斑鳩最後の戦い
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〜プロローグ〜

 

「鳳来ノ国」・・・・・元々、本州の外れに位置した小国であった。

しかし、自分達を「神の力」を得た「神通者」と称し、「選民思想」と

「平和統合」の名の元、各地を武力で制圧するまでになっていた。

事の起こりは、国の中心人物である「鳳来 天楼」(ホウライテンロウ)

なる人物が、数年前に地中深くから掘り出した「産土神黄輝ノ塊」

(ウブスナガミオウキノカイ)と呼ばれる物体を見つけたことに端を発する。

物体との遭遇後、天楼は奇跡とも呼べる力を次々に発揮し始めたという。

その最中、人の自由を望み、鳳来に戦いを挑む組織「天角」(テンカク)

があった。彼らは「飛鉄塊」(ヒテッカイ)と呼ばれる戦闘機を使い

鳳来と戦っていたが、次第に勢力を失い全滅する。

その中で奇跡的に生き残った一人の青年がいた。その名は「森羅」(シンラ)。

鳳来との戦いの中で撃墜され、斑鳩の里へ墜落した森羅。

森羅は、長老「風守老人」をはじめとする斑鳩の里の老人達に助けられ

一命を取りとめる。

やがて全快した森羅は、再び鳳来に挑むことを老人達に告げる。

老人達は森羅に、自分達の意地で作り上げた飛鉄塊「斑鳩」を託した。

森羅の動きを察知した鳳来ノ国は仏鉄塊と呼ばれる巨大な人型の兵器を差し向けた。

浅見 影比佐(あさみ かげひさ)の操る仏鉄塊、烏帽子鳥(エボシドリ)と

激しい戦闘を繰り広げ、これを見事に撃破した森羅は、更に鳳来ノ国の中心へ

向かっていく。その後も様々な仏鉄塊、仏法僧(ブッポウソウ)、鶉(ウズラ)

鶚(ミサゴ)が斑鳩に挑んでくるが、壮絶な死闘の末、森羅は奇跡的に

これらを撃ち破ることに成功した。

そんな森羅の前に、究極の仏鉄塊、田鳧(タゲリ)が姿を現す。

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第1章

「我は鳳来 天楼 (ほうらい てんろう)。この世に神の力を顕現するもの。」

巨大な仏鉄塊、田鳧(タゲリ)から声が聞こえてくる。

あれが鳳来 天楼・・・この世界を崩壊に導いた張本人か。

奴のせいで多くの仲間が、人が死んだ。そう感じた森羅は唇を噛んだ。

そんな森羅に再び田鳧(タゲリ)から声が聞こえてきた。

「我に挑もうというのか。愚かなるものよ。」

それを聞いて森羅が叫ぶ。

「愚かなものはどっちだ!貴様のせいで、多くの人が命を奪われたんだ!

狂気と自分の欲望に世界を歪める貴様を俺は許しはしない!」

「狂気とな・・・我が成す顕現、これすなわち輪廻。すべての命が輪廻の

理のもと息づいているのだ。」鳳来 天楼の声だった。

その声は厳かであり、禍々しくもあった。

「神にでもなったつもりか!貴様のやっていることはただの不条理だ!

そんなものは断ち切ってやる!」

森羅の叫びと共に壮絶な戦いが始まった。

夥しいまでの光の念波。黒と白の念波が斑鳩を襲う。

「斑鳩、霊波動変換振動翼展開。」斑鳩の表面が念波に合わせて黒と白の光を

交互に帯びる。それに念波が当たった瞬間、斑鳩に吸い込まれていく。

「我の力を己がものにするか・・・小賢しい。そんな暇も与えずこの世から消滅

させてくれよう」天楼の声と共に田鳧(タゲリ)が変化し始めた。

顔の無い、餓鬼のような頭が現れ、その下には不気味な球体が脈動する。

そして、先ほどまでとは比べものにならないほどの黒と白の念波が斑鳩に降り注ぐ。

必死に斑鳩の振動翼を切替え、敵の攻撃に耐える森羅。

だんだん斑鳩の操縦桿を握った腕が痺れてくる。

「く・・・そぉお!!!」思わず叫ぶ森羅。

そんな森羅に再び絶望を囁くような天楼の声が聞こえてきた。

「気づいているのだろう?この輪廻を断ち切ることなど出来はしないということを」

その声に森羅の中で、怒り、悲しみ、失った人々の記憶が渦巻いた。

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第2章

このまま、何も出来ずに俺は死ぬのか・・・・森羅がそう思った時だった。

突然、老人の言葉が雷光のように頭に浮かんだ。

 

