英雄伝説〜灰の騎士の成り上がり〜
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〜エルベ離宮・客室〜

 

 

「さて。後は殿下達皇家と新政府への交渉の件ですわね。とはいっても恐らく殿下達の事ですから、私が今から求めようとする”交渉内容の一部は既に察してはいる”と思われますが……」

「去年の貴族連合軍が犯した内戦での罪を今回の戦争で君達貴族連合軍の残党がヴァイスラント決起軍を結成してメンフィル・クロスベル連合に協力した事で、君達の連合への貢献に配慮した連合が敗戦後に考えていたエレボニアの領土割譲を大幅に緩和したという”功績”と相殺する事だろう?戦後のエレボニアの事を考えたら、幾ら内戦の件があるとはいえ、皇家や新政府が帝国貴族達に更なる反感を抱かれるような厳しい処罰なんて求められないからこちらとしても国民達も納得せざるを得ない内戦の件での帝国貴族達の罪を許す理由が欲しかったから、元々そのつもりではあるが、それ以外にもまだあるのかい?」

ミルディーヌ公女に話を振られたオリヴァルト皇子は疲れた表情で答えた後表情を引き締めてミルディーヌ公女に訊ねた。

「はい。メンフィル帝国が要求してきた賠償条約の第10条の内容の一部であるオルディスに設立されることになるメンフィル大使館に駐留するメンフィル軍の軍事費の内の半分の負担の件、”本来は政府が負担する分の軍事費をカイエン公爵家が全て負担します”ので、こちらが今から口にする二つの要望に応じて頂きたいのですわ。」

「な――――――」

「メ、メンフィル大使館に駐留するメンフィル軍の軍事費の半分を政府ではなく、カイエン公爵家が負担するって、一体何を考えているんだ!?」

「しかも賠償内容一つに対して”対価”として二つも求めるなんて、図々し過ぎ。」

ミルディーヌ公女の自分達に対する交渉内容を知ったその場にいる全員が血相を変えている中レーグニッツ知事が驚きのあまり絶句し、マキアスは困惑の表情で声を上げ、フィーはジト目で指摘し

「ミルディーヌ公女。まさかとは思うが、将来メンフィル帝国が誘致する異世界からの商人達がオルディスにもたらすであろう経済発展によって得るカイエン公爵家の税収に関しては政府は免除する事を要求するつもりか?」

「それは一体どういう事だ?」

「オルディスはいずれ、異世界の商品の取引によって経済が発展する事によってオルディスの領主でもあるカイエン公爵家に入ってくる税収も莫大な額に膨れ上がると思われますから、その税収の一部を政府に対する税として納める必要がなくなれば、カイエン公爵家は異世界の商人達関連での利益を”独占”する事が可能になるという事ですわ。」

「あ……ッ!ま、まさかベルフェゴールに駐留軍付きの大使館がオルディスに設立されることを一切の反論なく受け入れた貴女の思惑を私達に教えるように伝えた理由は、その為だったの……!?」

目を細めて指摘したユーシスの指摘の意味がわからないガイウスに説明したシャロンの説明を聞いて声を上げたアリサは厳しい表情でミルディーヌ公女を睨んだ。

 

「いえいえ。そんなクロワール叔父様やバラッド大叔父様がするような分不相応で厚かましすぎる要求等するつもりはございませんわ。―――――まず、1つ目の要求はラマール州―――――いえ、オルディスとラクウェルのみでも構いませんから商売に関する規制の緩和を許可して頂きたいのですわ。」

「え………”商売に関する規制の緩和の許可”ですか?」

「”商売に関する規制の緩和の許可”………それも、”オルディスとラクウェルのみ”だと?」

「そもそも、”商売に関する規制”とは一体どういう”規制”なの〜?」

「えっと……エレボニアは他国と違って、商売に扱う商品への規制――――――つまり、その商品を扱う事自体を禁止したり、扱えたとしても必ず政府の許可が必要と言った事が若干厳しいんだ。特に厳しいのは出版物で、有名な書物で例えるとすれば”賭場師ジャック”がそうだよ。」

「というか鉄血の子供達(アイアンブリード)の一人でもある君が何でそんなエレボニアでは当たり前の事実を知らないんだ……」

ミルディーヌ公女の答えに呆けたセドリックが戸惑っている中ラウラは眉を顰め、不思議そうな表情で首を傾げて呟いたミリアムの疑問にトワが答え、マキアスはミリアムの無知さに呆れた表情で指摘した。

