英雄伝説〜黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達〜
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〜新市街・東方料理屋”蓬来苑”〜

 

「うわぁ〜、キレイです!」

「”煌都”ラングポート、その名に相応しい光景ですね……!」

「ま、この街の醍醐味の一つだな。」

「そうね……」

自分達がいる席から見える煌都の光景にはしゃいでいるフェリとアニエスに答えたヴァンの言葉にエレインは同意した。

「それではオークレール様、ごゆっくりお愉しみください。」

「随分と賓客待遇じゃねぇか、料理長が挨拶に来たくらいだし。」

料理長がエレインに挨拶をして去っていくとヴァンは興味ありげな表情でエレインに指摘した。

「まあ、ね。以前この店のトラブルを解決した事があってそれ以来恩義を感じてくれているみたい。黒月とも距離を置いているらしいから私としても助かっているわ。」

「なるほどねぇ。さすが売れっ子は違うな。」

「黒月に距離を……そういうお店もあるんですね?」

エレインの話を聞いたヴァンが苦笑している中アニエスは目を丸くして訊ねた。

 

「ええ、煌都は黒月系以外の資本も多いし、商談に使いやすい店でもあるみたい。料理の系統も煌都とはちょっと違って”龍來’(ロンライ)”の流れを汲むそうね。」

「なるほど……東方系と言っても色々あるとは聞いていましたが。」

「えと……ところで。」

エレインの話にアニエスが相槌を売っていると目の前にある料理に興味津々の様子のフェリはヴァンに視線を向け

「とりあえず始めるか。」

フェリの要求を察したヴァンは食事を始める事を告げた。

「ええ、折角だし冷めないうちに頂きましょう。」

「ふふっ、そうですね。」

「えへへ、いただきます……!」

そしてヴァン達は食事を始めた。

 

「モグモグ……ん〜〜っ……!」

「あはは……確かに本当に美味しいですね。」

美味しそうに食べているフェリの様子をアニエスは微笑ましそうに見つめながら呟いた。

「ああ、龍來の名店の直弟子あたりがやってそうだな。こんな豪華な夕食にありつけるとは”剣の乙女”サマ万々歳だぜ。」

「ふう……それは止めてちょうだい。それに”依頼主”に要求したら同じくらいの名店に招待してくれるんじゃないかしら?”九龍ホテル”に入っているレストランも絶品という評判みたいだし。」

ヴァンのからかいに対して溜息を吐いて答えたエレインはヴァンに皮肉を交えた反撃の指摘をした。

「……ったく、もう知ってんのかよ。」

「ギルドに依頼する人達でもないし、貴方が適任ということは理解しているわ。感心はしないけれど。」

「ま、こっちも”つなぎ”のようなもんだろ。チョウが戻ってくるまで事態をこれ以上悪化させないための保険ってくらいか。」

「でしょうね……でも白蘭竜方面も”切り札”本人の方が応じるかどうか。”名前”は捨てていないみたいだけど、4年前の”碧の大樹”の件以降は”表の活動”に積極的になっている反面、”裏の活動”からは完全に手を退いたみたいだし。」

「ってお前も知ってのかよ。」

「貴方こそ、ね。」

「その様子だと、”北”の生き残りの連中もそうだが、例の”合同捜査隊”もこの煌都で活動している事も知っているんだろう?連中との共闘は……お前の立場だと無理か。」

「残念ながらそうね。”合同捜査隊”の人達だけだったら共闘関係もできたでしょうけど、幾ら故郷の独立の為とはいえメンフィル帝国と猟兵契約を交わした”北”の生き残りである彼らとの共闘は、ギルドとしての立場では難しいでしょうし……彼らも今の所はそのつもりもないみたいだもの。」

(………お二人とも同じくらい各方面に通じているみたいですね……)

ヴァンとエレインの会話の様子をアニエスは静かに見守っていた。

「アニエスさん、食べないんですかっ?」

「い、いえっ。美味しく頂いてますよっ?その……先程の件もそうですけどエレインさんが来てくれて心強いですよね!私達がというより、このラングポートの平穏のためにも。」

フェリに声をかけられたアニエスは慌てて答えた後話を変えてエレインに視線を向けた。

 

