恋姫英雄譚 鎮魂の修羅51
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十常侍の処刑が終わり、一日が経った

 

袁紹軍攻略と烏丸殲滅の後始末を並行して行い、忙しい毎日を送る一同

 

その過程で、これからの幽州と冀州の統治をどうするかの議題が上がった

 

議論の結果、幽州を風、冀州を稟が暫く統治することに収まる

 

一番の問題は幽州であった、なにせこれまで一刀が推し進めてきた政策を廃止し、従来のやり方に戻すこととなったのだ

 

市役所や区役所なども解体し、何もない所から一からやり直すこととしたのだ

 

これに関してはそれほど難しい事ではなかった、なにせ烏丸の放火の被害にあったのは市役所や区役所も例外ではない

 

新しく立て直す必要があったため、その過程で別の物件を立てることも出来るからだ

 

一番の問題は文官である、これまで一刀が天の知識による意識改革をしてきたため、それを元に戻すとなると混乱を招く

 

これを防ぐ為に一刀も、文官達に自分が作った政策は今後一切使用することは禁止と、釘を刺して回った

 

北郷隊も解体され、治安維持体制も一から見直しとなった

 

北郷隊の隊員達もこれには不服を申したが、一刀の問答無用の一喝に黙り込まされた

 

中でも最も扱いが難しいのは月である、なにせ暴君董卓のレッテルを張られているため、迂闊に政に参加させられない

 

名君であることは分かっているが、そのイメージを払拭しないことには始まらない

 

反董卓連合の真相を公にすればいいのではあるが、それはそれで混乱を引き起こしかねない

 

時が経ち、反董卓連合の熱が収まり人々が興味を失うまでは、月には暴君という不名誉を被ってもらう必要がある

 

月も自分一人の為に、再び体制が乱れるのは不本意であるからして、ほとぼりが冷めるまでは出過ぎたことはしないとした

 

しかし、文字通り何もしないのでは穀潰しにしかならないため、麗羽と共に空丹と白湯の世話係を暫くすることとし、詠も月に付いて行くこととした

 

その過程で、麗羽は月に只管に平謝りをしていたのは、想像に難くない

 

その他の将達の待遇は、これから決めていくものとした

 

そして、幽州と冀州を当面は風と稟に任せ、一同は陳留に帰還する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「今戻ったわ、留守番ご苦労様」

 

燈「お帰りなさいませ、華琳様」

 

喜雨「こっちは、特に変わりは無かったよ」

 

華琳「そう・・・・・ではすぐに、今後の事を話し合いますから」

 

燈「かしこまりました」

 

喜雨「ところで、幽州はどうなったの?」

 

燈「そうですわね、一刀様はどうなされたのですか?」

 

華琳「詳しい話は、これから話していくわ・・・・・」

 

そう言いながら、城に入る華琳の後に複数の将達が付いて行く

 

その中に

 

喜雨「え、うそ・・・・・あれが、一刀さん・・・・・」

 

燈「・・・・・・・・・・」

 

将達の中に、一際立ち昇る漆黒の邪気に目を奪われる

 

跨られている黒馬北斗もその邪気の影響か、息を荒くし凶暴になっている様に見える

 

喜雨「本当に、あれが一刀さんなの・・・・・」

 

燈「あれはかなり危ないわね・・・・・完全に人が変わったようね・・・・・」

 

その姿を一目見て、喜雨は愕然とし、燈は強烈な危機感に襲われる

 

菖蒲「(私は、何があろうと一刀様について行きます)」

 

氷環「(私の心は、常に隊長様と共にありますわ)」

 

炉青「(どんなことがあっても、ウチは、あに様はから離れないどす)」

 

麗春「(私は、どんな一刀でも受け入れて見せるぞ!)」

 

一刀の後をついて行くこの4人は、決意を新たにするのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからすぐさま会議が開かれ、燈と喜雨は事の真相を聞かされる

 

その真相に喜雨はまたもや愕然とするも、燈は逆に冷めた様子だった

 

元沛郡の相である燈からすれば、これくらいの謀や駆け引きなど日常茶飯事であったため珍しくもなんともないのだ

 

そして、この真相を口外することは許可が出るまで禁止とする方針にも納得した

 

迂闊に口外すれば、どんな結果になるかは簡単に想像が出来るからだ

 

喜雨は、この方針に納得し難い所があるが、こういうドロドロとした政に関わるのは避けたいためそれ以上何も言わなかった

 

報告を終え、これからどうするかの議題に差し掛かった時、陳留を来訪する者が居た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華琳「徐州から使者が来たですって?」

 

燈「ええ、急ぎ華琳様にお目通りしたいと言っています」

 

桂花「この時期に劉備が使者を送るって、どういうことなの?」

 

喜雨「皆は知らないかもしれないけど、劉備は今、袁術と戦をしているよ」

 

春蘭「なにぃ、初耳だぞ!」

 

喜雨「うん、だって華琳様達がここを発って、二、三日して入って来た報だし」

 

春蘭「むぅ、それなら仕方ないか」

 

麗春「しかし、一体誰が来たのだ?諸葛亮だったら即刻追い返せ!」

 

燈「誰が来たかはこの際置いておいて、如何しますか?」

 

華琳「・・・・・いいわ、ただし董卓軍と官軍の皆は席を外しなさい、説明をすると面倒なことになるわ」

 

一刀「俺はどうする」

 

華琳「一刀は同席していいわ、あなたの現状を伝える必要があるでしょうし」

 

氷環「では、私もここに」

 

炉青「ウチもいるどす」

 

菖蒲「私も残ります」

 

そして、空丹と月と傾を筆頭とした面子は退室し、曹操軍+αが残った状態で、燈に案内され玉座の間に入って来たのは

 

愛紗「・・・・・・・・・・」

 

彩香「か、関羽・・・・・」

 

秋蘭「まさかこやつが来るとは・・・・・」

 

劉備の片腕が出向いてくるとは思ってもみなかったため、一同はあっけにとられた

 