我、生きずして死すこと無し。理想の器、満つらざるとも屈せず。

これ、後悔とともに死すこと無し…

 

(私は自分の命を精一杯生きることが出来ない間は死ねない。

自分の理想が例え叶わなかったとしても諦めない。

この信念は例え後悔することがあっても決して私の中で死ぬことはない。)

 

森羅の中で何かが弾けた。「俺は・・・俺は、この不条理に負けない!断ち切ってやる!!」

巨大な仏鉄塊、田鳧(タゲリ)に操縦桿を向ける森羅。

逃げるどころか猛然と向かってくる斑鳩に、その気迫に天楼の気配がたじろぐ。

次の瞬間。「斑鳩、霊力多重量子砲展開。連続一斉射!!。」

森羅の気迫と執念が込められた弾丸が田鳧(タゲリ)に向かって斑鳩から撃ち出された。

それが光の雨となって田鳧(タゲリ)に突き刺さる。

轟音と共に巨大な仏鉄塊がみるみるうちに閃光に包まれていく。

「やった・・・のか?」巨大な光の塊となった田鳧が爆発し、光の飛沫が周りに

拡散していく様子を斑鳩の操縦席から見ながら森羅が茫然とつぶやいた。

 

「森羅!!生きているの!?」突然、篝からの通信が入った。

飛鉄塊(ヒテッカイ)銀鶏と共に彼女もまた、この戦いに身を投じていた。

「篝・・・こっちは大丈夫だ・・やったよ・・そっちは無事か?」

森羅の声に安堵したような篝の声が通信機から再び響いてくる。

「こっちは全然大丈夫。森羅・・良かった・・無事で・・・」

空を飛ぶ斑鳩の横に銀鶏が並ぶ。

「これでようやく、私達、自由に・・・」篝がそう言いかけた時だった。

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第3章

・・・警告!巨大質量物体感知。下方ヨリ接近中・・・・・・・・・

 

斑鳩のシステムが下方から迫ってくる巨大な物体を捉え、警告を発した。

「篝!下だ!」「え・・!?」森羅の声に驚く篝。

「下から何か来る!!」森羅が叫ぶと同時に、鳳来ノ国の中心から金色に光る

巨大な四角錐状の物体が浮かび上がるのが見えた。

それは徐々に高度を上げ、森羅たちのほうへ向かってくる。

「何だ・・・・あれ・・・は」驚く森羅。篝からは何も返事が返ってこない。

だが、同様に彼女も驚いているのだろう。

そして・・・

全長が数百メートルほどもあるそれは森羅たちの眼の前に来ると静止した。

「私は、産土神黄輝ノ塊 (ウブスナガミオウキノカイ)」

巨大な四角錐から声にならない声が森羅たちの頭に語りかけてきた。

 

「人類よ。私と共に人類が共存していくことを望んでいます。

平和と安寧を願う私の意思に人類が沿うことを望んでいます。

再び愚かな過ちを繰り返さないためにも。

それを人類が認めない場合、私は自分の意思に沿う人類が再び現れるまで

人をこの世から消し去らなくてはなりません。

あなた達は私と共に共存していく道を選びますか?」

 

「断る!」森羅がきっぱりと言い切った。「俺達の運命は俺達自身が決める。

何者にも束縛されない自由な意思の元に。誰かの強制を受けて生きるんじゃない。

自分らしく生きていける自由な意志のために俺達は生きる!!

これが輪廻そのものだと言うのなら・・・・・」森羅はそこで黙った。

しばし逡巡したのち、再び森羅は叫んだ。

「輪廻を断ち切って真の自由を俺達は掴む!!」

その言葉に産土神黄輝ノ塊から嘆き悲しむような声が伝わってきた。

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第4章

「どうしても変わらないのですね。その決意は・・・・・・」

産土神黄輝ノ塊の光が増し始めた。巨大な四角錐の周囲に梵字のような紋章が

浮かび上がりそれが光の輪となって回転を始めた。

今まで闘ってきたどの仏鉄塊よりも巨大な念波が感じられる。森羅は息をのんだ。

これは・・・まるで海のような巨大な念波だ。勝てるのか・・・?

