常世ノ国
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〜ヒューザ〜

 

 

ぼんやり気がついたのは、いつだったか。

あいつが言うはずのことを、言わねえなあ。そう思ってたな。

 

確かめなかったんだ。何て聞いたらいいかわからねえし、

あいつには悪いけど、やっぱり、恐ろしかった。

手に残る感触と、葬式の前に会った時の冷たい顔がちらついて、

あの結果がやっぱり最悪のものだったかも知れないってのを

どうしても信じたくなかった。

 

だけど、あの時。

オレの手で、どんな存在を消しちまったのか、自覚させられた。

 

 

ヴェリナード城での晩餐会。およそ縁のなさそうなモンに

王子の替え玉のために参加することになっちまって。

 

みんなえらく気さくだった。

テーブルマナーと、なんかプレゼントの話を聞きながらの食事。

豪華な雰囲気や、かたっくるしい料理は、初めてだったけど。

あの……空気。

 

 

脳に蘇ったのは、ぐつぐつ音をたてる孤児院のボロい鍋。爆ぜる薪の音。

マナーなんぞは知ったこっちゃなかったけど、腹にメシをつめこむ間、

随分いろんな話したっけな。……あの、空気だ。

しばらく忘れてた。一人旅だったからな。

 

 

気がついて。

ぞっとして。

思わず廊下に飛び出した。

 

そして追いかけてきたあいつに、とうとう確かめちまったんだ。

 

----------

 

……お前、アタマ回るし、記憶力も悪かなかったろ。

何度も言っちゃねえけど、こんな話くれえは、流石に、覚えてるよな?

一度しか読んでない本だって、話したこっちが忘れてる話だって。

お前、きっちり覚えてたもんな?

 

「……オレは親のカオも覚えてない。

 物心ついたときにはじいさんと

 ふたりだけで暮らしてたからな。

 そのじいさんも、すぐに死んじまって

 オレはレーンの村の孤児院で

 世話になることになったんだ。」

 

『レーンの村の孤児院』だってよ。我ながら他人行儀だな。

 

 

なあ。

今さら言うこんな話、なんでお前は素直にただ聞いてんだ?

 

……はじめて聞いたみてえな、表情だよな……!!

 

 

「家族で仲良くお食事、なんてさ……。」

 

たいしたモンじゃねえけど、オレらもお互い、交換したもんとかあったよな。

プレゼントってやつ? あんな、セーリアの靴みてえないいもんじゃ、なかったけど。

メシなんか何回一緒に食ったかわかんねえしさ。

血は、つながってねえけど。

 

「……オレにゃあ、無縁のものだ。

 ああいう雰囲気になじめねえんだよ。」

 

……そうだよな、やっぱりだ。

お前、あいつじゃ、ない、よな。

 

ああやって囲んだ食卓も、笑ってた、あいつ自身も。

壊したのは、……オレなんだな。

 

「王族の連中を見て、やっぱ家族ってのは」

今やっと、あの場所の空気の意味がわかったけど。

「それとは別モンだなと思っちまった。」

でもだめだ。壊したオレに、あんなのとなじむ資格なんてねえよ。

 

「なんでか、わかんねえが、

 お前にだけは、こんなことまで

 ペラペラと話しちまうんだよ……」

 

なんでだろな。あいつなら何もおかしくねえけど、別人だろうに。

あいつと同じく、優しいからかな。

もう、あいつと同じ姿の『お前』に話すしかねえんだよ。

 

『お前』にも、なんかワケがあって、そこにいるんだろうな。

いつか『お前』も、話してくれるか。どうしてなのか。あいつは……安らかなのか。

オレから聞くのも、悪い気するけどさ。あいつ、オレの、

 

 

……家族だったんだ。

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〜ヒューザ〜

 

 

それからも、替え玉は続けた。

元々うっすら気づいてからのオレは、助けを求める声をあんまり断らなくなってた。

あいつならこうするって事なら、受けようと思ったんだ。

おせっかいが伝染ったんだな、おせっかい、病が。

 

 

