精鋭なる横須賀艦隊
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12月24日。泰治郎が横須賀に着任して3週間がたちその間に永田司令長官直属の艦隊から空母赤城と工作艦明石が加わった。更に世間ではクリスマスイブであり、世間全般が、聖夜を祝う日でもある。もっとも宗教など関係なく祝うのは日本特有でもあるが。この横須賀鎮守府でも、泰治郎の提案によりパーティーをする事になった為、泰治郎達が買い物に行っている間、鎮守府の弓道場では矢を撃つ音が響いていた。

それ以外の音はない。そこに佇むのは美しい白銀の髪を靡かせ一心不乱に矢を撃つ翔鶴の姿があった。その眼差しは真剣に的を見つめ、静かに矢を放つ。矢は、的の中心に当たる。

 

「十本中四本が真ん中ですか。鍛錬を始めて3週間でここまで上達したのは凄いですが、まだまだダメです。実戦では少しの油断が命取りになりますよ。それでは、年末の演出で味方の足を引っ張るだけです」

 

永田司令長官から淡島の提督と、佐久島の提督と演習をして欲しいという連絡があり、その人選を行ったのが前日。先方から是非とも、との事だった為泰治郎はしばらく考えその話を受けた。淡島との演習に参加するメンバーは、摩耶、北上、時雨、村雨、神通、そして翔鶴。佐久島との演習に参加するメンバーは、最上、扶桑、夕立、五十鈴、如月、そして瑞鶴。当初、この編成に瑞鶴が異議を唱えようとしたが

 

「午前と午後に1回ずつ演習がある。が空母は赤城姉さんを除けば翔鶴型の2人のみだ。そのために、この編成にした。勝てなくても良い。だか、実戦は実戦だ。ふざけてやるようなら怒るからな。」

 

そう言われてしまうと、瑞鶴も口出しが出来なかった。さらに、翔鶴は淡島との演習で瑞鶴は佐久島との演習でそれぞれ旗艦を任されていた。瑞鶴は、何度も旗艦として出撃した経験から旗艦を任されても平気だが、翔鶴は瑞鶴と違って旗艦という重圧に押しつぶされそうになっていた。

 

「艦載機を操るという事は集中力との勝負です。艦載機に乗った妖精さんと心を通わせ、意のままに連携する。集中力が切れてしまえば、妖精さんは海に落ちてしまいますよ。私もよく妹と勝負をしてました。集中力を鍛えるのに丁度良い鍛錬になりましたからね。お互いに、弓を使うのでかなり拮抗して最後まで勝敗はわからず、引き分けに終わった事さえ何度もありました。翔鶴さん、プレッシャーが掛かっているのは分かります。ですが、戦場では悠長に集中、集中と言っている暇はありませんよ。今回の演習では瑞鶴さんと、姉妹揃っての旗艦を任されていますがそれがどうしましたか?それぐらい、打ち勝たないと立派な鶴にはなれませんよ」

 

肩に手を置かれる。しかし、翔鶴の自信はますます無くなる。・・・それでも、今回の演習艦隊の片方の旗艦を任せてくれた提督の期待に応えたいと思い再び集中して弓をつがえる。その時、緊張から矢から手を離してしまい鈍い痛みが腕にはしる。やってしまった、・・・こんな初歩的な失敗。

 

「大丈夫ですか?翔鶴さん。」

 

「はっはっ・・・痛っ・・・」

 

「今日の練習はこれまでにしましょう。この怪我では弓を引くことはできませんからね。お風呂に入ってゆっくりしましょう。」

 

「す、すみません。・・・急に・・・」

 

「今日はここまでにしておきましょう。これ以上は、危険ですから。」

 

赤城は翔鶴を連れて浴場へ向かった

 

(私の限界ですね。・・・翔鶴さん、あなたの翼はきちんと飛べますよ。後は、あなた次第ですよ。)

 

これ以上は、何があっても手を貸すなと泰治郎にも言われている。普段の泰治郎は、励ますだろうが、今回は翔鶴自身で飛び立てるようにしないとダメな気がすると言っていた。

 

 

・・・

 

「翔鶴さん、このままでは泰君の役に立てないなんて思わないでください」

 

意気消沈している翔鶴に赤城が言う。上手く射る事ができない、淡島との演習において、演習艦隊の旗艦というプレッシャー等たくさんの負の感情が翔鶴を追い込んでいく。赤城が励ましても、塞ぎ込む。

