配してくれるの?」

 

「ち、ちがう!ただその・・・・・気になっただけだ」

 

それを心配してるって言うのよ、と内心苦笑しつつも私は少年に話し始める。

 

「私の夫が・・・・死んでしまったのよ」

 

「え・・・・?」

 

「私を庇って・・・・毒矢でね」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「お前と私の夫は姿、顔立ちがほんとにそっくりなの。お前に最初剣を抜けずに、躊躇したのはそれが原因よ。・・・・彼はまだ実は死んでいなくて・・・・私を迎えに来てくれた・・・・そう思ったの。ほんと情けないけどね〜」

 

自分より幾分年下の子どもに嘘偽りなく自分の感じたこと、思ったことを話すことがこれほどまでに恥ずかしいと思わなかった。

 

だが自分の感情を押し殺して、この子に接するよりはありのままの自分をさらけ出したほうがきっと彼も受け入れてくれるかもしれない。

 

そう思いながらも、内心酷く怯え、彼に軽蔑されることが恐ろしく怖かった。

 

それを隠すかのように明るく振る舞い、苦笑をする。

 

「孫策・・・・・・・」

 

「だからこそ・・・・お前には生きて欲しいの。・・・・傲慢かもしれないけど、今お前と私とが出会ったことは運命的なものであると私は思っているわ。・・・・だからこそ貴方には生きてもらわないといけないの」

 

「もしお前らが負けたら・・・・」

 

「大丈夫よ。私たちは絶対に負けない。必ず貴方を助けるわ」

 

有無を言わさぬ口調でそう言うと、少年は呆気にとられた表情を浮かべると私も微笑み、頭をくしゃくしゃと撫でた。

 

「この戦いが終わったらお前とは一杯やりたいところね♪さぁ!お前たちいくぞ!!」

 

彼は私に何かを言おうとしていたが、私はそれを敢えて無視した。今彼を見てしまえば、しがらみがでてしまう。

 

生への執着は戦いに怯えを生み、自分の命を結果として縮めてしまう。

 

それは今、この作戦を任されている私としては部下たちに見せてはいけない姿でもあり、私自身がそれを嫌ってのことであった。

 

私は部下たちの装備を再度確認し、意気揚々と水路へと入っていくのであった。少年の強い視線を背中に感じながら・・・。

 

-10ページ-

 

蓮華たちは正面から攻撃をとり、正面を徹底的に攻撃し始める。

 

「敵の正面を一点突破する!!予定通り投石器を出せ!!」

 

蓮華が指示を出し、大きな投石器が陣営に出すために兵士たちがバラした部品を背負って進軍を開始する。

 

「投石器を守りつつ、前進!!粉塵爆破を行い敵の防御網を破壊しろ!!」

 

「はいですぅ」

 

穏が指示を聞くと、直ぐ様伝令兵に指示を出す。

 

穏が亞莎に話しかけると、彼女も強く頷く。

 

作戦が上手くいっていることを参謀たちも実感しているようであり、参謀本部も士気が大いに高い。

 

「ですが損害も出始めています。黄蓋将軍が率いる第五歩兵師団の損害は大きく現在歩兵隊を後退、戦車隊と騎兵隊を支援に回させてはいますが・・・・」

 

獅子奮迅の働きを見せていた祭率いる左翼を任されていた第五歩兵師団も、連戦に次ぐ連戦で損耗も大きい。

 

出陣前で損耗率は二割を超えていたので、やはり大きな痛手を負っていることは確かであった。

 

兵士の補充が重点的におこなれた部隊でもあるが、やはり痛手を負っていることには変わりはない。

 

だが祭は巧みな用兵術を用いて、兵を鼓舞しながらも懸命にやりくりをしている姿が穏たちにの目に浮かぶ。

 

「張遼さんたちも損害が大きい第五歩兵師団に徹底的に集中攻撃を加えているようですねぇ?」

 

「はい。現在では恋さんが率いる第三師団を向かわせております」

 

「う〜ん・・・そうなると。正面からの攻撃は薄くなりますねぇ・・・。敵が正面突破を図り、左右からの挟撃となれば・・・・」

 

「そのための私ということだろう?」

 

「「蓮華様?」」

 

「姉様は戦っている中、私はここで待機というわけには行かない。出るわよ穏!!」

 

「いけません!蓮華様は軍の最高司令官であられます!!」

 

「私の護衛のためだけに兵をここに駐在させる意味がないであろう!!私も前に出て正面を抑える!これで第五歩兵部隊の支援はなんとかなるわよね?」

 

「ですが・・・・・」

 

「私とて孫家の人間よ。ここで私も戦わなければ・・・・一生後悔する。お願い、穏、亞莎」

 

「・・・分かりました〜」

 

「ご武運を。必ず生きて帰ってきてくださいね・・・・」

 

亞莎と穏たちは渋々ではあるが、蓮華に出撃を許可すると蓮華は意気揚々と立ち上がると駆け出し馬に跨ると、兵士たちを鼓舞する。

 

「いくぞ!!!我が祖国のために!亡き友のために我々は戦うぞ!!」

 

兵士たちは蓮華の鼓舞で士気が上がると、直ぐ様正面の薄くなった攻撃隊へ救援に向かう。

 

だがこの蓮華の行為が、呉の未来を分かつ重要な決断であったことは、彼女たちはまだ知る由もなかった・・・。

 

「魏兵のたちよ!私に続け!!」

 

夏侯惇の号令のもと魏兵の士気は旺盛であり、正面に対峙している呉兵たちの攻撃網を突き破らんと邁進を続けていた。

 

「敵の増援を確認しました!!孫権隊だと思われます!!」

 

伝令兵の報告を受けたものの、夏侯惇は鼻で笑う。

 

「それがどうしたのだ!!私にかかれば鎧袖一触であることは変わりはない!突撃だ!!」

 

「待つのだ姉者。孫権の増援となればこの正面を狙うより右翼側の攻撃が薄くなっている箇所を攻めるべきだ。熱くなりすぎるのは姉者の悪い癖だ」

 

猪突猛進を繰り返す夏侯惇の妹である夏侯淵が熱くなりすぎている姉に対し諌め、進言する。

 

「むぅ・・・・。では右翼側から攻撃!敵を撃滅後、右翼から挟み込むように挟撃を行う!!これでいいな!?」

 

「そうだな。右翼側で敵が不審な物を建造中という報せもあがっている。建造しているものを破壊しつつ、右翼側の敵を叩こう」

 

夏侯淵は正面の増援である孫権の力量にはそれほどの脅威を感じてはいなかったが、孫策たちの姿が見当たらないことに一抹の不安を感じていた。

 

孫権を囮に使い、孫策が我々を陥れようとしているのではないか?という夏侯淵の予想もあり、ここは右翼側にいる甘寧隊を叩くことが彼女の不安を消せる選択肢でもあった。

 

甘寧が何らかの建造物を護衛しているということは、きっと戦略的に重要な物であることは予想がつく。

 

そうであるのなら、甘寧と隠れた孫策とで護衛を強化している可能性が高いと夏侯淵は考えていたからだ。

 

正面からの攻撃を強化すれば、右翼にいるはずである孫策隊から挟撃を受けてしまうことにも繋がりかねない。

 