夜、眠ると、昔の夢が増えた。

メシ食ってるときの夢が、やっぱ多かった。

時々アーシクやルベカも一緒に食ってて、やけに、リアルで……

 

 

「へぇ、じゃあふたりは冒険者になるのかあ」

今回の夢はアーシクの声もした。どこかお気楽な、好奇心だらけって声だ。

 

「いろんな伝説を解き明かしたりするの? いいなあ、ロマンだよね!」

「え、伝説って?」

「五大陸をまたにかけて……まぼろしの都とか見つけたりするようなさ!」

 

「……お前ら、夢見すぎ。」

話がデカくなる前に、オレがさっさとクギを刺す。

 

……ああ、またこの夢だ。

最近まで、こんな話したことすら忘れてたのに。

 

「そんな大冒険、滅多にできねえだろ。

 世の中そう甘くないぜ。」

……って、夢の中のオレは言ってんのに。

 

「まぼろしの都?」

「あ、気になる? いろんな話があるんだよねー。

 ある島で空中にその都の姿が浮かび上がって見えるけど行けない夢幻郷とか

 命を終えたウェディ達が海に還ったあとに住む、美しい海底の常世の国とかさ。」

こいつら話きかねえんだよな、まったく。

 

「果てしなくうさんくせえな……」

「ええ!? そんなことないよ。

 空中の夢幻郷は目撃証言もたくさんあるらしいし、

 お葬式のときには確かにボクらは海に還るじゃないか。

 死後の世界の話だって結構あるんだよ?」

アーシクは夢でも話にならねえ。

 

「どちらも綺麗で、でもアストルティアよりずっと進んだ技術があるとかいう話もあるよ。」

「へえ……! 勉強できるところもあるのかな、図書館とか。」

「ボクはただ見てみたいかな。海底の蒼の都! すごそうじゃないか。

 本は水に濡れてそうだけどね!」

 

「ベンキョーしてる場合かよ。だいたい、お前は親探しの旅じゃねえのか。」

「……うん、そうだね。

 常世の国で、両親とあっちゃったら、さすがにイヤかなあ……」

「……探しもしねえうちから何言ってんだよ。」

「……うん。んー……会えないよりは、いいのかな。

 そもそも僕が生きたまま、そこに行けたりするのかなあ。

 行いがよければ、行けたりして? あはは……」

 

微妙な笑みを向けてきやがった、そのデコを夢の中のオレが思いっきりはたく。

「いだっ!?」

「食い終わったんならとっとと片づけようぜ。」

「ボクも運ぶね、手伝うよ。」

「アーシクは運んだら帰れ。お前、皿割るし。」

「え〜!? ひどいな!」

 

皿を下げて帰ってくアーシクが、懲りずに言うんだ。

「ボクはこの村にずっといると思うけど、

 たまに帰ってきて、話聞かせてよね!」

んで、別の意味で微妙な笑みのあいつと、顔を見合わせた……

 

 

その顔を、起きても覚えてんだよな。

 

 

海に還ったあとの。

海底の国。

 

お前、そこにいるのかよ。

 

でも。

 

「行いがよければ、行けたりして?」

 

オレには。

どのみち行けねえよな……。

 

----------

 

目を開けたオレは……水の中にいた。

なんだっけ、そういや、替え玉で攫われて、わけのわからねえ世界で、必死で逃げた、んだったか……。

オレを攫って満足したなら、替え玉は成功…でいいのか……?

 

頭がぼーっとして考えられなかった。

無理もねえ、もう体力も限界だ……。

このままここで死ぬのかもな。……少しは…償えたのかな……。

 

 

水面の光。声。

ぼんやりとした視界に浮かんだ、女の顔。

 

傷は治ってもあまり意識ははっきりしなくて、

女の先導にそのままついていった。

こんな海底なのに人の気配を感じて、ふと顔を上げると、

目に飛び込んできたのはただ蒼い、蒼い街。

 

「ボクは見てみたいかな。海底の蒼の都!」

……アーシクの言葉が蘇る。うさんくせえとか言って悪かったかな……と、思った。

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〜フィナ〜

 

 