これほどの人物を寄こしてくるとなると、余程重大な要件であることは想像に難くない

 

愛紗「曹操殿、此度は謁見の機会を賜り誠に・・・・・って、一刀様!!?」

 

ここに居るはずのない人物がいることに気付き愕然とする

 

しかし、それ以上に愕然としたのは、彼の雰囲気である

 

愛紗「ど、どうして一刀様がここに・・・・・それに、その氣は・・・・・」

 

一刀「どうしてどいつもこいつも、どうでもいい事を気にするんだか」

 

愛紗「一体どうされたのですか、何がどうなって・・・・・」

 

華琳「質問することが多過ぎて混乱している様ね、なら簡単に言うわよ・・・・・一刀は、我等曹操軍が袁紹軍から助け出し、私の覇道に参加する確約をして、ここに居るのよ」

 

愛紗「ええ・・・・・えええええええええええええ!!!??」

 

麗春「そうだ、ようやく一刀は分かってくれたのだ、我等の目指す理想を♪♪」

 

愛紗「そ、そんな・・・・・一刀様、本気なのですか、あなた様ほどのお人が曹操軍に与すると!!?」

 

一刀「その通りだ、悪かったな、以前お前の正義を否定してしまって・・・・・これからは、お前はお前の正義を好きなだけ振りかざせばいい、そして好きなだけ血の海を作り続ければいい」

 

愛紗「・・・・・・・・・・」

 

以前の一刀からは考えられない台詞が飛び出し、本当に同一人物なのかと疑いたくなる

 

華琳「・・・・・それで、どのような要件で来たのかしら?」

 

愛紗「ああ、はい・・・・・此度は、曹操殿にお願いしたき義がありはせ参じた次第にございます」

 

華琳「義ですって?」

 

愛紗「はい・・・・・我ら劉備軍の曹操殿の領土を通行する許可を頂きたいのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

桃香「雛里ちゃん、南は大丈夫!!?」

 

雛里「まだ鈴々さんと雷々さんと電々さんが頑張ってくれていますが、それほど持ちこたえられないでしょう」

 

桃香「朱里ちゃん、東は!!?」

 

朱里「星さんと美花さんが奮闘していますが、こちらも芳しくありません」

 

桃香「北はどう、雫ちゃん!!?」

 

雫「はい、白蓮さんの機動力を生かして何とか牽制出来ているだけです、いつ突破されてもおかしくありません」

 

桃香「・・・・・愛紗ちゃん、早く帰ってきて、このままじゃ」

 

どの報告も良いものではない、徐々に包囲網が狭まっていく感が否めない

 

当初は、袁術軍に奇襲をかまし、混乱を引き起こし戦況を有利に進めていた

 

その後も朱里、雛里、雫の水鏡塾コンビによる奇策を連発し、寡兵でも互角以上に渡りあっていた

 

しかし、やはり数は力である、巴率いる別動隊が回り込む様に劉備軍を逆包囲し戦況は一気に逆転する

 

美羽、七乃の主力を、鈴々、雷々、電々だけでは抑えきれず、巴の別動隊の統率力にジリジリと押し込まれていく

 

こうなる前に、大将である美羽を捕えたかったのであるが、袁術軍本体に防御に専念され、その間に巴の別動隊を展開する時間を与えてしまった

 

劉備軍の様な弱小勢力は、損失を省みない消耗戦は一番やってはならない愚策である

 

これまでは奇策で何とか誤魔化していたが、数の有利を生かす状況を作られてはひとたまりもない

 

このままではジリ貧であるとして、逃げ道を華琳の領土である豫洲に見い出し、愛紗を使者として送ったのだ

 

そして、華琳達は劉備軍の本陣に到着する

 

愛紗「ただいま戻りました、桃香様!!」

 

桃香「愛紗ちゃん、どうだった!!?」

 

愛紗「はっ、曹操殿が桃香様と直接話をしてくださると、ここに来てくださいました!!」

 

桃香「本当に!!?」

 

華琳「この私をここまで出張らせた落とし前を付ける覚悟は、出来ているのでしょうね?」

 

桃香「あ、曹操さん!!わざわざ来て下さりありがとうございます!!」

 

天幕に入って来た華琳に、桃香は深々と頭を下げた

 

華琳「まったく・・・・・で、この状況は何なの?」

 

桃香「はい、袁紹さんからまた書簡が届いて、その後に袁術ちゃんがやって来て、北郷包囲網に参加させないように、ここで食い止めていたんですけど・・・・・」

 

華琳「あ〜〜、なるほど・・・・・」

 

どうやら、勘違いの末の戦であったようだ

 

一刀を救いたいという一心で、桃香が先走ったことが嫌でも想像出来てしまう

 

華琳「それならもう解決しているわ、北郷包囲網なるものは茶番でしかなかったわ」

 

桃香「え、それじゃあ、空丹様と白湯様は・・・・・」

 

華琳「心配しなくても、我ら曹操軍が保護しているわ」

 

桃香「そうですか・・・・・良かった〜〜・・・・・」

 

書簡に、一刀が帝と劉協を攫ったと書いてあったが、そのような事は信じられなかった

 

真相がどうであろうと、袁術軍をそのままにはしておけなかったため、こうして戦をしているのだ

 

桃香「そうだ、一刀さんは、一刀さんはどうなったんですか!!!??」

 

華琳「ええ、連れて来ているわ」

 

続いて、天幕に入って来た一刀に

 

桃香「か、一刀、さん・・・・・」

 

雛里「み、御遣い、様・・・・・」

 

朱里「・・・・・・・・・・」

 

雫「・・・・・・・・・・」

 

天幕に居る全員が愕然とする

 

雰囲気が前の穏やかなものとは一変し、抜き身の真剣の様になっていた

 

なにより全身から立ち上る邪気を見て、本当に一刀なのかと思ってしまう

 

特に雫にとって、これが一刀との初めての邂逅であったが、その第一印象は魔王とでも対面したかのようであった

 

麗春「やあ、大変であるな、孔明よ♪♪」

 

