Kaikaeshi and Automata 5「赤マント」
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「はあ〜、昨日は結局見つからなかったねえ」

 翌朝。

 琴葉は光一郎と共に、学校へ向かっていた。

 昨日、学校中を探したが、赤いマントを羽織った男の子は見つからなかった。

 一年生だけではなく、他の学年のクラスも見た。

 それでも男の子はおらず、お楽しみ会をしているクラスもなかった。

「あの男の子は何だったのかな?」

「赤マントと関係なかったのかも。だけど」

 光一郎は答えが出ず、「う〜ん」とうなってしまった。

「けどまあ、変な騒動が起きたわけじゃないし、とりあえずはよかったよね」

 琴葉はホッとしながら、六年二組の教室に入った。

 

「あれ?」

 教室を見ると、黒板の前にみんなが集まり、険しい顔をしている。

「どうしたの?」

 琴葉が声をかけると、夏純が慌てて駆け寄ってきた。

「大変なの!」

「大変って??」

「由香里ちゃんが、昨日から家に帰ってないみたいなの!」

「えええ??」

 

「え〜、皆さん、瀬戸由香里さんの事で何か知ってる事があったら、どんな事でもいいので、先生に教えてください」

 終わりの会で、大山先生はみんなにそう言った。

 皆、今日はずっと由香里の事ばかり話していた。

 由香里が真面目な性格である事は、誰もが知っている。

 家出なんてするはずがない。

 それならば、考えられるのは一つだけ、何かの事件に巻き込まれたというものだ。

 昨日、由香里は学校が終わった後、家に帰ってこなかったのだという。

 母親は学校に残って塾の宿題でもしているのではと思っていたが、日が暮れても帰宅しなかったので、職員室に電話をかけたらしい。

 連絡を受け、大山先生を始め、何人もの先生達が由香里を探した。

 しかし、どこにもいなかった。

 警察にも既に連絡をしているのだという。

 

「由香里ちゃん、心配だよね……」

 帰り道。

 琴葉は一緒に帰っている夏純に言った。

「う〜ん……」

 夏純は何故か眉間に皺を寄せて、何かに悩んでいるような表情をしていた。

「夏純ちゃん、どうしたの?」

「うん、ちょっとね」

 夏純は、ふと琴葉の方を見た。

「やっぱり、先生に言った方がいいかも。由香里ちゃんの事」

「えっ、何か知ってるの??」

「知ってるというか、あれが由香里ちゃんだったのか自信がないんだけど……」

 夏純は昨日、母親に頼まれ、夕方、スーパーにお使いに行ったらしい。

 その道中、由香里らしき人物を見たというのだ。

「どこで見たの!?」

「交差点の近く。後ろ姿だったから、由香里ちゃんかどうかは確実じゃないけど、小さな男の子と一緒だったよ」

「小さな男の子??」

「うん、赤いマントを羽織った男の子」

「それって!」

 学校の廊下で見た男の子だ。

「どうして、由香里ちゃんがあの子と??」

 由香里の知り合いだったのだろうか?

 やがて、曲がり角で琴葉は夏純と別れた。

 夏純は今から学校に電話をして、先生にその事を話してみるのだという。

 琴葉は、その男の子の事が気になった。

 光一郎は、赤マントかもしれないと言っていた。

 だが、赤マントは大人の男の怪で、小さな男の子ではない。

(どういう事なの?)

 琴葉は頭を捻りながら、自宅の前まで帰ってきた。

 

「待ってたよ」

「赤マント」

「えっ?」

 見ると、家の前に、光一郎とユズが立っていた。

「瀬戸さんの事が気になって、学校が終わった後、町で聞き込みをしてたんだ」

「……そうしたら、赤いマントを羽織った男の子と一緒だったのを見たという人がいた」

「それ、私も夏純ちゃんにさっき聞いた!」

 どうやら光一郎とユズも、男の子の事を怪しんでいるらしい。

「もしかしたら、男の子は赤マントと何か関係あるのかもしれない。このままじゃ瀬戸さんが大変な事になってしまう」

「死ぬ?」

「大変って、赤マントは悪い怪なの?」

「噂によると、人間の生き血を吸うらしい」

「そんな!」

 赤マントは、テケテケとは違い、凶悪な怪のようだ。

「早く、由香里ちゃんを見つけなきゃ!」

「……話が早い」

 琴葉は通学バッグを家の玄関に放り投げ、光一郎とユズと一緒に由香里探しを開始した。

 

「確か、この辺りなんだけど……」

 しばらくして三人は、夏純が由香里を目撃したという交差点にやってきた。

「瀬戸さんの家はこの辺りなのかい?」

「ううん、家は駅の近くだよ」

 方向的には正反対だ。

 由香里は学校帰り、何をするためにここに来たのだろう?

