Sky Fantasia(スカイ・ファンタジア)三巻の5
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五章 銀狼

 

 

 リョウは狂気に満ちた笑いを響かせていた。

「お前はさっきまでの小僧か?」

ガノンは目を細め、リョウを睨みつけた。

 その問いに反応したリョウは笑いを止めた。

「……まあ、判らぬのも無理はない。

形は小僧だからな……だが、今、意識はわしが支配しておる」

 顔を上げたリョウの表情には、狂気に満ちた笑みが浮かんでいた。

「だが、わしに向かって小僧とはな……お前も高みに来たのか? なぁ、ガー坊よ」

その言葉に、ガノンは目を見開いた。

「その呼び方……まさか……」

ガノンは信じられないもの見たかのように驚くと、

「……マーナガルム」

とその名を口にした。

 リョウもといマーナガルムは、懐かしむように口を開いた。

「千年ぶりぐらいになるか?」

「あなたがいなくなってそれくらい経つね。まさか生きてるなんて思わなかったよ」

「生きてた、か……肉体は小僧と混じったが、な。まあ、普段はこの中に寝むっておる」

マーナガルムは相変わらず笑みを崩さない。

 それが癇に障ったのか、ガノンはいっそう顔が険しくなり、マーナガルムを睨みつけた。

「あんたほどの幻獣が、なぜそのような人間との融合したんだ?」

「単なる気まぐれだ」

「気まぐれ……まさか、その小僧が奴に似―――」

「どうした?

今日はやけに饒舌ではないか?

憧れた師に会えてそんなに嬉しいのか?」

マーナガルムの挑発にガノンは「ふざけるな!」と言い放つと、臨戦態勢にはいった。

 それに反応した、マーナガルムは右手をガノンに向かって突き出し、魔力を練り始めた。

「そうでないと面白くない。

久々に娑婆に出られたのだ。相手なってくれるな?」

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右手からは銀色の光があらわれた。その光はどんどんと形を成していき、一振りの銀色の刀となった。

