英雄伝説〜黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達〜 |
〜ヴェルヌ社・20F・会議室〜
「解決事務所…………公国が雇ったとかいう調査屋か。」
ヴァンから手渡された名刺を確認したタウゼントCEOはヴァンに確認した。
「まあ、そんなところです。バーゼル市で起きている諸問題について調査と対応を頼まれましてね。ああ、勿論”南”の総督閣下にも話を通して調査の許可は取っているとの事です。」
「…………余計なことを…………」
「?えっと…………」
ヴァンの説明を聞いてヴァンから視線を逸らして小声で呟いたタウゼントCEOの様子が気になったフェリは首を傾げながらタウゼントCEOに声をかけた。
「いや、なんでもない。――――――結論から言えば心配無用だ。全てはコントロール下にある。」
「ハン…………?」
「と、仰いますと?」
名刺をポケットに閉まった後答えたタウゼントCEOの説明の意味がわからなかったアーロンは眉を顰め、リゼットは続きを促した。
「まず市内の導力ネットの不安定化についてだが…………あくまで導力ネットの通信量(トラフィック)の問題でしかないのが判明していてね。導力供給網も同様、既に現時点で対処・解決済み――――――そうだったな?」
「…………ええ、概ねですが。最大8.3%発生していた遅滞も今朝の段階で0.35%まで解消されています。」
説明をしたタウゼントCEOが隣にいる銀髪の少年に説明の続きを促すと少年は頷いて続きを説明した。
「えと…………確かに、大分減っていますね。」
「だがそれでも0.35%は発生しているわけだ。そうなると自分達が調べる余地もゼロじゃあなさそうですね?もう一つの懸念――――――見慣れぬ来訪者を見かけるという噂もあるようですし。」
2人の説明にフェリが納得している中自分達が関わる余地があることに気づいていたヴァンは口元に笑みを浮かべてタウゼントCEOに指摘した。
「ふう…………考えてもみたまえ。このバーゼルは総合技術メーカーであるヴェルヌグループの本拠地だ。関連企業は百近くに及び、それぞれが独自受注も行っている。この時期に来訪者が増えるのはごく自然なこと――――――」
一方ヴァンの指摘に対してタウゼントCEOは溜息を吐いた後若干呆れた様子で説明をし続けたが
「――――――それがスパイやら後ろ暗い連中なんかでもかよ?」
「っ…………どこで何を聞いたかは知らないが想像で話をしないで欲しいものだな。」
アーロンにある指摘をされると図星だったのか一瞬息を呑んだ後、反論をした。
「明確に否定なさらないということはまだ実態調査に至っていないのですね?それも含めて当事務所にお任せを。」
「勿論、”万が一”何か起きた場合のご相談に乗ることも含めてね。」
「ぬうう…………まあいい。これ以上は時間の無駄だ。サリシオン君、あれを。」
リゼットとヴァンの指摘に反論できなくなったタウゼントCEOは唸ったがすぐに気を取り直して銀髪の少年に指示をし、指示をされた少年はヴァンに認証カードを手渡した。
「ああ、噂に聞いた…………」
「昨年からバーゼル市で発行している短期滞在ゲスト用のセキュリティカードです。新市街・職人街であれば特に制限はありませんが――――――上層の理科大学とエアロトラムについては利用できませんのでご了承ください。」
手渡されたカードに心当たりがあるヴァンは少年に視線を向け、視線を向けられた少年はカードについての説明をした。
「え…………」
「おい、ちょっと待てや――――――」
「ありがたくお借りしますよ。それじゃあ、自分達はこれで。」
説明を聞いて調査対象である肝心の理科大学に入れないという問題に気づいたフェリが呆け、アーロンが反論しようとしたが視線で反論をしないように制したヴァンはカードを懐に閉まってタウゼントCEOに背を向けて退出しようとしたがタウゼントCEOが制止の声をかけた。
「待ちたまえ――――――こちらも建前上、公国の顔を立てる必要はあってな。調査屋ごときに必要ないとは思うが、一応”窓口”を用意しておいた。」
「カトル・サリシオンです。理科大学で助手をしています。別の案件も抱えているので常時対応は難しいかもしれませんが…………問い合わせなどがあれば遠慮なく連絡していただければ。」
タウゼントCEOはヴァン達に説明した後少年に視線を向けると、少年――――――カトルは自己紹介をした後自分が”窓口”を務める旨を説明した。
「こりゃご丁寧にどうも。」
説明を聞いたヴァンは振り向いてカトルとの連絡先を交換した。
「連絡先を交換したわよ。」
「そのホロウは…………珍しいタイプみたいですね。」
