真・恋姫†無双〜三国統一☆ハーレム√演義〜 #20-2 洛陽の日常|華蝶仮面vs呉勇士/中編
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≪狡兎死して走狗烹(に)らる ≫

 

 

洛陽の城郭、その上(外敵への攻撃する為の足場である通路)の屋根に登り、霞は一人酒を呷っていた。

そこに普段の明るさはなく。どこか呆けているというか、悩んでいるような様子である。

遠く地平線を眺め、彼女らしくない溜息を吐く。

 

「はぁ……。やっぱ、ウチは……」

 

「お前は……なんだというのだ? 霞」

「あぁ、愛紗か……」

 

そんな彼女へ声を掛けたのは、『大将軍』である愛紗だった。

 

「んー。ウチって贅沢なんかなーって」

「贅沢? まあ確かに酒の量はもう少し減らしてくれると有難いな。只でさえ、『洛陽拡張計画』で予算が足らんのだ」

「あーもー、お堅いなぁ、愛紗は。くくっ、全ては一刀の為ってか?」

「も、も、勿論だ!////」

「おお〜、そこで肯定するとは、成長したやんか。……顔は真っ赤やけど」

「う、うるさい! ……で、なにが贅沢だと言うのだ。将軍たるおぬしがそのような有様では、兵の士気にも関わる」

 

霞は、中央軍五営のひとつ『越騎校尉』という高位武官だ。同じく五営の校尉である星、春蘭、祭、翠と並んで、『大和帝国』の軍兵を掌握する、重要な人物と言える。

余談だが、桔梗は帝都と近郊治安を司る『司隷校尉』、紫苑は三国重鎮唯一の九卿であり、宮中警備を担う『光禄勲』に任じられている。ここで名の挙がらなかった者は、何れかの配下として将軍職にある。

 

「ようやっと勝ち取った平和。やけど……愛紗は、不安にならへん?」

「……『狡兎死して走狗烹らる』、と?」

「うん……」

 

『狡兎死して走狗烹らる』。うさぎが死ぬと、猟犬も不要になり煮て食われる。即ち、敵国が滅びてしまえば、軍事に尽くした功臣も不要とされて殺されることのたとえだ。

 

「ウチら武官は走狗や。戦いが無くなれば、意味の無い、必要ない存在になる。……ウチはそんなん耐えられへん。

 ウチ自身も、そんな自分を認めることが出来ん。

 強い相手と戦い、力を競うこと。それはウチにとってとても大切なことで、自分の存在意義でもあるねん。

 やから……平和はええことやけど……。正直ウチは自分を見失ってしまいそうなんや……」

 

長い独白。愛紗はそれをじっと聞いていた。恐らく、武官の誰もが考えるであろうことだったからだ。

 

「……なあ、霞よ。それをご主人様にお話ししたか?」

「一刀に? そりゃ一刀は『必要だ』って言うてくれるやろうけど……なんか怖ーて」

「そうか。では、まずは私からお灸を据えてやろう。――行くぞ!」

「はい!? あ、ちょっ、愛紗!?」

 

 

 

霞が引っ張り出されたのは、郊外の軍事演習場。

その場には、帝都を外敵から守る洛陽防衛軍である桔梗、鈴々、秋蘭、焔耶、白蓮、蒲公英。そして中央軍・五営を司る星、春蘭、祭、翠が揃っており、また、軍師としてだろう朱里と雛里までもがいた。

 

「……そういや、今日は合同演習の日やったっけ……」

「やっと思い出したか。相当腑抜けているようだな……まあいい。今回はお前に灸を据える為に、先程“大将役”もお呼びした。すぐに来られるだろう。その前に軍の組分けを発表する」

「なんか、怖なってきたわ……」

 

いつにない強引さの愛紗に恐々とする霞であるが、そんな霞を無視して愛紗は皆へ組分けを伝えた。

白組が愛紗、鈴々、星、翠、祭、蒲公英、軍師は朱里。

黒組が桔梗、春蘭、霞、秋蘭、白蓮、焔耶、軍師は雛里。

兵数五千対五千のガチバトルである(兵装は当然非殺傷用の刃を潰したりしたものだが)。

 

兵達へ『八陣図』の基本陣形を取るよう伝達したところで、大将役の二人が演習場に姿を現した。

 

「おー、やってるやってる」

「な、なんだか緊張してきちゃった。あはは」

 

「ご足労戴きましてありがとうございます。ご主人様、桃香様」

「おお!? こ、こん二人が大将なん!?」

「そうだ。白組は桃香様。黒組はご主人様だ。……言っておくが、大将がご主人様とて、一切の手加減はせんぞ」

 

既に愛紗は戦闘モードなのか。その身体からは闘気とも言うべき気配が立ち上っていた。

それを見た霞の背筋に武者震いが走る。

三国同盟以後、敵として相対することのなかった『蜀の武神』。今、その彼女が自分を打ち懲らさんと牙を剥いている!

 

(――は、ははっ。ははははは! これや……これや! ウチは何をボケとった!? 未だ一度も勝ったことのない“壁”が、目の前に居るちゅうのに!)

 

まるで愛紗の闘気に呼応するかのように、霞の身体に、心に覇気が戻って来ていた。

 

 

 

どーん!どーん!どーん!

 

銅鑼が打ち鳴らされ、戦闘開始を告げた。

途端に白組から鬨の声が轟く。なんと戦闘開始直後から強襲してきたらしい。

驚いたのは黒組の将である。特に前衛の『長槍陣』と『大盾陣』を指揮している白蓮と焔耶は泡食っているだろう。

 

「ほお、これは強引な。とても朱里の指示とは思えぬ」

「そやな。相手は『伏龍』諸葛孔明やしな……。とりあえず、先鋒が誰なんか報告待ち、かいな?」

「うむ、そうだな。何かしらの“罠”への布石と考えるべきか」

 

桔梗、霞、秋蘭は慎重案の構え。そこへ兵が報告に走ってきた。

 

「報告! 敵先鋒は関将軍および張将軍! 続いて後方から馬超・馬岱将軍も『突撃騎兵』によって真正面から突撃してきております!」

「な、なんだと! 真正面から『槍』と『盾』を強引に中央突破する積もりか!?」

「……これは上手くいなせば楽勝じゃの。つまらん……朱里め、何を考えておる?」

「既に演習は始まっているのだ。対応せねばな。雛里、指示をくれ」

「…………は、はい」

 

春蘭は相手の無謀さに驚愕、桔梗は言葉通り、つまらなそうに呟く。秋蘭が指示を求め、雛里も首を傾げつつも答えた。

しかし、そこへ声を掛けたのは、大将役の一刀だった。

 

「さて。ここで俺からみんなに課題だ」

「「「「「は!?」」」」」

「……雛里。今、こっちの軍は“背水の陣”であると想定してくれ。そして……互いが『和』の軍であり、大将役である俺と桃香は、そのまま“本人”であると考えること」

 

一刀のその言葉に将たちは疑問符を浮かべた状態であったが、雛里のみは普段とは打って変わって静かに思考し、目を細めた。

 

「――つまり、我らが『大和帝国』は。今、皇帝陛下を守る最後の軍に強襲を掛けられている、ということですね?」

「そうだ」

「そして、相手の大将は桃香様。つまり……“相打ち”は敵の勝利ということです」

「「「「……」」」」

「ならば敵の作戦は非常に理に適っています。何せこちらは同数の兵力で“皇帝陛下”を守らねばならないのですから。最早後退は出来ず、既に前衛は浮き足立ち、半ば破られつつあります。敵先鋒は武勇の誉れ高き関羽将軍と張飛将軍。この数の戦闘においては、武将の個の武力は非常に大きいと言わざるを得ません。即ち――」

 

『鳳雛』鳳士元は、きっぱりと言い放った。

 

「我等の敗北は、もう目の前まで迫っています」

 

「ちょっ!? だって、いきなりそないなこと言われても……」

「これは演習じゃ。ならば急場の想定は寧ろ訓練としては上等じゃい。さて、どうしたものか。くっくっく……」

「……言われてみたら、確かにその通りやな。はぁ〜、こんなんやから愛紗に“腑抜けた”なんて言われてもーたんや……うっし! 気合入れ直しや!」

「まだ敗けた訳ではないのだ! 雛里、策はあるのか!」

「……逸(はや)る気持ちは分かるが、落ち着け、姉者」

 

楽しげに笑う桔梗に、霞も落ち着きを取り戻す。一方で、動き出したくて堪らないらしい春蘭を秋蘭が諌めていた。

 

「……ご主人様。条件は彼方も同じ。また、将軍も“同一人物”と考えて宜しいでしょうか?」

「ああ、それでいいよ」

「ならば、まだ此方にも勝機はあります」

「おおっ! いいぞ、何でも言え! この夏侯元譲が道を切り開いてくれよう!」

「はい。まず、関羽将軍と張飛将軍が、義姉妹であられる桃香様の守護を差し置き、先鋒で急襲してきたということは……最早彼方には守るだけの余力がない、という状態であるということです。逆に言えば、此方が現在これだけの兵でしか皇帝陛下を守ることの出来ないこの状況は、彼方にとって一発逆転の好機であるということ。恐らく、先鋒の後背からも総力を以って突撃して来るでしょう。つまりこれは……一部の将を犠牲にしてでも敵大将を討ち取る為の玉砕特攻です」

 

雛里は淡々と語る。故にその言葉は重く、説得力に満ちていた。

今こそ彼女の頭脳、戦術という“怪物”は、敵を貪り喰わんとその顎(あぎと)を開き始めていた。

 

「ならば――勝機は唯ひとつ。一点集中防衛と、左右挟撃のみです」

 

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白組の先鋒、愛紗と鈴々はその勇名に恥じぬ武力を以って黒組前衛を打破しつつあった。

槍衾も大盾も、その愛器で打ち破り、突き進む。そしてその隙間を広げるように後ろからは騎兵や『鋼鉄陣』の精鋭兵が突撃していた。

 

(――防御が、薄くなっていく!?)

 

しかし、彼女らは違和感を覚えていた。最初こそ徹底抗戦といった感の前衛だったが、段々と兵が寡少になっていったのだ。

 

(雛里め、もう此方の意図を読んだか……流石だな。我等は完全に誘い込まれているな……)

(でも、こっちは正面突破あるのみ、なのだ!)

