真・恋姫無双〜魏・外史伝・再編集完全版〜3
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第三章〜崩れゆく平和、新たな争乱の警鐘〜

 

 

 

―――蜀・成都・・・

  

  「全く・・・、昨日の桃香と雪蓮には参ったわね」

  私は夜が明けてもなお痛む頭を抱えながら、一人城の廊下を歩いていた。昨日、酔っ払い二人に絡まれ

 無理やり酒を飲まされた事を思い返す。雪連はともかく、桃香の酒が入ると性格が変わるところはどうにかして

 欲しいわ。・・・人の胸を、何だと思っているのかしら?

  「それにしても・・・、桃香は何を隠しているのかしら?」

  成都に着いてから、桃香達が妙によそよそしい。私に対しては特にそう・・・。

 ま・・・、あの娘の事だからこの後に何か『さぷらいず(一刀が教えてくれた)』をやろうと

 しているのでしょうね。

  そんな事を頭を抱えながら考えていた・・・、その時。

  「きゃっ!?」

  「きゃう!?」

  廊下の曲がり角で左から来た者とぶつかり、尻餅をついてしまった。いくら考えごとでうわの空だった

 とはいえ、私らしからぬ失敗。倒れた際にかかった埃を払いながら立ち上がる。すると、散らかってしまった

 洗濯物の中からぞもぞと一人の顔が出てきた。

  「へう・・・」

  それは桃香の侍女の・・・確か名前は月。そして私の顔を見ると途端に顔を赤くしてあたふたし始める。

  「も、申し訳ありません、曹操様!お怪我はいたしておりませんか?!」

  「ええ、私は大丈夫よ。それより、あなたの方が大変な事になっているよう思えるのだけれど・・・」

  そういって、散らかってしまった洗濯物達を見る。

  「へう・・・、折角お洗濯してきれいに洗ったばかりなのに・・・」

  ひどく落ち込む月。

  「落ち込んでも仕方がないわ。さ、拾いましょう。私も手伝うわ」

  そう言って、私は洗濯物を拾い始める。

  「い、いえ・・・、曹操様にそんな事をさせては・・・」

  「いいのよ、原因は私にもあるのだから。それに何だか、洗濯したい気分なのよ」

  「へう・・・。」

  へぇ・・・、恥ずかしがっている顔もなかなか可愛いじゃない。後で、桃香に話してみましょうか?

  そんな事を心の中で考えながら、洗濯物を拾い続ける。

  「?」

 

  他の洗濯物に埋もれ、隠れてしまっていたが、彼女はそれを見つけた。慌てて他の洗濯物をどかしていくと

 華琳は『それ』を拾い上げる。

  「・・・?曹操様、いかがなさ・・・あっ!!」  

  月は二つの致命的な失敗を犯してしまった・・・。

 一つは、汚れていたので他の洗濯物と一緒に『それ』を洗ってしまった事。そして二つは、ぶつかった相手が

 曹操孟徳であった事。

  「あ、あの・・・、曹操様・・・そ、それは」

  なんとか言い訳をしようと言葉を探す。だが、もはや目の前の少女の耳には

 届いていなかった。

  「桃香・・・!」

  「あ、お待ち下さい!曹操様ーー!」

  少女は、その場を走って、立ち去ってしまう。その手に『彼の服』を握りしめたまま・・・。

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  「おじいちゃん!」

  それはきっと、幼い頃の朧げな記憶。

  俺はいわゆるお爺ちゃんっ子ってやつで、昔からよく祖父に可愛がってもらっていた。

  小さかった俺の頭をごつごつとした大きな手で撫でてもらうのが好きだった。

  その頃から、剣の道場をやっていた祖父の元で剣の修行を受けていた。

  修行中の祖父はとても厳しく、逃げ出す事なんてしょっちゅうだった。

  確かに修行は辛くて大変だった。けれど、不思議な事にやめたいとは思わなかった。

  今思えば、俺はきっと祖父の事が好きだったからなんだろう。

  もっとも、この歳になるとそんな事を考えるも照れ臭くて、本人に言った事はないのだけれど。

  ・・・そう言えば昔、祖父から何か教わったような気がしたけど。

  一体、何を言われたんだろう・・・。

  

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  「う・・・ううん・・・」

  瞼が重い。一体、どれぐらい眠っていたんだろう。

  体に痛みが無い。

  少し、胸が苦しい程度。

  少しずつ、目を慣らしていく。

  そして、視界がはっきりとしてきた・・・。

 

