魔を統べる者1
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ジリリリリ、ジリリリリ

目覚ましの音がうるさい。寝起きの頭にガンガンと響いてくる。

ジリリリリ、ジリリリリ

わかった、起きる。だから、もう少し静かにしてほしい。

ジリリリリ、ジリリリリ

わかったと言っているだろう。まったく、どうせならもっと爽やかに起こしてくれればいいのに。

ジリリリリ、ジリリリリ

そう、たとえばお嬢様のように。これがお嬢様の声であったなら、気持ちよく起きることが出来ただろうに。

ジリリリリ、ジリリリカチッ

「せっちゃ〜ん、はよ起きな遅刻するえ〜」

おや?今、お嬢様の声が聞こえたような……。

やばいな。私の妄想は、とうとう幻聴を生み出してしまうレベルに達してしまったのだろうか。

「はよ起きな、朝ごはん冷めてまうよ〜」

今度は誰かが体をゆするような感覚がした。

いったい誰なのか確認しようと目を開けると、そこには、

「やっと起きた。おはよ、せっちゃん」

笑顔の木乃香お嬢様がいた。

 

第一話

 

ドドドドド

 西洋風の街並みの中を、数えきれない程の数の学生が駆け抜ける。中にはスケートボードやローラースケートを使っている者、路面電車に乗るもの、移動購買部と書かれた旗を掲げてバイクの後部に乗ったおばちゃんから(走りながら)パンを買っている者までいる。

 ここは、麻帆良学園都市。広大な土地をの中に、中心部には幼稚園、初等部、中等部、高等部、大学部などの教育施設。その周囲には学生寮や部室棟、大学の研究室などの自治施設。そして、外周部には雑貨店や商店街などの商業区を配置しており、麻帆良から一歩も出ることなく生活することすら出来てしまう。

 だからこそ、麻帆良には数万人を生徒が通うことになり、その登校風景はまさに、大マラソン大会のようになる。

 木乃香と刹那はそんな中を、------一方はローラースケートを履いた状態で------走っていた。

「本当にすいませんでした」

刹那が、いきなり木乃香に謝り始めた。

「別にえぇて」

それを木乃香は、笑顔で許す。どうやら、大して気にしていないようだ。

「しかし、もう少しで新学年初日から遅刻してしまうところでした」

対する刹那は、少し落ち込んだ表情をしている。

「せや、せっちゃんは今週の運勢見た?」

木乃香は、何とか刹那を元気付けようと無理に話題を代えようとする。

「いえ、見ていませんが」

「なんか、今週は二人とも重要な再会があるらしいえ」

「重要な、再開……(今朝の夢と何か関係が……まさかあの方が?……いや、さすがにそれは)」

落ち込んだ感じではなくなったが、今度は何事か考え始めた刹那を見て、木乃香はそっとため息を吐いて前を向く。と、刹那の進路上に、ゆっくりと歩く男子を見つけた。刹那の方はどうやら、考え事に集中していて気づいていない様子だ。

「せっちゃん、前!」

 

 

<SIDE刹那>

 

「せっちゃん、前!」

考え込んでいた私は、お嬢様の声で意識を浮上させる。

前を見ると、こちらに背を向けてゆっくりと歩く生徒の姿が。

気を使っているわけではないとはいえ、常日頃から体を鍛えているのでそれなりに速いスピードで走っている。

気づくのが遅すぎたために、避けることはかなわない。

私は少しでも勢いを殺そうとしたが、結局そのままぶつかってしまった。

「す、すいません。大丈夫ですか?」

とっさにバランスをとってから謝る。

それに対して相手は、何か武術でもしているのか、あれほどの勢いでぶつかったにもかかわらずあまりバランスを崩した様子もなく、こちらに振り返って、

「えぇ、問題ありませんよ。そちらこそ大丈夫ですか?」

と言ってきた。

私が頷くと相手は、嬉しそうに「それはよかった」と呟いた。

とても目立ちそうな、男子生徒だった。

身長は185センチ程はあるだろうか。腰まである髪は、見たことも無いほどに白い。まるで、白以外の色を拒絶しているかのように錯覚させる。

肌のほうも、異様なまでに白い。かといって生気が無さそうというわけではない。まるで積もった雪のように綺麗な白。真っ黒のサングラスをかけているせいで、その白さが余計に目立つ。

制服から判断するなら、男子中等部の生徒なのだろう。これだけ目立つ容姿なら噂の一つも立つだろうが、私はこのような生徒がいることをまったく知らなかった。どうみても年下には見えないから、新入生ではないだろう。となると転校生か。

