艦隊 真・恋姫無双 168話目 《北郷 回想編 その32》 |
【 独白 の件 】
? 南方海域 連合艦隊
軽巡洋艦 由良 視点にて ?
『夕張ちゃん! 夕張ちゃん!!』
『………由良、逃げて。 この装備の重さじゃ……大破した私なんて……足手まとい……』
『やだ、やだよぉ……夕張ちゃん! 一緒に──』
─────この惨状から、少し前のこと。
提督さんの奮迅により、あの地獄としか言い様の無い場所から命からがら逃げ延びた私達は、更なる二転三転と状況が変わりました。
それでも今は、何とか一息ついています。
『艤装の簡単な修理なら、私が請け負うから持ってきてぇ! ついでに、使えなくなった艤装も! 部品が合えば他の艤装が動くから、お願いね!』
『少し火傷が酷いが、俺の五斗米道(ゴッドヴェイドー)なら大丈夫だ! 薬が滲(し)みるが我慢してくれ。 由良、こっちにも薬を頼む!』
『はぁーい、艤装の事は了解したから、ちょっと待っててね、ねっ! 先に華佗さんへ薬を渡してから、直ぐに持っていくから!!』
『すまん、ちょうど手が離せなくてな。 いや、助かった! よし、最後に、一鍼同体! 全力全快! げ・ん・き・に・なれぇぇぇ!』
皆が皆、艤装も身体もボロボロだったけど、親友と言っても過言ではない《 夕張型 1番艦?軽巡洋艦 夕張 》の夕張ちゃんの活躍。
彼女の趣味である機械工が、本職より劣るとはいえ、艦娘達の艤装修復作業に一役買っているわ。
そして、提督さんの大親友だと言い張る医者?の華佗さんの治療?も加わり、損傷著しい皆さんの修復活動に全力を注いでくれたの。
何故だか分からないけど、たまに《 テンノミツカイ 》って、提督さんを呼ぶんだけど。 夕張ちゃんの推測だと……厨二病かもって。
どうなんだろう……提督さん。
そして、比較的損害軽微だった由良も、夕張ちゃんや華佗さんの手伝いをこなし、一隻でも多く助けられるようにと、色々と頑張ったんですよ。
それに、もう1隻……心強い艦娘が。
『由良さん、朝日も何か手伝い……いえいえ、出来る範囲の介添えしているだけですから、心配は無用にて。 はい、仰有って頂ければ───』
────《 改敷島型 2番艦 工作艦 朝日 》
『何で此処に居るの?』って過言ではないほどの艦娘。 本艦曰く『間違って出された』とか言うんだけど……貴重な工作艦なのに。
だけど、今の状況では、文字通り[ 渡りに船 ]だよねっ、ねっ!
ちなみに朝日『ちゃん』付けは本人の希望。
『さん』とかだと敬わられるみたいだから、もう少し砕けた風にして欲しいと頼まれたので、由良は『ちゃん』で、夕張ちゃんは何故か敬称略。
本人は喜んでいるから、いいんだけどね。
『あっ、朝日! 此処の原因って分かる? 動作は問題ないんだけど、ここの箇所がギクシャクするのよね。 油は差したし部品は変えたし………』
『僭越ながら朝日の目から見ると……此処と此処の箇所、この二ヶ所の連結部分が外れているのが原因ではないかと。 釈迦に説法とは存じますが』
『…………………あぁッ! 後で接合しようと思って場所! 忙しくて、完全に忘れてた! 流石は工作艦ね、ありがとう!!』
『お役に立ち何よりと存じます』
まあ、由良だけでは到底無理でしたが、工作艦の朝日ちゃんが居てくれたお陰で、何とか出来そうで良かったです。
しかも、結構忙しい夕張ちゃんの助手を完璧に補いながら、余裕の微笑みを浮かべて由良に手伝いを申し出てくれる……良い艦娘なんだけど、ね。
『技術は勿論のこと、事務仕事も手慣れている感じで、しかも話を聞けば料理も得意。 これで気立てもいいんだから、ぜひ私の嫁に欲しいな!』
『そんな………朝日のような者など。 ですが、今は工作艦として新たな任を受けた身。 有難い言葉ですが、今生の役割を見事果たしてみたいと』
何か……内助の功的スペックに負けそう。
任務は当然頑張るし、事務仕事も当然よね。 調理の腕前だって和食なら負けてないはず。 それに、洗濯なら………洗濯、えへ、えへへへ。
だけど、どのような出来事にも迅速に行動できる、泰山自若な対応。 古参艦だけあって流石の一言…………由良も見習いたいな。
それと、あの魅力的な体型……元戦艦だけあってか小さいのに大きい……胸部装甲とか、胸部装甲とか。 でも、由良だって……魅力的なんだから。
『まあ、朝日だったら競争率高いから、残念だけど私だと無理かな。 でもさぁ…………提督ならどう? 結構、顔も性格も良さそうだけど?』
はい? 夕張ちゃんは何を聞いてぇ?
えっ? もしかして、朝日ちゃんが……提督さんを狙っているか……探りを入れてくれている?
────いや、待って!
────本当に、待って待ってぇ!!
狙っている相手が提督さんとは限らないし。 逆に考えれば、朝日ちゃんが恋愛関係に興味が無い可能性だってあるよねっ、ねっ?
いやいや、でも気のせいか……前に朝日さんが提督さんを見る目、実際怪しかった気が………!?
いやいやいや、もし本当に気のせいだったら、朝日さんに悪いよ! 証拠も無いのに疑うなんて、失礼にも程があるから!!
いやいやいやいや───もしかしたら?
いやいやいやいやいや───そんな事!
いやいやいやいやいやいや──万が一に?
ゼェゼェゼェゼェ……もぉ、もう、止めよう。
こんな事を考えていたら切りがないわ。
(『いや』から始まったこの間 0.01秒)
それよりも提督さんの事、どう思っているのか知らないと────
『そうですわね。 確かに頼り甲斐がある殿方とは存じます。 ただ《 あの子 》を思うと………』
───脈アリアリアリアリアリアリアリ……ありだとぉぉぉぉぉッ!?!?