「ああ、気にしないでくれ。それよりも――――――」
カトルが気になっている点について軽く流したヴァンは真剣な表情で考え込みながらカトルを見つめた。
「…………?何か?」
「いや…………気を悪くしないでもらいたいんだが。”君”付けか”ちゃん”付けか、君をどう呼んだものかと思ってね。」
「……………………え”。」
ヴァンが悩んでいる事が自分の性別の判断である事について知ったカトルは呆けた後表情を引き攣らせながら声を出した後一瞬ヴァンから引いた。
「は?何抜かしてんだ?」
「えと、すごく綺麗ですけど、女のヒトの体型には…………」
(うふふ、フェリはまだまだね〜。あのくらいの女の子だって探せばいるわよ♪)
(私達が気にすべきところは”そこ”じゃないでしょう…………(一体どういう事かしら?僅かではあるけど彼から私達――――――”天使”特有の気配が感じられるなんて…………))
ヴァンがカトルの性別について悩んでいる事にアーロンとフェリがそれぞれ不思議がっている中、からかいの表情で呟いたユエファに呆れた表情で指摘したマルティーナは真剣な表情で考え込みながらカトルを見つめていた。
「っ…………当たり前です!男に決まっているでしょう!?」
一方カトルは必死の様子で反論した。
「悪かった、ついな。14くらいか?その年頃だとどっちでもあり得ると思っちまった。飛び級っぽいが、理科大学の助手とは随分優秀そうじゃないか?」
「…………まあ、それなりには。それと僕は15歳です。フン…………いいですけどね。たまに遠目だと勘違いされますし。」
(うーん…………わたしも最初は外套着てて間違われましたけど…………)
(にしたってこの距離で間違うかよ?ヤダヤダ、歳だけは食いたくねぇなぁ。
(…………ふむ…………)
ヴァンに謝罪されたカトルが若干機嫌が悪い様子で答えている様子を見守っていたフェリは苦笑し、アーロンは呆れた表情で肩をすくめ、リゼットはヴァンの意図について考え込んでいた。
「――――――ええい、無駄話が済んだなら行きたまえ!こちらも忙しいのだよ!この後も――――――」
一方タウゼントCEOはヴァン達を追い出すために早くその場から退出するように促したが自分のザイファにかかってきた通信に気づくとザイファを取り出して通信を開始した。
「CEO、アラミス高等学校の生徒さんが見えました。」
「もう、着いたか。――――通したまえ。サリシオン君、次も同様に頼むぞ。滞在は3日だったか…………そちらは精々”ドブさらい”に励むことだな。」
そしてヴァン達は会議室から退出した。
〜通路〜
「チッ、露骨に厄介者扱いとはな。ムカつくが動きやすくなりそうだし、好都合っちゃ好都合か。」
「ハン…………わかってきたじゃねぇか?」
通路を歩いていたアーロンはタウゼントCEOの自分達への態度を思い出して舌打ちをしたがすぐに切り替えてあることを呟き、それを聞いたヴァンは感心した様子で指摘した。
「ウゼーっつの。」
「…………問題ないと言うわりにはなんか余裕がない感じでしたね。」
「ええ、確たる心当たりはないにせよ不安材料を抱えている…………そんな印象です。情報を引き出すにしても簡単にとはいかないでしょうね。」
「楽にいかねぇのは今回も同じだろう。色んな角度から嗅ぎ回ってみねえとな。そうなるとアイツも――――――」
ヴァン達が通路で話し合っているとエレベーターの到着音が聞こえ、到着音に気づいたヴァン達がエレベーターへと視線を向けるとエレベーターから受付に先導されているアニエス達が現れた。
「あ…………」
「あら。」
「あれ、あの人達って…………」
「今朝、中央駅の前にいた…………」
「マ、マジでアニエスちゃんのバイト先の恋人だってのかぁ〜!?」
「…………ライエル君、違うって言いましたよね?」
ヴァン達と鉢合わせした事に生徒達がそれぞれ驚いている中男子生徒の一人が信じられない表情である事を叫ぶとアニエスが威圧を纏った笑顔で指摘し
「あ………はい。」
アニエスの笑顔に圧された生徒は反論することなく頷き、その様子を見守っていたレン達はそれぞれ冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
(フム…………どうやらアニエスもエリゼ達のような”素質”があるみたいだね。)
(あ、あはは…………)
興味ありげな様子でアニエスを見つめながら呟いたレジーニアの小声を聞いたアンリエットは苦笑していた。
「お疲れさんだ、学生諸君。ちょっとした出張でね。視察研修、頑張ってくれよ。」
アニエス達に軽く挨拶をしたヴァンはフェリ達と共にアニエス達とすれ違ってその場から立ち去ろうとしたがアニエスの横で一瞬立ち止まったヴァンはアニエスに視線を向け、視線を向けられたアニエスが頷くとヴァンは再び歩き始め、その場から立ち去った。