それはなんとしても避けなければならない。

 

そうした諸々の理由を考慮し右翼を我々で抑えれば、敵の動きを大きく停滞させる事も可能であろうと夏侯淵は考えた。

 

また戦いはこの一戦で終わりではない。

 

本国からの増援が来るまで、持ちこたえるためには敵の損害を出来うる限り大きくしたいという出来心も彼女たちにあった事は否定できなかった。

 

-11ページ-

 

 

そのころ思春は戦場で対攻城器という新型の大掛かりな武器を前にその護衛に追われていた。

 

前線では祭と恋たちが囮となり、敵の目をごましつつも投石器の設置場所を確保する。

 

投石器は設営に時間が掛かり、バラした状態から動かせるようになるまでに時間を有する。

 

工兵たちは凄まじい速さで投石器を組み立てるが、その間は無防備となる投石器と工兵を守らなかければならない。

 

「まだか!!!」

 

思春がまくし立てると、工兵班隊長が大声で叫ぶ。

 

「あと半刻ほど待ってください!!」

 

「ちぃ!ここを我々は死守するぞ!!防御壁を構築!!!」

 

思春たちは直ぐ様前進を行い、死守するべく壁を作り始めた。敵の圧力に屈すことはなく、思春率いる第7攻撃部隊は奮闘する。

 

思春も戦場で剣を舞い、敵地を血で染め上げていくが伝令兵から良くない報せが届く。

 

「張遼と夏侯惇が出てくるようです」

 

「やっこさんも本気だということだろう。敵の展開は?!」

 

「張遼軍を黄蓋将軍が抑えている模様!!夏侯惇軍は我々を狙ってくるつもりです!!」

 

「上等だ・・・・!ここで奴らを血祭りに上げてくれる!!」

 

北郷の仇。

 

そのことで頭が支配されていた。

 

思春は血が一気に沸騰し、血流がたぎるのを知覚する。

 

一人、また一人と死体が彼女の後ろに増えていく中、思春はついに夏侯惇の姿を目撃した。

 

(先手必勝・・・・!)

 

思春は凄まじい速度で夏侯惇に近づき鈴音を上から切りつける。

 

「く・・・・・何者だ」

 

「・・・・・・・・・我が名は甘寧。我が友であった北郷の死は貴様の死で償わせてもらう!!」

 

「な?!北郷・・・・?!」

 

夏侯惇は思春から発せられた衝撃の事実を耳にし、困惑の色を浮かべる。

 

思春は恐ろしく速い斬撃を繰り出す。それも彼女の眼帯を狙い、視覚の死角を狙う形で徹底されている。

 

「・・・・卑怯な!正々堂々と私と戦う度胸もないのか!!」

 

「巫山戯た事を!!お前らこそ、我が王であられた孫策様を闇討ちしようとしたではないか!!!」

 

「なんだと?!」

 

「孫策様を庇う形で北郷は死んだのだ・・・・・。お前たちがいなければこんな事にはならなかった!!」

 

「ぐぁ!?・・・・速い」

 

事の経緯を聞いた夏侯惇は衝撃のあまり僅かな隙を生んでしまった。

 

その僅かな隙を思春が見逃すはずはなく、鈴音が夏侯惇の腹部を斬りつける。

 

思春の斬撃をくらい、痛みで顔を歪める夏侯惇であったが思春の追撃は彼女を決して休ませてはくれなかった。

 

夏侯惇は致命的な傷を負い、片手で腹部を押さえた状態で奮闘をするも、思春が恋との鍛錬のもと生み出された速く、そして重い斬撃は夏侯惇を次第に劣勢へと立たせていった。

 

ついに夏侯惇は剣撃で武器を弾かれると、思春の足掛けで崩されそのまま思春の回し蹴りを顔面にくらう。

 

「ぐは・・・・!」

 

夏侯惇は吹っ飛ばされると吐血し、立ち上がろうとするものの身体が言う事を聞かないのか、痙攣を起こすのみで蹲ったままだ。

 

思春はついに夏侯惇を討取れると確信し、彼女のもとに立ち鈴音を振り下ろそうとするが、強烈な殺気を感じ思春は後ろに飛び下がる。

 

「弓?・・・・・夏侯淵か!!」

 

どこからともなく弓の一斉射が繰り出されるものの、思春はその弓を器用に弾く。

 

魏兵が夏侯惇を抱え逃げようとするのを思春は鬼の形相で睨みつけると、追撃に移そうとするもののやはり弓の邪魔がはいる。

 

「ちぃ!!邪魔をする!!!弓兵風情がこの私に!!!!」

 

思春は夏侯淵の妨害に痺れをきらし、彼女の殺気を感知すると同時に、その方向に走り出す。

 

「秋蘭・・・!逃げろ・・・・!!ぐぅ・・・・」

 

姉の弱々しい言葉が妹に届くことはなく、思春は恐ろしい形相で弓の射の位置から夏侯淵がいるであろう場所まで走ると、腰に着けていた小刀を手に取り投げる。

 

投げられた小刀がガキンと弾かれるのをみて、隠れていた夏侯淵の位置に割り出すとそこには驚愕の表情でこちらを見つめる夏侯淵の姿が。

 

「バカな・・・・・」

 

夏侯淵はつぶやくものの、思春は鈴音を突く。

 

夏侯淵は躱しきれず、夏侯淵の右腕に鈴音が突き刺さる。だが夏侯淵は接近用の刀で思春を牽制し、距離を取ると弓を素早く射ると思春をなんとか後退させる。

 

「ちぃ!!すばしっこい!!」

 

思春は苛立ちのあまり声を荒らげるが夏侯淵は驚異的な速度で弓を斉射し続け、思春を近づけさせまいとする。夏侯淵は思春を下がらせたあと直ぐ様、苦痛に顔を歪めながらも撤退をはじめる。

 

「甘寧隊長!!投石器の準備が出来ました。我々も一度後退し、投石器の護衛を固めるべきかと」

 

「よし!我々もそれでは一度後退!守りを再度固めるよう!!」

 

「了解です!!」

 

兵の進言に、思春は直ぐ様落ち着きを取り戻すと、頷き。後退の指示を出す。

 

工兵の奮闘により組み立てられた投石器が大きな岩を次々と投げ飛ばしていく。

 

要塞の砦や大掛かりな柵などの防御施設は粉塵爆破と投石器で一気に破壊されていく。

 

「要塞の城壁に右翼方面火力を集中させろ!!黄蓋将軍の進軍を支援しろ!!」

 

思春の指示の下、投石器は要塞の城壁の一箇所を徹底的に集中砲火させ、堅牢な城壁を崩落させていく。

 

工兵たちはそのまま投石器を守るべく防御壁を組立てはじめる。

 

それと同時に要塞内からも火が上がる。思春は雪蓮たちの工作が成功した事を察した−−−−−−。

 

-12ページ-

 

祭の担当する右翼方面は敵の防御網を突破線と奮闘する。

 

祭は弓の雨が降り注ぐなか、それらを掻い潜り決死の全身を行っていた。

 

隣にいた兵士に状況を聞き出す。

 

「おい!状況は!?」

 

「第一次攻撃隊は攻撃失敗!!」

 

