英雄伝説〜黎の陽だまりと終焉を超えし英雄達〜 |
10月25日、9:04――――――
アルマータによる襲撃の翌日、バーゼル市はバーゼル警察とメンフィル帝国軍によって”都市封鎖”の状態になっていた。また、アラミスの生徒達も”一部”を除いて外に出られず、ホテルの部屋に待機状態になっていた。
〜ホテル・イングレス〜
「…………都市封鎖…………まさかこんなことになるなんて。」
「こ、これからどうなっちゃうの…………?」
「大丈夫かな、アニエス。レン先輩にレジーニア、アンリエットも…………」
「っ…………今は連絡を待つしかないさ。」
「つーか、そもそもなんだよ、あのイカツイ飛行艇は――――――!?」
生徒達がそれぞれ不安がっている中”ホテルにはいない一部の生徒達”――――――アニエス達を心配しているオデットにアルベールは唇を噛み締めた後慰めの言葉をかけ、生徒の一人はバーゼル市上空に滞空しているマルドゥック社が運用中であるヴェルヌグループ・アルドラ社製”イクス=アルバ”級飛行巡洋艦を見つめていた。
「…………それにしても、レジーニアさんとアンリエットさんは二人が仕えているメンフィル帝国の貴族が二人のアラミスへの留学の為の出資をしてくれているという話は耳にしていましたが、そのメンフィル帝国の貴族がまさかよりにもよって”あの御方”の実家だったことには驚きました。」
「”あの御方”…………?」
「?えっと、ユリアン先輩は確かエレボニア王国の貴族ですよね?なのに、どうして二人が仕えている貴族―――――他国であるメンフィル帝国の貴族の事を知って――――――いえ、どうして二人が仕えているメンフィル帝国の貴族の事がわかったんですか?」
重々しい口調で呟いたユリアンの言葉が気になったオデットは首を傾げ、アルベールは不思議そうな表情でユリアンに訊ねた。
「僕が二人が仕えているメンフィル帝国の貴族がどの家であるかがわかった理由は、ヘイワーズ――――――いや、マーシルンとクローデルさんと共にホテルに出ていく時に着ていた二人の私服の背中に刻まれていた”紋章”ですよ。」
「”紋章”…………?」
「あっ!そういえば、二人の私服の背中にそれぞれ鹿みたいな紋章が刻まれていたよね?」
ユリアンの説明の意味がわからない生徒の一人が首を傾げている中心当たりがある生徒は声を上げた。
「ええ。そしてエレボニアの貴族である僕が二人の仕えている貴族―――――メンフィル帝国の貴族を知っていた理由ですが…………そのメンフィル帝国の貴族は僕の祖国――――――”エレボニアにとってはあまりにも有名な貴族”だからです。」
「”エレボニアにとってはあまりにも有名な貴族”ってどういう意味よ?」
「言葉通りの意味です。――――――二人の私服の背中に刻まれていた”双角の白鹿”の紋章。あの紋章を使っている貴族はかつてはエレボニアの元下級貴族にして、今ではエレボニアの――――――いえ、”3年前の世界大戦を僅かな期間で終結に導いた事で世界の大英雄”となった人物を輩出したことから大貴族に昇格する事が内定しているメンフィル帝国の貴族――――――”シュバルツァー男爵家”です。」
「な――――――」
「ええっ!?シュ、”シュバルツァー”って事は、二人が仕えているメンフィル帝国の貴族って…………!」
「まさかの”現代のゼムリアの大英雄”――――――リィン・シュバルツァー総督かよっ!?」
ユリアンの同級生の問いに答えたユリアンの答えを聞いた生徒達がそれぞれ驚きのあまり血相を変えている中アルベールは絶句し、オデットや生徒の一人は信じられない表情で声を上げ
「二人がシュバルツァー家のどなたに仕えている事まではわかりませんが…………――――――いずれにせよ、昨日の騒動で二人が見せた戦闘能力の件を考えると、恐らく二人はシュバルツァー家の私兵か家臣、もしくは17人存在しているシュバルツァー総督閣下の婚約者のどれかである事は確実でしょうね。シュバルツァー総督閣下の婚約者の方々の大半は3年前の大戦でシュバルツァー総督閣下と共に数多の戦場で戦った事からシュバルツァー総督閣下の”戦友”でもある事で有名ですから。実際、シュバルツァー総督閣下の婚約者の一人であられるアルフィン王女殿下もシュバルツァー総督閣下の”戦友”の一人として3年前の大戦でシュバルツァー総督閣下と共に、数多の戦場を経験したという話はエレボニアでは有名な話ですから。」
