〇　ルルアンドゥゴールの断片

ティーンチ神の迷宮内

過去と未来と現在が混濁する

次元のハザマに取り残されていた

33.01秒の映像データ。

スザーレクの怒りに魂をくだかれる刹那

皮剥ぐ者は己の痕跡を同胞のシャードに転送し

意思の断片だけでもこの世に残そうと抗った。

願いは届かず

周囲のシャードもまた

ルルアンドゥゴールと運命を共にしたかに思えた。

が

シャードのきらめきの一部が

次元の揺らぎに落下し

それは再生する媒体無き映像ファイルへと形を変え

ワープのハザマを漂うこととなったのだ。

限られた記憶容量の中で

彼が唯一残した意思。

すべてを引き裂き

すべてを血で染め

すべてで己を包み飾る

永遠に繰り返される33.01秒の牢獄で

彼は静かに

その時が来るのを待ち続けた。

〇　ティーンチ神の迷宮

全ての世界の全ての時間に繋がると言われる

ティーンチ神の住まいにして玉座。

まるで「世界」全てを内包するかのような

あまりの広大さ

あまりの深さ

あまりの高さ　から

この世界にティーンチ神の迷宮が存在するのでなく

ティーンチ神の迷宮のなかにこそ

「世界」は広がっているのだ

という者すらいる。

ティーンチ神はここから　すべての事象を見通し

また　

それまでにない過去と未来を自ら作り出したりもする。

皮肉なことに

すべてを把握しているティーンチ神にとって

彼が愛してやまない「可能性」

などという概念は

ほぼ無いに等しいのである。

「全て」を知る

まさしく全知の神は

彼自身もが予測しえない「変化」と「可能性」を常に探し

その触手で世界をなでくり回す。

そして

その「芽」を見つけると

感情を持たぬはずの運命の構築者は

子供のように笑い　喜ぶのだ。