(ふふ、できる限りは支えてあげないとね。)
(フン、別に認めたわけじゃないけどな。
(ヴァンの先ほどの言葉だと、どうやらヴァン達もこのバーゼルで活動するようだね。今までの事を考えたらひょっとしたら、”主やあたし達との共闘”もありえるかもしれないね。)
(はい。そのような事態が起こらない事が一番ですけど…………)
ヴァンとアニエスの様子に気づいていたオデットとアルベールが小声で会話している一方、レジーニアとアンリエットもそれぞれ小声であることについて会話していた。
「?ようこそ、アラミスの皆さん。どうぞこちらへ。」
そこにカトルが現れてアニエス達に声をかけた。
その後ヴェルヌ社から出たヴァン達が車で宿へと向かっている間、タウゼントCEOと共にアニエス達に研修視察についての説明をしたカトルはタウゼントCEOが去った後アニエス達に認証カードを手渡した。
〜会議室〜
「ランクCの認証カードになります。外部研修生向けで、理科大学への立入やエアロトラムなども利用可能です。」
「どうも、ありがとうございます。」
「へ〜、これがあれば乗り放題なんだ。」
「理科大学もか…………レポートがかなり捗りそうだな。」
「ふふ、それでは班ごとに自由行動といきましょうか。18:30にホテルのロビーに集合、遅れたらお仕置きだから♪」
「は、はひっ!」
「ゼッタイ遅刻しないッス!」
レンの忠告に生徒の一部が怖がった様子で答え
「こらこら、一年を脅さないの。」
「そうだね。ましてや君が言うと洒落にならないからね。」
(レ、レジーニアさん!そういうことは本人(レンさま)がいない場所で言うべきですよ…………!)
その様子を見守っていたレンと同級生の生徒が苦笑しながらレンに指摘するとレジーニアもその意見に同意し、レジーニアの意見を聞いたアンリエットは冷や汗をかいた後若干焦った様子で小声でレジーニアに指摘した。
「はは、とにかく実のある研修にしないとですね。」
「フン…………とっとと行くぞ、下級生ども。」
そして生徒達の一部が研修の為に会議室から立ち去ると、カトルがアニエス達に軽く頭を下げて自分も退出することを告げた。
「――――――それでは、僕もこれで。何かあれば先ほどの番号にお願いします。それでは――――――」
「待って、カトル・サリシオン君。噂はかねがね、――――――博士の秘蔵っ子だそうね?」
その場から立ち去ろうとしたカトルだったがレンがカトルを呼び止めた。
「え…………?」
「へ…………」
「ヘイワーズ先輩?」
(…………それって…………)
レンが自分の事を知っている事にカトルが呆けている中オデットとアルベールはそれぞれ不思議そうな表情を浮かべ、心当たりがあるアニエスは目を丸くした。
「私、メンフィルからの留学生なのだけど、リベール人の友人の関係のお陰によるZCFのツテで”彼女”とは面識があってね。”過去の論文”も全部読んでいてくれて色々と盛り上がったこともあるわ。」
「ZCFの…………あのラッセル博士やエリカ博士なら僕も一応面識が――――――!?論文って…………まさか!?」
レンの説明を聞いたカトルは不思議そうな表情でレンを見つめたがすぐに心当たりを思い出すと思わずのけぞった後驚きの表情でレンを見つめた。
「うふふ、それはいいのよ。それよりさっそく相談なのだけど。この子、実は一人だけ別行動でね。職人街まで送ってあげてくれないかしら?」
「先輩…………」
カトルへの頼み事でレンの気遣いを知ったアニエスがレンを見つめるとレンはウインクをし、レンのウインクに対してアニエスは頷いた。
「…………そうか、さっそく行くんだな。」
「うーん、ちょっとくらいは一緒に回りたかったんだけどな〜。」
2人の会話を聞いてアニエスがヴァン達と行動することを察したアルベールとオデットはそれぞれアニエスに声をかけた。
「二人共…………ごめんなさい。勝手に決めてしまって。」
「まあまあ、3日もあるんだし、夜はちゃんと戻ってくるんでしょ?その分いいレポート、期待してるから!」
「…………くれぐれも気を付けてな。」
「はい…………!」
「えっと、もしかして先ほどの…………?――――――まあ、別に構いませんよ。ちょうど僕も職人街に用があったので。案内します、えっと――――――」
アニエス達の会話を聞いてアニエスの別行動先がヴァン達であることを察したカトルは職人街への案内の頼みに応じる事を決めた後アニエスの名前を訊ねた。
「アラミス高等学校一年のアニエス・クローデルです。よろしくお願いします、カトルさん。」
「…………ど、どうも。」
(むむ…………?)