「ふふ、ありがとう。――――――でもちょっと買いかぶりすぎかしら。この街は黒月が治める地……南カルバード総督府もそれを半ば黙認している。無論、民間人の安全のためなら無理も通すわ。でも東方人街の人達は”黒月”の味方だしね。ここでの私達は、抑止力でしかないのよ。その点を考えたら、”エースキラー”の人達の方が頼りになると思うわ。彼らは黒月ですらもある程度の配慮をしなければならない立場である事もそうだけど、戦力という意味でも彼らの方が煌都のギルドよりも優れているわ。例え、その中に私を含めたとしても、ね。」

「エレインさん……」

「にも関わらず旧首都総支部のエースであるお前がここまで出張ってきた――――――やはり”アルマータ”相手だからか。」

複雑そうな表情で答えたエレインの様子をアニエスが心配そうな表情で見守っている中、ヴァンはエレインの目的を確認した。

「ええ――――――その通りよ。本来、民間人の安全が脅かされない限り、ギルドは裏勢力方面同士の争いには干渉しない。例外も多いけど、各勢力もその一線を越えないように暗闘する事が多いの。」

「はい……戦士団もそこは気を付けているみたいです。」

エレインの話にフェリは真剣な表情で頷いて答えた。

「ふふ、そう……貴女のような女の子に言われるのはちょっと複雑だけど。――――――話を戻すけど、その一線を平気で踏みにじる組織が数年前に現れた。それが――――――」

「”アルマータ”、ですか……」

「聞いていると思うけど、これまでカルバード両州の裏社会は黒月が一強だった。共和国滅亡後は”ラギール商会”も勢力を広げてはいるみたいだけど、彼らの場合は黒月と違い、商人としての立場の方を重視していて、自分達の商売の邪魔さえしなければ暗闘を積極的に行うということもしないわ。そんな仲、アルマータも中規模程度の白人系マフィアの一つに過ぎなかったの。分岐点となったのは8年前――――――ボスだったエンリケという男が裏社会で下手を打ったことよ。……そのあたりの事情は、貴方のお友達の方が詳しそうだけど。」

「らしいな。俺も又聞きしたくらいだが。」

アニエスの言葉に頷いた後説明をしたエレインに視線を向けられたヴァンは頷いて答えた。

 

「そしてそのエンリケを粛正する形で組織を掌握したのが、当時の若頭……ジェラール・ダンテス――――――現アルマータのボスよ。」

「……………」

「……その人が……」

「……名前だけは聞いてるがそこまでヤバいヤツなのか?」

エレインが口にしたアルマータのボスの名を知ったアニエスとフェリが真剣な表情を浮かべている中、ヴァンはエレインに訊ねた。

「たった数年で組織の規模を何十倍にも拡大させた手腕……最高ランクの”裏”の使い手たちを部下として従わせているカリスマ性。そして本人の圧倒的な実力と何よりもあの異常な精神性……」

「……?まるで実際に会ったことがあるような口ぶりだな。」

ヴァンの問いかけにエレインは静かに頷いて話を続けた。

「一度だけ――――――本人は名乗っていない上に姿は光学迷彩でよく見えなかったけれど。ジェラール本人と思わしき人物と遭遇してやり合ったことがあるわ。……あの時、彼を捕らえられていればどんなに良かったことか……でも実際には……何もできなかった。今思い返しても背筋が凍る程底の知れない男よ―――――あいつは。」

「お前にそこまで言わせる相手か……」

「ええ……そしてギルドや警察はここ数年アルマータを探り続けている。多分GIDも――――――恐らく黒月に、他の裏の勢力なども。でも内偵は悉く失敗し……犠牲になった遊撃士や捜査官も一人や二人じゃないわ。」

「あ……」

「……そこまで、ですか。」

「……………」

エレインの説明を聞いたアニエスは不安そうな表情を浮かべ、フェリは表情を引き締め、ヴァンは真剣な表情で黙り込んでいた。

 

「―――――”A"の幹部だけど、貴方達が遭遇した”メルキオル”以外にも何人か確認されている。恐らく一部は煌都入りしてるでしょう。ヴァンはともかく、フェリさんもまあ百歩譲るとして―――――アニエスさん。一般人の貴女はどう考えても危険よ。アラミスは名門――――――どうして多忙な学生生活の合間にこんな事をしているの?」

