対姫†無双 5
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scene-華琳の部屋

 

 扉を叩く一刀。

「ノックしてもしもぉ〜し」

「入っていいわ。……今のが正式なノックの作法?」

「いや、冗談だったんだけど……まだ本調子じゃないのかな?」

「一刀の冗談がスベるのはいつものことでしょう? 面白かったらそれこそ調子を疑うわ」

「それもそうか。で、話ってなんだ?」

「わからないわ」

「え?」

「わからない、って言ったのよ」

「どういうこと?」

「話があるのは季衣と流琉。私と一刀に大事な話があるそうよ。心当たりはない?」

「季衣と流琉が? う〜ん、なんだろ?」

 

 

「華琳さま、入ってよろしいですか?」

「ええ。お入りなさい」

「お待たせしました〜」

「思ったよりも作るのに時間かかってしまいまして」

「なんか夜食でも作ってくれたのか? ……って、二人ともその格好は!」

 

「似合う?」

「ど、どうですか?」

「ブラボー! 最高!! ぱ〜へくと!!!」

「一刀?」

「兄様?」

 引き気味の華琳と流琉。

「そんなに褒めないでよ〜♪」

 残る季衣は真っ赤になって照れていた。

 

「そんなに興奮するほどの衣装なの?」

「なにを言うんだ華琳! 二人が着ているのは体育着じゃないか! しかもブルマ!!」

「ぶるま?」

「そう。流琉は基本に忠実な紺色! 対して季衣は着用者を選ぶ赤! これで興奮しないなんて少女好きとしてどうかしてるぞ!」

「もしかして、天の衣装なの?」

「うん。こっちにもあったなんて感動だな〜」

「ないわよ」

 

「え?」

「初めて見たわ。一刀が作らせたんじゃないの?」

「そんな……そういえば二人の胸の名前はひらがなだ」

「ひらがな?」

「俺の国の文字。漢字からつくられた筈だけど、こっちにあるわけないよな?」

「ボクが作ってもらったんだよ。体育着」

「季衣?」

「兄ちゃんが好きだって言うから。元気出た?」

「そうか。倒れた俺のために……ありがとうな、季衣、流琉。すっごい元気もらったぞ」

 

 

「一刀。やっぱりあなたが作らせたんじゃない」

「でも俺、季衣にそんな話したかな?」

「こっちの兄ちゃんじゃないよ」

「こっちの?」

「うん」

「……話してもらえるわね?」

「はい!」

 

 

「まずはボクたち、華琳さまと兄ちゃんに謝ります」

「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

 

「謝罪の理由はなにかしら?」

「わたしたち、知っていたんです。定軍山が罠だということを。……秋蘭さまを危険な目にあわせ、無駄に兵を消耗してしまいました……」

「でも秋蘭は流琉のおかげで損害は少なかったって言ってたじゃないか」

「罠だと知っていたから準備はしていきました。でも、華琳さまや秋蘭さまに説明していれば、もっと上手くできたはずです」

「そう……季衣、一刀が倒れてる間に私に言おうと迷ったわね?」

「はい……でも、それだけじゃないんです。ボクたち、知ってたんです。兄ちゃんが倒れることも!」

「……俺のことも?」

「ならばなぜ、すぐに言わなかったの? 季衣があんなに迷うほど我慢すること?」

「兄ちゃんが倒れるか、試したんです」

「わたしたち、兄様が倒れなければいいって思いたかったんです」

「倒れてしまった後でも言わなかったのはなぜ?」

「兄様の口から秋蘭さまの危機を知らせてほしかったからです」

「俺の口から? だって援軍出すのは早い方がいいじゃないか」

「華琳さまに兄ちゃんが倒れた理由をわかってほしかったんだよ」

「俺が倒れた理由?」

 

「兄様が華琳さまに教えることで”大局の示す流れ”に逆らい、”身の破滅”に近づくことをです」

「それってどっかで聞いたような」

「占い師よ」

「占い師……? ああ、俺と春蘭と秋蘭の三人が竹カゴを買った時の。たしか……華琳によく従わないと破滅するって言われた気がする」

「違うよ! 大局の示す流れってのは兄ちゃんの知ってる歴史のことだったんだよ!」

「それで歴史を変えてしまった一刀は破滅するというの?」

「はい。このまま同じことをすればたぶん」

「だから華琳さま、兄ちゃんが天のことを言うの、止めて下さい!」

「戦のことだけでいいんです」

「本当、なのか?」

「ボクたちはこんな嘘つかないよ、兄ちゃん」

「でも、俺は秋蘭を助けられて良かったと思ってる。また誰かの命が助かるなら俺は!」

「兄ちゃん!」

「兄様! ……だいじょうぶです。わたしたちが兄様のかわりにがんばります」

 