「私の顔に何かついてますか?」

いつの間にか、相手の顔を見つめていたらしい。

「いえ、すいません」

「別に構いませんよ」

面白い人だ、と軽く笑われてしまった。

「元気なのもいいですが、気をつけてくださいね」

「はい、本当にすいませんでした」

「いえいえ、それでは」

そう言った男子生徒は、少し急がなくてはと言って走っていってしまった。

数秒もしないうちに、人垣にまぎれて見えなくなる。

「それじゃ、行こか」

お嬢様が話しかけてくる。

時計を見ると、すでにぎりぎりの時間だ。

「はい、少し急ぎましょう」

そう言ってから、私たちも走り出した。

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〈SIDE???〉

まったく刹那は。

考え込むと周りが見えなくなる癖をまだ直していなかったようですね。

まあ、そのおかげで怪しまれずに接触出来たんですけど……。

と、そんなことより、急がなければ時間に遅れてしまいますね。

「そろそろ出てきてはいかがですか、高畑先生?」

私が呼びかけると、いつの間にか一人の男性が私と並んで歩いていた。

「驚いたな、いつから気づいてたんだい?」

「刹那とぶつかった時からです。あの一瞬だけ気配が漏れていましたから」

私がそう言うと、隣から苦笑するような気配を感じた。

「それよりも、道案内頼みますよ。私がここに来るのは、今日が初めてなんですから」

「そうだね、早く行かないと学園長がお待ちかねだ。少し急ごうか」

次の瞬間、私と高畑先生は同時にその場から消えた。

 

 

コンコン

「失礼します」

高畑先生が、扉をノックしてから学園長室に入っていく。

私も続いて中に入る。

「失礼します。魔の統制者、東からの要請により参上しました」

まずは、西の術者の『私』としての挨拶をする。

「うむ、いきなりの要請にもかかわらず、良くぞ来てくれた。まずは礼を言おう」

そう言って目の前の老人----学園長が頭を下げる。

「いえ、これはこちらの長も考えていたことですから」

「そうか。それでは、表向きは君は転校生ということになっておる。詳しいことは高畑先生に聞いとくれ」

そう言って、私の隣にいる高畑先生を指す。先生に向かって軽く頭を下げる。

「それにしても」

もう一度学園長に向き直る。

「お久しぶりです、おじい様。相変わらずお元気そうで」

今度は、学園長の孫の『私』、近衛統魔として挨拶をする。

「うむ、本当に久しぶりじゃの。9年じゃったか?」

「はい。より正確に言うなら、9年と1週間です」

「その細かい性格は変わっとらんの」

「それは仕方がないでしょう。なんせ私は、1週間前までずっと『眠っていた』のですから。変わりようがありません」

私がそう言って笑うと、おじい様は逆につらそうに表情を歪めた。

「9年か……。おぬしは、それだけ長い時間、ずっと『戦い続けておった』のじゃな」

「……」

「まだ幼かったおぬしが、9年もの間『独りで戦い続ける』。その苦しみをわかってやれる者などおらんじゃろう。しかし、だからと言って独りで背負い込む必要は無いはずじゃ。次からは、周りの人間を頼っとくれ」

「はい、わかっています。誰かを守るために、その人を悲しませては本末転倒でしょう。あの時は、状況的に仕方が無かっただけです」

「うむ、それを聞いて安心したぞい」

そう言ったおじい様は、本日初めてにして、私にとっては9年ぶりになる笑顔を見せてくれた。

コンコン

扉をノックする音が聞こえた。

「おじい様誰か来たようですが?」

「フォ?もうそんな時間かの?高畑君、悪いが一度席を外してくれんかの」

それに従って高畑先生が部屋を出ると、二人の女子生徒----木乃香と刹那が入ってきた。

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「じいちゃ〜ん、来たえ〜」

「学園長、用事とは?……と、あなたはさっきの」

これはどういう事だろうか?この場でこの二人に会うなど聞いていないのだが。

(おじい様、何故この二人がここに?)

(はて、何のことかの?)

