またまだ続くよ☆ |
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K.1「反撃の旗」(AIがようやく) 「飛行艇……」 記憶の霧の彼方から、少女Qがこぼした言葉が、工房の空気を震わせた。 「何かわかるのか、Q」 工具を置き、ゼン・ニン(兄)が鋭く問う。謎の少女――Qは、壁に投影された戦況図を指差した。 「わからない……でも、感じるの。あの魔族の群れの奥。昔、私が乗っていた飛行艇が待ってる気がする」 「飛行艇だと? そいつがありゃあ、戦況をひっくり返せるぞ!」 ゼン・ニン(弟)が設計図を丸め、ニヤリと笑う。だが彼らの視線の先には、城壁を埋め尽くす魔族の濁流。そして、足元で悲壮に光る一本のペンライト――自称『聖なる光の化身』キュービーがいた。 『……ふっ、我が身を削る刻が来たようだな』キュービーは覚悟を決める。『この聖なる輝き、民のために!』 彼の悲壮な決意など意にも介さず、作戦は決定された。Qとキュービーをコアとする純白の決戦兵器『乙女の棺』が、大地を揺るがし、絶望の戦場へとその巨体を浮上させた。 「――ッ! 城壁に、穴が……!」 コックピットのメインモニターに映る光景に、Qが息を呑む。城壁は破られ、おびただしい数の魔族が市街地へ雪崩れ込んでいた。 その刹那、蝗害のような影が殺到し、装甲が軋む音を立てて『乙女の棺』にびっしりと張り付く。 「きゃあっ!」 ズシンッ!という鈍い衝撃。純白の巨人はその重量に耐えきれず、無様に膝をついた。 『Q! 落ち着け!』通信機からゼン・ニン(兄)の冷静な声が飛ぶ。『操縦桿の第二トリガーだ! 防御結界を展開しろ!』 「は、はいっ!」 Qが恐怖を振り払うようにトリガーを引くと、淡い光のドームが爆発的に膨張し、張り付いていた魔族を紙屑のように吹き飛ばした。 『今だ、Q!』ゼン・ニン(弟)の声が続く。『畳み掛けろ! 攻撃魔法《ルビビゾックマ》を使うんじゃ!』 「でも、この魔法はキュービーの命を……!」 『安心せい!』とゼン・ニン(兄)が割り込む。『あいつは光るのが仕事じゃ!』 『非道! 人でなし!』キュービーは心で叫ぶ。『だがしかし……我が光で民を救えるのなら……!』 「ごめんね、キュービー! ――《ルビビゾックマ》!!」 Qの叫びに呼応し、コアユニットのキュービーが断末魔のような閃光を放つ。『乙女の棺』が掲げた両腕からルビーを溶かしたような深紅のビームが迸り、死のバレエのように優雅に一回転した巨人の光帯が、触れた魔族を悲鳴もなく塵へと変えていく。 数千の軍勢が、わずか数秒で消滅した。戦場に、死と灰の静寂が訪れる。 だが安堵の息も束の間、地響きと共に、先ほどの軍団がまるで子供に見えるほどの巨大な影が、空を覆い尽くしながら迫ってくる。その絶望的な威容に誰もが言葉を失う中、Qの瞳が大きく見開かれた。 「飛行艇……!」 巨大魔族の背に、流線形の美しい飛行艇が、鎖で無様に固定されていた。 『Q! 何としてでもあれを奪い返せ!』ゼン・ニン(弟)の興奮した声が響く。『右腕を換装、捕獲ワイヤーを射出だ!』 Qはタッチパネルを操作し、射出機へと変形した右腕を魔族に向けた。放たれたワイヤーネットが巨体を捉える。Qは渾身の力でレバーを倒し、飛行艇を魔族の背から力ずくで引き剥がした! 翼をもがれた獣は地上へ落下するも、怒りの咆哮を上げ、『乙女の棺』へと猛然と襲い掛かる。 「《ルビビゾックマ》!」 Qは再び魔法を放つが、紅い光は威力を失い、弱々しく霧散した。コアであるキュービーの輝きが、尽きかけている。 「こうなったら……!」 Qは操縦桿を握り直し、機体を格闘モードへと切り替える。ブーストを吹かして肉薄し、鋼鉄の拳を叩き込んだ。だが巨大魔族は倒れない。最後の力を振り絞り、『乙女の棺』の胴体にガッチリとしがみつき、その体から不吉なエネルギーを膨れ上がらせていく。 「いかん! 自爆する気だ!」 ゼン・ニン(兄)の声が悲鳴に変わる。赤色灯が点滅するコックピットの隅に、瓦礫の陰からこちらを見つめる親子の姿が映った。 「おおきいロボ、がんばえー!」 子供の無邪気な声援が、消えかけた光に最後の火を灯した。 『そうだ……!』キュービーの魂が叫ぶ。『俺は……英雄(ペンライト)だ! 守らなければならない光が、まだここに……ッ!』 その叫びは、Qの脳内に直接響いた。次の瞬間、『乙女の棺』はQの操縦を離れ、自律的に動き出す。黄金の防御結界を展開し、自爆寸前の魔族を優しく、しかし力強く抱きかかえる。 「機体が、勝手に……! キュービー、あなた、まさか……!」 Qの困惑を乗せたまま、『乙女の棺』は魔族を抱いて天高く、雲の彼方へと飛び去る。やがて空で太陽がもう一つ生まれたかのような閃光が走り――少し遅れて、世界が揺れるほどの轟音が地上に届いた。 満身創痍で墜落した機体の中、Qは通信越しに響く民の歓声を聞いていた。だが彼女の目に映るのは、守ったはずの笑顔ではない。自分が壊した街の残骸と、煙を上げる家々が静かに広がるだけだった。 「私……みんなを、救ったんだよね……?」 Qの問いに答える者は、誰もいなかった。 後日、回収された飛行艇は伝説の技師『デ・キール』の作と判明し、ゼン・ニン(兄)とゼン・ニン(弟)が驚異的な速さで修理を完了させた。その知らせを聞いたキン・ニク2は玉座の間に召された一行に、国王は新たな勅命を下す。 「見事であった。その飛行艇を駆り、魔族の領土へと侵攻せよ。脅威の根源を、その手で断つのだ!」 かくして、少女Q、ゼン・ニン(兄)、ゼン・ニン(弟)、そして一本のペンライトと化した英雄キュービーは、巨大な飛行艇を母艦とし、未知なる世界へと旅立つ。彼女たちが掲げたのは、人類にとって待望の「反撃の旗」。その本当の重みを、まだ誰も知らなかった。 次回 http://www.tinami.com/view/1170605 前回 http://www.tinami.com/view/1168953 関連 http://www.tinami.com/view/1168795 |
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微熱の道化師(異世界帰還編) | ||
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