 

「季衣、流琉。あなた達が天の知識のかわりをできると言うの?」

「はい」

「兄ちゃんほどじゃないけど、ボクたちも”知っている”んです」

「知ってるって……季衣も流琉もこの世界の人間だよな?」

「うん。でも、そうだけどそうじゃないって言うか」

「わたしは華琳さまに仕えるのは四度目なんです」

「ボクは五回目かな」

 

「どういう意味?」

「それを説明するには、これから先のことを話すことになります」

「だから兄ちゃん、ごめんね」

「え? も、もがっ」

「兄ちゃんが余計なこと言うと困るから」

「猿轡までするなんて、用心深いのね」

「兄ちゃんの言葉で未来が変わったら、兄ちゃんはいなくなります」

「天へ帰るというの?」

「わかりません。……この世界から消えるのは確かです」

「だそうよ、一刀。おとなしく聞きましょう」

 

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「まずさっきも言ったようにわたしたちは華琳さまと同じこの世界の人間です」

「でも、兄ちゃんと会う少し前にとり憑かれました」

「とり憑かれると言うと、少し違うかも知れません。それは別の世界のわたしと季衣でしたから」

「別の世界? 天の世界ということ?」

「いえ、ほとんどこの世界といっしょでちょっとだけ違う世界です」

「世界は……外史というそうですが、たくさんあるらしいです」

「ボクにとり憑いてきたボクは……まぎらわしいんで、”きょっちー”ってしますね。きょっちーは大陸の覇者となった華琳さまに仕えていたって言ってます」

「わたしの方は、”流琉ツー”で。流琉ツーもきょっちーと同じ世界からきたそうです」

「きょっちーの華琳さまが大陸の覇者となったかわりに、力を貸しすぎて歴史を変えちゃったきょっちーの兄ちゃんは消えちゃいました」

「流琉ツーときょっちーは魂となって、消えた兄様を探していくつかの外史を旅していたそうです」

「四、五度目というからにはそれらの外史にも曹孟徳がいたのね」

「はい。外史にはその世界のボクたちもいて、それにとり憑いて兄ちゃんを探しました」

 

「初めていった外史は二人とも自分がそんな状況にあるとはわからず、戸惑いました」

「過去に戻ったんじゃないかって思ってました。意識が時々二人分になるのは疲れてるだけかなって」

「でも、すぐに流琉ツーの世界じゃなかったって気づきました。……気づかされました」

 辛そうに俯く流琉。季衣が続けた。

「兄ちゃんが華琳さまの側にいなかったから!」

「一刀が?」

「む?」

「兄様は……孫家に仕えてました。流琉ツーたちはそんな所にいる天の御使い別人だと思っていました」

「でも、孫家に天の血筋を取り入れるためだって聞いた時は、やっぱり兄ちゃんだって確認しに行きました」

「一刀?」

「む、むががっ! ん〜ん〜!!」

 必死に首を横にふる一刀。

「呉にいたのはやっぱり兄ちゃんでした」

「どうしていいかわからず、二人でずっと悩み続けました」

 

 