 

義姉妹は目で語り合い、罠を承知で突き進んだ。

そして、目の前に現れたのは、桔梗、春蘭、霞、秋蘭の四将軍。周囲は『鋼鉄陣』に囲まれている。

 

「往くぞ、鈴々!」

「応なのだ!」

 

それでも二人は全く躊躇無く突撃を敢行した。

愛紗には霞が打ち合い、桔梗が後方から補助。鈴々には春蘭が打ち合い、秋蘭が補助。

春蘭は愛紗と戦りたがったが、霞たっての願いでこの編成となったのだった。

 

「往くで、愛紗ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「来い! 腑抜けた性根を叩き直してくれる!!」

 

「鈴々の前に立つ奴はぶっとぶことになるのだぁ!!」

「ふん! 丁度いい。いつぞやの長坂橋の続きといこうではないか!!」

 

 

……

 

…………

 

 

結局、この模擬戦は黒組の勝利で終わった。

白組の戦術は一点突破の『衡軛陣』であり、挟撃には非常に脆かったのだ。故に、本陣手前で堅固な防衛力を集中した黒組が白組先鋒の愛紗・鈴々を足止めしているうちに、左右へ展開。薄くなっていた白組本陣を白蓮・焔耶が逆強襲し、陥落させたのだった。

 

現在、兵は撤収中。将軍・軍師は反省会中である。

 

「流石は『鳳雛』鳳士元。見事な采配だったよ(撫で撫で)」

「あ、あわわ、ありがとごじゃいましゅ!(ぽぉーー……♪)////」

「いいなぁ、雛里ちゃん……」

「あ……ねえ、朱里ちゃん。この作戦って、朱里ちゃんの策じゃないんでしょう?」

「えへへ、ばれちゃった? うん、そうなの。愛紗さんがどうしてもって」

「理を第一とする朱里らしくない攻めじゃったからのう。何かの企みかと思うとったが。愛紗の企みとはな」

「勝つって気持ちいいなぁ……」

「……実感籠もってるね、白蓮ちゃん……」

「……いつもいつも、猪々子や斗詩に敗けてるからさぁ(泣)」

「いくら模擬戦とは言え、桃香様に武器を振るわねばならんとは……お館の陰謀か!?」

「誤解だ!? その振り上げた金棒をゆっくり下ろしてぇ!?」

「くそっ、結局鈴々とは決着付かずか……秋蘭の補助まであったというのに!」

「鈴々だって春蘭お姉ちゃんに勝てなかったのだ! ふかんぜんねんしょーなのだ!」

「寧ろ、姉者と正面から打ち合っていて、背後からの私の矢を避けるという、その方法を聞きたいものだ」

「あー、うー。な、なんとなくなのだ!」

「…………そうか」

「そ、そう落ち込むな秋蘭! こやつは野生児のようなものだからな!」

「なんだとー!」

「結局、あたし等は全然いいとこ無しだよ。なぁ」

「そうだよ、そうだよ〜! 愛紗の作戦が悪い!」

「そう言うでない。“負け戦”を経験しておくこともまた、武官としては重要なことよ」

「……祭。あたしら、戦乱時代で曹魏に思いっきり敗けたことあるんだけど……」

「……そ、そうだったな。すまん、失言じゃった」

「それはともかく。愛紗よ。此度の策を鑑みるに、おぬし、“勝つ”以外の目的があったな?」

 

星の言葉に、愛紗は困ったように霞を見下ろす。

反省会が始まるや、霞は愛紗の膝枕を懇願し、ずっとそのままなのだ。何気に一刀が羨ましげに見ていた。

 

「まあ、な。……霞、いつまでこの体勢を続ける積もりだ?」

「へへっ、ええや〜ん♪ ウチ、嬉しいねん!」

 

霞は城壁で愛紗に語った『狡兎死して走狗烹(に)らる』についての件を皆に話した。

 

「成る程のう。確かに武官ならば、誰しもが考えることじゃな」

「アホか、貴様は」

「アホは酷いで、惇ちゃ〜ん」

 

同意した桔梗含め、大半の将に反し、春蘭は一言“アホ”と切り捨てた。

 

「主君の望みを叶えることこそ従の務め。何を迷うことがある。今はこの国を守ることこそ、我等が主君の望み。ならば、その為にあらゆる気構えと訓練を欠かさぬことこそ、我等“従”の務めであろうが」

 

春蘭の言葉に、一同は誰もが笑い出した。

 

「天下一品武道会でも言ったが……。本当に春蘭の単純さは、偶に羨ましくなる」

「ホンマやなぁ。ま、今回も愛紗には勝てへんかったし。勝つまでは挑戦すんで〜?」

「ふふっ、いくらでも掛かって来い。だがな、霞」

「んん?」

「もし、私がお前に敗けたなら。今度は私が挑戦者だ。退屈する暇などあると思うな?」

「ぷっ、あははは! そっか、そうやな!」

 

「なにやら仲睦まじげですなぁ、主」

「ほんとだよなぁ。ちょっと羨ましい……特に愛紗の膝枕が……」

「このエロエロ魔神! そこしか見てないのかよ!?」

「なんならたんぽぽがしてあげよっか♪」

「……小娘の膝枕なんぞで満足するものか(ぼそり)」

「なんか言った、この脳筋!?」

「ええい、毎度毎度おぬしらも飽きん奴等じゃの!」

 

「しかし……主君の望みを叶えることこそ従の務め、とは。姉者も随分と素直になったものだ」

「は? 何を言っておるのだ、秋蘭?」

「それは此方の台詞だぞ、姉者。今や我等の“主君”とは北郷のことではないか(にやにや)」

「にゃっ!? い、いや、違うのだ!? 私の言う主君とは華琳様のことであってだな!?」

「ええ〜、じゃあ俺はなんなのさ、春蘭〜(にやにや)」

「こ、このっ! う、うるさーい!////」

 

「結局、今回の愛紗ちゃんの“策”は、霞ちゃんの悩みを解消する為だったんだよね?」

「はい、桃香様。こやつめ、随分腑抜けているようでしたから。ひとつ気合を入れてやろうかと」

「うん、愛紗ちゃんは『大将軍』だし。武官とか武人としてはそれでもいいと思うんだけど」

 

桃香はそう言うと、一刀の腕を取った。

 

「……桃香?」

「私達には、それ以外でも大っっっ変な“仕事”があること、忘れてない?」

 

桃香の言葉に、誰もが疑問の視線を返した。

 

「もぉー! みんな、最近の月ちゃんの忙しさを思い出してよぉ!」

『――!?』

「私達だって、いつかご主人様の御子を授かって。あんな風に、毎日が“戦場”になるんだよ? 霞ちゃんが言うような、暇とか不安とか言ってる場合じゃなくなるんだから!」

 

「――くくっ、ぶわはっはっはっは! これは桃香様に一本取られましたな!」

「はっはっはっは! 確かにあれは“戦場”という名に相応しい!」

「うむうむ。ほんにあれは戦じゃのう♪」

「はわぁ〜〜、ご主人様との御子……////」

「ぽぉーーーー…………////」

「私達も早くご主人様の御子授かりたいねっ、お姉様♪」

「……う、うん////」

「翠!? お、お前までっ!」

「(北郷と、私の、子供かぁ……)////」

「……御子。御子か……」

「(華琳様のことを考えているな、姉者……まあ、それは私も同じか)」

「ねーねー、愛紗。御子って鈴々も出来る?」

「ぶほっ!? あー、そのー……多分////」

 

桔梗の大笑いを切っ掛けに、周囲の者達も釣られて笑ったり、赤面したり、或いは考え込んだり。

 

唯一人、一刀のみは穏やかな笑みを湛えていた。

 

「霞」

「あ……か、ずと」

「これからも、宜しくな」

「――おう! ……うん。へへへ〜♪////」

 

笑顔と共に掛けられた、短くも素直な一言。それは霞の心の奥底まで確かに届いたのだった。

 

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≪密偵追跡捕縛演習と房中術勉強会 ≫

 

 

(くそっ、どうしてこんなことに……!?)

 

その時、一刀は追い詰められていた。森の茂みに身を隠し、匍匐前進しながら周囲を窺う。

既に彼は孤立無援。誰の力も借りることが出来ない。

開始時は彼を含む一団が攻勢側だった筈なのに、いつの間にか、“獲物”となっていたのは彼の方だった。

 

 

今日は帝都防衛軍の主力武将とその親衛部隊による、とある訓練の日だった。

一刀は、山林で行われる訓練の激励の為、出発する前に声を掛けるだけの予定だった。

 

ところが。

 

「こんな天気の良い陽気の中、室内で政務など、つまらぬじゃろ? どうじゃ、北郷も参加してみては」

 

という祭の誘いに乗り、参加表明したのが運の尽きだったのだ。

明命の実力を知っていたにも拘らず、一刀のサボリ虫が祭の誘惑という罠に見事囚われてしまったのである。

 

その日、行われる予定の訓練とは……『密偵追跡捕縛演習』。

山林に潜む工作兵役の明命とその配下を全員捕縛するというものだったのだ。

 

訓練が開始されてたった数十分。一刀に分配されていた兵は全て“殺されて”しまった。

てっきり探し出して捕まえるという、“隠れ鬼(かくれんぼ+鬼ごっこ)”の鬼役だと思っていた一刀は愕然。

この訓練は、明命と彼女に鍛えられた密偵たちの“攻撃”を潜り抜けて、捕縛するという超高難度訓練だったのである。

しかも、密偵側に“殺される”と、顔やら素肌に落ちにくい特殊な墨でとんでもない落書きをされてしまうという、罰則付き(逆もまた然り、ではあったが)。

 

参加していた将は桔梗、翠、蒲公英、白蓮、祭、春蘭、猪々子、斗詩の八人。

しかし、一刀が確認しただけでも既に蒲公英と猪々子以外の六人の将が“殺されて”いる。

 

桔梗・祭の顔には『乳に栄養行きすぎ』。

翠・春蘭・斗詩の顔には『存在価値は巨乳のみ』。

白蓮の顔には『残念』。

 

(明命の巨乳嫌いが、これ程とは……。つーか酷すぎる……)

 

もし一刀が“殺され”れば、一体どれだけの(シモ関係の)罵詈雑言を書かれるやら。想像するだけで鬱になりそうな一刀である。

訓練終了はいずれかの全滅のみ。逃亡は許されない。

こうなってはもう、一刀の勝機はまず蒲公英か猪々子のどちらかと合流し、相手が攻撃してきたところを逆に捕らえるしかない。

 

という訳で、一刀は匍匐前進で仲間を探していたのだった。しかし、声を上げれば密偵側に見つかる可能性の方が圧倒的に高い為、とにかく“足音”を探して這い回っているのだ。武将であって密偵でない蒲公英や猪々子なら“足音”を隠し切れはしないだろうという素人判断である。

 

そんな理由で耳を済ませていた一刀が捉えた、妙な音。

 

(なんだ……水音? この辺、小川とかないよな……)

 

気になった一刀は、音のする方向へと静かに進む。そして見た者は。

 

「…………ご主人さ、ま?」

「…………たんぽぽ?」

 

互いを呼び合い、固まってしまった二人。蒲公英は座り込んでおり、一刀は匍匐中。辺りに響くのは、ちょろちょろという水の音。

……たんぽぽは小用中。そして一刀は、その目の前の藪から顔を出した状態だった。

 

「――きゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?////」

「――うわぁぁぁぁぁっ!?」

 

訓練中だということも忘れて叫ぶ二人。

 

「えっ!? なんでぇ!? や、やだぁ!!」

「す、すまん!」

 

叫んだことで多少の正気を取り戻した二人。特に一刀はようやくたんぽぽから目線を外すべきことに思い至った。

 

暫くして。

 

「も、もういいよ……とにかく場所変えよ?」

「う、うん」

 

流石に自分が用を足した場所で話す気にはならないだろう。蒲公英は一刀を引っ張り、少し離れた場所へと移動した。

そこは崖のような場所で、多少見晴らしがいいところだった。少なくとも、背後から襲われることはないだろう。

 

(もぉ〜! なんであんなときに限って、あんなとこから出て来るのよぉ〜! 絶対見られたぁ……////)

(やべぇ……超気まずい……)

 

また暫く、二人の間には沈黙が落ちていたが、蒲公英が恐々と一刀の袖を摘んだ。

 

「……あ、あの」

「ん?」

「た、たんぽぽのこと……嫌いに、なった……?」

「な、なんで?」

「なんでって……。だって、その。汚いって思わなかった……?」

「そんなことでたんぽぽを嫌ったりしないって」

「ほ、ほんとに? ……でも、汚い女だって、思ってるんでしょ……?」

「思ってないって。今回のは事故じゃないか。ある意味、俺のせいだし」

「で、でも……」

 

なにやらこの遣り取りに既視感のようなものを感じた一刀。

 

(あー……翠の“お漏らし”の時の遣り取りと殆ど一緒じゃないか、コレ)

 

それを思い出すと、急に余裕が戻ってきた。

 

「ふふっ……」

「ほ、ほら! 笑ってるよぉ!」

「(やっぱ姉妹……いや従姉妹だけど。似てんだなぁ) どうやら口で言っても分かって貰えないみたいだな。なら……俺が“舐めて”みせたら信用するか?」

「な、舐め? って、今ここで舐めるのっ!?////」

「いや、言葉で分かってくれたんならしないよ。大体、たんぽぽと初めての時もこんな森の中だったろ。……どうする?」

「……ご主人様の、意地悪……。じゃあ……証明して……?////」

 

そう言うと蒲公英は、崖に手を突き、一刀に背を向けた。

 

「え? なんで後ろ向くの?」

「バカァ! こんなの顔見られながらなんて無理だよぉ!////」

(うわっ、恥ずかしがる蒲公英ってけっこー貴重かも!?)