 マーナガルムはそれを握りしめると、左半身を前に出し、刀を体の陰に隠す、隠刀の構えをとった。

「この戦闘狂がああぁぁぁぁぁ!」

ガノンは叫ぶと、その場から駆け出した。

 マーナガルムとの距離を一瞬で詰めると、飛び掛り、右足を振り下す。

 マーナガルムはいきなりの事に目を見開いて驚いた。

 その鋭い爪はマーナガルムを切り裂く。

 ……と思った。

残像

「どこを見ている?」

着地をしたガノンはすぐに後ろを振り返る。

 マーナガルムが刀の刃を肩に乗せ、そこに立っていた。

 一瞬でガノンの後ろに移動していたのだ。

「それがお前の本気か? わしの量り間違いかの?」

 マーナガルムはがっかりした風に言うと、刀を軽く振り下ろす。

 すると、刀からものすごい速度で銀色の炎の斬撃がガノンに向かって飛んだ。

 ガノンはそれに反応できず直撃した。

 ガノンは地面に投げ出された。

 マーナガルムは跳び上がると、地面に伏さっているガノンとの距離を詰め、刀を自分の体重を乗せ、勢いよく振り下ろす。

金剛落し

 ガノンはその攻撃に反応すると、すぐに立ち上がり、その場から飛び引いた。

 振り下ろした刀は地面を叩く。

 それは大きな音をたてて地面を陥没さした。

 二人の距離が空く。

 ガノンはダメージ大きいのか粗い息遣いをするが、目は前に立つマーナガルムを睨みつけたままだ。

 マーナガルムは動きを止めた。激しい動きのせいで、リョウが受けていた傷が開き、頭から血が流れてきたからだ。

 だが、なぜか笑みを浮かべた。

「……なにがそんなに楽しい?」

その問いに、マーナガルムはさぞ当たり前のように答えた。

「なぜその様なことを問う? この争いが楽しいからに決まっておるじゃろ」

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その言葉にガノンは怒りをあらわにした。

「互いに傷つけあうことが楽しいわけがないだろ!」

「お前はそうかもしれん。

だが、わしは違う。

今という時間を大いに楽しんでおる」

「ふざけるな!」と叫んだガノンは、口から放電する球を具現化した。

 それをマーナガルムに放つ。

 それに対し、マーナガルムはすぐさま刀に魔力をため、砲撃に向かって刀を振る。

 飛ぶ炎斬撃炎刀斬

 すると刀からでた炎斬撃はものすごい速さで飛ぶ。

 二つの攻撃はぶつかり、激しい爆発を起こす。

 砂塵が舞い、この空間を埋め尽くす。

 二つの影は砂塵などお構いなしに飛び出す。

 そして、二つの影は重なり合い、鈍い音が響かせる。

 砂塵が止むと二つの影が姿を現した。

 二人は爪と刀で押し合いをしている。

 ガノンは方を上に弾くと、跳び引き、口をから放電する球を放つ。

 それをマーナガルムは上げられた刀を振り下ろし、すぐさま炎刀斬をぶつけた。

 爆発が起こり巻き上がる煙からガノンが飛び出すと、右足を振り上げ、鋭い爪でマーナガルムに襲い掛かる。

 マーナガルムはそれを体を捻りかわす。

 マーナガルムは縦、横と様々な方向から斬り込む。

 ガノンは電撃の砲撃と爪を使って襲い掛かる。

 衝突、衝突、衝突、二人の攻撃は何度もぶつかり、そのたびに低い音を轟かせ空気を震わせる。

 二人のぶつかりは地面をえぐり、もはや辺りは原型を留めていない。

 不意に二人の攻撃が交差し、お互いの肉をかすめた。

 それが均衡の破れとなった。

 二人の流血が舞う。

 刀は相手の腹をかすめると、砲撃は相手の股をかすめる。

 刀は相手の腕をかすめると、爪は相手の肩をかすめる。

 刀は相手の横腹を走ると、爪は相手の横腹を走る。

 マーナガルムは狂気の笑みを浮かべ、ガノンは目を血走らせる。

 これはもはや争いなどという生ぬるいものとはなくなった。

 死闘。

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「……やめて」

赤い斑点は地面を黒くし、砂を固める。

「もう……これ以上は……」

二人は距離をとると、勢いよく飛び出し、再びぶつかろうとする。

「やめてええぇぇぇぇぇぇ!」

二人を止めるためにリリは力いっぱい叫んだ。

 その瞬間、リリの足元から魔方陣が現れる。

 だがそれだけではなかった。

 リリの背中から羽が現れたのだ。

 すると、地面から針状の尖ったものがいくつもあらわれた。

 ぶつかり合おうとする二人の間を割った。

 二人はそれにすぐさま反応すると飛び引いた。

「グランドエッジだと?」

ガノンはその魔法を見ると驚きの表情を浮かべた。

 マーナガルムは着地をするが周りにいくつもの魔方陣が包囲していた。

 するとその魔方陣から鎖が飛び出し、捕獲された。

 マーナガルムは舌打ちをすると、立ち上がろうとする一人の少女を睨みつけた。

「また貴様か。

わしの邪魔をするのは」

リリはゆっくりと立ち上がると、ふらつく足取りでマーナガルムに近づいていった。

「……返して……リョウ君を」

リリの呟きにマーナガルムは笑みを浮かべた。

「返せだと? 小僧の意識は今、この中の奥の方に追いやっている。

そう簡単は出―――ん?」

リリはマーナガルムの前まで行くと顔を上げた。

「リョウ君……」

その瞳はマーナガルムの金色の目を見つける。

その瞬間、マーナガルムの中でなにかが大きく鼓動した。

『返せ……人の体いいように使ってんじゃねぇ!』

「なに? 目覚めたというのか……なるほど……おもしろい……」

そしてもう一度、マーナガルムの中で跳ねた。

「リョウ……く……ん」

次の瞬間、リリは糸が切れたように体が前に傾いた。

 すると、捕獲していた鎖がはじけて消え、それといっしょにリリの背中にあった羽もはじけて消えた。

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 そのリリをリョウはしっかりと受け止める。

 そして、自分の胸の中で気を失っているリリに向かって、

「わるい。

心配かけた」

と申し訳なさそうに呟いた。

「まさか、その小娘。

天空人なのか?」

こちらの様子を黙って見ていたガノンは、驚いた表情を浮かべて、こちらに訊いてきた。

「天空人?

