真・恋姫?無双 仙人で御遣い 20話
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〜天水 城下宿屋〜

 

庶民の服に扮した李儒(りじゅ)は、宿屋の一室の前に立った。

「失礼します。李(り)でございます」

「おお!お入り下され」

返事を聞き、李儒は、入室する。

そこで待っていたのは、丸々と太り、油ぎった男だった。そして、その周りには、護衛と思しき男が三人居た。

「久しいですな、李儒殿」

「はい。お久しぶりでございます、宋典(ソウテン)様」

李儒は、軽く挨拶を交わし、無駄話になる前に切り出す。

「宋典様。洛陽の方は、いかかでしょうか?」

「相変わらず表情の無い奴だな。・・・ふむ。心配せずとも、順調に進んでおる。後は、消すのみだ」

宋典は、ニヤ、と嗤う。

そして

「李儒殿。張譲様からそなたへの土産がある」

机の上に置いてあった一枚の紙を渡した。

「・・・ほぉ。遂に届きましたか」

李儒は、書状を検めると、若干唇が釣り上がる。

「これで、此方の準備は整いました。後は、そちらの合図を待つだけです。が、その前に、例の書はどうなりましたか?」

「うむ。そなたが紹介した道士の言葉通りに処理した。問題無かろぉ?」

「はい。于吉(ウキツ)殿の言葉通りにして頂ければ。おそらく、そう遠く無い内にあの方々を消す機会が巡って来るでしょう」

「その様に張譲様には伝えよう」

そこで、この話題は終わり、後は宋典の見栄や愚痴を李儒が聞くだけだった。

 

夕方となり、やっと李儒は宿屋を出た。

「・・・郭(かくし)隊長。異常は?」

李儒は、店の角の影に声を掛ける。

「ございません」

郭は、李儒にのみ聞き取れる声で答える。

「そうですか。こちらの準備も整いました」

「では、例の計画を?」

「いえ。洛陽の方は、遅々として進んでいませんでした。私が託した策を使う様です」

「所詮は愚者、か。その策も失敗されるやも・・・」

「その心配は無いでしょう。于吉殿を送りました。彼ならば問題ありません。が、やはり、計画は大幅に遅れます。その旨を、協力者に伝えなさい」

「は!して、此方の指示に従わぬ者が出た場合は」

「あなたに、任せます」

「御意」

そう言って、郭の気配が無くなる。

そして、李儒は城へと歩き出し

(精々、今のうちに楽しんでいて下さい、十常侍様。あなた方は、もう、一年もせぬ内に消えるのですから)

心の中で、笑っていた。

 

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〜天水 街道〜

 

豪臣一行は、町まで後一日のところまで来ていた。

豪臣は、月(ゆえ)から天水の情勢を聞き、月は、豪臣から旅の話を聞いた。

そうやっている内に、前方から砂塵が上がっているのが見えた。

「・・・月のお迎え、かな?」

(青蓮のときのことがあるからな〜)

豪臣は、一応いつでも逃げられる様にする。

月は、朔夜に乗っているので、振り落とされなければ大丈夫だ。

 

そして、しばらくすると旗が見えてくる。

「・・・あ!詠(えい)ちゃん」

月が、嬉しそうに声を上げる。

向かってくる部隊の旗は“賈”だ。

「誰だ?」

「はい。私の友達です」

豪臣の質問に、にこやかに答える月。

(友達、ね。見た感じ、兵士の数は五百か。それにしても、あの旗。まさかこの娘は・・・いや、まさかな)

豪臣は、自分の考えを、内心笑い飛ばす。

しかし

 

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部隊と合流してみると

「ボクの名は賈文和(か ぶんわ)よ。主君を送ってくれたこと、礼を言うわ」

眼鏡の女の子はそう言った。

(うっわ〜!賈文和って、賈駆(かく)かよ。てことは・・・マジ!?)

