呂北伝〜真紅の旗に集う者〜 第053話
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呂北伝〜真紅の旗に集う者〜 第053話「皐月 弐〜入学編〜」

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 共働きであった北郷夫妻は、寝る間を惜しんで一刀探索を続けていた。しかし、彼らは決して自らの残された娘を顧みなかったわけでは無い。夫妻は親としての責務を果たしつつ、時間を空けては一刀の捜索を続け、その無理が祟り彼らは還らぬ人となってしまったのだ。

一刀の妹である北郷夫妻の娘は、子供がいなかった叔父夫妻に引き取られて不自由なく暮らすこととなったが、北郷夫妻の死去は北郷老人の心に大きな衝撃を与えた。

孫だけでなく、自分の子供までもを失ったのだ。だが彼には悲観に暮れる余裕などなかった。彼には皐月を育てることと、北郷夫妻の分まで一刀を探す使命があったのだ。次に北郷老人が皐月に与えた修行は、原点に振り返り友達・仲間を見つけることであった。

一生の友を見つける訳ではないが、皐月は同世代に比べてあからさまに交友関係は少なかったのだ。しかし友人と言える者がゼロというわけでは無い。小学生の頃、同級生に虐められていた((菫|すみれ))色の髪の文学少女がおり、その者とは未だに交友関係は続いている。後は水泳部の助っ人で参加した大会で知り合った銀髪の怜悧な少女で、隣町に住んでいたということで良く絡んで来るのだ。

確かに自ら振り返ってみても、皐月の交友関係の幅は少ない。そこで彼女は北郷老人の薦めで、首都圏内のとある全寮制のお嬢様校を受験することとなった。

それが後に彼女が首席で卒業する((聖|セント))フランチェスカ学園であった。全国の由緒正しき令嬢が集まるこの学園は、各界の著名人の令嬢が集まることでも有名であった。

北郷老人がこの高校を薦めたのも、交友関係と共に、皐月に見聞を拡げて欲しいという思惑もあったのだ。

超お嬢様校っということで、全国でも屈指の偏差値を誇ったが、日頃から剣道の修行以外にも勉学を怠っていなかった彼女は受験を難なく突破した。

その際に友人である文学少女の楠原彩夏と、水泳少女の松原麗架も付いて来たのだ。彩夏も元々も皐月と同じく頭脳明晰であったが、対照的に体が弱かった。麗架は水泳のスポーツ推薦枠を貰って入学したのだが、彼女は他者とは違う癖を持っており、同性愛者でもあったのだ。皐月が”女の子の園”に向かうという間違った認識を持ったことにより、自ら付いていくと決めたのであった。

そして皐月が鹿児島を離れる数日前に、北郷老人は一刀が行方不明となって以来一度も明けなかった北郷邸の道場を開けた。

広い室内にすっかり埃が溜まり、天井に蜘蛛の巣が溜まっており、全ての窓を全開にして換気を行なって二人で道場を綺麗にした。

道場内には一人の少女と老人が竹刀を持って互いに佇み合い、少女が気合を入れて打ち込んだ咆哮の篭った一閃を老人は華麗にいなして少女より返し胴を喰らわせる。

いくら少女が全国に名を轟かせた剣道士とはいえ、相手は生きる伝説となった本物の剣術家だ。力の差は歴然であり、二人は顔の面を取り正座にて向かい合って話す。

「皐月ちゃん。儂がオヌシに教えることはもう無い。技術的なことは全て伝授した。後はオヌシ自身の剣の道を見つけるだけだ。それによりオヌシは儂を越えることも可能じゃ」

そう言って皐月は頭を下げる。彼女自身が目の前の師を越えることなど、未だ想像が付かないことなのだが、彼がそう断言するのであればそうなのだろう。

現に目の前の師の覇気は、この道場に入ってから、かつて一刀と共に見続けた厳格な頃の北郷老人と同等の覇気であり、先日自身の息子を亡くし、再び悲しみの淵に落とされた老人の覇気とは思われなかった。

彼は皐月に近づき、昔よく見せてくれたあの優しい微笑を浮かべ、乾いた手で彼女の頭を撫でてくれた。

「また帰って来て、オヌシが一回り成長していれば、良い物をやろうじゃないか」

その言葉を胸に仕舞い、彼女は故郷を離れた。

 桜が舞い散る並木道を歩いて、彼女はフランチェスカの門を潜った。基本的に皐月は大会以外で九州から出たことはなかった。学園の入学式の日、学園の講堂に集われた様々な令嬢・少女が保護者に見守られる中、中学から上がってきた内部組。受験で入ってきた受験組。スポーツやレポートによる推薦組で分けられる。一年の時は固まってクラス配置され、二年になると個々で定めた将来の方針を交えた上でのクラス替えが行なわれ、ここに居る入学者は全てクラスが交じり合うこととなるのだ。

