江東の覇人 4話
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一刀がこちらの世界に来て数ヶ月。

 

黄巾党と呼ばれる軍隊が頭角を現した。

 

まあ、軍隊というよりは、柄の悪い奴らの集まりな訳で・・・はっきり言えば、諸侯達の敵ではなかった。

 

質でいえば・・・の話だが。

 

何しろ数が半端なく、倒しても倒しても沸くように出てくる・・・そんな状況。

 

そんな時、袁術からの使者が訪れ、雪蓮が呼ばれる。

 

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「という訳なのじゃ!妾は南の部隊を叩くので、孫策は北の本体を叩くのじゃ!」

 

荊州太守袁術の屋敷。そこの王間に、袁術、その家臣の張勲。そして雪蓮がいた。

 

雪蓮が呼ばれたのは当然、黄巾党について。

 

現在、荊州にいる黄巾党は南の分隊と北の本隊。定石ならば、数の多い袁術の部隊が本隊を叩き、その客将である雪蓮が分隊を叩くのだが・・・。

 

あろうことか、袁術は全くその逆を示した。

 

自分の軍は傷つかず、尚且つ名声を手に入れる見え見えの手である事がわかるのに、それを言えない雪蓮が歯ぎしりしながら答える。

 

「でも、私達の軍は少ないし、はっきり言って、袁術ちゃんの方が適任だと思うけど?」

 

正論だ。全くもって正論だ。しかし、この娘には通用しない。

 

「呉の正規軍は、全員英傑なのじゃろう?だったら、大丈夫の筈じゃ!」

 

「そうだそうだー」

 

無論そんな訳はない。

 

確かに将兵たちは揃いも揃って英傑揃い。

 

しかし、その将兵たちは散り散りになり、戦力は半減している。

 

正規軍といえど、精々猛者と言える程度。

 

数も5、6000。

 

とてもじゃないが、本隊とまともに戦える状態ではない。

 

それでも行けという。

 

「ほれ、ぱぱーとやっつけてくるのじゃ!!!」

 

陽気に笑うアホ。

 

「美羽様ばんざーい!」

 

それを支えるバカ。

 

「はぁ・・・」

 

今更ながら、何故こんな奴の言う事を聞かなければならないのか・・・己の運命を呪う雪蓮。

 

でも、それももうすぐ。

 

もうすぐで、このお茶らけた顔を恐怖に染める事が出来る。

 

そう思うと、表情が笑みに変わった。

 

邪悪な笑みを内に潜めた、清々しいまでの笑みに。

 

それを肯定と受け取ったのか、2人のバカ騒ぎが激しくなる。

 

薄い笑いを浮かべながら、雪蓮は背を向けた。

 

その背中には静かに、怒りの炎が燃えている。

 

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という訳で、北の本隊へ向かう蓮聖達。

 

蓮聖達も何となくわかっていたのか、別段驚く事はなかった。

 

現在、馬の上で行軍中。

 

「にしても・・・袁家の『あれ』は血なのかねぇ?」

 

袁術の親を知っている蓮聖だからこその言葉だった。

 

「ホントよねぇ、全く、イラつくなぁ・・・」

 

「まあまあ、孫覇様も雪蓮様も〜。とりあえず、私達がその北の本隊を倒せば、何も言われないんですからぁ」

 

穏の言葉に、はぁ・・・と息をつく雪蓮。

 

「そのまま調子に乗って無理難題を押し付けそうだがな」

 

あり得る・・・と頷く呉の将達。

 

「伝令!3里先に敵拠点を発見!」

 

「よ〜し、そろそろ頭切り替えろ!全軍駆け足―――!!」

 

掛け声が上がり、全軍の速度が上がる。

 

「・・・・・・納得いかねぇか?」

 

まだ馬に乗れないので、蓮聖の後ろに跨る一刀。

 

その表情は暗い。

 

その原因は今回の作戦にあった。

 

今回の戦で必要なもの。

 

それは圧倒的勝利。

 

こちらの損害少なく、相手を殲滅する。

 

その為の策。火計。

 

燃やし、燃やし、燃やしつくし、そこに雪蓮の部隊と蓮聖が突撃をかける。

 

一刀が最初に見たような・・・・・・惨殺。

 

「いや、蓮聖達は間違っていない。俺・・・平和バカだからさ・・・・・・」

 