その後の台詞を聞きたいッ!
早く、早く、早くぅぅぅぅ!!
だけど、その言葉を聞く前に聞こえてきたのは、僚艦からの悲痛な叫び声。 由良達の生存という希望を、瞬く間に崩壊させた警報発令。
『て、敵艦見ゆ!! 繰り返す! 敵艦、見ゆッ!!』
………なん……だと…………!?
警戒していた僚艦からの警報の声が響き渡り、艦娘達の間には緊張と恐怖が改めて走りましたが、私の頭の中では只今大混乱の真っ最中。
なぜ、なんで、どうして、このタイミングで!?
『た、大変! 早く迎撃準備しないと! 華佗と朝日は急いで避難を! 私と由良は迎撃に………って、由良? どうしたの、大丈夫!?』
『………嘘……だろ……』
『ちょっと、本当に何があったの? 何時もの由良と違うけど。 もし体調とか悪いのなら、私が急行するから、避難してもらえば……』
『ご、ごめんね。 あまりにも予想外すぎて、頭が混乱しちゃったの。 もう大丈夫だから、心配しないで早く行こうね、ね?』
『そう? それならいいんだけど。 でも、身体が辛かったたら、直ぐ報告してよ?』
この突如の急報のために、朝日ちゃんの最後の言葉が聞けれないまま、私達艦娘は否応なしに戦いの渦中へと抜錨することに。
でもこれは、あの怖い南方棲戦姫を撃退し、全てが終わったんだと……気を抜いていた私達の罪。
今までは、動けなかった私達の代わりに、援軍として駆け付けた他国の方々が、周辺の警戒していてくれていたので、つい安心していました。
ここは、今なお敵地の真っ只中。
未熟な自分達は、ただ匿われるだけではなく、自分達の目で、確実に警戒を厳にしなければいけなかったんだと、強く痛感したのでした。
◆◇◆
【 緊迫 の件 】
その警報により皆が見たのは、遠くの海原に浮かぶ黒い集団。 波飛沫が高く舞っている状況から、推進速度は非常に速いと推測できます。
しかも、近隣に援軍は居ないとウォースパイトさんから聞いていましたから、答えは明白。
由良の……艦娘達の宿敵【深海棲艦】
南方棲戦姫が撃退した今、指揮系統は遮断され、残りは烏合の衆と成り果てた物ばかり。
僚艦の皆さんは、ここに到着したばかりの時に浮かべていた悲嘆に暮れた表情は無く、決意を固めた戦人の面構えをして士気を高めています。
『まぁ……気張るっきゃなーいねぇ、そういうことさぁ!! さてっと、覚悟が決まった谷風さんは、ちょっと一味どころか二味も違うよぉ!!』
『今度こそ、陽炎型ネームシップの名に掛けて、大活躍するんだからね! 十八駆、私の後に続け……こら、不知火! 単独行動は慎みなさい!』
『落ち着くんだ。 [ 魚雷 ]を数えて落ち着くんだ……[ 魚雷 ]は貧弱な駆逐艦に強力無比な火力を授ける孤高の兵器……私に勇気を与えてくれる』
『うぅ……残念。 あんな敵、もう少し体調が戻れば、阿賀野が本領発揮して、メチャクチャのクチャにしてたのに。 提督さん、お先にご免──』
『阿賀野姉ぇ! ほら、早く迎撃準備開始して! 妹の矢矧が頑張ってるのに、上の姉が諦めてどうするのッ! 私も矢矧の手助けに行くから!!』
『能代……お願い。 阿賀野が轟沈したら、この提督日誌を提督さんに……って、ガァーン! 能代に置いて行かれちゃた! ま、待ってぇぇぇ!!』
その様子を見て、由良は思わず涙ぐんでしまいました。 夕張ちゃんの整備、治療した華佗さんの努力が………報われたと。
だけど、また結局は……何かを得ても、何かを失う。 どれだけ大切にしていても、どれだけ大切な人も、掌に汲み上げた水のように零れていく。
由良達の戦力は、戦艦から駆逐艦まで勢揃いですが、貴重な装備は剥ぎ取られ、練度は低いままので連れられため、先の戦いでも犠牲が多数。
そして、今回も────
『由良、僚艦から聞いたけど、長門さん達……どうも提督の女関係で来援できないって。 だから、ここは私達だけで食い止めない……と……』
『………………』
『ゆ、由良?(こ、怖っ! あの慈母神みたいな由良の顔が、DBのブ○リーみたいにッ!!)
あは、あははは………何だが気が高まり、溢れてきそう。 ふうぅぅぅ、深海棲艦……まずお前達から○祭りにあげてやる………!!
◆◇◆
【 激震 の件 】
? 南方海域 連合艦隊
軽巡洋艦 由良 視点にて ?
万全とは言えませんでしたが、出来る限りの事はしました。 あの悲劇を経験に変え、由良達の練度も上がり、今度こそ勝つ……はずでした。
『キャアァァァァァァッ!!』
『も、もう───やだッ! 轟沈なんか、轟沈なんかぁッ!!』
『邪魔! 退いて、お願いだから退いてぇ!!』
『誰か───助け……て……ぇ………』
意気軒昂に立ち向かった僚艦達でしたが、結果は惨敗。 今は誰も轟沈こそしていませんが、全艦全滅するのは時間の問題……かな。
由良も……深海棲艦爆の猛攻を受け、大破寸前の状態。 前の戦いを想定して装備を準備していたんですが、やはり部品や艤装が足りなくて。
由良を庇って、攻撃を喰らった夕張ちゃんも同じような状態です。 艤装は大破して使い物にならず、しかも左足を怪我して移動も出来ません。
しかも、想定外なことに、深海棲艦は指揮系統が崩れて烏合の衆となっていたと予測していたのですが…………残念ながら間違いでした。
『南方棲戦姫ヲ……退ケタト聞イテ……ドンナ強者カ……楽シミニ……シテイタケド……トンダ……期待外レ……』
『アレハ……姫級トハ……名バカリノ……ヒヨッコ。 期待ヲ持ツノガ……間違イヨ』
『……ツマラナイ………ツマラナイ……!!』
由良の目の前には、多くの深海棲艦を引き連れた【 南方棲鬼 】と【 南方棲戦鬼 】の二隻が、由良達を蔑んだ目で見下ろしていたの。
本来は南方棲戦姫配下で、下級の深海棲艦を引き連れ、別地域を支配領域に置いていますが、南方棲戦姫の危機を聞き、駆けつけた……筈?