朱里「っ!!・・・・・仲達・・・・・」

 

更に天幕に入って来た麗春と彩香、朱里はまさに仇敵と相対する表情となる

 

麗春「なんだこの有様は、たかが袁術如きに情けないと思わんのか♪♪」

 

彩香「麗春、そのような失礼を働くものではありません」

 

麗春「おっと失敬、同じ軍師として泣けてくる思いでな♪♪」

 

朱里「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

 

苦虫を噛み潰すしかなかった

 

本来であれば、こんな麗春に借りを作る様なことは死んでもしたくはなかったのだ

 

しかしこのままでは、劉備軍の全滅は火を見るより明らか、死んでしまってはプライドもへったくれもない

 

この借りは、後日何倍にもして返すことを心に誓ったうえで、朱里も今回の案を飲み込んだのだ

 

桃香「一刀さん、どうしてしまったんですか!!?」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

桃香「一体何があったんですか、その黒いものはなんなんですか!!?」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

桃香「・・・・・一刀さん、どうして何も言わないんですか!!?」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

華琳「それに対しては、私が受け答えするわ、一刀にはこの交渉には一切口を挟まないようにと言及していますから、一刀から何かを受け取れるとは思わないように」

 

桃香「え、それは、どういう・・・・・」

 

華琳「どうもあなたは、以前から一刀に縋る傾向が見られましたから・・・・・これ以降はそのような甘ったれた考えは捨て去る様に、人にものを頼むのに人の家臣を当てにする物言いでは、これから先やっていけないわよ」

 

桃香「え、家臣、何がどうなって・・・・・」

 

華琳「一刀は、我が覇道を共に歩む同志となったわ、以後そう認識しなさい」

 

桃香「・・・・・・・・・・え」

 

この言葉に、桃香は頭の中が真っ白となった

 

鈴々「お姉ちゃん、駄目なのだ、袁術の本隊を崩せ・・・・・」

 

雷々「妖術を使っても余り効果が・・・・・」

 

電々「うん、あんなに沢山いたら・・・・・」

 

美花「こちらも、紀霊の部隊を止められ・・・・・」

 

星「ふぅ、これでは一刀殿に顔見せ・・・・・」

 

白蓮「ああ、幽州から避難してきたと思ったらこれ・・・・・」

 

天幕に、四方に散らばっていた将達が入ってくる

 

どうやら現状報告に来たようだが、天幕にいる人物に言葉が途中で途切れる

 

華琳「二度も同じ説明はしたくないわ、今入って来た者達は、後で劉備に説明してもらいなさい」

 

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 

この言葉は、一同の耳には半分も入っていなかった

 

それくらいの衝撃的な光景に愕然としてしまう

 

華琳「さて、劉備、私の領土を通りたいということですけど、それなりの見返りを用意しているのでしょうね?」

 

桃香「あ、はい・・・・・それなんですが、実は・・・・・」

 

雛里「はい、愛紗さんを使者として送っている間に、この事を徐州の民に伝えたのですが・・・・・」

 

雫「この話を聞いた皆さんが桃香様について行きたいと、その数が・・・・・十数万にも上りまして・・・・・」

 

愛紗「え・・・・・ええ!!!?」

 

彩香「待って下さい、冗談ではありませんよ」

 

麗春「そうだ、そのような大移動、下手をしたら国が傾くぞ!!!」

 

華琳「・・・・・・・・・・」

 

どうやら、どうこうしているうちに話が肥大化してしまったようだ

 

これも彼女の徳の成せる業ともいえるが、その尻拭いをする側としてはたまったものではない

 

これは戦争以上の大仕事となってしまいそうだ、代わりに徐州を献上すると言われても、十数万もの移動の手伝いに加え、その分の労働力の穴埋めもしなければならない

 

おまけに袁術軍も引き受けなければならないとなると、これは割に合わない

 

+αが一個や二個付いても足りないのは目に見えている

 

華琳「はぁ〜〜、仕方ないわね・・・・・」

 

彩香「華琳、まさかとは思いますが・・・・・」

 

華琳「ここまでの大事になってしまっている以上無視も出来ないでしょう・・・・・いいわよ劉備、私の領土の通行を許可します」

 

桃香「本当ですか、ありがとうございます!!」

 

華琳「ただし、これだけの借りに対して、徐州一つで済ませられると思っているなら、あなたは算術を一からやり直した方がいいわよ」

 

桃香「それは、どういう・・・・・」

 

華琳「そうね、この関羽も貰い受けましょう」

 

桃香「え、ええ!!!??」

 

華琳「当たり前じゃない、こんなこっちが一方的に損をすることが分かり切ったことを引き受けるのですから、いくらかの補填は必要よ・・・・・言っておきますが、これ以上の譲歩は出来ないわよ、ただでさえ二束三文しか手元に残らないというのに、更に要求するというならこの場で首を落とすわよ」

 

桃香「・・・・・・・・・・」

 

華琳「迷っている暇があるの、こうしている間にも袁術はここに迫ってきているわよ」

 

桃香「・・・・・朱里ちゃん、雛里ちゃん、雫ちゃん、袁術ちゃんと和睦できないかな」

 

朱里「それは、非常に難しいかと・・・・・」

 

雛里「こちらが王手を掛けられている状況です、今更向こうが応じるとは・・・・・」

 

雫「はい、相手も引っ込みがつかないでしょう・・・・・」

 

桃香「・・・・・・・・・・」

 

こちらから手を出している以上、向こうがご親切に和睦を受け入れるはずもない

 

しかし、このままでは座して死ぬだけである

 

自分を慕ってくれて集まった十数万の民も危険に晒される

 

愛紗を取って全てを巻き添えにするか、愛紗を差し出して他の全てを生かすか、桃香にとっては究極の選択である

 

愛紗「桃香様、私は・・・・・」

 

桃香「・・・・・・・・・・」

 

華琳「これでもこっちはかなり気を使っているのよ、この関羽と一刀は割と親しい間柄のようですからね、なにせ一刀の事を様付けで呼んでいるみたいですし、関羽がこっちでもやっていける様にという、こちらの心配りを察しなさい」