「わ、私は………」

エレインの問いかけに対してアニエスは複雑そうな表情で答えを濁してヴァンに視線を向けたが、ヴァンは答えを任せるかのようにアニエスに視線も向けず何も言わなかった。

「……詳しいことは言えなくてすみません。ですが私には、ある事情があります……その事情は私を縛り、萎縮させ、色々なものを諦めさせるものでしたが……ヴァンさんに相談して、お仕事に関わらせてもらって、フェリちゃんとも出会えて――――――世界が広がった気がするんです。本当に自分がやりたい事、……在りたいと思える自分――――――完全にとはとても言えませんが少しずつ見えてきたものがあります。……他にも直接的な事情もありますけど、それが、お手伝いしている最大の理由です。」

「…………………」

「アニエスさん……」

「ハン………」

アニエスの話を聞いたエレインが目を伏せて黙り込んでいる中フェリは静かな表情でアニエスを見守り、ヴァンは鼻を鳴らして黙り込んだ。

 

「……納得はできないけどこの場に貴女を説得するのは難しそうね。わかった――――――今回の件についてはこれ以上の口出しは控えるわ。ただし、くれぐれも慎重に行動すること。――――――フェリさん、貴女もよ?」

「は、はいっ!」

「了解です!」

「そうそう、怖〜いお姉さんの助言はちゃんと聞かないとなぁ。」

エレインの忠告にそれぞれ頷いた二人にヴァンは笑顔でエレインの忠告に同意したが

「当然、貴方もよ?」

「はい………」

威圧を纏ったエレインに微笑まれると疲れた表情で肩を落として答えた。

 

「お待たせしました――――――デザートの三不粘(サンプーチャン)でございます。」

するとその時料理長がデザートをヴァン達の所へと持ってきた。

「来たかっ!」

好物であるデザートの登場にヴァンは思わず嬉しそうな表情で声をあげた。

「わぁ、綺麗な金色ですね。それに不思議な形……」

「プルプルしてます……!」

興味津々でデザートを見つめていたアニエスやフェリはデザートを一口口にした。

「……!この食感……」

「〜〜〜っっ〜〜………」

「ふふ……甘さも絶妙ね。」

「三不粘(サンプーチャン)……皿につかない、箸につかない、口につかない幻のデザート……濃厚で香ばしい味わいなのに少しもくどくない優しい甘さ、そしてこの不思議な食感……!――――――うおおおおおっ!こいつはデザート界の民主革命やでええっ!!」

アニエス達がそれぞれデザートの美味しさを味わっている中真剣な表情で詳しく解説をしたヴァンはその場で声を上げた。

 

「はいっ、おいしすぎますっ!」

「えっと……昔からなんですか?」

ヴァンの言葉にフェリが同意している中目を丸くしてヴァンを見つめているエレインにアニエスは確認し

「うーん、小さい頃はそうでもなかったんだけど……」

アニエスの確認に対してエレインは苦笑しながら答えた。

 

夕食後、店の前でエレインと別れたヴァン達はバスに乗って新市街から東方人街へと戻り――――――まだ宵の口だったが初日の疲れもあったため、そのままホテルに戻り、一日目の行動を終えたが誰かからの通信が来るとアニエスとフェリ、アニエスが呼んだメイヴィスレインの3人がホテルの部屋で和気あいあいとしている中、一人でホテルを出てどこかへと向かった。

 

 

〜酒場〜

 

「フラッシュ――――――俺の勝ちだな。」

「ちっ、今夜はいけると思ったが……」

ジャックとある”賭け”をしたポーカーに負けたヴァンは舌打ちをして疲れた表情で肩を落とした。

「さすが搦め手で食い下がりやがったが最後のオールインは勝負を焦り過ぎたな。これで今回の情報料はダブル、異存はねーな?」

「はいはい、アンタの酒代に貢献してやるよ、たく。」

ポーカーを終えた二人はそれぞれが頼んだ酒を飲みながら世間話を始めた。

 