「呉の兄ちゃんの知識のせいか、魏は蜀と呉の同盟に敗れました……」

「そこの曹孟徳は覇王になりそこねたのね」

「赤壁の戦いに敗れた魏軍はそのまま、大陸を出て東の島国へ行きました」

「兄ちゃんの国だよね?」

「んん」

「その案内をしてくれたのが卑弥呼さんです」

「卑弥呼?」

「はい。とても強くて、きょっちーと流琉ツーは弟子入りしました。やっぱり負けちゃったの悔しかったし、兄ちゃんを呉から取り戻そうって思って!」

「卑弥呼さんは強さだけではありませんでした。流琉ツーたちが別の外史からきた存在で、その世界の流琉の精神と同居していることを見抜き、教えてくれたんです」

「外史のことも教えてくれました。二人の修行がおわると、師匠はきょっちーたちを元の外史に返そうとしました」

「でも、流琉ツーたちは兄様を探すと断固反対しました」

「師匠はそのオトメ心に折れて、きょっちーたちを別の外史に送ってくれたんですよ」

「お前たちの探す者がいる世界に辿り着くかどうか運次第だが、という注釈付で」

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「次の外史も運が悪くて兄ちゃんは魏にいませんでした」

「兄様は劉備の元へいました」

「兄ちゃんてば、劉備たちみんなにご主人様、って呼ばれてたんだよ〜」

「一刀」

「んんんんん!!」

 やはり激しく首を横にふる一刀。

 

「修行して強くなったきょっちーたち、その外史で兄ちゃんを敵にしてもがんばりました。きょっちーは張飛を倒し」

「流琉ツーは定軍山で黄漢升を討ち取りました」

「赤壁でも魏は負けませんでした! 多くの敵武将が深手を負いました」

「そして、魏と蜀と呉の決戦の時に五胡が各国を襲いました」

「五胡が?」

「はい。三国は決戦を中止し、手を取り合って五胡を撃退することに成功しました」

「でも、蜀は武将が減っていたせいで……兄ちゃんが……」

「将のかわりに前線に出てた兄様が死にました……」

「そう……」

「……」

「……きょっちーと流琉ツーは兄ちゃんみたいに歴史を変えすぎたせいで、その外史から消えました」

 

 

「流琉ツーはその後、この外史へ来たみたいです」

「でも、きょっちーは全然違う所へ行きました」

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「きょっちーは天へ行きました」

「天?」

「兄ちゃんの世界です。でもなんかちょっと違ったみたいです。華琳さまや春蘭さまたち、関羽や張飛たち、呉の連中や袁紹やいっちーたちがいて、兄ちゃんと同じ学校、聖フランチェスカに通ってました」

「私も?」

「はい。でも、稟ちゃん、風ちゃん、凪ちゃん、真桜ちゃん、沙和ちゃん、それに……流琉がいませんでした」

「そう……」

「他の国も、いない人がいました。劉備もいませんでした。きょっちーはみんなを探しました。……でも見つからなくて、華琳さまや春蘭さまに聞いたんです。そしたら、そんな娘は知らないって……」

「季衣……」

「かわりに、その外史にいたみんなは兄ちゃんが劉備のかわりに関羽や張飛たちを率いて大陸を統一した世界から来た、ということだけがわかりました」

「一刀が劉備の代わり?」

「やっぱりご主人様って呼ばれてました。……時々華琳さまたちもそう呼んでました。やっぱりきょっちーの兄ちゃんじゃなかったみたいだけど、兄ちゃんに相談したんです。そしたらなんとかしてやるって!」

「一刀がどうにかできたの?」

「いえ、なんとかできる人を紹介してくれました」

「一刀らしいわね」

「ん」

「その人はきょっちーの兄(?)弟子でした。それで、きょっちーを元の外史に送ってくれるって言うんです。でも流琉ツーのとこがいいって頼み込むと、いいわよ〜んって」

「その時もやっぱり運頼み?」

「いえ、その時にコツを教えてもらいました! 想いが引合えばきっと上手くいくって!」

「想いが引合う?」

「はい。きょっちーが流琉ツーのことを強く想うだけじゃなくて、流琉ツーの方もきょっちーのこと強く想ってれば二人は引合うんだそうです。それで無事にきょっちーは流琉ツーのいるこの外史へ辿り着くことができました」

「そう……探している一刀がいる外史へ行けなかったのは一刀の方の想いが足りなかったから?」

「たぶん……兄ちゃん気が多いから。ボクたちのことを想ってる瞬間に外史を移動しないとダメだったんだと思います」

 

「これでボクたちの旅の話は終わりです」

 

 

 

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「今はどっちが話しているの? 季衣? それとも……」

「二、三ヶ月もいっしょにいると、もうどっちがどっちだかわからなくなっちゃいました」

「元々は同じ存在ですし」

「そう」

 

「お願いします! 兄ちゃんを消えさせないで下さい!」

「お願いします華琳さま!」

「ですって、どうする、一刀?」

「んん〜!?」

「あ、今外しますね兄様」

 