ユリアンはレジーニアとアンリエットを思い浮べながら真剣な表情で答えた。
〜パーゼル理科大学・会議室〜
一方その頃理科大学の会議室にはバーゼルの有力者達やカエラ少尉、ヴァン達に加えてレン、セレーネ、レジーニア、アンリエット、更にシェリド公太子が映像通信で会議に参加していた。
「――――――昨日は慌ただしい中、あのような形での訪問失礼しました。改めて、マルドゥック総合警備保障GM(ジェネラルマネージャー)、ギリアム・ゾーンダイクと申します。こちらは警備主任のカシム・アルファイド。」
「どうぞお見知りおきを。」
男性――――――マルドゥック社のGMであるゾーンダイクGMは自己紹介をした後自身の傍で立っている顔に傷跡がある男性――――――カシム警備主任を紹介し、紹介されたカシム警備主任は頭を軽く下げて挨拶をした。
「っ………」
「…………………」
(”アルファイド”ってまさか…………)
(ハン、なるほどな……)
フェリが複雑そうな表情で、ヴァンが真剣な表情でカシム警備主任を見つめている中カシム警備主任のファミリーネームを知ったアニエスとアーロンはカシム警備主任がフェリの家族である事に気づいた。
「フフ、直接出張ってくるとは思わなかったが見(まみ)えられて光栄だよ、マルドゥックの方々。噂はかねがね――――――かなりの辣腕(らつわん)だそうじゃないか?そちらの警備主任殿の勇名も耳にしているよ。」
「フフ、これは汗顔の至り。」
「…………恐縮です。」
シェリド公太子の高評価に対してゾーンダイクGMは静かな笑みを浮かべ、カシム警備主任は静かな表情で答えた。
「それにマルドゥックの方々もそうだが、まさかこのような形で3年前の大戦を終結に導いたかの”大英雄”殿が直々に率いた伝説の部隊の移動拠点――――――”灰色の翼”の”艦長”を務めたマーシルン皇家の才媛たる貴女と見えられて光栄だよ、レン皇女殿下。」
「フフ、お初にお目にかかります、シェリド公太子殿下。何でも先日サルバッドで行われた映画祭では”災難”に見舞われたとか。我が国の危機意識が疎かになっていた事によって殿下が我が国の領土で災難に見舞われた事、厚くお詫び申し上げます。」
「その件に関しては私の方も危機管理を疎かになっていたから、他国に留学中で南カルバード州の治安に関わっている訳でもない貴女がわざわざ私に謝罪する必要はないよ、レン皇女殿下。」
「寛大なお心遣い、恐縮です。」
(ハン、アルマータ共の暗躍に俺達よりも数日も早く気づいていて、アルマータごと公太子達を嵌めるためにわざと放置していた癖にまさにどの口がだっつーの。)
「………………………………」
レンとシェリド公太子の会話を聞いたアーロンは鼻を鳴らして厳しい表情でレンを睨み、アニエスは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「そう言えばかの”大英雄”殿の件で思い出したが、レン皇女殿下もそうだが”かの大英雄殿の戦友にして婚約者”でもある貴女達とも見えて光栄だよ、アルフヘイム卿、レジーニア嬢、アンリエット嬢。」
「ふふっ、わたくしの方こそ、わたくしやお兄様――――――リィン様個人と親交があるオリヴァルト殿下とも縁がある殿下にお会いできて光栄ですわ。」
「主もそうだがルシエル達のように世間で有名な存在でもないあたしやアンリエットの事まで一国の後継ぎである殿下が知っているなんて、光栄だね。」
「…………恐縮です。」
(え、えええええええ〜〜〜っ!?アルフヘイム卿やレジーニアさん、それにアンリエットさんがあの”灰の剣聖”――――――シュバルツァー総督閣下の婚約者だなんて…………!)
(まさかこんな身近な所にかの”大英雄”様の婚約者さん達がいたなんて…………!)