「でも、納得はしてねぇんだろ?」

 

間を置いた後、ゆっくりと頷く。

 

「ま、確かに常人、しかも周りが平和な所から来た奴なら、普通の反応かもな」

 

からからと笑う蓮聖。

 

「別に納得しろって言ってる訳じゃねぇ・・・お前を責める気もねぇ・・・・・・ただな・・・俺達はそうしないと生き残れないんだよ。確かに別の方法があるかもしれねぇ・・・多くの死が免れて、命が多く残る選択もあるかもしれん・・・だがな、それじゃあいけねぇんだ。それじゃあこの世は生きれない」

 

そう・・・そうなのだ。そういう時代に一刀は来てしまった。

 

誰かを押しのけてでも這いあがり、誰かを食らってでも生き残る。

 

所詮この世は、弱肉強食の世界。

 

「でもな・・・1つだけ、言うぜ」

 

「・・・何だ?」

 

「甘ったれるな・・・そして・・・・・・その気持ちを忘れるな」

 

「・・・は?」

 

意味がわからない。それでは矛盾している。

 

「お前のそれはな・・・この乱世に生きる人間としては間違っている。でもな、人としては合ってんだよ。もし、乱世が終わった時・・・大切なのはそういう優しい心だ」

 

「蓮聖・・・」

 

「殺す事に慣れるんじゃねぇ、戦を起こす事に慣れるんじゃねぇ・・・慣れちまったら、そいつはただの狂人だ。お前は、そうなっちゃいけねぇ。俺や、雪蓮みたいに・・・もう慣れちまった人間もいる・・・・・・お前だけは・・・その心を忘れるな・・・だからさ」

 

そう区切り、蓮聖は微笑みながら一刀に振り向く。

 

「あんまり気に病むな。お前はお前でいい。俺達に合わせる必要なんてねぇよ」

 

すぐに顔を戻し、速度を上げる。

 

一刀はそんな蓮聖の背中を見て微笑み、覚悟を決めた。

 

この戦を・・・見届けよう・・・と。

 

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その言葉通り、一刀は全てを見届けた。前線に出た訳ではないが、その全貌をちゃんと見届けた。

 

最初は黄巾党と雪蓮軍の激突。陣形も何もない軍と、陣形が定まり、目的がちゃんとしている軍の結果は明らか。無論、雪蓮軍が圧勝だった。逃げかえる黄巾党は砦の中で籠城を決め込む。

 

数で圧倒しているのだから、時間をかければ殲滅できると思ったのだろう。

 

そこで、策が行使される。

 

火矢を打ち、砦内を炎が包み込んだ。

 

響いてくる悲鳴。

 

そこに、門を突破した雪蓮の部隊と蓮聖が雪崩れこみ、黄巾党は殲滅された。

 

あまりにも、あっけない勝利。

 

だが、このあっけない時間の内に、何千という命が失われた。

 

それを考えた瞬間、吐き気がこみ上げる。

 

しかし、こらえた。

 

喉を通ろうとする物を無理矢理押し込め、見守る。

 

大丈夫・・・と言えば嘘になる。

 

倒れてもおかしくない。

 

でも・・・蓮聖は言った・・・お前はお前のままでいろ・・・と。

 

だから決めた。

 

覚悟した。

 

強くなろう。

 

優しい未来の為に、強くなろう・・・と。

 

人を燃やした炎に包まれる砦の前で・・・一刀は心に、そう誓った。

 

 

説明
4話です。

約2週間ぶり・・・お久しぶりです。

近頃忙しい日々が続いてます・・・

これからも少しずつ投稿したいと思うので、よろしくお願いします。
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コメント
ブックマンさん<これから、一刀にも頑張ってもらいます(アクシス)
キラ・リョウさん<そうですね・・・見守ってください(アクシス)
ジョン五郎さん<ですね〜・・・一応、言っとくと、蓮聖ではありません(アクシス)
コメントありがとうございます!(アクシス)
少し成長したかな一刀よ。(ブックマン)
一刀の覚悟、強くなってもらいたいですね(キラ・リョウ)
さて、戦場に出たであろう雪蓮は例の昂りを誰と解消したのやら。原作に準拠すれば冥琳でしょうが……(ジョン五郎)
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真・恋姫無双 恋姫無双 孫呉 江東の覇人 一刀 蓮聖 

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