 

はにかんでそう叫ぶ蒲公英に、一刀の“スイッチ”が完璧に入ったようだった。

 

「分かった。じゃあ……」

 

 

……

 

…………

 

 

結局二人はそのまま“一戦”やらかした。

 

「……意地悪。意地悪。意地悪」

「そんなに言うなって……」

「もー! 帰ったら覚えててよ! 財布空っぽになるまで奢らせるんだから!」

「ま、まあそれくらいは仕方ないか……」

「……あと。お姉様には、内緒にして……」

「ぷっ! ああ、分かったよ」

「う〜……////」

 

などとイチャついていた二人だったが。

 

「――睦み事は、終わりましたか……?(ゴゴゴ……)」

 

「「ひぃ!?」」

 

突如“上”から掛けられた言葉に、二人が震え上がる。

言葉に籠められたものが殺気だけだったなら、二人も恐怖などしなかったろう。しかし、その言葉には殺気だけでなく、怨念めいたものが籠められていたのだ……。

 

次の瞬間には、二人は纏めて逆さ宙吊りにされていた。いつぞや蒲公英が焔耶に仕掛けたものと同じタイプで、上半身の自由も完全に奪われている。そのトラップを崖の上から引っ掛けたらしい。

そして逆さに吊るされた二人の前に降り立った明命は、幽鬼の如く負のオーラを放っていた。

 

「不潔です。淫乱です。淫逸です。貪淫です。淫猥です。卑猥です。猥褻です。――総じて淫らですッ! 今は訓練中だと言うのに!!」

「「……ゴメンナサイ」」

「……この訓練も、お二人で終わりなのです。最後の最後で……#」

「い、猪々子も、もう“殺され”ちゃったのか……」

 

因みに落書きは『仲間でも情け無用。もっと考えましょう』であった。

 

「さて……たんぽぽさんは、情状酌量の余地があります。ですので、落書きの内容を選ばせてあげます。『私は淫乱です』と『任務中に粗相しました』のどちらがいいですか」

「どっちもイヤーーーーー!?」

「では両方で(きっぱり)。一刀様には一切容赦無用。全員集めた上で、思いつくだけ、ありったけ全身に書き込みます!」

「……も、好きにして……」

 

という訳で、蒲公英は顔の左右に一文ずつ書き込まれ。

一刀は上半身を剥いた上で、そこら中に様々な罵詈雑言(ほぼシモ関係)が書き込まれた。

一部を羅列すると。

「好色一代男」、「和の種馬」、「破廉恥皇帝」、「節操無さ過ぎ」、「年中発情下半身」、「存在価値はチ●コのみ」、「寄るな触るな、孕む身籠る」、「わたし脱いでもすごいんです」、「振動機関(からくり)」などなど。

 

皇帝として、愛されているのか、馬鹿にされているのか。

何にしても、『密偵追跡捕縛訓練』は洛陽防衛軍の完全敗北で終了したのだった。

 

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その夜。

流石にこの状態で夜伽は無理と、予定は全て一日後ろへとずらされた。

実はこの墨、石鹸で洗えばなんとか落ちるのだが。明命の怒り凄まじく、一刀のみは城に帰った後も、洗い落とすことを禁じられてしまったのだ。

 

「みーんめい♪」

「……つーん!」

 

蒲公英の呼び掛けに、身体ごと背けてわざわざ「つーん」と発声してまで拒絶する明命。

本人は不機嫌さを現している積もりだろうが、逆に可愛くも見える。

 

「まだ怒ってるの〜?」

「当たり前です! 訓練とは言え、任務中です! それなのに……あ、あんな!////」

「ふふ〜ん。あの時は落書きのことで頭が一杯だったから気付かなかったけど。明命、たんぽぽとご主人様がシテるの、ずーっと隠れて見てたんでしょ?」

「はぅあ!? そ、そそそそそんなことはないのです!////」

「……バレバレだよ……明命、密偵でしょ? これくらいで動揺してていいのかなぁ?」

「う゛っ……」

 

蒲公英の指摘も尤もと思ったか、明命が口籠もる。

 

「わっ、私はたんぽぽさんみたいに淫猥ではないのです!」

「あっ、そんな言い方、ひっどぉーい!」

「は、はぅ。ご、ごめんなさいです……」

「ってそこで謝るの!? ぷっ、あはははは! 明命って面白いね!」

「うぅ〜〜……」

「ごめんごめん。純なのはいいけどさ。もうちょっと耐性付けた方がいいんじゃない?」

「耐性、ですか?」

「そっ。それに房中術を身に付けたら、ご主人様だって喜んでくれるよ?」

「ほ、本当ですか!」

「うわっ、予想以上の食いつき。明命だって女の子だもんね〜♪」

「は、はぅあ〜! この手の話では、たんぽぽさんに口で勝つのは無理なのです……////」

「……今日、抜け駆けしちゃったのをみんなに内緒にしてくれたお礼に、いいところに連れてってあげる!」

「い、今からですか?」

 

夕餉も終わり、既に自由時間だ。

勉強する者、鍛錬する者、更に食う者、酒を呑む者。すぐに寝てしまう者。誰もが思い思いに過ごしている。

 

「さっ、付いて来て♪」

 

 

「……たんぽぽさん、此処は朱里さんの部屋では?」

「そうだよ。ふっふっふ……。実は、朱里の部屋では、毎晩のように“房中術勉強会”が催されているのだ♪」

「べ、勉強会、ですか……?」

「なんせ朱里の部屋には艶本が山と積まれて……はいないか。彼方此方に隠されてるんだよ♪ 普段は朱里と雛里だけだけど、偶に房中術について知りたい娘とかが訪れるの。蜀時代からの名残のひとつだね」

「……その頃からですか……。なんだか『伏龍』『鳳雛』の印象が……」

「知識欲が強いから、あんなに頭良いんじゃないの? 多分」

「それは、そうかもです……」

「ともかく、頼めば艶本見せてくれるから。一緒に勉強しよ♪」

「は、はい!」

 

という訳で、二人で朱里の部屋へと入ったのだが。

 

「い、いらっしゃい……」

「「…………」」

 

先客がいるかもしれないとは蒲公英も考えていたが。

現在、朱里の私室には既に七人もの客が訪れていた。持て成すのが好きな朱里も、流石に笑みが硬い。

 

まず朱里と雛里は机について、本を出したり仕舞ったり。或いはお茶を淹れたりと慌しく動いている。

同じく机の隣の椅子に座り、お茶の用意を手伝いつつも、一緒に艶本を読ませて貰っているのは月。

寝台には、小蓮が寝転がりながら、音々音が腰掛ける形で艶本を読んでいる。

そして、床の敷物に直接座り込み、季衣、流琉、風の三人も、やはり艶本に見入っていた。

 

一刀の正室でも無乳(ナイチチ)連中勢揃いである。……鈴々のみはいなかったが、彼女は実践派……というか読書が嫌いなので当然か。(なお、美以や桂花、美羽は正室でないので除外)

 

「……千客万来だね……」

「はぅあ〜、本当にお邪魔してよろしいのですか?」

「ええ、勿論。もう場所が余りないので……座布団出しますね」

「では、私はお茶を淹れますね、朱里ちゃん」

「あわわっ、私も手伝うよ、月ちゃん」

 

(こ、これが“房中術勉強会”……。皆さん、とっても真剣なのです……!)

 

そう。この場にいる者の誰もが真剣だった。遊び気分で読んでいる者など誰一人いない。

確かに読んでいる本は艶本で、その知識は明命が言ったところの“淫ら”なものだ。

だが、誰もが愛する彼の為にと、その技術の習得に真剣であることがひしひしと感じられた。

 

「……これだけ真面目な勉強の場なら、亞莎がいてもよさそうなのです……」

「はい、座布団ですよ、明命さん。亞莎さんなら、今日は自室で読むそうですので、本をお貸ししました」

「はぅあ! やっぱり参加してたのですね!? うぅ……亞莎も教えてくれればいいのに……」

「あはは……。亞莎さんは恥ずかしがり屋さんですから、言い出せなかったのでは……? わ、私だって、自分から皆さんをお呼びしてる訳じゃないんですよ!? そこのところは誤解なきよう、お願いします!////」

「は、はい」

 

朱里は咳払いをして、一旦間を置き、改めて問うた。

 

「……こほん。それで、明命さんはどのような書をご所望なのでしょう?」

「はぅあ!? い、いえ、私は連れられて来たというか。正直、何から聞けばいいのかすら分からないのです」

「それじゃあ……参考に、今みんながどんな本を読んでるのか聞いてみたら?」

 

蒲公英の提案に、朱里も納得した。

 

「成る程……。えっと、まず私と雛里ちゃん、それから月ちゃんが読んでいるのは、“口淫”関係の書です」

「…………」

「つまりご主人様のxxxxxをxxやxxでxxたりxxxxだりしてxxxxして戴く為の参考書ですね」

「へぅぅ……わ、私は出産直後でご主人様のお相手が出来ないので……せめてご奉仕させて戴くのに、勉強しておこうかと……////」

「あれ、そういえば詠はどうしたの? 一緒じゃないなんて珍しいね」

「……今日、たんぽぽちゃんと“抜け駆け”したって聞いて、ご主人様にオシオキしてくるそうです……」

 

月がそう言った瞬間、その部屋にいた正室全員の冷たい視線が蒲公英に突き刺さる。

 

「(や、薮蛇……) じゃ、じゃあね〜(汗)」

 

蒲公英は地雷を踏んだことを察知し、朱里の部屋から逃げ出してしまった。

 

「はぅあ! たんぽぽさん!? ……行ってしまいました……。おかしいです。情報は隠蔽しておいた筈です」

「シャオが祭から聞き出したんだよ。『明命の様子をみれば一目瞭然じゃ』って言ってたよ?」

「しゃ、小蓮様!? そ、そんな〜……内緒にするって、たんぽぽさんと約束してたのです……」

「まー、自業自得って奴ですねー。自身がオシオキされないだけマシだと思って欲しいのですよー」

「ふん! どうせへぼ皇帝が無理矢理したに決まっているのです! お花(蒲公英の渾名)を責めるのは筋違いなのです!」

「………」

 

音々音はそう言うが、実際のところ幾分かは蒲公英の責任もあるだろう。思わず黙り込む明命だったが。

 

「……ご主人様のことだから、無理矢理ってことはないと思いますけど……。でも……もし私がご主人様に迫られたら、断る自信、全くないです……」

『…………』

 

雛里の一言に、その場の誰もが沈黙した。誰もがその状況を否定出来なかった。

 

「こ、こほん! では次に行きましょう、明命さん」

「は、はい! お願いします!」

「小蓮ちゃんが読んでいるのは、ちょっと毛色が違って、物語の書かれた書ですね」

「文学ということですか?」

「読んでみる?」

 

と手渡された物語をさっと速読(密偵としてのスキルだ)する明命。

 

「……はぅあ〜〜〜〜!? なんですか、これは〜〜〜!////」

 