「話は変わるが、エレイン嬢ちゃんが来てるそうじゃねえか?」

「そういや知り合いだったか……ああ、夕方来たらしい。」

「クククッ。」

「なんだよ、気色悪いな。」

「モテる男は大変だって思ってな。色々板挟みで大変なんじゃねーか?」

「はぁ?夜なのにまだボケてんのか。つーか人の事言えんのかよ。例の曰く付きの昔馴染みっつーのは――――――」

からかいの意味を込めたジャックの指摘に対して眉を顰めたヴァンはジャックに対する反撃の指摘をし

「やめだ、この話はやめ!」

ヴァンの指摘を聞くとジャックはすぐに話を打ち切った。

 

「なになに、何の話?」

その時ハルが近づいて二人に声をかけた。

「しっしっ、男の話に首を突っ込むんじゃねえ。夜のお楽しみ情報だ。」

「こ、これだから男ってのは……!バーカ!」

女性にとって聞きたくない話をしてハルをその場から離れさせたジャックはテーブルにある情報が書いてあるメモの紙切れを置いた。

「昼間よりディープなネタだ。あの嬢ちゃんたち、特に金髪の方にはちっと刺激が強いかもしれねえが。」

「だから一人で来たんだろうが。」

ジャックの念押しに答えたヴァンはメモの紙切れの内容を確認した。

 

「(”A”と繋がりのあるイカサマ師か……確かに厄介そうな案件だな。)そんじゃ、またな。」

メモの内容であるアルマータも関係するジャックからの4spgを確認したヴァンはメモをポケットにしまってその場から去ろうとした。

「一人で行くのか?」

「ああ。」

「いくらお前でも、この状況下で夜の一人歩きはオススメしねえな。冗談抜きに、エレイン嬢ちゃんでも誘ったらどうだ?」

「それこそ冗談だろ……今更どのツラをさげて……」

ジャックの助言に苦笑を浮かべたヴァンは少しの間黙った後立ち上がった。

「とにかく慎重に動くさ。鼻が利くのが取り柄だからな。」

「フッ、違いねぇ。適当に頑張れよ、裏解決屋(スプリガン)」

そしてジャックからの4spgを開始したヴァンが情報を集めているとある人物がヴァンに声をかけてきた。

 

〜東方人街〜

 

「精が出るな、オッサン―――ちょっと見物させろよ。」

ヴァンが自分に声をかけた人物へと視線を向けると、声をかけた人物はアーロンだった。

「アーロン・ウェイ……またイチャモンを付けに来たのか?」

「ハッ、アンタが懲りもせず色々と嗅ぎまわってるみたいなんでな。本来ならこの街で勝手な真似はさせねえトコロだが……昼間のこともあるしな。”裏解決屋”ってのに少し興味が湧いた。っつうわけで、今からオッサンの仕事に同行させろ。――――言っておくが、拒否権はないぜ?」

「……そういう話か。(まあ、丁度良かったと言えば丁度良かったが。)いいだろう、だが代わりにお前の連れの話を聞かせてもらうぜ。」

アーロン自身からの強制的な同行の申し出に頷いたヴァンはアーロンに、ジャックからの4spg――――――玄人イカサマ師コンビを追っている事を説明した。

 

「へえ、オッサン、あのクソ野郎どもを追ってんのかよ。確かに奴等には借りがあってな。シドの奴が有り金を全部、毟り取られたって聞いてる。誂え向きとはこのことだ――――――かたき討ちと洒落込ませてもらうぜ!」

「いくら何でも気を急かすぎだろ。今はまだ、そのイカサマ師コンビの情報を探ってる段階だ。何か他に知ってることはないのか?」

「オレも詳しいことは知らねえ。よし、ならさっそくシドに聞きに行くとすっか。あいつらなら、今は華劇場の前でたむろってるはずだ。」

ヴァンの問いかけに答えたアーロンは華劇場に向かい始め

「やれやれ、忙しねえ小僧だぜ。」

アーロンの行動に溜息を吐いたヴァンはアーロンの後を追い始めた。

 

その後アーロンと共に情報収集したヴァンは公園で今後の動きについての話し合いを始めた。

 

〜公園〜

 

「さて、これからどうすんだオッサン。ホテルに乗り込んで締め上げるっつうなら力は貸すが。」

「……今それだけ派手に騒いでみろ。場を収めるために、黒月にデカイ借りを作る事になるのは明白だ。そうなると、俺は身動きが取りづらくなるんでな。――――――ここはあえて相手の土俵に乗る、ってのはどうだ。」