 

「皆様もご存じのように、メンフィル帝国の大使館が設立されることが決まったオルディスにはいずれメンフィル帝国の手配によって”本国”――――――つまり、異世界の商人が誘致されることでオルディスで”異世界の商品を取り扱った商売”も始まるでしょうから、他国よりも若干厳しい我が国の商売に関する規制を緩和する事で異世界の様々な商品をオルディスで取り扱えるようにしたいと考えているのですわ。」

「なるほどね………規制によって扱う商品が限定されていたら、異世界からわざわざ商売に来る商人達の数もそうだけど、種類も減るかもしれない事を危惧しているのね。」

「ましてやメンフィル帝国が誘致する商人達は文化や常識も異なる世界の方々なのですから、文化や常識が異なる事で躊躇っている商人達が来易くなれるように扱える商品の種類を豊富にすることを考えられているかと。」

ミルディーヌ公女の説明を聞いて察しがついたセリーヌとシャロンはそれぞれ静かな表情で推測を口にし

「はい。勿論”奴隷商人”や”麻薬商人”等と言ったゼムリア大陸の各国が禁止しているような商品を取り扱っている商人達の誘致は堅くお断りさせて頂きますし、リウイ陛下からもメンフィル帝国もそのような商人達を誘致するつもりは一切ないという言質を既に取っておりますわ。ただ、メンフィル帝国を始めとした異世界の各国で未だ採用され続けている”娼館制度”は採用したいと考えておりますので、”商売の規制の緩和”に関連する形で”風欲業”の”規制”も緩和して頂きたいかと。」

「ええっ!?オルディスとラクウェルで”娼館制度を採用する”って事は……!」

「な、なななななななっ!?それだと、オルディスやラクウェルに”娼館”を建てて経営する事を公に認めろって事じゃない!?」

「ハッ、ラクウェルだと既に”女を買える施設”はあるけどな。」

「確かにそうだけど、”そういう施設はあくまで裏―――――厳密に言えば法律違反をしているけど、政府があえて見逃している施設”だから、公には認められていないでしょうが……」

二人の推測に頷いた後妖艶な笑みを浮かべて答えたミルディーヌ公女の答えにその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中エリオットは驚きの表情で声を上げ、アリサは顔を真っ赤にして混乱した様子で指摘し、アッシュは鼻を鳴らして呟き、アッシュの言葉にサラは呆れた表情で指摘した。

 

「そ、その……ミュゼさんは何故、オルディスとラクウェルで娼館の営業を公に認める事をしようとしているのですか?」

「それは勿論”統治者としての様々な利点”があるからですわ。―――――先に言っておきますが、私が言う”利点”とは娼館の収益や税金等と言った”ミラが関係する利点は一部に過ぎなく、それ以外の利点の方が重要ですわ。”」

「”ミラが関係する利点は一部に過ぎなく、それ以外の利点の方が統治者にとっては重要”だと……?」

「その”ミラ以外の重要な利点ってどういう利点”なの〜?」

頬を赤らめて気まずそうな表情で訊ねるエマの質問に答えたミルディーヌ公女の答えが気になったミュラーは眉を顰め、ミリアムは興味ありげな表情で訊ねた。

「”娼館”等と言った”色事”に関連する商売を”統治者が公に認める代わりに許可制にする事”で、貴族の無法や無体を排斥できると共に、質の低い店もそうですが質の悪い店も壊滅させることができるからですわ。」

「なるほどね……今まではそういった類の商売は公には認められていなかったから、貴族もそうだけど悪質な客に無法や無体をされても公的機関に訴える事はできず、泣き寝入りするしかなかったけど、”統治者が管理する施設”に変われば、そう言った悪質な客が無体や無法を犯せば統治者に訴えて罰してもらえたりすることもそうだけど慰謝料や賠償金の要求をする事も可能になる上、そもそも悪質な事を行えば自分達が処罰されるとわかっていたら悪質な行為もし辛くなるでしょうね。」

「しかも質の低い店や質の悪い店も壊滅させることで、結果的には治安の良好化にも繋がるかと。」

「……………………」

ミルディーヌ公女の説明を聞いたサラは疲れた表情で呟いた後複雑そうな表情を浮かべ、シャロンは静かな表情で呟き、”歓楽街”として有名なラクウェルの出身である事でサラやシャロンが口にした話を聞いて何度も”実例”を聞いたり、見たりしたこともあるアッシュは複雑そうな表情で黙り込んだ。