内容を理解した明命は、すぐさま小蓮に本を突き返した。

小蓮が読んでいたのは、要するに“官能小説”と言う奴だったのである。

 

「物語の筋から、一刀を“誘惑”する手段やら手練手管を見つけてるのよ。結構効果あるよ?」

「手練手管は、ちょっと表現がずれてるような……そうでもないような……」

 

思わず朱里が突っ込んだが、小蓮は無視。彼女は既に実践まで行っているらしい。

 

「え、え〜、次はねねちゃんのを。まあこれは明命さんには余り関係ないと思いますけど」

「そうなのですか?」

「ねねが読んでいるのは、女性の同性愛の指南書なのです。これで恋殿に満足して戴くのですぞー!」

「……た、確かにまだ私には必要なさそうなのです……」

 

気合十分な音々音に押され気味の明命である。一刀との夜伽は複数人で行われることが殆どの為、覚えておいて損はないだろうが、今すぐ必要な知識ではないと明命は感じたようだ。

 

「続いては、風さんが読まれている本ですが、これは様々な“体位”について書かれた書です」

「中々興味深いのですよー。全く奥が深い。そして知ったとなると試したくなるのが人情というものなのですー。とは言え、風は身体が小さいので、ちょっと無理のありそうなものが結構ありますね。残念無念」

「前とか後ろとか横とか上とか下とか立ってとか抱えてとか逆さまとか。人知というものは、どこまでも追求するものなのです!」

「はぅあ〜〜〜〜〜……////」

 

淡々と語る風と、興奮気味に説明(?)する朱里。明命はもう赤面するしかない。

 

「ねえ、朱里〜。これ、ボクにはよく分からないよ〜……」

 

と朱里へ申し立てたのは、やはり床の敷物に座って、流琉とともに書を読んでいた季衣。

 

「……そうですか。残念です……」

「……気を落とさないで、朱里ちゃん」

「うん。ありがとう、雛里ちゃん」

 

「「??」」

 

朱里と雛里の遣り取りに、季衣と明命は首を傾げるばかり。

 

「ああ、明命さん。ごめんなさい。季衣ちゃんと流琉ちゃんが読んでいたのは――」

 

と朱里が書の解説をしようとしたところで、部屋の扉が開いた。

 

「お晩で〜♪ ほい、こないだ借りとった本、返しに来たで」

「真桜さん。如何でしたか?」

「ん〜、イマイチ? 叙情的過ぎてウチには合わへんかったわ。ウチはもっと直接的なんがええみたい」

「成る程……」

「あ、あの〜……」

「おっ! これこれ! これは良かったと思うねん!」

 

朱里に話しかけようとした流琉を遮り、真桜は彼女の持っていた書を指し、そう言った。

 

「ええっ!? 真桜さんもこれ読んだんですか?」

「勿論やで! ちゅーか流琉も読んだんか。どないやった?」

「しょ、正直よく分かりません……。ただ、その〜……一方が“小柄”となっていたので、自分に照らし合わせると、ちょっと恥ずかしい感じです……////」

「そ、そうですか……。まぁ一般的な反応ですよね……」

「まあ、ちょい邪道な読み方やけど、ええんとちゃう? まずは読んでくれる人間を増やすんが肝心やで」

「そ、そうですよね! 流琉ちゃんも良かったらまた読んでね。感情移入し易いのを用意するから!」

「う、うん……////」

 

「えっと〜、朱里さん。結局それはどういう書なのですか?」

「あ! ごめんなさい、明命さん! これは男性の同性愛の書です。通称“八百一(やおいち)”と呼ばれます」

「だっ、男性同士ですか!? そ、それって一刀様には無関係なのでは……?」

「確かにそう思うかもしれませんが。寵愛を“与える”側も男性ですから当然参考になりますし。なにより、男性側の思考を勉強するにも最適なのです!(力説)」

(強引な説得やな〜、くっくっく)

「は、はぁ……」

 

真実を知る者からすれば明らかに詭弁であるが、明命には分からない。納得も拒否も出来ず、明命は生返事を返すしかなかった。

 

「はぁはぁ……。と、と言う感じで、皆さん自分に必要な書を読んでいます。私も皆さんのお役に立てると嬉しいですし。たんぽぽちゃんは逃げちゃいましたけど、何か必要な情報はありそうですか? なんなら“八百一”でもいいでしゅよ!?」

「……朱里ちゃん、力籠めすぎて噛んでるよぅ……」

 

「……雛里さんや月さんと一緒に読ませて下さい……」

 

とりあえず手近で経験のあるところへ逃げた明命であった。

 

-5ページ-

≪美羽の芽生え ≫

 

 

袁術こと美羽は、その従姉である麗羽に呼び出され、洛陽の後宮を訪れていた。また、従者として張勲こと七乃を付き従えている。

 

美羽と七乃は孫家の配下として、一刀の仲間達の大半とも真名を交換し合い、現在では洛陽でも官僚らが居を構える住宅地域に小さな家で生活している。

七乃は内政の実務を司る『尚書』として宮廷に仕官している為、収入という意味では傭兵団時代とは比べ物にならないほど安定した高収入を得ることが出来るようになっていた。

因みに美羽は仕官しておらず、当然収入もない為、袁術一門の大黒柱はまさしく七乃であった。というか、美羽が七乃のヒモというか、被保護者というか……

 

収入が安定したとなればまた美羽の我儘の虫が騒ぎ出しそうなものだが、意外にも(蜂蜜を除いて)そのようなことは無かった。

恐らく、その原因は……

 

「――麗羽姉様。袁公路、参りました」

「いらっしゃい、美羽さん。どうぞお入りなさい。七乃さんもいるのでしょう」

 

美羽は扉を開け、七乃と共に麗羽の私室に入る。

 

かつての袁紹――麗羽の私室ともなれば、そこら中に高価そうな装飾品や骨董品などが配された、豪奢なものだったろう。しかし、この後宮の私室はそのようなことはなく、大量の資料が収められた大きい棚がある以外は、最低限のものだけ。これといって高価そうなものなど見当たらない。……化粧台(と化粧品)のみはそれなりにするだろうが。

 

 

かつて劉備こと桃香の領地へ攻め入って返り討ちに遭い、その隙を突かれて、孫策・雪蓮に本拠地を落とされてしまった美羽。以来、彼女と七乃はどうにかこうにか傭兵として生活してきた。その放浪生活においてさえ、美羽は我儘を言うこと止めることは無かったと言うのに。

 

『第三次五胡戦争』が終結し、その経緯で孫策・雪蓮との友誼を結び直した美羽は、『大和帝国』の建国によって三国が統一されることで、久々に従姉である麗羽と(恐る恐る)再会した。

かつて一刀から言われた通り、相当に美羽を心配していたらしい麗羽は、美羽を見るや強烈に抱き締め、大泣きした。

ところがこの一年。蜀で『天の御遣い』北郷一刀に保護されていたという従姉は、相変わらずだと思わせながらも、何かが違う気がした。

派手好きで、子供っぽく、自己中心的性格。一見変わったところなどないように見える。だが、確かに美羽は麗羽に違和感を覚えていたのだ。

それを確信したのが、建国時に行われた皇帝への忠誠の儀での麗羽の言動。官を捨て、女としてのみ侍るという宣言であった。

 

 

そして今、こうして偶に麗羽に招待され、後宮の彼女の私室を見ると、尚更に自分の感覚が間違っていなかったことを思い知る。

最初にこの部屋の“質素さ”に驚いた美羽が麗羽に控えめに尋ねると、彼女はこう答えた。

 

「桃香さんのところは貧乏でしたからね。贅沢など出来なかったんですのよ。いつの間にやら、わたくしまで慣れてしまいましたわ。……それに、“秘宝”探しの旅費やら諜報の経費やら、何かと物入りなのですわ。お陰で部屋の装飾まで手が回らないのです。地味な部屋でしょう。ふふ、驚きまして?」

 

まず、自身の部屋が地味であることを恥じない彼女の態度に驚き、次にそんなに“秘宝”が欲しいのか、と訝(いぶか)しんだ美羽だったが、後から猪々子や斗詩に聞くところによると、麗羽が“秘宝”に拘るのは、自身が一刀にとって特別な存在であり続ける為であると言うのだ。

 

(あの麗羽姉様が……男の為に、とはの……。北郷、一刀……)

 

戦争終結直後、孫家との友誼を結び直せたことに助力したとして、真名を許した際。

自分の髪を梳いてくれた、あの大きな掌を思い出す。それはまるで父・袁逢のような、優しい手だった。

父・袁逢が三公に任官されたのは、太尉・司徒・司空を歴任した大政治家である偉大なる祖父・袁湯の爵位『安国亭侯』を継いだことが最大の理由であるが、その人格者たる性格も大きかったと言う。

……その娘である美羽は、教育係の七乃にすっかり甘やかされてこの有様であるが。

ともかく、美羽は北郷一刀という男に、どこか袁逢のような優しい父性を感じていたのだ。無意識に、あの時梳いて貰った髪に触れる。

 

(――北郷一刀――)

 

美羽が贅沢を言わなくなった原因は、結局麗羽を通して見た、北郷一刀という男の影響だったのだろう。

 

「……? 美羽さん、何をしてらっしゃるの。さあ、中にお入りなさい」

「はっ!? は、はい、姉様!」

 

少し呆けていた美羽は、麗羽に促され、慌てて入室した。七乃もそれに追随する。

 

(……髪に触れていたということは……また、北郷さんのことをお考えだったのですね。最近多いなぁ……)

 

基本、隠し事の出来ない美羽であり、まして幼少よりその教育者として侍ってきた七乃には、美羽の内心が手に取るように分かっていた。

 

(ああん、美羽様の異性との初恋、かぁ……。嬉しいような、寂しいような、苛々するような……)

 

美羽に『世界で最も大事な人間は誰か』と問えば、『七乃と愛娘・燿』と即答することは誰の目にも明らかであるが。

七乃は七乃で、テンパる美羽を見ることが出来るのは眼福であるものの、複雑な心中であった。

 

 

「さ、まずは此方なんてどうかしら?」

 

美羽主従が部屋に入って、まず麗羽がその手に衣装を持って発したのはそんな一言。

一刀の正室となって以来、麗羽の趣味は“秘宝探し”と“美羽の着せ替え”の二つになっていたのだった。

美羽としては、様々な衣装を着られるのは嬉しいのだが、何かと“接触”してくる麗羽には閉口していた。

困ったことに、様々な衣装を身に纏い、麗羽にセクハラされる美羽の姿が七乃の琴線に触れてしまい、何かと理屈を付けられては、結局付き合う羽目になっていた。

加えて美羽自身、後宮に来ることで一刀と会えるかもしれないという微かな希望があったのだ。自覚はなかったが。

 

「えっと、なんといったかしら。確か、『アオザイ』とか言う衣装ですわ」

「ちょっと春蘭さんや秋蘭さんの衣装にも似てますね」

「一応、『天界の衣装』のひとつですのよ。一刀さんにわたくしの分を作って戴いたとき、美羽さん用のもお願いしたのですわ」

「(と、ということは、これは北郷からの贈り物とも……はっ!?) れ、麗羽姉様? き、着替えは一人で出来ますので!」

「そんな寂しいことを言わず。わたくしにもお手伝いさせて下さいな♪(さわさわ)」

「ひゃぁぁぁっ!」

 

とまあ、延々この調子である。

本日も、結局二十を越える衣装に着替え“させられ”、その度にセクハラが襲い来る。味方である筈の七乃は、悲鳴を上げる美羽を見て息を荒くするばかりで、ちっとも役に立たない。

 

(七乃〜〜〜っ!!#)

(ハァハァ……可愛いです、お嬢様ぁ〜〜ん♪)

 

「最後は、コレですわ」

 