(まさに”灯台下暗し”だな。…………待てよ?”アルフヘイムがエースキラーの一員で、その婚約者である『お兄様』もエースキラーの一員”って話だから――――――ハッ、道理でヴァンも驚く訳だぜ。)
(レジーニアが導く”主”がこの世界の”英雄”だったとは…………そうなると、レジーニアと同じ”守護天使契約”を交わしているルシエルや彼女の配下の天使達が仕えている”主”もかの”英雄”という事ですか。)
レンの後にセレーネ達に声をかけたシェリド公太子の話を聞いて驚愕の事実を知ったアニエスとフェリは驚きの表情でセレーネ達を見つめ、それぞれあることに気づいたアーロンは苦笑を浮かべ、メイヴィスレインは真剣な表情で考え込んでいた。
「さて、挨拶はこのくらいにして…………つい先日帰国したばかりでよく状況がわかっていないんだが……結局、MK社が今日一杯のバーゼル市内の”警備”を引き受けた認識でいいのかな?」
「その件ですが、当初はこちらもその予定だったのですか、どうやら”先方同士に連絡の行き違い”があったようでしてね。我々がこの場――――――いえ、バーゼルに滞在していられるのはレン皇女殿下の寛大なご配慮のお陰なのですよ。」
「っ…………」
「え……………………」
シェリド公太子の確認に対して苦笑しながら答えたゾーンダイクGMはカエラ少尉に視線を向け、視線を向けられたカエラ少尉は息を呑んだ後複雑そうな表情で黙り込み、アニエスは呆けた声を出してレンを見つめた。
「そういえば、ルネ――――――GID側がそちらの少尉しか参加していない事に気になっていたが、まさか――――――」
「その、”まさか”よ。あの眼鏡の主任分析官の人――――――確か名前はキンケイドさんだったわね。彼と彼の上司であるロウラン室長は”南カルバード総督府からの抗議に関する釈明をする為に中央からの呼び出しで今頃は帝都(クロスベル)に向かわされていて、GIDはその影響による混乱でイーディスからの通信映像での参加をする余裕は無かったから現地にいるマクミラン少尉が止むを得ない形でGIDの代表者として参加している形よ。」
「……………………」
「ええっ!?キンケイドさんとロウラン室長が”南カルバード総督府の抗議に関する釈明の為に中央からの呼び出して帝都に向かっている”って…………」
「つーか、そもそも何の抗議を南カルバード総督府――――――メンフィルは中央――――――クロスベルにしたんだよ?」
あることが気になっていたヴァンは真剣な表情でレンを見つめ、ヴァンの疑問に答えたレンはカエラ少尉に視線を向け、視線を向けられたカエラ少尉が複雑そうな表情で黙り込んでいる中、レンの説明を聞いたアニエスは驚き、アーロンは真剣な表情で訊ねた。
「それに関してはマルドゥック――――――南カルバード総督府のお膝元であるバーゼルに武装勢力が無許可で入国・滞在している件だろうな。だが、あの室長さんもそうだがルネもメンフィルに無許可でメンフィルの領土――――――それも南カルバード総督府のお膝元に自分達が雇った武装勢力を入国させるなんて大ポカはしないと思うんだが…………」
「ええ、確かに予めGIDから南カルバード総督府に”有事の際”のマルドゥック社の警備等の提案があったとは聞いているけど、サフィナお姉様――――――”南カルバード総督はその提案に応じなかった”との事だし、昨日マルドゥック社がバーゼルに現れた時もGIDは南カルバード総督府にマルドゥック社の件についての許可は当然取れていないわよ。――――――大方、総督府からの援軍が到着する前にマルドゥックが到着、襲撃による混乱を収拾、その後警備することで、”バーゼル市を守る為の緊急処置”という名目で追認してもらうつもりだったのでしょうけど、総督府からの援軍がそちらの予想を上回る速さで到着しちゃったから、GIDの思惑は外れる所か、裏目に出ちゃったって所かしら?」
「っ…………恐れ入ります。」
「ったく、まさかメンフィルを過小評価するなんて大ポカを室長さんやあいつがするとはな…………」
「フフ、GIDの想定をも遥かに上回るとはさすがは”大陸最強”の異名をゼムリア大陸に轟かせているメンフィル帝国だね。」
「その…………”釈明の為の呼び出し”と仰いましたから、”処分”まではされないですよね?」