 

(これは、重症ですね。瑞鶴さんから聞いてはいましたが・・・今まで翔鶴さんは旗艦を務めた事がない。それがここまで影響してくるとは・・・)

 

「・・・私、演習艦隊の旗艦を任された時、とても嬉しかったんです。泰治郎さんがそう言うならって、瑞鶴にも演習艦隊を任せた理由もわかっていました。それでも、瑞鶴と弓の鍛錬をすると、余計に自信が無くなるんです・・・私と瑞鶴だとレベルが違いすぎるって」

 

翔鶴は旗艦を任されたその日から必死に鍛錬を積んで少しでも妹に近づけるように頑張ったが、妹ははるか彼方の天空を飛んでいるかのような・・・

 

「それは、瑞鶴さんは何度も出撃していましたし聞いたところによると瑞鶴さんの方が先に着任していたので、練度に差が出てきてしまうのは仕方がありません。まぁ、競う相手が瑞鶴さんしかいないのも問題ですが、いきなり目標を高くしすぎです。まずは、重圧の中でも安定して的の中心に矢を撃てるようにするとかでも良いんですよ。姉妹揃って完璧主義者ですね」

 

競走相手が、ベテランの瑞鶴のみというのも酷な話ではあると思うが、目標が高すぎる。瑞鶴の弓はまだ荒削りではあるが、素質が十分にある。赤城から見ればまだまだ、なのは歪めないが彼女は開戦劈頭から戦っている艦娘。くぐってきた死線が違いすぎる。それ故に教えることができないもどかしさもあるが、彼女は、根っからのお人好しでもある。だから、彼女は翔鶴を見捨てる気は微塵もなかった。

 

「赤城さん・・・ありがとうこざいます」

 

「えぇ。さて、そろそろ上がりましょうか」

 

「は、はい!」

 

(瑞鶴が空高く飛ぶなら私は水面を・・・やってみる価値はあるわね。)

 

翔鶴は、1つの考えを胸に決意を新たにするのだった。

 

 

・・・・

 

前日

 

永田司令長官から連絡があり、何でも演習を行えという内容であった。泰治郎がレロンの提督であった事知った提督達がどうしてもと修一に掛け合ったのだ。泰治郎になってから出撃なし、遠征なしその上の演習もしてないというのは流石にまずいという事で1日演習が決まった。

 

「では、そういう事だ。急で申し訳ないが演習の方は頼むぞ」

 

「分かりましたよ・・・ったく、急に何なんだよ・・・」

 

「どちらも、着任1年目だがなかなか優秀でね。轟沈なしで大きな戦果をあげているのだよ。艦娘の戦意も高いと素晴らしい提督だ。お前も、久しぶりに指揮を執った方が良いだろうし、いい刺激になる。別に公式でもないから、負けても良い。私と愛宕が見に行くがね。よろしく頼んだよ。」

 

そう言うと電話は切れてしまった。

 

愛宕・・・姉妹の次女であり、引き取られた泰治郎を1番面倒を見てくれた為、泰治郎が1番最初に懐いた艦娘でその頭脳から謀神の異名をとる。

 

演習に備えて参加するメンバーを決める。

 

(翔鶴は、まだあの馬鹿に囚われているままか・・・この演習で何が羽ばたく何かが掴めれば良いんだがな)

 

気がかりな翔鶴、化ける可能性が高い扶桑は即決めた。何かが起こるかもしれない演習に、5年ぶりに艦娘の指揮を執る事を泰治郎は楽しみにしていた。

 

クリスマス・イブ当日

 

「みなさん、コップは持ちましたか?それでは提督に注目!」

 

大淀の一声で全員が前にいる泰治郎に注目する。

 

「みんな、俺がこの横須賀に着任してから3週間がたち、ようやくこの鎮守府の戦力も増えてきた。そこで、クリスマスでもあった事、何よりも新生 横須賀鎮守府の発展を祝うパーティーだ。全員、今夜は思う存分楽しんでくれ!酒がないのは勘弁して欲しいがな。それじゃ、横須賀の発展を願い、乾杯!」

 

泰治郎の声であちこちからカンパーイという声が聞こえてくる。

 

「たくさんありますから、言ってくださいね!」

 

「間宮さん!その鳥が気になるぽい!」

 