  「・・・ここは?」

  見覚えのない部屋の寝台の上に横たわる俺。とりあえず上半身を起こし、周囲を改めて見渡す。

  「・・・やっぱり見覚えがない?」

  確か俺、成都にいて、それで山菜を採りに行って、そんではぐれて、それで何か・・・中二病みたいな奴に

 絡まれて、で・・・崖から落ちて・・・、その下を流れる川に・・・。

  「っ!」

  はっと思い、俺は自分の体を見渡す。

 これといった怪我が無い。下が川だったからってあんな高い所から落ちて無傷は無いだろうと思ったけど、

 やはり怪我はしていない。

  「運が良かったってことか・・・?」

  いや、運がいいわけないだろ・・・。やっと皆に会えると思ったのに、それをあの男に邪魔されたんだ。

  「くそッ!?」

  右拳に力を込め、壁に怒りをぶつける。痛かったがそれは大した問題では無かった。

 とにかく、ここはどこか調べなくちゃな・・・。

  そう思っていると、部屋の扉が開いた。

  「あれ、気が付きましたか!」

  「え、と・・・」

  入って来て早々、はきはきとした態度の少女に押され気味な俺・・・。

  「あ、すいません。申し遅れました、私は『周泰』、字を幼平と言います」

  周泰ってたしか呉の、孫策さんのところの武将だったはず・・・。

  「周泰・・・ちゃん、か。あ、俺・・・北郷一刀。字は・・・無い」

  「北郷一刀・・・。ああ、やっぱりそうでしたか!!」

  「何がやっぱりなの?」

  「何処かで見たようなお姿だったので、ひょっとしたらと思っていたのですが、

  天の御遣い様でしたか!?」

  天の御遣いね・・・、久方振りに聞いたなそのフレーズ。どこか懐かしさを感じる。

  「悪いけど、その呼び名は止めて欲しいかな。出来れば、名前の方でお願いするよ」

  「はい、分かりました。北郷殿」

  彼女の素直さには、感心する・・・。凪とどこか似ているかもな・・・。

  「そうだ、周泰ちゃん。君がいるって事は、やっぱりここは呉なのかな?」

  成都とも考えたが、この部屋の構造からして明らかに違うし、以前、建業の城に居た時、その部屋と

 よく似ていた。

  「おお、さすが北郷殿!良くお分かりになりましたね。さすが、天の御遣い様!」

  そんな大したで無い事に、感心する周泰ちゃん。何だかこっちが恥ずかしくなってくる。

  しかし・・・、そうなると俺は蜀から呉までずっと流されて来てしまった事になる。

  「そういえば、俺はどうしてここにいるの?」

  「はい、それはですね・・・」

  今までの経緯を周泰ちゃんが懇切丁寧に説明してくれた。

 どうやら、俺は建業の郊外の森を流れる小川で倒れていたらしい。それを見つけた周泰ちゃんと

 孫尚香ちゃんが、この城まで運んでくれたそうだ。ついでに、俺の事を成都に居る孫策さんに早馬を

 送ってくれた様だ。ちなみにここに連れて来られてから、2日が経っているそうだ。

  「正直、全くの別人さんだったらどうしようかと思いました」

  「あははは・・・」

  まぁ、何はともあれ、とりあえずは一安心だ。少し遠回りをしてしまったが・・・。

  そんな事を考えていると、再び扉が開いた。そして元気の塊のような女の子が部屋の中へと入って来た。

  「あれ、もう起きたんだね♪」

  「はい!小蓮様。先程来たときにはもう」

  「そうなんだ・・・ねぇねぇ、一刀♪もう体の方は大丈夫?」

  小蓮と呼ばれたその子が俺の横にやって来て、俺の顔を窺ってくる。とりあえず俺は無様な心配を掛け

 させまいと、愛想よく話す。

  「あ〜、うん・・・とりあえずは大丈夫・・かな。自分でも良く分からないけど・・・」

  全く無傷なのは、今だに分からないけれど・・・。

  「じゃあ、一刀に質問。一刀は何であんな所に倒れてたの?」

  「ああ、それ?実はね・・・」

  俺は二人に話した。この世界にまたやって来た事・・・。そこで、風達に会って一緒に成都に行った事

 ・・・。そして崖から落ちた事を・・・。

  「へぇ・・・、いろいろ大変な事があったんだね?」

  ちゃんと分かっているのかどうか、いまいち分かりかねる表情の尚香ちゃん。

  「しかし、よくご無事でしたね。本当に運が良かったです!」

  「うん、自分でもそう思う。君達が見つけてくれて助かったよ。ありがとう」

  「うんうん、素直でよろしい♪」

  「えへへへ…♪」

  そんな元気な2人の姿を見ていると、こちらも元気なっていく。なにはともあれこの2人が見つけてくれて

  良かったと本当に思う俺だった。

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―――同時刻、場所は変わり再び蜀・成都・・・

 

  「ふあ〜〜・・・」

  背中を伸ばしながら大きな欠伸をする。

  「眠そうだな、雪蓮。ま、昨日あれだけ夜遅くまで騒げば当然の事か」

  その欠伸に、的確な指摘をする。

  「姉様、私達がここ成都に来た目的は宴会ではありません。もう少し、呉の王としての自覚を

  お持ちならないと」

  そのだらしない姿を、批評する。

  「もう・・・、二人して私をいじめないでよ。桃香や華琳達と会って話すせっかくの機会

  なのよ。そりゃ、ちょっとは羽目を外したっていいじゃない」

  二人に言われて、ふてくされる。

  「姉様は、羽目を外しすぎかと思います」

  「え〜、そんな事ないわよ。ねぇ、冥琳」

  そう言って同意を求める。

  「さてな・・・」

  やれやれ・・・と何も言わず首を横に振る。

  「めぇぇえりぃぃん〜〜・・・!」

  そんな会話をしながら、昼間の廊下を歩く、孫策、周喩、孫権。

  

  「一体これはどういう事なの!!答えないさい、桃香!!」

 

  「「「!?」」」

  廊下にまで響く大声に反応する三人。

  「な、何今の?」

  「今の声は・・・華琳殿で間違いないだろうが・・・」

  「どうやら王座の間からのようですね」

  廊下の先にある王座の間の扉が少し空いていた。三人は近付き、その隙間から中の様子を覗う。

 見た所、そこには桃香と華琳の二人のみが居るようであった。

  「え、えぇっと・・・、それは・・・」

  言葉を濁してしまう桃香。

  「答えなさい、何故『これ』がこの城に存在するのかを!?」

  対して、一方的に言葉攻めする華琳。

  桃香が華琳に叱られている光景そのものは、決して珍しいものでは無い。それは、桃香の王として

 欠落した点に対して華琳が注意するといったもの。だが、今目の前で繰り広げられているそれは、叱る

 というよりも、華琳が桃香に対して、一方的に怒りをぶつけているというものであった。

  「こんな朝早くから何大声を上げているのかと思えば、これは只事では無いわね・・・」

  「只事でない・・・、ならばどうすると言うのだ?呉の王として」

  「朝から面倒事に関わりたくはないけれど・・・、このままじゃちょっと桃香が気の毒だしね。

  ちょっと行ってくるわ」

  そう言って、雪蓮は隠れるのを止め、堂々と二人に近づていった。

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―――数刻後、再び建業の街・・・

  

  「・・・・・・」

  城から出て、俺は一人建業の街を歩いていた。これといった理由は無く、街の様子を見て回っていた。

 建業の街も成都に負けず劣らぬくらいに活気盛んで街の人達は笑顔で俺に接してくれた。

  「かーーーずとーーーーーーっ!!」

  「・・・?」

  そんな時、突然背後の方から恥ずかしくなるくらいに大きな声で呼ばれ、何だと思い後ろを振り返ろうと

 した。

  「どーーーんっ♪」

  そして俺の腰に誰かが勢いよく抱きついて来る。

  「うおっ!?」

  前のめりに倒れそうになるのをそこは踏ん張って耐える俺。

  「みぃつけった♪」

  俺の腰に手を回しがっちりと捕まりながら、甘えたような声で話しかけて来る孫家の末っ子、孫尚香。

 左右のリング状に纏められた髪が特徴の女の子。それがどうしてか俺の目の前にいる。

  「な、何をしているの・・・?」

  そんな彼女に俺は聞いてみる。

  「それはこっちの台詞。一刀は一人で何をしているの?街の散策?暇つぶし?それならシャオに言って

  くれればいいのに・・・!」

  両方の頬を膨らませ、少し不機嫌そうに喋る。一体何がそんなに不機嫌にさせているんだろう・・・?

