義輝記 別伝 その九 中編 その肆
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【 対面 の件 】

 

? 飯盛山城 城下町の茶屋 にて ?

 

 

「お待たせして申し訳ない! 天城颯馬、松永久秀殿の問いの答えを持参した次第! 私の後方にある品が命じらていた物、どうぞ検分の程を!!」

 

 

俺は指定されていた件(くだん)の建物に近寄り、建物の周囲を守衛する兵に大声で到着を知らせる。 すると、直ぐに何名かの兵達が集まり、恭しく荷物を預かってくれた。

 

もちろん、長慶殿達が近くで待ってくれてるのは分かるが、何分にも俺達は大人数。 本来、俺一人が来る予定なのに、いつの間にか知らない顔が何人も増えているのだから。 

 

そんな大人数が前触れも無く、他国の太守に直接出会うなど大変失礼であり、また暗殺等を恐れて厳重な警戒になるのは、必然であったからだ。

 

後は取り次ぎを経て安全を確認、それから長慶殿が俺達に接する事になる筈なのだが……何故か満面の笑みを浮かべ、久秀殿達と共に無用心に近付いて来たっ!?

 

 

「ふむ、その様子では首尾よく行えたようだな、颯馬殿。 しかも、いつの間にやら見慣れぬ顔……他国の者を多数控えさせているとはな」

 

「…………………」

 

「か、甲斐の! それに越後、尾張も! し、しかも……大和のッ!?」

 

 

信玄殿達の顔を見たのに、長慶殿は普段と変わらない態度で俺に接し、久秀殿も目を一瞬だけ見開いた後、その次には澄まし顔で長慶殿の横で控える。

 

ただ一人、質屋の店主だけが大声で驚愕の叫びを上げた。

 

一応、この店主は近郊でも有名な大店の主であり、他国の太守の顔も見知っている様子から、意外とやり手だと窺える。

 

だが、如何せん立派な体躯をしている割には、肝は小さいらしいな。 他国の太守を見て叫ぶとは。 しかも、わざわざの説明も付けて、だ。

 

もしかすると、これも久秀殿の一計かと疑ってしまう。

 

この事態に、道中で考えた理由を説明しようと、俺が口を開こうとすれば、長慶殿は遮るように店主へ尋ねた。

 

 

「何をそんなに驚く必要があるんだ?」 

 

「………へ? あ、いや……何で……と……」

 

「武士の棟梁として認められた足利家に挨拶へ参るには、昨今の情勢からして、足利家と同盟を結んだ、我が三好家の城下町を通過するのが、安全で早く確実だと言えるだろう」

 

 

ニヤついた表情で俺を見ていた店主だが、長慶殿からの反論を受け思わず仰け反った。 しかし、今だに納得できないと言わんばかりに店主の反論は続く。

 

 

「で、ですが…………御家と敵対しないとはいえ、御味方とも言えない方々。 もし、大事な内情が……他国に知られるのは………」

 

「心配などいらない。 私が信頼する久秀に任せれば、敵対勢力に三好家の内情が渡るものか。 まあ、内情を知っても、我が家の繁栄と精強さを知らしめるだけだろうがな」

 

「そ、それは……そうですが…………」

 

「更にだ。 この様に颯馬殿と一緒に訪れたというのは、各家も足利家と何かしらの盟約があり、同盟している三好家にとっても益があると、考えていいのではないか?」

 

 

完膚なきまで言い負かされた店主は、長慶殿に頭を下げて後方に退く。 しかも、御丁寧に俺へ一睨みする事も忘れない。

 

店主が退くのを見て安心するのも束の間。 今度は俺を庇ってくれた長慶殿が目先を変え、俺の後ろに居る信玄殿達を見ると、とんでもない話を始めた。

 

 

「颯馬殿は一存の親友にして、我が家の家族と遇している者。 ならば、その三好家の姉として、御連れの方々に挨拶を交わすべきだと、私は思うのだが!」

 

「ちょ、ちょっと幾らなんでも!」

 

「ん、なんだ? 話した通り颯馬殿の連れて来た方々だから、危害を加えられる心配なんかしていないぞ? それに、私も一存と共に鍛練した身、多少ならば護る術もある」

 

「そ、そうではなくてぇ────」

 

 

長慶殿の態度は相変わらず気安い。 

 