賈駆に主君と呼ばれた月を見る。

「あの、豪臣さん。私の名は董(トウ)。名は卓(タク)。字は仲穎(チュウエイ)です。黙っていてごめんなさい」

月は、改めて名乗り、頭を下げる。

(やっぱりか!・・・この娘が董卓?ありえないだろ!酒池肉林の董卓!悪政の董卓だぞ!この娘がそんなことするわけが無い。・・・ってこは、歴史通りに進むなら、この娘を落としめ様とする人物が居るな)

「あの、豪臣さん?」

豪臣が考えに耽っていると、月が心配そうに声を掛けてきた。

「ああ、すまない。まさか、月が董卓だっ「あんたっ!何、月の真名を言ってるの!?」・・・何?」

いきなり、賈駆が怒り出し

「李?(りかく)隊長!」

「は!」

若干太り気味だが、体格の良い男を呼ぶ。

そして

「殺って!」

「は!」

「オイ!?」

李?は、豪臣に斬りかかって来た。

 

ヒュッ!ドス!

 

「「「「「「(李?)隊長!!」」」」」」

李?の剣は空を切り、その腹に、豪臣の拳が刺さっていた。

「ぐぅ・・・ぐぐ」

「いきなり、斬りかかってくるなよ。ビックリするだろ?」

豪臣は、痛みで動けない李?を地面に寝かせてやる。

賈駆は、李?が素手の男に敗れたことに驚き、放心していたが

「オイ!いきなり、何てこと命令しやがる!」

豪臣の抗議の声に気を取り直す。

「あんたが、真名を呼ぶからでしょう!」

「・・・莫迦かよ、お前は。預かってるに、決まってんだろ?じゃなきゃ、真名なんて呼ばねぇよ」

賈駆の怒りに、豪臣は溜息混じりで答える。

「嘘よ!あん「じゃあ、本人に訊けよ」・・・月?」

豪臣は呆れた声で、賈駆に言う。

賈駆は、いきなりのことで呆けている月に尋ねる。

「う、うん。豪臣さんには、真名を預けたよ。だって、詠ちゃんが、名を名乗るな、って言ったから。だから、助けて頂いたお礼も兼ねて真名を渡したの」

「ゆ、月〜。駄目だよ、こんな変な男に預けたら」

月の答えを聞き、賈駆は縋る様にして抗議する。

「詠ちゃん。助けてもらったんだから、いいでしょう?」

「駄目よ!こんな、女を喰い物にしようとする男なんて!」

(いや、してねぇし)

豪臣は、心の中でツッコミを入れる。

「だからね、月。取り消し「詠ちゃん」・・・何?」

「駄目だよ、そんなこと言っちゃ。それと、ちゃんと謝って」

「月〜」

月は、どうしても喰い下がろうとする賈駆に

「詠ちゃん!」

と、強く言葉を放つ。

「う〜、分かったわよ」

賈駆は、項垂れて

「悪かったわ」

と、ばつの悪そうな顔で言った。

「はぁ。ま、いいけどね。怪我した訳でもないし」

豪臣は、肩を落としてそう言った。

 

 

その後、嫌々ながら、本当に嫌々ながら、賈駆は、詠と言う真名を預けてくれた。

そして、詠の親衛隊長である李?とも挨拶を交わし、天水に向かうことになった。

そのときに

「豪臣さん。是非、天水に逗留する間は、城に泊って下さい」

と、月が言ったため、とある人物の反対があったものの、豪臣は城に滞在することになった。

 

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〜天水 城門〜

 

豪臣たちが城門まで戻ると、そこには兵士を連れた数人の文官が立っていた。

 

文官たちは皆、月が跨っている朔夜に驚き、顔を引きつらせている。

しかし

「お帰りなさいませ、董太守様。無事な姿を拝見し、この李儒。大変安堵しております」

先頭に居た李儒は、朔夜を気にせずに、そう言って臣下の礼を取る。

「李儒さん。心配をお掛けしました」

「いえ。私がお勧めした場所で行方知れずになられてしまい、責任を感じております」

(・・・こいつか。月にあんな場所を勧めた奴は)

