ウイークエンダー・ラビット 〜パーフェクト朱墨の山〜 7.決断だっ!
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「まあ、待ちなさい」

 全自動こん棒修理マシンを使おう。

「もうちょっと考える時間が欲しい、という気持ちもでてきたよ。

 まず、これの動くところを見てもらいましょう」

 修理マシンを動かすには、お金を入れなきゃならない。

 さて、そのお値段は……アレ?

 

ボソッ「まっ お高い……」

 

 中学生には、あまりに高い壁だよ!

 そうだった。

 このマシンには、地元の伝統工芸技術を惜しげも無くつぎ込んだ。と先輩は言ってた。

 ここに人が並ばないのは、そういう訳もあったんだ。

 そうだ、バーコード決済でなら払える。

 でも、決意とはウラハラに、手がかじかむように動かない。

 どうしよう。

 

「おい佐竹くん」

 その時、男の人に、呼びかけられた。

 ポルタ社のブースからだ。

「社長夫人の調子がおかしいと気づいてくれたそうだな。

 社長に代わって、礼を言う」

 タイトなスーツを着こなした、引き締まった背の高い人だ。

「昴先輩」

 身長2メートルある上から、やさしく見下ろしてくる、鋭い金色の目。

 肩までかかったストレートの銀髪。

 狩?弥 昴(かるてきや すばる)先輩はポルタ社の副社長。

 ひとみと髪のコントラストが、コスモスみたいで素敵なの。

 そうだ、この人も暗号世界ルルディの出身だった。

 でも、付き合いは長くて深いの。

 魔術学園への交換留学生としてやって来て、そこで同級生だった真脇 応隆先輩やボルケーナ先輩と出会い、ポルタ社を立ち上げたメンバーなの。

 私のあこがれ。

「社長は、ボルケーナを迎えにいったよ」

 そうですか。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

 私の、イタイタしい想像が起こらなかったことを、天に感謝します。

 安菜がボルケーナ先輩のあの長いシッポをにぎり、ブンブン振り回しながら歌うのを。

 でも先輩は昔アイドルを志していたそうだから、ノリノリでやりそうな気もするけど。

 やっぱりイタイタしいイメージが。

 

――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――◆――

 

「ところで、このマシンを使いたいのかな?」

 そ、そうです。

「じゃあ、俺が払う」

「いえ、ここは私が払います」

 キッパリと断った。

「私がやるから伝わることが、あると思うんです」

 昴先輩は、ビックリした顔になった。

 結構かわいいんだ。

「わかった。じゃあ、お礼は別のかたちで。今日中に用意するからね」

 みとめてくれた!

 とたんに胸が熱くなる。

 成功したんだ。

 私はスマホを……えいっ!

 

 マシンが動きだす。

 若干の期待を込めて、この場の最年長者であるおじさまを見た。

 あいかわらず男の子を見つめてる。

 私は可能な限り、目を吊り上げて。ギロッ!

 男の子は、朱墨ちゃんを向いて。

「ごあいさつが遅れて、申し訳ありません!」

 そう言って、頭をさげたの。

「団長……」

 おじさまは男の子を見て、それだけ呟いた。

 

 スゴイや!