「相手の土俵、つまりギャンブルか?」

ヴァンの提案にアーロンは目を丸くして確認した。

「ああ、そうだ。」

「ククク――――――やっぱオッサン、アンタ面白えわ。オレも考えはしたが、シドと組んでも分が悪そうだったからな。そういうからには、博打の腕前に自信はあるんだろうな?」

「ま、それなりにな。ちなみにジャックから聞いたが――――――お前、ジャックたちに3回に1回は勝つんだってな。俺なら5回に2回は勝つ、って言ったらどうだ。」

「ハッ、さらっとマウント取ってんじゃねえよ。だがまあ、ブラフってわけでもなさそうだな。」

「ま、あくまで客観的に言ったまでで過信はしてねえつもりだ。だが少なくとも、相手は二人ともハルに匹敵する腕前を持つギャンブラー。つまり俺とお前が組んでもまだ分が悪い……となると、ジャックとハルの力を借りるべきだろうな。」

「クク、なかなか冷静じゃねえか。」

「お前の方こそ、もう少し勢い任せなガキだと思ってたんだがな。”羅州の小覇王”の名も伊達じゃねえってことか。」

「そいつはどーも。俺だってなるべく無駄な抗争は避けてえ気持ちはある。東方人街の奴等は俺にとっちゃ家族みてえなモンだし、姉貴にも迷惑を掛けたくないからな。」

「ハルも言っていたが、義理の姉には結構気を遣っている事もそうだが、東方人街の連中も大切にしているんだな。」

アーロンの姉思いな部分を知ったヴァンは目を丸くして指摘した。

 

「ガキの頃にオフクロを亡くしてな。だがそんなオレを、街の連中は変わらず迎えてくれたし、何だかんだで黒月にも世話にはなってる。姉貴も行き倒れの自分を拾ったオフクロへの恩は魔術でオフクロを1年生き長らえさせた件で十分返したのに、オフクロが亡くなった後も血が繋がってない俺を本当の家族のように接して今まで大切に育ててくれた。新市街の金持ちやエリート連中もそうだが、黒月の一部の幹部やチョウのような有能な若い連中からもモテていた姉貴なら、その気になれば結婚して相手の金で楽な生活を過ごす事もできたのによ。」

「魔術でお前のお袋さんを1年生き長らえさせたって………ルウ家のお嬢さんからお前の義理の姉は異世界の”迷い人”で魔術を扱えるという話は聞いていたが、治癒系の魔術でお前のお袋さんを生き長らえさせたのか?」

「ああ。そのお陰でオフクロは医者から告げられた本来の寿命より1年も生き長らえる事ができたし、姉貴の魔術によって病気による痛みを感じる事なく最後まで普通の生活をしながら過ごせたし、最後を迎える時も笑顔を浮かべての大往生だったよ。姉貴は”イーリュン”の信者連中と違って治癒の魔術は専門ではないから、オフクロの病気を治せず、病気による痛みを抑えて少しの間だけ生き長らえさせるのが限界であった事に俺やオフクロに謝罪したが……オフクロもそうだが俺も姉貴には感謝していたから、無用な謝罪だって言ったがな。オフクロを生き長らえさせてくれた件もあるが、病気になったオフクロが最後の時を迎えるまで俺と共に過ごせたのは姉貴による治療と稼ぎのお陰だったからな。」

ヴァンの質問に頷いたアーロンはある人物――――――マルティーナの事を思い浮かべて苦笑した。

「なるほどな……その件もあるから、お前さんは今でも毎年欠かさず誕生日プレゼントを贈る程義理の姉の事を大切にしているのか。」

「ったくハルの奴、そんなことまで喋ったのかよ。――――――話を戻すがオフクロ込みで良くしてくれてた爺さんがいつしか俺と姉貴を煙たがるようにはなったが……」

「ふむ……」

「―――――とにかく、街の連中と姉貴のために俺は俺のやることをやるだけだ。ただし誰も俺を束縛できねえ。やりたいようにやらせてもらうがな。」

「へっ、そうかよ。」

「つうか何をペラペラと……いいから早く本題の話をしろや。」

「ああ――――――」

その後ヴァンはジャックやハルの協力を得て、アーロンと共に玄人イカサマ師コンビ相手にギャンブルで勝利し、勝利後逃亡した玄人イカサマ師達を戦闘で制圧し、黒月に引き渡した後東方人街への帰り道を歩いていた。

