続けるかどうかはやる気次第。
説明
リン国編(AIが要約)

魔族の世界と唯一国境を接する辺境、リン国。その空気は常に重く、人々の顔にも緊張と諦観が混じっていた。

玉座の間。国王キン・ニクは息子キン・ニク2に告げた。
「決めた。我がリン国は、魔族との共存を選ぶ」

「正気ですか父上!」王子は激昂した。「魔族ですよ!? 長年我々を苦しめてきたあの憎き者共と! いずれ国は奴らに乗っ取られます!」

「激情に駆られるな。もはや感情論で国は導けん」国王の声は静かだった。「昨今の情勢を見よ。魔族の力は増し、人間は疲弊している。そして何より…このリン国には、既に奴らの血が深く入り込みすぎたのだ」

父の言葉は冷徹な現実だった。キン・ニク2も、魔族の血を引く者が増えている現状は知っていた。だが、それを理由に屈するなど受け入れ難い。

「しかし…!」
なおも食い下がろうとする息子を、国王は手で制した。
「考えてもみよ。この国は魔族との防波堤。だがいつまで保つか。我らがここで抗戦を続けたとて、いずれ飲み込まれる。ならば…」
国王は息子の目を見た。
「我らが人間と魔族の『港』となるのだ。両者の衝突を和らげる緩衝地帯として存在し、他の人間世界が存続する時間を稼ぐ。それが、この辺境国に課せられた役割かもしれん」

父の言葉は敗北宣言にも等しかったが、王としての苦渋の決断が滲んでいた。キン・ニク2は奥歯を噛みしめ、反論を飲み込んだ。理屈では理解できても、感情が拒絶する。

沈黙が落ちる。国王は静かに続けた。
「……それに、実際に我らとの共存を望む魔族も、現れておる」

その言葉と共に、玉座の間の空気が異様に揺らめいた。国王の傍らの空間が歪み、濃密な影が陽炎のように立ち上り、徐々に人型を成していく。

やがて、影の中から、低い声が響いた。
「―――お初にお目にかかります。キン・ニク国王陛下、並びにキン・ニク2王子殿下。私は、このリン国に忠誠を誓い参りました魔族。コイカゲと申します」
影は恭しく頭を下げたように見えた。キン・ニク2は反射的に剣の柄に手をかけた。全身で警戒し、敵意を隠さない。

(魔族が忠誠だと? 口先だけだろう)

だが、彼の確信は予想外の光景によって揺さぶられる。コイカゲの背後から、おずおずと人間の女性と幼い少女が現れたのだ。

「私の家族でございます。妻と、娘です。いやはや、この娘がまた、可愛くて…」
先程までの異様な雰囲気が嘘のように、コイカゲは照れた様子を見せた。その変貌ぶりにキン・ニク2は戸惑う。

コイカゲは穏やかに語りかけた。
「王子殿下のお気持ち、お察しいたします。ですが、全ての魔族が人間を憎んでいるわけではございません。私のように、人間と共に生きることを望む者もいるのです」
そして、彼は持論を展開し始めた。
「そもそも、魔族とは元々、人間だったのではないでしょうか?」

「……は?」キン・ニク2は素っ頓狂な声を上げた。

「現に私と人間の妻との間に子供が生まれておりますし、我々魔族は自然に人語を解します。根源が同じ証左では?」

詭弁だ、とキン・ニク2は思った。しかし、目の前の少女と影を見比べると、奇妙な説得力を感じてしまう。
「……その娘、お前とはあまり似ていないようだが」つい本音が漏れた。

「はは、よく言われます」コイカゲはあっさりと笑って受け流した。掴みどころのない態度が疑念を深くする。

「まあ、その説は今は置いておきましょう」コイカゲは本題に戻った。「王子殿下が知りたいのは、我々が具体的に共存のために何を為すのか、でしょう?」

「……そうだ。具体的な計画を聞かせろ」キン・ニク2は腕を組み促した。

すると、コイカゲの声のトーンが低く、熱を帯びたものになった。
「簡単なことです。互いの『敵対心』、それを忘れさせれば良いのです」

「忘れさせるだと?」

「はい。このリン国の中心に、巨大な魔力を放出する『塔』を建造します。そして、その塔から広範囲に作用する記憶操作の魔法を放つのです。そうすれば、人々は過去の憎しみを忘れ、自然に手を取り合うようになるでしょう。平和的共存の時代の幕開けです」

計画は大胆で、魔術的だった。長年の憎しみを魔法で消す? そんなことが可能ならば…。キン・ニク2の心に一瞬、甘美な誘惑が芽生えた。
だが、すぐに理性が打ち消す。

「……仮に成功したとしてだ。デメリットはないのか? そんな強力な魔法だ、代償がないはずがない」
話が出来すぎている。キン・ニク2は鋭く問い詰めた。

すると、コイカゲは隠しきれない愉悦を声に滲ませて答えた。
「ご心配なく、王子殿下。我が主君であられるリン国に、悪影響は一切ございません」
そして、平然と続けた。
「―――ただ、その魔法の影響範囲にある、他のすべての人間の国の民が、過去の記憶を一切合切、失ってしまうだけでございます」

「…………!!」
キン・ニク2は息を呑んだ。それは共存ではない。リン国以外の人間世界に対する、静かなる精神的侵略だ。

だが、彼が怒りに燃える拳を握りしめ、反論するよりも早く、玉座から歓喜の声が響いた。
「素晴らしい!実に素晴らしい計画だ、コイカゲよ! リン国に被害がないなら試す価値はある! 他国など知ったことか!」
国王は憑き物が落ちたかのように高らかに笑った。
「さあ、ぐずぐずするな! 早速、その輝かしき『平和』実現のための塔の建設に取り掛かるのだ!」

王の承認の声だけが、がらんとした玉座の間に虚しく木霊する。
キン・ニク2は唇を強く噛みしめ、ただ立ち尽くすしかなかった。
何かが決定的に間違った方向へ、恐ろしい速度で動き出してしまった。そんな冷たい絶望感だけが、彼の心を支配していた。

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