他国の主に仕える俺を実の弟のように接して下さり、今回も弟分の俺が珍しく友達を連れて来たと、嬉しそうに微笑んでいらっしゃる。

 

だが、しかし、待って欲しい。

 

後ろの方々は、歴(れっき)とした他国の太守であり、または親族であり、決して俺のような席の低い臣下ではない、長慶殿と同じ殿上人でもある。

 

そんな偉い立場の人物達が、こんな質素な場所で気安い挨拶程度で済ますのではなく、その格式に相応しい正装や場所を揃え、豪華絢爛な接待で遇しなければならない筈だ。

 

もし、この行為を関係する各家の反勢力方に知られれば、恥知らずと後ろ指を指され、下手をすれば何かの口実、または弱みを握られ、治める領内が荒れる可能性がでる。

 

更に、接待の主である三好家の格式が疑われ兼ねない件であり、しかも間接的原因である俺だけではなく、主家の足利家まで累卵の危うき事態を招く恐れがあるのだ。

 

太守としての長慶殿の応対に驚き焦りを覚えた俺は、勝負事をしているのを忘れ、一生懸命に長慶殿の説得へ掛かるわけであるのだが。 

 

 

「………手強いですね、姉上」

 

「ええ、私達が颯馬の横という立ち位置を手に入れる為、日々丁丁発止しているというのに、実弟を介し颯馬を家族扱いして取り込み、姉という不動の立場を築き上げるとは……」

 

「三好長慶……城下での噂に悪い話は聞かず、民たちの顔も明るく笑顔が絶えぬ。 フッ、清廉潔白にして民政も優れる大器か。 だが、私は負けぬ! 毘沙門天の名に懸けても!」

 

 

後方で勝負に関係ない信玄殿達が、小声で長慶殿を見ては囁(ささや)いて、敵意を剥き出しにしている!? 

 

いや、勝負は俺と久秀殿であり、貴女方は違うのでは? それに長慶殿は、別に勝負などしていないのに。

 

そう思っていた時、俺と長慶殿の間へ助けが入った。

 

 

「お待ち下さい、長慶様。 今は颯馬殿と、この久秀の知恵比べを行う最中の筈かと」

 

「………むっ」

 

「そんな折り、判定を下す長慶様が颯馬殿の肩を持つような行為をなされば、この知恵比べの判定に公平か否かの異を唱える輩が現れるかもしれません。 どうか、御自重の程を」

 

 

長慶殿の振る舞いを見兼ねた久秀殿が、低姿勢になりながらもハッキリと長慶殿に諫言してくれた。 

 

やはり、三好家の重臣である久秀の言葉は重い。 長慶殿はニッコリ笑うと、その言葉を大人しく受け入れ、信玄殿達の紹介は後日にすることになった。 

 

流石は三好家で重きをなす松永久秀殿。 主である長慶殿に対して、臆せず取りなしてくれるとは。

 

 

「くくくっ………なるほどな。 獅子身中の虫と知るも敢えて置き、逆に自家薬籠中となるよう動かす気か。 だが、青二才まで手元に置こうなどとは、実に気に食わぬ輩よ」

 

「うふふふふ、わたしくしの颯馬様に知恵比べを挑んだのが運の尽きですわ。 松永久秀……貴女が無様に敗北する様子、颯馬様の横で……じっくりと拝見させて頂きますわね」

 

 

また、俺の後ろから挑発するような声が聞こえるが、これ以上勝負が中断するのは嫌がった俺は敢えて無視し、久秀殿の前に立って話を進めることにした。

 

 

◆◇◆

 

【 乱入 の件 】

 

? 飯盛山城 城下町の茶屋外 にて ?

 

 

「間違いないわ。 久秀が指定して、店主の店より持って来るように伝えた品物のようね」

 

「ええ、護りも厳重警戒をされていましたから、分かりやすかったですよ。 この勝負、まずは俺の勝ちでいいですね」

 

 

俺の持ってきた大壺を店主と共に鑑定した久秀殿は、本物だと太鼓判を押した。 まあ、あの店から持ってきたのだから、鑑定しなくても偽物である訳がないのは当然だ。

 

俺に渡す際に偽物を渡す、もしくは何らかの妨害を企んでいたとしても、俺一人だけなら兎も角、心強い信玄殿達が護衛と証人として付いて来てくれた、お陰である。

 