と、麗羽が取り出したのは。

 

「「…………紐?」」

 

美羽と七乃が同時に呟いた。麗羽が手にしていたのは、ぱっと見た限りでは黄色い紐にしか見えない。

 

「……ちょっと変わった素材ですね?」

「ええ。これも『天界の衣装』のひとつで、『水着』と呼ぶそうですわ。素材が特殊なのは、この衣装が“水中で泳ぐ為の衣装”だからですわ」

「へぇ〜、水浴び用だから面積が小さいのですか?」

「そういう訳ではないようですけれど。これは正室全員が一刀さんから戴いているのですけど、各々全く別の形なのです。わたくしのだと、このような感じですわ」

 

と、麗羽は自身の水着を二人に見せた。因みに黒のビキニだった。見事なプロポーションを誇る麗羽ならば、十二分に着こなすだろう。

 

「……これはこれで、面積は下着以下なのでは?」

「でも、華琳さんが貰ったのは、手足以外は黒い布に覆われる型でしたわ。『すくみず』とか言う、特殊な型らしいですわね。胸の小さい女性用とかで。くすくす……」

 

それが華琳にバレてフルボッコにされた一刀を思い出し、麗羽が口元を押さえて笑った。普段おバカな癖に、こういった所作は上品な麗羽である。普段の高笑いが上品な所作かどうかはさておいて。

 

「れ、麗羽姉様。それならば、妾もその面積の広い『水着』が欲しいのですが……」

 

話の流れから言って、目の前の“黄色い紐”は『水着』という“衣装”であるらしい。

はっきり言って、下着の方が余程面積がある。

 

「……ふふふ……それじゃあ面白くないじゃあありませんか。さ、美羽さん。お着替えしましょう?」

「ひ! な、七乃! 助けてたもれ!」

「ええ〜、いいじゃないですかぁ。この場には私達しかしませんしぃ〜」

「七乃ぉ〜〜!?」

 

迫る二人の魔手。

 

「あ、あ、あぅ……」

「さあ、まずはその服を脱いで……♪」

「お嬢様の『水着』姿……想像しただけで、うぅっ、鼻血が……」

 

「――いやじゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

美羽は逃げ出した!

 

-6ページ-

その頃。後宮の奥にある庭園では、一刀と黄親娘が芝生に座ってお茶会を開いていた。

一刀の肩に寄り添う紫苑と、一刀の胡坐に座り込んだ璃々。

 

「ふぅ〜、紫苑はお茶淹れるの上手いよなぁ」

「うふふ、ありがとうございます」

「じゃあじゃあ、次は璃々が淹れるから、お父さん飲んでね!」

「おうおう、璃々が淹れてくれるなら、いくらでも飲んじゃうぜ!」

「もう、ご主人様ったら。璃々には相変わらず甘いのですから……拗ねますわよ?」

「あ、あはは! つ、ついね。――痛たたた! つ、抓らないで!」

「もう……困った方」

「お母さん、“女の嫉妬は醜い”んじゃなかったの?」

「そうよ〜。でも、見せ方次第では、それは魅力にもなるの。ちょっと璃々にはまだ難しいかしらね」

「う〜、よく分かんない〜(悩)」

「紫苑さん!? ちょいと英才教育が過ぎるんじゃないっすか!?」

「そんなことはありませんわ。璃々ももう六歳。子を成すことの出来る歳まで、半分を切ったのですから」

「早いよ! 明らかに早いよ!! 璃々はそう簡単には嫁に出しません!!」

「あら。なんでしたら、ご主人様ご自身が“召し上げて”も宜しいんですのよ?」

「それこそちょっと待てぇ〜〜〜! 璃々は娘でしょ!?」

「確かにわたくしが妻となったことで、璃々はご主人様の“娘”となりましたが。姓は黄なのです。婚姻に問題はありませんわ」

「そう言う問題ではなく!」

「くすくす……ご主人様の溺愛っぷりを見ている限りでは、璃々はいつまで経っても嫁に行けませんよ?」

「う゛っ……」

「ええー! お父さんのせいで、璃々、お嫁さんになれないの?」

「う゛ぅ゛っ……」

「大丈夫よ、璃々。ご主人様が“何とか”してくれるわ♪」

「そっか! ならいいの! はい、お父さん。お茶だよ!」

「あ、ああ。戴きます……。うん、おいしい! 流石紫苑の娘だな!」

「えへへ〜♪」

「……そこ。笑うな」

「だ、だって……うふふふっ」

 

そんな微笑ましい(?)親子の会話に、突如乱入してきたのは、淫魔の魔手から逃れてきた美羽だった。

 

「ぜぇぜぇ、ほ、北郷〜! 助けてたもれ〜(泣)」

「美羽? どうした」

「麗羽姉様と七乃がぁ〜! 妾に無理矢理、紐を着せようとするのじゃ〜!」

「「「紐?」」」

「黄色くて〜、細くて〜、水の中で着せられるのじゃ〜!」

 

何を言っているか分からない紫苑と璃々だったが、“水”の単語で一刀は閃いた。

 

「あー、そういや麗羽に美羽用の『水着』作らされたな。確かに紐だわ、ありゃ」

「貴様かー! 貴様が諸悪の根源かー!」

「もう泳ぐ季節じゃないし、ちょっと着て見せてあげればいいじゃないか。……ちょっと勇気要るだろうけど」

「あんな卑猥なものを着たら、麗羽姉様に襲われるのじゃ〜〜!(泣)」

「……そ、そうだな。麗羽も元“漁色家”だもんなぁ。後で麗羽は説得しておくから。とりあえず、お茶でも飲んで落ち着け」

「う、うむ……」

 

美羽はちょこんと一刀らの正面に座り込んだ。

 

「はい、美羽おねーちゃん。お茶どうぞー!」

「おお、ありがとうなのじゃ、璃々。んぐんぐっ、ぷはぁ……。うむ、美味かったぞよ」

「えへへ、褒められちゃったぁ〜♪」

「よかったな、璃々」

 

一刀は自身の膝に座る璃々の頭を優しく撫でる。璃々もまた、その掌を嬉しそうに受け入れていた。

美羽は、その様子を見て、一瞬胸に鋭い痛みを感じ、掌を当てていた。

 

(この、痛みは……なんなのじゃ……?)

「……美羽?」

「ひゃっ! な、なんじゃ、北郷!?」

「いや、何か痛そうにしてるからさ。大丈夫か? ここなら、庭園のかなり奥だし。簡単には見つからないよ」

「そ、そうか。それならば、良いのじゃ……」

 

美羽自身もその痛みの意味を知らず。機微に疎い一刀ではそれに気付かず。

しかし、その場には彼女がいた。

 

「……美羽ちゃん。落ち着かないのだったら、璃々と一緒に、ご主人様の膝をお借りしたらどうかしら?」

「はい!?」「にゃ、にゃに!?」

 

“恋愛情事の達人”紫苑の一言に、一刀と美羽が驚愕の声を上げる。

 

「お茶も飲んで終わったし、璃々も丁度お昼寝の時間。仲良くお昼寝しましょう?」

 

飽く迄穏やかな笑みを絶やさない紫苑。

 

「し、ししし、しかしじゃの!?」

「……なんで俺の膝なの?」

「うふふ♪ よろしいじゃありませんか。あの木の下辺りは陽当たりが良さそうですわね」

 

“美羽が羨ましそうに見ていたから”などとは口にせず、誘導する紫苑であった。

 

 

結局、陽当たり良好な木の下、一刀は幹に寄り掛かり、胡坐の左右の腿には、璃々と美羽の頭。

 

「あれ、これじゃ紫苑の場所が……」

「わたくしはちょっと用事が出来ましたので、少々失礼致します。璃々をお願いしますわ、ご主人様」

「そ、そうなの? まあ用事って言うなら仕方ないけど……」

 

紫苑が何か企んでいるのは分かっているが、尋ねたところで逸らかされるのは目に見えている。よって、一刀も深く追求することはしなかった。

 

「折角の休日です。ごゆっくりお休み下さいな。わたくしも出来れば戻って参りますので」

「……分かった。いってらっしゃい」

「お母さん、いってらっしゃーい!」

「……////」

「では、美羽ちゃんも、ごゆっくり♪」

「ふ、ふみゅ……////」

「……(そういうこと、なのか? いや、でも美羽の視線は、どっちかっていうと璃々のそれに近い気も……)」

 

美羽は既に茹蛸状態である。

さしもの一刀も気付き始めたが、まだ美羽の態度が“父性への憧憬”か“異性への慕情”かは判断しかねていた。

 

(……急いで結論を出す問題じゃ、ないよな。うん)

 

「じゃあ昼寝しよう。実は結構疲れててさ〜」

「お父さん、お仕事大変?」

「今はちょっとね。それじゃ三人で昼寝と洒落込みますか」

「はーい!」

「う、む……」

 

璃々は早速脱力し、お昼寝モードである。一刀も、そんな璃々の頭を軽く、優しく撫でてやる。

さして間も置かず、寝息が聞こえてきた。

 

「…………」

 

その様子を横目で見る美羽。その視線はどこか羨ましそうでもある。

 

「……美羽の髪も、撫でていいかい?」

「ひゃ!? な、何故じゃ!?」

「……う〜ん、じゃあ“柔らかそう”だから」

「じゃあとはなんじゃ、じゃあとは! ……し、しかし、今は膝を借りておることじゃし……と、特別に許してやろう////」

「ありがと」

 

結局一刀の掌を受け入れた美羽。彼の手から伝わる全てが、美羽の心まで届くかのようだった。

 

「……慣れておるの、おぬし……」

「璃々もいるし。妹分が何人かいたからね……」

「……その妹分も、今やおぬしの正室という訳か……」

「そう、だね。俺の、大事な娘たちだ……」

「…………」

 

また胸を刺すような痛み。しかし、一刀の手が髪を梳く度に、心は溶けるかのようで。

陽の暖かさに包まれ、いつしか美羽も、一刀も眠りに落ちていた。

 

 

……

 

…………

 

 

美羽がふと目を覚ますと、一刀も璃々も眠ったまま。

ただ、一刀の掌が美羽の頭を支えるように置かれていた。

 

(妾は……この男を、どう思っておる……?)

 

『天』を名乗った不遜な男。かの『大徳』を支え続けた蜀の代表者。そして、三国を統一した『大和帝国』の皇帝。

何より……“あの”麗羽を“女”に変えてしまった、不思議な男。

 

(妾には、七乃が居る。七乃と燿さえ居れば……蜂蜜は別として、他には何も要らぬ……でも)

 

体を入れ替え、一刀の顔を見る。

 

孫家の保護下に入り、麗羽に後宮へ呼ばれることで、この二ヶ月幾度と無く一刀と触れ合った。

 

権力争いという、跳梁跋扈する“己が家の権力”にしか興味のない連中に囲まれた中、自身もまたそうだった。

群雄割拠の戦乱の時代でも、それは変わらず。客将であった孫策・雪蓮を散々こき使い、麗羽と共謀し反董卓連合を以って権力の中枢を手中にせんと企んだ。

自分達が例外とは思えなかった。しかし、餓虎のみが生き残る時代で、彼は“自分を捨て民を守ること”を実行し続け、遂には権力の頂点に立った。

 

だが、権力の頂点に立ってなお。彼は、北郷一刀は“自分を捨て民を守ること”を止めはしない。

自身の財を擲ち、唯々民が安んじるようにと。まるで身を削るように生きて、それでも笑顔を絶やさぬ男。

 

自分がかつてあれ程渇望した、“権力の中枢”とは何だったのか。

美羽は、この二ヶ月という短い時間。一刀と触れ合う内に、自身の中のナニかが崩れたのを感じていた。

 

そして。

 

彼と触れ合う度。その優しい瞳と物腰に、亡父を見たのも確かだった。だが……それだけだろうか?