「ふぅ……。信じてもいいと思う……」

「そう。ならば一刀、たとえどんなに言いたくとも、戦における天の知識を喋らないことを約束しなさい。私と、この子達に!」

「ああ。約束する」

「ありがとうございます華琳さま!」

「いいのよ、どうせ天の知識などに頼るつもりもなかったことだし」

 

 

「安心したらおなかすいた〜。流琉、あれ出そうよ♪」

「はいはい」

「お、やっぱり夜食か?」

「季衣の言うとおりに作ったんで上手くできてるかはわかりませんが……」

「上手くできたと思うよ〜」

 

 

「これは……杏仁豆腐?」

「いや、これは!」

「わかった兄ちゃん? 華琳さま、これはこの器をこうしてお皿の上に逆さまにして……」

「底に栓がしてあるわね」

「この栓を抜くと中身が皿に乗るんだろ。この前、真桜に作ってもらったのってこれか」

「うん。華琳さま、やってみて下さい」

「……なるほど。穴から空気が入って器から剥がれやすくなるのね。それで、この中身は?」

「ぷりん、だそうです。華琳さま、匙をお使い下さい」

「どれ……なかなか美味しいわ。この仕掛けも面白い」

「うん。これ出してくれればすぐに信じたよ、俺」

「兄様ったら」

「流琉、おかわり〜♪♪」

 

 

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<あとがき>

やっと正体編です。

1話でこれをやれば良かったですね。わかりにくくてスミマセンでした。

 

 

わかりにくさに拍車をかけた夢編の解説。

 

1話の<夢>は3週目、蜀√の時の季衣の記憶。

2話の<夢>は2週目、呉√エンド後の季衣の記憶。

3話の<夢>は3週目、蜀√の時の流琉の記憶。

4話の<夢>は1週目、魏√エンド後の季衣の記憶。

 

でした。

 

今回は長くなったので夢編はありません。

 

 

 

説明
タイトルの『対』は『たい』じゃなくて『つい』です。
5話目、正体編です。
やっと種明かしです。不親切な話でごめんなさい。
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コメント
BookWarmさん、コメントありがとうございます。もう少しわかりやすくまとめられたら……。続きはどんどんシンプルになっていきます(こひ)
kazuさん、コメントありがとうございます。わかりにくいですが蜀2将を殺した3週目で初めて最終決戦になったので二人はそんなことを考えもしませんでした。あと2週目で負けてるせいもあります。定軍山に関しては蜀√ですが二人の行動で起こるイベントが変わったとしか言い訳できません(こひ)
ブックマンさん、コメントありがとうございます。わかっていただいたようで、なによりです (こひ)
toshioさん、コメントありがとうございます。私としてはあれは華琳が一刀を恋愛対象として意識しだしたイベントだと思っていました (こひ)
竜我 雷さん、コメントありがとうございます。1話で いただいたコメントがほとんど正解でした(こひ)
やっとすべてが繋がりましたよ。(ブックマン)
たしか一刀の姿が消え始めたのって劉備が不意打ち気味に攻め入ってきたときに戦いが終わって華琳とふたりっきりになったときあたりじゃななかったっけ?華琳の覇王の呪いを一刀が断ち切ったから消失が始まったんだと思った。そのとき華琳が少し驚いてるリアクションしてたから印象に残ってる。だから華琳もそのときのこと思い出したりしないのかとふと思いました。(toshio)
なるほど、なるほど そーいうことでしたか〜 面白かったんですが季衣たちが未来を話して一刀が消えずに季衣たちが消えるのかなぁ・・・ それとも魏ルートの歴史は変ってないって事で消えないのかなぁ?(竜我 雷)
kirikamiさん、コメントありがとうございます。地の文ですか。試してみますね(こひ)
空海是空さん、コメントありがとうございます。情景が伝わるようにがんばります(こひ)
地の文を入れるだけで分かりやすさ全然違うかなーといった感じですね。(kirikami)
話の構成や発想、伏線はとても面白いとおもいました。しかし会話文だけでありますので作者様の意図としている情景は伝わってこず、それもわかり難さに拍車をかけているのではないかとおもいます。 このコメントに惑わされることなくご自分の構成を貫いてがんばってください。 (空海是空)
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真・恋姫†無双 季衣 流琉 華琳 北郷一刀  つい姫†無双 

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