対姫†無双 6
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scene-華琳の部屋

 

 二つ目のプリンをぷっちんする四人。皿に移すまでは一つ目と同じに見えたが。

「今度のは天辺にたれがかかっているのね。皿に移した時にたれがかかっているのがわかるのは見事だわ」

「これも季衣から聞いたんです」

「ボク、よく覚えているでしょ〜」

「もしかして天では流琉を捜すよりも、食べ歩きを楽しんでいたのではなくて?」

「あ、そうかも」

「もう、季衣ったら」

 

 食べ終わった器と皿を重ねてかたす季衣。流琉は茶を淹れている。

「ところで季衣」

「なんですか華琳さま?」

「まだ隠していることがあるのではなくて?」

「にゃ?」

 う〜ん、と考え始める。

 流琉が淹れた茶の香りを楽しみ、一口飲んでから華琳は続けた。

「春蘭と霞の一騎打ちの最中に季衣が受けた流れ矢のことよ」

「あ!」

「あれは本来、春蘭か霞のどちらかに当たったのではないかしら?」

「……」

 また一口飲んでから。

「あの時の行動、聞いた時は春蘭になついてるあなたらしいと気にならなかったけれど、今は話が違うわ」

 

 今度は季衣が茶を一気飲みして。

「あの、……春蘭さまには絶対に秘密にしてもらえますか?」

「そう、春蘭に当たる矢だったのね」

「はい。……春蘭さまは左目を失うはずでした」

 季衣は自分の左目を手で隠しながら。

「でもボク、いやだったんです、そんなの!」

 自分でも対策を考えながら一刀は問う。

「他に方法はなかったのか? 春蘭に兜をつけてもらうとか」

 

「それは試しました。兄ちゃんが呉にいる時に」

「でもその時は春蘭さまと霞さんの決着がつかなくて、霞さんに逃げられて」

「春蘭が遅れをとったの?」

「慣れてない兜が逆に邪魔だったようです」

「結局その後霞ちゃんを見た時には劉備の陣営にいました」

 

「でも、いくら季衣が強くなったって万が一ってこともある。自分を盾にするなんて」

「ボクが死んでも流琉がいれば後はなんとかなるって思ってたから」

「季衣!」

「季衣……自分一人だけで天に行ったことを気にしているの?」

 湯呑みに残った茶をみつめながら眺めながら華琳が聞く。

「そのことで流琉に負い目を感じていたの?」

 

「やっぱり華琳さまはすごいです。なんでもお見通しなんですね……」

「季衣あなた、そんなこと気にしてたの?」

「だって!」

 半泣き気味に。

「ボクだけ兄ちゃんと同じ学校に行って。ボクだけ天の美味しいもの食べて。ボクだけ兄ちゃんと遊んで……」

「仕方ないでしょ。あっちにはわたしいなかったんだから。ほら」

 俯いた季衣を抱きしめて頭をなでながら。

「そんないい所にいたのに、ちゃんとわたしを捜してくれたじゃない」

「流琉〜」

 

 

 そんな二人を優しい目で眺める華琳に。

「華琳が気になったのは、季衣が矢を受けなかったらどうなったかじゃなくて、季衣がなんで矢を受けたか、だったんだな?」

「さあ、どうかしらね? あら、一刀のお茶もないのね」

「あ、今淹れます」

「いいわ。私がやりましょう」

 季衣を離そうとしたのを止める華琳。

 

「もう一つ、聞いていいかしら?」

 

 

 

 

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「私があなたたちの話を断ったらどうするつもりだった?」

「うわ、意地悪な質問するな〜」

「何度でもお願いするつもりでした」

 流琉に抱かれたままの季衣が答えた。

「同じ話を何度しても、私には無駄だと知っているでしょう?」

 

「流琉、もういいよぅ〜」

「そう?」

 流琉が手を離すと。

「お願いがいっしょでも、頼み方をかえます」

「頼み方?」

「はい、例えば……」

 流琉に耳打ちする季衣。

「ええっ、本当にあれやるの?」

「うん」

「……やっぱり無礼じゃない?」

 ひそひそと話を続ける二人に。

「面白そうね。やって御覧なさい」

 覇王が許可を出した。

 

 

「じゃあ、行きます! お願いします。お姉さま」

「え?」

「お願いします、お、お姉さま……季衣、やっぱり失礼だよこれ」

「でも、天にいた華琳さまは下級生にこう呼ばれて喜んでいたよ」

「華琳」

 今度は一刀が華琳に耳打ちする。

「なに一刀?」

「顔が赤いぞ」

「!」

「まあ仕方ない。今の反則だよな?」

 

 

 茶を一息に飲んで気を落ち着ける華琳。

「なかなか面白いじゃない……次は?」

 