見れば見るほどに、鼓動は速まるばかり。思考が白く塗り潰されていく。

一刀に寄り添うようにして身体を起こし、美羽は顔を一刀のそれに近づけて――

 

「ご主人様〜〜〜?」

「ち●こ皇帝が! 何処行ってるのよーーー!」

「え、詠ちゃぁ〜ん! 大声ではしたないよぅ……////」

 

(ひゃあ!? こ、この声は!?)

 

「んん〜? ふわぁあ……ゆえむご!?」

「(す、すまぬ、北郷! 静かにしてたもれ!)」

「(ど、どうした……って、ああ。そういうことか……)」

「(うぅ……)」

 

美羽は月と詠に対して大きな負い目があった。反董卓連合についてである。

従姉である麗羽が董卓こと月と、その側近である詠と和解したことは聞いていたが、美羽はまだ謝罪出来ていなかった。

ましてこの二ヶ月、後宮に訪れた際は、月と詠を避けるように行動しており、二人とは真名の交換も出来ていない有様であった。

 

(まだ、謝る勇気が出ない、か。“拒絶”されるかも、と思えば仕方ないのかもしれないな……。麗羽だって酒の力を借りて、やっと謝罪したんだし)

 

一刀としても懸念事項のひとつではあったが。美羽の成長を考えれば、性急にことを運ぶべきではないと考えていた。

「(美羽。まだ、勇気は出ないかい?)」

「(あ、あぅ……こ、怖い、のじゃ……)」

「(……そうか。なら……)」

 

一刀は美羽の髪をまた梳き始めた。

 

「(頑張れ。勇気が出るまで、月も、詠も。きっと待ってくれる)」

「(そ、そうじゃろうか……?)」

「(ああ。その代わり、誰も、七乃もお前を手伝いはしない。自分の力で頑張るんだ。いいね?)」

「(…………頑張って、みるのじゃ……)」

「(よし。じゃあ今日は隠れておこうか)」

 

一刀はまだ寝ている璃々を背負い、頷いた美羽と共に木陰へと隠れる。

 

「月ちゃーん、詠ちゃーん、ちょっといいかしら〜?」

「あ、は〜い、紫苑さん」

「ったく、何よ……」

 

すると、どこからか紫苑が月と詠を呼びつけ、月と詠はとてとてと走り去っていった。

暫く、そうして隠れていたが。

 

「ふぅ、もう大丈夫だろ」

 

一刀がそう判断し、表へ出てくると、紫苑がひょっこり現れた。

 

「んもう、もうちょっとだったのに。……惜しかったわね、美羽ちゃん?」

「!!? み、見ておったのか!?////」

「うふふふふ♪」

「な、内緒にしてたもれ〜〜〜!」

「はいはい♪」

「……何のこと?」

「なっ、何でもないのじゃ! 北郷には関係のない話なのじゃ!」

「そ、そうなの? ならいいけど……」

 

美羽の剣幕に、そう言わざるを得ない一刀であった。

 

「麗羽ちゃんと七乃ちゃんには、無理強いしちゃ駄目よ、と伝えておきましたので」

「用事ってそれ? わざわざ今行かなくても……まあいいか。ありがとう、紫苑」

「か、感謝するのじゃ、紫苑」

「はい♪」

 

そう言って、紫苑は楽しげに微笑んだのであった。

 

-7ページ-

≪数え役萬☆姉妹 ぎゃらくてぃか☆大公演会 ≫

 

 

九月下旬。洛陽、特にその市井で持ちきりの話題があった。

 

『数え役萬☆姉妹(しすたぁず) ぎゃらくてぃか☆大公演会 開催!』

 

元々、旧魏領である中原において、庶民の男衆に絶大な人気を誇った張三姉妹。大和帝国建国前後で、その名を『数え役萬☆姉妹』と改名し、更なる活動を行っていた彼女らが、空前規模の大公演を開催することとなったのだ。

場所は、洛陽郊外。規模が大きすぎて、劇場などが使えない為、『洛陽拡張計画』で更地となった場所を利用し、大々的に公演を行うという。しかも、姉妹が歌う舞台の近くは有料であるが、ある程度離れた位置からは無料でその歌声が聴けると噂され、現在の洛陽はまるでお祭り騒ぎのような喧騒である。

 

当然、そのような場所が開放されるからには、裏で手筈を整えた者がいたのだ。

 

「……な。これならどうだ。整地のついででさ。洛陽警備隊の手隙の奴とか、工作部隊の十番隊を使う許可は貰ってるし、丁度いいだろ?」

 

その首謀者とは当然。洛陽の主、『和』王朝の皇帝・北郷一刀である。

現在交渉中なのは『洛陽拡張計画』の責任者である、土木工事を司る三公・司空の桂花。

 

「……確かに、こっちの予算はちょっとだけ助かるわね。はぁ、いいでしょ。認めるわ。ったく、女絡みになると、途端に小賢しくなるんだから! 汚らしい!」

「そ、そんな言い方するなよ〜。これは『医者増員計画』の一部でもあるんだから」

(女好きに子煩悩まで足された力か……。全く、偶に侮れないから、余計にムカツクのよ!)

「なに?」

「何でもないわよ! はい、判は押したわ! さっさとどっかへ行け!」

「はぁ〜い……相変わらずキッツイなぁ、もう」

 

という訳で、一刀は伝手(つて)……というよりはその強力な配下の人材を使い、張三姉妹の舞台を整えたのだった。

 

 

「お邪魔しまーす」

 

一刀が訪れたのは、洛陽で張三姉妹が滞在する為の宿舎だった。これも一刀が三人に用意したものだ。と言っても、そう立派なものではない。飽く迄、彼女達が洛陽にいる間の仮宿である。

 

「あ、か〜〜〜ずとっ♪」

「うわっ!?」

 

入って来たのが一刀と分かるや、早速天和が飛びついてきた。

 

(あ、相変わらずデカイッ!)

 

「えへへ〜、気持ちいい?」

「ちょっ、わざとか!? 待って、お願い! 今日は……」

 

「「「(じぃぃぃぃぃぃ)」」」

 

天和に抱きつかれ、その大きな胸の感触に微妙に鼻の下を伸ばした一刀を、じっとりと睨め付けるのは。

 

「「「…………不潔です」」」

 

本日の護衛役である、流琉と明命、そして亞莎だった。

よりにもよって、三人が三人とも、胸が控えめな娘である。

 

「あ、あははは……。さ、さて。色々詳細を決めたいから、人和を呼んでくれる?」

 

やんわりと天和を引き剥がす一刀。天和は不機嫌気味だが、後ろの三人に睨み続けられるよりは随分マシだ。

なお、流琉と明命は護衛。亞莎は護衛としてだけでなく、尚書省代表の調整役としても来ている。

 

「やっほー☆ いらっしゃい、一刀♪」

「やあ、地和……って、何故にあなたまで……その、腕を?」

「何よ。大陸一の偶像(アイドル)、地和ちゃんが腕を組んであげてるのに、文句があるっての?#」

「いやいやいや。文句はないんだけど、その〜……」

 

「「「(じぃぃぃぃぃぃ)」」」

 

「あら、今日は多いわね。まあ皇帝が護衛無しで出歩く訳にもいかないわよね」

「そ、そういうことなんだ。で、腕をね?」

「しーらない♪ あたしがしたいからやってんの。文句は言わせないわよ、丁稚!」

「丁稚かよ!? 世話役だろ!?」

「大差ないじゃない。大体、奴隷より随分格上げしてあげたのに。文句が多いわね!」

「そら文句も出るわ!」

「……地和ちゃん、兄様と随分気安いんだね……」

 

護衛役三人の中で、唯一地和と知己である流琉が、静かなプレッシャーと共に牽制した。

 

「(ひえっ、流石は『悪来』典韋……小さくても迫力あるわ……) ま、まあね。これくらいいいでしょ?」

「「「(じぃぃぃぃぃぃ)」」」

「話が先に進まないから、な? 人和は奥かい?」

 

続いて地和もやんわりと引き剥がした。やはり不機嫌さを隠しもしない地和だが、以下同文。

 

「あ……いらっしゃいませ、一刀さん……////」

「う、うん……」

 

扉を開け、ようやく奥から人和が出てきてくれたのだが。

人和は、一刀の顔を見るなり、微かに赤面し。少々俯き気味で、静々と迎えた。

 

「「「(じぃぃぃぃぃぃ)」」」

 

これはこれで、なんだか苛立つ護衛の三人。

 

(どないせーっちゅうねん……)

 

と内心呟く一刀だが、完全に自業自得である。

 

 

 

「……と、こんな感じで。細かい演出とかはそっちに任せるからね?」

「「「…………」」」

 

一刀の説明に、張三姉妹は揃って黙り込んだ。というか、驚愕で言葉が無いようだ。

 

「ど、どうしたの?」

「い、いえ。余りの規模に、ちょっと……いえ、凄く驚いたというか」

「う、うん。これ、どれだけ人が集まるんだろ?」

「あははっ、なんだか、今から武者震いが止まらないわ……!」

 

洛陽の西、現在拡張工事の下準備が行われている土地を大々的に開放しての、野外ライブである。

彼女達の人気、そして一刀が近隣に回した噂により、十数万……無料鑑賞地区を含めれば数十万人規模のライブとなるだろう。

これだけの“客”を前に歌うのは、恐らく黄巾党の全盛期、そして曹操・華琳配下として兵士の鼓舞に歌った際以来となる。

 

「……俺も色々な手で、君達が洛陽郊外で公演を催すこと、特に舞台から離れた場所は無料だという噂を流してる。相当な数の民が集まる筈だ。これでこそ、『医者増員計画』の大きな一歩となるんだ。あとは……君ら『数え役萬☆姉妹』の“チカラ”次第だ」

 

敢えて一刀は挑戦的にそう言った。しかし、その相貌には信頼の笑顔が満面に広がっている。

 

「――まっかせときなさい! ちぃが大陸一の偶像(アイドル)と呼ばれる為の踏み台にしてやるわ!」

「えへへ〜♪ 頑張るからね、一刀!」

「……必ず、一刀さんの期待に応えてみせます……!」

 

張三姉妹……天和、地和、人和からは、まるでオーラが発せられるかのようだった。それだけの迫力を醸し出していたのだ。

 

「だ・か・ら〜。一刀も、私達との『約束』、ちゃんと守ってね?」

「勿論。という訳で、早速現地の様子見と行かないか? 護衛の人数を増やしたのはその為でもあるんだ」

「……根回しいいですね……。一刀さんって本当に為政者として有能だったんですね……」

「人和さん、それは酷くない!?」

「……だって。蜀って、頂点二人はお飾りで、配下が優秀って噂でしたから。お気を悪くされたらごめんなさい」

「噂っすか……傷つくなー……今晩は桃香と二人で呑もうかなぁ……(泣)」

「「あははははは♪」」

 

申し訳なさげな人和と、落ち込む一刀を見て笑う天和と地和。

こっそりその後ろでは護衛役の流琉、明命、亞莎も口元を押さえて笑いを堪えていた。

 

-8ページ-

さて、その後報酬などについて亞莎と話し合ったのち。

一刀と、合わせて六人の女子は洛陽の西の郊外へと向かっていた。一応の名目は現地の視察である。

 

「さて、視察と言っても結構時間掛かるだろうし。何か食べるものとか買って行こう。希望のある人〜」

「はいはーい! 私、シュウマイがいい〜♪」

「天和はシュウマイ好きだなぁ」

「うん♪」

「冷めても美味いって評判の店があるんだ。そっち寄って行こう。他は〜?」

「兄様、それなら『お弁当屋』にも寄りましょう」

「ああ、それはいいな。今日中に食べるなら、そんな高くないだろう」

「『お弁当屋』ってなんなの? 最近洛陽に出来た店?」

 

地和の質問に流琉が答える。

 

「あ、はい。兄様の『天の知識』から生まれた店なんですけど。ほら、これからは工事とかで一々食事に戻って来られない人とか多いじゃないですか。だから、街で保存性のある携帯食料を売っているんです。これを『弁当』って言うそうで」

「……本当に、天から降りて来られたんですね……」

「んー? 通りのいい『天』って名前を借りてるだけで、実際は“別の世界”ってだけさ。ま、知識が役立つなら、どんな世界だっていいけどね。俺のいるべき世界は――此処だけさ」

 

(兄様は、もう何処にも行かない。ならば、誰にも害させない。それこそ、親衛隊たる私の役目です!)

