Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)三巻の1
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エピローグ

 

 

 辺りは緑一面の野原だった。

「ガノン……ガノン……起きろ。そろそろ行くぞ」

青年は気持ちよさそうに寝ている獣を、揺らして起こした。

 ガノンと呼ばれた獣は、獅子に似た姿に、立ち上がれば二メートル近くあるだろう体をしている。

 そして、額には立派な角を生やしていた。

ガノンはまだ眠い目を、一生懸命に開けた。

「まったく。小僧、何時まで寝ている。とうに雨は上がったぞ」

そんなガノンに、青年の後ろから、狼が現れた。

その狼は、ガノンを睨みつけた。

 現れた狼は、とても綺麗な銀色の毛をしており、体はガノンと同じぐらいの大きさだった。

 そんな様子の狼に青年は「まあまあ」となだめる。

「仕方ないだろ。ガノンはまだ子供なんだから疲れたんだよ」

「子供?……どう見てもそうは思えんが」

狼はガノンを見て呆れた。

「……ま、それはおいといて」

「おくのか?」

狼は呆れると、溜息をつく。

 そんな姿に、青年は苦笑い浮かべた。

「そろそろ行かないと、また野宿になるから、な……よし、出発するぞ。ガノン」

青年は歩き出す。

 そのあとを、狼がついていく。

 その姿に、ガノンは焦った。

「あ! 待ってよ!」

ガノンは立ち上がると、青年と狼のあとを追った。

 それは、雨が上がったとても穏やかな日のことだった。

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一章 試験勉強

 

 