ヴァンの疑問に答えたレンは説明をした後意味ありげな笑みを浮かべてカエラ少尉に視線を向け、視線を向けられたカエラ少尉は息を呑んだ後複雑そうな表情で答え、理由を知ったヴァンは溜息を吐き、シェリド公太子は苦笑しながら呟き、あることが気になったアニエスは不安そうな表情でレンに訊ねた。
「昨日の襲撃の際のマクミラン少尉の加勢の件があるから、”処分”まではしないようにヴァイスさん――――――ヴァイスハイト陛下に言い含めておいたから、大丈夫よ。ただ、”中央”側が二人の釈明に納得して二人を解放するまでは”不正防止”の為に”ザイファ”を含めた二人の通信手段を預かるとの事だから、二人が解放されるまでは二人に連絡は取れないわよ。」
「なるほどな…………そのマルドゥックの連中がお前さんの”配慮”のお陰でこの場にいるとの事だが、もしかして南カルバード総督府――――――いや、お前さん自身がマルドゥックを雇ったからか?」
「ええ。市内の警備はオージェ要塞からの援軍で十分だけど、ネットワーク方面の警備には不安が残っているから、そちらを任せてみることにしたのよ。――――――マルドゥックの社員の一人がメンフィルにとって将来の貴重な人材になりうる三高弟の一人の秘蔵っ子を言葉通りその身を犠牲にしてまで守ってくれたのだから、その”お礼”代わりの意味でもね。勿論、既にお父様にも連絡してお父様もそうだけどシルヴァンお兄様からもマルドゥックとの契約の件についての追認はしてもらっているわ。」
「あ…………」
ヴァンの推測に答えたレンの説明を聞いたフェリは爆発からカトルを庇った事で機械の身体の一部を失ったリゼットの姿を思い返して呆けた声を出して辛そうな表情を浮かべた。
「レン皇女殿下のご説明にあったように、レン皇女殿下と契約を交わした弊社は弊社が試験運用を行っている、カルバード両州軍新型艦”イクス=アルバ級”―――――それを介して、導力ネットワークの”保守”を行っております、」
「今まさにこの会話もそれで成り立っている訳か。レン皇女殿下との突発的な契約を除いたとしても御社の出向SCといい、想像以上にバーゼルに食い込んでるじゃないか?」
「先程も申しましたように、”今回は”あくまでネットワーク保守に限定されています。貴国同様、一線は引かれていますのでどうかご容赦いただければと。」
「ええ、そこはご安心を。あくまで、必要措置だと考えて貰えればと。」
探すような視線で指摘したシェリド公太子の指摘にゾーンダイクGMとレンがそれぞれ答えた。
「まあいい――――――ひとまずは事態の収拾が最優先なのは確かだからね。だが、ヴェルヌの株主としても、理科大学関係者としても見過ごせない事態だ。先に確認しておくがバーゼルが貴女達メンフィル帝国の領土であり、またマーシルン皇家がヴェルヌの大株主の筆頭であろうとも、これから行う我々サルバッドのヴェルヌの大株主としての意見に抗議等はあるかい?」
「フフ、まさか。むしろバーゼルの治安維持の担当責任者の関係者として、そしてヴェルヌの株主筆頭の関係者としても殿下とは同じ意見ですから、殿下のお好きにどうぞ。」
シェリド公太子の確認に対して苦笑しながら答えたレンは肩をすくめてシェリド公太子に続きを話すように促した。
「そうかい、ならば遠慮なく意見させてもらうよ。――――――タウゼントCEO、今回の件に貴方はどう責任を取られるおつもりかな?」
「っ…………お、お待ちください殿下!今回は予測不能の事態と言いますか…………!」
シェリド公太子に問いかけられたタウゼントCEOは顔色を悪くしながら言い訳をした。
「ま、心中お察しするけど管理責任は決して軽くないでしょうね。実利最優先の体制下における一ヶ月以上もの異常現象の隠蔽。昨夜の時点でアルマータの裏金以外にも公国の資金の不正利用も確認されている。キャラハン教授の暴走を放置した結果が今のこの状況だと考えると――――――」
「ぐっ…………!レン皇女殿下!幾ら貴女がマーシルン皇家の関係者とはいえ、南カルバード総督のマーシルン総督閣下や我が社の株主筆頭であるシルヴァン皇帝陛下でもないのに、この場に参加する等越権行為ではありませんか!?」
レンの推測と指摘に唸り声を上げたタウゼントCEOはレンを睨んで反論したが