 

「そこに加えて、猟兵団やマフィア等と言った違法組織の資金源も潰す事もできるのですわ。」

「確かに、”風欲”関連の商売は猟兵団やマフィアのような”裏の組織”による庇護がなければ、続ける事なんて到底無理だもんね。」

「その”庇護”を”統治者”が担う事で、”風欲”関連の商売をする者達は”違法組織”に頼る事もなくなり、その事によって資金源として”庇護”と引き換えに違法組織が得ていた庇護する者達の利益の一部も潰せるという事か………」

ミルディーヌ公女の指摘を聞いて心当たりがあるフィーは静かな表情で呟き、ミルディーヌ公女の考えている事を悟ったラウラは複雑そうな表情で呟いた。

「クク、”娼館制度”の更に恐ろしい所はミルディーヌ様のような”統治者”もそうだが、我ら領邦軍のような治安維持を司る関係者にとっても利点があるという所だ。」

「え………それは一体どのような”利点”なのですか?」

静かな笑みを浮かべて呟いたオーレリア将軍の言葉が気になったセドリックは呆けた声を出した後戸惑いの表情で訊ねた。

 

「それは”娼館制度”を採用する事で民達もそうですが観光客、役人、そして軍人が利用する”娼館”等の”風欲”関連の商売施設を限定する事で、監視する事も可能なのですわ。」

「なるほど……しかも”統治者が管理する施設”でもあるから、その気になれば統治者や治安維持の関係者と”風欲”関連の商売施設の連携も容易だろうね。」

「ちょっ、それって監視もそうだけど盗聴もやりたい放題って事じゃん!?」

「加えてそういった類の施設を利用する軍人や役人が利用している施設を把握する事も可能だな……」

ミルディーヌ公女の説明を聞いて察しがついたオリヴァルト皇子は真剣な表情で呟き、ミリアムは表情を引き攣らせて声を上げ、ミュラーは複雑そうな表情で呟いた。

「ま、まさか娼館制度に”統治”という点でそんな様々な”利点”があったなんて……」

「しかし、何故ミュゼはそんなにも詳しいんだ?”娼館制度”はゼムリア大陸では既に廃れた制度で、異世界では残っている制度だとの事だが。」

「それに関しては灰獅子隊の一員として活動している時による情報収集だろうな。灰獅子隊にはレン皇女殿下やプリネ皇女殿下―――――”娼館制度を採用している統治者”の立場であるメンフィルの皇族もいるからな。」

トワは信じられない表情で呟き、首を傾げているガイウスの疑問にユーシスは自身の推測を答えた。

「ええ、ユーシス卿の仰る通り、レン皇女殿下やプリネ皇女殿下から”娼館制度”も含めて、異世界の国の統治の話は将来のカイエン公爵家の当主として、とても勉強になる話を色々と伺えましたわ。」

「つーか公女さんもそうだが、”殲滅天使”達も”女”なのに、よく”色事”関連の商売施設の話なんてできるよな?」

ユーシスの推測にミルディーヌ公女が笑顔で同意すると、クロウは呆れた表情で指摘した。

 

「ふふっ、”政治”に”異性という理由”は通じませんわ。それとこれは私が気づいた事ですが、”娼館制度”は人道面としての利点もあるのですわよ?」

「し、”娼館制度”に”人道面としての利点もある”って、一体どんな利点なのよ……?」

クロウの指摘を軽く流した後答えたミルディーヌ公女の答えが気になったアリサはジト目で訊ねた。

「皆様もご存じのように”娼館”で働く”主な従業員”は”娼婦”ですわ。”娼館制度”を採用すれば当然”娼館で働く従業員―――――つまり、娼婦達も公務員扱いされることで娼婦達が受け取れる報酬も娼館制度が採用される前と比べて上昇する事”で、娼婦達の生活の安定化も図れるのですわ。」「

「え………その言い方だと、公には認められていなかった”娼婦”がもらえる”報酬”って低いように聞こえるけど……」

「それに関しては女達が所属する”施設”によって違うが、基本的に”アガリ”の大半は”施設”の経営者の懐に入るから、女達が受け取れる”アガリ”なんて大した額じゃないぜ。それこそよほど人気がある女でなければ”1回買われた程度じゃあ、1日の生活費にも届かないぜ。”」