なんだそれは?」

だが、意味が判らないリョウは訊き返す。

「知らないならそれでいい」

と言うと、ガノンはこちらに背を向けた。

「まて!」

「早くその娘を見てもらえ……それに、さすがに今のボクじゃあ三対一では分が悪い」

「リョウ!」

その声にリョウは後ろを振り返ると、リニアとサブがこちらに向かってきていた。リョウはそれを確認すると、すぐに向き直る。

 だが、もう目の前にガノンの姿はそこにはなかった。

 すぐにリニアとサブが木からこちらへ近くに着地した。

 すると、すぐにリニアが訊いてきた。

「なんだ?

あのデケェーのは?」

「幻獣だそうだ。

それより早く森から出るぞ。

もうそろそろ日が暮れそうだ」

 リョウは空を見上げると赤く染まっており、もう夕方なのだとすぐに判る。

 そんなリョウの言葉にサブは「そうだな」と答えると、

「そこの姫さんも心配だしな」

軽口を付け加えた。

そして「こっちだ」と告げると先陣を切っていった。

他のものも後に続く。

 

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 リリは気付くと髪が風で揺れているのを感じた。

(……あれ? わたしどうしたんだろう?)

そして、ゆっくりと重い瞼を少し開けた。

 すると、景色が流れている。

(……移動している?)

次に上に視線を移すと、そこにあったのはリョウの顔だった。

(そうか……わたし、リョウ君たちを止めようとして……)

リリはまだ頭が靄がかかったように感じたが、

「……リョウ……くん」

と目の前の少年に呼びかける。

 リョウはその声に「ん?」と気付いたようだ。

「目、覚ましたか?」

 リリは思いついた一つの質問を口にした。

「ガノンさんは?」

「ガノンさん?

なんでさん&tけなのか判んねぇけど、あいつならどっか行ったぜ」

「そっか……リョウ君はもう―――」

「大丈夫だ。あいつは引っ込んだ」

その言葉にリリは「よかった」と安心したように呟いた。

 それまで進行方向を見ていたリョウは、真剣な顔で視線を下ろしてきた。

「……で、お前の方は大丈夫か?」

そのいきなりの問いに、リリは「え?」と呟くと、体に力を入れてみた。

「んー…だめ、動かない。

魔力使いすぎたみたい」

と苦笑いを浮かべて答えた。

「二種類の魔法を同時に使ったんだ。さすがに無茶しすぎだ」

「ごめんね……でも、あまり覚えてないんだよ」

「?」

リリの言葉にリョウは眉を細め、そちらをまじまじと見つめてくる。

 リリはあんまり見られると恥ずかしんだけど、と胸の中で呟くと補足をした。

「あのとき、二人を止めようと思って、必死に叫んだら、急に魔力が溢れてきて……そこから記憶が途切れ途切れで、はっきり思い出せないんだよ」

その言葉を聞いたリョウは少し間をおいてから「わるい」と謝ってきた。

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その時のリョウの表情はとても暗く、公開の念が篭っていた。

 その姿を見て、リリは焦り始める。

「そ、そんな!

気にしなくていいよ! それにわたしの方が先に助けてもらったから」

と何とか思いつく限りのことを言い。

「ありがとう。リョウ君」

と心から笑みを浮かべて告げた。

リョウはこちらから顔を逸らすと「……別にいい」と進行方向を見ながら言った。

 その時の顔は少し赤いような……

「おっ! 姫さまが目ぇ覚ましたみてぇだな?」

二人の会話を聞きつけてか、リニアがリョウとリリの隣に並んだ。

 リリはリニアを抗議の目で見つめた。

「もう、姫ってなに?」

「だってよぉ。その姿じゃあ、なぁー」

リニアは悪戯っぽい笑みながら言ってきた。

 その言葉の意味が判らないリリは首を傾げた。

(姿? そういえばわたしの今の格好は……っ!)