受験組で入学した彩夏は、一人落ち着かず周りを見渡していた。

「彩夏、少し落ち着きなさい」

自分の顔見知りの友人の一人は推薦組の遠い場所におり、隣にいる皐月は堂々としている。一番付き合いが長い友人のこの落ち着き具合に彩夏も感心していた。実は皐月、新入生代表総代として、入学のスピーチを任されていたのだ。彼女はこの学園においても、持ち前の才知を発揮して、入学試験にて満点を叩きだし、またその気になればスポーツ推薦も狙えた逸材であり、一般枠の学費免除で入学した為に、学校側の意向にて総代を務める...っという手筈だったのだが、彼女はそれを断った。

自ら進んで目立つ立ち位置というのも柄ではないと思い、総代には別の人物が立てられた。今壇上に登ろうとしている黒髪の少女が皐月の代わりに総代を務める人物。彼女は総代として、皆の前で((不動|ふゆるぎ))((如耶|きさや))と名乗った。彼女は内部組においてちょっとした有名人である。大財閥・不動グループの御令嬢であり、剣道の腕も全国大会にて名を連ねる程の実力者で、皐月も何度か対戦した。

勝負に関しては、中学生レベルでは他を圧倒し、高校レベルにおいても十二分に通用するという感じであるが、毎日北郷老人の剣を受け続けた皐月にとっては苦ではなく。自らの課題作りの一環として、『相手の実力に合わせて、自らの力を((制御|セーブ))する』ことをよくやり、結果は毎回引き分けに持ち込んでいた。

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試合後での消化不良にて、毎回不動の方から後日の手合わせ直訴が来るのだが、『遠方なので・名乗る程の者じゃありません・持病の腹痛』等の言い訳で躱し続けていたのだが、この様な場所で彼女を見かけるとは皐月も予想外であった。

長身黒髪、十分に実って直の発展途上中の整った体躯。絵本から出て来た妖精の様な白い肌と美貌は、会場の来訪者も感嘆の息を漏らす。

それから新入生の挨拶は((恙無|つつがな))く終了し、入学に出席した彼女達は各クラスに振り分けられた。

フランチェスカのクラス名表記は独特で、花の名前のついたクラスに分けられ、皐月と彩夏はT-V(リオン)というクラスになった。

「皐月ちゃんと一緒になれて良かったよ。私だけなら、授業についていけるか分からなかったし」

皐月に話しかける菫色の髪の少女が、幼馴染の楠原彩夏だ。

「別に問題ないでしょ。受験勉強の時も呑み込みが早かったし――」

「それは皐月ちゃんの教え方が上手かったからだよ」

そう言って彼女は皐月を褒め称えるが、当の本人は何てことなく吐息を出して苦笑する。

この日は教員による学園の施設や授業の説明を終えて、明日より授業が開始となる。教室の生徒達が解放され、これから始まる部活勧誘に心弾ませていた。

「皐月、彩夏来たよぉ」

放課後、別クラスの彼女らの友人が遊びに来たのだ。この銀髪の見た目が怜悧な少女は松原麗架。皐月と彩夏の地元の隣街に住む友人。彩夏と麗架は互いに皐月を介して知り合った仲でもある。見た目の怜悧さとは違い、活発で姉御肌な為に、女性に良くモテ、そんな状況を本人もそれを楽しんでいた。

活発なスポーツ少女と見た目は大人しい文学少女二人、計三人組はの姦しさは非常に異様な光景に思えて、まだ教室に残ったクラスメイトも興味がそそられたのか、遠目から彼女達の様子を見守っている