 何も言わずに城を出たからか・・・?

  「ごめん、勝手に城を出て・・・、本当なら一声掛けていくべきだったよね?」

  だから彼女に謝っておく。すると彼女は俺の腰から離れ、少し距離を取る。

  「・・・うん♪素直でよろしいっ!」

  先程までの不機嫌はどこへやら、たちまち上機嫌に早変りの孫尚香ちゃん。そう言って、今度は俺の右腕

 に抱きついてきた。

  「しょ、尚香ちゃん・・・?」

  「そんな一刀のために、シャオが今日一日あなたの面倒を見てあ・げ・る・♪」

  「・・・・・・」

  彼女から俺に向かって、ピンクのハート型のものが飛んで来るような錯覚に襲われる。この子に会ってまだ

 それ程経ってはいないが、華琳達とはまた違うタイプの女の子だという事だけは分かった。

  「嬉しいでしょ?嬉しいっていうの〜!」

  「すごく、嬉しいです!」

  「よろしいっ♪」

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―――一刀と小蓮がいる場所から少し離れた大通りの一角・・・

 

  そこに一人の男が歩いていた。

 ボロボロの布一枚をはおっただけの服装。

 まるで薬物中毒に侵されている様な顔に誰も近づこうとはしなかった。

 しばらく歩いていると、店の前で倒れる男。

 すると、店先から店の主人が出てくる。

  「おい、ちょっとあんた。そんなトコに倒れられたらうちの商売の邪魔になるんだ。

  ほら、さっさとどいてくれ!」

 そう言って、乱暴にその男を引っ張る。

  「全く、しょうがねぇ奴だ・・」

  店主は男を道端に連れて行く。

  「ちょっと待ってろ、食い物を分けてやるからよ」

  その気前の良さはまさしく呉に息づく者の心意気。

 だが、店主は気付かなかった。その男の異変を。

 店主は店内から果物を持ってきた。

  「うちの店の果物はここらじゃ一番上手いって評判だ。それをタダで食わしてやろうってんだ。

  感謝しろ・・・よ」

  男の方を振り向いた店主は、手から林檎を落とす。

  「う、うわああああああっ!!!!」

  目の前の光景に、店主は悲鳴を上げ、腰を抜かしてしまう。

 男はそんな店主に拳を振り上げ、そのまま振り下ろした・・・。

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―――ドクン・・・ッ!!

  

  「・・・ッ!?」

  小蓮ちゃんと一緒に街を歩いていた矢先、何の前触れも無く、胸の奥が締め付けられるような

 激痛に襲われ、耐えきれなくなった俺はその場に倒れてしまう・・・。

  「ちょっと、一刀!どうしたの!?」

  俺の右腕を抱き抱えたまま、小蓮ちゃんは倒れそうになる俺を支えながら声を掛けてくる。

 何とか彼女に俺の状況を伝えようと、胸を押さえ激痛に耐えながら朦朧としてきた意識の中で声を出す。

  「む、胸が・・・し、締め付け・・・て・・・、くる・・・しい・・・!」

  「一刀・・・、一刀!!誰か、早くを医者を連れて来て!!早く!」

  

  ドドォォォオオオオオオンッッッ!!!

  

  今度は地震の様な大きな揺れが街全体を襲う。店先に並ぶ果物、野菜、魚、肉、陶器が棚から零れ落ちる。

  「な、何!?今度は何よ・・・?」

  突然の揺れに小蓮ちゃん、周囲の人達も混乱する。だが、俺にはそんな事を心配する余裕などあるはずも

 無く、朦朧とする意識を保たせようとする事に精一杯・・・。

  「小蓮様!!」

  自分の真名を呼ばれ、小蓮ちゃんが後ろを振り向くと、明命ちゃんが部下数名を連れてこっちに

 近づいてくる。何かあったのか、慌てている様子だ・・・。

  「明命、大変なの!一刀が急に苦しみ出して・・・」

  「北郷様がですか?分かりました、私の部下に介抱させましょう」

  そう言って、明命ちゃんは後ろにいる部下に指示をする。そして部下の1人が小蓮ちゃんに代わって

 俺の肩を持ってくれた・・・。

  「さぁ、急ぎましょう!ここに居ては危険です!!」

  「どういう事・・・、一体何があったの?」

  状況が把握できず、小蓮ちゃんは明命ちゃんに事情を聴く。

  「詳細は後で報告します。まずは城に・・・っ!?」

  ドガァアアアッ!!!

  「ぎゃあああっ!!!」

  「えっ!?」

  突然の叫び声に驚く小蓮ちゃん。そして俺達の前に兵装した呉の兵士がドサッと落ちてきた。

  「そんな・・・、もうここまで!」

  「え・・・?何、何がどうなっているの?」

  事情を知り、焦る明命ちゃん。事情が分からず、焦る小蓮ちゃん。

  「周泰様!ここは我々に任せ、早く尚香様を・・・、ぐわぁっ!」

  明命の前にいた兵士が突然その場から消える。否、消えたのではない。横から物凄い勢いで何かが

 その兵士にぶつかり、そのまま一軒の店中へと吹き飛ばされてしまったのだ。

  「え・・・?」

  「な・・・!」

  兵士の背後から現れた巨大な影に、二人は目が離せなくなっていた・・・。

 その傍らで、逃げ惑う街の人々・・・、倒れる者達・・・、中には死んでいる者もいるかもしれない。

 その原因である大元が今、彼女達の目の前にあった・・・。

  

―――その何とも形容し難い・・・異様な姿

 

―――人間・・・にしてはそれはあまりにも大きく・・・

 

―――熊や虎にしては二本足で立ち、毛で覆われてはいない

 

―――しかし、それは確かに生物体で、その大きな眼がこちらを見つめ逸らさない・・・

 