「ま、まさか”売春婦”の待遇がそんなに酷かったなんて……ちなみに父さんは知っていたのか?」

「一部ではあるが”売春施設”の実情については耳にしたことがあるが……ただ、”売春婦”の待遇がそこまで酷いものだとは知らなかったよ。」

「そして”娼館制度”が公に採用されれば、”売春婦”達もそうだが経営者も”公務員”扱いされることでそれぞれ一定額の給与を受け取れることになる為、経営者が収益の大半を独占する等と言った愚かな所業を防ぐことができるという事か……」

ミルディーヌ公女の説明を聞いてある事が気になったエリオットの疑問に静かな表情で答えたアッシュの説明を聞いたマキアスは複雑そうな表情を浮かべた後レーグニッツ知事に訊ね、訊ねられたレーグニッツ知事は複雑そうな表情で答え、ユーシスは重々しい様子を纏って呟いた。

 

「それと”娼館”を統治者が管理する事によって”未成年の娼婦”の流出を防げることもそうですが、”娼婦達が仕事によって妊娠してしまった場合、妊娠を理由に解雇されない事もそうですが産休を取る事が可能になる事もそうですが、産まれた子供達を預かり、母親の代わりに育てる福祉施設の設立も可能”になる事で、妊娠してしまった事で娼婦達が”仕事を失う”事もそうですが、”捨て子”もそうですが”娼婦”を生業としている事で育児放棄の状態に陥りやすい子供達の流出を防ぐことも可能なのですわ。」

「し、”仕事によって妊娠してしまった場合”って……!」

「まあ、仕事の”内容”を考えたら、”そうならない”ように気を付けていても、ケアレスミス等で妊娠してしまうような事もあるだろうね。」

ミルディーヌ公女の話を聞いたその場にいる全員が冷や汗をかいて表情を引き攣らせている中アリサは顔を真っ赤にし、アンゼリカは苦笑していた。

「そ、それよりも妊娠してしまった売春行為をしている人達が妊娠を理由に解雇されることもそうだけど、産まれた子供達が捨てられたり、ちゃんと育ててもらったりしない事が当たり前だったの?」

「ああ。ガキを孕んじまった女は当然ガキを産むまでの間”使い物”にならないからガキを孕んだら”クビ”になるのが当たり前だし、例え産んだとしても生まれたガキが捨てられたり、まともに育ててもらえなかったりすることもザラにあるぜ。そもそも”女を売る”商売をしている女達の大半は様々な理由でまともな仕事に就けない女達だからな。」

エリオットの疑問にアッシュは静かな表情で答えた。

「”遊撃士協会としての観点”からすればどうでしょうか、紫電(エクレール)殿?」

「ぐっ………あんたって、本当にこっちの痛い所を突くのが得意な腹黒女ね!?あんたに味方する訳じゃないけど、確かにあんたが採用しようとしている”娼婦制度”による利点を知ったらギルドとしても様々な理由で賛成すると思うわ。”未成年の売春婦”の流出を防ぐことは当然賛成でしょうし、売春婦は仕事内容を考えたらいつ妊娠してもおかしくないから、そんな女性達の妊娠後の生活を保証する事もそうだけど、捨て子や育児放棄されることでまともな大人に成長しない子供達の流出を防ぐという人道面としての利点はギルドとしても賛成でしょうし、何よりも”売春婦”はアウトローな職業だったから、そんな職業に就いている女性達はギルドに依頼したいような事があってもし辛かったでしょうし、ギルドとしても売春婦のようなアウトローな存在からの依頼は何か特別な事情でもない限り基本受け付けなかったけど、”売春婦が公に認められた存在”になればそれらの問題は解消するでしょうからね。」

ミルディーヌ公女に微笑まれながら問いかけられたサラは唸り声を上げてジト目でミルディーヌ公女を睨んで声を上げた後疲れた表情で答えた。

 

「貴重な意見を正直に答えて頂き、ありがとうございます♪話を戻しますが、一つ目の私の要求はいかがでしょうか?」

「………元々、エレボニアは他国と比べると商売に関する規制が厳しい事に関しては私個人からすればもう少し緩和すべきと考えていたし、”娼館制度”にしても”皇族としての観点”から考えても、国土の統治に関する様々な利点があるから正直賛成だが、セドリックはどうだい?」

「僕も兄上と同じ意見です。……知事閣下はどうでしょうか?」

ミルディーヌ公女の確認に対して少しの間考え込んだ後答えを出したオリヴァルト皇子はセドリックに確認し、確認されたセドリックはオリヴァルト皇子の意見に同意した後レーグニッツ知事に訊ねた。

