G×S!夕陽が紡ぐ世界 〜七話目〜
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曇り空の下、一人の少女は其処にいた。

 

『・・・・・』

 

【ねえ、どうして泣いてるの?】

【わかった、俺が助けてあげる。だから泣かないでいいよ】

【うん、俺木登り得意なんだ】

【さあ、おいで。一緒に降りよう】

【よし、じゃあ降りるよ】

【だいじょうぶだy…あっ】

【いててて……】

【うん、これくらいヘッチャラだよ!】

【いいな……】

【俺、母ちゃんも父ちゃんもいないんだ…】

【えっ?】

【いいの?】

【俺の名前は忠夫。浜菊忠夫】

【じゃあ、楓】

 

 

 

アイツはお母さんを殺した。

(違う!タダくんはそんな事しない)

 

アイツのせいでお母さんはいなくなった。

(違う!タダくんのせいじゃない)

 

だからこれは天罰だ。

(違う!タダくんは罰を受けるような人じゃない)

 

神様がもう会えない所に連れて行ってくれたんだ。

(嫌!そんなの嫌だ!タダくんに会いたいよ…)

 

サヨナラ、タダオ……

(嫌ーーっ!さよならなんて嫌だーー!タダくん!タダくーーん!)

 

 

魔力爆弾の暴発事故により横島が消えた空き地、それは皮肉にも横島と楓が初めて会った場所でもあった。

 

少女は一人でその場所を見つめていた。虚ろな目をして。だが心の中では涙を流しながら……

 

少女は一人であり、二人でもあった。

 

嘘を信じた楓と、嘘を信じなかった楓。

 

彼女もまた、人知れず苦しんでいた。

 

 

 

 

 

 第七話「二人の天使が舞い降りる」

 

 

 

ある日、横島のクラスメイトの麻弓=タイムは自分の席に座りながら手を組んで必死に祈っていた。

 

「神様、魔王様、どうか、どうかこの最後の一教科、赤点回避をお願いするのですよ」

 

どうやら麻弓はあと一教科の赤点で夏休みの補習が決定するらしい。

 

「麻弓、気持ちはわかるがあの二人に拝む時点で可能性は無いと思うぞ」

「す、すみません。頼りにならない父で…」

「いや、ネリネが謝る必要はないぞ」

 

あれから横島はネリネの事を呼び捨てにするようになった。というのも、ちゃん付けすると他人行儀だと泣かれそうになるのである。

 

「ありがとうございます。やっぱり忠夫さまはお優しいです」

「何処がよ!優しいのなら私と苦楽を共にしてくれる筈じゃない。タマモちゃんの話だと横島くんはしょっちゅう補習を受けてたそうじゃない、なのに何で赤点が一つもないのよ!」

「俺が補習ばっかりだったのはバイトが忙しくてあまり学校に行けなかったからで別に勉強が苦手だという訳じゃないんだ。だから、ちゃんと勉強すればそれなりの点数は取れるぞ」

「裏切り者ーー!!シアちゃん、シアちゃんだけが私の友達よ!」

「あ、あははー。ごめんね麻弓ちゃん、私さっきので赤点クリアしちゃったっス」

「そ、そんな…シアちゃんまで。女の友情は何処にいっちゃったのですよーー!こうなったら…」

 

麻弓は窓から身を乗り出し力の限り叫んだ。

 

「あんなバッタ者じゃない本物の神様と魔王様ーー!どうか、この哀れな私に奇跡をーー!!」

「麻弓…」

「何よ!」

 

横島は明後日の方向を見ながら呟いた。

 

「…可哀想だが本物の二柱はあの二人なんか比べ物にならない位にはっちゃけてるぞ」

「そ、そうなんスか?」

「わ、私は…私は奇跡を望む事すら出来ないのですかーー!」

「大丈夫だよ、麻弓!」

「緑葉くん…」

「俺様達は麻弓の分まで夏を謳歌して来るからね」

 

 

 

 

 

 

それから暫くの間、教室には樹の悲鳴が響き渡るが皆は知らんぷりをしていた。

 

 

 

 

 

 

             ☆

 

 

「うう〜、私の夏が〜〜」

「だ、大丈夫だよ麻弓ちゃん、夏休み全部が潰れる訳じゃないんだから。遊べる時に皆で遊ぼう」

「そうだよ、海に行こうよ海に!」

「楓〜、桜〜、ありがとうなのですよ〜〜」

 

結局麻弓の赤点は回避する事は出来なかったらしい。

 