  「な、何・・・これ?き、気持ち悪い・・・」

  「そんな・・・、先程よりもさらに巨大になっている・・・」

  互いに別々の感想を口にする小蓮ちゃんと明命ちゃん・・・。声には出さないが、俺もその異様な光景に

 目を疑ってしまう・・・。まるで、どこかのゲームやアニメに出てきそうな化け物が今、現実として俺達の

 目の前にいるのだから・・・。

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   「な・る・ほ・ど・・・、つまり、

  

  @、廊下で、侍女の娘と鉢合せをした。

        ↓

  A、洗濯物を拾うのを手伝う。

        ↓

  B、洗濯物の中に変わった繊維で出来た服があった。

        ↓

  C、それは、天の御遣い事『北郷一刀』が来ていた

   という天の国の服だった。

        ↓

  D、それが何故、ここにあるのか?それを確かめるべく

   桃香を問い詰めていた。

 

  って、事ね?」

 

  この状況を整理する雪蓮。

  「ええ、そう言う事よ」

  不満そうな顔で、雪蓮を見る華琳。そしてすぐさま桃香を睨みつける。

  「さあ、桃香!答えなさい!一体どうして一刀の服がここにあるの!?」

  「ちょっと落ち着きなさいって・・・。そんながっついて聞かれたんじゃ

  桃香だって答えられないでしょ?」

  「・・・。そうね、あなたの言うとおりよ雪蓮。ごめんなさい、桃香」

  「そ、そんな!?私こそ、こんな大事な事黙ってて・・・!?」

  ようやく落ち着きを取り戻し、いつもの華琳になって安著する雪蓮と桃香。

  「(でも、あの華琳がここまで感情を露わにするなんて・・・、それほどの人物って事なのかしらねぇ?)」

  心の中でそうつぶやく雪蓮。

  「じゃあ桃香・・・、教えてくれるかしら?でないと、華琳にまたどやされるわよ?」

  「・・・・・・」

  雪蓮の言葉に何も言えない華琳であった。

  「分かりました。本当なら、もう少ししてから話すつもりでしたけど・・・」

  そう言って、事の顛末を告げる。

  一刀がここ成都にやって来た事・・・、そして一刀が華琳達が来る前に行方不明になってしまった事・・・、

 彼の服だけが見つかった事を始終話した。

  「そう・・・そんな事があったのね」

  「北郷さんの服、汚れていたから月ちゃんに頼んで洗ってもらっていたんです」

  「それを幸か不幸か・・・華琳にって事か」

  「北郷さんの捜索は続けているんだけど、まだ見つかったって報告が無いんです」

  「そう・・・」

  どこか不安気な表情をする華琳。

  「華琳・・・」

  華琳の頭をぽんぽんと叩く雪蓮。

  「・・・ちょっと雪蓮?」

  その行為に少しムッとする華琳であった。

 

  そんな時であった。

 

  「桃香様、北郷殿が!!」

  宮殿の扉を思い切り開け、入ってきたのは愛紗であった。

  「「「・・・・・・」」」

  そんな彼女を見る、華琳、雪蓮、桃香。

  「・・・・・・あ」

  一瞬、状況が分からずにいたが、すぐに理解出来た愛紗は慌て始めた。

  「ああ・・・、いや、華琳殿!?ち、ち、違います違います!今言ったのは北郷ではなくてでしてっ!?」

  軍神・関羽ともあろう人物が慌てふためくその姿はあまりにも滑稽に見えた。

  「愛紗ちゃん・・・」

  「「・・・・・・」」

  「・・・あ、あの・・・桃香様?」

  三人の反応に、『?』を頭の上に浮かべる愛紗。

  「愛紗・・・、華琳はすでに知っているわ。『北郷一刀』の事」

  「な、何と・・・!?」

  「ごめん・・・愛紗ちゃん。ばれちゃった・・・」

  謝る桃香に本当の意味で現状を理解した愛紗であった。

  「それで・・・愛紗。一刀がどうかしたの?」

  「は、はい・・・。先程、呉の遣いの者が。どうやら北郷殿は今、小蓮殿に保護され呉の建業にいると・・・」

  「何ですって?!」

  「愛紗、それは本当なの?」

  呉が話に上がったため、愛紗を確かめる雪蓮。

  「はい。間違いありません」

  「そっか・・・。シャオを留守番させといて正解だったわねぇ」

  「どうしますか、華琳さん?」

  「・・・・・・」

  少し考え込み、すぐに決断する。

  「一刀を引き取りに、呉に向かうわ。雪蓮、いいわね?」

  「私は別に構わないけど・・・。春蘭達はどうするの?」

  「あの子達には私から話しておくわ」

  「そ。なら私達も行くわ」

  「?」

  「うちの妹が関わっているのなら、姉の私も行かない訳にはいかにでしょ?(それに早く天の御遣い君に

  会ってみたいしね・・・)」

  「何か言ったかしら?」

  「別に・・・♪」

  何の事と言わんばかりのその表情・・・。

  「・・・・・・。まあ、いいわ。なら、先に出立の準備をしておいて頂戴」

  華琳は、深く追求する事を止めた。

  「はいはい♪」

  「それと・・・桃香」

  「はい?」

  「ありがとう・・・」

  「え?何の事ですか?」

  「あなたは一刀を保護してくれていたのでしょ?なら、私はそれに対して礼を示さなくていけないわ」

  「華琳さん・・・」

  「じゃあ、私は春蘭達に話してくるわ」

  そう言い終えると、魏の王は王宮を後にした・・・。

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  「うわあああっ!?」

  「ぎゃああっ!?」

  兵達が次々と吹き飛ばされ、一人は家の屋根に落ち、瓦が砕け散り、また一人は家の壁とぶつかり、

 口から血反吐を出し、そしてまた一人は店先の品物に突っ込み、品の山に押し潰された。

  その光景に、臆する者は決して少なくは無かった。相手が人間ならば、その様な事は無かっただろうが、

 今彼等の目の前にいる者は、おそらく人では無い・・・現実からかけ離れた存在であった。多勢に無勢・・・、

 この言葉はこの怪物には大した意味を為さなかった。

 

―――その体は、家一軒をはるか見下ろす巨体

 

―――その重さで足が直立できず曲がってしまうほどに、発達した上半身の筋肉とその左腕、右腕はない

 

―――その皮膚はまるで鉄の様な硬さで、剣や槍などでは貫けず、矢でも射ぬけない

 

―――しかし、体の箇所から異常に発達してしまった骨が、皮膚を貫き、外に露出している  

 

―――そして何よりもその怪物には二つの顔がある、二つの顔は互いに融合しあい、一方の顔がもう

 