「そうですね………商売に関する規制の緩和は国内の経済発展もそうですが文化発展の為という意味もそうですが今までのエレボニアの印象を変える意味でもラマール州だけでなく、エレボニアの国土全体で行っても構わないと思いますし、新政府としても”娼館制度”も公女殿下が先程口にした様々な利点を考えれば正直な話、商売の規制の件同様ラマールだけでなく、国土全体で行うべきだと思いますが、さすがに元々アウトローだった業種を公務員扱いするのは様々な方面で反対意見が出る事もそうですが実際に上手く行くかどうかもわかりませんから、まずは試験的に導入して確かめるという意味でオルディスとラクウェルのみに許可を出してもいいかと。ただ、問題になってくるのは”娼館制度”に関するノウハウをどうやって得るかですが………」

「どうせ既に”娼館制度”を採用しているメンフィルから教えてもらうつもりなんじゃないの?」

「というかメンフィルとの関係が深いミュゼの事だから、むしろ既に”娼館制度”に関するノウハウをメンフィルから教えてもらう約束もしてもらったんじゃないの〜?」

セドリックに訊ねられたレーグニッツ知事は静かな表情で答えた後問題点を口にし、その問題点に関する指摘に対して答えたフィーとミリアムはそれぞれジト目でミルディーヌ公女を見つめた。

 

「ふふっ、それに関しては皆さんのご想像にお任せしますわ。―――――話を要求の件に戻しますが、もう一つの要求はアルノール皇家・新政府共に私ことミルディーヌ・ユーゼリス・カイエンがカイエン公爵家当主に就任する事を正式に認定して下さるだけで構いませんわ。」

「皇家と政府がミルディーヌさんのカイエン公爵家当主就任の正式な認定を……もしかして、皇家と政府もミルディーヌさんのカイエン公爵家当主就任を正式に認める事でカイエン公爵家当主の座を狙うバラッド侯とナーシェン卿とのカイエン公爵家の跡継ぎ争いを発生させない為でしょうか?」

ミルディーヌ公女の二つ目の要求を知ってミルディーヌ公女の目的をすぐに察したセドリックはミルディーヌ公女に訊ねた。

「はい。クロスベル帝国側のカイエン公爵家の当主代理・次期当主であるユーディお姉様とキュアさんによる後ろ盾、リィン総督閣下との婚約によるシュバルツァー公爵家とマーシルン皇家の後ろ盾、そしてヴァイスラント新生軍の総主宰兼灰獅子隊を率いる軍団長たるリィン総督閣下直属の部隊の一員としての戦功による”エレボニアへの貢献”。今挙げた3つの理由だけでも、あの二人を台頭させない為の十分過ぎる”切り札”にはなりますが、クロワール叔父様同様野心深くかつ諦めが悪いあの二人に”何もさせず、完全に黙らせる為”には”皇家・政府による正式な認定”も必要になりますので。……あの二人のどちらかがカイエン公爵家の当主に就任する事はエレボニアに”第三の風”を吹かせる事で、旧いエレボニアを変えようとされている殿下達にとっても都合が悪いと愚考致しますが。」

「ハハ……やはりミルディーヌ君には”Z組”を結成した目的も悟られていたか。―――――戦後のエレボニアは腐敗した貴族によって支配され、様々な因習としがらみにがんじがらめになった旧い体制から脱却して、ようやく生まれ変われる絶好の機会でもあるのに、君の言う通り前カイエン公のように”腐敗した貴族の筆頭”と言ってもおかしくないあの二人がカイエン公爵家の当主―――――エレボニア帝国貴族の”筆頭”になるような事が起こってしまえば、メンフィルによる保護期間が過ぎれば以前のエレボニアに逆戻りしかねないからね。その点だけで考えても、前カイエン公やバラッド侯達のような選民思想ではなく、また宰相殿とは別の方向での革新的な考えを持ち、そしてアルフィンからも信頼されているミルディーヌ君が生まれ変わろうとしているエレボニアの貴族達を率いる立場に就いてもらわないと、むしろ困るのは私達皇家や政府である事は否定しないよ。―――――ミルディーヌ君がメンフィルと蜜月の関係を築き、またクロスベルとの関係もメンフィル程ではないにしても良好な関係を築き上げたという点を除いたとしてもだ。」