「――――――この場での私の立場はリベールZCFの”特別顧問”になるわ。加えてエプスタイン財団から”代理折衝役”も請け負っている。更に、2日前から所用で南カルバード総督府を離れて今日の夕方に戻ってくる予定のサフィナお姉様――――――南カルバード総督であるサフィナ・L・マーシルン総督からマーシルン総督が南カルバード総督府を離れている間の”南カルバード総督”の委任も請け負っているわ。今回の件で少なからず権益を侵害された両社の代理人として、そしてバーゼル市を含めた南カルバード州の治安維持の担当責任者の代理として――――――何か問題でも?」
「な、な、な…………!」
レンが懐から名刺と委任状を取り出してタウゼントCEOに見せ、レンの立場を知ったタウゼントCEOは驚きのあまり口をパクパクさせた。
「レン先輩…………」
「まさか、”南カルバード総督”の委任までされているなんて…………!」
「オイオイ…………劇画(コミック)かよ。」
レンの”立場”を知ったアニエスは驚きのあまり目を丸くし、カエラ少尉は驚きの表情で呟き、アーロンは苦笑しながら呟いた。
「フフ、噂程度には聞いていたが、まさか”南カルバード総督”の委任までされているとは、さすがは”マーシルン皇家の才媛”だね。話を戻すが公国以外の株主に、関連企業にとっても見過ごせない事態になっているのは確かだ。それを踏まえて何が問われているのか――――――みなまで言わずとも承知の上だと思うがね?」
「…………ぐうっ、ですが…………」
シェリド公太子の指摘に対して唸り声を上げたタウゼントCEOが言い訳を続けようとしたその時
「――――――だからいい加減腹ァ括れや!!聞いている限りヤバいのはまだ続いている!!キャラハンがあんな事になっちまった今アンタがシャキっとしなくてどうする!?ヴェルヌを――――――バーゼルを託してくれた博士に顔向けできねえとは思わねえのかよ!?」
「っ…………わ、私は…………」
肩を強くたたいた後自分の方に向けさせたジスカール技術長の”喝”に我に返ったのか肩を落として答えを濁していた。
「ちなみにマーシルン総督に昨夜事件の概要は通信で知らせた際に、総督府に戻り次第今回の事件の早期解決に向けて本格的に動くとの事で、私はそれまでのバーゼル市の警備の指揮を任せられている次第です。なお、マーシルン総督の帰還予定は本日の夕方頃との事です。」
「また、わたくし達”エースキラー”はアルマータの幹部達の捜索、発見次第討伐もしくは捕縛を行う事になっておりますわ。」
「なるほど。――――――いずれにせよ、今日半日は”空白期間”となりそうだ。何もしなければ”メンフィル帝国”が全てを片付けてしまうだろう――――――だが我が国も資金を悪用された手前、何も手を打たないというのはあり得ない。――――――アークライド解決事務所の諸君、今日一杯は事件への対応をお願いできるかな?君達ならではの流儀で構わない、サルバッドのように、それ以前までのように。そして叶うならば――――――アルマータの目論見が実を結ぶ前に叩き潰してくれたまえ。」
「――――――当然、報酬は弾んで頂けるんでしょうね?」
レンとセレーネの話に頷いたシェリド公太子はヴァン達アークライド解決事務所に要請し、ヴァンはそれぞれ真剣な表情を浮かべている助手達の表情を確認して頷いた後シェリド公太子に要請を引受ける返事の為の確認をした。
会議後――――――
「お兄ちゃん、どうして…………」
会議が終わりゾーンダイクGMと共に退出し始めたカシム警備主任にフェリが声をかけるとカシム警備主任は立ち止まってフェリへと振り向いて返事をした。
「久しぶりだな、フェリーダ。」
「やっぱり…………」
「…………ハン、聞いてた出稼ぎ先がマルドゥックの”猟犬”だったとはな。」
「……………………」
二人のやり取りを聞いてカシム警備主任とフェリの関係を知ったアニエスは納得し、アーロンは鼻を鳴らして皮肉を口にし、フェリは複雑そうな表情で黙り込んでいた。
「妹が世話になっているようだ。アークライド解決事務所の諸君。それとヴァン――――――”君とも2年ぶりか。”撃剣に零式頚術――――――また随分と腕を上げたらしい。リゼット嬢から聞いてはいたが、”元教官”として鼻が高い。」