(ほほう…………?)
(あら…………?)
アニエスに微笑まれたカトルが恥ずかしそうな表情で答えるとその様子を見ていたアルベールは若干警戒した様子で、オデットとレンは興味ありげな様子で見つめ
(…………?人間でありながら、感じる力が弱いとはいえ天使(わたしたち)と同じ力を感じるあの少年は一体…………?)
アルベール達とは別の意味でカトルの気になる部分があるメイヴィスレインは眉を顰めてカトルを見つめていた。
一方その頃職人街の宿にチェックインしたヴァン達が部屋に荷物を置いた頃にちょうどフェリのザイファにアニエスからの連絡が来た。
〜職人街・宿酒場”石切り亭”〜
「アニエスさん、15分くらいでこちらに来られるみたいですっ。」
「意外に早かったな。先に始めようかと思ってたが。よし、そんじゃあ待ってる間に胡桃と蜂蜜(エンガディーナ)のタルトを――――――」
「エンガディーナを…………?」
ヴァンの提案を聞いてアニエスを抜きでバーゼル限定の菓子を食べる事を察したフェリは悲しそうな表情でヴァンを見つめ
「アニエスと一緒に食べられるように、前もって注文しとかねえとなぁ〜。」
悲しそうな目をしたフェリに見つめられたヴァンは冷や汗をかいた後フェリから視線を逸らして当初考えていた予定を変える答えを口にした。
「ですよねっ。」
「ギリギリ誤魔化しやがったな。」
「ふふ、ではコーヒーと一緒に今のうちに注文しておきましょうか。」
ヴァンの答えにフェリが無邪気な笑みを浮かべて頷いている中アーロンは呆れた表情で呟き、リゼットは微笑ましそうに見守りながら呟いた。
同じ頃、アニエスとカトルはちょうどヴェルヌ社の外に出ていた。
〜新市街〜
「それではサリシオンさん、案内をお願いしますね。」
「ええ………任せてください。といってもエアロトラムを使えば職人街まではすぐです。あと、貴女の方が年上ですよね?よかったら名前で――――――それに”さん”も必要ありませんから。」
「そうですか…………?ふふ、それじゃあカトル君で。あ、1歳しか違いませんしそちらも敬語じゃなくて結構ですよ?」
「えっと…………それじゃあそうさせてもらおうかな。アニエスさんの方も――――――って、それが貴女の口調なのかな?」
「ええ、そうなんです。友達には直せって言われてるんですけど。改めてよろしくお願いしますね。」
「うん――――――それじゃあ行こうか。」
その後二人はエアロトラムに乗って職人街に向かい、ヴァン達がいる宿酒場へと向かうと、ヴァン達は席に座って菓子を待っていた。
〜職人街・宿酒場”石切り亭”〜
「あっ、アニエスさ〜ん!こっちです!」
「おう、早かったな。」
「アン、あの小僧は確か………」
「すみません、お待たせしました。こちらのカトル君に案内してもらいまして。」
「へえ、手間をかけちまったな。エンガディーナを頼んでるんだがお前さんも食っていくかい?」
「…………?いえ、別に空腹じゃありませんし。」
「そうか、美味いんだが…………そんじゃそのうち別の形で返すぜ。」
「…………当然のことをしただけですし別に借りなんて思わなくても。ああ、でしたら”お仕事”であんまり胡乱に動かないことをお勧めしますよ。そちらの赤毛の人はともかく――――――女性陣に迷惑をかけないようにね。」
「あら…………」
「えっと…………?」
カトルのヴァンへの忠告にリゼットとフェリはそれぞれ目を丸くした。
「ふふっ、アーロンもああいった女の子達に優しい所は見習うべきよ〜?」
「おいおい、オフクロに言われなくても俺様は女には甘い方だぜ?」
「へ…………――――――って、ええっ!?て、”天使”………!?」
ユエファとアーロンの会話が気になったカトルがふと視線を向けえるとヴァン達と同じテーブルの席にユエファとマルティーナがそれぞれ座っており、二人に気づいたカトルは驚きの表情で声を上げた。