豪臣は、李儒という男を見る。李儒も、見られていることに気づいたが、眉一つ動かさない。

「気にしないで下さい。私の軽率な行動の所為ですから」

月がそう言うと

「ありがとうございます。して、そちらの御方は?」

礼を言い。豪臣の方に視線を向ける。

「どうも。紫堂と言う旅の者だ。月が、森の中で一人だったから連れてきた」

「豪臣さんには、虎に襲われたところを助けて頂きました。城に滞在して頂きます。皆さんに伝えておいて下さい」

月が、そう補足すると、文官たちはざわつく。

そんな中、李儒は

(ほぉ、虎に襲われた、ですか。まさか、こんな北方に虎が住み着いているとは・・・

どうやら、紫堂殿。あなたには、本気で感謝しなければなりませんね。私の大事な駒を護ってくれたのですから)

「畏まりました。失礼の無い様、皆に徹底させます」

そう言って頭を下げ、周りの文官たちも釣られる様に頭を下げる。

そして、その横を、月たちは通り過ぎて行く。

そのとき豪臣は、頭を下げている李儒と眼が合った。

(こいつ、絶対何か企んでいやがるな)

豪臣は、嫌な予感でいっぱいになった。

 

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城に入った豪臣は、宛がわれた客間の一室の椅子に座って寛ごうとした。

しかし、すぐに侍女がやって来て

「董卓様が、お呼びでございます」

と、言われ、連れて行かれた。

ちなみに、朔夜は部屋で留守番である。

 

連れて行かれたのは、何の変哲も無い、ただ広くて椅子とテーブルだけがある部屋だった。

そこに、月と詠の二人が座っていて、その後ろに、李?が立ったまま控えていた。

「お呼びだ、って言われたから、謁見の間にでも通されるのかと思ったよ」

侍女が去ると、豪臣は、そう口を開いた。

「着いて早々、呼びだしてごめんなさい」

「何よ。謁見の間で立ったまま喋りたかったわけ?」

月と詠が、一緒に答える。答え方は正反対だが。

「いんや。肩っ苦しいのは嫌いだからな。で、何?」

そう言って、豪臣は月たちの対面に腰を下ろす。

「まずは、お礼を。豪臣さん。本当にありがとうございました」

「ボクからも、その件については礼を言うわ」

二人が頭を下げる。

「気にすんな」

(ハァ。また、礼をさせてくれだの何だの言われんのか?)

「その件について、何か欲しい物やして欲しいことはありますか?私に出来ることなら、させて頂きます」

(やっぱりね)

豪臣は、溜息をついて

「いや、要らない。強いて言うなら、数日此処に泊めてくれ。それだけで良い」

そう言った。

すると、急に詠が怒り出した。

「あんた、何言ってんのよ!その程度のことじゃ、釣り合わないでしょ!月の顔に泥を塗るつもり!?」

「え、詠ちゃん!」

怒る詠を、月が慌ててなだめる。

「いや、別にそうじゃない。ただ、此処に来た目的が果たせたから、必要なものが無いだけだ」

「目的?何よ?」

と、訊いてくる詠。

「月を見ること」

「「!!」」

豪臣は、短く答える。それに、詠と李?が顔を強張らせる。

「いや、そう怖がんなよ。別に、月をどうこうしよう、って訳じゃない」

「・・・じゃあ、何しに来たのよ」

訊いてくる詠の表情は、明らかに警戒している。

「ただ、見に来ただけ。信じる信じないは、任せるよ」

そう言って、豪臣は椅子にもたれ掛かる。

詠は、しばらく見詰めていたが、豪臣の態度に

「ハァ・・・何なのよ、あんた」

と、溜息を吐いて肩を落とす。

「ま、しがない旅人さ。月には言ったけど、此処に来る前は、長沙の孫堅のとかに居たよ」

「江東の虎!いや、でもあの強さは・・・あんたまさか、孫堅の客将じゃないでしょうね?」

「いや、違・・・いや、待てよ。そういや、蔡瑁との戦いのときに、方便で客将を名乗ったな」

そう言って考え込む豪臣を見て、詠は呆れた様になる。

「あんた、有名人よ。名は知られてないけど、とんでもない猛将が孫堅の麾下(きか)に入った、ってね」

「・・・へぇ。そうかよ」

(たぶん、冥琳あたりが噂を流したんだな)

