君だけに【腐】
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君だけに

 

 

 

 昼休み。プロイセンは、書類を届けるために、生徒会室の扉を豪快に開けた。

「おーい、俺様が特別に持って来てやったぜ」

「テーブルの上に置いとけ」

「なっ!?」

 中に入って最初に目に入ったのは、用があった会長のイギリスよりもソファーに座って編み物をしているロマーノだった。

「おい、ロマーノ。お前、どうしたんだよ?」

「あ、なんだよ?」

 不器用の代名詞といっても過言じゃないあのロマーノのが、編み物をしてる。

「自分用じゃないよな?」

「なら、イギリスにわざわざ弁当作って、教わりにきたりしねえよ」

 改めてイギリスを見ると、いつもは買弁か黒い物体だったりするのだが、今日は、べーグルサンドを筆頭に彩り豊かなおかずがつめてある弁当だ。

「それ何になるんだ?」

 まだ、編始めたばかりで、何になるのかプロイセンには分からなかった。

「マフラー」

 一言そう返された後は何を質問しても答えは帰ってこなかった。

「赤なんて、もろに誰かが喜ぶ色は止めろって、言ったんだが、どうしてもその色がいいんだと」

「ああ、そういえば確かに言ってたな。赤いマフラーが欲しいって。買えばいいものをワザワザ不器用なロマーノが作るとか。アイツ、愛されてんな」

「なぁ」

 ニマニマ笑う二人。

 書類を渡しに来ただけだったのだ、これは良い収穫があった。プロイセンは早く教室に戻ってこのことを伝えたくてしかたがない。

「おい、絶対にあの馬鹿には言うなよ」

「あ? なんでだ?」

「良いから、言ったら殺す」

「察してやれ」

 どういう意味だかよく分からなかったが、イギリスがそう言うなら少しは聞いた方が良いのかもしれない。自分が原因で、面倒な事が起きるのはゴメンだ。

「じゃ、黙り賃にこれ貰ってくな」

 去り際に、弁当のベーグルサンドを口に挟み、何か文句を言われる前に、生徒会室から出行く。

「うめぇ」

 廊下で、かじったベーグルサンドは、美味しかった。さすが、ロマーノが作っただけはある。この弁当を当たり前のように昼に食べているスペインがプロイセンは若干羨ましく思った。本当に若干だけ。

「俺も今度、頼んでみっかな」

 絶対に無理だとは分かってはいるが、そう思わずには居られなかった。

 

 

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「お前らどっか行くのか?」

 放課後、スペインとフランスのクラスを覗いてみると二人は、何処かに行く話をしていた。

「ナイスタイミングやで、プー。今から、マフラー買いに行くんやけど、プーも来る?」

「今なら、センスが抜群に良いお兄さんが選んであげなくてもないよ?」

「え、なに? お前ら、マフラー買いに行くの?」

 思わず昼にロマーノに言われた事が頭を過ぎる。スペインには、話すなと言われたが、ここで止めることが出来なかったら、ロマーノが編んでるマフラーは無駄になるかもしれない。いやでも、ロマーノを溺愛しているスペインの事だ、ロマーノがマフラーをプレゼントすれば買ったマフラーのことなど綺麗さっぱり忘れるだろう。だが、買ったマフラーはどうなる。マフラーは、安くない。暖かい物を買おうと思ったら、それなりの値段になる。市販されているのは、それぐらい払っても何年も使えるから損にはならないが、今回のパターンは絶対に損になる。同じ貧乏学生のプロイセンにはそれが、分かる。だが、黙り賃としてベーグルサンドをすでに貰ってしまった。

(どうする俺! このまま、無駄にお金と時間を使わせるのか!?)