『オレと同じ……ウェディが、ここに来てないか』

『オレは死んだのか』

 

彼は、あの時、確かにそう言った。

 

 

『マリーヌ様』を見上げながら、あのときのことを思い出す。

あの言葉と、彼が私の言葉をとらえたことで、みんなわかってしまった。

 

彼がマリーヌ様の器だということも。

ある死者の魂の所在を確かめたのだということも。

 

マリーヌ様が、勇者の盟友の器を定めたあの日、

あの青年を盟友の器たらしめたのは、

あの悲しい事故を起こしたのは、

マリーヌ様の器――ヒューザだということも思い出した。

 

 

「フィナ」

呼ばれて振り返る。

「ったく……オレが騎士になってから何度迎えに来たと思ってんだ。

 ここは危ねえことくらいわかってんだろう。」

彼は私の正体は知らない。弱々しい巫女の姿では不安もあろうと思う。

 

それに、恐らく。

不器用で素直ではないけれど、彼はもう

誰かが傷つくのを見たくないのだろう。

そして、死者の魂の所在を知りたかったということは。

 

「もう、気づいてしまったのですね。」

「当たり前だろ、いつもここだ。何度来りゃ気が済むんだよ。」

噛み合わない方がいい。まだ言うわけにはいかないのだから。

『マリーヌ様』を知る彼には、私のことも、気づかれるのは時間の問題かも知れないけれど。

 

『マリーヌ様』に背を向けて、私はそのままルシュカの方角へ歩を進める。

ヒューザは少し遅れてついてくるはずだ。

ここに私を迎えに来るたび、ヒューザは必ず一瞬、『マリーヌ様』を仰ぎ見る。

 

 

何を思ってのことかはわからないけれど、恐らく。

魂がどこに眠るかもわからない、

お墓を故郷に作るわけにもいかない、

弔いの拠り所もないあの青年のための、祈りの時、かも知れない。

 

----------

 

「ルシュカが死後の世界の方がよかったのですか?」

「……なんで覚えてんだ、その話。

 あの時は混乱してただけだ、考えたら

 こんな異世界の街が、オレたちが海に還ったときに来る街なわけねえよ。

 実在するとも思えねえけどな。見た奴は幻でも見たんじゃねえのか。」

「この街を遠視でもできる能力を持った者が、

 後からあれは常世の国だと言い出したのかも知れませんけどね。」

「まあ……死者がこんなところで過ごしていると思えば、

 周りのやつらも安心だよな。」

 

そんな話をしながら街に着くと……ヒューザが一瞬びくりと足を止めた。

視線の先。ナドラガ教団のローブをまとった男女と……

青い肌とヒレのある……あの、青年。『姿は』。

 

「安心できる街なら何よりです。残念ながら死者の街では、ありませんけどね。」

「………ああ、そうだな。……あ、いや、それより、」

「……あの者たちが気になるのなら、彼らはいずれ私に会いに来ます。

 それより戻りましょう。そろそろ儀式の時間です。」

「……わかってんなら、直前に抜け出すのはやめねえか? 普通。」

 

路地の方へと消えた3人から注意を逸らすように、街の奥へと急ぐ。

ナドラガ教団の者が来たということは、儀式の後にでも何かあるはず。

後でまた『マリーヌ様』のところへ向かわなくては……

 

「何度抜け出しても、迎えに来てくれて、ありがとうございます。」

ヒューザに思わず声をかけた。

「礼はいいから、あんまり抜け出さないでくれよ……。」

「……面倒が多いのに、騎士を続けてくれてることも、ありがとうございます。」

「それは……まあ、そうしようと決めたからな。」

 

そう、彼には本当に色々助けられている。

……償いの、つもりなんだろうか。

 

「……不器用なところが、マリーヌ様にそっくり。」

「ん?何か言ったか?」

「いいえ。……時間ですね。」

 

蒼の騎士団のみなが既に珊瑚の準備をしてくれていた。

領界の海中一帯に、空気を行き渡らせる。

 