祭は自分が魁を務める第一次攻撃隊の進軍が失敗に終わっていることは承知ではあった。

 

兵士たちは前進をするものの敵の防衛網の前に大量の死体を築き上げていた。祭たちは第2次攻撃隊にいる戦車隊の前進を妨害する柵や塀を破壊しなければならない。

 

ただ右翼方面は囮であり、思春が防衛する左翼方面の注意を逸らす狙いもあった事からも祭は敵の注意が完全に右翼方面に向いていることを知り、内心ほくそ笑む。

 

だが戦況は第一次攻撃隊の失敗により、第二次攻撃隊、第三攻撃隊が後ろから迫っている事からも状況をなんとしてでも打開せねばと声を張り上げる。

 

「そんなことは分かっておる!!お前の部隊長は!?」

 

「知りません!はぐれてしまいました!」

 

彼の後ろに部下であろうか?生き延びて青ざめた兵士たちが震えながらも、祭の指示を仰がんとこちらを見つめている。

 

「ケツから第二、第三の攻撃隊が迫っておる!!ここは儂らで道を切り拓くのじゃ!隊列を組み直せ!歩兵隊は弓を弓兵隊へと預けろ!!」

 

歩兵隊の持っている弓は弓兵隊へと預けると、行く手を遮る巨大な塀を破壊せんと祭は兵を集結させる。

 

集まった兵士は皆若く、飛び交う弓に怯える表情を見せていた。

 

祭は不敵な笑みを兵士に投げかけると、彼女は弓を首にかけ、腰にかけている剣を抜刀する。

 

「道を切り拓く!!援護射撃あとお主らは儂のあとに続け!!!弓兵隊!援護射撃!!!」

 

祭は声を上げると弓兵隊は援護射撃を繰り出す。敵の注意がコチラから離れるのを確認する前に祭は直ぐ様走り出し、くぐり抜けるようにスルスルと進んでいく。

 

目標の塀を前にダイブすると直ぐ様後ろを兵士たちが頭を押さえながらダイブをしていく。

 

「この塀を破壊するぞ。工兵!!」

 

祭が大声でまくし立てるとノソノソと工兵が彼女の前にやってきては何やら細工を施す。

 

「粉末爆破を仕掛けます!!頭を押さえて!!」

 

長い筒を火打石で導火線に火をつけると、筒を塀に次々と投げつける。

 

「総員!!衝撃に備え!!」

 

祭が兵士に告げると一斉に頭を押さえて、地面に伏せる。それと同時に轟音が響き強大な塀が崩落する音が聞こえてくる。

 

祭は直ぐ様立ち上がり、破壊した塀を飛び越えると首にかけていた弓を取り出し、速射していく。

 

要塞の兵士たちに祭が射た弓矢が吸い込まれるように刺さり、絶命していく。

 

「行くぞ!!黄蓋将軍が援護しているぞ!!第2部隊!!前に!!」

 

部隊長たちが声を上げ、進撃を開始していく。祭は伝令兵に向かい声を張り上げる。

 

「陸遜に伝令!右翼突破は成功したとな!!」

 

「了解であります!!」

 

後ろから戦車隊と騎兵隊が迫ってくる。

 

右翼の陣営を突破することができた祭ではあり安堵の息をあげたのも束の間、強烈な殺気を感じ身を躱す。

 

「ちぃ!!すばっしこいからに・・・・。黄蓋覚悟しいや!!」

 

(神速の張遼か・・・・厄介な相手が来たもんじゃな)

 

内心祭は毒づくと、後ろの兵士に目で語りかける。兵士たちは頷くと祭を置いて先へと進んでいく。

 

「ふ〜ん?うちを抑えるってか?えらい自信やな?」

 

「自信じゃと?・・・・・・ククク」

 

「・・・・なにがおかしいねん!!」

 

「たわけが!この小童!!我が戦友である北郷の敵討ちがここでできる事が、儂は嬉しくてたまらんだけよ!!」

 

「えぇ?!ちょ?そんな話初耳やで?」

 

「言い訳は聞かん!」

 

祭は驚異的な速度で弓を構えると憎しみで激しく燃える眼差しで、張遼を射る。

 

張遼は馬を起用に操り、祭の弓を交わすと斬月刀で一撃離脱の戦法で振り下ろしていく。

 

祭は張遼の斬撃を腰に構えた剣で受け止めると再度にらみ合いが始まる。

 

「待ちや!黄蓋!!うちの兵士が北郷をやったっていうのは本当か?」

 

「そうじゃ!!孫策様の暗殺を企てた貴様らの兵から守らんと庇った結果よ!!・・・お主らが来なければ・・・・こんなことにはならなかったはずじゃ!!お主らが・・・・・」

 

祭は速射の標的を張遼ではなく、彼女が乗る馬へを移し、弓を射る。

 

「ぐあぁ?!なんやて?!」

 

足を射られた張遼の愛馬は甲高い悲鳴を上げると、暴れだし張遼を投げ飛ばしてしまう。

 

張遼はなんとか着地をするものの祭はその隙を逃がすことはしない。

 

張遼が着地する瞬間を狙い、弓を放つと着地から身動きを取る暇もなく張遼の大腿部に命中する。

 

張遼の大腿部に弓矢が突き刺さり、激痛で彼女の端正な顔が歪むのを祭は憎しみの表情で睨みつける。

 

「く・・・・・卑怯者が・・・・!!」

 

張遼は悪態をつくが祭はそんな小言に付き合うはずはなく、剣を抜くと剣撃を繰り出す。

 

「ちぃ・・・・足が・・・踏ん張れへん・・・・」

 

片足を自由に動かせなくなった張遼相手に祭を相手にすることは困難を極める。

 

斬月刀で防ぐものの、片足の踏ん張りがきかず祭の斬撃を受け止めることができない。右に左にと振り回され、最後は下から上にアッパーのように鋭い速さで、重い剣撃に翻弄される。

 

「がぁ・・・・」

 

ついに斬月刀を弾き飛ばされ、祭は張遼を蹴り飛ばすと凄まじい速さで追い打ちをせんと彼女の前に立つと、仰向けに寝転がる張遼の腕を剣で突き刺した。

 

「ぐあぁぁぁあぁぁぁあ!!が?!」

 

剣を突き刺された張遼は激痛のあまり大声を上げるが、祭は彼女の首根っこをガシっと掴むと締め上げる。

 

「は・・・・はなさんかい。ワレ・・・・」

 

「まだデカイ口をたたける余裕があるとはの。まったく感心するわい」

 

祭は首をさらに締め上げ、張遼の体を宙に浮かす。

 

「が?!・・・・・・・・・・・」

 

酸素を取り込むことを拒否され顔を真っ青にした張遼の命は風前の灯といった状態であり、ほとんど意識を失った状態であったが、祭の腕にそっと手を添えるもうひとつの手を祭は目にする。

 

「な?!一刀?!」

 

祭の手を押さえ、悲しそうな顔で見つめる北郷の姿を祭は見つめる。

 

「お主を殺した連中じゃぞ・・・・・。雪蓮様を・・・・・お前を辱めた連中を見逃せというのか!!」

 

急に困惑をし大声を上げる祭を怪訝な表情で見つめる部下たち。

 

北郷の姿は祭にしか見えないのであろう。

 

『・・・・・・・・・・』

 

北郷は生気のない顔色で、祭を見つめ涙を流す。そのとき祭の体に大きな激流が入ってくる。

 

悲しさ、悔しさが入り混じった不快な感触に祭は顔を歪める。

 

「・・・・・・分かった」

 

祭は涙を流す北郷を尻目に、溜息をつくと張遼の首根っこを抑えていた片手を緩める。

 

「はーはーはー」

 

張遼は塞がれていた酸素を懸命に取り込もうとする傍ら、祭は舌打ちをし苛立ちをぶつけるかのように張遼を殴り飛ばす。

 

彼女は痙攣をした後完全に意識を失ったようで、起き上がることはなかった。

 

魏兵たちは張遼を抱え退却していくのを祭は見逃す。

 

(これでよいのか?)