「私も殿下と同じ意見です。戦後荒れ果てたエレボニアを復興させることもそうですが、国民達の信頼を取り戻す為にも皇家、政府、そして貴族による連携は必要なのですから、その連携を崩す原因になりかねない人物達―――――前カイエン公のような選民思想を持つ人物達が帝国貴族の筆頭であるカイエン公爵家当主に就くような事はあって欲しくありません。」

「ま、皇子達の話によると公女以外のカイエン公爵家当主に就ける資格がある二人はあの前カイエン公と同レベルの腐敗貴族らしいんだから、消去法で考えても公女に就任してもらうしかないでしょうね。」

ミルディーヌ公女は説明をした後問いかけをし、ミルディーヌ公女がZ組の結成理由を悟っていた事に苦笑したオリヴァルト皇子は表情を引き締めて答え、オリヴァルト皇子に続くようにレーグニッツ知事は静かな表情で答え、セリーヌは呆れた表情で呟いた。

「………ミルディーヌ公女、一つ聞きたい事がある。」

「何なりと。」

「確かに現状を考えれば、カイエン公爵家当主の座に就くのはミルディーヌ公女が適任だろう。また、戦後のエレボニアの復興や信頼回復の為にはメンフィルとの関係回復を重要視するその考えも理解できる。―――――だが、幾ら”親メンフィル派”の貴族とはいえ、帝国貴族の筆頭たるカイエン公爵家が”戦後の帝国貴族の模範を示す”かのようにメンフィルとの関係を深くすることで、後にそのことが原因で”エレボニア人同士が対立し合う新たな火種”に発展する可能性がある事にも気づいているのか?」

「ミュゼがメンフィルとの関係を深くすることで、”エレボニア人同士が対立し合う新たな火種”に発展するかもしれないって一体どういうことだ……!?」

ユーシスのミルディーヌ公女への質問内容を聞いたその場にいる全員が血相を変えている中マキアスは信じられない表情で疑問を口にした。

 

「………多分だけど、ユーシス君は将来帝国貴族達………ううん、最悪はエレボニア人達がエレボニアの発展の為にはメンフィルとの関係を深くすることが重要と考えている”親メンフィル派”と、”親メンフィル派の考えが受け入れられない派閥”に分かれる事で、それが”対立の火種”に発展するかもしれない事を推測しているんだと思うよ……」

「”帝国貴族の筆頭であるカイエン公爵家”が”親メンフィル派”としてメンフィルとの関係を深める事を重要視し続ければ、ミュゼを模範にするかのように、メンフィルとの関係を深くすることを考える貴族達が現れる事は確実だろうな。」

「で、当然”親メンフィル派”の貴族達の考えを受け入れられない貴族達もいるだろうから、そんな貴族達が”親メンフィル派”の貴族達と対立して”派閥争い”をする事になるんだろうね〜。」

「そんなことがもし現実になったら”革新派”と”貴族派”の対立の時のように、最悪は”内戦”に発展するかもしれないじゃない!?」

「内戦が勃発すれば、メンフィル帝国の判断によってメンフィル帝国軍が強制介入する賠償条約の第9条の件がありますから、少なくてもエレボニアが賠償金の支払いを完遂するまでは、”親メンフィル派”もそうですが”親メンフィル派と対立する派閥”は双方共にそのような本末転倒な事は考えないでしょうが……」

「賠償金の支払いを完遂すればどうなるかわからないわね。ましてや賠償金の支払いの完遂はメンフィルの予想で250年後と、遥か未来の話だから、その頃にはその時代の人々の心もどうなっているかわからないでしょうし。」

複雑そうな表情で答えたトワの推測に続くようにラウラとミリアムはミルディーヌ公女を見つめながら真剣な表情で答え、トワ達の話を聞いたアリサは厳しい表情で声を上げ、シャロンとセリーヌは複雑そうな表情で呟いた。

「確かに皆様が仰ったリスクがある事は否定しませんわ。―――――ですが、”新たなる鉄血宰相が現れる事を阻止する為には、中央とはある程度の距離を置いているかつ決して中央が無視できない勢力として、親メンフィル派を築き上げておく必要があるのですわ。”」

「な――――――」

「”新たなギリアスが現れる事を阻止する為に親メンフィル派を築き上げる必要がある”だと?」

「しかも、親メンフィル派を築き上げようとしている理由が”中央とはある程度の距離を置いているかつ決して中央が無視できない時”とは一体どういうことだ?」

ミルディーヌ公女が口にした驚愕の目的にその場にいる全員が血相を変えている中オリヴァルト皇子は絶句し、クロウは眉を顰め、ガイウスは困惑の表情で疑問を口にした。

 