(そうですよね。この世界こそ、一刀様の世界。もう、あんな恐怖は感じたくないです……。だから、一刀様がこの世界にいたいって思い続けられるよう、私も精一杯役に立ってみせます!)

(……たとえ天界に帰る手段が分かっても、もう一刀様は“天”にお帰りにはならない。そう仰って下さったって、華琳様からも聞きました。だから……私達は、貴方様を守り、その“理想”を実現するお手伝いをするのみです)

 

人和の言葉に、一刀が何気なく返したその言葉に、護衛役の三人は笑みを深め、内心で決意を新たにしていた。

 

 

「ところでさ……」

 

シュウマイやら弁当やら茶やらを買い付け、郊外へ向かう一行。会話が途切れることのない、賑やかな道中であったが、その途中、地和が急に話題を振った。

 

「流琉も……そっちの二人も。一刀の“正室”なのよね?」

「えっ!? あ、うん。そう、だよ?////」

 

赤面しつつ答える流琉。地和は、護衛の三人をじっと見る。

 

「「「??////」」」

 

どうにも据わりが悪いというか、地和の視線の意味するところが分からず落ち着かない三人。

 

(……呂蒙は、まあちぃと殆ど変わらないわね。流琉はどう見ても小さいし。周泰は……ちぃより、ちょっと大きいわね……)

 

「そう言えば、季衣も正室になったのよね?」

「うん、そうだけど……。ど、どうかしたの、地和ちゃん?////」

「……一刀」

「……聞きたくない気もするけど……なんだ、地和」

「あんたって……幼女趣味があったりしないわよね?」

「……やっぱそんな話か……。断じてない!」

「地和ちゃん……それって、私と季衣が、幼女っぽいってことなの?#」

「(はっ、し、しまった!) ち、違うのよ!? ただ、その。一刀ってどのくらいの胸が好みなのかなーって!」

(まあ、二人が背も胸も小さいのは確かだなぁ……)

「兄様。今、何を考えました?」

「何も!? (しゃ、シャオ並みの“勘”を流琉が身に付け始めてる気がする……)」

『で?』

 

一斉に女性陣からそう尋ねられた……もとい、詰問された一刀。

 

「あー……正直に言うけど。胸の大きさに拘りはないよ?」

「その割に、天和姉さんに抱きつかれてるときって、鼻の下伸びてますよね?#」

 

人和のツッコミが鋭く突き刺さる。

 

「いやいやいや!? あれは胸がどうこうではなく! 可愛い女の子に抱き付かれて、ちょっとドキドキしてるというかですね……」

「うふふっ、そうなの?」

 

天和が一刀と腕を組む。

ふにょん。そんな擬音が聞こえた気がした一刀。

 

「だ、だからね? あのね?」

『(じぃぃぃぃぃぃぃぃ……)』

 

「だ、だからぁ。天和だけじゃなく、地和や人和だったとしても、やっぱりドキドキはしちゃう訳ですよ!?」

「一刀、気持ちよくない?」

 

ふにふに。また一刀の脳内に擬音が響き渡る。

 

「もう許して! みんなの目が怖いんだよ! シュウマイ買ってあげたでしょ!?」

「ちぇー、はぁ〜い」

 

ようやく天和が腕を離した。

 

(……張角さんは“敵”です!#)

 

「明命さぁ〜ん……ちょっと落ち着いて。ね?」

「私は至極冷静です!」

「そんな思春みたいなこと言わないで……」

 

巨乳を“敵”と言って憚らない明命から殺気が出始めたことに気付いた一刀が、慌てて仲裁を試みるも。

既に明命は頑なになりつつあり、一刀はせっせと説得を続ける。

 

(一刀ったら、かっわいい〜♪)

(まあいいか。少なくとも、一刀が胸の大きさで女の子を選んでる訳じゃないことだけは分かったし……)

(流石、洛陽どころか大陸に名を馳せる『和の種馬』。節操ないですね……#)

 

張三姉妹も其々思惑はあるようで。

 

(……私なんて、明命より小さいのに……おまけに目付きだって……はぁ……)

(兄様の馬鹿!)

(ふーんだ! 巨乳は敵です! どうせ一刀様だって、大きい方が良いに……決まってます!)

 

亞莎、流琉、明命にもやはり胸の大きさというものは大きなコンプレックスであるらしい。

 

「お願いだから機嫌直してぇ〜〜(泣)」

 

-9ページ-

とうとう『数え役萬☆姉妹(しすたぁず) ぎゃらくてぃか☆大公演会』の公演日がやって来た。

昨晩は遅くまで準備を手伝った一刀だが、皇帝としての政務もあり、今日は公演開始ぎりぎりに直接控え室を訪ねて激励する積もりであり、その日手隙の娘らを誘って、会場を目指していた。

付いて来たのは、季衣、流琉、蓮華、思春、亞莎、明命の六人。

残念ながら旧蜀勢は皆執務で忙しく、旧魏勢の年長ら(華琳や春蘭、秋蘭、桂花ら)は皆何故か拒否した。雪蓮は冥琳に捕まって執務室に缶詰中。

また、会場の観客の整理や警備で、洛陽防衛軍や警備隊も動いている為、何人かの将軍や組長らはそちらに回っている。

 

「久々に三人の歌が聴けるね、流琉!」

「そうだね。言われてみると、すっごい久し振りだなぁ……」

 

地和と仲が良いという季衣・流琉の二人は随分このライブを楽しみにしているようだった。

 

「三国鼎立時代に曹魏があれ程の兵数を誇った一因と言う、その歌唱。どれほどのものなのかしら……」

「前回の『五胡大戦』では、遠くから聞こえていた程度ですが……兵の熱狂振りは凄まじいものでした」

「黄巾党の原動力になったとも聞いていますから、さぞかし凄いのだと思います。この間、交渉でお三方と会いましたが……会場の規模を聞いたときの迫力は、武将の闘気に匹敵する“チカラ”を感じました」

「私も、亞莎の意見に賛成です! 練習で聞いた歌も凄かったです!」

「そう……亞莎も明命も間近でそう感じたのなら、信憑性はあるわね。何より……一刀が『医者増員計画』の要点のひとつとして起用するほどですものね」

「蓮華様。お言葉を返すようですが、それはこの男が女に甘いだけではないかと」

「…………。……言い訳はある、一刀……?#」

「……迫力出さないで、蓮華……。ま、三人の実力は今日実際に感じれば分かるさ」

「……自信満々ね。それだけ信頼しているということかしら」

「まあね。少なくとも……人を惹き付ける“チカラ”は、相当なものだと思う」

「(信頼してるのね。それはそれで、なんだか……モヤモヤするわ……#)」

「(この馬鹿男が……蓮華様の目の前で、他の女を褒める奴があるか!#)」

 

蓮華と思春から発せられる迫力で、背筋に薄ら寒いものを感じつつ。

 

「じゃあ、一旦俺は控え室に寄って来るから。先に会場に向かってくれ。すぐに俺も行くから」

 

と、控え室に向かおうとしたのだが。

 

「……一刀。私達も一緒に行くわ。構わないわよね?」

「へ? そりゃ構わないけど……。蓮華と思春は面識ないんじゃ?」

「構わないわよねッ!?」

「は、はい! 構いません! ……って、今言ったじゃん……何で俺、怒られてんの?」

「……それが分からんから、お前は馬鹿だと言うのだ!#」

 

思春のその一言に、その場の正室全員が頷いたのだった。

 

 

 

会場には既に数十万という人数が集まっていた。

当然、この集団を整理する為に、洛陽防衛軍や警備隊は大わらわである。

そんな中、一刀らは張三姉妹の控え室を訪れていた。

 

「やあ。……凄い人だね」

「あ、一刀! うん、もうすっごいよ!」

 

天和が興奮を隠せず、いつも以上のテンションで答えた。

 

「これがちぃたちの実力を示す、最っ高の結果よね♪ 勿論、一刀の力添えあってこそだけどさ♪」

 

地和も同様のようだ。

 

「……やっと。やっとここまで来たのね……」

 

人和は感慨深げにそう言った。その言葉に姉二人も頷き、三人は抱き合う。

 

「全ては、今日のこの舞台の先に」

「ちぃたちの望みを叶える為に!」

「集まってくれた全ての人の心に」

「「「歌を響かせる!」」」

 

三人のテンションは正に最高潮だった。漲る気合は、そのままオーラの如き迫力を見せる。

 

(成る程……亞莎や明命の言う通りね。武でも智でもない。でも確かに“チカラ”を感じるわ……)

 

「どうやら、心配は要らないみたいだな」

「もっちろん♪ ……あれ、今日は知らない人もいるー?」

「ああ、紹介するよ。今日、純粋に“観客”として来たのは、この六人なんだ」

「三人とも頑張ってね! ボクも一杯声出してくからねー!」

「私も。頑張って!」

「私は初めてなので……楽しみにしてます」

「頑張って下さい!」

 

既に面識のある季衣、流琉、亞莎、明命がまず声を掛けた。

 

「初めまして、孫仲謀よ。これだけの人間を熱狂させるあなたたちの歌、楽しみにしているわ」

「……護衛の甘興覇だ」

「もう、思春ったらそんな無愛想に……。ところで、ひとつ聞きたいのだけど」

「なぁに〜?」

「今言っていた、あなたたちの“望み”ってなんなのかしら?」

「え〜? ふふふっ、そ・れ・は・ね〜♪」

「あ、ちょ……」

 

「――――――」

 

『ええーーーーっ!?』

 

叫んだのは季衣、流琉、亞莎、明命の四人。思春は怒りも露わに一刀を睨みつけ。蓮華はじっとりと一刀を見つつも溜息を吐いた。

 

「……やっぱり。そうだと思ったわ……」

「蓮華様はご存知……というか、お気付きだったのですか?」

「華琳がね。張三姉妹へ“訓告”した上で“道”を示した、と言っていたから。そうじゃないかとは思っていたの」

「ま、まあそういう訳です、はい」

 

蓮華の視線が微妙に痛くて、丁寧語になってしまう一刀である。

 

「こんな言い方は上から目線で、ちょっと気が引けるけど。張角、張宝、張梁」

「「「??」」」

「――頑張って。桃香……かの『大徳』劉備のように。全く後ろ盾のない状態から、“望み”を叶える為に努力し、此処まで来たあなた達を、心から尊敬するわ。だから――私の真名を預けます。蓮華よ」

「「「蓮華様!?」」」

 

突然の蓮華の一言に驚愕したのは、旧呉勢の配下三人。

 

「い、いいの? ちぃたち、まだ只の旅芸人なのよ?」

「理由は今言った通りよ。良かったら、あなた達の真名を教えてくれると嬉しいわ」

 

そう言って蓮華は鮮やかな花のように笑う。

 

「えへへ〜、そう言ってくれると嬉しいな♪ わたしは天和だよ♪」

「大陸一の偶像(アイドル)、地和よ!」

「過分なる幸甚です、蓮華様。人和です」

 