………その割には、何か馬鹿にされているけど。
この二隻は、先の南方棲戦姫の下位互換と言っていい深海棲艦ですが、由良達が相手するには到底覚束(おぼつか)ない強敵。
幾ら万全だったとしても、勝つのは……不可能。
しかも、配下と思われる深海棲艦が、此処とは別の場所にも向かったと情報を受け、由良達は少ない味方を救援に向かわせたから、余計に、ね。
だけど────
あの時、提督さん達に率いられ、深海棲艦達に追い詰められた時、由良達を逃がして単独で立ち向かった長門さん達の奮闘を忘れられないの。
皆が絶望すに瀕(ひん)する中……天龍さん、龍田さん、雷ちゃん、電ちゃん、長門さん、金剛さん達が、囮になって庇ってくれた。
あの時は何も出来なくて、逃げるのが精一杯だったけど、今度は───由良が誰かの背中を護ってあげたかったんだ。
それだから、こんな事で諦めるなんて………
『ホウ……未ダニ……我々ニ……刃向カウ……反抗的ナ……目ヲシタ奴ガ……居ルカ……』
『ククク……感心感心。 ナラバ……褒美ニ……オ前ヲ……轟沈スルノヲ……最後ニシテ……ヤロウ』
『……放ッテ……置ケバ……強者二成ッテイタカモ……シレンガ……弱キ者二……興味ハナイ。 好キニ……スレバイイ』
そう愉快そうに笑った南方棲戦鬼は、引き連れている深海棲艦達に命じて、由良以外の艦娘に止めを刺そうと動き出しました!!
由良は近くに居る夕張ちゃんに近づき、直ぐに起き上がらせて逃げ出そうと動かすのですが、全く微動もしてくれません!
夕張ちゃん、動いてぇ! 早く早く早くぅ!!
『……無理だって。 《 兵装実験軽巡 》の二つ名は伊達じゃないんだから。 私自身が動かさないと……散歩どころか一歩もできないの……』
『そんな冗談言ってないで、逃げよう! 夕張ちゃん! 夕張ちゃん!!』
『………由良、逃げて。 この装備の重さじゃ……それに……轟沈間近の私なんて……足手まとい……』
『やだ、やだよぉ……夕張ちゃん! 一緒に──』
夕張ちゃんだけでもと思って助けようとしても、今の由良の力では全く通用しません!
その言葉を最後に夕張ちゃんは目を閉じ、全く動かなくなりました! 目を覚まさなければ、轟沈となり夕張ちゃんの身体がぁ!!
このままでは、このままでは、夕張ちゃんはッ!!
そんな夕張ちゃんの背後に、重巡リ級が口元を愉悦で口角を上げつつ、腕に着けた艤装の砲塔をむけ、今にも撃ち込もうとしています!!
慌てて夕張ちゃんの上に覆い被さり、由良が身代わりになるつもりで、その身を晒しました!
勿論、他の僚艦達からは、必死に夕張ちゃんから離れるよう叫ばれましたが、由良は梃でも動くつもりはありません!
覚悟を決めたから、絶対に離れませんから!!
──────ドン! ガッシャーン!!
近くで、急に大型トラックの衝撃音の如く、大きな物音が鳴り響き、付近に居た者達は一斉に行動を止めました。
だって、その音が鳴り響いた場所には、夕張ちゃんを攻撃しようとした重巡リ級が、何処からかぶつかってきた戦艦タ級に衝突して……轟沈中!?
つい、今の今まで由良達を狙っていたのに……
唯一例外なのは、その音の原因を作り出した存在のみ。 静寂の中を進む件の艦娘は、奥ゆかしい歩きで由良達へ近づいてきました。
『敵と会敵など……実に久しぶりですわね。 けれど、この弱者を甚振る振舞いを《 あの子 》が見ていたら、何と思うことやら』
『あ、朝日ちゃん……』
『はい、朝日でございます。 皆さんが御無事で安堵しました。 もし、轟沈などさせたら、私は《 あの子 》に合わす顔がありません』
この時、由良は現場と朝日ちゃんを見比べて、思わず考えてしまいました。
朝日ちゃんは工作艦。
付近に動ける僚艦が存在せず、朝日ちゃんのみ。
それよりも戸惑ったのは、ただでさえ危ないのに艤装を殆ど外し、丸腰に近い姿で来援してくれたこと。
なのに、深海棲艦の重巡級、戦艦級を瞬殺したのは、どんな方法で行ったのでしょうか?
◆◇◆
【 軍神 の件 】
? 南方海域 連合艦隊
軽巡洋艦 由良 視点にて ?
『さて、私の可愛い僚艦達を苛めたのは、貴女達ですわね? これ以上の暴虐無道の振舞い、見逃すことなどできません。 覚悟はよろしくて?』
『…………誰カト思エバ……牙ヲ抜カレタ老狼……ゴトキガ! 多少使エヨウ……ガ……囲メバ……終ワリ……ヨ! 行キナサイ!!』
オモチャを取り上げられ、癇癪を起こした子供のように南方棲戦鬼が怒りだし、配下の深海棲艦に朝日ちゃんの抹殺を命じました。
命じられた深海棲艦数隻は、直ぐに朝日ちゃんを囲み、それぞれが砲撃の準備を整えますが、朝日ちゃんは動かず周囲の確認をするのみです。
こんな危ない火中の栗を拾うが如く、由良を助けに来てくれた朝日ちゃんなのに、由良の身体中に力が入らず、ただ見ているだけしかできません。
あまりにも不甲斐なさに、由良は自分の身体を叩き付けながら、思わず涙が零れてしまいます!!