  一方の顔を退ける形で発現している

 

―――その顔には大きな一つ目、眼球が瞼から飛び出しその目で目の前の障害となるものを見る

 

―――良く見ると、新たにもう一つの目が発現しつつある・・・

 

  現状を打破する術が無く、明命と小蓮は唯その怪物から逃げるしかなかった。

  「周泰様、ここは我々に任せ、一刻も早く尚香様を城へ・・・、がはぁっ!!」

  兵達が彼女達のために、その身を壁にしてその怪物の前に立ち塞がるが、その巨木並みに発達した

 左腕を前に、あっけなくもろくも崩れ去る・・・。

  「く・・・!」

  悔しさが明命の顔ににじみ出る・・・。

  「明命、あれは一体何のなの?!」

  小蓮は、頭に浮かぶ疑問を逃げながら明命に投げかける。

  「申し訳ありません、私にもそれが分からないのです。男が街で暴れているという報告を聞き、至急現場に

  駆け付けましたら、あのような怪物が傍若無人に暴れていまして・・・」

  「ただ暴れまわっていただけなら、どうして私達を追って来るのよ〜!」

  小蓮の言う事は最もではあるが、現に大男は自分達を追いかけて来ているのだから仕方のない事である。

  「(今、亞莎と思春殿を呼び戻すよう遣いを出したけど、このままでは城に着く所か、二人が戻って来る前に

  ・・・。駄目、それだけは!小蓮様を守る任を雪蓮様から与えられたんだ。何としても・・・!)」

  共に走っていた明命は足を止め、小蓮達に背を向け、そして追いかけて来る怪物を見据える。

 彼女の行動に思わず尚香達も後ろを振り返る。

  「明命!?」

  「小蓮様、ここは自分に任せ、早くお城にお逃げ下さい!」

  「周泰様、ならばここは自分が!」

  「あなたは自分に課せられた使命を全うして下さい!小蓮様を守るのは・・・私に課せられた使命です!」

  「・・・!」

  その若い兵士の胸にその言葉が刺さる、自分の使命・・・それは天の御遣い様を守る事。

  「私にもしもの事があれば、小蓮様をお願いします!」

  「御意!」

  「明命!!」

  「大丈夫です、時間を稼ぐだけですから!」

  「うん、死んだりなんかしたら・・・承知しないんだから!」

  その言葉を聞き、尚香の方を振り向き、にっこりと笑いながら・・・。

  「はい!」

  の二文字をしっかりと言う。

  その言葉を聞いた小蓮は、一刀と兵士と共に前へと進む。そして、明命は背中の『魂切』に手を掛け、

 目の前の敵を睨みつける。だが怪物はそれにひるむ事も無く、明命に襲いかかる。

  「お覚悟!」

  魂切を鞘から抜き、明命は怪物に立ち向かっていった。

  

  「は・・・は・・・はぁ・・・」

  「尚香様、大丈夫ですか?少し休まれた方が・・・?」

  明命と別れてから、小蓮と兵士は極力、怪物が通れないような細い道を選んで城へと向かう。

 そのため、複雑な、まるで迷路のように入り組んだ道を通ることとなり、それが必要以上の体力を

 彼女達から奪っていた・・・。

  「だ、大丈夫・・・。それよりあなたの方こそ大丈夫なの?一刀を背負っているんだし」

  そう言いながら、兵士に背負われている一刀を見る。さっきよりも顔色が悪くなっている。

  「私の事は気になさらずに。尚香様と北郷殿を守る事が私の使命です!この程度問題はありません。」

  逆に小蓮を励ますように、力強く答える兵士。そして前を見る。

  「っ!・・・尚香様、あの先を抜ければ城は目前です!もう一息ですぞ!」

  そう言われ、小蓮はその先を見る。その細い道の先に城の姿が見えた。あと少し、そう疑わなかった。

 細い道は終わり、あとは目の前に見える城の城門に向かうのみ・・・。

 

     ズドォォオオンッ!!!!

 

  だが、彼女達の行く先を阻むように、その目の前に大きな影が落ちてきた。

  「きゃあっ!?」

  「うわあっ!?」

  その衝撃で小蓮は後ろに倒れそうになるのを兵士が後ろに回って彼女を支える。

  「・・・大丈夫ですか!?」

  「う、うん・・・ありがとう」

  目の前で舞い上がる砂煙から、大きな影が現れる。

  「!?そ、そんな・・・!」

  目の前に現れたのは、明命が足止めしていたはずの怪物。しかも、先程よりもさらに大きくなっている

 ようにも見える。小蓮はその化け物を見上げると同時に、明命の姿が脳裏にをかすめる。

  「うそ・・・。そんな、明命は・・・?明命はどうしたの?!」

  「・・・周泰殿・・・っ!」

  兵士の口から、自分の隊長の名がこぼれる。そんな二人の心情など知るはずもない怪物は、小蓮達の方に

 ゆっくりと足を進めていく。

  「ひ・・・っ!」

  恐怖に体が動かない小蓮。その彼女の前に若い兵士が立ちはだかる。

  「尚香様、ここは自分が食い止めておきます!北郷殿を連れて・・・さあ早く!」

  小蓮は、兵士の背中に居たはずの一刀を探す。後ろにある家の日陰となっている壁際に横たわる彼を

 見つけ、急ぎ駆け付ける。

  「一刀・・・!一刀!ちょっとしっかりしなさいってば!」

  彼を揺するが、それでも目を開ける事は無かった・・・。

  「ぐわあぁあっ・・・!!」

  ガシャーーーンッ!!!

  その声と音がした方向を見る。そこには、無力にも怪物の左拳に殴られ、吹き飛ばされた兵士が重ねられて

 置かれていた木箱達にぶつかり、そのまま木箱の下敷きとなっている光景が広がっていた。兵士はそこから

 抜け出そうとするも、体力が残っていないせいか抜け出す事が出来ない。小蓮は彼を助けようと、一刀から

 離れ、兵士の元へと駆け寄ろうとした。だが、そんな彼女の目の前に怪物の左手が伸びる。

  「きゃあっ!?」

  小蓮の小さい体は怪物の左手にすっぽりと収まり、怪物はそのまま小蓮を持ち上げる。

  「ちょっ!離して!離してよ!離してってばぁ!!」

  怪物の手の中で暴れる小蓮。だが、怪物の手が離れる様子も無く、怪物の目が小蓮を捕える。

 小蓮はその目に射抜かれ、その恐怖に怯んでしまう。それが分かったのか、怪物は手の中の小蓮を握り潰し

 にかかった。

  「きゃああああああぁぁぁぁぁああああっ!!!!」

  小蓮の叫びが街に響き渡る。

-10ページ-

  

  ドガァアアア――――――ッ!!!  

