東倣現想境その7
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信仰を必要としない神様なんてのはいるんだろうか。

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境界の神社に妖怪達が出入りするようになってから、

今までの退屈だった時間が嘘のようだった。

 

何か事ある毎にこうやって集まって宴会をするのも何度目だろう。

美しく色づいた秋の境内。今年も宴会シーズンがやってきたと、

神社は妖怪達で賑わっていた。

 

そんな妖怪達を見ていると、何かを忘れているような気がした。

 

 

  桜子 「昔は、神様も誘って一緒に騒いでいたのに

      この神社の神様はもういないのかしら。」

 

 

この神社に来るようになってから、神様らしい神様を一度も見ていなかったのだ。

 

 

  桜子 「・・・そういえば、あの桜の神様はどうしてるんだっけ?

      最近見てないから宴会くらい誘ってみようかしら。」

 

 

彼女はこっそり宴会を抜け出し、毎年様子を見に行く桜の樹の元へ向かった。

 

−−−−−−−−−−

 

この桜は昔から彼女が管理している日本でも有数の桜の大樹である。

現在は人目を避ける為に樹海の屋敷に住んでいるが、

元々彼女は神様から桜の管理を命じられ、この樹に住んでいた。

 

今でも花見を兼ねて定期的に樹の様子を見に行くのだが、随分と前から神様の姿を

見ることは無かった。

 

 

  桜子 「やっぱりいないのかしら。 結構名のある神様だったと思ったんだけど。」

 

  桜子 「・・・ん?」

 

 

この樹とは長い付き合いだが、今日はいつもと雰囲気が違って見えた。

樹から生気が無くなり、刻まれていた神様の名前も無くなっていた。

 

この樹から神様がいなくなっていたのだ。

 

神様の御神体として祀られていたこの樹から神様がいなくなってしまっては

妖精達もいない今、遅かれ早かれ枯死してしまうだろう。

 

しばらく樹の前で立ちつくしていると、後ろから誰かに話しかけられた。

 

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  ? 「あーあー、あんた、この樹を知ってるのかい?」

  桜子 「ん? あんた誰?」

 

 

後ろにいたのは、ボロボロに汚れた服を着た酔っ払いだった。

 

 

  ? 「あっはっは、何を言っているのさ。

    博麗神社によく宴会に来てるのに覚えてないのかい〜?

    わたしゃ、福寿の豊爛っていう神さ〜。」

 

 

福寿豊爛(ふくじゅ ほうらん)と名乗った自称神様は、樹の周りをぐるぐる

回りだすと、桜子の前でぴたりと動きを止めた。

 

 

  桜子 「あら、あんた神様だったの?

      カリスマの欠片も無いもんだから、てっきり酒の妖怪かと・・・」

  豊爛 「あっはっは、そりゃーそうだ。

      わたしゃ、貧乏神なのさ〜あははは。」

  桜子 「で、そんな神様が何でこんな所に。」

  豊爛 「ん〜? なんとなくよーなんとなくー。」

  桜子 「・・・」

 

−−−−−−−−−−

 

  桜子 「まあ、ここにいた神様も出て行くなら出て行くって

      一言言ってからにしてほしかったわ。

      ・・・これで、この樹もいずれ寿命を迎えてしまうのね。」

  豊爛 「あ〜? ああ、ここにいたのはアイツか。

      まあ、神なんてのはそんなもんよ〜わがまま〜。」

  桜子 「あんた、やっぱり酒の妖怪じゃないの?」

 

 

妖怪も数が減り、人間達の信仰も無くなって来ている為、

神様にとっては居心地の悪い世の中なのはわかっていたが

消えてしまったとは、にわかに信じ難い。

 

ここにいたのは古来より絶大な信仰を集めていた神様だったのだから。

 

 

  桜子 「でもやっぱり急よね。 何かあったのかしら。」

  豊爛 「奴の信仰も、もうあの箱庭以下のもんだったのさ。

      つい先日、相方と一緒に幻想郷に行ってしまったよ。

      もうこっちに留まる意味は無いんだとさ〜。

      勝手だねぇ〜わがままだねぇ〜あっはっは。」

 

−−−−−−−−−−

 

  桜子 「幻想郷・・・あの結界の向こうね。

      って、そう言うあんたも神様なんでしょ? その辺大丈夫なの?」

  豊爛 「あははは、大丈夫だいじょうぶ。このわたしを誰だと思っているのかね。」

 

 

目の前にいる神様は、こんな御時世にも関わらず全く衰えを見せていない。

見た目によらず、実はすごい神様なのかもしれない。

 

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  豊爛 「まあ、神がいなくなったって、この樹はうまくやって行けるさー。

      わたしゃ、同じように死んでいった樹をいくつも見てきた。

      この桜は恵まれているよ、あんたもいるし周りの人間達も優秀だ。」

 

  豊爛 「・・・いずれ死んでしまうのは変えられないが、

      最後まで美しい花を咲かせてくれる事だろう。」

 

 

そう言い残して、豊爛は神社へと戻っていった。

 

豊爛が去ってから、桜子はしばらく樹を眺めていた。

1000年余りの時を一緒に過ごしたこの樹は、

彼女にとって故郷のようなものであった。

 

 

  桜子 「まったく、あなたも大変ね。 神様に振り回されて。」

 

  桜子 「そうねえ、来年から春の宴会はここでやりましょう。

      以前は私ひとりだったけど・・・来年から騒がしくなりそうね。」

 

 

 

 

 

  美しき神代の桜よ 

 

 

  その命尽きる時まで

 

 

  私はあなたを見届け語り継ごう

 

 

  たとえその花を咲かせる事が無くなろうとも

 

 

  私が花となり咲き誇ろう

 

 

  最も美しい幻想の桜となって

 

 

 

 

 

東倣現想境 〜 Flower Dream.

 

 

 

 

 

表裏一体の神様

○福寿 豊爛 (Hukuju Houran)

 

普段は常時酔っ払っている貧乏神だが、気まぐれで

福の神になる事もあるという神様。

ボロボロの服を着ているが、手に持った酒瓶や団扇、

服につけた金の装飾は大変高価な物との事。

説明
・オリキャラしかいない東方project系二次創作のようなものです。 タイトル間違えてた なんという不覚
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