ふむ、つまりこれは、おじい様のいたずらというわけですか。

(妖怪ぬらりひょん、後で封印してさしあげます)

(フォッフォッフォッ)

まったく。せっかく私が考えていた悪戯が駄目になってしまったではありませんか。

「あの……先ほどはすみませんでした」

おっと、二人の事を忘れていましたね。

それにしても、まだ私の正体に気付いていないとは。

「別に気にしなくてもいいですよ、刹那」

「……何故、私の名前を?」

刹那が警戒したような声で問いかけてくる。

「はぁ。まだわかりませんか?まぁ、昔の私と今の私では外見がまったく違いますが……」

そう言って、私はサングラスを外し、瞳を晒す。他ではありえない、原色の赤に染まった瞳を。

「これならわかりますか?」

「その瞳の色……兄様と同じ?」

「まさか……統魔さま、なのですか?」

二人とも呆然としている。

さすがにこの瞳を見せれば、気付いてくれた。

「えぇ。二人とも、久しぶりですね」

「え?でも、兄様、死んだって、父様……」

「私がそう伝えるように頼みました。少々訳有りで、いつ戻ってこられるかわかりませんでしたから」

「本当に、兄様なんやな?」

「はい」

私がそう応えた途端に、木乃香が私に飛びついてきた。

「会いたかった。ずっと会いたかったんよ。兄様が死んだって聞いて、うちがどれだけ悲しかったと思っとるん? もう、絶対に、何も言わんとおらんようにならんでな?」

はっきりいって、私は少々驚いていた。

木乃香が私に少なからず依存していたのは知っていた。

しかし、それが9年経っても変わらないほど強いものだとは思っていなかった。

私が驚き、戸惑っていると、今度は刹那が片手と片膝をついて話しかけてきた。

「お帰りなさいませ、統魔様。よくぞ、ご無事で御戻りになられました」

「ええ、ただいま戻りました。私のいない間、個人的な頼みにもかかわらず、木乃香のことをありがとうございました」

「いえ、お嬢様のお傍にあることは元より私自身の望みでもありましたから」

「おや、いつから木乃香のことをお嬢様などと呼ぶようになったのですか?」

「統魔様がいなくなってからです。これは、あの時お二人を守りきれなかった自身に対する戒めであり、今度こそは守り抜いてみせるという決意の表れでもあります。どうか、ご容赦ください」

「まあ、それで二人が上手くいっているのであれば、私から言うことはありませんよ。少しばかり、違和感は残りますがね」

刹那との会話で落ち着きを取り戻した私は、笑顔を作って再度刹那に話しかける。

「それで、刹那はいつまでそのような硬い態度をとるつもりですか?」

「え?」

刹那が疑問の表情を顔に浮かべて、こちらを向いた。

「『え?』ではありませんよ。刹那は私との再会が嬉しくはないのですか?」

「い、いえ! 決してそのようなことは!!」

「であれば、あなたも木乃香のように抱きついてくるなり、涙を流して喜ぶなりしてもよいではありませんか」

「ですが、お二人の前でそのような姿を見せるわけには・・・・・・」

「何を言っているんですか。お別れの時にはあんなにも泣いていたのです。今更少しくらい泣いたところで特に変わりはないでしょう」

「ですが・・・・・・」

言ったきり、刹那は数秒間ほど黙り込み、それからようやく顔を上げてくれた。

その目に、大粒の涙を浮かべて。

「それでは・・・・・・素直に、甘えさせてもらいます」

そう言って、木乃香の隣――私の腕――に静かに、しかし力強く抱きつき、顔を伏せ、声を出さずに泣き始めた。

そうして、木乃香と刹那の二人は、おじい様が見ているのも気にせずに、少しの間泣いていた。

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後書き

 

というわけで、続きを投下してみました。

まさかコメントがつくとは思ってもみなかったので少々焦ってしまいましたが、何とか1話目完成です。

とはいえ、今回は多少なりとも書いていたのを完成させただけなので、次回からはさらに時間がかかりそうです。

作者は今自動車学校に通っているので余計に^^;

ですが、皆さんからのコメントがあれば頑張れると思うので、ゆっくりと待っていてください。

説明
何気なく投稿してみた私の作品にコメントが付いていたのを見たときはびっくりしました。
コメントしてくれた人には、最大の感謝を。
ぜひとも続きを見たいとのことですので、何とか頑張って書いてみようかなと思います。
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コメント
この話は主人公視点ですので、主人公の眠っていた9年間については今のところ書く予定はありません。 ですが、どうしてもその間の話を読みたいとのことでしたら、いつか外伝という形で書いてみようかと思います。(アルトラスカ)
うーーーん・・・。展開が早すぎるような気がします・・・。  次回作にも期待しております。がんばってください!!(tan)
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