その瞬間、自分の状態に気付いたリリは、恥ずかしさで顔が赤くなった。

「えっ! なっ! なんでリョウ君がわたしを抱えてるの?」

「いや、気付くのがおせぇだろ。さっきからずっとこのままだぞ」

と、リョウが呆れながら突っ込んできた。

 そして、繋げてくる。

「それに、背負おうとしたのを止めたのはリニアだ」

その言葉を聞いた瞬間、リリは「リニア!」と隣でニヤニヤしているリニアを睨みつけた。

「なんのことだ?」

と、リニアはワザとらしく答えてきたのだ。

 

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……数分前

「リニアを背負うから手伝ってくれ」

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と、リョウはリリを運ぶ為に隣にいるリニアに頼んだ。

「背負うって……テメエ、その背中で背負うのか?」

と、リニアは苦虫を殺したような顔でこちらに言ってきた。

 そのリョウの背中はというと、血と泥でぐちゃぐちゃになっていた。

 それはどう考えても人を背負うような背中ではなかった。

 リョウはそのことを告げられると、

「じゃあ、どうやって運ぶんだ?」

と訊いた。

「んなもん決まってるじゃねぇか。背負えねぇなら抱しかねぇじゃねぇか」

と、リニアがニヤと笑みを浮かべて言ってきた。

 リョウはその笑みの意味が判らなかったが「そうだな」と納得すると、リリを抱えて、サブのあとを追ったのだった。

 

「……て、ことがあった」

「やっぱりリニアが悪いんじゃない!」

と、リリが抗議する。

 だが、リニアはニヤニヤするだけで流すのだった。

 

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 リョウたちは森から出ると、そのままいつもの病院に行き、治療を受けた。

 サブとリニアは怪我はなかったが、リョウはそこら中に傷があり、打ち身とアバラが折れているなどの怪我を負っていたが入院するほどではなかった。

 だが今、診察室ではリリが治療を受けている。

 そのため三人は廊下で待っていた。

 三人は終始無言で待っていた。

 そして、しばらく待っていると、サブが口を開けた。

「リョウ。そろそろお前のこと、話してくれねぇか?」

 その言葉に、リョウは床からサブの方へと視線を移した。

「……なんのことだ?」

「言いたくないなら無理にとはいわねぇ。だけど、そろそろ俺たちのことも信用してくれても良いんじゃねぇか?」

「……」

リョウは目を閉じると黙り込んだ。

 廊下に沈黙が流れる。

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 しばらくするとリョウはゆっくりと目を開けると、目の前いる二人に視線を向けた。

 そして、笑みを浮かべて告げる。

「機密事項に触れるぜ」

その言葉にリニアはすぐに、

「俺のことも一応機密事項だったぜ」と突っ込んだ。

それもそうか、とリョウは失笑すると、ゆっくりと話し始めた。

「……俺は人間じゃない」

「「……」」

「……?

なんだ、その変なものを見るような目は?」

「いやぁー、おまえ……」

「テメエのいきなりのカミングアウトにリアクションに困ってんだよぉ!

いろいろなことスッ飛ばしてんじゃねぇ。

訳わかんねぇだろ!」

サブとリニアは各々のリョウの言葉に抗議してきた。

 その言葉に、リョウも「メンドくせぇな」と愚痴ると、仕切りなおした。

 

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四年前

 リョウは事故で瀕死の大怪我を負った。

 あたりには雨が降っており、体温をどんどん下げていく。

 その雨は仰向けに寝ているリョウを容赦なく打ち付けてきた。

(さ……む…い………)

