白、コート、雪、年越し。
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息を吐くと、白い息がぼわわーと宙に浮いた。今日は一段とよく冷える。私よりも寒がりな彼が今の私の状態だったらきっと凍死してしまうんじゃないか。そんな事を考えながら、もう一度息を吐く。やっぱり、白い息が宙を舞った。ここ数年は雪があまり降ってくれない。東北の方ともなればきっとこの時期は雪でいっぱいなんだろうけど、残念ながらここは関東な訳で。雪が降るとしても一月二月頃に、みぞれがほろほろと落ちてくるだけ。

幼い頃は雪が好きで、幼馴染の彼と一緒にバケツに溜めて遊んでたっけ。雪だるまを作ればどっちが大きいか比べて。ソリで遊べば転げ落ちた方を宥めて。飴を持ってきて、「カキ氷ー」だなんて言って食べた事もあったっけ。懐かしい記憶が妙にくすぐったくて、一人で微笑んでしまった。もう一度、息を吐く。白い息が、ぼわわーと宙に浮いた。寒い。早く来てはくれないだろうか。

頭のはるか上にある時計の短い針は既に11を回っていて、長い針が動くと、それ=私がここにいる時間という事になる。もうすぐ32分だ。まだかまだかと待ってはいるのだが、彼はやはり来てくれない。そう、待ち合わせ時間が11時で、私はここで32分の遅刻を待っているのだ。…普段ならそれくらいどうだって良い。彼はいつもねぼすけで、私は待ち合わせ場所で彼を待っている。でも、今日のこの時間はもうすぐ終わってしまう。今日は"時間制限"があるのだ。いや、今日だけでなく、"今年"が終わってしまう。その前に彼が訪れてくれないと困る。

かち、と大きな音がして、33分になる。早く来い、早く来い。心の中でぼそりと喋る。気付けば声が出ていたようで、白い息が、また宙に浮いた。白と黒しかない世界。私は一人で椅子に座っていた。後ろには時計台、前には山への入り口。彼との、いつもの待ち合わせの場所。早く来い、早く来い。何度も心で喋った。

たまに珍しく車のライトが差し掛かる事があったけど、それはほんの一瞬で、すぐに世界は白と黒だけで覆われてしまった。私が見に纏ってる真っ白なコートは最近買ったばっかりのコート。彼が「これならお前に似合うよ」と言って買ってくれたコートだ。私は本当は黒い服が好きだけど、彼は白い色のものが好きだった。だから、最初は文句を言ってみたけど、最終的にはそれを買ってもらった。もちろん最初は自分で買う予定だったのだけど、しかし彼は「俺が買う」と首を横に振るばかり。折れた私が、じゃあ、と言って買ってもらったのはまだ記憶に新しいもの。

さあ、まだか。と、もう一度時計に目を向けるが、針が二つ進んだだけで結局彼はまだ来ない。白い息がぼわわわ、と、一番多い量で宙に浮いていた。こんなに寒いのに雪は降らない。いっそ雪さえ降ってくれればテンションも上がるのに、それさえも許してくれない神様が憎らしい。寒いだけの今日は、自分を惨めにさせる。ああくそ。雪が降ったら告白でもなんでもしてやるよ。なんて小さく呟いた。これって死亡フラグなんだって、同じクラスの河内が言っていた気がして。馬鹿だ、だったらそんな誓いをしてしまったら、雪なんて降る訳がないじゃないか。一人でつっこみを入れた。

 

 

 

 

 

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2009年締めくくりの作品です!
皆さん、良いお年を^^
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