 

〜新市街〜

 

「ふう、少し手こずったが何とか片付いた良かったぜ。――――――お前、このあたりで深夜でやってる公衆浴場とか知らねえか?サウナとかありゃ最高なんだが。」

「あー、東方人街の2番街だったらワン爺さんの銭湯があるが……クク、あの程度の切った張ったでまさか疲れちまったとか言わねーよな?夜はまだまだこれから――――――むしろ3日連続オールくらい普通だろ。」

「あのな……まだ10代のガキと一緒にすんじゃねえよ。」

アーロンの指摘に対してヴァンは呆れた表情で答えた。

「おっと、そいつは失礼。そんじゃあ療法院の按摩あたりを代わりに勧めとくぜ。ああ、アンタくらいの年齢は筋肉通は数日後に来るんだったか?」

「そこまで歳食ってねえよ!!」

からかいの表情を浮かべて指摘してきたアーロンに対してヴァンは顔に青筋を立てて反論した。

「ったくクソ生意気なガキだな。……ま、さっきの手際は中々だったが。義理の姉とは違って定職には就いてねえみたいだがやっぱいずれは黒月入りすんのか?」

「……………………」

「……?どうした。」

将来について訊ねたヴァンだったが何も答えなかったアーロンが気になり、再び訊ねた。

 

「ハン……別にアンタには関係ねえだろ。」

「そりゃそうだが……そうだな。俺は煌都はたまに寄るくらいの余所者だ。そういう相手だからこそ言える、どうってことのねぇ戯れ言や世迷い言……――――――そんなモンもあるんじゃねえかと思ってな。」

「………ハ。」

ヴァンの指摘に対して少しの間黙ったアーロンは鼻を鳴らした後東方人街方面を見つめて話し始めた。

「―――――別に不満なんて何もねぇ。煌都での暮らしも、皆と馬鹿騒ぎすんのも。舞台はたまに出る分にはアガるし、姉貴や亡くなったオフクロとの想い出もあるしな。」

「…………………」

「黒月もムカつく連中はいるがアシェンの家も含めて馴染みも多い。……ま、さっきも言ったように最近ちょいと疎遠な爺さんもいるが。チョウはクロスベルでの暗闘でヘマして死んだツァオ同様胡散臭ぇがキレるのは間違いねぇし、頭角を現してんのは組織として健全な証拠だ。てめえがどこまでやれんのか、入って腕試しすんのもアリだろう。……ただ――――――……」

「たまにふと、思う時がある。ここに居ていいのか、……自分の居場所はここなのか。」

「っ………」

話の続きを濁すと代わりに答えたヴァンの言葉を聞いたアーロンは驚いてヴァンを見つめた。

 

「ま、モラトリアムってヤツだ。多かれ少なかれ、誰だって通る。ただまあ――――――お前の場合はちょっと俺に似てるのかもしれねえな。大好きだからこそ離れるしかねえ……愛してるからこそ伝えられない言葉が。」

「アンタ…………クク、映画かなんかの台詞か?顔に似合わずロマンチストじゃねえか。」

ヴァンの指摘に対して目を丸くしたアーロンは苦笑しながらヴァンを見つめて指摘し返した。

「顔に似合わずは余計だっつの!――――――ただま、自分の居場所なんてどこにだって作れるってことだ。此処ではない何処でだろうが、巡り巡って還ってきた場所だろうが。選ぶのはそいつ自身だ―――――違うか?」

「……違わねぇ。てめえとは一リジュたりとも被ってるわけじゃねえが……たまにふと、昏い穴がぽっかりとすぐ足元に開いてる気分になる事がある。根拠があるわけでもねえ……ただの気の迷いか疲れなんだろうが。そんな時、ダチどもや姉貴たちの顔、街の賑やかな明かりも霞んで見えて…………反吐が、でるような気分になっちまう。」