梅雨も終わり、夏が訪れた。

リョウたちがいる世界《グラズヘイム》でも暑い日が続いている。

そして、リョウが通う学園では、少しずつ夏休みムードになり始めてきた。

だが、その一方では、学生には最大の山場である定期試験が近づき、教室の生徒たちからは、殺伐な空気が漂っている。

 そして、ここにも、最大の敵である試験に立ち向かう、一人の少年がいる。

 その名はもちろん、リョウ。

そして今、リョウの机の上には、目を覆いたくなるような光景が、広がっている。

「……でもよー。これは酷くねぇか?」

「……」

リョウとサブは、机の上にある紙を挟んで座っていた。

その紙は、講義中受けたテストの答案である。

 リョウは困った様子で両腕組み、机の上の答案を睨んでいた。

そのリョウの横には、リニアが立っており、呆れながらリョウの答案を眺めていた。

「……つーか。テメエって、頭ワリんだな?」

「……うっせえ」

リョウはリニアの悪口に、言い返すが、その言葉はかなりダメージだった。

 そんなやり取りに、ジークは苦笑いを浮かべていた。

「えーと。でも《戦術学》と理系科目は、まだ大丈夫みたいだよ。

これだけなら、今からでも挽回できるよ」

「……お前も、何気に喧嘩売ってんのか?」

とフォローしようとした様だが、何気に酷いことを言っている。

「《魔法歴史学》と文系科目は、最低だな。

これは、今からやっても無理だろ。

ま、落ち込まないようにな」

「テメエ、人事だと思って……」

サブは「まあな」と、リョウの言葉に平然と答えた。

 ちなみに、みんなの成績は、サブは兵士科の学年トップ。次に二位のジーク。

そして、少し空いてリニアとなっている。

リョウはというと、実技はトップの方だが、筆記になると、下から数えた方が断然早いといった状態である。

「でもよー。マジで今のまんまなら、テメエ、退学(クビ)にさせられちまうぜ。

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いったい講義中なにしてやがったんだ?」

「……寝てた」

その答えに、リニアは「バカだろ」と呆れながら言った。

 リョウはサブに視線を向けた。

「サブ、教えてくれ」

だが、サブは椅子の後ろ足で遊びながら答える。

「やだ。

大体、俺自体が別に勉強してるわけじゃねえし。

そんなのに、人のなんか見るわけねぇだろ」

リョウとリニアは驚き、サブを凝視した。

「……マジ?」

「テメエ、もしかして天才か?」

その二人の言葉に、サブは当たり前かのように「ああ」と即答した。

そんな腹の立つサブなんかに、頼むのをすぐにやめると、すぐに切り替えて、ジークの方を向いた。

「じゃあ、ジークた―――」

「ゴメン。僕は人に教えられるほど頭よくないよ」

と、ジークは申し訳なさそうに言った。

リョウは「学年二位が何言ってんだ」と胸の中で突っ込むと、最後にリニアの方を見るが、あきらめ、落ち込んだ溜息をついた。

その姿に、リニアは癇に障り、机を叩いた。

「テメエ! 喧嘩売ってんのか!」

「だって、お前。俺とそう変わんねぇだろ?」

「ふざけんな!」

と、リニアに言うと、リョウを怒鳴りつけた。

そのあと、暴れようとするリニアをジークは止めに入った。

そんなリニアを抑えながら、ジークは顔だけリョウに向いた。

「でも、ホントにこのままだと危ないよ」

「他に教えるのがうまい奴がいればな」

「って、言っても―――」

そのとき、教室の扉が開いた。

そこからは、四人の見知った、黒い髪を後ろで束ねた女の子が現れた。

 その女の子、リリを見た瞬間、リョウを除いた三人は「あ!」と一斉に声を出す。

リリは、いきなり向けられたみんなの視線に、訳が判らずきょとんとした。

「え? みんなどうしたの?」

リョウだけは、嫌そうな顔を浮かべていた。

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「……」

「せめてなんか言え」

「えーと、どうコメントしたら言いか……」

リョウの言葉に、リリは苦笑を浮かべて答えた。

 すると、リニアはリリ向かって言った。

「っで、どうにかできんのか? この絶望な状態で」

「うーん。やる気しだいで、まだいけると思うけど……」

リリはチラッとリョウを見て言った。

ジークは、リリの返答に驚きの表情を浮かべた。

「え? これが?」

「……だから、お前の言葉はいちいち刺さるんだよ」

リョウはジークを、睨みつけながら突っ込んだ。

そのやり取りを、さっきから黙って、ずっと椅子の足で遊んでいたサブが、リョウに向かって言った。

「じゃあ、リリで決定だな。

よかったじゃねぇか。

近いとこにいい適任がいて」

その言葉に、リョウは、急に顔が引きつった。

「いや、それは―――」

「だな、魔法科の学力トップに教わるんなら、何とかなんじゃねぇの?」

「いや、だから……」

 リニアの意見を、リョウは止めようとした。

 こいつらは知らないのだ。

リリの勉強を教えるときは、容赦がないことを……

「でもよー。このままだと、マジで退学だぜ」

「うっ!」

サブの言葉に、リョウは言い返すことができない。

 そのときの顔は、うっすら笑みを浮かべている。

(コイツ。判って言ってんじゃねぇか?)

リョウは、サブを非難するような目で見た。

 そして、ゆっくりと、リリの方へ視線を移した。

 すると、リリはにっこり笑った。

「いいよ。私でよかったら、リョウ君の力になるよ」

「いや…お前も試験受けるわけだし……」

「大丈夫だよ。わたしの復習にもなるし」

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リョウは冷や汗を額に浮かべ、断る方向で会話をもっていくが、リリは逃がしてくれない。

