真・恋姫†無双 〜祭の日々〜14
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「で、結局おぬしのはなんだったんじゃ?」

 

襄陽への道すがら、祭さんのそんな質問に俺は疑問符を浮かべる。

「俺のって?」

「冥琳からもらっておったろ、三つほど」

そこまで言われてようやく思いつく。

前その話をしたときのことを――というか、その後の展開を思い出して――顔が熱くなった。

「なにを思い出しとるんじゃ」

「てっ」

馬に乗っているというのに、器用に頭を叩かれた。

 

「で?」

「ああ・・・そういえばまだ見ていなかったな」

冥琳から授けれた三つの竹簡。

・・・祭さんへあてられたものは、ある種のギャグであったが。

まあたった今、退屈であるし・・・と俺は手探りで荷物からそれらを取り出した。

祭さんのものと同様、番号が振ってある。“壱”と書かれたそれを俺は取り、その他は荷物へ戻した。

「えーっと・・・なになに?」

そこに記してあったのは、以下の通りであった。

 

“おにーさんへ

  洛陽に連絡をしておきました――おそらく襄陽あたりで誰かと合流することになると思います。

  その方と協力なさるよう。

  くれぐれも無理はしませんように。

 風より”

 

「・・・風」

まったく、彼女の気配りには頭が下がる。

手の回しっぷりが半端じゃない。

「ふむ・・・誰が来るのじゃろうか」

それを読み終えた祭さんは竹簡を俺に手渡しながら、考えるように言った。

「さあ?でも、まあ・・・誰が来ても嬉しいけどさ」

「ほう・・・」

・・・でも、待ち合わせ場所も何も書いてないぞ。

襄陽は広い街だから、本当に会えるかどうか・・・少し不安だが。

たとえ誰がくるにしても、俺はその人の再会を楽しみにせずにはいられなかった。

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続けて、“弐”を開いた。

今度こそは正真正銘、冥琳からのもの。

だが、記してあった言葉はよくわからないものであった。

 

“顔を合わせたら、参を読むように”

 

それは冥琳らしい、要点だけの言葉。

「いや・・・顔を合わせたらって。誰にだろう?」

襄陽で待つという、魏の人間に?

でも、風は「合流しろ」といっていたけど・・・本当にその人に会えるかもまだわからないのに。

そう解釈していたが、祭さんの考えは違うみたいだった。

「・・・ああ、なるほど」

「ん?」

「まったく、あやつももう少し説明を入れてもいいものを・・・」

「え、祭さん?誰と顔を合わせたらなの?・・・やっぱり襄陽にいるっていう人?」

「いやいや、冥琳がそんな不確かな情報を当てにするわけなかろう。

・・・まあ、時がきたら儂が言うから、おぬしは気にせんでいい」

「?」

よくわからないが、祭さんはこの話は終わりだとばかりに馬を進めてしまった。

俺はあわててその後を追う。

 

強い風が一陣、俺たちの間を通り抜けた。

だから、そのときつぶやいた祭さんの言葉が、俺の耳に届くことはなかった。

 

「なんにせよ・・・・・・あのお人もまだまだじゃなー」

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――数日前、洛陽。

 

「・・・ああ、来たわね」

 

扉が開き、颯爽とした出立ちで玉座の間に入ってくる者がいた。

ひとり玉座に腰掛け、その者が入ってくるのを見ていた女性――華琳は、待ち人が来たことを知った。

 

「―――」

「ええ、用があったの。あなたの耳にぜひ入れておきたいことがあってね」

「―――」

「・・・ふふ、もったいぶっているわけではないわ。よくきいて頂戴ね」

「―――」

「あいつが、帰ってきたわ」

「―――?」

「一刀よ。あの馬鹿がね、帰ってきたらしいの。風から報告があったのよ」

「―――!―――!」

 