リョウの頭の中には死≠ニいう言葉が過ぎった。

 そのとき、自分の横から枝が折れる音が聞こえた。

 リョウは重い頭を傾け、音がした方へ虚ろな目で見つめた。

 そこでは狼がこちらを見ていた。

 狼は普通の狼よりも一回り大きく、とても冷たい銀色の毛をなびかせいた。

 そして、金色の目でこちらを見据えてくる。

 狼はこちらの横まで近づいて来ると、寝ているリョウを見下ろすと、

「無様だな、小僧」と低い声で言ってきた。

「……」

「小僧、生きたいか?」

その問いに、リョウは声を絞り出して答えた。

「……ち…か……ら…が………ほ……しい……」

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「それはなぜだ? 誇りか? 名誉か? それとも金か?」

狼の問いにリョウは笑みを浮かべて言った。

「……俺…に……ちか………ら…を……よ…こ……せ……」

その言葉を聞いた狼は一瞬、目を大きく見開くと、すぐにその大きな口を開けて笑い出した。

「かっかかかかか! おもしろい! このわしに指図するか、小僧! 気に入った、ぞ」

その瞬間、狼の足元から魔方陣が出現した。

「ワシの名はマーナガルム。貴様にわが力をくれてやる。精々、ワシを楽しませてみろ」

それが、リョウの運命の日だった。

 

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 話が終わるとまた三人は沈黙した。

 そして、サブが口を開く。

「……てっ、ことはおまえ、獣人なのか?」

「そうだけど、そうじゃない」

「……どういうことだよ?」

リョウの言っている意味が判らず、サブは首を傾げて訊いてきた。

「半獣だ。

契約に不備があったのかわからねぇけど、不安定な状態なんだ。

だから、何度か暴走したこともある」

「暴走?」

リニアが疑問に思いたのか訊き返してきた。

「なにかのきっかけで、アイツが無理やり出てくるときがあるんだ。

いつもなら俺が意識のあるときに乗っ取られるけど……」

と説明すると、リョウは少し間をおいて補足した。

「……俺の意識がないときに乗っ取られたのは初めてだ」

 リニアがこちらの言葉に引っかかることがあったのか訊いてきた。

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「暴走って、具体的に起きんだ?」

「それは―――」

「はい、はい、そこまで。それ以上はダメよぉ」

リョウが言いかけたそのとき、通路の奥から手を叩く音と共に声で制された。

 三人は声がする方へ向いた。

 すると、そこに居たのはマリアとルナだ。

 リョウはルナと目のあった瞬間、すぐにルナがこちらに急いで駆け寄ってきた。

「リョウさん!大丈夫ですか? どこか痛いところはありませんか?」

とルナは言いながらペタペタとリョウの体を触ってきた。

 リョウはその手を掴んで止めると、

「ルナ姉、心配しすぎだって」

と、ルナの予想通りの行動にため息をつきながら言った。

「なにが大丈夫なのですか!

今触ったら肋骨が骨折しているじゃないですか!」

と言うと、ルナはリョウの手から逃れ、触診でリョウの体を触りまくってくる。

 時折リョウが「いてぇ! 判ったからさわんなって!」と言って抵抗した。

 そんな、リョウとルナをほっといて、マリアは残りのサブとリニアに近づいた。

「話は戻るけど、リョウのことはこの辺にしてもらうわね。一応、政府の重要機密でもあるから」

マリアの言葉にサブはため息をつくと微笑し、マリアの方を見上げる。

「判りましたよ……でも、それは局員として≠ナすか?」

その言葉に、マリアは「ん?」と少し驚いた表情を浮かべたがすぐに、

「おもしろいこと訊くのねぇー。そうねぇー。じゃあ、親としてお願いするわ」

と、マリアはサブの問いに笑顔で答えた。

 それを聞いたサブは何も言い返さなかった。

 

 会話が終わったところへ不意に扉が開かれた。

 そこから手当てを終えたのか、リリは車椅子を押されながら現れた。

 そのリリはマリアとルナがいることに「え?」と驚いた表情を浮かべた。

「なんでお母さんたちがいるの?」

「リリ!」

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すると、ルナがリョウを開放して、こちらにすぐに駆け寄ると思いっきり抱きしめてきた。