 

桃香「っ!・・・・・一刀さん・・・・・」

 

もうここまで追い詰められてしまったら、迷っている暇など無い

 

桃香「一刀さん、一刀さんから曹操さんにお願いしてください!!」

 

華琳「劉備、言ったはずよ、一刀の助力は期待するなと!!!」

 

桃香「愛紗ちゃんを取らないであげてって、私達は皆で一つなんです!!」

 

華琳「甘えるのもいい加減にしなさい、劉備!!!」

 

桃香「・・・・・ご主人様!!!」

 

一刀「・・・・・・・・・・」

 

もはや華琳の言葉は耳に入らない、それ程までに桃香は切羽詰まっていたが、そんな必死の呼び掛けに一刀は無言を投げかけるのだった

 

華琳「はぁ〜〜・・・・・あなたでは話にならないわね・・・・・公孫?、公孫?は居るかしら!?」

 

白蓮「え、わ、私か!?」

 

華琳「そうよ、劉備の代わりにあなたが交渉人になりなさい」

 

白蓮「交渉って、私は払える対価なんて持ってないぞ・・・・・」

 

華琳「そう難しい事ではないわ、私があなたに要求するのは別のもの・・・・・この一刀についてよ」

 

白蓮「か、一刀・・・・・」

 

華琳「一刀は、ずっとあなたの事を気にかけていたわよ、自分は主を裏切った不忠者だと・・・・・自ら主を危険に晒してしまったと」

 

白蓮「・・・・・・・・・・」

 

華琳「あなたも知っているでしょう、一刀の義理堅さを・・・・・本当、これほど主思いな家臣を持ててあなたは幸せ者ね」

 

白蓮「・・・・・ああ、私には勿体ない家臣だよ」

 

華琳「であれば、関羽を貰う代わりとして、あなたにその対価を支払ってもらうわ・・・・・公孫?、この北郷一刀を更迭なさい!」

 

白蓮「なっ!!!??」

 

桃香「ええええ!!!??」

 

華琳「今すぐ一刀を、幽州宰相の任から解くのよ、それだけで我が領土を横切ることを許可するわ・・・・・因みに、あなたがここに残るなどと言い出したら、この話は無かったことにしてもらうわ」

 

白蓮「・・・・・・・・・・」

 

これも白蓮にとって、究極ともいえる選択である

 

思い人である一刀か、親友である桃香か

 

この要求を呑まなかった場合、桃香の命運はここで潰える、自分も道連れだ

 

逆に呑めば、桃香も自分も助かるが、一刀とは敵対関係となり永遠と言ってもいい別れとなる

 

せめて考える時間が欲しいが、袁術軍の包囲網が狭まっている今、刻限は目の前だ

 

迷っている時間さえも無い

 

華琳「私はどちらでも構わないわよ、お望みとあらば正式な書面も用意してあげますが」

 

白蓮「・・・・・分かった、一刀を幽州宰相の任から解く」

 

桃香「ぱ、白蓮ちゃん!!!??」

 

白蓮「分かっているだろ桃香、もう私達に選択肢なんてない・・・・・」

 

華琳「結構・・・・・では、彩香、麗春、手配なさい」

 

彩香「・・・・・はっ」

 

麗春「くっ・・・・・この借りは高いぞ、孔明よ!!」

 

朱里「・・・・・・・・・・」

 

そして、劉備軍は豫洲を通り抜け、荊州へと活路を見い出していった

 

一刀「・・・・・もう口を利いてもいいか」

 

華琳「ええ、よく私の言いつけを守ったわね、本当に一言も喋らないとは思わなかったわよ」

 

一刀「約束だからな・・・・・だが、礼は言わないぞ」

 

華琳「そこはお互い様よ、私もあなたを交渉に利用したのには変わりないのですから」

 

一刀「それで、袁術軍はどうする」

 

華琳「一番の問題はそこね、我が軍は劉備軍の先導に忙しいですし・・・・・」

 

桂花「兵法としては邪道ではありますが、ここは寡兵でもって制するしかないかと」

 

華琳「制する算段があるのかしら?」

 

桂花「難しいと言わざるを得ません・・・・・袁術軍は十万に近い軍勢、大して我らは、五千にも届いていません、よって我が領土に誘い込むのが得策かと」

 

要するに、地の利だけは確保しようという算段である

 

華琳「しかし、それでは我が方の被害も決して軽微では済まないわね」

 

桂花「そこは、許容していただければと願うしかありません・・・・・」

 

華琳「・・・・・・・・・・」

 

自分が桂花であれば、同じことを言うであろう

 

おまけにこれは、自分の判断が招いたことである

 

交渉を飲めばこうなることは分かり切っていたのだから、自分にだって責任がある

 

しかし、それでも自分の領土に被害が出るのは避けたいところである

 

よって、この徐州でケリを付けられればそれが一番の結果なのだ

 

かといってそれは現実的ではない、このまま戦えば五千にも満たない兵士達をむざむざと散らせる結果にしかならないのは目に見えている

 

果たしてどちらが正解であるか、悩み所である

 

一刀「・・・・・なら、俺が袁術と交渉するか」

 

桂花「ちょっと、あんたそんなこと言って大丈夫なの!?こっちが不利な事を知られたら、交渉どころの話じゃないのよ!」

 

華琳「そうね、どんな結果になったとしても、それはあなたの責任なのよ」

 

一刀「そんなことは百も承知だ」

 

華琳「・・・・・いいでしょう、使者として行きなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

七乃「お嬢様、なんだか劉備軍の皆さん、退いているみたいですよ・・・・・」

 

美羽「むぅ、本当に人の話を聞かん奴らなのじゃ、妾は麗羽を止めたいだけなのじゃ・・・・・」

 

一刀を救う為にお互いやっているのに、こうまで擦れ違うのはどうしたことか

 

今回の戦いは、お互いの勘違いが起こしたしょうもない衝突でしかなかった

 