 この団長、度胸があるね。

 目や鼻だちがシュッと、ととのってる。その顔形がわかる。

 恐怖に飲み込まれたなら、顔なんかクシャクシャになるよ。

 いまも泣いてる、おじさまのように。

「シロドロンド騎士団長、アーリン アルジャノン オズバーンです」

 対する朱墨ちゃんも、キチッとしてカッコいい。

「百万山比盗_社、陰司宮B小隊ホクシン・フォクシス隊長、九尾 朱墨です」

 ヒャクマンサンヒメジンジャ、カゲツカサグウBショウタイ。

 久しぶりに聞いたよ。この肩書き。

「私のような下賎なもの……のような謙遜はいらないですね?」

 アーリンくん、一瞬キツネにつままれたような顔になったけど。

「そうですね」

 頭を下げてそう答えた。

 落ち着いた感じでよかった……。

 私は、説明をしよう。

「これを見れば、ボルケーナ先輩が何に情熱をかたむけたかが、わかると思います」

 全自動こん棒修理マシンから、機械の腕が伸びてくる。

 おれた、こん棒の破片をコンテナからつかみだす。

 その瞬間、ちなまぐさい匂いを感じたような気がした。

 きっと気のせい。

 でも、背筋に一瞬震えが走った。

 センサーに見ぬかれた、こん棒のおれた仲間。

 地球に落とされて真っ二つに折れたそれを、これから直すよ。

「先輩が力を借りたのは、ウルシ漆器です。

 隣の市の名産品なんです。

 この地域の子どもなら、一度は見学をするから、説明できると思いますよ。

 アバウトになりますが、そこは許してください」

 周りに小さな機械腕がたくさん伸びてくる部屋へもっていく。

 くるくる回る小さな電動やすりが、割れ目の木バリを取っていく。

「さ、佐竹さん、質問があります」

 おつきの男の人が、声をかけてきた。

 私の名前に,,さん,,をつけるのさえ、迷ったような声。

「ウルシとは、なんですか」

 おびえた声だよ。

 聞いた騎士団員から、ギョッとしたような、とがめるような視線が彼にふりそそぐ。

 さみしい。質問できる人にできないなんて。

 こんなものが礼節であっていいわけがない。

 この人たちから、おびえを取りのぞくには、どうしたらいいんだろう。

 まずは、声に応えよう。

「木の名前です。皮に傷をつけると樹液が取れます。

 それを木のお椀などにぬって、丈夫で美しい漆器にします。

 この樹液や木そのものには毒があって、触れるとかぶれます」

 表面にある汚れや飾りが、とれていく。

 赤黒いシミ。

 ブラシが削り落す。

 あれは、武器として使ったあとかもしれない。

 数日おいたハンターの血が、あんな感じだった。

 それもMCOを込めるのに必要だと、考えたのかな。

 戦争で使ったこん棒を、お寺に奉納する。

 確かにありそう。

 表面にならぶ突起からも汚れが落ちて、白い色が見えた。

 あれは、歯かな。人間の歯かな。

 倒した敵の歯を、こん棒につける。

 どこかの国のこん棒に、そんな作り方があったと思う。

 ……こわい!