豪臣は、生返事を返しながら思う。

「あの、豪臣さんは、そんなに凄いんですか?」

「もし噂が本当なら、凄いなんてもんじゃ無いわよ。一人で二万の軍勢を止めるなんて・・・ま、ホントならだけど」

月の質問に答えた詠は、疑わしげな眼を豪臣に向ける。

「別に、大したことじゃない。単に大将を一騎打ちで破って、行軍を止めただけだから」

「っ!莫迦じゃないの!それのどこが、大したことじゃないのよ!?」

(よく怒る娘だなぁ)

怒鳴る詠を見て、豪臣はそんなことを思う。

「ま、孫堅の客将やってた訳じゃないしな。心配しなくても良いぞ」

豪臣の言葉に、詠は考え込む。

「詠ちゃん?」

月は、詠の行動に首を傾げる。

すると詠は

「分かったわ。じゃ、お礼として、此処に滞在することを許可するわ」

と、言った。

 

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〜豪臣の部屋〜

 

「却下だ」

「ちょっ、何でよ!まだ何も言ってないでしょう!?」

豪臣は、話を始めようとした詠の言葉を遮り、詠は驚いて訊いてくる。

先の話が終わった後、部屋に戻った豪臣の下に、詠が一人でやって来ていた。

「いや、大体見当はついてるし。どうせ、ウチでも客将やってくれ、とかだろ?」

「うっ!そ、そうだけど・・・」

詠は、残念そうに肩を落とす。

「なぁ、詠。何で俺なんかを?董卓軍には、優秀な将が多く集まっている、って聞いていたぞ?」

「・・・その優秀な将が、今、居ないのよ」

「は?」

詠の言葉に、豪臣はポカンとなる。

「華雄と張遼は、それぞれ賊討伐と?(てい)族防衛に行ってるわ。そして、・・・」

(あれ?張遼?張遼が董卓の麾下に入ったのって、董卓が劉協を擁立した後だろ?)

豪臣は、自分の知る歴史との食い違いに一瞬気を取られる。

そして、豪臣に取って予想しなかった名が詠の口から放たれる。

「そして、賊防衛のために、呂布と陳宮は洛陽に召集さてるし「呂布!」・・・え、何?」

「おい、詠!今、呂布って言ったか!?」

「え、ええ。言ったけど・・・」

いきなり大きな声を出された詠は、若干驚きながら返す。

(呂布まで、もう居るのかよ・・・)

豪臣は、三國志演義で最強の名を欲しいままにした武将を思い浮かべる。

(殺し合いは嫌だけど・・・ちょっと、戦ってみたい、かな?)

内心で冷や汗をかきながらも、顔は、ニヤ、と笑う。

「いや、すまん。天下の呂布が董卓のとこに居るとは思って無かったんでな。で、頼みの将が居ないから、帰って来るまで月の護衛でもしろと?」

「そうよ。こっちには、要らないことを考える奴が居てね」

「・・・李儒、か」

「・・・そうよ」

詠は、苦虫を噛み潰した様な顔をする。

(おお、おお。こりゃ、かなり辛酸を嘗めさせられてるな)

豪臣は、苦笑する。

「あの能面、何考えてるか分からないのよ。良い政策を月に献策して、月を助けたこともある。今回の様に、月を危険な目に遭わせたりしたこともある。今回は、たぶんボクを天水から離れさせたかったんでしょうけど・・・ホント、訳が分からない奴よ」

詠がそう言って、項垂れる。心なしか、声も涙声になっていた。

「ま、護衛の心配はいらないだろ。現段階で月をどうにかしたいなら、もう、森でどうにかなってたはずだからな」

「そう、ね」

詠が顔を上げる。

「そうだよ。ほれ、そんな、心配そうな顔すんな。可愛い顔が台無しだろ?」

「ちょっ!あ、あんた、何てこと言うのよ///!」

詠は、真っ赤になって怒鳴る。

しかし、豪臣は

「ハハ。そうそう。詠は、元気じゃないとな。会ったばっかりだけど、そっちの方が詠らしくて良い」

そう言って、笑った。

「なっ!・・・〜〜〜///!」

詠は、嬉しいかったり恥ずかしかったりで、拳を握り、プルプル、と震わせる。

「さ。李儒のことは、俺が調べてやるから・・・ほらほら!」

「え!?ちょ、何すんのよ!?」

豪臣は、そんな詠の背中を押して部屋から追い出し

「じゃね〜」

と、手を振って扉を閉めた。

 

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追い出された詠は

「な、何なのよ、あいつは・・・///」

(不覚にも、あいつの言葉なんかで赤くなっちゃったじゃない!何やってるのよボクは!)