七乃「追撃しますか〜?」

 

美羽「いいのじゃ・・・・・それより早く幽州に行くのじゃ、一刀が心配なのじゃ!」

 

七乃「それじゃあ、まずは巴さんと合流して・・・・・」

 

一刀「その必要はない」

 

美羽「ぬおっ、か、一刀!!!??」

 

七乃「ど、どうしてここに居るんですか!!!??」

 

巴「美羽様、七乃、劉備軍はどうし・・・・・か、一刀!!?」

 

いきなり目の前に現れた一刀に、美羽、七乃、合流してきた巴も仰天する

 

なにより、彼の纏う漆黒のオーラに目を奪われる

 

巴「どうしたのですか一刀、その邪気は一体・・・・・」

 

美羽「な、何があったのじゃ、一刀・・・・・」

 

七乃「まるで、人が変わってしまったような・・・・・」

 

華琳「それについては、私が説明するわ」

 

巴「曹操殿まで・・・・・」

 

美羽「なにがどうなっておるのじゃ、七乃・・・・・」

 

七乃「わ、私にもさっぱり・・・・・」

 

一刀「お前らまで来るとは聞いていないんだがな」

 

華琳「あら、もしもという時はあなたが守ってくれるのではなくて?」

 

桂花「そうよ、これで華琳様に何かあったら、あんたは末代までの恥晒しよ」

 

一刀「・・・・・いいだろう、交渉のみで終わらせる」

 

後からついてきた華琳と桂花に若干の嫌味を見せるも、一刀は袁術軍に向き合う

 

一刀「俺がどうしてここに居るのか、この邪気がどういう事かは置いておく・・・・・美羽、七乃、巴、俺達曹操軍に付け」

 

美羽「そ、曹操軍にじゃと!!?」

 

七乃「一体いつから一刀さんは、曹操軍になったんですか!!?」

 

一刀「それも後で説明する、今はそんなことを言っている場合じゃないのは・・・・・巴なら分かっているだろう」

 

巴「・・・・・・・・・・」

 

美羽「と、巴?」

 

七乃「ど、どうしたんですか?」

 

いつになく神妙な巴に、美羽も七乃も訝しむ

 

その時、伝令の兵士が泡を食ってやって来た

 

「袁術様、孫堅軍が反旗を翻しました!!!」

 

美羽「な、何じゃと!!!??」

 

「既に建業は陥落、孫堅の勢力にまるで歯が立たず、一日と持ちませんでした!!」

 

七乃「・・・・・戦力の殆んどをこっちに割いてしまっていますからね、孫堅さんならあっという間でしょう」

 

巴「いつかこうなるとは思っていましたが、予想通りですか・・・・・」

 

かつて一刀に、炎蓮は美羽に扱い切れる人物ではないと釘を刺されていたが、それが現実のものとなってしまった

 

華琳「ま、劉備に足止めをされてしまっていたものね・・・・・」

 

桂花「はい、私が孫堅だったら、同じ選択をします」

 

一刀「どうする美羽、帰る場所が無くなったぞ」

 

美羽「・・・・・・・・・・」

 

七乃「お嬢様、もう選択肢は無いかと・・・・・」

 

巴「ええ、我が軍は依然健在ではありますが、劉備軍による損害を考えますと、今から揚州に戻って建業を奪還するのは非常に難しいかと・・・・・」

 

美羽「・・・・・分かったのじゃ、妾は一刀と共に行くのじゃ」

 

交渉を飲んで、馬から降りようとしたが

 

華琳「待ちなさい、まさかそれで終わらせるつもりじゃないでしょうね?」

 

桂花「まったく、付いて来て正解だったわ、今の交渉、十点中五点にも届かないわよ」

 

一刀「なんだ、何か問題が有るか」

 

桂花「有りまくりよ、あんた本当に幽州宰相だったの!!?」

 

華琳「まず、この大勢の兵士達の処遇も事前に決めておかないといけないわよ」

 

一刀「それなら何も問題はないだろ、劉備が連れて行った十数万の労働力を、この袁術軍が穴埋めをすれば帳消しだ」

 

華琳「それはこちらも望む所ではあるわ・・・・・問題は、袁術自身よ」

 

美羽「わ、妾じゃと!?」

 

華琳「そうよ・・・・・あなたの事は以前から聞いているわ、南陽でしでかしていたことを、この私が知らないとでも思っているの?」

 

美羽「う、ぐ・・・・・」

 

桂花「袁術の悪評は、陳留にも轟いていたわよ、あんたみたいな内部を腐敗させかねない人間なんて招き入れるわけないじゃない」

 

華琳「その通り、獅子身中の虫などこちらから願い下げよ、それこそ朝廷と同じ轍を踏みかねないわ・・・・・ただし、それ以外なら歓迎するわ」

 

その目線は、七乃と巴に向けられる

 

華琳「張勲については、これまで袁術を支えてきた功績もあることですし、文官としての能力はかなりのものでしょう、戦力として大いに期待できるわ・・・・・次に紀霊、朱雀公の名は陳留にも轟いているわ、武官としては申し分なし・・・・・それに」

 

七乃「ひっ!!?」

 

巴「うぅっ!!?」

 

その体全体を舐め回すかのような視線に七乃と巴は警戒心を強める

 

この世界における曹孟徳の美女好き、百合物語はかなり有名である

 

一体何人の女性がこの女の毒牙にかかり、その色に染められたか数知れないのだ

 

華琳「もしどうしても我が陣営に入りたいというのであれば・・・・・袁術、あなたは何が出来るかしら、これから先、私に何を提供するのかしら?」

 

美羽「う、うう・・・・・い、嫌なのじゃ、妾は、七乃も巴も失いたくないのじゃ!!」

 

七乃「お嬢様・・・・・」

 

巴「美羽様・・・・・曹操殿、美羽様に時間を与えてはいただけないでしょうか?」

 

華琳「時間ですって?」

 

巴「はい、御覧の通り美羽様はまだ幼い身、これからこの紀霊と張勲が教育を施します」

 