 ドリルが突起の根元をけずって、小さな手が引き抜いていく。

 こん棒の表面からは、汚れとはべつに、液剤を吹きかけながら薄い長いものがはがされていく。

 お札かな。

 お札や歯、らしきものは、別の部屋へ運ばれて洗浄される。

 こん棒は、きれいな木目を見せはじめた。

 二つの間に、茶色い粘液がぬられていく。

「あのネバネバしたものが、ウルシです。

 本来ならウルシがかわくのに、数日かかります」

 こん棒が、ベルトコンベアで時間加速ルームへ運ばれる。

「乾かすのを一気に進めるのが、時間加速ルーム。ボルケーナ先輩の力です」

 扉が閉まり、メリーオルゴールのようなシンプルなメロディが流れた。

 ベビーベットの上でクルクル回るおもちゃのように、ポロンポロンと。

 ベルトコンベアが戻ってくると、こん棒は一つになっていた。

 割れ目は、本来長い時間がかかるはずの黒さでくっついている。

 再び機械腕が動きだす。

 小さなカンナで、表面を削っていくの。

 するすると、カンナクズが流れていく。

 次に現れたのは、薄い黒いリボン。

 くるくると巻き付いていく。

「あの黒いリボンは、炭素繊維です。

 もとより丈夫にしてくれますよ」

「佐竹さん」

 アーリンくんが、おずおずと尋ねてきた。

「炭素繊維は、こちらの世界でも新しいもののはずです。

 霊的な使われ方をするのに、技術が確立しているのですか?」

 やっぱり、そこが気になりますか。

 いい傾向だ、よね。

「ゆるキャラにも使われてますから」

 アーリンくんはオズオズとうなずきながら下がっていった。

 ……本当にいいのだろうか。

 炭素繊維のリボンは、器用に歯の入る穴をよけてまかれていく。

 巻き終わったところには、筆やヘラでウルシがぬられていく。

「スムーズだね。本当に」

 朱墨ちゃんもそう思うんだね。

「先輩の人柄がわかるでしょ。

 機械は旦那様の、漆器は職人さんの技術が必要だったはず。

 それをしっかり結びつけるのは、あの人の人徳なのよ」

 誇らしい、という気持ちが、少し心を軽くしてくれた。

 朱墨ちゃんも、そうだといいな。

 こん棒は薄く塗りおわり、茶色になった。

 再び時間加速ルームに入っていく。

「乾燥したら、磨き、ウルシ塗り。それをくりかえします」

 お札と、歯がやってきた。

 紙は白く、絵も色鮮やかになってる。

 デコボコした、たぶん空へ真っ直ぐのびた棒。

 その先にはモコモコと広がるものが、立体的に描かれている。

 あれは、聖なる木だね。

 歯も、真っ白。

 歯の入っていた穴が、再びドリルで開けられる。

 新しいウルシでしっかり固定される。

 お札も張りなおされ、最後に全体がウルシでコーティングされた。

 最後の時間加速。

 そして、磨き上げられていく。

「これで完成です」

 ベルトコンベアから取りだしたそれは、ツヤのある黒みを帯びた茶色。

 しっかりとした輝き。

 さわり心地は、なめらかで気持ちイイ。

「佐竹さん、不調法でも押し分けないのですが」

 次に訪ねてきたのは、おつきの女性騎士。

「ウルシ漆器のことについて、少し調べたことがありました。

 確か、金ぱくや貝殻を砕いたもので装飾を施していたと思うのですが。

 ウルシにも、色を付けていたはずですが」

 だんだん元気がでてきたみたい。

「もともと施された魔法を、邪魔しないためだと聞いてます。

 魔法陣に勝手に手を加えてとんでもない結果になることは、ありますから」

 魔法の力というのは、機械を狂わせることが多いんです」

 修理マシンのとなりに、自動販売機がある。

 別売りのケースをこん棒のサイズに合わせて選んでくれる。

 こっちの支払いは、前ほどストレスを感じなくてよかった。

「それで、このこん棒はどうするんですか」

 女性騎士が再び聴いてきた。

 きやすく質問してくれるのは、いい変化だな。

「いわゆる、お守りです」

 イタい出費なのは変わらないけど。

 出てきたのは、野球バットのケースだった。

 それに収めてから、説明を続ける。

「機械で使えなければ困るものといえば、まずスマホです。

 ケータイとも言います」

 私のを見せながら、続ける。

「遠くの人とも連絡をとるための機械です。

 景色を写し取って、送ることもできます」

 説明していて、不安になってきた。

 これで意味が通じているのかな?

 暗号世界の人に似たようなことは何度もやっているけど、何度も不安になるよ。

「これが使えるだけで、生き延びる可能性は格段に高まります」

 ここは事実。力を込めて伝えた。

 私はアーリンくんに近づく。

「この世界には、異能力者は少ないし、専門の教育を受けていない人もたくさんいます。

 でも、そういう事件に巻き込まれる人はたくさんいます」

 そこで、こん棒をわたす。

「これは、さしあげます。

 だれか、必要としている人にわたしてくれたら、うれしいです」

 アーリンくんは、受けとった。

「心して、受け取らせていただきます」

 そう、力強くうなづいた。

 きっと、これが本来の彼なんだ。

「感動した!!」

 ビックリした!

 パチパチと大きな拍手とともに、叫ぶ声!

 昴さんだ。

「ピーンと閃いたことがある。

 佐竹くん。これを今日のお礼にしたい。

 今日は無理になったけど細かい点は、次の機会に知らせるよ」

 昴さんは、そう言うと説明が必要そうなお客の方へ向かっていった。

(一体なんだろう)

 と思ったら、「そう言えば」と言いながら振り向いた。

「地球と接触を持った暗号世界は、約7割がノーマルには使えない物を持ってるんだ。

 俺もそんな世界の出身だ。

 だから、言いきれると思う。絶対挽回できる」

 そう言うと、お客に向かっていく。

(そうだ。そうですよね)

 心の底からカッコイイと思いながら、昴さんが期待をかけた人たちを見る。

「それで、何ができるか、決まった?」

 朱墨ちゃんがアーリンくんに話しかけてる。

 さっきの、ロボルケーナの件とは180度ちがう、親しげな様子で。

「まだ、アイディア段階ですけどね。

 人が大勢関わることだし、すぐには答えられません」

 自分の不利になりそうなこと。

 それでも、はっきり口にだしている。

「それでも、われわれは……」

 

説明
 僕、神さまって案外おしゃべりって気がする
 おみくじの一番上にある和歌は、神さまの言葉なんです
 だから、謎を隠すギミックとして、神さまは適切じゃない気がします
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