「前半の会議でシルヴァン陛下は、”世代”が替わればその国の皇家や政府の方針が大きく変化する事もそうですが、その国が経験した”過去”も風化され、忘れ去られる可能性がある事を指摘されていた事はこの場にいる皆様もご存じでしょう。そしてそれは”新たなる鉄血宰相の台頭の可能性”にも当てはまりますわ。」

「あ……ま、まさかミルディーヌさんは………!」

「遥か未来に皇家や政府に宰相閣下のような考えを持つ人物が台頭する可能性を危惧し、中央がその宰相閣下のような考えを持つ人物による主導になった際にエレボニアの繁栄の為に貴族達の排他もそうですが、暗躍・武力行使による周辺各国の領土の併合をするような政策をすることを諦めさせる、もしくは考え直させる為―――――つまりは”牽制する為”に”親メンフィル派”が必要だと考えられているのですか………」

ミルディーヌ公女の指摘を聞いたセドリックは呆けた後ミルディーヌ公女の目的を悟ると信じられない表情を浮かべ、セドリック同様ミルディーヌ公女の目的を悟ったレーグニッツ知事は複雑そうな表情で推測を口にした。

「はい。そしてそんな状況のエレボニアに”新たなる風”を取り入れる為の”第三の勢力”が台頭し、双方が歩み寄れるような”調整”をして頂ければ”最上の盤面”と考えておりますわ。」

「”第二、第三のオズボーン宰相の台頭”だけでなく、”第二、第三のZ組(わたしたち)の台頭”まで想定しているのですか………」

「しかも”第二、第三のZ組(わたしたち)が双方が歩み寄れるような調整をする”だなんて、遥か未来の子孫達に随分とハードな事を求めているのだね、ミュゼ君は。」

「皮算用するにも”程度”ってもんがあるだろうが。」

「というかミュゼは皇家や政府から”新たな鉄血宰相”が現れるかもしれない事を警戒しているようだけど、貴族からも”新たな鉄血宰相”もそうだけど前カイエン公みたいな人物が現れる可能性も十分にあるから、貴族も他人の事は言えないと思うけど。」

ミルディーヌ公女の説明を聞いたエマは複雑そうな、アンゼリカは疲れた表情で、アッシュは呆れた表情でそれぞれ呟き、フィーはジト目でミルディーヌ公女に指摘した。

「確かにフィーさんが仰った可能性については否定しませんわ。もし、帝国貴族から”新たな鉄血宰相”もそうですがクロワール叔父様のような腐敗貴族が帝国貴族を率いる立場として台頭した時は………――――――”私が取れるあらゆる手段を用いてその貴族を社会的に抹殺、もしくは言葉通り命を奪いますわ。”――――――例えその相手が”私とリィン総督閣下の子孫であろうとも”一切の容赦をしませんわ”。」

「あ、”あらゆる手段を用いて社会的に抹殺するか、命を奪う”って……!」

「し、しかもその相手が例えミュゼとリィンの子孫であっても、一切の容赦をしないって……!」

「あんた……正気で言っているの!?」

「というかそれ以前にそんな遥か未来までミュゼが長生きするなんて、普通に考えて不可能なんじゃないの?」

フィーの指摘に対して静かな表情で肯定した後真剣な表情で答えたミルディーヌ公女の冷酷な答えにその場にいる全員が血相を変えている中エリオットとアリサは信じられない表情で、サラは厳しい表情でミルディーヌ公女をそれぞれ見つめ、ミリアムは新たな疑問を口にした。

 

「確かに普通の人間はそんなに長く生きる事は不可能ですわ。ですが、リィン総督閣下ご自身もそうですが、リィン総督閣下の伴侶の方々は皆、リィン総督閣下と共に”永遠の時”を生き続ける事を覚悟されている事はご存じかと。」

「そ、それってもしかして………」

「リィン様が女神であられるアイドス様の”神格者”になる事でリィン様は”不老不死の人外の存在へと到り”、そしてそんなリィン様の”使徒になった方々も不老不死の人外の存在に到る”件ですわね。」

「……確かに”神格者”もそうだが、永遠の時を生き続けられる”神格者”の”使徒”となった者達はセリカ殿やリウイ陛下達のように永遠の時を生き続けられる事が可能になるな。」