この、このぉ、このぉおおおおッ!!
そんな時、身体の振動が伝わったのか、夕張ちゃんが目を覚ました。
『ゆ、由良……』
『夕張ちゃん? 夕───うぐっ!?』
『私は……動けないけど、ダメコンで……何とか轟沈は免れたわ。 それなのに……由良が騒いだら、朝日の頑張りが……台無しじゃない』
夕張ちゃんに口を抑えられたので、首を縦に数回振ると漸く離してくれました。
そして、由良に耳を寄せるように言うので、夕張ちゃんに近づけると、日頃の快活な声から急に寒気がする怖い声に変わります。
『あの……クソ深海棲艦どもに……一矢報いてやるのよ。 兵装実験軽巡夕張の底力を……ね』
夕張ちゃんには何か考えがあるようで、ある物を動けるよう応急処置をするので、由良の身体で隠し、機会を待ち朝日ちゃんを援護することに。
そんな中、周囲の深海棲艦が顔を向けて、一斉に砲撃を放とうとした瞬間、朝日ちゃんが電光石火の動きで、囲みの一隻である戦艦タ級の懐に!?
『─────!?』
『やはり、貴女のような人型は、技が掛けやすくて非常に助かりますわ───てぇいっ!!』
戦艦タ級の片腕を掴むと、朝日ちゃん自身の肩に担ぎ上げ、そのまま前方へ────えっ、投げ飛ばしたぁ!?!?
当然、そのまま朝日ちゃんと入れ替わるように、戦艦タ級が前へ現れ、他の深海棲艦の砲撃は止めることもできず、戦艦タ級に全部弾着!!
残りの深海棲艦2隻も、朝日ちゃんが投げ飛ばして双方で激突し合い、此方も敢え無く轟沈し、結果……3隻が轟沈する成果を挙げます。
そして残りの戦艦ル級が、両腕の巨大な艤装を前方に押し出し砲撃を準備するけど、朝日ちゃんは嘲笑うかのように懐に入り、腰に抱き付きます。
『柔能く剛を制す……《 あの子 》が教えてくれた戦闘技術ですよ。 柔道という、人が対戦し勝ち負けを決める競技。 ですが……裏を返せば!』
『〜〜〜〜〜〜!?!?』
『試しに喰らってみなさいな、大砲投げ!!』
朝日ちゃんの抱き付きに、思わず腰をくねらせて外す努力をするものの、朝日ちゃんは動ぜず、自分の後方へ戦艦ル級を投げ飛ばしました!
その行き先は、敵艦の南方棲鬼に!!
『─────コンナ物ッ!!』
──────ザシュッ!───
投げ飛ばされた戦艦ル級は、南方棲鬼の剛腕に付いている鉤爪で両断、抵抗する間も無く轟沈。
南方棲鬼にダメージは皆無ですが、先程の嘲笑う表情は憤怒の表情に切り替わり、朝日ちゃんに鋭い目を向け、今にも襲い掛かりそう。
それなのに、朝日ちゃんの顔は未だに焦りは無く、ただ何時もの仕事をするような、柔らかい笑顔のままで対峙、一触即発の空気が流れます。
『あ、あの技って…………』
『し、知っているの、雷で──じゃなく、夕張ちゃん!?』
『………私……物知りの拳法家じゃないんだけど……まあ、いいわ。 たまたま……兵器関連で知たの。 あの技は……柔道の《俵返し》よ』
何でも、兵器を調べていた夕張ちゃんが検索した結果、中華の拳法技術では《武器》を《兵器》と言うなど関わりのない情報が出たので閲覧。
それに興味を示し、どうせならついでにと、日本の武術まで検索したため、朝日ちゃんの技が分かったんだって。
勿論、この会話は、小声でやり取りしないとね、ね。 他の僚艦達も捕らえられたままだから、目立つ行動は慎まないと。
そんなやり取りを夕張ちゃんとしている間、双方の様子は一触即発となっており、いつ戦闘になるか分かりません。
『柔道の元となった柔術は、どれも戦場での活殺自在を内包する優れた武術。 この柔道という武道にも、その修羅の術理が受け継がれています』
『面白イ……面白イナ! 人間ガ編ミ出シタ……モノヲ……艦娘……カ。 ダガ……埃ヲ被ル……骨董品ドモ二……最新鋭ノ艦ヲ……轟沈デキルノ……カ?』
『私と同じく、牙を抜かれた狼扱いすれば、貴女へ痛烈なしっぺ返しを喰らわせますよ!』
そんな言葉が聞こえると、ふと思った疑問を夕張ちゃんに尋ねてしまいました。
こんな時に何をと思われますが、こんな時だから
聞きたくなってしまう。 大事な時なんか特に……って、そんなこと皆もないかな? ないかな?
『た……俵返し? 朝日ちゃんは、大砲投げって』
『本来の名称は俵返し。 だけど……柔道の高段者で《軍神》と讃えられた人が、この投げ技を得意だったから、大砲投げと言われたって……』
『それって……朝日ちゃんの………』
艦娘なら誰でも知っている、朝日ちゃんのいう《あの子》は、沈没間近な船に入り行方不明の部下を探した、寛仁大度の人。
敵国に友人が居ても、親しい人が居ても、愛する人が居ても、祖国の為に敵対し、されど敬意と恩義を忘れず戦い抜いた、感孚風動の人。
《自分に厳しく人には優しい〉は難しい理想論だけど、それを見事に体現してみせた、堅忍不抜の人。
だから……彼と縁あった人達は敬慕を抱き、友人であった事を誇りに思い、亡くなった時は誰も彼も心より死を悼んだって。
だから、朝日ちゃんは今でも…………
『私のような砲塔を持たぬ元戦艦でも、こうして戦える。 だからこそ、私は報いたいのです。 最後まで平和を願った……《 あの子 》の志に!』
『人ニ報イル……ナド……笑止! 砲撃コソ……戦ノ精華! 雷撃コソ……冥途ノ花道! 戦ウ艦ヲ辞メタ……貴様ニ……勝機ナド……無イッ!!』
あの健気な朝日ちゃんを応援したいの、皆同じのようで、近くに居る深海棲艦の目を盗み、色々と準備しているみたい。
自分達の危機を省みず援護しようとするのは、修理を行ってきた由良達にしてみれば業腹物ですが、援護しようとする考えは由良も賛成。
何とか使える艤装を稼働して、朝日ちゃんに頑張って、由良のいいとこ見せちゃいましょう!