「お姉ちゃん。苦しいよ」

ルナに抱きしめられたリリは、少し痛かったが、そこからはとても優しさが伝わってきた。

「あまり心配掛けさせないでください。

本当に心配したのですから、ね」

その言葉に、リリは「ごめんなさい」と答えると抱きしめ返した。

 その姿を少し離れていたマリアが呆れながら、

「ルナ、一応仕事で来たのよ……でも、無事でよかったわ」

と言うと、マリアはこちらに向かって微笑みかけてきた。

 リリも「うん」と微笑み返した。

 すると、マリアはすぐに車椅子を押していた女医に視線を移した。

「で、検査結果は?」

「そこの男の子は軽症……んでもって、この子はアバラ二本イッてるわね。あと、魔力回路に少しダメージがあるわ」

と女医はさらっと答えた。

 

この女医の首にはネームプレートをかけられており、そこにはエイル・ブラン≠ニ書かれていた。女性の格好はジーンズとラフな格好に白衣を羽織っているだけであり、徹夜明けなのか眠そうな目つきだ。

 その後もいくつかのマリアとやり取りをしていたが、会話が滑らかであった。

 どうやらただの仕事だけの関係ではないことが判る。

 リョウはそのやり取りを見ていると、不意にリニアが、

「まあ、よかったじゃねぇかたいしたことなくてよぉ」と言った。

 その言葉に、みんなは一段落したように肩の力を抜いた。

「そろそろ良いか? 事件のこと話して」

ただ一人(リョウ)を除いては

そのリョウに「おめぇー。空気読めよぉ」と呆れながら突っ込んできた。

 だが、リョウはその意味が判らず、首を傾げたのだった。

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エピローグ

 

 

 試験発表の日。

 学園の掲示板には、学科別に生徒一人一人の名前が点数順に並べられた大きな紙が張り出されている。

 リョウたちの結果は、まず、サブとジーク一位、二位。そこから少し離れてリニア、そして問題のリョウは、順位は悪いが平均ギリギリの点数で補習を間逃れた。

 ちなみに魔法科のリリはというと、満点の一位という結果だ。

 これにて、リョウたちの数週間に亘る戦いは終わったのだった。

 