 

「お待ち下さいッ!!!」

 

「なんだ? 言いたいことがあれば、聞こう」

 

 

だが、ここで物言いが入る。 

 

申告者は……店主。

 

 

その内容は────

 

 

「恐れながら長慶様! この勝負、颯馬殿は重大な約定違反を行った疑いが………いや、行われたと申した方が正しいでしょう! 即座に久秀様の勝利を命じられるべきかと!」

 

「ほう………そこまで店主が申すのであれば、何かしら証拠があるのだろう。 赦す、申してみよ」

 

「はい、まずは此方の書状を御覧下さい。 私共の手代に命じ、颯馬殿の行動を書き留めた物………でございます」

 

 

店主は、懐から取り出した書状を恭しく長慶殿に差し出す。

 

どうやら、その書状に俺が行った事が書いてあるらしく、長慶殿が読み進める間に、店主は大きな声で理由を述べる。

 

もともと地声が大きいのに関わらず、俺や信玄殿達にも聞こえるようにと、わざわざ配慮してくれているらしい。 

 

 

「颯馬殿は店の品物である大壺を盗んだと申しておりますが、それは真っ赤な嘘。 本当は壺の代金を支払って購入された、つまり……金の支払いで御購入された物だと」

 

「……ふむ」

 

「この大壺は、高価な品を揃える私共の店の中でも、最高の逸品。 失礼ながら、颯馬殿の懐では厳しい筈。 これは、お連れ様方の力添えあっての、欺瞞工作ではないかと」

 

 

そう言って長慶殿に頭を下げるも、さりげなく俺を貶(けな)す事を忘れない店主は、俺の懐具合を知ったかのようにそう付け加え、天城颯馬、つまり俺の負けを主張した。

 

この書状を最後まで読み終わった長慶殿は、無表情で店主を見つめながらも長考し、側に控える久秀殿も扇子で口許を隠しつつ、このやり取りを傍観している。

 

そして、当事者の俺としては………確かに懐具合は当たっていると納得していたよ。 いつもなら、無理すれば購入できるぐらいは懐に入っているのだが………間が悪かったのだが。

 

 

「よっ、颯馬! 相変わらず面白い騒動に巻き込まれてんな! やっと、姉さんに命じられた仕事が終わったから、応援に駆けつけてやったぞ!」

 

「…………一存……」 

 

 

そんな考えをしている最中、長慶殿の弟であり、俺の親友である『十河一存』が、片手を上げながら楽しげに、俺へ声を掛けて来た。 

 

長慶様からの罰が終わり次第、此方に顔を出すと思っていたが……まさか、こんな時に来るとは。

 

 

「な、何だよ、こりゃ!? 姉さん達は分かるが、お前の後ろに居るのって、甲斐の双虎に越後の軍神、尾張の第六天、それに大和のへん───太守まで揃ってるんだ!?」

 

 

「これが、鬼十河……ですか? 姉上、油断が出来ませんね」

 

「ええ、動きからして……武の実力は噂以上。 ただ感情を隠す腹芸が出来ないところから、智に関して大したことは無さそうですね。 確かに、侮っていい相手ではありません」

 

「───ぜひ手合わせ願いたい気分だが、今は颯馬殿の大事な戦いの場。 雑念を払い、心静かに大人しくしようか。 ふふ、この出会いに颯馬殿と毘沙門天には、感謝だな」

 

「ふむ、大将の器を持つ姉に、武に秀でた弟、か。 政と謀に詳しい彼奴が心服し、かの青二才が加われば、日ノ本は三好家の掌中に入っていただろう……是非もない事よ」

 

「………チッ、仕方ありませんわね。 不快な文言を口にした下衆に、直ぐさま問い詰めて差し上げたいところですが……愛しの颯馬様の前で……野蛮な振る舞いなど見せる訳には………」

 

 

俺の後ろに居る方々を見て目を見開き、頬をひきつらせて唖然としている、一存の気持ちは分かる。 俺だって、こうも簡単に逢えるなんて、思っていなかったからな。

 

だが、三好家の今後のために、無礼な真似は極力控えてもらうよう忠告しておかないと。 

 

 

「あら、嘆かわしいわ。 大和国の太守を三好家の情けで任命されているのに関わらず、長慶様の弟君にふざけた物言いをなさる身の程知らずには、実に困ったことね」 

 