「げっ!?ちょっと、提督さん!七面鳥なんて冗談じゃないわ!!」

 

「す、瑞鶴・・・落ち着いて・・・」

 

「ん?あぁ、それお前が嫌がると思ってチキンにしてあるよ」

 

「さっすがー!提督さん。」

 

「て、手のひらを返すが・・・早すぎじゃないかしら?」

 

「この、フライドポテトうっまー!」

 

「こっちの鶏肉もいけるわよ!」

 

「サンキュー!あ、このポテト猫さんの形になってて可愛い。」

 

各々がパーティーを楽しんでいる。電は唐揚げをハムスターのように口をパンパンにして食べていたり、皐月と卯月がお互いに食べさせあいっこをしていたり、雪風は北上と一緒に楽しんでいた。

 

「司令官、ここに座ってください。」

 

「ん?ここか?」

 

「はい!よいしょっと!うふふ!」

 

「如月にひっかけられましたね。」

 

「ん、やったーなこいつー」

 

「キャハハハハ♪」

 

「如月ちゃんずるいのです!」

 

「あー、はいはい。あたしの膝にのっけてあげかっら。」

 

「わー!北上さんのお膝も柔らかいのです!」

 

各々がパーティーを楽しむ中、泰治郎は翔鶴に話しかけた。

 

「隣良いか?翔鶴」

 

「提督!・・・はい、どうぞ。」

 

コップを片手に翔鶴の横に座り話しかける。

 

「わ、悪いな。いきなり演習艦隊に組み込んで。さらに、旗艦。緊張するだろう?」

 

「はい、やっぱり旗艦という1つの艦隊を提督から預かっていると考えると・・・」

 

「緊張するぐらいがちょうどいいさ。その方が統制を取りやすい。赤城姉さんに色々聞いた。お前が緊張から怪我をした事、お前がまだ瑞鶴との間に壁を感じている事も」

 

「そうですね。・・・私が、悪いんでしょうけど・・・」

 

「それは、違うさ。瑞鶴との間に差ができるのは仕方がないことだ。だからって焦る必要は無い。翔鶴は翔鶴のペースで練度をあげていけばいいんだ」

 

そう言い翔鶴の頭を優しく撫でる。じんわりと胸が暖かくなり幸せな気分になる。

 

「提督・・・もし私が、頑張ったら・・・その、2人でお買い物に行きたいです!」

 

「買い物?俺は、良いぜ。」

 

「摩耶さん達がとても楽しそうでしたので、私も行ってみたいと思いまして・・」

 

頬を少し赤くして泰治郎に買い物に行きたいとおねだりをする。

 

「わかった。お前に色々任せているし、毎日、練習も頑張ってるそうだからな。ただし、絶対に無理だけはするなよ」

 

「はい!提督のご期待に応えられるように、精一杯頑張ります!」

 

少し吹っ切れたような笑顔でそう言う。

 

「ん?おい、翔鶴!今、2人でっと言ったか!?」

 

「ふふ。提督、約束ですよ。私、北上さんと話してきます。」

 

確認する前に北上の方へ逃げられた?でも、翔鶴の笑顔が見れたならそれで良いやと思う事にした泰治郎。

 

「なになに?翔鶴姉とデートの約束なんかしちゃって!そっかーちゃんとリードしてあげてね!」

 

「アホ!何言ってんだ瑞鶴!」

 

「またまた照れちゃって!にくいねー、このー!」

 

「瑞鶴お前、ほらこれ食え!美味いぞ。ほら、早く食え!」

 

「ちょっ!?七面鳥じゃない!冗談じゃないわよ!」

 

「うるさい!早く食え!」

 

「ちょっ!翔鶴姉助けてー!提督さんが酷い事する!」

 

そうして逃亡しようとした瑞鶴は、どこからもなく現れた時雨に後ろから抑えられ、逃亡を阻止されるも提督が持っていたターキーは横から跳んで来た夕立に食べられてしまい。そこから、時雨や如月達に親鳥のように食べさせる羽目になったりと賑やかにパーティーは進んでいく。翔鶴は、お風呂で考えていた事を胸に、来る演習に備えて英気を養う事にした。

説明
新生、横須賀鎮守府

艦娘の口癖や提督の呼び方が曖昧だったり、分からない艦娘がいるので間違っていてもご容赦ください
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タグ
艦これ

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