 

(ああ。張遼が死ねば恋が、そして詠や月が悲しむからね・・・・・。ありがとう、祭さん)

 

(馬鹿者が・・・・・・)

 

祭は北郷に語りかけると、北郷は祭の頭の中で話しかける。

 

自分よりも他人を、そして友のために義を尽くす。

 

北郷はそういう男であったなと、懐かしい気分にさせられたがこんな時ぐらい我侭になれない失った戦友に対し毒づく。

 

北郷は嬉しさと悲しさが入り混じった表情で祭に笑いかけると、スーっと姿を消してしまった。

 

「黄蓋将軍・・・・?」

 

「お前たち見たか?」

 

「え・・・?」

 

「いや、いい。・・・張遼を討ちとれると思ったのじゃがなぁ・・・。儂もつくづく情に弱い女であると・・・痛いほど身にしみる」

 

要領を得ない事を言う祭を怪訝な表情で見つめる部下たちであったが、祭は気を取り直して再度指示を出し始める。

 

「黄蓋将軍、お指示を!!」

 

「うむ・・・・。まずは援軍の呂布隊と合流、その後再度侵攻をはじめるぞ!!甘寧隊の動きは――――」

 

祭が指示を出している最中に、敵の要塞の城壁が轟音を立てて崩落していく。

 

「・・・思春がやってくれたようじゃな」

 

「あれが・・・対城兵器の威力ということですか・・・?」

 

「そのようじゃな。まったく孔明も面白い物を発明しよる。城壁は破壊された!!このまま呂布隊と合流し、予定通り前進じゃ!!ついてこい!!」

 

「「御意!!」」

 

祭は崩落した城壁めがけ突撃を行う最中に、要塞内部から煙が上がるのを目撃する。

 

(雪蓮様がやってくれたようじゃな・・・!!)

 

祭は南陽郡最後の砦であったこの要塞を陥落できると確信をした。勝てる、と。

 

兵士たちもそれを感じ取っているようであり、士気も最高峰まで高まると同時に幾重ども矢が刺さろうが、剣で切りつけられようが前進をやめない死兵と化す。

 

「な・・・なんだこいつら?!」

 

「前進をやめないのか?」

 

「なんてやつらだ・・・・・!」

 

「撤退だ!!張遼将軍も夏侯姉妹も重傷だ!!撤退するぞ!!!」

 

魏で最強と言われる張遼と夏侯淵・夏侯惇に深い手傷を負わせた報せは瞬く間に魏兵に広がると同時に、死兵と化した呉兵に恐れを抱く。

 

魏兵たちはこれ以上の戦闘継続は厳しいと判断し、撤退をすることしか手立ては無かったのである。

 

-13ページ-

 

私たちは予定通り水路をつたい、進んでいくとついに建物の中へと入ることができた。

 

「水路から出て、敵の本部を叩くぞ。」

 

私が魁となり水路を進む中、ついに明るい光りが見えてきた。

 

「地上に出られるぞ!!予定通りに行え!!」

 

「はい!!」

 

副官はそう言うと、部下たちに血のついた包帯を顔や腕などに巻かせ肩に背負わせる。

 

私はその姿にニヤリと笑う。

 

「お前たちの演技、期待してるわよ。」

 

「酒場の踊り子たちの表現力には負けますが、なんとか演じてみせますよ」

 

「フフ・・・それは結構よ」

 

軽口を叩く部下に微笑むと、私は大声で声を上げた。

 

「敵襲だ!!水路から呉軍が攻めてきている!!」

 

私の声に要塞の敵兵が気づくと、直ぐ様こちらによってくる。

 

「なんてこった!・・・ひどい傷だ!!その情報は確かか?」

 

「ああ!哨戒任務にあたっていた我が隊も強襲を受け・・・なんとか逃げてきた。一刻も争う、軍師たちのいるところまで・・・・」

 

「ぐぅ・・・・・」

 

大げさに痛そうな声を上げる私の部下たちに、内心苦笑しながらも魏兵に伝える。

 

「分かった。ついてこい!!」

 

ここまでは順調だと私はほくそ笑み、部下を見やると副官たちも気づかれないように笑みを返す。

 

そうして軍師たちがいる大きな部屋に入ると、そこには血相を抱えた軍師たちが駆け寄ってくる。

 

「それで呉兵はどうなっている?!」

 

「それは・・・・・」

 

「そ、それは・・・・?」

 

副官が小さく声を上げると軍師は耳をすまし近寄る。

 

「ここに居るということだ!!!」

 

副官が近寄ってきた軍師を捕らえ、剣を首に突きつけ盾にする。

 

「な?!」

 

「ど、どういう・・・・うわ?!」

 

私の部下たちに次々と襲われる魏兵と軍師たち。私は深々と被った兜を地面に捨てると魏の軍師たちの顔が青ざめる。

 

「孫策・・・・・」

 

「ご名答よ。ここは我々が占拠する。兵に武器を捨てさせろ。さもなくば皆殺しだぞ」

 

私が冷たい表情で脅すと、兵士たちは武器を捨てていく。それを部下たちが縄で縛り付け一気に無力化させる。

 

中には逃げようとする勇敢な兵士もいたが、それを見逃す私でもなく私は腰につけている小刀を逃げている兵士に投げつけた。

 

「が?!」

 

逃げる兵士の頭に吸い込まれるように刺さると、地面に崩れるように倒れ血だまりを作る。

 

「無駄な抵抗はやめる事ね。武器庫、食料庫の場所を教えなさいな。さもなければ・・・・・」

 

南海覇王を抜くと、縄で縛られた兵士の顔にちらつかせる。

 

「ぐぅ・・・分かった」

 

それから武器庫と食料庫の場所を吐かせると副官に指示を出す。

 

「おまえはここで奴らを見張っていなさい。明命と私とで二手に別れ、武器庫と食料庫を破壊するわ」

 

「了解しました。ここは我々で死守します。ご武運を!」

 

「貴様もな!では行くわよ!明命」

 

「はい!!」

 

二手に別れ、中隊での別行動を行う。私は武器庫を破壊すべく部下たちを率いていく。

 

要塞内は混乱が生じているようであり、轟音が各地で響く。

 

「予定通り要塞兵器を蓮華たちは投入したようね」

 

「急ぎましょう。孫策佐官」

 

「ええ」

 