「ま、それなりにはな。アンタの戦術指南はボチボチって所だが。GM殿も、話くらいは聞いちゃいたがこんな形で直接会うなんてな。」
「フフ、それはこちらの台詞さ。武装とサービスを提供しているとはいえ、君との”契約”はあくまで対等――――――これを機会に、改めてよろしく頼むよ。ヴァン・アークライド君。」
カシム警備主任と昔話をしたヴァンに話しかけられたゾーンダイクGMは苦笑を浮かべた後握手をする為に片手をヴァンへと差し出し、対するヴァンも片手を差し出そうとしたが握手をすることなく、差し出した手をしまった。
「馴れ合いは止めとこうぜ。”契約以上”になる気もないんでね。だが、この機会にって言うならアンタには聞いておきたいことがある。――――――彼女はいつから”ああ”なんだ?」
「あ…………」
ヴァンのゾーンダイクGMへの問いかけがリゼットの機械の身体であることにすぐに気づいたアニエスは不安そうな表情を浮かべた。
「弊社所属SCの”詳細”については基本的に秘匿事項とさせてもらおう。だが”時期”程度なら構わない。――――――およそ1年ほど前からになるかな?」
「…………おかしいとは、思っていた。通信越しの付き合いが3年――――――初対面はついこの間のサルバッドだ。戦術指南でオレド本社を訪れた時ですら”都合が合わずに”会えなかったからな。」
(…………それって?)
(まさか――――――)
ゾーンダイクGMの答えを聞いて疑問を口にしたヴァンはカシム警備主任に視線を向けたが、カシム警備主任は何も語らず目を伏せて黙り込み、その様子を見守っていたフェリは戸惑い、あることを察したアニエスは不安そうな表情を浮かべた。
「幸い、アーチェット准教授がいる。彼女の処置については心配無用だろう。念のため、適合するタイプの”予備パーツ”も運んできているからね。今回はこれ以上”出向SC"として力になれないのは申し訳ないが。」
「…………アンタに謝られる筋合いはねぇ。あんな無茶をさせちまった分の借りが負傷手当程度で返せるかはわからんが…………その辺はあくまで”こっち”の話だ。」
「フフ、余計なお世話だったかな?」
ヴァンの指摘に対してゾーンダイクGMが苦笑しながら答えたその時、カシム警備主任と共に背後に控えていたマルドゥックの警備員がゾーンダイクGMに近づいて耳打ちをした。
「それでは、我々はこれで失礼する。これから南カルバード州軍との折衝もあってね。先ほども言ったが今回はこれ以上踏み込むことはない。”かつて”の天才の”執念の研究”――――――非常にそそられはするがね。」
そしてゾーンダイクGMが警備員達と共にその場から去ると、カシム警備主任もゾーンダイクGM達の後に続こうとしたがフェリが呼び止めた。
「お、お兄ちゃん…………!」
「――――――俺の考えは父(アブ)とは違う。特にお前が”戦士”に向いているかどうかの見解はな。」
「っ…………!?」
「だが今回、この地に来たのは焔と翼の女神(アルージャ)の導きではあるだろう。戦場(いくさば)は近い――――――クルガの戦士としてどう乗り越えるか見せてもらうぞ?」
呼び止められたカシム警備主任は自身の意志を伝えた後その場から去って行った。
「……………………」
「…………フェリちゃん…………」
「偉そうに…………と言いてぇトコだが”底”が全く読めねぇとはな。――――――どのくらいやるんだ?あの野郎。」
カシム警備主任が去った後複雑そうな表情で黙り込んでいたるフェリをアニエスが心配そうな表情で見つめている中真剣な表情で呟いたアーロンはヴァンにカシム警備主任の戦闘能力を訊ねた。
「恐らく――――”史上最強の猟兵”の一人だろう。」
「フム、”史上最強の猟兵”か。猟兵と言えば、シズナも主と同じ”剣聖”という二つ名があるとの事だが、彼女と比較するとどちらが強いのかな?」
ヴァンがカシム警備主任の強さについての推測を口にしたその時、セレーネとアンリエットと共にヴァン達に近づいてきたレジーニアが興味ありげな様子で訊ねた。
「さてな…………”白銀”も”底”を見せていなかったが…………少なくても”本気”を出したお前さん達の”主”ですら、そう簡単に勝たせてもらえる相手じゃないのは確実だな。」
「それは…………」
「……………………」
レジーニアの疑問に対して答えたヴァンの推測を聞いたセレーネは真剣な表情で答えを濁し、アンリエットは目を伏せて黙り込んでいた。