「う、ううう…こ、ここは?俺様はひい爺ちゃんと美少女談議をしてたはずだが」

 

ついさっきまで、痙攣をしていた樹だが何とか還って来たらしい。

 

「ようやく還ってきたか、後一時間待っても還ってこなかったら荼毘(だび)に付(ふ)す所だったぞ」

「…勿論本気で言ってるんだよね?」

「何当たり前のことを聞いてるんだ?」

(後少し復活が遅かったら危ない所だった。こうなれば殺られる前に殺らなければ)

 

 

 

「と、嘆くのはここまで。さあ!来週からは夏休み前の最終イベント、クラス対抗祭なのですよ!」

 

麻弓は教卓の上に立ち、右手を高らかに上げて叫び、クラスメイト達はそれに応えて叫ぶ。

 

『応ォォォォォーー』

 

「クラス対抗祭?」

「何なのですかそれは?」

 

シアとネリネがそう聞くと、桜と麻弓が答える。

 

「小さな文化祭みたいなもので、各クラスが模擬店を出して売り上げを競おうというものなの」

「そしてそして、優勝したクラスは夏の間プール掃除の免除という特典があるのですよ」

「なるほど、それはいいな。うちのクラスは何をやるんだ?」

「それはやはり無難なところで喫茶店がいいだろうね。幸いにこのクラスには綺麗どころが揃ってるからね」

「ウエイトレスの衣装もめどが立ってるから明日にでも発表するのですよ」

「そうか」

 

この時、テスト期間が終わり緊張感から解放された為か横島と稟の二人はクラスを覆う異様な雰囲気に気付かなかった。

 

 

 

 

 

 

翌日、

 

「さあ、これが女子用のウエイトレスの衣装なのですよ」

 

『キャーー、可愛い♪』

 

「そして男子はこのクジを引くように」

 

男子は次々とクジを引いて行くが実は彼らはクジは引いていない、最初から何も書いていない白紙の紙を隠し持っていてクジを引く振りをしているだけ。そう、これは麻弓と男子達による罠であったのだ。

 

「ではそれぞれ自分が引いたクジを確認するのですよ」

 

『ハズレだ』『俺もだ』『同じく』『右に同じ』『はっずれーー』

 

そして横島の番になり引こうとするが、その手は箱の穴に入る寸前に止まっている。

 

「いったい、何のクジなんだ。…どうした忠夫?」

「い、いやな…何かこのクジからとてつもない悪意が感じられるんだ」

「はいっ!そこの二人、残りは貴方達だけよ。早く確認しなさい!」

「わかったわかった」

 

横島と稟はクジを引くがそこに書かれている文字を見て固まった。

 

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

 

「どうしたの二人とも?」

 

桜がクジを覗きこむと其処に書かれていたのは…

 

「…メイド服?」

 

「はーーい、二人の衣装はメイド服に決定なのですよ!」

 

『うおおおおおおおおおおおーーー!』

 

その麻弓のセリフで我に返った横島と稟が周りを見渡すと男子生徒は皆ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべていた。

 

「は、謀ったな。謀ったなーー、麻弓ーー!!」

「ふっふっふっ、今更気づいても後の祭りなのですよ。そしてお祭りはこれからよ」

 

二人は逃げようとするが出入り口はすでに女子生徒に抑えられておりもはや逃げ場はなかった。

 

「お、落ち着け。大体むさい男の女装なんか誰が喜ぶっちゅーんじゃ!」

「そうだ、忠夫の言うとおりだ!」

「その心配なら無用だよ」

 

樹は満面の笑顔で二人の前に歩み出た。

 

「どういう事だ?」

「ふっふっふっふっ。こんな事もあろうかと子供の頃からの貯金をはたいて手に入れた物があるんだよ」

「な、何じゃそれは?」

 

樹はクックックッと笑いながら黄金色に怪しく光る小瓶を取り出した。

 

「これこそ性転換の魔法薬、その名も【蜂蜜物語】だ!!これなら女装じゃなくなるよ、安心したかい?」

『するかーーーーー!!』

 

そうこうしてるうちに二人は女生徒達に手足を拘束され、動きを封じられた。

 

「さあ、まずは土見くんから……」

「い、嫌だ…やめてくれ、やm…ムグ、ゴクゴク」

「さて、効き目はどうかな?」

「うう、体が熱い…ううう」

 

魔法薬の効果か、稟の髪は腰まで伸びて体も女性の物に変わっていった。

 

「ふわ〜、稟くん綺麗」

「稟くんならお嫁さんにほしいっス」

 