「さて、それじゃ部活に見学いきましょ」

「あれ?麗架ちゃんは水泳部じゃないの?」

「こういうのは...ほら、雰囲気を楽しむ物よ」

彩夏を引っ張り出す麗架に加え、それについて行く皐月の姿であった。

学園では新入生勧誘のお祭り騒ぎが起こっており、数多の女性が中学上がりたての女子を自らの部活に引っ張って行こうと話しかけている。

しかしそこはお嬢様校の雰囲気なのか、普通の学校の様な仰々しさや荒々しさは感じられ無く、良くも悪くも淑やかさを重んじるお嬢様っと言った慎み深い勧誘であった。

それでも運動部に関しては、多少強引らしく、活発で利発そうな少女を見つけると密に群がる蜂の如く殺到し、麗架はそれに巻き込まれることになるのだ。

「さ、皐月ぃ〜、助けてぇ」

「ほらほら、貴女の望んだ部活勧誘の雰囲気なんじゃないの?存分に味わいなさいな。ほら、彩夏いくわよ」

「そ、そんな殺生なぁ〜」

皐月は麗架を見捨てて彩夏と共にそのまま女子寮の帰宅の途を進んでいく。そんな時、彩夏が皐月に行ってみたい部活があると声をかけるのだった。

「そういえば、彩夏は中学時代美術部だったね」

「そう。小学校の時、何時も下向いて絵ばかり描いていたから虐められたのかもね」

「何を言ってるの。それでコンクール入賞も決めたのだから、もっと誇っていいと思うわよ」

「皐月ちゃんにそう言ってもらえると嬉しいよ」

「貴女に良い人が現れるまで、私が守ってあげるから、頑張んなさいよ」

「な、も、もう。そんな人、いないよぉ。それよりも、皐月ちゃんにh......いや、やっぱりやめとく」

「お。流石察しが良いわね親友よ。懸命な判断だわ」

彩夏は一瞬、皐月の男性事情を尋ねかけるが、直ぐに言葉を呑み込む。付き合いの長い彩夏も、皐月の幼少期に起こった悲劇を少しだけ聞いたことがあった。日頃より彼女が何事にも必死に学ぶ姿勢を崩さないことも疑問だったので、何故そこまで懸命になれるのか尋ねると、全てを語らないまでも彼女の思いを察して詮索はしなかったのだ。

そんなことを話していると、辿り着いたのは先程話題に出た美術室。壁にはゴッホやミケランジェロの贋作がかかり、絵にかいた様な如何にもな美術室であった。

中学時、美術などといった文化部は、それ程人気が無いイメージがあったが、お嬢様校というだけあり、煌びやかで雅な少女達がこぞって美術部見学に来ていた。

「あら、御機嫌よう。貴女方も美術見学ですか?」

優雅で雅な『ザ・お嬢様』という女子生徒が、スカートの端を摘まんで皐月・彩夏の二人に声をかけ、お辞儀をする。英国上流階級の礼儀を知らない皐月であったが、こちらは茶道で培われた日本式のお辞儀を返して対応し、釣られて彩夏は皐月の真似をしてお辞儀する。

「ごきげんよう。いえ、私はこちらの友人の付き添いにて来ている身です」

礼節に乗っ取る会話を交わす普段とは違う友人を見て、彩夏困惑を示すが、お嬢様校の女生徒は案外積極的なのか、彩夏の都合などお構いなしに彼女の絵の趣味・好きな画家を尋ねたりしていた。

そんな積極的なお嬢様が多いのか、皐月と彩夏は何処から来たかなどと質問攻めにあってしまう。

二人の九州訛りが残る話し方が珍しかったのか、中等部より上がって来て、外部から来た者に興味津々だったのかは分からないが、二人が美術部見学に漕ぎつけた時には、体力面より精神面で少し疲れが出ていた。

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見学の時に行なったことは自由作画であった。自らの思い思いの絵を描いてみるという課題だった。風景画、抽象画、人物画など種類は様々。見学の女生徒は自身のペースにて筆を走らせており、彩夏も得意な風景画に着手していた。

皐月はあまり絵というものを描いたことは無かった。ただ、北郷老人の趣味の一つで鳥獣人物戯画があり、それも何度か手解きを受けたぐらいだ。基本は墨と筆のみで描く為に、皐月はその代用として墨汁並みに濃く溶かした絵の具を用い、彼女なりの鳥獣戯画を描き始めた。

暫くした後、集中していた為に周りからの視線が見えていなかったのか、彩夏に声をかけられるまで反応することが出来ずにいて、彼女が気づいた頃にはギャラリーがとんでもないことになっていた。

「…皐月ちゃん、それは一体?」

彩夏の反応からして、自らは何かやらかしてしまったのかと思い、狼狽しながら皐月は答える。

「え、いや…ちょ、鳥獣戯画っていうものだけど……何かまずかったかしら?」

そこには川で、猿がりんごを持って河童達に投げつける光景が筆の太さと細さの微妙な抑揚にて描かれており、空に描かれた月では二匹の兎が餅を突いて絵の愛らしさを際立たせていた。周りの女生徒だけではなく、顧問であるスーツ姿の女先生までもが釘つけとなっていた。それからというもの、皐月は顧問の先生に熱心な勧誘に遭ったが、彼女は美術に関しての興味はなかった為に、丁重に断った。