 そのやり取りの中、リョウはサブの方をチラ見した。

 すると、サブは「あきらめろ」といった、楽しそうな笑みを浮かべていた。

 それをリョウは「覚えてろよ!」と目で送った。

 それからは、観念し、溜息をついた。

「じゃあ、頼む」

「うん」

リリはうれしそうな笑みを浮かべて答えた。

 すると、リニアは悪戯な笑みを浮かべて、リリを茶化した。

「よかったじゃねぇか。リリ。リョウとふたりっきりで、勉強できるぜ」

その瞬間、リリの顔がどんどん紅くなると、リニアに向かって怒り出した。

「何考えているの!わたしはただ、リョウ君に学園やめられても困るから。だから……」

「わかった。わかった」

リニアはニヤニヤしながら、リリの言葉に返事していた。

 そんなやり取りを見て、リョウはなんでリリが怒っているのか判らなかったが、だが、どんな形でも、自分の為に時間を作ってくれることに、礼ぐらい言っとこう考えた。

 なので、リョウはリニアと言い合っているリリに向かって、

「ありがとな。リリ」と言った。

リリは「えっ」と呟くと、リョウを見たまま固まってしまった。

 すると、さっきより、顔を真っ赤になり、俯いてしまった。

 同じく固まっていたリニアは、呆れた目になると、

「お前、卑怯じゃねぇ?」と言ってきた。

 そんな言葉に、リョウは「なにが?」と訊き返すと、その言葉に反応したサブが、溜息をついた。

「天然って、こえーな」

と呆れたように言ってきた。

 リョウは、その言葉の意味が判らず、ジークに視線を向けた。

 だが、ジークも苦笑いを浮かべていた。

リョウはますます、意味が判らなくなり、ただ首を傾げるだけだった。

 

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 時間が立ち。

リョウとリリは、夕ご飯をとった後、さっそく勉強を始めた。

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 場所はリリの部屋。

 リリの部屋はとてもきれいに片付いているが、人形などの置物はあまりない。

 だが、部屋の大きな本棚が数台あり、その棚の中には、本がびっしり詰まっていた。

 今、二人は部屋の真ん中に置いている机に教科書とノートを広げて座っている。

 リョウの目の前には、リリが座っている。

「……なぁ、ここだけど」

「ここはね―――」

と、いう感じに、リョウはリリに判らないところを聞きながら、少しずつ進めていた。

 リョウが今、リリがリョウの答案から、どこが悪いか分析し、そこから対策を考え、勉強メニューを決め、ひたすら問題を解かしている。

 リリはリョウの訊いた質問にとても的確に教えている。

 だが、リョウは「教えるのはうまいが、この量はないだろう」と胸の中で呟きながら、隣に積んでいるプリントを横目で見て、うんざりしていた。

 そんなことを思いながら、リョウは何気なしに、リリの目の前の教科書を見てみた。

 そこには、見たことがない図形やら数式やらがかかれていた。

「―――なるから、って、もう。リョウ君聞いてる?」

リリはリョウがよそ見しているのに気付くと、少し怒った顔した。

「わり……なぁ、リリのところって、そんな難しそうなのやってんのか?」

リョウはリリの叱ってきたのを流し、リリの前にある教科書を指した。

 リリは「ん?」と呟くと、リョウの指したところに視線を向けた。

「これは、この前図書館で借りた魔導書だよ。わたしの科とは関係ないよ」

「じゃあ、お前の勉強は?」

「大丈夫だよ。わたしは普段から予習、復習してるから、試験前に見直すぐらいで十分だよ」

「……」

リョウは平然と言った、リリの優等生発言に何も言い返す気にならなかった。

 急に黙ったリョウに、リリが「どうしたの?」と訊いてきた。

「いや、お前に少し殺意が生まれた」

「え! なんで?」

リョウのいきなりの告白に、リリはわけが判らず、驚いた声を出した。

 そんなリリを無視して、リョウは体を伸ばすと、立とうとした。

「んじゃ。今日は終わりに―――」

「だめ。なに普通に終わろうとしてるの。まだ、こんなに残ってる」

だが、リリが立とうとするリョウの腕を掴んで、したから睨んできた。

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 リョウは視線を逸らして「チッ」と舌打ちした。

「さあ、がんばろ」

すると、リリは笑みを浮かべた。

 それを見て、リョウは逃げれないと、諦めると、溜息をつき、座りなおした。

 そして、リョウの長い夜が続くのだった。

説明
ドラゴン事件から数ヵ月後、リョウはいつもと変わらない平穏な学園を送っていた。季節も夏に変わり、学園ももうすぐ夏休みを迎えようとしていた。しかし、そう簡単にはいくはずもなく。学生の天敵である試験がリョウの前に立ちはだかる。はたして、リョウはこれをクリアできるのか?そして、実技試験で事件が―――。
夏の苦悩バトルが今始まる!

お早う御座います。こんにちは。こんばんは。
Sky Fantasiaシリーズ第三弾。今回は、バトルシーンに力を入れたので、是非見てください!
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