◆◇◆
【 意外 の件 】
? 南方海域 連合艦隊
通常 視点にて ?
双方睨む合うこと、数分。
南方棲鬼はニヤリと笑うと、朝日に向けて雷撃を開始。 魚雷は水飛沫を上げ、目標へと逸れることなく、真っ直ぐに突っ込んでいく。
普段の朝日ならば、自他共に定評がある船足の遅さであるが、重い艤装を一時的に外しての参戦のため、その移動と回避能力は大きく飛躍。
朝日に襲い掛かる魚雷を悉(ことごと)く避け、掠りもさせなかった。
『ふふっ、驚きましたか? 前のような軍艦なら兎も角、人と同じように動く手足、思考する頭があれば、魚雷など物の数ではありません』
『成程……ネ。 ダガ……後ロニ居ル……奴ラハ?』
『えっ……しまった!?』
朝日が慌てて振り向くと、発射された魚雷の内2本が、深海棲艦のため動けない艦娘に命中!
『ふんっ、これくらい………って言いたいけど、後一発喰らったら………さすがに!』
『あぁ〜〜ん! やっぱり提督日誌、能代に渡しとけばよかったぁぁぁ!!』
その悲鳴を聞き、辛い表情を見せるが、直ぐさま自分の居場所を変えようとする朝日だが、時遅く2隻の周りは艦娘と深海棲艦が囲んでいる。
いや、囲んでいるというより、艦娘を盾にした深海棲艦達が、包囲していると言った方が正しい。
2隻を円陣で囲むように並び、艦娘を人質に取り、南方棲鬼からの雷撃を回避できないよう、逃げ場を断たせたのだ。
しかも、雷撃だけではなく、砲撃、航空戦においても同じこと。 つまり、完全に南方棲鬼の掌であり、公開処刑と言っても可笑しくない。
南方棲鬼は、何時ものドヤ顔を2割増ししたぐらいの表情で、朝日を見ながら状況を楽しむ。
『ソノ言葉……ソノママ……返スワ。 モウ……逃ゲ場ナド……ナイ! 雷撃ヲ避ケレバ……』
『……………………』
『貴様ハ……死地ニ……絡マッタ……無能ナ羽虫! コノママ……痛メツケテ───』
─────ドオォォォォン!!
『ナ、何ダ!? 何ガ……アッタッ!?』
だが、南方棲鬼が言い終わる前に、包囲網の一角が爆発と共に大きく崩れた。
その崩れた間から見えるのは────
『夕張特性、試製酸素魚雷……ぶっつけ本番だったけど、上手くいって良かったわ!!』
『あ、あんな……危険な物を……持っていたなんて。 もし、失敗してたら…………』
『大丈夫、大丈夫。 私、失敗しないので!』
『全然、安心感が無ぁぁぁいッ!!』
雷撃が成功して喜ぶ夕張、驚愕する由良の姿が。
この2隻は、最後の攻撃目標とされていたこと、夕張が逃走不可能だったこと、由良と夕張を侮り深海棲艦側の監視が殆ど無かった。
しかも、爆撃箇所は深海棲艦側が盾として艦娘達を前に出したため、逆に深海棲艦側が背中を向ける姿になり、全くの無防備状態。
そのため、圧倒的有利な戦局が生んだ慢心と油断のお陰で、最後の切り札で持っていた酸素魚雷での雷撃は面白いほど効果を与えたのである。
その攻撃により深海棲艦側に動揺が広がり、反撃のチャンスが訪れた!!
『あはっ、面白いわね。 そ〜いうことなら私からも仕掛けさせてもらうわ、ねっ!!』
『よぉしっ、がってんだよ! 谷風さんからの恨み節、とっくり拝見しやがれってんだ!!』
『ガッ!』
『グッ……ウギャャゃッ!!』
人質となっていた艦娘達も、この混乱で準備していた艤装で反撃。 その攻撃で怯んだ深海棲艦を尻目とし、一斉に脱出を図ろうとした。
だが、南方棲鬼も手をこまねいてばかりではない。 雷撃の準備を行いつつ、もう1つの攻撃手段を実現すべく、前へ両手を伸ばした。
『艦載機……発艦セ……』
『そうは問屋が卸さない……ですわ!!』
『ガッ!? オ、オノレェェェェ!!』
懐からスパナを取り出すと、見事な投擲動作で南方棲鬼の片手を狙った朝日。 スパナは狙い違わず目標に命中し、艦載機を出だしで阻止。
それでも、残った片手から艦載機数機を出現、朝日達を強襲させる。 その間に、艤装の砲塔を起動させ、艦娘達を全滅させるつもりだった。
ただ、誤算だったのは、敵艦は朝日だけではない。 先ほどの対戦は人質を取られた時に、艦娘達の腹は決まっていたのだ。
艦娘達は次々に役割を決め、様々な想いを胸に抱き締めて、この戦いに参戦!!