華琳「それは随分と気長な話ね、この袁術が一人前になるまでどれくらいかかるのかしら?」

 

巴「時間さえ頂けたなら・・・・・五年、いえ三年は欲しいかと」

 

華琳「五年だろうと三年だろうと気長な事に変わりはないわよ」

 

巴「それは重々承知です・・・・・それで結果が出なかった時は、どのような処罰も甘んじて受けます」

 

華琳「・・・・・いいでしょう、ただしあなた達の役目は袁術の教育係だけではないわよ、この覇王曹孟徳に従う以上、我が覇道の礎になる覚悟はしてもらうわ」

 

巴「はい、ありがとうございます・・・・・美羽様、聞きましたね、ここから先は美羽様次第です」

 

七乃「お嬢様、頑張って下さい、私達も頑張りますから・・・・・」

 

美羽「ううぅ〜〜〜〜、やってやるのじゃ!!!妾の本気、目ん玉かっぴらいて、よ〜〜く焼き付けるのじゃ!!!」

 

華琳「その意気、空回りでないことを祈るわ・・・・・」

 

この光景を見て、逆に心配になってくる

 

何せこの美羽は、あの麗羽の従妹なのだ、袁家の血筋である以上、不安がどうしても拭えない

 

尤もやる気を出してくれるのはいい事である、何せこっちはそれが狙いなのだから

 

努力する人間を華琳は決して否定しない、否定するのは努力もせず胡坐をかき時間を無駄にし、それでも人からは評価されたがる図々しい人間である

 

桂花「・・・・・どう、これが本当の交渉というものよ」

 

一刀「そうだな、相手の足元を見ることが大切か」

 

桂花「そうよ、いいものなら相手の懐から可能な限り引き出すのが、交渉術の鉄則よ」

 

一刀「ああ・・・・・俺ももっと闇に染まらなければならないという事だな」

 

桂花「・・・・・・・・・・」

 

そういう事を言っているのではないが、桂花の目には一刀の纏う邪気が更に色濃くなったように見えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、無事に荊州に到着した劉備軍

 

曹操軍の親切な案内で、誰一人欠けずにここまで来れた

 

桃香「・・・・・・・・・・」

 

そんな大歓喜してもいい状況の中、桃香は憂鬱な気持ちの渦中にあった

 

愛紗を失わなかったのは良いが、代わりに一刀を華琳に取られてしまったのだ

 

せっかくご主人様になってくれる約束をした矢先にこんな様となってしまっていては、気分もめげるというものだ

 

白蓮「・・・・・桃香、大丈夫か?」

 

桃香「白蓮ちゃん・・・・・うん、大丈夫だよ・・・・・白蓮ちゃんこそ大丈夫なの?」

 

白蓮「大丈夫・・・・・と言ったら、嘘になるかな・・・・・」

 

桃香「・・・・・・・・・・」

 

それはそうである、おそらくこの中で一番ショックを受けているのは白蓮であろう

 

家臣であり、思い人でもある一刀とあのような別れをすれば、心が折れても不思議ではない

 

それでも自分を気使ってあのような交渉を飲んでくれた親友には、感謝しかない

 

白蓮「しかし桃香、これから私達が歩む道は険しいものになるぞ、なにせ相手はあの一刀だ、覚悟が必要だぞ・・・・・」

 

桃香「・・・・・うん、分かっているよ」

 

白蓮「それならいいんだが・・・・・それなら、これからの桃香の目標を聞かせてくれないか」

 

桃香「私、朝廷を何とかしたい、空丹様と白湯様の為に、出来ることをしたいの・・・・・」

 

白蓮「分かっているのか桃香、それはあの一刀でさえも無し得られなかったことなんだぞ・・・・・」

 

桃香「・・・・・・・・・・」

 

あの有能を絵に描いたような一刀でさえ、何ともならなかった漢王朝を自分が何とかする

 

そう思うと前途多難としか言いようがない、夢物語だと言われても何も否定できない

 

朱里「いいえ、桃香様なら出来ます」

 

桃香「朱里ちゃん、本当に私に出来るのかな・・・・・」

 

朱里「あの人は、やり方を間違えたのです、私達は私達のやり方で、王朝の再興を目指します」

 

桃香「大丈夫なのかな・・・・・」

 

朱里「お任せください、この諸葛孔明、どのような艱難辛苦にも耐え抜き、必ずや劉備様の悲願を達成して見せましょう」

 

雛里「・・・・・朱里ちゃん」

 

美花「・・・・・・・・・・」

 

力強く宣言する朱里に雛里と美花は焦燥感に駆られる

 

何となく、相当無理をしている事が見て取れるのだ

 

まず何よりも力を欲している

 

その気持ちは分かる、これまでの自分達は余りに弱かった

 

黄巾党の乱では、他の諸侯の力添えがあったからこそ生き延びることが出来た

 

水関、虎牢関では、一刀が居たからこそ生き延びられたと言える

 

ああいった正面からの戦いを強いられた場合、奇策に頼れないため、自分達の弱さがもろに出る

 

今回の戦いでも曹操軍の力を借りて、やっとだった

 

この他力本願体質から脱却しないことには始まらない

 

それほどまでに自分達には、絶対的な力が足りないのだ

 

それを手にする為には、まとまった領地が必要である

 

あの徐州などというちんけな土地では話にならない

 

それら全てが分かっているからこそ、この朱里の力の入りように焦燥感が募ってくるのだ

 

朱里「(仲達、この借りは決して忘れません!!)」

 

なにより、あの麗春の情けを受けてしまったことが、一番腹立たしかった

 

この事実が、朱里の心を燃え上がらせていた

 

雫「・・・・・雛里、美花さん、一つ質問をしてもいいですか?」

 

雛里「雫ちゃん・・・・・」

 

美花「はい、構いません」

 

雫「御遣い様は、最初からああゆう人だったんですか?」

 

雛里「ううん、そんなことないよ・・・・・」

 