桜とシアはその姿に見惚れていた。

 

『うおおおおおおおおおおーーー!!』

 

稟の容姿、それはあえていうなら「美人」である。

 

「こ、これは…此処まで変わるとは……で、では次は」

 

そう言いながら麻弓は怪しい眼で忠夫を見つめる。

 

「や、やめろ…ネリネ、楓、た、たしゅけて…」

「ごめんなさい、タダくん。私女の子になったタダくん見てみたい」

「わ、私も…(もう一度見たいです)」

「話がついたところで…さあ、覚悟を決めるのですよ」

 

そして麻弓は忠夫の口の中に魔法薬を流し込む。

 

「む〜、ゴクゴク……うおお、か、体が熱い…」

 

横島の髪も膝裏まで伸び、体も女の物に変わっていく。

 

「タ、タダくん…か、可愛い」

「忠夫さま、やはり綺麗です」

 

二人は横島に見とれていたが麻弓は……

 

「…そ、そんな……何で、何でそんなに大きいのですか…」

 

その胸を見て打ちのめされていた。

 

横島の容姿、それはあえて言うなら「美少女」である。

 

『ほああああああああああああああーーー!!』

 

「ううううーーー」

 

今回はただの女性化なので、翼も無く眼も黒いままだった。

 

「と、とにかくこれでウチのクラスが1位になるのは間違いないわよ。頑張るのですよーー!!」

 

『おおおおおおおおおおおおおおおおーーー!!』

 

 

 

 

 

そして夜、芙蓉邸にて……

 

 

「こ、こりゃあおでれえた」

「稟ちゃんも忠夫ちゃんもとーーてもラヴ♪」

 

と、ユーストマとサイネリア。

 

「いやあ、美しいとはまさにこの事だね」

「ほんとに綺麗」

 

と、フォーベシイとセージ。

 

「元に戻れるんでしょうね?」

 

そんな稟の疑問にフォーベシィは答える。

 

「ああ、蜂蜜物語の効果は個人差はあるけどある程度の時間を過ぎれば切れるからね」

 

「仕方ない、付き合うか」

「仕方ねーな」

 

 

 

 

 

そして当日………

 

 

「いらっしゃいませーー」

「お二人様ですね、こちらへどうぞ」

 

メイド服に身を包み笑顔で接客をする横島と稟の姿があった。

 

「…ノリノリだわね」

「あはは……」

 

なんだかんだいって責任感の強い稟、何気に神魔人で女性の仕草には慣れている横島、なり切るのは早かった。

 

 

「お待ちのお客様が多い為、入店時間は10分限定とさせていただきます。なお、写真撮影は禁止となっております」

 

客の回転を早める為に樹は入口で案内をしていた。

 

「いや〜、大盛況だね」

「みなさん稟さんと忠夫さん目当てのようですね」

 

亜沙とカレハは接客をする横島と稟を見ながら笑っていた。

 

「はい、みなさんタダくん達ばかりを見ています」

「稟と忠夫、とても綺麗」

「私達の親衛隊も稟くん達に夢中っス」

「忠夫さまはあんなに綺麗なんですから無理もないです」

「以前聞いたんだけど仕事でユニコーンを魅了しかけた事があるんだって」

 

「マ、マジっスか!?ユニコーンは清らかな乙女にしか懐かないはずなんだけど」

「さすが忠夫さまです♪」

(その辺りは夢で見ていないな)

 

 

もっとも、外見はともかく中身は美神の催眠暗示で書きかえられてたのだが……

 

 

 

そんな稟と横島の傍に二人の男の子が近付いて来た。

 

「どうしたの?」

「ボク達二人だけ?お母さん達は?」

 

「お姉ちゃん達綺麗だね」

 

そう言うのは人族の男の子。

 

「あ、ありがとう」

「なんだか照れるね」

 

「せえの」

 

魔族の男の子は何やらニヤリと笑っていた。

 

そして二人の子供達は稟達の後ろに回り込むと…

 

『そおれっ!!』

 

 

稟と横島のスカートは思いっきり捲れ上がった。

 

 

『うおおおおおおおおおおおおおおおおーーーー!!』

 

「あ、あああ」

「あああああ」

 

 

ちなみに稟は青と白のストライプ、横島は緑と白のストライプ。

 

『やったあーーー!!しましまだぁーー!!』

 

 

『グッジョブ!!ΣdΣdΣdΣdΣdΣdΣd』

 