「………まさかミルディーヌ公女は”エレボニアを永遠に存続させる為”に永遠の時を過ごしながら帝国貴族達の動向を監視するつもりなのか?」

ミルディーヌ公女の話を聞いて心当たりをすぐに思い出したトワは目を丸くし、シャロンは静かな表情で呟き、ミュラーは重々しい様子を呟き、ミルディーヌ公女がやろうとしている事を察したユーシスは真剣な表情でミルディーヌ公女に訊ねた。

「ふふっ、さすがにそのつもりはありませんわ。帝国貴族もそうですが、エレボニアという国が他国もそうですが国民達からも”存続させる価値もないと思われるくらいの酷い国”に堕ちれば容赦なく見捨てますわ。”形あるものはいつかは壊れる”のと同じように、”貴族”もそうですが”国”もいつか滅びる時がくることは今までの”歴史”が証明しているのですから。」

「……確かに、”国が滅び、新たなる国が建国される事の繰り返し”は今までの歴史が証明しているわね。………メンフィルのように統治者の一族が長寿や不老不死だったら話は別かもしれないでしょうけどね。」

「それは………」

「ハハ……リィン君との婚約を結んだ時点でそんなとてつもない覚悟までしていていたとは、私達はミルディーヌ君の事をまだ見誤っていたみたいだね………貴女程の傑物がミルディーヌ君に忠誠を誓ったのも、彼女自身の”器”を知ったからでもあるのかい、オーレリア将軍?」

苦笑した後静かな表情で答えたミルディーヌ公女の話にセリーヌは同意し、エマが複雑そうな表情で答えを濁している中疲れた表情で呟いたオリヴァルト皇子はオーレリア将軍に問いかけた。

「ふふっ、先程のミルディーヌ様の決意は私も初耳でしたが、予見の件もそうですが”祖国の為ならば一切の私情を切り捨て、自らの命を失う事になろうともご自身が決めた道を歩み続ける覚悟”が既にできている事も私がミルディーヌ様に忠誠を誓った理由の一つではあります。――――――しかし、ミルディーヌ様の新たな決意を知った事で私もミルディーヌ様に忠誠を誓った騎士としてミルディーヌ様と共に永遠の時を過ごす事に興味が出て来た。メンフィルについての情報収集をしたミルディーヌ様の話によれば、異世界の神々に認められなくても自らの力で”神格者”とやらに到った人物も存在し、プリネ皇女殿下に仕えるかの”剣帝”はその人物のように自らの力で”神格者”に到る為にその者に師事を受けているとの事なのだから、私も”神格者”に到る為にその師事に加えてもらうのもいいかもしれないな。」

オリヴァルト皇子の問いかけに静かな笑みを浮かべて答えたオーレリア将軍は興味ありげな表情を浮かべてとんでもない事を口にし、それを聞いたその場にいる全員は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。

 

「色々と話が逸れてしまいましたが………交渉の件、いかがでしょうか?賠償条約の一つを全てカイエン公爵家が負担する代わりに殿下達に求める対価は二つですが、二つとも殿下達にとってもメリットになる対価と愚考致しますが。」

「……それは………」

「……その前にミルディーヌ君に前半の会議の件も含めて聞きたい事がいくつかあるから、先にそれらを答えてくれないだろうか。」

ミルディーヌ公女に問いかけにレーグニッツ知事が複雑そうな表情で答えを濁している中オリヴァルト皇子は真剣な表情でミルディーヌ公女を見つめて指摘した。

「何なりと。」

「まずメンフィルが要求してきた賠償条約の件だが……賠償条約の内容が開示されてから前半の会議が終わるまで君は全く動じていなく、終始メンフィル寄りの意見を口にしていた所から察するに、やはり先日のハーケン平原での”大戦”後にリウイ陛下達から予め賠償内容を開示された事もそうだが、その時点で緩和の交渉も終えていたからかい?」

「ええ。―――――とはいっても、大戦後にリウイ陛下達より賠償内容を開示された際、”私は緩和の交渉は一切行っていませんわ。”」

そしてオリヴァルト皇子の質問に対してミルディーヌ公女が驚愕の答えを口にした――――――

 

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アルゼイド子爵が一切会話に加わっていない事に気づいた人達もいると思いますが、これはアルゼイド子爵の存在を忘れている訳ではなくアルゼイド子爵は扉の外に控えている為です。

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西ゼムリア通商会議〜インターバル・後篇・前半〜

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