「ハ〜イ♪」
「ふふっ、よろしくね。」
驚いているカトルに対してユエファはウインクをして軽く手を振り、マルティーナは苦笑を浮かべた。
「えっと…………そちらのお二人は異世界の異種族の内の”天使族”の方達、ですよね………?先程のアラミス高等学校の研修生達の中にも”天使”がいる事に驚きましたが…………先ほどの顔合わせの時にはいませんでしたよね?」
「ああ。その二人はそこの赤毛の身内兼助っ人みたいな存在で事務所の正式な一員じゃないっていうのもあるが、業務の関係上俺達が目立たない為にも出張の際は休憩や戦闘以外は”契約者”であるそいつの身体の中にいてもらっているんだ。」
困惑している様子のカトルの疑問にヴァンが答え
「”身体の中にいてもらっている”って…………意味がわからないのですが。」
「フフッ、それはこういう事ですよ――――――メイヴィスレイン。」
ヴァンの答えを聞いて更なる疑問を抱いているカトルを苦笑しながら見つめていたアニエスはメイヴィスレインを召喚し、メイヴィスレインの登場にカトルは冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「えっと、あまり原理はよくわからないのですけど、メイヴィスレイン達の話によると天使…………というよりも異種族の方達が私達のような人間と”契約”した際は私達の魔力と同化することで契約者である私達と常に一緒の状態になるとの事なんです。」
「な、なるほど…………?説明を聞いてもよくわからないけど、まあいいや。――――――それじゃあ、アニエスさん。何かあれば遠慮なく連絡してね。」
アニエスの説明を聞いたカトルは困惑した様子で聞いていたがすぐに気を取り直してアニエスに別れの挨拶をした。
「あ、はい。ありがとうございました!」
そしてカトルはその場から立ち去った。
「やれやれ…………お詫びもかねてだったんだが。」
「クク、思春期のガキは難しいからな。」
「貴方は彼の事は言えないわよ、アーロン…………」
「まさに子供がそのまま大人になったようなものだものね、アーロンは♪」
カトルが去った後苦笑しながら呟いたヴァンにアーロンは口元に笑みを浮かべて指摘したが、呆れた表情で溜息を吐いたマルティーナとからかいの表情で呟いたユエファの指摘に冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。
「だぁっ!そこの身内二人はいつまで俺様を子供扱いしやがるんだよ!?――――――それはそうとオメーの方は随分と懐かれてたみてぇだなァ?」
我に返ったアーロンは思わず声を上げて疲れた表情で呟いた後気を取り直してカトルのアニエスへの接し方について、アニエスに指摘した。
「?ええ。なんだか仲良くなっちゃって。」
「そうなんですか…………わたしも仲良くしたいですっ。」
「ふふ、フェリちゃんなら大丈夫ですよ。機会があれば改めて紹介しますね。」
「日曜学校の年少かよ…………」
「ふふ…………仲良きことはでしょう。」
「クク、お前も一度やり直しちゃどうだ?」
アニエスとフェリの会話を聞いていたアーロンは呆れ、リゼットは微笑ましそうに見守り、ヴァンがアーロンをからかったその時注文のバーゼル限定の菓子を持ってきた店員が菓子をテーブルに置いた。
「お待たせしましたー、当店自慢の”エンガディーナ”です!」
「おおっ、コレだコレ!」
「ほらほら、アニエスさんとメイヴィスレインさんも座ってくださいっ。」
「ふふっ、それでは切り分けますね。」
ヴァン達が菓子を食べ始めたその頃、宿酒場を出たカトルはヴァン達がいる宿酒場を見つめていた。
〜職人街〜
「…………エンガディーナ、か。よく作ってくれたっけ。」
宿酒場を見つめながらカトルはふと過去を思い返した。