「あとはこれみたいな天の服で、あっちの華琳さまも喜んでくれたのを」

 と、体育着の裾を持ち上げる季衣。

「着て見せるの?」

「え? 華琳さまに差し上げるんですよ」

「そ、そうよね」

「華琳……」

「なにかしら一刀?」

「気持ちはよ〜っくわかるぞ!」

 華琳の手をとって同意する一刀。

 

 

「そ、それでも駄目な時は……」

「わたしたちのはっ、初めてを華琳さまに……」

「ええっ!?」

「もうボクたちにできるのは、それぐらいしかないから」

「それで兄様が消えずにすむなら」

 頬染めて告げる二人に唖然となる華琳と一刀。

 

「惜しかったな、華琳」

「……それで私が願いを聞いたらただ好色なだけじゃない」

「でも、ホントは惜しいと思ってんだろ」

「しつこい! ……いい一刀、この二人はあなたのためにそこまでの覚悟があったのよ。それを肝に銘じなさい!」

「そうだな。ありがとう季衣、流琉」

 二人を抱きしめる。

「兄ちゃ〜ん!」

「に、兄様っ」

 真っ赤になってあわてる流琉。一刀の次の言葉がさらに赤くする。

 

 

「で、俺がそれでも未来の事を言うって言ってたら、やっぱり色々してくれた?」

 

 

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<夢のはじまり>

 

 

厨房で料理中の流琉。

「どうしたら、食べてくれるのかな?」

 

 

 季衣があんなになるなんて、信じられない。

――それだけ、兄様がいなくなったのが辛かったの。

 

 

「このままじゃ、季衣が……季衣が……兄様、どうすればいいの……」

「流琉」

「華琳さま?」

「客が来たわ。季衣とともに相手をなさい」

「でも、まだ料理が」

「そんなに涙が落ちた料理はしょっぱいわよ?」

そう言われてやっと流琉は自分が泣いてるのに気づいたのだった。

「あの季衣一人に客の相手はさせられないでしょう?」

「そ、そうですね。いってきます」

涙を拭きながら厨房を後にした。

 

 

 あの季衣をお客様に会わせるのはマズイんじゃ?

――季衣のためにきてくれたお客様だったから。わざわざ蜀と呉から来てくれたの。

 

 

「お客様って張飛さんたち?」

「そうなのだ。あのチビペタハルマキが病気だって聞いたからお見舞いに来たのだ。蜀の美味しいものたくさん持ってきたから、食べればすぐに元気になるのだ!」

「ありがとう、でも……」

「シャオもいるよ。シャオも美味しいもの持ってきたんだから」

「あの虎と大熊猫?」

「あれは違うの!」

周々と善々を食材と間違われふくれる小蓮。

 

「それでペタンコハルマキはどこにいるのだ?」

「ここにいるぞ!」

「それたんぽぽの台詞! ……って、えええ!?」

鈴々の声で現れたのは異様なまでに痩せこけた丸坊主の少女。

 

「……許緒、なの?」

やっとうそう聞いたのは小蓮だった。

「うん。いらっしゃいませ、孫尚香、馬岱。よく来たな、ちびっこ」

「は、ハルマキはどうしたのだ?」

気にもしてないように季衣は言う。

「抜けたから全部切った」

「そ、そうなのか〜」

「そうだ」

その雰囲気にいつもの軽口が出てこない鈴々。

 

 

 

 

夕刻。客をもてなす華琳。

「よく来てくれたわ。張飛、孫尚香、馬岱。歓迎の宴よ。楽しんでね」

「応なのだ! たくさん食べるのだ!」

「って鈴々、食べるのは挨拶がすんでからよ」

小蓮が注意したが、その時にはもう一皿空になっていた。

「ふふっ、気にしないでいいわ。たくさん食べて」

「は〜い。あれ、この料理って」

気づいたのは蒲公英。

「そう。あなたたちが持ってきた見舞いの品。季衣、しっかり食べなさい」

「はふはふ、そんなちびっとで足りうのは〜?」

口いっぱいにほおばりながら、季衣の目の前に盛られた量を問う鈴々。

 

ゆっくりと一口食べる季衣。そしてすぐに箸を置く。

「季衣、私に恥をかかせるつもり?」

 

 

 華琳さまはいったい? 季衣、一口食べるのもやっとなの知ってるはずなのに。

――知ってるからこそこの宴を開いてくれたの。

 

 

「同盟国の将が差し入れた見舞いを食べないなんて、あなたはそれでも我が魏が誇る親衛隊の将?」

「華琳さま……」

再びゆっくりと箸を手にとるがそれから先が動かない。

 

 

 がんばって季衣!