美花「はい、あのような一刀様は、初めて見ます」

 

雫「でしょうね、でなければ桃香様をはじめ、愛紗さんや鈴々さん、星さんや白蓮さんがあそこまで慕うなど考えられません」

 

雛里「うん、きっと何かあったんだよ・・・・・」

 

美花「はい、あのお方の人格が変わってしまうような、何かが・・・・・」

 

雫「・・・・・・・・・・」

 

以前の一刀と面識はない雫ではあるが、あの同盟資料から読み取るに、素晴らしい人物であることは分かる

 

しかし、あの姿を見てしまうと、それまで自分が想像していた人物像が霞んでしまう

 

これから自分は、自分が最も会いたい人にどんな感情を持てばいいのか分からなかった

 

雷々「ねぇ、電々ちゃん・・・・・」

 

電々「なに、雷々ちゃん・・・・・」

 

雷々「雷々達、これからどうなっちゃうのかな・・・・・」

 

電々「なんとも言えないね、桃香様と一緒に居るのは楽しいけど、これから先そういうのは減っちゃいそう・・・・・」

 

雷々「とりあえず、大陸一の商人になるって夢は、しばらくお預けかな♪」

 

電々「そうだね、今はちょっとだけ我慢しよう♪」

 

二人は、裕福な商人の娘に生まれたが、それに胡坐をかくことなく、自らも一旗揚げようと懸命にやって来た

 

その過程で、徐州に厄介になっていたのだが、それが今ではなぜか荊州に居る

 

自分達の紆余曲折っぷりに苦笑いする思いだが、どんな苦境でも明るく、前向きさを忘れない精神で、この状況を笑い飛ばすのだった

 

星「愛紗、鈴々よ、大事ないか」

 

愛紗「それはこちらの台詞だぞ、星よ」

 

鈴々「うん、やせ我慢しているの、分かるのだ・・・・・」

 

星「見破られていたか・・・・・」

 

愛紗「まぁ、私も人の事は言えないがな・・・・・」

 

一刀のあのような姿を見た後では、さしもの三人も凹むというものだった

 

星「これから我らが歩む道は、まさに茨の道そのものだな」

 

愛紗「茨など、生易しい物言いだ・・・・・」

 

鈴々「うん、剣山の道なのだ・・・・・」

 

星「だな、差し詰め冥府魔道といったところか」

 

これからの自分達の進む道がいかに険しいかを再確認する

 

愛紗「・・・・・もうこれは手放さねばな」

 

そう言いながら、愛紗は青い髪留めを取る

 

鈴々「それって、お兄ちゃんから貰った髪留めなのだ」

 

愛紗「ああ・・・・・私はもう、あの人には何も求めない!!」

 

髪留めを真上に放り投げ、冷艶鋸で一刀両断にする

 

星「良かったのか?」

 

愛紗「良いんだ・・・・・これでもう何も迷うものはない!」

 

髪留めから解き放たれた美しい黒髪が肌を撫でる

 

風に靡くその流れは彼女の覚悟を体現しているかのようだった

 

愛紗「北郷一刀、今度会った時は斬る!!」

 

星「おいおい、それが数々の難局を救っていただいた恩人に対して言う言葉か」

 

愛紗「分かっている、それでもあの男が桃香様の理想の前に立ちはだかった時は、私は躊躇わない!!」

 

鈴々「鈴々も、お兄ちゃんが相手でも容赦しないのだ!!」

 

星「それほどの覚悟を示すか・・・・・これは、私も習わねばならんか」

 

今ある思い人も、すでに過去のもの

 

私情を優先できる状況に、今の自分達はもはやないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、荊州北部、南陽の町に桃香達は辿り着く

 

そこで見たものは

 

桃香「うわぁ〜〜、何この町、凄〜〜〜い♪」

 

愛紗「これは・・・・・素晴らしい♪」

 

鈴々「うん、居るだけで楽しくなってくるのだ♪」

 

美花「とても治安が良さそうな雰囲気ですね♪」

 

雷々「ここだったら凄く商売しやすそう〜〜♪」

 

電々「うん、やり甲斐があるよ〜〜〜♪」

 

庶民が楽しそうに話をし、子供達がはしゃぎ回り、商人達が道行く人々にかける声に覇気が宿る、活気に満ち満ちた街並みだった

 

人の流れが滞らず、なのに治安が乱れていないという、相反する要素を両立した、まさにこれぞ自分達が描く理想に限りなく近いものであり、青天の霹靂ともいえる光景であった

 

しかし

 

朱里「・・・・・・・・・・」

 

雛里「・・・・・・・・・・」

 

雫「・・・・・・・・・・」

 

白蓮「・・・・・・・・・・」

 

星「・・・・・・・・・・」

 

この五人は、この光景に強烈な違和感を感じていた

 

そんな中

 

涙「あ、旅の方ですかぁ♪」

 

桃香「あ、はい、私は劉備玄徳といいます!」

 

涙「私は、この南陽の太守、劉度と申しますぅ♪」

 

桃香「ええ、太守さんなんですか!!?」

 

涙「はい、まだまだ若輩者ですが、身に余る栄誉ですぅ♪」

 

愛紗「我々は徐州から、この地へやってきた」

 

鈴々「うん、大変だったのだ」

 

そして、何があったのかの説明を桃香達は涙に聞かせた

 

涙「皆さん、大変苦労なさって来たのですねぇ・・・・・大丈夫ですぅ、この町なら十数万の人達が入ってきたところでへっちゃらですからぁ、数日程度なら養って差し上げられますよぉ♪」

 

桃香「ありがとうございます、凄く助かります!!」

 

ここに来るまでに数日の日数を費やした

 

十数万もの大移動というのは、それだけで体力と気力を消耗し、それほどに骨が折れるのだ

 

涙「ただし、ちゃんとここの決まりを守ってくださいねぇ、おいたをしたら、メッ!ですよぉ♪」

 

桃香「そこは重々承知しています!!」

 

美花「はい、皆さんに言って聞かせますわ♪」

 