――――――焼けたわよ、カトル。今日の自信作なの。悩んでいる時ほど根を詰めすぎないこと。リフレッシュしてまた頑張りましょう。
「(…………アニエスさんの事は別にしても一応こっちでも気を付けておかないと。”あの場所”を守るためにも…………)ふう…………ついでだし親方に挨拶して、”いつもの”を片付けておこうかな?」
我に返ったカトルはある決意をした後目的地に向かって歩き始めた。
〜宿酒場”石切り亭”〜
「んん〜…………これだよ、これ。このクルミとキャラメルヌガーのほろ苦くも甘く、濃厚な味わい…………濃いめのコーヒーとの組み合わせはまさしく王道にして正義でもあるな…………!」
「ウゼえ、ひたすらウザすぎる。」
「もう…………奢ってもらっているんだから、そんな事を言わないの。」
「うふふ、もはや恒例と化しているわね出張時のヴァンさんのご当地限定スイーツレポートは♪」
エンガディーナを味わいながら口にしたヴァンの感想にアーロンは呆れた表情で鬱陶しがり、マルティーナは溜息を吐いた後アーロンに注意し、ユエファはからかいの表情で指摘した。
「あはは…………でも確かに絶品ですね。バターの風味もたまりませんし。」
「モグモグ…………ヴァンさんのイチオシはどれも外れがありませんっ。」
「…………ええ、その点については私も同意します。実際ヴァンが勧める菓子はどれも菓子の中でも相当美味ですし。」
「フッ、こういうのを捜し出すのも裏解決屋(スプリガン)の嗅覚ってな…………」
「てめぇが言うと冗談に聞こえねぇんだが。」
アニエスやフェリ、メイヴィスレインの称賛に対して自慢げに語るヴァンにアーロンは呆れた表情で指摘した。
「ふふ…………一息ついたところでそろそろ行動を開始しましょうか。すぐにヴェルヌ社周辺の”調査”を開始しますか?」
「いや、そっちは一旦寝かしておく。すぐには大した情報も掛からんだろう。まずは街を回って4spgに対応しながらバーゼルの”状況”を掴んでいくぞ。」
リゼットの確認に対して答えたヴァンは今後の方針をアニエス達に伝えた。
「これまでと同じですね…………ですが、今回は誰が”噂”の方を?」
「そういえば…………ヴェルヌの方は協力的じゃなさそうでしたし。」
「ま、”ヤツ”が話を持ってきた時点でそのあたりは織り込み済みだろ。」
「あ…………」
「GIDの眼鏡のヒトですね。」
「主任分析官――――――でしたか。相当優秀な方とお見受けしました。ヴァン様の昔馴染みなのだとか?」
自分達の疑問に対して答えたヴァンの話を聞いたアニエスとフェリはそれぞれキンケイドを思い浮べ、キンケイドに対する推測の評価をしたリゼットはヴァンにある事実について確認した。
「ああ、”腐れ”がつく類のな。だがまあ本人は来てねえだろ。代理を寄越してるってところだろうし、その代理の方も”南”の総督府のお膝元で派手に動く事なんてできねぇだろうから、そっちにはあんまり期待できないと思った方がいいぜ。」
「ハン、もう一つのプロジェクトといい、胡散臭い思惑もありそうだが。とりあえず連中の撒いたエサでどんな魚が掛かるか確かめるとすっか。」
「……………………」
ヴァンとアーロンの話を聞いたアニエスは”出張”の話があった日の夜の寮の前でのキンケイドとの出来事を思い返した。
「それで、ホテルに戻すのは何時くらいになりそうなんだ?それから制服の方だが――――――」
「えっと、18:30ですね。それまでに戻るようにと先輩が。あとちゃんと私服は持ってきました。すぐに着替えちゃいますね!」
「あ、それじゃ案内します。」
「ふふ、会計もすませておきましょうか。」
その後、フェリ達の部屋でアニエスが手早く私服に着替え――――――改めて工学都市バーゼルの初日の裏解決業務を開始するのだった――――――
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