今まで学業や剣道の大会において賞賛されたことは幾つかあったが、それ以外であそこまで賞賛された経験はなく、人として悪い気はしなかったが、それでも彼女が思い描くものではなかった。

彼女が求めているのは、あくまで力だ。情報の力・個人の技量・権力的力などといったものだ。そう言う意味であれば、パソコン部などといったものが望ましいのだが、まだそういった部活はフランチェスカには存在しないようだ。彩夏はもう少し美術部の見学をして帰るということで、皐月は先に女子寮への帰路を行脚する。その帰路にて、数日ぶりに聞く竹刀の軋み合い、はじき合う音が聞こえて来る。彼女にとっては馴染みのある響きにて、校内にて太陽の沈む方向に立っていた剣道場が見えた。

だが彼女が現在欲しているのは剣の力よりもっと重要なことであり、北郷老人から出された課題のクリアを望むのであれば、今まで行なっていたことと同じことを行なうのは、また違うとも彼女は感じた。それに一般の高校生では既に太刀打ち出来ない領域にいる皐月にとって、高校剣道部も特に魅力を感じる場所ではなく、それなれば自主練に勤しむ方が為にもなっていた。

「失礼。もしやそこにおわすのは鳳皐月殿ではござらぬか?」

剣道場を通り過ぎて帰ろうとしたその時に、声をかけられた方を振り向くと、そこには見るもの全てを惹き付ける長い黒髪のツリ目、剣道着の入った黒い道具入れを片手に持った和風系美少女が声をかけてきた。

 

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 ※あと付の様な物

この作品(呂北伝)における皐月・彩夏・麗架は原作通りの仲良し三人組ですが、フランチェスカ近隣にマンションを借りていたりしておりません。

彩夏の中学時代における、彼女の憧れのお兄ちゃんの悲劇も無いです。また、今作の幼馴染を捜索する、原作以上に頼もし過ぎる皐月に触発されて、彩夏も少し遠慮しがちな引っ込み思案も抜けており、原作の父親の再婚相手の母親にも自身の意見を主張する為に、少なくとも嫌悪な家族関係ではなく、心臓病の発作も安定しております。

そして、一刀に関しては現在発覚している他作のbasesonシリーズのキャラ事の関りに関しては、春恋乙女のキャラで私が接触確認したのは、早坂章仁・及川佑・不動如耶だけです。

一刀は剣道部でしたから、剣道部部長である如耶とは関りは恐らくあるでしょう......なんで歩く種馬である一刀の接触で、如耶は堕ちなかったのでしょうね。

 

説明
どうも皆さまこんにち"は"。
宣言通り、投稿...ごめんなさいちょっと遅れました。
文章チェックしておりました。

本日からフランチェスカ学園編です。
春恋原作おなじみの三年生組登場です。

皆絶対『不動』の読み方『ふどう』って読んでるでしょう。
是非とも原作もプレイして欲しいです。おもしろいよ。

ただ原作の鳳皐月は、このシリーズではどんどん壊れていっております。
カッコよくなる予定ですので、原作ファンがいれば許してね。
学園編と司馬一族編を書いて、早く一刀・恋・愛華・白華の過去回も書かなければいけませんね。

......え?誰か忘れている?
その人に関しても一刀の人生の転換期に登場します。
それでは本編をどうぞ。

P.S.
『無職転生』の書式版終わっちゃいましたね。
創作作品において、ああいう物が私の書きたい物語や表現だったりします。

なんでも出来そうに思える主人公が、打ちのめされても体を失っても、守るべきものの為に地面に頭を擦り続けてでも歩みを進める。
カッコいいぜ。

あ、こちらの応援もよろしくお願い致します
http://www.tinami.com/bbs/view/285
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コメント
弥生流さん>もし他作品のキャラを参戦させるのであれば、basesonシリーズ・恋姫の世界線に限られますが、現状戦国恋姫からの導入は考えておりません。 話がごちゃ混ぜになりかねませんから......私が!!(IFZ)
投稿お疲れ様です。この部分については、自分は知らないので、なんとも言えません。けど、とても意味深だなというのは、分かります。続きがどうなるのか、楽しみです(弥生流)
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