「誰か、他に目撃者がいないか聞いてみよう」

 琴葉は、声をかけるために周りを見た。

「誰かいた」

 交差点の向こうに、大学生ぐらいのお兄さん達がいた。

 彼らは何故か辺りをキョロキョロしている。

「……何か見たのかな。気になる」

「何かを探してるみたいよね」

 琴葉達は、お兄さん達のもとへ行くと声をかけた。

「あの、何かあったの?」

「いやあ、友達が急にいなくなったんだよ」

「いなくなった?」

「ああ、赤いマントを羽織った女の人と一緒に、どこかに行っちゃったんだ」

「えええ??」

 彼らは、先ほど同じ大学に通う橋本という男友達の家に遊びに行ったのだという。

 すると、橋本が家から出てきて、「もう帰らない」と言ったのだという。

 家の傍には、赤いマントを羽織った髪の長い女が立っていて、橋本は彼女と共に去って行ったらしい。

 お兄さん達は心配になり、すぐに追いかけたが、途中で見失ったという。

「……もしかしたら、同じかも」

 しかしユズは、その人物が先程の男の子と同一人物だと知った。

「一緒にいたの恋人なのかなって思ったけど、そんな雰囲気でもなくて」

「うん。橋本くん、なんか思いつめた表情をしてたよね」

「赤いマント……」

 光一郎は戸惑う。

 赤いマントを羽織った男の子だけではなく、女も現れてしまった。

「光一郎君、私達も橋本さんを探しましょ!」

 赤いマントを羽織っているという事は、何か関係があるはずだ。

 橋本達を見つければ、由香里の事も分かるかもしれない。

 琴葉は、お兄さん達に橋本の特徴を聞くと、彼を探す事にした。

 

「……黄色いTシャツ、髪は短髪」

 橋本は、サッカー部に入っているスポーツマンなのだという。

「体格もいいって言ってたわよね」

「身長も180cmぐらいあるらしいから、結構目立つはずだよ」

 琴葉達はそれらしい人を探しながら、道路を走った。

 しかし、なかなか見つからない。

 やがて、三人は肌にやってきた。

 扉の向こうには、森が広がっている。

「流石にこの辺りまでは来てないかも」

 琴葉は、繁華街の方へ引き返そうと立ち止まった。

 肩を落として溜息を吐く。

 その時、一人の男の人の姿が目に映った。

 黄色いTシャツを着た、短髪で長身のお兄さんだ。

「あれだ」

 橋本らしき人物は、川の遊歩道を一人で歩いていた。

 琴葉、光一郎、ユズは彼に駆け寄った。

「橋本」

「え、あ、ああ、そうだけど」

「お友達が探してたよ!」

「友達が?」

 橋本は、複雑な表情を浮かべた。

 そんな橋本に、光一郎は話しかける。

「赤いマントを羽織った女はどこにいるんですか!」

 橋本は、その女と共に友達の前から去ったのだ。

「それは……」

 橋本は、琴葉達を見る。

 そして、急に険しい表情になった。

「君達には、関係ないだろ! 僕は今から行くところがあるんだ!」

 次の瞬間、橋本は森の方へと走り出した。

 

「あ、ちょっと!」

「逃げた」

 琴葉達は慌てて追う。

 しかし、橋本は足が速く、どんどん差が開いていく。

「は、速すぎるよ。流石サッカー部」

 琴葉は、あっという間に息が切れた。

 そんな琴葉に、ユズが声をかける。

「……わたしが追う。足腰は鍛えているし、格闘するなら必要だから」

 彼女なら、橋本に追いつけるかもしれない。

「……橋本に話を聞く」

 ユズはそう言いながら、橋本を追った。

 

「なんか、凄い……」

「ユズは、格闘技が得意だからね。だから、身体能力が高いんだよ」

 琴葉は、小さくなっていくユズの後ろ姿を見て、思わず笑みを浮かべた。

 光一郎も、ユズの足の速さを評価する。

「って、喜んでる場合じゃないよね!」

「ユズを追いかけよう!」

 琴葉も必死に後を追って走った。

 光一郎も、迷わずユズの後を追いかけた。

 

 チチチチ、チチチチ……

 

 夕暮れの静かな森の中、鳥の鳴き声がかすかに聞こえている。

 琴葉は疲れ切って荒く呼吸をしながら森の中を歩いていた。

「後は、光一郎君とユズちゃんが頼りだけど……」

 そう思っていると、前方に光一郎、その前方にユズの姿があった。

「ユズちゃん、光一郎君!」

 光一郎は木に手をかけて、ゼエゼエと息を漏らしている。

 ユズは、流石はアンドロイドか、全く息を切らしていない。

「橋本さんは?」

「それが……」

 光一郎は申し訳なさそうな顔をした。

「頑張って追いかけたんだけど、途中で足が絡まっちゃって」

「……なんか、嫌な予感がして、逃がした」

 よく見ると、光一郎は顔に土がついている。

 どうやら転んでしまったらしい。

「あ、ああ。短距離は得意だけど、長距離は苦手で」

「そうだったんだ」

 琴葉はそれならそうと最初に言ってほしかったとちょっと呆れた。

 しかし、相手はスポーツをしている大学生だ。

 いくらアンドロイドのユズの足が速くても、そう簡単に追いつける相手ではないだろう。

「橋本さんは、この辺りで見失ったの?」

「……山道を奥へ走って行った」

「奥へ?」

 琴葉は何度もこの森を訪れた事がある。

 今、琴葉達がいる山道以外には、町に出られる道はない。

「闇雲に逃げたのかな……。だけど」

 琴葉はふと、橋本が言った言葉を思い出した。

 橋本は「今から行くところがある」と言っていたのだ。

「行くところ……あっ」

 琴葉は、山道の奥に何があるのか思い出した。

「もしかして、逃げたんじゃないのかも……」

「どういう事だい?」

「この先に行く場所があったんだよ!」

 琴葉は、最後の力を振り絞り、山道を駆け出した。

「あ、ねえ! 僕も!」

「行かなきゃ」

 光一郎も足に力を入れて、慌てて琴葉の後を追って走り、ユズは迷わず走った。

説明
クラスメートをさらった(?)赤マントを追いかけます。
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