「ありがとう。客席から、あなた達の“チカラ”を見せて貰います。しっかりね。……一刀、先に行くわ」

「ああ」

 

そう言って、蓮華は控え室を退去していった。

 

「……私は思春だ。蓮華様の期待を裏切るなよ。ふんっ!」

「ごふっ!? 何で俺を殴るの!?」

「はぅあ〜、驚いたのです……。では、私も。お三方の歌は練習で聴いていても凄かったです。頑張って下さい。私の真名は、明命です!」

「……私は亞莎です。お三方の成功を、祈っています(一礼)」

 

次々に旧呉勢の将たちも真名を預け、季衣と流琉と共に退室していった。

 

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「はぁ、吃驚した……」

「いい人だね、蓮華ちゃん♪」

「ちょっ、天和姉さん! いくら真名を預かったからって“ちゃん付け”はマズイって! 相手は元呉王よ!?」

「ははっ! 後で聞いてみるよ。“蓮華ちゃん”って呼んでいいかさ。まぁ思春に睨まれるのは確実だから、それだけは覚悟してな」

「……斬られたりしない?」

「……多分」

「多分〜〜!?」

「あはははは♪」

「もう、姉さんったら……(嘆息)」

 

「さて、会場はどんなもんかね……」

 

一刀がそっと控え室の扉を開き、会場を覗き見る。

 

『天和ちゃーーーん!』 『地和ちゃーーーん!』 『人和ちゃーーーん!』

 

途端に控え室内まで轟く歓声。そのままでは会話も覚束ないほどだった。思わず一刀は扉を閉める。

 

「ひゃ〜、こりゃ凄え……」

 

その迫力に押され、一刀はそう零したが。

張三姉妹はその歓声に、また興奮が戻ってきたようだった。

 

「こんなにたくさんの人に見て貰えるなんて、わたし幸せ! 幸せ過ぎて震えが止まらないよ!」

「ちぃも、今の声援を聞いて、実は鳥肌が立っちゃった。まだ始まってないのに、あの熱狂っぷりったら! ふふっ、ちぃたちの歌声で、みんなを熱狂させちゃうわよ〜♪」

「私も頑張る!」

 

気合を入れ直した三人に一刀が声を掛ける。

 

「準備は万端か?」

「私も確認したから大丈夫」

「そっか。なら安心だな。――よぉし、頼むぜ!」

「うん! それじゃあ行ってくるね!」

「ちぃが大陸一の偶像(アイドル)になる瞬間を、ばっちり見せ付けてやるんだから♪」

「一刀さん。私達は、必ず使命を果たして見せますから」

 

其々が一刀へ一言掛けて、会場へと飛び出していった。

 

 

……

 

…………

 

 

「みんな大好きーー!」

『てんほーちゃーーーーん!』

「みんなの妹ぉーっ?」

『ちーほーちゃーーーーん!』

「とっても可愛い」

『れんほーちゃーーーーん!』

 

「うぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!!」

「ほわぁぁぁほっ、ほっ、ほっわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

一刀が客席でも貴人用の特等席に着く頃には、既に会場は大熱狂だった。

 

「――ふぅ、分かっててもすげー迫力だぜ……」

「ええ。物凄い力。ちょっと怖いくらい……」

「(これを以って、制御し、軍を成したとは。曹孟徳、やはり稀代の天才か……)」

「もー、ほら声出さなきゃ! ほわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ほっわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

既に季衣と流琉はノリノリ。

 

「ほっわぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ほ、ほ、ほわぁぁぁ!?」

 

結構順応している明命と、ビビリ気味の亞莎。

 

「おっし、俺もやるかね! ほわぁぁぁ、ほっわぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「か、一刀まで!?」

「ほらほら、蓮華も思春も、やってやって。やり始めちゃえば、恥ずかしいとかどっか行っちゃうから」

「うぅ……ほ、ほわぁぁぁ……////」

「……まあ、鬨の声だと思えば……理解出来なくも……ほ、ほわぁぁぁぁぁ!」

 

 

……

 

…………

 

 

舞台は大成功だった。

元々のファンは金を払い、舞台に近い席を求めた。そうでない者、興味はある程度の者も、少し離れた場所でなら無料でその歌唱を聴くことが出来た。

そうして、確実に『神医、美周郎を救う』の美談は庶人へ浸透していく。それこそがこの舞台の真の目的。『医者増員計画』の第一の要点であった。

また、流民として不安や不満の溜まっている民への無料の娯楽提供という面も狙いのひとつであり、それに関しても完全に目的を果たしたと言えるだろう。

 

舞台が終わった直後、一刀は労いの為、控え室を再度訪れた。

その他の面々は気を利かせてか、先に城へと帰っていった。

 

「お疲れ様、三人とも」

「うん! 流石に疲れちゃった。でも、いい舞台になったでしょ!」

「そうね。お客さんも凄く熱狂してくれていたし。舞台上から見る限り、無料の周辺にも相当な数の人がいたわ。全部合わせたら百万に届くかもね」

「百万! いいわぁ〜、それだけの男達をちぃの歌声で魅了出来たのね♪ 一刀も、魅了されちゃった?」

「ははっ! そうだな、凄かったよ。君らが大陸一を名乗っても全く問題ないくらいにね♪」

「「「本当(ですか)!?」」」

「のわ!?」

 

一刀の言葉に、三人が一斉に詰め寄った。

思わず仰け反った一刀だったが、姿勢を改め。

 

「――ああ。確かに俺はそう感じたよ」

 

ゆっくりと、そう言った。

 

「よぉーし! この調子でいけば、大陸一の偶像(アイドル)は、もう目前よ!」

「うん! そうすれば、やっと――」

「……これは大きな一歩。私達の“望み”への……」

 

「――『約束』の結論を出せるのが、いつになるのか。正確に分からないのが、俺ももどかしいけど。……これからも、宜しく。天和、地和、人和」

 

「うん♪」

「まっかせなさい♪」

「はい!」

 

一刀の言葉に、『数え役萬☆姉妹』こと張三姉妹は笑顔で答えたのだった。

 

 

 

(後編に続く)

説明
第20話、中編です。
蒲公英のシーンは本気で規定スレスレな気が−−;
ちょっと朱里が壊れ気味。しかし公式設定を基本的に変えない以上、“同志”はこれ以上は増えないのだよ……ごめんなw
仮面に隠した正義の心、悪党たちをぶっとばせ! 蜀END分岐アフター、勝利のポーズだ ハイ! 華蝶〜!?
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コメント
「乱入」に複数人の意味なんてないよ。イベントを乱す形で異分子が入ってくる場合一人でも乱入と言う(ramunes)
親子の会話に、突如乱入してきたのは→「乱入」は「大勢がどっと押し入る」、一人では使えない(XOP)
XOP 様>跳梁跋扈は「善意からでない行動をする者(悪人)が、好き勝手にする状況」という意味で使用したかったのですが、用法が間違っていたようです。本文を修正しました/美羽と七乃も孫家配下として大概の者と真名を交換済みである旨の文章を追加しました。/その他、誤字等修正しております。ご指摘ありがとうございました!(四方多撲)
権力争いという跳梁跋扈→『跳梁跋扈』は『好き勝手に振舞う』意味だから意味が合わない。『百鬼夜行』などがよいのでは?:感謝するのじゃ、紫苑→真名を許されていたっけ?:空前規模の大公演が開催することと→大公演『を』:張三姉妹が滞在する用の宿舎→滞在する『為』の(XOP)
XOP 様>あー、そういや石鹸の歴史調べてなかったな〜…一刀くん、ゴメン。高価いらしいよww(四方多撲)
それにしても明命もむごいことをする。この時代の石鹸は貴重品なので一刀は全員の落書きを落とすためにかなりの散財を強いられたはず・・・合掌。(XOP)
ブックマン 様>確かにww まああのシーンで「どっちも大好きだッ!」とか叫んだら、さすがに引かれちゃいそうですww(四方多撲)
XOP 様>はい、その通りです。とは言え、蜀ルートで一回だけ(しかも3バカ+残念拠点)で一回だけという呼び方なので、忘れてしまった方も多いと思われます。ということで本文中に注釈をつけました。(四方多撲)
一刀はおっぱいでもちっぱいでも気にしないと思います。むしろどっちも大好物でしょうw(ブックマン)
お花を責めるのは筋違い→「お花」は原作中にある表現でしょうか?また、蒲公英のことで宜しいでしょうか? (XOP)
XOP 様>「アオザイ」は一刀の『天の知識』による再現です。「確信犯」は元々誤用だったものが市民権を得ている、とのことで使用しましたが、誤用と分かっていて使用するのはSSとしてどうかと思うので修正しました。「引きつける」は「惹」の字が使えない用法の「ひ-き込む」と勘違いしました- -; ご指摘ありがとうございます!(四方多撲)
確か、『アオザイ』とか→アオザイは18世紀に清朝から移入されたチャイナドレスが起源、この時代にはない。また、アオザイはベトナム、チャイナドレスは満州の民族衣装。蛮族の服で漢族が着るのはおかしい。(まあ、恋姫のキャラクターがチャイナドレスを着ているグラフィックを雑誌で見たので、その辺は頓着しない設定なのかもしれませんが)(XOP)
兵の志気にも関わる→士気(「志気」は「個人の意気込み」):ご主人様にお話したか?→お話しした(ここは動詞なので送り仮名が必要):鼓動は早まるばかり→速まる:ちょっ、確信犯→誤用です。本来は『信念に基づき、本人が悪いことでないと確信してなされる犯罪』:人を引きつける→惹きつける?:振るえが止まらないよ→震えが(XOP)
jackry 様>戦争では出番がなかったので、ちょっと格好良いシーンを入れてみました。原作の“怪物”の件、とても好きなんです^^ それはそれとして夜の勉強も欠かさないのが、彼女達の日常ww(四方多撲)
シュレディンガーの猫 様>まあギャルゲー主人公の宿命と申しましょうかw(四方多撲)
jbjb 様>ありがとうございます!過分なるお褒めの言葉です!(四方多撲)
自由人 様>もろパクリですが、片方は私の発信なのでお目こぼし下さい^^; なお、「機関」は機械としては時代的にないので、「からくり」と振り仮名しましたが。本当にそう読めるのです。 時代に左右されない男、北郷一刀ww(四方多撲)
moki68k 様>あざっす!恋愛事情ではなく、恋愛情事。正に彼女を現していると思うのですww まー、明命さんの巨乳嫌いも根が深そうですからねぇww(四方多撲)
kanade 様>ありがとうございます! 「気軽に楽しんで貰えた」のならば、これに勝る喜びはありません!(四方多撲)
MAS2 様>布教に余念のない朱里でしたw 結果は序文の通りですがww(四方多撲)
libra 様>妄想駄々漏れっすねw(四方多撲)
バッキー 様>全員本気の彼は、誰にも全力で! 精力もですが、その包容力こそが彼を種馬たらしめるのではと愚考するのですww(四方多撲)
相変わらず、鈍感な男だな一刀よ(シュレディンガーの猫)
面白すぎて時間を忘れてしまいます!(jbjb)
座右の銘と二つ名が羅列されてる…w朱里と雛里がまたも大活躍ww(自由人)
恋愛情事の達人にフイタ。あと天和が明命に「落書き」される日も近そうですねw(moki68k)
さ、次行こう。ああ、読んでて楽しい!(kanade)
朱里と雛里、自重しろPart2www(MAS2)
ふぅ…相変わらず色々な需要を心得ているようで(libra)
今回も波乱につぐ波乱!これを切り抜けられるから一刀は種馬たり得ると思ってたり。(バッキー)
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