 

  一瞬、何が起こったのか?小蓮には理解できずにいた。彼女が気がついた時には、どうしてか北郷一刀の

 腕の中にいた・・・。

  「かず、と・・・?」

  分けが分らぬまま小蓮は一刀に声を掛けるも、一刀は小蓮に目をくれる事無く、ただ前を見るばかり。

 その先には、先程まで小蓮を握り潰そうとしていた怪物がここから少し離れた場所で仰向けに倒れていた。

 ここから推察すれば、一刀は殴ったのか、蹴ったのか、何かしらの方法で怪物を吹き飛ばし、その際に解放

 した小蓮を受け止めた・・・、という事になる。しかし、自分の背丈の三倍程はあろう、その怪物を一刀が

 如何にして倒したのか・・・、小蓮には理解できなかった。 

  「・・・・・・・・・」

  一刀は無言のまま、小蓮を下ろす。

  「え、あの・・・一刀?」

  もう一度一刀を呼ぶ小蓮。しかし、一刀は振り返る事も無く、怪物の方へと近づいていく。先程までの彼と

 明らかに様子が違う事に、小蓮は恐怖と不安を抱いていた・・・。

  一刀が近づくのに気がついたのか、怪物はゆっくりと起き上がる。しかし、右腕が無いせいか、起き上がる

 のに苦労している。そして一刀が近づく前に立ち上がると、怪物は左腕を振り上げ、一刀に振り下ろした。

  「一刀!!」 

  彼の名を叫ぶ小蓮。

  「うらぁあああっ!!!」

  ドガァアアアッ!!!

  だが、その振り上げた左腕が振り下ろされる直前、一刀が怪物の腹部に右拳を叩きこむ。その拳は剣も槍も

 貫けなかったあの頑丈な皮膚にめり込み、怪物は倒れまいと左腕を使って重心をずらしながら後ろへと下がる。

  「だぁらあああっ!!!」

  ドガァアアアッ!!!

  怯んでいた怪物に容赦なく追い打ちをかける一刀。今度は左拳が腹部を捕える。ダメージがあるのか、怪物

 の瞳孔が拡散と収縮を繰り返す。

  「な、なに・・・あれ?一刀って・・・、あんなに強いの?」

  天の国の人間は皆あんな感じなのだろうか・・・と、心の中で呟く小蓮。

 一方的にやられ続けていた怪物が反撃に移ろうと行動を起こす。左腕を振りかぶると一刀に向かって左拳を

 放った。

  ブゥオンッ!!!

  だが、一刀はそれを横に簡単に避け、そしてすかさず脇の下に伸びた左腕を挟むと腰を落とした。

  「ふぅうぅうううおおおおおおっ!!!」

  腹の底から出した様な声を上げながら、一刀は自分の三倍の背丈の怪物を振り回した。反回転ほどさせると、

 一刀は怪物の腕を離す。怪物は体勢を崩し、そのまま一軒の家に向かって背中から倒れる。怪物は家を下敷き

 にして、再び仰向けに倒れる。

  「はぁあ・・・・・・・・・ッ!!!」

  一刀は右拳を大きく振り上げる。すると、一刀を中心に風が発生する。

 怪物は、再び起き上がろうとしている。一刀は、右拳を振り上げたまま、怪物に向かって駆けだして行った。

 何とか上半身を起こした怪物。だが、一刀はそんな怪物に臆する様子も無く、突撃していく。

  「ぶらぁああああああ――――――ッ!!!」

  ブゥオンッ!!!

  叫びにも似た声を上げ、一刀は怪物に向かって風を切る様な音を立てながら右拳を放った・・・。

 

  そして一瞬の静寂・・・。

 

  ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!!

 

  その静寂を切り裂くその轟音と共に寸止めされた右拳の前から怪物に向かって青白い光が大量に放たれる。

 一瞬にして光に包みこまれる怪物。そして光は怪物の背後を通過し、建業の街の中を横断するかのように

 進んでいき、怪物を末端から掻き消していく。

  「がぁああああッ!!!」

  右拳にさらに力が込められる。途端、光はさらに大きく、高速になっていく。怪物はもはや影と化し、

 光の進む方向へと跡形も無く消滅していった・・・。光は次第に中心へと収束し、消滅した。残ったのは光が

 通った後のみ・・・。

  「・・・・・・」

  「・・・・・・」

  その想像を絶した光景に小蓮と兵士は言葉を失い、ただそれを見ているだけであった。怪物をこの世から

 消し去った北郷一刀の姿を・・・。

  「・・・ぅ、ぅう・・・、うぁあああッ!?」

  「・・・一刀っ!?」

  急に胸を押さえ、苦しみ出す一刀。唖然としていた小蓮は我に返り、一刀の元へと近づこうとした。

  「・・・っ!」

  小蓮に反応するように一刀は小蓮から遠ざかる。

  「一刀!?」

  胸を押さえながら、一刀は小蓮から逃げ出すかのようにその場から去っていってしまった。

  「待って、一刀!!どこに行くの!・・・一刀!」

  追いかけようにも気がつけば姿は無く、彼が何処に行ってしまったのか・・・、分からなくなってしまった。

  「小・・・蓮・・・様」

  「明命!?」

  後ろを振り返る小蓮。そこには足を引きずり、ぼろぼろになった明命の姿があった。今にも倒れそうな彼女

 の元に駆け寄り、体を支える小蓮。小蓮に支えられながら、明命は辺りを見渡し、ある人物の姿が無い事に

 気がつく。

  「・・・あれ、北郷殿は・・・?」

  「一刀は・・・」

  小蓮は悲しそうな顔で、明命に事情を説明した・・・。

-11ページ-

    

 