と、豪臣の行動にも、自分の行動にも訳が分からなくなった。

 

そして、扉を閉めた豪臣は

「さて、日も落ちたし、動きますかね」

そう言って、伸びをした。

「また、あたしは留守番ですか?」

そんな豪臣に、先程から黙ったまま動かなかった朔夜が訊く。

「そりゃそうだろ。デッカイままのお前を連れて忍者しろって?無理だろ」

朔夜は、大虎のままで月と接触してしまったため、元の子虎に戻れなくなっていた。

「お前が、小さくなったら怪しまれるだろ?俺が」

「ハァ。いいですよ。あたしは寝てますから」

そう言って、丸くなる朔夜。

「じゃ、行って来るわ」

そして、出て行こうとする豪臣。

そこに

「豪臣」

朔夜が、丸まったまま声を掛けてくる。

「ん?」

「・・・気をつけて」

「・・・ああ。行って来るよ」

豪臣は、改めて部屋を出て行った。

 

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〜李儒政務室〜

 

豪臣は、李儒の政務室の場所と突き止めた。

そして、懐からお札を取り出し

 

『我が心(しん)を以て、我、存在を無くす――消(ショウ)』

 

仙術を発動する。

『消』は、自分の気配を完全に消す術だ。

ただし、未熟な豪臣は、この術をお札無しでは使うことが出来ない。さらに、心を乱せば、簡単に術が解けてしまうところが弱点になっている。

 

気配を消した豪臣は、政務室の窓の下に移動し、聞き耳を立てる。

「――ですか。牛輔(ギュウホ)隊長は従いませんでしたか」

「奴は元々、李?と仲が良かった様ですので」

中から李儒と郭(豪臣は分からなかった)の声が聞こえてきた。

「上手くやりましたか?」

「滞り無く」

(どうやら、いきなりビンゴだな)

「これで、残るは賈駆殿と今は此処に居ない将兵たち、ですか」

「は!これで、七割を掌握。彼女らが戻って来た後も、順調にいけば八割に届くかと」

「これで、私が董卓様の筆頭軍師になれるのですね・・・くくく」

「は!賈駆筆頭は、ただの参謀の一人となって頂きましょう」

「そうですね。で、親衛隊の編成についてですが――」

そして、話はただの軍編成や政治の話しに変わる。

 

豪臣は、その場を離れた。

(ただ単に、筆頭の地位が欲しいだけかよ。自分の欲のために動いてたってわけか)

豪臣は、李儒の懐の狭さと浅ましさに嘲笑を浮かべて部屋に戻って行った。

 

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豪臣が離れて行った後のこと。

李儒と郭しか居なかった部屋に、一人の青年とも少年とも取れる男が現れる。

「・・・もう、いいぞ」

男は短くそう言った。

「そうですか。彼は去りましたか」

「ああ。とんでも無い勘違いをしてな」

「何とも浅ましいですね。私が、筆頭の座程度に固執する訳が無いというのに」

「全くです」

(浅ましいのは、貴様も一緒だ、人形)

男は心の中で嗤う。

「して、左慈殿。洛陽の様子は?」

「問題無い。于吉の奴に任せておけば良い」

左慈と呼ばれた男は、郭の質問に無表情で答える。

「そうですか。于吉殿は、本当に優秀ですね」

「その様で。して、あの紫堂とか言う男はいかが致しますか?」

「隊長に任せます」

「御意「やめておけ」・・・左慈殿?」

郭のやろうとしていることが分かったため、左慈が止める。

「あの男には、手を出すな。死人が増えるだけだ」

「それ程の猛者には見えませんが?」

「あの男は、お前程度の奴が千人集まっても勝てはしない。奴はそういう存在だ」

左慈の物言いに、眉を顰める郭。

「あなたでも、ですか?左慈殿」

今度は、李儒が訊く。

「厳しいな。不意を突いてどうにか勝てるかも知れない、と言ったところだ」

「っ!」

郭は、左慈の力量が自分を遥かに上回っていることに気づいていたので、この言葉には驚いた様だった。

「フッ!心配するな。いくら強くても頭はそうでも無い様だ。邪魔にはならんさ」

左慈は、そう笑って部屋から消えて行った。

 