その夜

 みんなが寝静まったころ、リョウは一人ベランダにいた。

 リョウはそこで夜風に当たりながら考え事をしていたのだ。

 頭の中にあるのはあのときリリのことだった。

 あの時一瞬だけ視えた、リリの背中にあった幻想的な羽。

 そして、ガノンが言い残した、天空人という単語。

 そんなことが、リョウの頭の中でぐるぐる回っていた。

 そのとき、不意になにかが頬に触れた。

 リョウは後ろを振り返とそこには、両手にカップを持った寝巻き姿のマリアがいた。

「はい。何か考え事かい青少年」

と言うと一つのカップをリョウに差し出した。

 リョウは「ありがとう」とお礼を言いそれを受け取ると、口をつけた。

 中身はコーヒーだった。

「別に何でもない」

と、リョウは答えると黙ってコーヒーを飲む。

 すると、マリアは何も言わず、リョウの横にきた。

 二人はお互い何も言わず、外を眺めながらコーヒーを飲む。

 すると、リョウは口を開いた。

「……なぁ、天空人ってなに?」

リョウは視線をそのままに、隣にいるマリアに訊く。

 マリアはコーヒーを飲むのを止めると、背中でベランダの柵に預けると、横目でこちらを見てきた。

「それをどこで?」

「幻獣がリリのことをそう言った。それにリリの背中から羽が生えた」

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「……そう」

マリアは答えると少し間が空いた。

「先祖返り≠サう言われているわ」

「先祖返り?」

リョウは初めて聞く単語に聞き返してしまった。

「リョウ、あなたは空の伝説のことどれくらい知ってる?」

「あのおとぎ話か? 普通に知る程度なら」

「その話に出てくる天人≠サれが私の先祖よ」

「え?」

マリアの思いがけない答えにリョウは驚いた。

「じゃあ、ルナ姉、リリも……」

「空の人の末裔ってことになるわ、ね」

マリアは平然と答えてきた。

リョウは黙り込み、考えを整理する。

 天空人、羽、先祖返り……。

 考えれば考えるほど頭がこんがらかる。

 情報が少なすぎる。

すると、不意にマリアがリョウの考えに割ってきた。

「あんまり考えるのも良くないわよ」

と、マリアはコーヒーを飲みながら、さっきの真剣さがまるでない声色で言ってきた。

そして「それに女の過去を詮索するのは野暮よ」

とニコニコしながら茶化してきた。

そんな言葉にリョウは、

「……結構マジで考えてたんだけど」

と呆れながら突っ込んだ。

 すると、マリアは柵から離れ屋内に入ると、

「まあ、あの子たちのこと。

できれば今まで通り、接してあげて」

と顔だけこちらに振り返って言ってきた。

 その横顔は少し寂しそうに感じた。

 だからリョウは笑みを浮かべて、

「かわらねぇよ。あいつが何者だろうと」

と答えた。

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 マリアはうれしそうな表情に変わると「ありがとう」と言った。

 そのあと、マリアはカップを流し台に置いくと、自室の方へと戻ろうとした。

「マリアさん」

だが、マリアが少し扉を開けたとき、リョウは呼び止めた。

 マリアは「なに?」と言うとドアノブから手を離し、こちらを向いた。

「その……なんだ……」

リョウはさっきとは違って歯切れが悪い。

 マリアはその挙動不審なリョウを視て首を傾げた。

「リリに今回の試験……手伝ってもらったから、さあ……何か御礼したいと思ったんだけど……」

と、リョウは少し恥ずかしそうに言った。

 

 ちなみに、この提案を出したのはサブだ。

 今日の打ち上げのときにサブが、

「手伝ってくれたリリになんかお礼ぐらいしろよ。お前どん底だったんだから、な」

と、リョウに言ってきたのだ。

 

 マリアは不思議なものを見るような顔をしたが、すぐに吹出して笑い出した。

 リョウはその姿に慌てると、

「な、なんか変なこといったか?」と訊いた。

「いや、別に何でもないわ。

でも、まさかあなたの口からそんなことが聞けるとは思ってもなかったからね」

笑うマリアにリョウは「別にいいだろ」と少し拗ねて、顔を逸らした。

 そして、笑い終わったマリアは「そうねー」としばらく部屋を見渡すと、ある一点に止まった。

 すると、マリアはそれがあるところまで移動した。

 それはカレンダーだった。

 するとマリアは「これが答えよ」といてそれを軽く叩くと、自室の方へ帰っていった。

 リョウはその意味が判らず「え?」と驚いた。

「いや、カレンダーが何の意味―――」

「一枚めくってみなさい」

と最後にマリアは告げると部屋の方へ消えていった。

 リョウはそれに従ってカレンダーを一枚めくってみる。

 するとそこには派手なマークにリリ誕生日≠ニ書かれてた。

 リョウは「なるほど、な」と声には出さず感心した。

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 そして、またベランダに出ると、そのまま背中を柵に預け、夜空を見上げた。

 空にはたくさんの星が輝いていた。

 リョウはそれを見ながら、何をするか考える。

 それは全然思いつかないが、さっきのことを考えるよりも少し楽しい気がした。

 しかし、あることに気付いてしまった。

「……金がない」

ということを……。

説明
これで三巻全部です。今まで読んでくれて有難う御座います。次回も、よろしくお願いします。
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コメント
華詩さん、いつも有難う御座います。次回作も、もうすぐできるので是非読んでください。(とげわたげ)
今回も一気にここまで読んじゃいました。幻獣同士の死闘は壮絶でしたね。リョウの中にいるもの、リリが中に持つもの、この先彼らが手繰り寄せる運命は何なのか楽しみです。(華詩)
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