「えっと、レジーニアさんの”主”で思い出しましたけど、まさかアルフヘイム卿もそうですが、レジーニアさんとアンリエットさんがあのシュバルツァー総督閣下の婚約者の方達だと知った時は本当に驚きました…………」
「その…………今まで黙っていて申し訳ございません。ただでさえ、主様は世間ではとても有名な存在ですから、わたし達が普通の学生生活を過ごす為にも主様にお仕えしているわたし達も主様との関係を公にはしない方がいいと主様もそうですが、レン様からも助言がありましたので…………」
苦笑を浮かべながら話しかけてきたアニエスの感想に対してアンリエットは申し訳なさそうな表情で答え
「ハッ、噂の大英雄サマの”女”じゃなくても”天使”と”幽霊”の時点で十分目立つだろうが。」
「ふふ、それは確かに一理あるね。」
「え…………あの、まさか皆さん、わたしが”幽霊”――――――”死霊”であることを既にご存じなのですか…………!?」
鼻を鳴らして呆れた表情で指摘したアーロンの指摘にレジーニアが同意した後、アーロンの口ぶりからアニエス達が自分が”死霊”である事を知っている事に気づいたアンリエットは驚きの表情でアニエス達を見つめて訊ねた。
「別にそこは驚く所じゃないだろう?アニエス達の雇い主であるヴァン自身が君の”正体”を知っていた上、リタとも会ったとの事だから、そのどちらから君が”死霊”であることも教えてもらっていてもおかしくないだろうし。」
「いや、俺もそうだがリタもアンリエットの”正体”についてアニエス達に喋っていねぇから!ウチの助手のフェリが”霊感”が強い事で、お前さん達が事務所を訊ねてきた時にアンリエットを一目見て、”生者”でない事に気づいたんだよ。」
驚いている様子のアンリエットに指摘したレジーニアの推測を疲れた表情で否定したヴァンはフェリに視線を向けて理由を説明した。
「その…………すみません、無暗にアンリエットさんが隠していた”正体”をアニエスさんに教えてしまって…………」
「い、いえ、貴女様が悪い訳ではないので…………その、アニエスさんはわたしが”死霊”だと知っても、今まで仲良くしてくださったのですか…………?」
申し訳なさそうな表情で謝罪したフェリに謙遜した様子で答えたアンリエットはアニエスに恐る恐る訊ねた。
「勿論です。確かに最初アンリエットさんが”幽霊”である事を知った時は驚いちゃいましたけど…………たったそれだけの理由で私の大切な友人の一人であるアンリエットさんとの関係を変える理由でもありませんし。」
「アニエスさん…………」
「フフ、リタさん以外にもアンリエットさんが”死霊”だと知っても、関係を変えることのない貴重な友人ができてよかったですね、アンリエットさん。」
アニエスの答えを聞いたアンリエットが驚きのあまり呆けている中その様子を微笑ましそうに見守っていたセレーネはアンリエットに指摘した。
「その口ぶりだとそこの幽霊学生はあのリタとかいう幽霊ともやっぱり何らかの関係があったのか。」
「はい。お二人は死霊の中でも非常に稀な存在――――――”理性がある死霊”同士として、出会った後すぐに仲良くなって親友同士の間柄になったのですわ。それでアラミスへの留学の際、見た目は人間のアンリエットさんのファミリーネームをどうすべきか悩んでいた時に、お兄様がリタさんのファミリーネームを使わせてもらうことを思いつき、それでリタさんに通信で許可を取れたお陰でアンリエットさんはリタさんのファミリーネームを名乗っているのですわ。」
「ちなみに主自身は主のファミリーネーム――――――”シュバルツァー”を名乗ってもいいって言ったんだが、アンリエットがさすがにそれは恐れ多いって言って断ったんだよ。どうせいずれは、主の”伴侶”の一人になるのだから、別に主のファミリーネームを名乗ってもいいだろうに。」
「いや、”灰の剣聖”のファミリーネームを名乗った時点で種族の件以上に滅茶苦茶目立つだろうが。」
アーロンの確認にセレーネが答え、セレーネの後に肩をすくめて答えたレジーニアにヴァンが呆れた表情で指摘した。
「そうだったんですか…………フフ、改めて友人同士としてよろしくお願いしますね、アンリエットさん。」