そうして要塞内を走り続けると武器庫にいた兵士たちを、強襲する。

 

「て、敵?!ぐぁ!!」

 

「なんでこんなところに?!」

 

怯えと驚きで顔を歪ませる魏兵に私は答えもせずに腰につけている小刀を三つ取り出すと、一気に投げつける。

 

手前にいた三人の胸、頭に突き刺さり声を上げるまもなく絶命する。

 

「ここが武器庫ね・・・・。まだか!!」

 

「もう少しお待ちください!!」

 

「急ぎなさい!!敵も気づいているぞ!!」

 

細工を施している部下にそう捲し立てると、私は襲いかかってくる魏兵の相手をする。

 

三百人の隊を二つに割っており現状では百人にもみたないこの人数で、敵本陣の巨大戦力を相手にするというのは絶望にも近い状況でもある。

 

だが私と共に戦う戦士たちは燃えるような眼差しで敵を相手にし、この作戦が成功するものであると信じている。

 

そうだ、私も負けてられない。部下たちが、彼らが一人でも無事に帰れるように、帰りを待つ人のもとに再び会えるように、私は剣を振るおう。

 

敵は大勢ではあるが、私は集中力を最大にする。心臓の音がやけに聞こえ、全ての動きが緩慢に見える。

 

単独で飛び出ると、敵は剣を振りかざすも既に見切っている私からした何の恐怖も感じない。

 

体を横に捻り躱すと、すれ違いざまに腹部を切り裂く。

 

兵士の腹部から大量の血と臓物が飛び出るの私は見て更に心臓が高まる。

 

「フフフ・・・・私も本気を出そうかしらねぇ!!魏兵どもよ!私を討取れるのに一体どれだけの血が流れるのか、見ものね・・・・」

 

「ひぃ?!」

 

怯える一人は腕を切り落とし、驚く一人は首を跳ね飛ばされ、恐怖に支配されながらも立ち向かう一人は回し蹴りで歯を数本吹き飛ばされる。

 

「敵は多数に無勢だ!!取り囲め!!」

 

敵の隊長格が捲し立てると同時に、私は彼と目が合う。

 

私はニタリと笑うと最後の一本が残っていた小刀を取り出し、彼の顔にめがけて投げつける。

 

「ぐ?!」

 

隊長各の男の頭部の真ん中に見事に突き刺さると、断末魔を上げることなく地面に倒れこむ。

 

「もっと!!もっとよ!!さぁ!来なさい!!射精させるほど気持ちよく殺してあげるから・・・・。フフフ・・・・アーハッハッハッハ!!」

 

自分の孫家の血が滾るのを知覚すると同時に、自分を抑えることが出来なくなっていることが他人事のように気づく。

 

狂った笑みを浮かべながらも、南海覇王を振り回し私の周りは血しぶきが絶えることはない状態である。

 

「孫策佐官!準備が出来ました!!撤退です!!」

 

部下たちは撤退の声を上げる中、私は苛立ちの表情で部下を睨む。

 

狂戦士と化した今の私にはその撤退の声は不機嫌にさせるに十分な内容であったからだ。

 

「お前タチは先にイケ・・・・。ココはワタシが・・・・オサえる・・・から」

 

「で、ですが、孫策佐官を置いては!!」

 

「イケ」

 

「わ・・・・わかりました!ご武運を!!」

 

有無を言わさぬ口調に変わり、今までと違う狂気をまとった私を見て、歴戦の戦士である部下たちは息を思わず息を呑む。

 

これ以上彼女と話せば、殺される。

 

そう感じてしまうくらいの恐ろしい狂気であった。

 

部下たちは孫策を心配そうに見つめながらも撤退をはじめる。

 

燃え上がる武器庫を前に立ちはだかる私の前に、動揺の色を見せ始める魏兵たち。

 

「・・・・俺たちが手に負える相手じゃない。夏侯将軍は?!」

 

「・・・・・甘寧と戦い負傷。敗走した模様・・・・え?!」

 

伝令兵を凄まじい速さで刺殺すると、歪んだ笑みを貼り付けた小覇王が目の前に。

 

隣にいた男も首が飛び、反撃をするべく弓矢と槍を駆使するも矢は弾かれ、槍は剣で受け流され全く効果を成さない。

 

むしろ更に反撃を浴びてしまい、大量の死体が転がる。

 

「こいつを止められない・・・・。逃げろ!!」

 

「「うわ〜!!!」」

 

「・・・逃がさないわ。ここでお前たちは死ぬのよ!!」

 

雪蓮の殺気と狂気に怯えを見せた兵士たちが、一斉に背中を向け走り始めるも雪蓮は逃げる暇すら与えてはくれない。

 

だが魏兵たちは友軍の命を生贄にしてでも、逃げようと必死であった。

 

死神から逃げるためには味方の命など些細なことでしかない。

 

雪蓮を相手にしていた魏兵たち部隊は崩壊し、命令が一切通らない混乱・壊滅状態になってしまう。

 

その混乱が要塞内に広がり、敵に混乱が疫病のように広がっていく。

 

さらには要塞の擁壁が崩壊し、呉兵たちが要塞内に侵入していき混乱は要塞全域に広がった。

 

それからというのはダムから決壊した濁流に呑み込まれるが如く、魏兵たちは組織的な戦いを失い、敵本陣を呉に抑えられた状況下では指揮系統が破壊され混乱を抑えることができない。

 

狂戦士と化した小覇王を抑えることすら叶わず、さらに後ろからは呉の大部隊が迫ってくる。

 

将軍である夏侯姉妹と張遼は深い手傷を負い敗走するなか、もはやこの状況で魏兵には状況を打開できる有効な手立ては持っていなかった。

 

一人、また一人と武器を捨て逃げる者、投降する者が増え始め、南陽郡要塞攻略戦はこうして勝利を収めた。

 

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だが呉軍は喜ぶのも束の間、興奮状態が続く雪蓮を抑えようと四苦八苦する。

 

「孫策佐官!!策殿!落ち着いてくだされ!!」

 

「姉様!!お願い、もうやめて!!」

 

蓮華と祭が止めに入るものの、興奮状態は収まりがつかず恐ろしい力で吹き飛ばされてしまう。

 

「な、なんて力なの・・・?」

 

「まずいの・・・・。北郷がいた頃は抑えられておったのに・・・・。血を浴びすぎたか・・・雪蓮様よ」

 

こちらに斬りかかってくることは無いが、殺気はこちらに向けられたままだ。

 

雪蓮のわずかに残る理性が狂気を決死に押さえ込んでいるのが、呉兵や蓮華たちには伝わってくる。

 

だが彼女を抑える冥琳はここにはいないし、精神的な支えとなっていた北郷はもういないのだ。

 

そうしたにらみ合いが続く中、少年は兵士に保護され、天幕で雪蓮を待っていたが何やら外が騒がしい。

 

「おい、どうしたんだ?」

 

外に飛び出すとあのとき孫策の隣にいた兵士に声をかけると、兵士は声を上げて答える。

 

「孫策佐官が・・・・暴れているんだ」

 

「え!?孫策が?!」

 

「大丈夫。我々がなんとかするから、君はここにいなさい。いいな?!」

 

と天幕に男は入れようとするとき、少年の頭に声が響く。

 