『今度は……もう、負けない! 提督さんのため、皆のため、由良に力を───てーぇ!!』
『こっちだって、提督さんの───あっ、あぁぁぁ! 提督日誌が落ちちゃた!? 能代、拾っ……居ない!? そんなぁぁぁ!!!』
『僭越ながら不知火も加勢……おや、提督日誌? 何やら不謹慎な品物ですね。 これは回収して、戦いが終わった後にでも処分しましょう』
『オノレ……オノレェェェッ! 援護ハ……援護ハ……ドウシタ!? 南方棲戦鬼ハ……何処ニ……!?』
『ふふっ、どうやら見限られたようですわね。 この周辺に旗艦は貴女だけ』
『ナ、何ダト!?』
『では、納得頂けたようなので、大人しく私に泣け飛ばされて下さいな!!』
艦載機が呆気なく撃墜される間、朝日は南方棲鬼の懐に入り、しっかりと腕を掴み取る。 いざ、投げようとしても、朝日の身体に乗せれない。
それもその筈、小柄な朝日に比べて、戦艦級の南方棲鬼は背の高い細身の美女。 ただし、かの艤装を含めると超重量……である。
『アッハハハハ! コンナ……重量差デ……ドウヤッテ……投ゲラレルト……考エテイタ……ノヤラ。 コノママ……砲撃デ……仕留メ───ゴボッ!?』
『あらあら、想定内とはいえ、やはり活きが良いと難しいですわね。 少し痛めつけ弱らせてから、調理といたしましょう』
朝日の投げ技が通じないのを知り、弱々しくもドヤ顔を見せて何かを語るが、その顔に朝日の鉄拳が迫り、見事に減り込んでしまった。
そんな朝日は、あらあら言いながらも、立ち止まっていた南方棲鬼に、拳や蹴りなど数多くの打撃を喰らわし、ダメージを積み重ねていく。
『朝日ちゃん………柔道って……言っていたよね? でも、あんな打撃って……いいのかな?
『言いたいことは分かるけど、あれも柔道技よ』
『えっ、だって……試合を見ても……あんな技……』
『競技中あんな危険な技は使えないでしょう? だから、本来は形や護身術で教えるんだけど、れっきとした柔道の三大技術部門の1つなのよ』
ちなみに、《 当て身技術は柔道の元になった柔術からの転用との話 》だが、大正年間の書物に当て身技術が無いため、唐手の影響もあるらしい。
『バ、馬鹿ナ……ブフッ! 私ヨリ弱イ……貴様ガァ! ドウシテェェ……コノヨウナ……チカラヲ………持ッタモノガ──』
『当然ですよ! 派手な宣伝は控えておりますので! 乙女とは控えめで、嫋やかなのです!』
『ド、ドコガ嫋ヤ……カァダァァ───アグッ!? ガハッ!!』
打撃を受け続けた南方棲鬼は、艤装に付いていた数多くの砲塔が曲がり使用不可、そして、露出した肌にはアザや腫れが沢山付き実に痛々しい。
まさに、大破同然の状態。 このまま時間経過すれば、轟沈してしまうと思われる程である。
そんな状態の中、南方棲鬼は思い出したと言わんばかりに、弱々しい声で呟いた。
『前二…聞イタ………昔ノ艦ハ……砲撃ガ弱ク……体当タリガ……主流ダッタト。 貴様モ……衝角ノ経験ガ………』
『昔取った杵柄……とでも申しておきましょう』
『………ヤハリ、カ。 素手ノ艦娘ニ……シテハ……打撃ガ重ク……固イ。 オマエノ……存在ヲ……知ラナカッタノガ……私ノ……敗因ダッタ……』
『いえ、貴女の敗因は、人を侮り、技術を侮り、想いを侮ったこと! 最期に、私の持つ奥義で葬りさせて頂きます! てえぇいやぁぁっ!!』
朝日は止めを刺すため、南方棲鬼の右腕を両手で掴むと万力のように締め上げると、背を向け身体を密着させ、背負い投げの体勢を取った。
これは、工作艦として重い設備を移動させた際に養うことになった強力な握力、そして、僚艦を整備する時に持ち上げ自然に付いた精強な膂力。
そして、重い工作艦の艤装を着けることで鍛練となった強靭な脚力が、腕を引っ張ると同時に、南方棲鬼の片足を一気に後方へ蹴り飛ばした!
『あ、あれっ………て』
『し、知っているの、月こ……じゃ、なかった夕張ちゃん!?』
『2度も同じ事やると嫌われるって知らない? 次は……無いからね!』
『りょ、了解。 うん、もう絶対やらないから。 だから教えて、ねっ?』
『絶対だからね。 おっほん、あれは……《 山嵐 》よ!』
夕張の言う山嵐とは、柔道創成期の頃に活躍した
創立者の高弟が得意とした投技。
背負投と払腰を組み合わせたような技だと言われ、難易度は高いが現在も投技は伝わっているし、狙って技を仕掛ける挑戦者も存在する。
ただ、本来の山嵐は、高弟が独自に発展させ投技だったため、真に使用できたのは、この高弟しか居なかったとも言われる。
『じゃあ……朝日ちゃんのは?』
『うーん、柔道の山嵐とは少し違って見えるわね。 ただ、朝日の活躍した時代と本人と会えるから、もしかすると……もしかするかも?』
腕を引き寄せる引張力。
強靭な足より蹴り飛ばされた脚力。
身長と対照的高低差により生じた引力。
この3つの力が1つに重なり、莫大な破壊力を生み出し、それが流体の抗力にも影響して、海面が一時的に固い大地と化す。
そんな所に衝突すれば、南方棲鬼の轟沈は確実!
────────ゴオッッッッン!!!
朝日の技が決まると、海面とは思えない轟音、同時に出現した高い水柱が昇り、海水が落ちきるまでに数秒を費やした。
そして、辺り一面が霧のような飛沫が漂う中、手を合わせる朝日の姿が見える。
ただ、何やら悲壮感に溢れる様子に、皆が近寄れず遠巻きに見守るだけ。
それでも、仲の良かった由良が歩み寄り声を掛けると、朝日は合掌を解き由良へ向き直った。
『朝日……ちゃん』
『………強敵、でしたわ。 ですが、こうして勝負が決まれば、みな仏。 来世は……幸せになって欲しいものです。 私の勝手な願いですけど……』
『……うん、私も一緒に願ってあげる。 多分、夕張ちゃんや華佗さん、そして提督さんや皆も、南方棲鬼の冥福を祈ってくれるよ!』
辺り一面は、艦娘だけ居ない、静かな海面が広がるのみ。 先ほどまで、この海面で激しい勝負があったのだと、誰が信じるであろうか。
知る者は、極限られた存在ばかりであった。
◇◆◇
【 黄巾 の件 】
? 南方海域 連合艦隊
通常 視点にて ?