ヴァンの問いかけに同意したアーロンは真剣な表情で自身の心情を答えた。

「……そうか。お前、本当に煌都が――――――生まれ育った街の事が大好きなんだな。そんな風に一瞬でも思っちまう自分自身が許せなくなるくらい。」

「ああ、悪いかよ……!だからこそ許せねえ!半グレどもも、アルマータってのも!悠長に静観してやがる黒月の連中も!俺は俺自身に証明する―――――ダチと共にこの街を守ることによって!俺がこの街に居てもいいんだって!―――――みんなと一緒でもいいんだって!!……その意味じゃギルドやエレボニアの連中と同じくてめぇらも邪魔だ。改めて実力は見させてもらったし、正直、なかなか面白そうな仕事だぜ。だが、それとこれとは話が別だ……―――――”やっぱり退いてもらおうか?”」

「ったく……そういうのは嫌いじゃねえが。お前、一つ忘れてねぇか?」

アーロンに睨まれてある要求をされたヴァンは溜息を吐いた後ある指摘をした。

 

「は……?」

「俺が”裏解決屋”だって事だ。確かにチョウの依頼で来ちゃいるが……あくまで4spgの出張対応で来ただけで”お前を止めろなんて言われちゃいない。”」

「!」

「そして俺は誰からの、どんな依頼でも請ける。そこに幾許かの”筋”がある限りはな。―――――”使命”を背負わざるを得ねぇお堅いギルドと一緒にしないでもらおうか?」

「………そいつは………」

ヴァンの主張と指摘に驚いたアーロンが目を丸くしたその時

「ヴァンさん!」

「見つけましたっ!」

アニエスとフェリがヴァンに声をかけてエレインと共にヴァン達に駆け寄った。

「お前ら……!?」

「っ………ハっ……見つかっちまったなぁオッサン。夜遊びがバレた亭主の気分かよ?」

「だからオッサンじゃねえ!」

アニエス達の登場に驚いているヴァンの様子を見て思わず吹いたアーロンはからかいの表情で指摘し、指摘されたヴァンは疲れた表情で反論した。

 

「ハルさんたちから話を聞いて……もう、心配したんですから!」

「そうですっ……!――――――って、あなたは………」

アニエスの言葉に頷いたフェリはアーロンに気づくと驚きの表情を浮かべた。

「いや、これはだな……――――――つーかエレイン、なんでお前まで居やがるんだ?」

アニエス達に事情を説明しようとしたヴァンだったがエレインに気づくと困惑の表情でエレインに訊ねた。

「夜の巡回に出ようとした所でたまたま会っただけなのだけど。それにしても仲良くなったわね?……夜遊びで意気投合したのかしら。」

「……!?」

「よあそび……」

ヴァンの問いかけに答えたエレインはヴァンとアーロンを見比べてジト目で指摘し、エレインの指摘を聞いたアニエスとフェリはそれぞれヴァンを見つめた。

「なわけねえだろ……」

「クク―――――いや〜、さっきまで二人してかなりの上玉と熱い時間を過ごしてなぁ。なかなかタンノーさせてもらったぜ♪」

エレインの指摘にヴァンが否定するとアーロンはからかいの表情で嘘を口にした。

 

「ってオイッ!?」

「じょ、上玉……」

「……熱い時間……」

「…………………ヴァン?」

アーロンの嘘にヴァンが声を上げている中アーロンの嘘を信じた3人はそれぞれヴァンにとって痛い視線をヴァンに向けた。

「クク、良いオチがついた所で一足先に帰らせてもらうぜ。アンタらと対立するつもりはねぇが俺達の邪魔だけは許さねえ……それさえ弁えるんだったら―――――」

ヴァン達の様子を面白そうに見ていたアーロンがヴァン達に念押しを仕掛けたその時、アニエスが身に着けている小さなポーチの中にあるゲネシスが反応した。

「え………」

「……その光……」

(……なんだ……?)

ゲネシスの反応にアニエスが呆け、エレインが驚き、アーロンが戸惑ったその時

「チッ……」

「!?―――――皆さん!」

何かに気づいたヴァンは舌打ちをして厳しい表情を浮かべ、フェリがヴァン達に警告をしたその時東方人街は突如霧らしきものに包まれ始めた―――――

 

 

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第20話
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エウシュリーキャラも登場 ディル=リフィーナとクロスオーバー 他作品技あり 空を仰ぎて雲高くキャラ特別出演 黎の軌跡 

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