森羅がそう考えた時。産土神黄輝ノ塊から再び声なき声が伝わってきた。

これから生きるか死ぬかの死闘が始まる。それなのに。

それは慈愛に満ちた声だった。

 

・・・私の愛しい子たちよ・・・・・・・輪廻から独り立ちする愛しい子たちよ。

それ故に・・・悔いの残らぬよう、やり遂げなさい。

 

森羅は、老人の言葉を再び思い出した。

 

我、生きずして死すこと無し。

理想の器、満つらざるとも屈せず。これ、後悔とともに死すこと無し・・・

 

これは、俺達生きるものたちの意地。生きる証。

死んでいった多くの仲間の為、殺された罪なき人達の為、自分は闘い生き延びてきた。

それが自分の存在してきた理由だと・・わかっていたはずだった。

目の前に立ちはだかるものは倒さねばならない。そう自分に言い聞かせてきた。

・・・なのに・・・なぜ、こんなに心が痛むのか。

慈愛になぜ刃を向けねばならないのか。

 

産土神黄輝ノ塊の巨大な波動は篝も感じ取ったようだった。

彼女の顔に自然と自虐めいた笑顔が浮かぶ。

「私達は、自由を見られるかしら?」

その篝の言葉に森羅は返事の代わりに短く一言答えた。

「来るぞ」

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第5章

産土神黄輝ノ塊からの巨大な念波が押し寄せ始めた。それはまるで海のようだった。

寄せては返す波のように巨大な黒と白の光の念波が交互に押し寄せる。

このままではとてもあの巨大な物体を破壊出来ない。

斑鳩のすべての力を開放してあの巨大な物体に叩きつける。

そう考えた森羅は斑鳩の抑制装置の解除コマンドを打ち込み始めた。

斑鳩のシステムすべての安全装置と抑制装置が解除されていく。

 

抑制装置ヲ解除・・・

コレニヨリ、機銃ノ使用不能。

 

斑鳩のシステムから警告メッセージが流れる。

 

Release the restrain device.

Using the released power may result

the possibility of destruction of the ship.

 

(抑制装置を解除します。

 しかし、力の解放の使用と同時に

 機体が崩壊する可能性があります。)

 

森羅は構わず解放コマンドを打ち込み続ける。産土神黄輝ノ塊から波のように押し寄せる

巨大な黒と白の光の念波をかわし続けながら森羅はコマンドを打ち込み終えた。

斑鳩のメインジェネレーターがかつてないほど稼働を加速する。

斑鳩の機体全体に少しずつ光の波動が集まり輝きを増していった。

「斑鳩・・全霊力波動完全解放・・・」

今こそ・・・・・すべて・・の輪廻を・・・断ち切る

森羅は目を閉じた。そして・・・斑鳩からまばゆい光が無数に産土神黄輝ノ塊へ向かって

伸びる。それは無数の光の矢のように産土神黄輝ノ塊へ突き刺さった。

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第6章

斑鳩のシステムから最後のメッセージが森羅に届く。

 

Was I helpful for you ?

(私は、あなたのお役にたてましたか?)

I am deeply grateful to you.

(あなたに最大の敬意をもって伝えます・・・ありがとう)

 

森羅が呟く。

「これで・・・良かったのか?」

 

次の瞬間・・・・斑鳩は大爆発を起こし四散した。

 

目の前で斑鳩と共に四散した森羅の姿を目の当たりにした時

篝はただ茫然としていた。

「森・・・羅・・・?」無意識に篝の口が動いていた。

 