『助けて・・・・・・・』

 

と泣きながら助けを乞う女の声。少年は頭を押さえる。

 

「おい!大丈夫か?!あ!こら待て!!」

 

少年は頭痛でうずくまるのを兵士は心配そうに伺うが、少年は直ぐ様立ち上がり走り去ってしまう。

 

とっさの行動で予測ができなかった兵士は追いかけようとするものの、騒ぎが凄まじく人ごみがすごいため、見失ってしまった。

 

「まったく!!」

 

男が毒づくと少年を追いかけんと、走り出した。

 

にらみ合いが続く中、小さな足音を立て人ごみをかき分ける男、いや少年がいた。

 

「孫策・・・・?!どうなってんだよ!!?」

 

「落ち着け。雪蓮様は血を浴びすぎた。下がっていろ!!」

 

思春は手短に説明すると、少年を後ろに下げさせようとするが思春の腕を少年は掴み拒否する。

 

「いやだ!!」

 

「この餓鬼が!!お前如きが適う相手ではない!!」

 

思春が怒鳴ると少年も負けじと怒気を孕んだ声で大声を上げる。

 

「孫策は助けを呼んでる!!助けてって!!お前らにはそれがわからないのか?!」

 

「な?!おい!待て!!」

 

彼の気迫に一瞬怯んだ隙を見て、少年は身軽に思春を掻い潜り雪蓮の前へと立つ。

 

「孫策・・・・?」

 

目の前にいるこの女が自分が知っている、自分をからかい悪戯な笑顔を見せていた彼女であるとは思えなかった。

 

体中が返り血にまみれ、彼女が待つ剣からは血がぴちょぴちょっと垂れ、血だまりを作っている。

 

それだけで一体どれだけの人を殺めたのかを、少年は悟ると同時に彼女の狂気のプレッシャーに彼は足が震える。

 

だが震える足を何度も殴りつけ、歯を食いしばる。そんな姿を雪蓮は見て、辛そうに声を絞り出す。

 

「・・・・・逃げて」

 

「・・・・・いやだ」

 

「聞き分けの悪い・・・・ガキね・・・・・。ダメ・・・・わ、わたし・・・・・もう抑えられない。逃げて・・・・お願い!」

 

「逃げない!!孫策は助けてって叫んでいるじゃないか!!ずっと・・・・泣いているじゃないか!!」

 

「・・・・な、なんで?」

 

「分からない。でも・・・・声が聞こえた。・・・俺はアンタに救われたんだ。今度は俺がアンタを救う!!」

 

「グ・・・・知ったようなことを!!」

 

突き飛ばされた少年は痛そうに顔を歪めるが、立ち上がり雪蓮に駆け寄る。

 

突き飛ばした少年を心配そうに見つめ雪蓮は一瞬泣きそうな顔をしたが、その表情をすぐになくし怒りの表情に変える。

 

「お前に何がわかる!!!全てを失い、生きる意味すら亡くしたこの私を!!」

 

「知るわけないだろ!!でも・・・・助けてって叫ぶ人を・・・アンタを俺はここで見捨てたら、多分死ぬまで後悔する気がする。だからこそ助けたいんだ!!!」

 

「だけど・・・・お前には・・・お前だけには・・・ガ・・・・クッ!見られたくは・・・ないの・・・・・こんな醜い・・・・・姿・・・・を」

 

震える雪蓮の体を押さえ込むように自分で抱え、震える。その目は殺気と狂気に満たされ、今でも飛びかからんとするのを抑えているようであった。

 

北郷の生き写しのようなこの少年にだけは、今のこの醜聞極まるこの姿を見られたくなかったのだ。

 

その思いが呉の蓮華たちの胸をうつ。

 

「姉様・・・・・」

 

「雪蓮様・・・・・・・」

 

「策殿・・・・・・・・・」

 

「このバカ!!なんで綺麗なとこばっか見せようとするんだ!!醜くていいじゃないか!」

 

「え・・・・?」

 

「孫策のおかげで多くの人が救われたじゃないか!!周りを見てみろよ!!」

 

「・・・・・・・・・・・・・」

 

「俺がいた街もアンタたちに救われた。その事実だけじゃダメなのかよ?!俺、コソ泥だったけど・・・だからこそ分かることもあるんだ。街の雰囲気が・・・・街のみんなが喜んでいるって、本気で笑い、本気で泣くことができてるって!」

 

「・・・・・・・・」

 

「自分の頭だけで考えんな!!お前を必要とする人が・・・・まだここには居るじゃないか!」

 

「そのとおりよ!この子の言うとおりだわ姉さん。私も・・・・私は・・・一刀が失われて恐ろしい悲しみの渦に苛まれていたわ!」

 

「れん・・・・蓮・・・華?」

 

「貴女が戦うとシャオと私に言ってくれたから、私も前に進めた!私に前を向いて戦う姿を・・・・生きる勇気を母が死んで途方に暮れていたあの時のように、再び与えてくれた!貴女が与えてくれる無償の愛は私たちには救いだった・・・・・!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「だからこそ・・・・今度は私が貴女を助ける!!剣を振るいたいのなら、血を見たいのならこの私の身体を喜んで差し出そう!!」

 

蓮華は姉と同じ同形の剣である南海覇王を地面に捨て、両手を雪蓮の前へと広げた。

 

「え・・・?」

 

「蓮華様いけません!!今の雪蓮佐官は以前のような彼女ではありません!!」

 

「下がっていなさい!!!!!思春!!私は・・・・信じているわ・・・・。姉さんは・・・あの優しい、気高い、私の誇りである姉は私たちを絶対に傷つけたりはしない!」

 

蓮華の威圧的な声に思春はビクッと怯えを見せた。思春の視界では今蓮華の後ろに有無を言わさぬ強烈な圧を感じた。

 

自分の主がこれほどまでのプレッシャーを出せることに思春は驚きと怯えが入り混じった表情で立ちすくむ。

 

ほかの兵士たちも蓮華のプレッシャーにあてられ、地面に張り付いたかのように動くことができない。それは雪蓮を助けると呼びかけた少年も同じであった。

 

「さぁ伯符!!私は・・・・貴女を縛り続けた孫家の主であるこの私がいるだぞ!」

 

「ぐぅ・・・・・・・」

 

抑えられなくなった興奮で目をギラギラと睨みつけながらジリジリと蓮華に近づく雪蓮に皆が絶望の色を隠せなくなる。

 

孫伯符は本気であると。

 

雪蓮が持つ南海覇王がついに蓮華の真上に振り上げた―――――。

 

蓮華はゆっくりと目を閉じ、自分の死を覚悟するがいつまでたっても激痛が体を支配することは無かった。

 

怪訝に思い恐る恐る目を開けると、涙を流す雪蓮が剣を振り上げた状態で止まっていた。

 

「姉さん・・・・・・・」

 

「・・・・・できない。私には・・・・できない・・・・。ここで蓮華を殺めてしまえば・・・・私は本当に引き返せなくなってしまう・・・・。私は今度こそ・・・・全てを失ってしまう」

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

「蓮華を・・・・私の家族を・・・・。そうだ・・・・私は全てを失ったわけではないのよね・・・・一刀」

 