  建業での事の顛末を遠い別の場所で監視しているかのように見ていた男がいた。

  「うっふふふ・・・、いやいやまさかこんな所で意外なモノを見つけちゃうなんてね〜♪」

  「おや・・・何か楽しそうじゃのう?何かあったのか、小僧っ子・・・」

  「まぁね・・・、思わない所で探し物を見つけたからさ」

  「ほぉ〜・・・、それはまた運が良い事。良かったじゃぁないか」  

  「・・・でも、あの能力(ちから)、常人のモノにしてはぁねぇ〜♪きっと連中が絡んでいるよね。

  あの二人にも言っておいた方が・・・、良いかも知れないね」

  そう言って、男は手に持っていたグラスを口に近付け、そのまま中の液体を飲みほした・・・。

-12ページ-

 

 

  魏から連れて来た自分の部下達を自分の部屋に集めた華琳は、彼女達に要点だけを言った。

  「・・・華琳様、今何と?」

  華琳が言った事がいま一つ理解できずにいる夏侯惇こと、『春蘭』。

  「北郷が・・・呉に?」

  華琳の言った事がにわかに信じ難いという顔をする荀ケこと、『桂花』。

  「ええ。先程、呉の遣いが来てそう言っていたらしいわ」

  「そうですか・・・」

  華琳の言った事を、冷静に受け止めようとする夏侯淵こと、『秋蘭』。

  「兄ちゃんが・・・帰って来た!流琉、兄ちゃんが帰って来たって」

  「うん、兄様が帰って来たんだね・・・!」

  喜びを露わにして、親友に話しかける許緒こと、『季衣』。

  そして、喜びの余り少し涙ぐむ典韋こと、『流琉』。

  「ああー・・・」

  「・・・・・・」

  ばれちゃいましたかと言いたげな顔をする程cこと、『風』と深くため息をつく郭嘉こと、『稟』。

  「それで、私はこれから呉赴き、一刀を引き取りに行くのだけれど・・・。誰か同伴したい子は

  いるかしら?」

  「はっ!」

  「ボクも行きます!」

  「私も」

  「風もですー」

  「自分も行きます」

  「姉者達が行くのなら私も行った方がよろしいでしょう」

  「私も付いて行きます」

  「何だ、桂花も来るのか?」

  「何よ、何か問題でもある?」

  「桂花も兄ちゃんに会いたいんですよ、春蘭様♪」

  「なっ!?だ、誰があの全身精液男なんかに会いたいっていうのよ!私はただ・・・、

  挨拶もなしに勝手に居なくなった無礼者を・・・!」

  「何だ。やはりお前も北郷がいなくて寂しかったんじゃないか」

  「なっ!?誰もそんな事を言っていないでしょう!」

  「まぁ、そういってやるな姉者」

  「ちょっと!人の話を聞きなさいってば!!!」

  「ふふっ、なら皆。急いで出立の準備をしなさい。雪蓮達が先に待っているわ」

  「「「「「御意」」」」」

  すぐさま準備すべく、部屋を急ぎ出ていく四人。そこには華琳と、風と稟が残った。

  「・・・さて、風、稟」

  「はい〜」

  「はっ」

  「あなた達は知っていたのでしょう?一刀がこの成都に居た事を?」

  「まぁ・・・、成都に向かう途中でお兄さんを拾ってきましたからね〜」

  「申し訳ありません。いち早く華琳様に伝えるべきだったのですが・・・」

  「その件については、桃香から聞いているわ。私達を気遣っての事でしょう?ならば、それ以上の事を

  追及したりはしないわ」

  「はっ」

  「それで・・・、あなた達から見て、どうだったかしら?」

  「そうですね〜。あの頃に比べると少し大人っぽくなった感じがしましたね」

  「それに加えて強かさもついていました」

  「でも・・・相変わらず種馬でしたね〜」

  「そう・・・。種馬なのは、相変わらずなのね」

  「はい〜♪」

  「まぁ・・・、それがあっての・・・一刀殿かと」

  「ふふ、そうね。・・・私の話はこれで全部よ。あなた達も早く行きなさい」

  「では、失礼します〜」

  そう言って、二人も部屋から出ていく。そして華琳だけが、その部屋に残った。

  「一刀・・・、あなたはどうして・・・私の物にならないの?」

  その問いに答える者はいなかった・・・。

-13ページ-

 

  それから、六日後・・・呉の首都・建業。

 