 プロイセン自身には直接は関係無いが、友達に無駄なお金を使わせるのは心が痛む。それに、プライドが高いロマーノのことだ。スペインが、マフラーを買ったと分かったら、マフラーを編むことを止めてしまうだろう。それだけは阻止しないといけない。人に頼る事が嫌いなロマーノが、イギリスに頼んでわざわざスペインのために編んでいるんだ。なんとかしてやりたい。

「プー、別に来なくても良いんやで?」

 固まってしまったプロイセン。それを突くフランス。

「ダメだ。コイツ、自分の世界に入ってやがる」

「なんでや? たかがマフラー買いに行くだけやのに」

 そう、たかがマフラー。でも、それを作ろうと思ったら大変だ。

(確か、まだ、編み始めだったよな?)

 昼休みに見た時は、まだほんの数センチしか編まれていなかった。そして、ロマーノが教室など人が沢山いる所で編み物をしないことは分かっている。なんといっても、ロマーノは、格好良さで売っているから、そんな女々しいことをやっていることを周りに知られたくは無いだろう。

「まだ、間に合う!」

 携帯を取り出して、ロマーノに電話をかける。放課後の今なら、きっと生徒会室にいる。そして、そこにはイギリスもいるはずだ。だから、マフラーから、手袋あたりの編み方を教えてもらうように言えば良い。

「あ、ロマーノ? 俺………」

『ただいま電話に出ることが出来ません―――』

 留守電に入る前に思わず切ってしまったが、切らずにメッセージを入れば良かったと今更ながら思う。

「こうなったら、メールで」

「プー、なんのつもりや?」

「へ?」

「ロマーノに用が、あるんやったら、俺が伝えるで?」

「お前に言ったら意味ねぇんだよ!」

「へぇ」

「おい、バカ!」

「あ゛? あ……」

 携帯から顔を上げて、フランスを見ようとしたプロイセンだったが、視界に入ったスペインを見たせいで、身体が動かなくなってしまった。

(怒ってる? なんでだ? 俺様、何もしてねぇよ!)

 目で訴えて見るが、スペインには全く通用しない。ますます怒気が上がって行く。

「あのな、スペイン、落ち着け。俺は、ロマーノに口止めされてるだけで、別にロマーノとは、なんにも―――」

「ウソウソ。スペイン、コイツな、結構な回数、ロマーノと遊びに行ってるぜ」

 いつもなら助けてくれるはずのフランスの裏切り。こうなったスペイン相手にフォローは出来ないということなのだろうか。

「へぇ、初耳やわ? どういうことや?」

「いや、別に俺は、秘密にしてるつもりは無かったんだぞ。つうか、ロマーノがこのこと、お前に言ってないと思ってなかったとういうか。いや、でも、スペインに言ったら、騒ぎだすかもしれねぇしな。それは、それで面倒だよな。あああああ、でも、そのツケが俺に回るのは、納得いかね」

「イギリスあたり行けば良かったのにね」

「そうだよな。今日の昼だって、俺はただ、イギリスの所に生徒会の書類を届けに行っただけだったのによ。あ!」

 スペインの前で、イギリスの名前は禁句だ。それなのに、フランスのせいで、見事に出してしまった。

(俺様、バイバイ!)

 ドイツに遺言を残して、プロイセンの無実をはらすしかない。だが、そんな時間はもう無い。処刑の時刻は午後三時。

「はいはい、そこまで。スペイン、まず、椅子に座って落ち着け。瞳孔、開いてて怖いから。プーは、そこに正座して。まずは、イギリスのことから、説明して」

 スペインは、椅子に座って机に肩肘に顔を預けて、床に正座するプロイセンを威圧するように見ている。

「はよ、言い」

「……はい」

 昼に食べたベーグルサンドが、昔の事に思えて、仕方がなかった。

 

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「あのな、スペイン。俺、ロマーノ、イギリス、ロシアは、ほら、元生徒会メンバーだろ? だから、普段からもそれなりに付き合いがあってだな、休日も遊びに出かけたりするんだ。それで、仲が良いだけで、そんな、特別に仲が良いってわけじゃないんだ。俺だって、ロシア怖いし」