それをきくなり、その者は体を震わせた。

それは喜びなのか怒りなのか、もしくはもっと別の感情なのか。おそらくはそのすべてであろうと、華琳は理解していた。

「今、あいつは襄陽へ向かっているわ――いいえ、私が命じたわけではないわ。風の判断よ。

戦を未然に防ぐためには、最善かもしれないわ・・・ええ、そう。危険よ。なにせ敵地に潜入するのだもの」

「―――!!」

「そう、だから、あなたにお願いがあるのよ」

男の身をなぜ危険に晒すのかと吼えるその者をなだめるかのように、覇王は告げた。

「――襄陽へ行って頂戴。そして、あいつを守ってやってほしいの。

・・・それと、そうね。もう二度とどこかへ行ってしまわないように、捕まえておいてくれる?」

付け加えた言葉は、冗談交じりに、でも本気で。

その言葉をきいた者は、一瞬呆気にとられて、次ににやりと不敵に笑った。

 

「・・・そう、引き受けてくれるの。じゃあすぐに出発しなさい。あなたなら、今出ればちょうど間に合うと思うから」

 

その言葉に深く頷いて、その者は翻って玉座の間を去っていった。

 

ひとり残された覇王は、憎らしげに、悲しげに、楽しげにつぶやく。

 

「――本当なら、私が行きたかったのだけれど、ね」

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――暗闇に紛れる、小さな人影。

その人影は周りをしっかりと確認しながら、確実に目的の場所へと近づいていく。

足音には細心の注意を払い、しかしけして遅くはならないように、と歩を進める。

 

「・・・!」

 

目的地が見える。その前には、ひとりの門番が立っていた。

軽く体をストレッチし、そのまま深く腰を落とした。

狙いを定め、手にした武器を握り締める。

タイミングを計り、リズムに合わせて呼吸する。

 

ふっ―――!

 

武器を刃を反対にして真っ直ぐ、門番の男の鳩尾に伸ばした。

「がッ…ぁ!!」

門番は低くうめいて、その身を沈ませる。

彼が持っていた灯が落ちる前に、人影はそれを掴み取った。

灯が照らす、その、顔は――。

 

「・・・ごめんなのだ、でも、しょうがないのだ」

 

虎の髪留めをつけた紅い髪に、あどけなさを残す顔立ち。

桃園の三姉妹の末っ子、張飛翼徳・・・鈴々であった。

 

門番を移動させ、彼が守っていた牢の見下ろした。

「・・・お姉ちゃん?大丈夫?」

「え・・・鈴々、ちゃん・・・?」

その声に、鈴々はほっとした。

「そうなのだ、ちょっと待ってて――今、鍵を開けるから」

 

彼女はずっと疑問で仕方なかった。

どうしてみんな、義姉を悪者にするのだろう、と。

確かに最近の義姉は態度がおかしくて、恐ろしいと思ってしまうような言動だってしていた。

だが、牢に入れることないじゃないか!

かばってくれていると思っていた愛紗まで、牢に入れるほかないと言い出す始末。

 

「鈴々ちゃん・・・」

「お姉ちゃんは、確かに悪いことをしたかもしれないけど・・・でも、鈴々は味方なのだ」

 

優しい姉。あたたかなぬくもりをくれる、大切な人。

戦で家族を残らず失った鈴々にとって、桃香はいったいどれだけ尊い者であったか。

幼いながらに天賦の才を持ち、それを発揮した鈴々は、周りから武人と見られることが多かった。

もちろん、子どもと思われることもあったが、それは大体にして侮られるときだけだったのだ。

だから――。

武人ではなく年相応の少女として、彼女に優しさをもって接してくれる桃香のことを――どれだけ鈴々が慕っていたか。

 

――かちゃん。

 

「開いたのだ!」

音を立てて錠が開く。

鈴々は牢から義姉を救い出し、その手を強く握った。

「お姉ちゃんは鈴々が守るのだ!一緒に逃げるのだ!」

そのまま手を引いて、来た道を戻っていく。

桃香はそんな鈴々を色のない瞳で見つめていた。

 

「すばらしい」

 

その声は、桃香にしか聞こえない。

鈴々はその声をきくこともなく、ただ真っ直ぐに彼女の姉を逃がす道を進んでいる。

 

「なんてすばらしい姉妹愛なんでしょう。あなたは良い妹をお持ちですね、劉備?」

「・・・わ、わたし・・・」

「彼女がいれば百人力ですね――憎き曹操も、必ずや倒せることでしょう」

「でも・・・」

言いよどむ桃香を、その声は逃がさない。

「逃げるのですか?」

「え・・・」

「あなたはまた、逃げるのですか。数多の人間があなたを信じてついてきたのに、それを見捨てると?