そう言うと雪蓮は南海覇王を鞘に収め、彼女が放っていた禍々しい圧は失われた。

 

「そうよ、姉さん。戦いは終わった。さぁ帰りましょう?私たちの故郷へ」

 

「蓮華・・・・。ありがとう。私・・・・貴女の姉で良かった・・・・」

 

雪蓮は涙を流しながら、蓮華に縋り付くように抱きつくと大声で泣き出した。

 

蓮華はただ何も言わず背中をぽんぽんと優しく叩き、駄々っ子をあやす様に優しく微笑む。

 

その二人の姿を釈然としない様子で見つめる少年に祭は頭をガシっと掴むと乱雑にワシャワシャと撫でる。

 

「よくやった。・・・・・お主のおかげで雪蓮様は救われた。感謝するぞ」

 

「え?俺、何もしてないけど・・・・」

 

「お主が前に出て雪蓮様と向き合わなければ・・・・蓮華様もこうは行動しなかっただろうよ・・・。お主はつくづく・・・・・」

 

北郷に似ておるな、という言葉をすんでのところで祭は飲み込む。

 

「つくづく・・・・なんだよ?」

 

「いや・・・・・」

 

訝しげに睨む少年に祭は気まずくなり少し目をそらすと、少年の後ろに僅かにだが北郷の気が纏っている事を知り、目を見開く。

 

(やはり北郷・・・・お主の力なのか・・・・?)

 

先ほど見せた北郷の涙、そして乗り移ったかのようなこの勇敢な少年の行動。

 

あれは全て北郷の仕業だと、そういうことであろうか?

 

それは祭の知見では判りえない出来事であり、冥琳に相談するべきか迷いが生じたのは事実ではあった。

 

だが・・・・・彼女が感じた、体験したこの出来事は決して気の疲れではない事は確かではあった。

 

(・・・・・・雪蓮様と冥琳に話してみるか・・・・・・。全く気がすすまんが・・・・)

 

内心毒づきながらも自分が体験したこの出来事を、疲れすぎだと二人は笑って受け流してくれることを強く願っていた。

 

南陽郡 要塞攻略戦は魏の圧倒的なまでの敗北となり、荊州は事実上陥落した。

 

要塞を陥落した数日後に冥琳の伝書鳩が手紙を届けに来た。

 

内容を見ると連合が孔明主導による出兵を呼びかけ、連合軍の下で魏の基地は設備は全て接収されたようであった。

 

自分の手柄を横取りされたと憤りを見せる参謀たちもいたが、蓮華としてもこのタイミングで連合軍が出兵されることに、大きな意義を感じていた。

 

呉だけでは荊州を制圧は出来ても、こちらも痛手を負っていることには変わりはなく守りきることは難しいからだ。

 

冥琳はそういったタイミングを見越し、孔明や山越の高官たちと事前に打ち合わせをしていたのだろう。

 

荊州の民は接収に来た連合軍を解放軍と呼び、圧政解放の喜びを爆発させると同時に連合軍をこぞって熱烈に歓迎した。

 

呉軍はともかく山越や蜀は荊州攻略戦には全く参加してはいないので、やや気まずい顔をするものの荊州が連合の手に渡った事を素直に喜ぶのであった。

 

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夏侯姉妹、張遼は重傷を負い、救援に来た増援部隊に助けられ事の重大さを知る。

 

軍師として郭嘉と程cが今回は来てはいたが、孫策暗殺の失敗と北郷の死を知らされると動揺の色を隠せなくなった。

 

いつもは飄々としている程cも今回は事の深刻さに、目を見開き怒りをその色は怒りを滲ませていた。

 

「・・・・・・撤退でしょうね〜。全く巫山戯た事をしてくれたおバカさんがいるものですねぇ」

 

「全くだ・・・・。これでは華琳様が悪の権化として扱われてしまう。ここは撤退し、再度和平を結ぶよう進言しましょう」

 

「そうですねぇ。・・・・・・桂花さんを説得するのは骨が折れますよ〜?」

 

「そのための我々だということですよ」

 

郭嘉は深い溜息をつくと程cも誰にも聞こえないように溜息を同様にはく。

 

郭嘉は部下に撤退の号令を出すべく天幕を出るのであった。

 

その後許昌ではその後帰還すると直ぐ様家臣たちが集められ、会談が行われた。

 

曹操は怒りを滲ませながらも、会議の進行をするが部下たちの報告を聞いていくと顔を青ざめると同時に、鬼のような形相へと変貌する。

 

「その情報は確かなのかしら?」

 

曹操は郭嘉に聞くと、郭嘉は眼鏡を抑えながらも冷静に事の状況を説明した。

 

「はい。夏侯惇、夏侯淵、そして張遼将軍から個別に話を伺ったのですが・・・・夏侯姉妹は甘寧から、また張遼は黄蓋から同様の話を聞いたと」

 

「北郷隊の姿は?」

 

「呉軍は我々とは如何せん組織構成が違っておりますゆえ、北郷隊・・・・・・という名の部隊はないですが北郷が率いている部隊というのがあったと聞きます。ですが・・・この荊州の戦いで北郷の姿を見たものはいないようです・・・・」

 

曹操は怒りのあまり自分の意識を失いそうになるのをなんとか堪える。

 

汚された。

 

自分の覇業を、そして孫策という英傑との戦いを邪な愚図に汚されたこの怒りのあまり体が震える。

 

「今すぐ謀殺を図った連中の首を刎ねよ!!」

 

「か、華琳様?!」

 

「・・・・私の・・・・・私の・・・・戦いを・・・・・見ず知らずの者たちに踏みにじられたのだぞ・・・・!!今すぐ私の前に持ってこさせなさい!!!」

 

「ぎょ・・・・御意!」

 

曹操は絶を取り出すと、怒りのあまり自分の王座に叩きつけ、粉々に破壊してしまう。

 

だが怒りは決して収まることはなく、一人早々と王座の間を去ってしまう。

 

残された家臣たちは気まずそうに顔を落とすと、荀ケは深い溜息をついて声を上げる。

 

「呉とは和議を結ぶべきね・・・・。交渉は私が行うわ」

 

家臣たちは魏が呉に敗北したことを、この時悟った。と同時に荊州という戦略的な領地を連合に奪われたこと、さらには呉と蜀の経済行路の構成が成し遂げられてしまったことを痛感する。

 

戦力的な余裕は魏にはまだまだ分があるものの経済的な、政治的な立ち位置がこれから大きく変わってしまうことは想像に難しくない。

 

家臣たちは孫策を謀殺しようとした連中の所業を、迂闊さを深く呪うのであった。

 

 

その後二ヶ月ほどして・・・曹操と側近の荀ケはなんと直々に宰相である冥琳と和議をしたいと申し出る。

 

冥琳としてもこのタイミングでの和議は十分であるとのことで、この提案を快諾する。

 

曹操自らが直筆の新書を冥琳に差し出し、さらには謀殺を図った連中の首をも差し出した。

 

同席していた蓮華も冥琳も塩漬けにされた主犯格の男たちの首を見て、一瞬暗い影を落とす。

 

今更連中が罰しても意味がない、そんなことをしても死んでしまった北郷は決して元には戻らないのだと。

 

「紳士ある対応に私としても感謝したい。だが荊州は貴女たちの圧政に苦しんでいた。現状では我が連合の統治を解放軍と呼び喜ばれる始末である」

 

「・・・・・・・・・・・」

 

「民あっての王であるはずが、これではあべこべだ。恐怖による統治は決して皆を平和にはしませんよ?」

 

「だがそれで不要な争いはなくなるわ。堕落した民草を我々が導く以上、飴と鞭は必然だとそう思わないかしら?」

 

「なにを・・・・・?なるほど・・・・どうやら我々とは袖を分かち合うことはないと、そういうことですね?」

 

「残念ね・・・・。孫策や貴女にはわかってくれると思ったのだけれど?そういった考えが人を自惚れさせ、堕落させるとなぜ分からないのかしら?」

 

本気で言っているのか?と冥琳は正気を疑う。

 

堕落した民を導くだと?