 元生徒会長のプロイセンの補佐にロシアとイギリスがいたが、どちらもプロイセン以上の活躍をした。プロイセンは、どちらかというと休日、遊びに行く時におおいに活躍したかもしれない。

 だいたい、しょっちゅう生徒会のメンバーで、遊んでいたのに、今更、怒られる理由が分からない。それに怒るなら、プロイセンではなく、ロマーノだろう。独占力が強いスペインに、何も言わずに遊びに行っていたのだから。いや、そうなると、それに気づかなかった、スペインも悪いってことになるんじゃないのか。

 そう思うとだんだん、正座が面倒になってきた。ついでに地味に足が痺れている。

 いっそ、逆ギレしてやろうかとプロイセンが立ち上がろうとした瞬間、ドアが開き、当事者と言っても過言じゃないロマーノが入って来た。

「おい、お前ら、何やってんだよ!?」

「ロマーノ!」

 さっきとはうって変わって、スペインは優しい笑顔を浮かべて立ち上がる。だが、その笑顔を見て、ロマーノは引きつった様な顔をつくり、そのまま、逃げようと走り出すが、瞬間移動したスペインに後ろから拘束される。

「さあ、ロマーノ。俺に、何か言うことがあるやろ?」

「ねーよ、んなもん!」

 プロイセンを睨むロマーノだが、プロイセンは、俺は悪くないと首を振るばかりで、動かない。ここで、動けば自分の命が危なくなることを長年の付き合いで分かっているのだ。ついでに、役に立たないことも。

「ロマーノとイギリスって仲ええの? それに最近の弁当が、手抜きなのて、イギリスのせいやろ?」

「な、なんのことだ? だいたい、これは、なんの騒ぎだよ? 俺は、プロイセンに、昼間に貰った書類に不備があったから、訂正しにわざわざ来てやったっていうのに」

 無理矢理矛先をプロイセンに向けようとするが、スペインの拘束は強まるばかりだ。

「もう、ヤメヤメ。スペイン、いい加減、ロマーノ離してやんなよ。指先の方、紫になり始めてるよ。あと、プロイセン。あぐらじゃなくて、正座して、なんで、ロマーノに電話しようとしたか説明して。じゃないと、埒があかない」

 見ているだけに飽きたのか、ロマーノが可哀想に見えたのか分からないが、フランスが止めに入る。

「だって、お前らが、マフラー買いに行くなんて言うから―――」

「プロイセン!」

「え、なになに? ロマーノもマフラーが欲しかったん? なんなら、今から、一緒に買いに行かへん?」

「す、スペインなんか、死んじまえ!」

「うぅ」

 思いっきりスペインを殴り、教室から走って逃げ出す。暴言は言われ慣れているが、手を出されることは滅多にないスペインは、現状が理解出来なくて、呆けてしまう。

「おーい、スペイン戻ってこーい」

「ちょ、見た? 今のロマーノ! めっちゃ、かわええ!」

「え、なに、Mなの?」

 現実に戻ってきたスペインは、殴られたときのロマーノの表情やら、そのフォームの素晴らしさを語る。完全に自分の世界に入ったスペインは放置し、フランスは、未だに正座をしているプロイセンに声をかけた。

「で、結局の所、ロマーノが、スペインにマフラーをプレゼントしたいことに、まとめちゃっていい?」

「おお。それに、手編みを追加な」

「凄いね。あの不器用なロマーノが、マフラーを編んでるんだ。でも、このままじゃ、編んでくれないよね」

「今頃、ほどいてる頃かもしれないな」

「じゃあさ」

「そうだな」

 未だに戻って来ない、スペインを余所にプロイセンとフランスは、こっそりイギリスにメールを送った。これで、ロマーノの方は、何とかなるだろう。

 

 

 後にどうにか編み上がったマフラーをイギリスで、長さを確認している最中に、スペインが来て、一悶着あったのは、また別の話だ。

 

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