「はい…………!はい…………!こちらこそ改めてよろしくお願いします、アニエスさん…………!」
アンリエットがファミリーネームとして”セミフ”を名乗っていた理由を知ったアニエスはアンリエットに微笑み、対するアンリエットは嬉しそうな様子で何度も頷いて答えた。
「フフ…………――――――それではわたくし達は”A”の幹部達の捜索に入りますので、お先に失礼しますわね。」
「ああ。何かわかったら連絡を頼むぜ。」
「ええ、ヴァンさんの方こそお願いしますわね。」
そしてセレーネ達が退出した後ヴァン達も会議室から退出すると、カエラ少尉と共にヴァン達に近づいてきたレンが声をかけてきた。
〜通路〜
「話は終わったみたいね?」
「先輩、オデットたちは…………?」
「旧首都に戻るか話してたけど…………今日一杯はバーゼルにカンヅメになりそうね。車道と鉄道、空路の全面封鎖――――――あんな事があった以上、無理もないけど。」
「あんなこと…………?」
「…………旧首都周辺で何かあったのか?」
レンが口にした話が気になったアニエスは首を傾げ、何かあったことを察したヴァンは真剣な表情で訊ねた。
「ええ――――――アンカーヴィル市で爆発事件があったそうよ。幸い死傷者は出なかったそうだけど、アルマータのテロの疑いがあってね。」
「…………!?」
「旧首都の北にあるそれなりにデカい街だったな。」
「間違いなくこっちが本命の”陽動”ってところか。」
カエラ少尉の話を聞いたフェリは驚き、アーロンは真剣な表情で呟き、ヴァンは推測した。
「ええ――――――ほぼ確実だけど旧首都との近さを考えると捨て置けなくてね。GIDは勿論、ギルドも対応に追われている――――――加えてバーゼルはメンフィル帝国領の上、昨日の件で主任分析官と室長が帝都への呼び出しを受けているから、バックアップは期待しないでちょうだい。」
「当然クロスベル側のエースキラーの人達や、偶然現地で調査をしていたサンドロット卿達もアンカーヴィルへの対応に追われているわ。唯一手の空いているエレボニア組の人達は封鎖の影響を受けていないリベールへ入国、その後リベール方面から導力バイクでバーゼルに向かう事になっているけど、正直今日中に間に合うかどうかは微妙な所ね。残りの一組は”別件”で今すぐにはバーゼルに向かえないとの事だから、現状メンフィル側の”エースキラー”でバーゼルですぐに動けるのはセレーネ達よ。」
「ま、元より期待はしていないさ。だがせめて情報だけは回してくれねぇか?ZCFや”財団”、それに南カルバード総督府方面もな。」
「…………いいでしょう。利害が一致する範囲でなら。」
「こちらも頼まれてあげるわ。そっちもアニエスをよろしくね。」
「先輩…………ありがとうございます。」
ヴァンの要請にカエラ少尉と共に答えたレンはカエラ少尉と共に去りかけたがあることを思い出すと立ち止まってヴァン達に思い出した用件を伝えた。
「そうだ――――――SCさんの処置が終わったみたいよ?さすがハミルトン一門、天才揃いね。」
「あ…………」
「わざわざすまねぇな。」
レンの話を聞いたアニエスは呆けた声を出し、ヴァンは苦笑しながらレンに声をかけ、ヴァンの言葉にウインクをしたレンはその場から立ち去って行った。
「リゼットさんが…………」
「処置はエスメレー准教授の研究室で行われているんでしたか…………」
「ハッ…………一応、顔を出しとくか。」
そしてヴァン達はリゼットの様子を見るためにリゼットが処置を受けている研究室へと向かった――――――
スイッチ2マリカーセット、当選しましたw公式の1回目は案の定落選で、ダメ元で家電量販店の中で唯一条件を満たしていたソフマップでやってみたらまさか当選するとは思いませんでしたww
説明 | ||
第66話 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
1430 | 1083 | 2 |
コメント | ||
遅ればせながら当選おめでとうございます!空の軌跡1stの発売日も9/19に決まりましたし楽しみが増えますね!(ジン) おぉ!当選おめでとうございます!(八神 はやて) |
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