 

 

「この三人が来たのはなぜだと思う?」

秋蘭が問う。

「そんなもの、季衣の見舞いに決まっておろう?」

春蘭が答えるが。

「なぜ他国の者が季衣ちゃんの不調を知っているのです〜? 同盟国とはいえ、将の不調なんて機密事項なのですよ」

今まで居眠りしていた風が目を覚まし補足する。

「ん? ……なんでだ?」

「……華琳さまが教えたのよ」

ためいきの後、桂花が答えた。

「華琳さまは危険を承知で季衣の不調を蜀に知らせたの。季衣のために。張飛がくれば季衣がはりあって元気になるんじゃないかって。呉に知らせたのはついでね」

「ついで扱い!?」

「小蓮が来てくれたのは嬉しい誤算よ」

「……ならいいわ」 

 

「魏が弱ってると思って、たんぽぽたちが攻めてくるって考えなかったの?」

「それはそれでいいわ。戦ともなれば季衣もしっかりするでしょうから」

「許緒をしっかりさせるためのかませ犬?」

「そんなところね。でも、あなたたちは季衣を見舞いに来てくれた。まだまだ忙しいのにね」

 そう言って三人を見回す華琳。

 

「うん。心配だったのは本当。忙しいはずなのに色々と煩い蓮華姉様から逃げるってのもあったけど」

「鈴々だって話を聞いたらすぐにお見舞いに行くのだ! って騒いだもんね〜。もちろんたんぽぽも心配したんだよ」

「心配してるのは鈴々たちだけじゃないのだ!」

急に立ち上がる鈴々。

「気づかないのか! チビペタハル……チビペタ!」

「え?」

「見るのだ! ここには魏の将軍と軍師、みんないるのだ」

「あら、張飛が気づいているとはね」

嬉しそうな華琳。

「忙しいのはこの国だって同じはずなのだ。これはきっと鈴々たちの歓迎のためじゃないのだ。みんなお前を心配してるのだ!」

 

ハッとして立ち上がり周囲を見回す季衣。

「華琳さま」

「ええ」

「春蘭さま」

「おお」

「秋蘭さま」

「うむ」

「桂花」

「なによ」

「稟ちゃん」

「はい」

「風ちゃん」

「はいですよ〜」

「凪ちゃん」

「はい」

「真桜ちゃん」

「お〜」

「沙和ちゃん」

「はいなの〜」

「霞ちゃん」

「おるで」

「天和ちゃんたちまで……」

「今頃気づくなんてひど〜い」

「流琉」

「うん」

 

全員を呼び終わると泣き出す季衣。

「なんで、なんでみんないるんですか!」

「みんな一同にそろって宴なんて、あなた達が用意した玉座の間以来ね。あの時いた一刀はいないけれど」

華琳が懐かしむように言う。

「……はい」

「三国の戦が終わったとはいえ、まだその後始末で多忙な中、私も全員が揃うとは思っていなかった。けれど皆、なんとかこの時間を空けたみたいね」

「……華琳さま……みんな……ボク、ボク……ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

すっと春蘭が立ち上がり、季衣を抱きしめる。その背中をなでながら。

「みんなお前が心配なのだ。北郷を失い、お前まで失ったら我等はどうなる? いや、我等はいい。華琳さまが悲しまれるではないか!」

「春蘭さまぁ……」

「さ、わかったのならしっかり食え。せっかく華琳さまが作ってくださった料理なのだぞ!」

「え?」

「残すことは許さないわ」

 

 

 よかった。季衣、ちゃんと食べてる。ほら、全部食べた!

――もう、泣かないの流琉。

 でも、嬉しくって。

 

 

 

<夢のおわり>

 

 

 

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<あとがき>

5話直後の話です。5−2話といったところですね。

今回の夢は、1週目、魏√エンド後の流琉の記憶。4話の夢の続きです。

 

 

 

説明
タイトルの『対』は『たい』じゃなくて『つい』です。
6話目です。
5話の続き(というか補足)です。
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コメント
竜我 雷さんありがとうございます。鈴々はあの場面では絶対に倒れそうにないので、季衣もああするしかありませんでした。春蘭の前だから真っ向勝負以外選びそうにないですし。武人同士の戦いということです。1話のその辺を修正しました(こひ)
うん 同じく良い話だと思う。 けどこの後見舞いに来てた鈴々をやっちゃうのよなぁ・・・ やっぱ一刀を取られたせい、もしくは別物と割り切っていたのかなぁ・・・(竜我 雷)
ブックマンさんありがとうございます。そういってもらえると、どう玉座の間の宴会に絡めるか悩んだかいがあります(こひ)
涙が止まりません。なんていい話なんだ。(ブックマン)
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真・恋姫†無双 季衣 流琉 華琳 北郷一刀  鈴々 蒲公英 小蓮 つい姫†無双 

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