――曹操に下ったときのように」

「あ・・・あ、ああ・・・」

「闘いに破れ、問答に破れ――平和に導くから手を貸せなどという甘言に甘えて、あなたは高らかに謳っていた理想を手放した。それを信じてついてきた人が、何人いたんでしょう。それを信じたために命を失った人が、何人いたのでしょうね?」

「・・・・・・っ」

息も荒く、桃香は心を乱される。

「ああ、大丈夫――そんなに思い悩む必要はないのです」

一変して、声は優しげになった。

「だって、ほら・・・あなたは今、ちゃんと行動を起こしているではありませんか」

「あ・・・」

「自らの理想を果たさんと、立ち向かっている・・・あなたは正しい」

「ああ・・・」

その言葉の、なんと甘いことか。

「大丈夫・・・さあ、次は何をしたら良いのか、わかりますね?」

 

桃香は笑みを浮かべながら、顔を上げる。

 

――その目は暗く、妖しい輝きを湛えていた。

 

説明
今回は色々仕込みの回ですね。
なのでころころ場面が切り替わります。ひょっとしたら読みにくいかも。
・・・楽しんでいただけたら嬉しいです。ではでは。
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コメント
霞やろか?(杉崎 鍵)
あれは誰なんでしょうかね〜(零壱式軽対選手誘導弾)
新たな魏勢と合流ですか…誰だろう?少なくとも移動力に長けていないと追いつけない…そう考えるとやっぱり『彼女』かなぁ…鈴々ちゃんの暴走(?)もあり、桃香さんはますます呪縛に囚われ、蜀ではまだまだ混乱が続きそうな予感。一体どうなるのやら…気になったんですが、魏には祭さんが生存している事って伝わっているんでしょうかね?(レイン)
最悪の誘いだ。しかし、警護が甘すぎる気もするので伏兵がいると思う。(青二 葵)
これはもう降格程度ではすまいない、追放もしくは死刑もありうる大罪です。(ブックマン)
まあある程度は仕方ないとはいえ、過去の犠牲を理由に未来の犠牲を生み出そうとしてるんだよなぁ桃香。てか鈴々の行動は…彼女が一番本能的に今の桃香がマズイってわかりそうなものなんですけどね(吹風)
神速さんかぁ……ぽいなぁ……ここはあえて祭さんと因縁のありそうな弓の人と予想してみる。その方が話的に面白そうなのでw あくまで個人的にですよw (ちなみに史実ではこちらの方が神速の名に相応しい)(ジョン五郎)
速さと言うことは遼来来のあの方ですね><(空良)
truthさんがおっしゃるように、自分も彼女が来ているような気がしてます。そして鈴々…。最早脳筋ってレベルじゃねぇぞ…。(ミドリガメ)
ダーク展開キタ! これで勝つる! どん底に突き落とされて、その穴が深いほど、引き上げてくれた手に向ける感情は尋常ではなくなるのです(邪笑 (ジョン五郎)
うわぁ・・・・腹立つわぁ・・・・吐き気が止まらなくなるほど小物臭くてたまんねえわぁ・・・・(激怒) やはりというか、蜀のメンバーは『優しさ』と『甘さ』を履き違えてますな、こうなっても仕方ないわ・・・・ 一刀、全部叩き潰せ。(峠崎丈二)
鈴々の迂闊な行動によって解き放たれた桃香は何を為すのか…祭との二人旅にはするまいと風の策(?)で魏よりの救援が襄陽で合流予定!一体誰かな〜♪(自由人)
予想通り?劉備は”誰かの”操り人形に成り果てたか・・・朱里はどう動くか?(nayuki78)
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