消えた左慈を見送った郭は

「李儒様。やはり奴らは危険なのでは?」

と、冷や汗を流しながら尋ねる。

「分かっていたことです。それに、彼らは私の邪魔はしないでしょう。どうやら、紫堂殿が標的の様ですから。それよりも、各所への緘口(カンコウ)令を徹底させて下さい。今回の芝居を、台無しにされては困ります」

「御意」

 

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〜天水 某所〜

 

左慈は、イラついていた。

「クソッ!何で俺が人形如きと慣れ合わなければならない!」

怒りに奮える左慈。

「北郷一刀を中に入れないことに成功したら、今度は仙人だと!?ふざけるな!こっちが、どれだけの労力を使ったと思っている!」

そして、城の方に眼を向ける。

 

 

 

「絶対に殺してやるぞ・・・紫堂、豪臣!」

 

 

 

そう言って、左慈は城の方を睨み続けた。

 

 

 

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あとがき

 

どうも、虎子てす。

お陰さまで、お気に入り登録150人突破しました。

ありがとうございます。

 

では、作品の話です・・・

何か、やっと物語に入ってきた、って感じになってきましたね。もう20話ですけど。

さて今回は、豪臣が、李儒の謀略には気づけない、という間抜けっぷりを披露することになりました。ま、この布石がどうなるかは、大体の人が予想出来るでしょうけど・・・

董卓編は、この布石と、月と詠と仲良くなるための編です。

だから、もう1、2話で洛陽に戻る予定です。予定は未定とも言いますが・・・

 

次回投稿は、早ければ6日。遅くとも7日終了までにと予定しています。

 

作品への要望・指摘・質問と共に、誤字脱字等ありましたら、どんどんコメント下さい。

 

最後に、ご支援、コメントを下さった皆様。お気に入りにご登録して下さった皆様。

本当にありがとうございました。

 

ではでは、虎子でした。

 

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『我が心(しん)を以て、我、存在を無くす――消(しょう)』

気配を完全に消す術。ただし、姿が消える訳ではないので、見られれば気づかれる。

(注)豪臣は、札を使い、さらに詠唱しなければ使うことが出来ない。

 

説明
拙い文章ですが、よろしくお願いします。
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コメント
なるほど一刀がいないのは左慈の所為か(杉崎 鍵)
毎回御礼の件で思うんだけど釣り合わないから怒るって自己満足の押し付けだよね・・・本当に感謝してるならこちらの要望をちゃんと聞いてほしいね(ヒトヤ)
自由人さん。ご指摘ありがとうございます。完っっっっ全に、忘れてました(^_^;)(虎子)
あっさり騙されたなw(ブックマン)
『外史否定派』サイドの陰謀が明らかになりつつあるようで、今から心配になりますね。本拠地ですら味方が少数な月ちゃん達、豪臣君達が関わることで、少しでも良い方向に進んでくれると良いのですが…そして、今までが凄過ぎてたからすっかり忘れていましたが、『仙術』は味噌っかすでしたね彼(笑)豪臣君の『相棒』も活躍できる事を祈ります。(レイン)
外史の否定派がそんな事をしていたとは…そして左慈の矛先は豪臣君に向くんですねwそれに今回は喋らない代わりに大きいままだなんて…不憫な朔夜さん(涙)仙桃は読者のみならず朔夜さんも凄く欲しているのでしょうねww 誤字報告 詠は数少ないボクっ娘で一人称はあたしや私ではなく“ボク”です。(自由人)
やっとでてきましたか?否定派二人組。あいもかわらず”小細工にいそしんでいるようでなによりです。wさて、いつ(頭の黒いねずみの)”お掃除”を始めるのか楽しみです。w(nayuki78)
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