死後の楽園ではないけれど、せめて。

涙をも溶かす海に包まれたこの街で。

彼ら水の和子も、心安らかに過ごせるよう、願いを込めながら。

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〜ヒューザ〜

 

 

チリ―ン……チリ――ン………

 

鈴の音。

ぼやけた意識と、視界。

手足は痺れたみてえに自分の意志じゃ動かせねえ。

 

嵐の領界の調査を手伝いに来たことは覚えてた。

オレが神の器だ、とも言われた。

そこから先……が……何があった………

 

 

「ヒューザっ!!」

……あいつの声だ。

いや、違うけど……声は、あいつの声だ。

 

少し意識が引き戻されて、見える範囲で周囲を確認する。

ムストの町の……洞窟をそのまんま部屋にしたような部屋で、

何かをかかえて立って……人間の女と、プクリポだ。

 

こいつら、も、神の器のはずだよな……

何でオレは……まるでこいつらを、攫うみてえな……

 

 

そこまで考えたとき、信じられないものを見た。

小脇にかかえた女とプクリポを放り出したかと思うと、

オレの体は剣を構えた。

入り口を塞ぐあいつにそのまま斬りかかる……!!

 

「避けろおぉっ!!」

……声は、声にならなかった。

 

----------

 

剣が土壁にめり込む音。

「やっぱりだ、エステラさんと同じ……操られてるんだ……!」

ぎりぎりで避けたあいつがそう言う。

 

操られてる?

このまま戦うことになっちまうのか?こいつとオレが?

 

冗談じゃねえ!!

 

だけど、必死で手足を動かそうとしても、動かねえ。

それどころか、集中してねえと意識ももってかれそうになる……!

 

「目を覚まして」と、何度も呼び掛けられても、ムリだった。

力ずくで構わねえ、避けきれなくなる前に、

そう言いたくても、声も出ねえ。

 

 

「……すみません、この場は退けないし、君を傷つけたくない。

 そのために、たぶん最善、の、手を使います、ねっ……!!」

 

そんなあいつの声を聞いた気がするが、台詞と裏腹に

イオグランデの閃光に眼を灼かれ、爆風に吹っ飛んでオレは壁に叩きつけられた。

 

----------

 

「1回くらい攻撃させてあげた方が、ショックで元に戻るかとも思ったんですが。」

 

相当のダメージのはずだが、痛みを知らないかのように立ち上がるオレを見据えながら、

……あの印はむげんのさとりだ。こいつ本気だ。

 

「君の攻撃で僕が生きてる保証がないんでね。

 この身体、2度死なせたら、君は自分が死ぬよりつらいはずだ。

 動けなくなるまで痛めつけて止めます!

 君も少しはこの身体に借りを返した気持ちになれるってもんでしょう!

 それでいきますからっ!! よろしく!!」

 

驚いた。あるいはフィナとの話を聞かれてたのか。

いや、でも、いいんだ。それでいい。何してもいい、止めてくれ……!

 

「目を覚ましてもし覚えてたら、今度こそきちんと話しましょう!

 僕のこととか、君がどうしたいかとかね……!!」

 

その言葉を最後に。

最上段からぶつけられた暴走ドルマドンの闇に、オレは、意識ごと呑まれた。

 

----------

 

……どうしたい、か。

 

ただ誰かを死なせちまっただけじゃねえ、

何を亡くしちまったのかがわかって。

 

蒼の都に一喜一憂して。

 

人助けして、あいつがいれば在ったはずの世界と

同じ世界になればいい、とか。

 

 

そうか。

オレは、きっと、……もう一度………

説明
【ネタバレ他】 DQX3.5(前半)
気づいた設定ねつぞうあり
昔の思い出・裏の思惑ねつぞうあり

【その他】 各ページ冒頭のキャラ名視点で進行します
うちのエテーネ主人公出ます、本職僧侶ですが今回は賢者してます。
ご自身のところの設定とシンクロできるようでしたらそのようにお楽しみ頂いても、
うちの子としてお読み頂いても嬉しいです。

※pixivさんから引きあげて来ました
※少なくともtumblrさんにも同じ話が上がる予定です
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