由良は安心して、何時ものように優しい笑顔を浮かべ、朝日に語り掛けた。
『これで、ここの戦いは終わったのかな? もう誰かが傷付き、轟沈する戦いなんて終わったのかな?』
『はい、由良さん。 この南方棲鬼との戦いは終わりました。 しかし、一緒に居た南方棲戦鬼の姿が見えないのが気掛かり────っ!?』
そんな話をしていた時、急に朝日が表情を変え、海面の一角を睨み付ける。 急いで由良も注視するのだが……その海面には何も見えない。
その様子に慌てて合流する者、持参している貴重な電探で調べる者、辺りを警戒する者など、色々と行動を起こす。
朝日の奇怪な行動に、思わず声を掛けようとする由良だが、朝日が片手で由良を静止し、その場所に向かい更に強く《 隠れている者 》に問う。
『出て来なさいな、遠慮はいりませんよ。 それとも臆しましたか南方棲戦鬼。 姿は隠しても深海棲艦特有の臭いで、丸分かりでしたけどね』
『『『─────えっ!?』』』
驚く艦娘達と裏腹に、海面下から曇った声が聞こえてくる。 それは、つい先ほど聞いた───
『…………小癪ナ………コノママ……奇襲ヲ仕掛ケ……一気ニ……葬ル計画ダッタ……モノ……ヲ』
『隠れて逃げた者が、勇敢に戦った者を嘲(あざけ)る資格などありません。 そして、次は不意打ちとは……全く情けなくなりますわ』
『フフフ……ソノ強ガリ……何時マデ……持ツカナ? 艦娘ドモノ……大半ガ……使イ物ニ……ナラナイダロウ。 ダガ……コチラハ……コノ通リ……!!』
朝日が睨んでいた位置に、南方棲鬼の上位互換である南方棲戦鬼が姿を見せた。 姿は南方棲鬼と似るが、その迫力は桁違いに鬼気迫る物。
しかも、後方には先程と戦った深海棲艦より上級の戦艦タ級flagship、重巡リ級IIflagshipなどが、好戦的態度を取りつつも所狭しに蠢く。
質も勿論だが、その隻数も先ほどより多い。
まるで、海域全体の深海棲艦を連れてきたような、それだけの異様な個体数だった。
『冗談じゃないよ! 何だっていうんだ、あの馬鹿げた数は!? 弾薬も燃料もおケラだし、かぁーっ! 本当、やってらんねぇ!!』
『逃げちゃ駄目、逃げちゃ駄目、逃げちゃ……』
『えっと、阿賀野姉……そう言いながら、南方棲戦鬼達から距離が離れていくけど……?』
『ほらぁ、阿賀野姉ぇ! 妹の前に情けない姿見せちゃ駄目! 能代だって………怖いの我慢しているんだから、しっかりしてよぉ……もう』
今の艦娘達は全ての力を使い切り、もう攻撃できる術も限られ、俎板の鯉同然。
それでも、朝日だけは南方棲戦鬼の前に立ち、凛とした佇まいを崩さず、その視線を外さず睨み付けている。
そんな中、唐突に南方棲戦鬼が口を開き、ある重大な事実を告げた。
『轟沈サセル前ニ……イイコト……教エテアゲル。 コノ海域ノ……支配者ハ……私……ヨ』
『─────!?』
『南方棲鬼……南方棲戦姫トモ……私ニ比ベレバ……小物ヨ。 ダケド……コノ有リ様ナラ……見返リハ……大キ……カッタ! 大キ……カッタノヨ!!』
─────南方棲戦鬼は語る。
南方棲戦姫と人間を結びつけたのは自分だと。
そのやり方とは、人の欲を刺激させ自分達が得したように見せ掛け、仲間を増やす方法を伝えたからだという。
そもそも、幾ら綺麗事をいう組織でも、人の欲は際限がなく、何かしらの益があれば直ぐに飛び付く者が一定多数居るとのこと。
だから、彼女は……艦娘を多数有する帝国海軍本部に届くよう、噂を何度も何度も配下に流させた。
【 余分な艦娘を攻撃し轟沈させると、轟沈させた艦娘の練度が飛躍的に上がる 】と。 しかも、場所が南海海域がベストという指定付きで、だ。
その噂を信じた人間が、秘密裏に行い実益が出ると、全国の鎮守府へ通達し、余分な艦娘達を本部へ引き渡させ、代わりに少々盛った資源を渡す。
すると、重複した艦娘を持つ鎮守府の長が喜び、協力関係を申し出、更なる艦娘を量産して重複分を渡すという、悪魔のリサイクルが構築。
こうして、的になり轟沈した艦娘達は、秘めた恨みで深海棲艦化し、南方棲戦姫の配下に収めた。
『ダケド……配下ガ増エレバ……質モ……大事。 ナノニ……南方棲戦姫ハ……量ヲ増ヤスコトシカ……考エテナイカラ……同ジコトヲ……シタノヨ……』
『深海棲艦の……蠱毒!? それでは、後ろの深海棲艦は────』
『……面白イ……例エ……ネ。 ダケド……弱肉強食ノ世界ナラ……普通ノコト。 弱キ者ナド……イラナイ。 強キ者ガ……イレバ……イイ』
『…………なんて、事を……』
『唯一……違ウノハ……ソウネ。 コノ生存競争ノ……頂点ガ……コノ南方棲戦鬼……ト……既ニ……定マッテル……コトダケ!!』
これで話は終わりだと言わんばかりに、南方棲戦鬼は最後に片手を挙げて、背後に居る深海棲艦達に殲滅するように命じようとした。
片手を振り降ろせば、圧倒的多数の深海棲艦が襲い掛かる手筈なのだが、どういう事か南方棲戦鬼の手は振り降ろせなかったのだ。
何故なら────
『ふふふ……貴方の仰っていた通りですわね、おじ様? 私達を己の味方と戦わせる事で弱体化させ、その後は漁夫の利を取りに現れると』
『まぁな、あの軍師様に掛かると天から見ているんじゃねぇかと思う事もあったがよぉ。 まあ、今回の敵さんも、軍師様に踊らされた口だな』