「ふっ、そんな惨めで可哀想な、こ・の・わたくしから颯馬様を取られ、やけになって喧嘩を吹っ掛けてくるような浅ましい女に、小言なんて言われたくないですわ」

 

 

一存に注意を促していると、久秀殿と順慶殿が笑顔で語りあっている。 二人が顔見知りと聞いていたが、まさか楽しく談笑できる程の仲の良さとは知らなかった。

 

まあ、楽しげに話すのだから問題なんかないだろう。 『朋アリ遠方ヨリ来キタル マタ楽シカラズヤ』という論語の言葉もある。 遠方から来れば、話が弾みのだろうな。

 

そう言う俺も一昨日、久々に一存と酒屋で呑みへ行き、久しぶりの再会を祝っていたのだが、その席に長慶殿が突然乱入され、非常に困ってしまった。

 

『何故、私も誘わない! 私だけ仲間外れとは、何と姉不幸な弟達だ!』と怒られた後、そのまま同席し鯨飲された。 

 

……………『ざる』の上をいく『わく』の長慶殿には秘密にして、俺と一存だけで気長に呑んでいたかったのだが。 

 

まあ、その後の長慶殿は機嫌を直し、満足そうに笑っていたが……その分の皺寄せで俺と一存の懐の中身は………御想像に任せよう。

 

久秀殿と順慶殿の様子を見て、つい一昨日の出来事を思い出し、軽くなった懐の中身を考えていると、ちょうど長慶殿よりお声が掛かり、慌てて思考を現実に戻す。

 

 

「颯馬殿、店主からの不服の申し立てあり、『この品物は策で掠めた物であらず、立替での偽装だ』と。 こう申しておるが、どうだ?」

 

「いえ、国を預かる太守様に私如きが、ほんの一時とはいえ金を借りる訳にはまいりません。 もし借りれば、その借りたという風聞により、足利家や他家に御迷惑を掛けるかと」

 

「それでは、借入して代金を支払った、もしくは自腹を切って支払ったという事は、全く無かったと?」

 

「はい、双方とも身に覚えが無いことかと」

 

「そうか、ならば良かろう」

 

 

長慶殿は、俺の応えに微笑みながら頷く。

 

だが、店主としては納得できなかったらしい。 怒りで歪んだ顔を真っ赤にさせながら、俺に向かって怒鳴り込む。

 

 

「言っておくが手代からの報告に、代金を支払ったという詳細な書状がある! これに関して言い逃れは出来ぬぞ!!」

 

「ああ、支払ったよ」

 

「そうだろう、そうだろう! そのような言い訳で他国でも名高い南蛮渡来の高価な品物を取り扱う、この儂を騙せると───ぬう!?」

 

「だから、お釣はいらないって言って、持ち金を全部渡してあげた。 これで、疑問が解けて……満足かい?」

 

 

俺は事実をハッキリと告げる。

 

苦虫を噛み潰したような表情で見ていた店番が、用事が済んだ後、壺を購入し代金を払うと、急に恵比寿顔になって気持ち悪かったんだ。

 

思えば、アレは俺が違反した事実を掴んだという、歓喜だったのだと。 そして、俺の頭へと浮かぶ恵比寿顔に重なるように、店主も大口を開けて愉快そうに笑った。

 

 

「ふははははッ! 証拠を出したら、容易く認めおって! これで、この勝負は貴様の負けだ!! 長慶様、この勝負を謀った奴に何卒御裁きを!!」

 

「いや、この勝負は逆に俺の勝ちだ。 何故なら、俺は久秀殿の命じられた品物を盗ったんだからな」

 

「ちょ、長慶様の御寵愛を受けた身で、この勝負を誤魔化そうとするなど、実に、実に不届き千万! 長慶様方の御手を煩わせる必要も無い、儂が召し捕ってやる!!」 

 

 

店主が喚きながら異議を申し立てるが、あいにく、まだ俺の話は終わっていない。 放っておくと、あの相撲取りのような身体で、俺を捕らえようと動き始めそうだ。

 

 

「─────大人しくしろ!」

 

「な、何を!? 捕まえるのだったら、あの若造で!!」

 

「姉さん……三好家当主が勝敗を決めてないのに、勝手に行動しやがって! あんまり騒ぐなら、この鬼十河が相手してやるぜ!!」

 