英気を養わせてくれるだけでも、ありがた過ぎる申し出である

 

お言葉に甘えようという雰囲気が場を支配していくが

 

朱里「お待ちください」

 

涙「はい、なんでしょぉ♪」

 

朱里「劉度さんは確か、零陵の太守だったはずですよね、荊州四英傑の一人と聞いています」

 

雛里「それに、この南陽は以前は袁術さんが納めていて、かなりの暴政で荒れ果てていた筈です」

 

雫「はい、それなのにこんな短期間でここまでの発展を遂げているというのは、如何せん不自然に思えてならなくて」

 

涙「ああ、それですかぁ、それなら簡単ですぅ・・・・・全部、天の御遣い、一刀様のお陰なんですぅ♪♪♪」

 

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 

この言葉に、この場の全員の頭の中が真っ白となる

 

涙「かつてここを訪れた一刀様が授けてくださった書物がありましてぇ、それを実行しただけで、こんなにも見違えた町に成長したんですぅ♪♪♪」

 

白蓮「なるほど、違和感の正体が分かったぞ・・・・・」

 

星「どうりで、この光景に見覚えがあるわけだ・・・・・」

 

この街並みは、かつての幽州と瓜二つなのだ

 

それは当たり前だった、なにせやっている政策は幽州のそれそのものなのだ

 

しかも、政策を取り入れたのはこっちの方が後にもかかわらず、幽州よりも発展している気がする

 

こればかりは仕方ないといえる、ど田舎の幽州と大陸のど真ん中に位置する荊州とでは人の往来に差があるのは当たり前

 

結果、物流、金流も副産物としてスピードが上がり、更に差がつくのだ

 

桃香「・・・・・私、どうしたらいいんだろう、どうすればいいんだろう」

 

近い将来、自分達は自分達の理想の為に自分達の理想に限りなく近いこのサンプルを、自ら壊すことになるであろう

 

それは自ら、自分達の理想を否定するも同義、これは致命的な矛盾である

 

目の前に広がる人々の幸せそうな光景を目の当たりにして、この場の桃香を含めた殆どの者は自分の描く理想が激しくグラつくのを感じていた

 

自分達は、このまま突き進んでもいいのか、かつての一刀の言うとおりにしていれば、この大陸は平和になっていたのではないのか

 

自分達の行いなど、ただのはた迷惑でしかないのでは

 

朱里「桃香様、しっかりしてください、このようなものはまやかしです!!」

 

桃香「朱里、ちゃん・・・・・でも、でも・・・・・」

 

朱里「思い出してください、この政策を実施した御遣い様は、失敗したのです!!であれば、この光景も近いうちに壊れるのは必定です!!」

 

桃香「でも、それは・・・・・白蓮ちゃんと星ちゃんが言っていた・・・・・」

 

朱里「確かに、蝗害という不運があったことは聞いています・・・・・しかし、すぐに壊れてしまう平和など、平和とは言いません、強く強靭な平和を作ってこそなのです、それは自分達で作ってこそ価値があるんです!!」

 

星「朱里よ、それは途轍もない矛盾であるぞ」

 

白蓮「ああ、つまりそれは自分達が作った平和を誰かに壊されても、何も文句は言えないということだぞ」

 

桃香「っ!!・・・・・それは・・・・・」

 

朱里「そのような尤もじみた理屈が、国作りに通用するとでも思っているんですか!!?」

 

自分達の平和を壊されるのは許せないが、他の平和を壊すのは許容する

 

それくらいのことを言っていなければ、国家の運営などやっていられない

 

矛盾しているだの、理屈が通らないだの、筋違いだの、辻褄が合わないだの、自分勝手だの、ご都合主義だの、そんな分かり切った批判にいちいち反応などしている場合ではない

 

国というのは、そういうものなのだ

 

たとえ自分達の理想と逆行することになったとしても、それも飲み込まねばならない

 

それくらいの器が、為政者には求められるのである

 

焔耶「涙様、探しましたよ!!・・・・・この者達は・・・・・」

 

涙「この方々は、はるばる徐州から来てくださった旅人さん達ですぅ、丁重に歓迎してあげて下さいぃ♪♪」

 

焔耶「承知いたしました!!・・・・・では、主だった方々は付いてきてください、ご案内いたします♪♪」

 

「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」

 

そのような笑顔で接客をされてしまうと、こっちは罪悪感に押し潰されそうである

 

ご丁寧な挨拶も、今は煩わしく感じてしまいそうだ

 

愛紗「私達は、もう後戻り出来ないのだな・・・・・」

 

鈴々「鈴々達、地獄に落ちるのだ・・・・・」

 

美花「私も、奈落に落ちる覚悟をいたしましょう・・・・・」

 

ついさっきしたばかりの覚悟が、いきなり揺らいでしまう

 

もはや自分達に人の道を問う資格など無い

 

あの世で煉獄の炎に焼かれ魂ごと滅却される

 

それくらいの贖いきれない罪を背負う覚悟を、一人一人が強いられるのだ

 

誤魔化しも言い訳も、一切許されなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、Seigouです

 

ここ最近本当によく書けていると思います

 

一日に3千字を目標としていますが、その目標のおかげで投稿ペースが維持できているみたいです

 

その三千字をちゃんと達成できるかが一番のポイントなんですが

 

今回は1万5千字をオーバーしてしまいました、出来れば1万字に纏めたいのですが、ここは割と重要なシーンでしたので、キーボードを叩く指にも力が入りました

 

これから先もこういったことは度々起こるでしょうが、生暖かく見守っていただけたら幸いです

 

では・・・・・待て、次回・・・・・

説明
漸次の修羅
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コメント
阿修羅伝の続きが見たいなぁ。(烈堂)
劉備軍もなんだか、マズいベクトルが働いている気がしますね。(Jack Tlam)
更新有り難うございます!(恋姫大好き)
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鎮魂の修羅 恋姫英雄譚 恋姫無双 恋姫†無双 北郷一刀 ファンタジー ダークファンタジー 

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