かつて鳳来ノ国より森羅抹殺の命を受け、刺客として篝は森羅に挑み

破れた。森羅に撃墜され森に墜落し自らの敗北を悟った篝が命を

自ら絶とうとした時、彼は必死になってそれを止めた。

その顔には少しも邪念が無くただ純粋に篝の身を案じていた。

その後も篝を案じ心配そうな顔で見ていた森羅。

その様子に篝が苛立ちを覚え、一度だけ怒鳴ったことがあった。

「私はお前を殺そうとした敵だぞ!何故そうまでして私を案じるのだ?」

その問いに一瞬森羅は困ったような顔をしたが、きっぱりと言った。

「だってほっとけないじゃないか。力になってあげたいんだ」

そう言うと照れくさそうに笑った。

その笑顔が篝には何故かまぶしく心が温かいものに包まれた

気がした。気のせいか心臓の鼓動も速くなっていた気がする。

「ば、馬鹿にするな!」顔を真っ赤にしながら森羅に篝は

そう言い返すのが精一杯だった。

この不思議な気持ちは一体何なのだろう。何故こんなにも

心がほっとするような気持ちになるのか。

だが、それを他人に尋ねるには躊躇われた。

自分の弱い部分を認めるような気がして

それを篝のプライドが許さなかったのだ。

この一件以来、篝が落ち込んだ時。自責の念に駆られた時。

辛い時。胸が張り裂けそうになった時。

そこにはいつも励まそうとする森羅の姿があった。

「大丈夫。きっとやれるさ」

彼は優しくそう言うとにっこり笑った。

それはいつしか篝の心にとって大事な光になっていた。

生きる道標を自分に見せてくれているような気がしたのだ。

そんな彼が・・・今・・・目の前で・・・・。

篝は銀鶏の中で声にならない声で絶叫した。

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第7章

そんな彼女の目の前で不気味に浮かぶ産土神黄輝ノ塊。

一瞬、念波の海が止んだ。

しかし再び押し寄せる波のように産土神黄輝ノ塊から巨大な

念波が放たれてくる。それを必死によけながら篝は覚悟を決めた。

私が成すべきこと。それは彼が成し遂げたかったことを成すこと。

あの人のために私は全てを捧げて成し遂げる!!

この狂った輪廻を断ち切る!!

迷わず飛鉄塊(ヒテッカイ)銀鶏の霊力波動の開放を実行する篝。

斑鳩同様、銀鶏の機体全体に少しずつ光の波動が集まり輝きを増していく。

銀鶏から無数のまばゆい光が産土神黄輝ノ塊へ伸びていった。

執念とも見てとれるような無数の光の筋が産土神黄輝ノ塊全体を覆っていく。

銀鶏の機体が悲鳴を上げながら極限まで輝いた時。

巨大な金色の四角錐の中心に亀裂が入った。

そして無数の亀裂が徐々に金色の四角錐全体へ伸びていった時だった。

天地を揺るがすような轟音と共に産土神黄輝ノ塊は大爆発を起こした。

今・・・篝の目の前で産土神黄輝ノ塊が崩れていく。

それを見ながら篝は呟いた。

「森羅・・・これで・・・ようやく私たち・・・」

だが、飛鉄塊(ヒテッカイ)銀鶏も既に機体が限界を超えていた。

それを悟った篝は目を閉じた。

「連れて行って銀鶏。私を森羅のもとへ」

眩い光が銀鶏全体を包む。

それが一瞬膨らんだかと思うと同時に・・・・・

銀鶏は銀色の光を放ち、四散した。

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終章

どのぐらい時間が経ったのだろうか。

森羅たちが消滅した虚空に男性の意識と女性の意識が漂っていた。

それが森羅と篝のものだったのかどうかはわからない。

女性の意識が呟く。『あの巨大な意識は何だったのだろう。』

男性の意識が答える『わからない』

『私たちは神と対峙したのだろうか。人と神とは相入れないものなのだろうか』

そう呟く女性の意識に男性の意識が優しく答える。

『わからない・・・でも大丈夫・・・何時か、きっとわかり合える日が来る。』

再び女性の意識がそれに答える。

『それには長い時間が必要かもしれない。でも・・・そう・・きっといつか』

『私たちは真に分かり合えて本当の自由を得る時が来る』

そのときだった。

深い慈愛に満ちた大いなる意志の言葉が2つの意識にしっかりと響いてきた。

『そして、遠い未来へ・・・自由を得た命たちは受け継がれていくのです。

あなた達もその中のひとつとなって未来へ命を繋いでいくのですよ。』

その言葉に2つの意識は打ち震えていた。

こんなにも慈しみに満ちた波動を感じたことがあっただろうか。

深い大きな安息に包まれて2つの意識は天空へ昇っていった。

説明
昔、斑鳩という株式会社トレジャー版権のシューティング
ゲームがあり、そのなかで様々なデモが流れていたのですが
背景がよくわからなかったので多分、こんな感じじゃないかな
と思って作った小説です。
公式設定は一切知らずに作った小説なので、設定と違う部分も
あるかもしれません。そのあたりはご容赦下さいませ。
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タグ
斑鳩 シューティング 

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