工作艦娘の朝日と、横に並ぶ鎧を着た男。
中肉気味、少し背が高い男は赤の色調を強くした鎧を身に付けているが、何故か兜は被っておらず、代わりに特徴的な黄色の頭巾を着けている。
他の艦娘も、何時、何処で、この男が現れたのかを見ていない。 勿論、一緒に付いてきた者の中に、このような男は居なかったのだが。
『キ……貴様……ハ……』
『ケッ、大層な高説だったがよぉ、早い話がてめえは仲間を売って、自分が一番になりたいっていう、高慢ちきな自己満足じゃねぇのか!?』
曹魏の鎧に似ているが、余りにも出来映えの良さに、高級将校並みの待遇だと予測できるのに、まるで荒くれ者のように口と態度が悪い。
人相も頬はこけていたが、鋭い目付きが印象的な
典型的な悪人面。 そんな者が何故か朝日と居るのか疑問符が着くが、それはさておき。
南方棲戦鬼は男の言葉に逆上し、目を怒らせながらも、射ぬくような視線で睨みつけ、負けずばかりに口を開き罵る言葉を紡いだ。
『私ノ……野望ヲ……ソノヨウナ……野良犬ミタイナ……考エト……一緒二……』
『はっはっ! 俺はよ、昔はてめぇのいう野良犬だったんだよ! 明日にも食う物にも困り、人を脅しては掻っ払っていた、野良犬集団だった!』
『フン……ソノヨウナ奴ガ……何故……』
『だがよ、俺は……大きな男の背中を、生き様を見て……考えを悔い改めたんだ。 自分の命と引き換えに、愛する女を守った天の御遣い様によ!!』
南方棲戦鬼が罵る為に吐き出した《 野良犬 》という言葉に、なんと男は肯定し潔く良く認め、更に自分の人生を変えた人物を名をあげた。
────天の御遣い
艦娘達の多くは、何のことかと不思議がっていたが、奇しくも聞いたことがある者が居た。
『夕張ちゃん………確か華佗さんが提督さんのこと……テンノミツカイ……って』
『テンノミツカイ……てんのみつかい……天の……御遣い……? ま、まさかぁ〜』
そんな2隻の言葉は聞かれず、他の艦娘達は恐怖と畏怖で、男から距離を置いて様子を窺い、朝日だけが二人の様子を興味深げに眺めていた。
男は南方棲戦鬼を改めて睨み付け始めた。 まるで、親の敵を見るような憎々しい目付きである。
『そんな恩人の仲間を傷付ける奴らなんか、俺達が許すと思ってんのか? ああぁぁぁっ!?』
『アハハハハハッ!! 何ヲ……ホザクカト……思エバ……タカガ……1人デ! ソノ身体……虫ノゴトク……踏ミ潰シテ……ヤル!!』
男の様子を見て、南方棲戦鬼も不敵に嘲笑う。
辺りを見渡しても、男は1人だけ。
横に居る艦娘は既に南方棲鬼と戦いを終わらせた後。 つまり、補給が無ければ死に体も同然。
無論、他の艦娘達など論外。
それに、遊軍として左右に100隻ほど配置。
しかも、空母ヲ級flagship、戦艦タ級flagshipはもちろん輸送ワ級flagshipも数隻送り込み、万が一の補給も確保した艦隊だ。
だから、自信満々で勝てると予測した。
『どうやら……何も分かっちゃいねぇようだな。 後悔するんなら、てめえらの方だぜぇ!!』
『……………ソコマデ……イウノナラ……見セテ……ミルガイイ! 貴様ノ実力ヲ!!』
『はっ、そう焦るなよ。 か弱〜い俺らにはな、俺らなりの準備が居るんだ。 なあっ、《チビ》《デク》!』
男は南方棲戦鬼の挑発を受け流し、独特な仲間の名を呼ぶと、別の二人組が男の背後に現れ、にこやかな笑みを浮かべて答えた。
『へへへっ……たった今、あっしとデク達の準備も終わりやしたぜ! 後は《 アニキ 》から号令もらえば、何時でも直ぐに動けまっさ!!』
『そう、そうなんだぁな!!』
1人はアニキと呼ばれた男の半分近くしかないが、意外にも頭が回り、仲間の世話を焼きつつ、状況を的確に読む器用さと判断力を合わせ持つ。
もう1人は大柄な偉丈夫、筋肉質とは言いがたい肥満気味の体型。 口調も緩やかな物だが、その小さな目には、意欲と熱意の炎が燃えていた。
その背後には、2人と同じ黄色の頭巾を被った端正な男達、数百人が槍や剣等を手に持ちながら、規則正しく列を組み待機中である。
『そうか、そうか。 くくくっ……準備万端ってやつか。 それなら、やってやろうじゃないか!』
二人の言葉を聞いたアニキと呼ばれた男は、犬歯を剥き出しにして笑いつつ、南方棲戦鬼へ再度向かい合い、堂々と宣戦布告を告げた!
『俺は《数え役萬☆姉妹》親衛隊の隊長だ! てめぇに対して、俺達は何の揉め事もねぇし、恨みも興味も全くねぇ!! ────本来はな!』
『…………フン……』
『だが……恩人に敵対し、てんほーちゃん達を哀しませる、不埒な奴らなんか容赦なんかしねぇ! この場で俺達が、叩き潰してやるぜッ!!』
『……………矮小ナ者ガ……幾ラ吼エヨウト……無駄ナ足掻キ! 身ノ程ヲ……弁エルガイイ!!』
こうして、一刀達が知らない場所で、また重大な戦いが始まったのだが────
艦娘達は《 数え役萬☆姉妹 (かぞえやくまんしすたーず) 》と聞いて、ただ首を傾げるしかなかったのだが、これはこれで仕方ないことであった。
説明 | ||
今回は、『軽巡洋艦 由良』と○○が主役となります。 そのため、筆が進んで18000文字数以上ありますので、 御注意のほどを。 |
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