客の男性達は鼻血を噴き出しながらも親指を立ててサムズアップ。

しかしながら、さっきも説明したが稟と横島の二人は今、女性としてなりきっている。

そして、その顔を真っ赤に染めて叫んだ。

 

『きゃああああーーー!!』

 

「こら真聡!何をしてるの!」

「マ=サト!あなたまで!」

 

二人の母親は真っ赤な顔で駆けつけてきた。

 

『わあーーーい!』

 

「待ちなさい、こらーー!!」

「すみません、あの子達ったら」

 

「いえいえ、お気になさらずに」

「タ、タダくん、大丈夫?」

「稟くん…」

 

二人はというと……

 

「きゃああだと…男なのに…男がきゃああ…?」

「ワイはオカマやない、ワイはオカマやない、ワイは……」

 

 

教室の隅で膝を抱えて蹲り、黒いオーラに包まれて落ち込んでいた。

 

 

なんだかんだで、稟達のクラスが売り上げ一位だったのはせめてもの救いだったのだろう。

 

 

 

 

 

 

さらに翌日……

 

「いや〜〜、やっぱり男の体はいいなあ」

 

稟は何事もなく元の体に戻っていた。

 

「稟くん、嬉しいのはわかりますけどその…もう少し気を使って……」

 

横島はというと……

 

 

 

「私の制服がピッタリでよかったです」

「ぷっくくく……、に、似合ってるわよヨコシマ」

「う〜、でも女として屈辱っス」

 

シアは胸に手をやりながら呟いた。

 

「な、何で俺は元に戻れんのじゃ」

 

薬の効果は未だ切れずに、女の姿のままであった。

 

 

「よっぽど薬との相性が良かったんだろうね」

「まあ、効果が切れるのは確実だから気長に待つしかねえな」

 

「くうう〜〜、キーやんとサっちゃんのアホーーー!!」

 

 

横島の叫び声は虚しく夏の空に響くのであった。

 

 

 

 

その頃麻弓は……

 

「ほーほほほほほほ、稟くんと横島くん様様なのですよ♪」

 

隠し撮りしておいた写真で一財産を稼いでいたとさ。

 

 

続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

その頃、とある学園では……

 

「アッキー…ナニカナ、鞄カラ出テ来タコノ写真ハ?」

 

「ち、ちょっと待ってよ美波。その関節はそっちの方向には曲がらない様に出来てて……ぎゃああ〜〜〜っ!!」

 

「ウフフフフフ、マッタク明久クンハ困ッタヒトデスネェ。ウフフフフ」

 

「姫路さんも!!其処にはそもそも関節自体が無いから曲がる筈が、止めてぇ〜〜〜〜っ!!」

 

「…雄二、浮気には然るべき報いを」

 

「ま、待ってくれ翔子。これは出来心で、ぎゃああ〜〜〜!!割れる割れる割れる!!」

 

ちゃっかりと|稟と横島の写真(スカートが捲られた瞬間)を手に入れていたバカ共であった。

ちなみにどうやって手に入れたかというと……

 

「……俺に撮れない写真は無い」

 

 

 

まあ、そう言う事らしい。

 

 

 

 

 《次回予告》

 

…私は生れて来てはいけなかった…

 

そんな事は無い!そんな事は無いよ。

 

…私の存在なんて誰も望んでいない…

 

私は望んでるよ、私が望んでいる!!

 

…私は…魔族だから…

 

そんなの関係無い!!

 

…私、私は…

 

私達、私達は。

 

次回・第八話「たった一つのモノ。君の名は…」

 

シア、俺はお前を…お前達を……

 

 

 

 

説明
七話目更新です。

女性化ネタは大好物です。
今回は、『奴ら』が来ます。

ではどうぞ。

書き換えと修正をしました。
本作はArcadiaとにじファンにも投稿しています。
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コメント
小説のネタを使うってコッチだったとは……コノ女装をみて小説で有った無差別借り物競争で誰が選ばれるとか考えちゃいましたよ……そして次はキキョウイベントっぽい予告!!続きが楽しみです!!(D,)
横島はよくトラブルにあいますね。なぜかわからないが女になるのではなく子供になる姿を想像してしまった。(悪戯)
susさん>横島の容姿は単行本36巻リポート6のあの姿です。胸が大きいのには理由があります。ヒントはひのめ。(乱)
横島は女装に慣れてしまったんですねwところで、女横島の姿ってルシオラ似なんですかね?胸あるようだし・・・グレートマザーとは血が繋がってないみたいだし。(sus)
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