  「・・・・・・」

  雪蓮は言葉を失った。

 その無残にも瓦礫と化した自分達の街の姿を見て・・・。

  「何だ、これは!一体何があったのだ」

  その変わり果てた街を見て、思った事を口にする春蘭。

  「・・・うむ。天災の類では無さそうだが、そうなると賊の仕業か?」

  「だとしてもこの有り様は賊にしてはいきすぎよ」

  秋蘭の考えに、反論する桂花。

  「・・・雪蓮」

  呆然とする雪蓮に、言葉を掛ける華琳。

  「・・・御免なさい、華琳」

  我に返って雪蓮は華琳に謝る。

  「謝る事は無いわ。変わり果ててしまった自分の街を見て、平然といられる王なんていないわ」

  「・・・・・・」

  再び街の姿を見て、沈黙する雪蓮。

  「雪蓮様!」

  その声の主の方を見た雪蓮。

  「明命、あなたどうしたの。その姿・・・!」

  そこには、全身包帯で、右腕を石膏で固定されていた明命の姿があった。、

  「明命、一体・・・何があったの?」

  本当なら、焦り狂ってしまう所を、王の威厳で何とか抑え込み、この惨状の原因を聞く。

 明命は雪蓮達に事件の大まかな状況を説明をする。だが、そんな彼女の報告を聞いていくうちに、雪蓮の

 表情は次第に呆れ返ったものへとなっていく。  

  「ご、ごめん、明命・・・。私達が聞きたいのは、そんな妄想話じゃなくて・・・、ここで何があったのか

  なんだけど・・・」

  「はい。ですから、先程の説明した内容がそうです」

  「「「・・・・・・」」」

  その場に居合わせていた者は言葉を失う。

  「・・・・・・?」

  明命は何故雪蓮達が黙ってしまったのか分からずにいる。

  「明命・・・、あなたはそれを本気で言っているの?」

  念には念を押し、雪蓮は明命に確認する。

  「そうですけど・・・?」

  明命の返答に頭を抱える雪蓮・・・。そのあまりにも現実からかけ離れた内容に、困惑を隠す事が出来ない。

  「明命、あなたはきっと怪我のせいで現実と夢が混同しているのよ、きっと。だから化け物が街で

  暴れ回った・・・なんて、そんな非現実な・・・」

  「で、ですが、雪蓮様!確かにそうなのです!信じられませんでしょうが・・・、それが事実なんです!」

  「・・・・・・」

  必死になって説明する明命に、雪蓮ももうはや何も言えなくなってしまう。

  「埒が明かないわね・・・、これでは」

  この行ったり来たりの状況に困り果てる華琳。

  「お姉様!」

  そんな所に、通りの向こうから小蓮がやって来た。そしてそのまま雪蓮の腰に抱きついた。

  「小蓮!無事だったのね」

  「うん、明命と兵の皆・・・あと、一刀が助けてくれたから」

  「一刀が?」

  小蓮の口から一刀が出た事に反応する華琳。

  「ええ、一刀がね。あの化け物をやっつけたんだから♪」

  「シャオ・・・、あなたも化け物とか言うの?」

  雪蓮に抱きついたまま、小蓮は雪蓮の顔を窺う。そこには、信じられないという顔・・・。

  「あぁ・・・!姉様!もしかしてシャオの話、信じていないのぉ〜!」

  「だって、あまりに話が逸脱しているだもの!滅茶苦茶よ!あり得ないわよ、常識的に!」

  「・・・!常識も何もないよ!それが本当のことなんだから!ねぇ、明命!」

  「はい!」

  「それを信じようとしない姉様の方がよっぽど滅茶苦茶だよ!」

  「はぁ・・・。もう、分けがわかんない・・・」

  どうしようもない姉妹の口喧嘩・・・。そんな光景を目の当たりにしながら、華琳達は華琳達で話を進める。

  「だが、それにしても北郷が、か・・・?」

  信じられないという顔をしながら春蘭は言った。

  「・・・ふぅむ。まぁ、当事者の小蓮殿が言うのだから恐らく間違い無いだろうさ・・・。それに姉者、

  北郷とてかつては警備隊を総指揮していた経験もあるのだから、あながち有り得ぬ話でもないだろう?」

  「だ、だが、秋蘭。北郷は私や凪にも勝てんような奴なのだぞ!それなのに・・・!」

  「あら?あなた、一度負けているじゃない?あんな古典的な引っかけに・・・」

  「何だと、桂花!」

  「止めなさい二人とも。そうだわ、小蓮。一刀は今、どこにいるのかしら?ここには

  来ていないようだけど・・・?」

  思い出した様に、華琳は小蓮に一刀の事を聞く。

  「・・・・・・」

  すると、小蓮はいきなり黙ってしまった。

  「どうしたの、小蓮?天の御遣い君がいるからって遣いを出したの、あなたなのでしょ?」

  小蓮を自分の腰から少し離し、話しかける。

  「・・・・・・分かんない」

  「え・・・?」

  「何?」

  「何だと?」

  「どういう事かしら、分からないって?」

  「あの時、シャオ達の前から・・・」

  小蓮は事の顛末を華琳達に告げる。一刀がその場から逃げ出すかのように去っていってしまった事を・・・。

  「華琳さまぁぁぁああああああっ!!!!」

  華琳達が考えを纏める時間を与えまいというかのように、季衣が大声を出しながら向こうから走って来た。

  「何だ、季衣。お前確か流琉達と一緒に街の復興の手伝いをしていたのでは無いのか?」

  「はい、そうなんですけど・・・。実はさっき、霞ちゃんから遣いの人が来て・・・」

  「霞から?一体何かしらね?」

  「で、これを華琳様に渡してほしいって!」

  そう言って、手に持っていた書状を華琳に渡す。

 華琳はすぐさま、その書状の内容を確認する。

  「・・・・・・何ですって!?」

  「華琳様?」

  華琳は広げたその書状を乱暴に閉じ、右手に握りしめて言い放つ。

  「春蘭、秋蘭、桂花!あなた達は急ぎ、国に戻る準備をしなさい!」

  「は?」

  「あの華琳様・・・?」

  「季衣、あなたは流琉、風、稟達に国に戻る準備をするように伝えなさい!それと、霞の遣いの者に至急、

  蜀の成都に向かわせ、そこに残してきた者達に国に帰還するように伝える様言って頂戴!」

  「わ、わ、分かりました!!」

  言われた内容を忘れないうちに、と季衣は急いで、その場を立ち去る。

  「華琳様、一体書状には、何が書かれていたのでしょうか?」

  秋蘭は、華琳に尋ねる。そして、華琳の口が開く。

 書状には・・・まさにこの大陸全土を舞台に巻き起こるであろう、新たな争乱の序章が・・・書かれていた。

説明
こんばんわ、アンドレカンドレです。
時間をかけて挿し絵の新しく描き下ろしています・・・。
といっても、不要な挿絵は極力排除し、重要なシーンを描いていくつもりです。ですので、前はあったのに今回はないというケースがあると思いますが、ご了承ください。飽くまで、再編集完全版ですので・・・。また今回の第三章・・・、この内容も半分ほど再編しました。適当に書いた内容を本来のこうしたかった形で改変しました(改悪かもしれないけど・・・)。
 それでは、真・恋姫無双〜魏・外史伝・再編集完全版〜第三章〜崩れゆく平和、新たな争乱の警鐘〜をどうぞ!!!
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コメント
スターダストさん、あと祭さんの登場は・・・、お遊び的なものです。 深く考えずにいきましょうwww(アンドレカンドレ)
スターダストさん、報告感謝します!11pはそういう仕様(小僧っ子=こぞうっこ)12pはしたたかさと読む(アンドレカンドレ)
いや〜絵がすっげーグレードアップしてんな〜、前のはバイハーに出てきそうなゾンビ見たいのじゃなくて、タダの大男だったけどこっちの方が迫力あるな。前回は剣で倒してたから、拳で倒すのはとても新鮮だった。でも、祭さんを出すのはちょっと早すぎじゃね?(スターダスト)
2p[藪から棒に・・・いきなり]・・・何かちょっと変な気がする。9p[兵士の背追われている]10p[右腕を使って]・・・右腕無いんでしょ?。11p[小僧っ子]子?12p[強かさ]きょうかさ?(スターダスト)
ふむ、色々と変更があったようですな。 なんかもう全然覚えてなくて逆に新鮮ですwwwww(峠崎丈二)
こっちの方が一刀君の戦い方っぽいかなとwww(全章見ても、素手で倒しているケースが多い)。(アンドレカンドレ)
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