 

俺は一存に目配せすると、一存は軽く頷き、付近の護衛に命じて、店主を羽交い締めし拘束してくれた。 

 

剣には多少自信はあるが、流石に素手だと限度がある。 それに、俺の話には続きがあり、肝心な説明を行わなければ納得などしないだろう。

 

結果的に言えば、店主の訴え通り『俺は代金を払って購入』はした。 端から見れば、これが盗みかと思われるるが、俺は断言できる。

 

俺は策を用いて───成功させたと。

 

ただ、大壺を直接ではなく、『間接的に見方』を変えて実行したまでだ。

 

その事を証明するため、俺は長慶殿に問いかけた。

 

 

 

◆◇◆

 

【 成果 の件 】

 

? 飯盛山城 城下町の茶屋外 にて ?

 

 

「長慶殿! 俺が策を用い大壺を手に入れた事を証明したいので、店主に命じ調べて頂きたいのですが、許可をよろしいでしょうか!」

 

「どのような件か、内容次第だが………」

 

「今の店の売上、そして店全体の品物の数、種類と値段も合わせて表記して貰いたいのです!」

 

 

俺の言葉を聞いた長慶殿は、直ぐに店主に問うと問題無い事が判明、直ぐに使いを出して早急に確認する手続きを取った。

 

その間、どうやって大壺を盗みとったか説明する。

 

信玄殿達には、策の内容は手伝いを頼んだ故、既知(きち)の知識。 今から説明するのは繰り返しになるから、他にやりたい事があれば離れていてもいいと伝えたのだが。

 

 

「颯馬の手伝いをしたという、補助説明が必要になると思いますから、私は颯馬の傍に残ります。 だから、後の事は私に任せて、姉上は茶屋でお休みなされては?」

 

「何を言うのですか、信廉。 ここまで肩入れしたなら、最後まで付き従うのが甲斐源氏棟梁としての私の役目。 貴女こそ関係はありません。 席を外し休憩して構いませんよ」

 

「まあまあ、ここは私に任せて、他の者は休憩されればいいではないか。 私も颯馬殿の関係者だから策の中身も見聞している。 毘沙門天の名に懸け、颯馬殿を真摯に助けよう」

 

「揃いも揃って色ボケおって! 私は青二才との約定を果たす為に此処に居る! 関係無き者は疾く去ね!!」

 

「あら、わたくしは颯馬様の身も心もお預けした関係者ですわ。 ですから、颯馬様の横はわたくしの物ですわね」

 

 

様々な理由が飛び交い、険悪な状態になってきたので、諦めて後方で待機を願った。 

 

どうやら、俺が久秀殿にやり込められるではないかと、御心配されている様子。 他国の太守に心配されるとは……些か自分の力量不足に落ち込んでしまう。

 

だが、今はそんな場合ではない。

 

自分の心に渡来する哀愁を呑み込むと、俺は分かりやすく状況の説明を試み、傍聴する相手方の顔を見ながら話した。

 

目の前に見えるのは、俺を真剣な目で吟味する三好長慶殿、左右に居るのが十河一存、松永久秀。 そして、護衛の兵士に捕縛され、俺を呪い殺さんばかりに睨みつける店主。

 

 

「久秀殿の出された課題は、『大店に飾られている大壺を持ってくる』という物でした。 しかも、自身の所持金や借りた金など使わず、言わば強奪に近い方法で、と」

 

「あそこは何回か利用しているが、店は城に近い分、屋敷は頑強で、兵士も詰めれるような砦のような所。 店の見張りも、一存の配下が直に鍛えているのであったな」

 

「まっ、俺から言わせて貰えば、鍛え方なんか全然足りないが、颯馬相手なら一人でも十分勝てるぜ!」

 

 

俺の言葉に三好姉弟が、如何に強奪が難しい場所かを補強して説明してくれた。 

 

万が一、城が攻められる時があれば、立て籠る場所が必要であり、そこは城下町でも要所の場所。 そこが店主の店だったので、三好家で色々と融通を効かせていたようだ。

 

 

「そんな店に、金も無いので正面から強奪を行う。 そんな猪突猛進な行為など、誰がやるというのでしょうか?」

 

「……………………」

 