 

その増長した思い上がりを荊州の民たちが見抜いていたことをなぜ分からない。

 

雪蓮を謀殺しようとした件も、そういった思い上がりがなければこんな事にはならなかったはずなのに、と。

 

冥琳は怒りのあまり握りこぶしが手のひらに強く食い込み、痛みのあまり我に返る。

 

「・・・・雪蓮を連れてこなくて良かったと、つくづく思い知らされる。彼女がここにいたら貴女の命は既になくなっているでしょうに」

 

怒りで震える声を絞り出すように吐き出す冥琳を、面白そうなものを見つけたと言わんばかりにニヤニヤと笑みを見せる曹操。

 

「口を慎みなさい、周瑜。我が主君の華琳様を侮辱することは許さないわよ!!」

 

「・・・黙れ雌餓鬼が。私はお前のような雌犬風情と話をしているのではなく、私は曹孟徳と話をしているのだ」

 

「な?!なんですって!!!」

 

「お前は確か曹操の愛人なのだとか・・・・。この大都督と呼ばれる私に汚らしい愛人風情が気安く話しかけるな。全く反吐が出る。愛人は愛人らしく閨で腰でも降っていればいいだけのこと」

 

冥琳に口汚く罵られ、怒りのあまり言葉を失いワナワナと震える荀ケを前に、冥琳は完全に見下した視線で荀ケを睨む。

 

彼女が荀ケに投げつけるその視線は憎しみと敵意と侮蔑を込めたものであり、彼女が蓮華に初めて見せる冷酷な表情であった。

 

だが蓮華は目をつぶり、沈黙を保ったまま冥琳の言動を諌めることは決してすることはなかった。

 

「・・・・随分と物知りなようね。周瑜」

 

「下調べは出来ております。念入りに・・・・ね」

 

「孫策は・・・なぜ来なかったのかしら?」

 

「私の判断です。彼女がここに来たら貴女の命の保証はできないからだ。それでは私としても、呉としても国益を損なう」

 

そう、残念だわと小さなため息をはく曹操を冥琳は訝しむ。

 

・・・北郷と雪蓮の関係には気づいていてこの様な巫山戯た態度をとっているのか?

 

それとも知らないだけなのか・・・・?

 

「・・・・・曹操殿、死んだ北郷のことをこ存じか?」

 

「孫策直上の親衛隊の隊長であった・・・・・という事しか知らないわね。顔は覚えているわ。反董卓連合の時には孫策同様に強い眼差しで私を挑むように睨んでいたわね・・・」

 

「ほかには?」

 

「・・・・・それ以上のことは知らないわ。それが何か?」

 

「・・・・・・・なるほど。そうですか」

 

それ以上冥琳は北郷のことを曹操には話すことはしなかった。

 

だが曹操は冥琳の先程の質問に不審がる素振りを見せるとともに、ハッと目を見開くと深く目をつぶる。

 

洞察力のある曹操である。恐らく冥琳の質問の真の意味を推察であるが汲み取ったのであろう。

 

「先の態度は詫びたいと思うわ・・・・。孫策に・・・・いえ北郷にも・・・・・・・・」

 

「結構です。・・・・・いまさら謝罪をされても北郷も・・・雪蓮の幸せも・・・・戻っては来ない。さぁ・・・交渉を始めましょうか」

 

冥琳は怒りを含む声で静かにそう言った。

 

彼女はできることならここで曹操を謀殺してやりたい衝動に駆られていたことは確かではあった。

 

だが呉の利益と個人的な私怨とをどちらを優先するかは弁えているつもりだ。

 

『そこ』が魏と呉の決定的な違いであると、冥琳は自分にそう言い聞かせていた。

 

結局双方、思想的な食い違いが決定的となり和議こそは結んだものの、終戦宣言を含む平和的な和議ではなく、あくまで休戦的な位置づけでの内容となった。

 

だが呉側としては荊州の全面割譲、国家予算1年分の賠償金のもらえるなど、出血も多かったが実りのある内容であったことは確かではあった。

 

曹操もさすがに自分たちが雪蓮たちに行った所業が悪行であると気づいたようでもあり、その部分に関しては曹操は真摯な態度であったことは救いか。

 

もちろん連合としても悪いことばかりというわけでもない。

 

魏が荊州を撤退してからというものの、連合に加盟したいと声を上げる諸国たちは間違いなく増えてきている。

 

冥琳が懸念していた連合圏内の平和享受の信頼性という課題は先の戦争の勝利によりなくなったと言える。

 

連合軍の軍備は増強され、南方の恒久平和をほぼ確実なものとすることができた事は素直に喜んでいい事実であった。

 

これで荊州攻略戦はついに終わりを迎え、雪蓮は予定通り王を正式に辞任。

 

それと同時に呉は国家基本法たる国家を規定する法律を発表する。

 

これにより同時期に連合も正式に独立を宣言する。

 

組織名も変わり中華大陸での冊封体制での親玉、中心を意味する『華夷』をもじると同時に、曹操が掲げる漢王朝は既に冊封体制から外されたのだという強烈な皮肉も込め、『華夷連合』という名の組織へと変わる。

 

華夷連合の創設目的は大陸の恒久平和、そして民衆の生存権と自由・平等を中心とした権利の確立、国家連合政府としての大枠での意思決定機関を構成する事を謳う組織であり、これにて広域で民主的な連邦国家の産声を上げるのであった。

 

大陸の群雄割拠の時代は北と南とで大きく分断され、自由・共和主義をかかげる華夷連合と旧態依存的な独裁帝国である魏王朝連合の巨大勢力で凌ぎを削ることになる。

 

そしてこの二つの勢力による対立はこの大陸の動乱が終盤へと移行したことを意味していた。

説明
続きを上げます。
比較的早く投稿できるとは何だったのか・・・・(-_-;)

結構なボリュームになるとは思いますが、ご了承ください。
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コメント
mokiti1976-2010さん、コメントありがとうございます。修正しておきました。お恥ずかしい限り。一刀そっくりな少年はキーパーソンとなります。ハッピーエンドにするのにしっかり働いてもらいます^_^(4BA-ZN6 kai)
講話ではなく『講和』ですよね?そして、とりあえず荊州攻略は終わったようですが、まだこれからもう一波乱はありそうですね。一刀そっくりの少年のこれからも注目してます。(mokiti1976-2010)
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