「だが、久秀殿が出された課題、出来る抜け道があると考え、実行して現に成し遂げた次第です」

 

 

そう言った後、顔を信玄殿達に向け、自分の友人達であると具体的な紹介を誤魔化しつつ、どうやって行ったかの説明に入った。

 

 

「簡単に話せば、先程の店主の言い分は間違えの無い事実。 俺は金を出して購入して買い取った。 しかも、余分に払って、持ってきた荷車にまで積み込んでもらったよ」

 

「ちょっと待て、颯馬! 途中から来たから身だから内容は曖昧だが、盗むといった品物を金で買うなら、俺にだってできるぞ! 大体、それじゃ盗みじゃないじゃないか!?」

 

 

俺の話の内容を聞き、呆れた様子で話す一存。 俺としても、気楽に会話ができる相手の方が助かるがな。 

 

これが久秀殿だったら、どれだけ嫌みを言われるか。

 

何故なら、勝負の内容は『店内の大壺を奪取する事』であり、その際に『所持金や借入金での購入は禁止』と定めていたからだ。

 

ならば、この行為は違反ではないのか?

 

店主が証拠として突き付けた書状の記録が、確実なる違反の証拠として見なされば、俺としては言い逃れはできまい。

 

 

だが────

 

 

「確かに金は払った。 だが、その金の出所が違う。 店主に言ったが、その金は俺の所持金でもなく、他から借りた金でも無い。 全く違う所で用意したのさ」

 

「それじゃあ、どこからだよ!」

 

 

問い掛け役となった一存の言葉に、俺はほくそ笑み答えた。

 

 

「あの店は大きいだけあり、品揃えは高価な物が多く、小さな物でさえ高値が付く代物だったよな、一存?」

 

「俺は数回しか入った事しかないが、姉さんに周囲を十分注意して歩けと怒られたな。 何でも周りが全部が南蛮品由来の品物だと。 まあ、俺の目には何れも一緒だけどな!」

 

「「「 はぁ〜〜〜〜 」」」

 

「ふっ………是非もなし、か」

 

 

おいおい、そんな庶民みたいな事、三好家の一族が言うんじゃない。 長慶殿や久秀殿達が呆れた目をして睨んでいるぞ? 

 

あっ、信廉殿も気持ちは分かりますが、控えて頂ければ。

 

信長、頼むから……小声でな。

 

店主は涙目か。 まあ、気持ちは分かるが……無視しよう。

 

 

「愚弟の代わりに答えよう。 彼処の品揃えは、京や堺に近いだけあり名物が揃っている。 勿論、南蛮だけではなく、日ノ本の署名な品物も山ほどもな」

 

「ありがとうございます。 その言葉が聞きたかったのですよ。 流石に素晴らしい品揃えであり、一緒に見て頂いた友人も絶賛しておりましたから」

 

 

長慶殿からの申告により、店の品揃えは御墨付き。 だが、そんな品揃えだが、そんな逸品でも値段の上下があり、なるべく選びたい。 当然選ぶのは、小さく高価な品だ。

 

そして、絵画や美術品に造詣が深く、俺と一緒に見て回った信廉殿の鑑定で品定めを行い、目星を付けて実行した。

 

ここまで来れば、お分かりだろう。

 

 

「あれは、換金した店の品物の代金だ。 店にあった値段が高く、されど小さい品を数個持ち出し、それを質屋で換金して準備した金で、大壺を購入して持って来たわけさ」

 

「「 あああぁぁぁぁッ!!! 」」

 

「質屋には、三好家の名で流さないに頼んだから、質流れは起きず大丈夫だと思うが、出来れば早めに回収した方がいいんじゃないかな、店主?」

 

 

その答えに、一存と店主は目を見開いて驚愕、長慶殿は俺の顔を見て微笑みをこぼした。 後ろに控える信玄殿達も、自分達が成し遂げたかの如く、嬉しそうに笑う。

 

 

だだ、久秀殿の表情だけは分からなかった。

 

 

この少し後に、店からの早馬により書状が届き、俺の話した通り品物が数点消え、売上も減っていたと判明。 

 

これで、一戦目は俺の勝利が確定となったのだ。

 

 

 

何時もの扇子を取り出し、顔を覆ってしまっていたので。

 

 

説明
五年振りの義輝記の続き……となります。
あと、2月の更新はお休みです。
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