身も心も狼に 第13話:門にて…
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[ ワーウルフ調査日誌G

 調査の結果、失敗作を倒したのが被験体ルビナスであると判明。

 

 行方不明となっていたハリエン・マオラン・ルビナスは、

 王妃セージの出身村に居住しており、

 そこに現れた失敗作をルビナスが打倒。

 

 村を調査時ルビナスの姿を確認できなかったが、

 調査する内に村民の一人の女性がルビナスの人間形態であると発覚。

 

 その後数日、ルビナス周辺の監視の結果、

 三人が、魔王一家が人間界へ行く際同行する情報を得る。

 

 人間界へ行かれてしまっては、隠れている今以上に手が出せなくなる。

 我々は行動に出る。

 

 ]

 

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ルビナス・ハリー・マオの引越しが決定し、

この報せは直ぐに村民全員に知らされた。

 

これを聞きルビナスに懐いており、人間の姿になれたルビナスに、

狼の姿の時以上に懐くようになっていた子供達はこぞってルビナスに縋り付いた。

泣きじゃくりながら「行っちゃやだー!」と抱きつかれ、かなり心が揺れ動かされ、

どうすれば良いのかわからずにいたが、そこに助け舟が。

 

「皆、僕達は別にもうこの村に帰ってこないわけじゃないよ」

 

ハリーの声に悲しむ声が消え、

 

「休みのときなんかは村に帰ってくるようにするからね」

 

マオの言葉に納得し離れて行った。

それを見計らって、村長が三人に告げる。

 

「君達の家はそのままにしておくからね。

 人間界に引っ越すことになっても、魔界での君達の家はここだ。

 いつでも待っているよ」

 

その言葉に三人は、ルビナスは喜ぶ。

ここにも、血は繋がっていないが、家族がいることに。

 

「…それじゃ、ルビナスお姉ちゃんの家は私がお掃除する!」

 

そして、自分のことを想ってくれる妹がいることに喜び、

そんな妹をルビナスは抱きしめる。

 

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それから数日後、いよいよ魔王家と三人が人間界へ行く日が来た。

 

門のある遺跡には、既にフォーベシイ達が到着していた。

 

「やぁ、三人とも。引越しの報せ以来だね」

 

「ええ、あれから慌しかったですからね」

 

親達は軽く談笑を始めるが、その脇でほんの少し暗い二人がいた。

ルビナスとネリネだ。

 

人間形態では初対面の二人だが、フォーベシイに聞いていた容姿と、

自分に向けられる僅かに悲しみが含まれる視線から、

彼女がルビナスだと直ぐに分った。

 

「…えっと、久しぶり」

 

「はい。病弱だった所為で余りあう機会もありませんでしたね…

 お久しぶりです、ルビナスさん」

 

少し落ち込み気味に告げられた言葉に、ルビナスさんと呼ばれたことにまた少し沈む。

同じ姿、同じ匂いであるが、目の前にいる彼女はリコリスではないのだと。

 

「あれから身体の調子はどう?」

 

「ええ、問題なく健康体です」

 

暫し沈黙が続く。互いに未だ悲しみは残っていたが、

ルビナスがそれを振り払い、気を立て直してネリネに言いたいことを告げようとする。

が…その前にネリネが話し出した。

 

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「…ルビナスさん、ごめんなさい!」

 

「…何が?」

 

「私が…私がいなければリコちゃんは」

 

「その先は言っちゃだめよ」

 

謝罪の言葉を言おうとするが、それは、

何を言おうとするかを予測したルビナスによって遮られた。

 

「リコはね、ネリネが助かることを願って、ネリネと一つになったのよ。

 姿は無くてもいなくなったわけじゃないわ」

 

「でも…」

 

「ネリネがしなくちゃいけないのは責任を感じることじゃないわ。

 リコの分まで…じゃないわね。リコと一緒に精一杯笑うことよ!」

 

「っ!」

 

「確かに姿は無いけど…ここにいるでしょ」

 

ルビナスは微笑みながら、自分の肩ほどまでの背丈のネリネの胸の中心を指差す。

言われたネリネは暫く呆然とした後、指された所を、

心を包むように手を添え、そして微笑む。

 

「…ええ、そうですね。ありがとうございます、ルビナスさん」

 

「気にしなくていいわよ。それより、これからヨロシクね?」

 

「はい!」

 

つい先ほどまでの暗い空気は取り払われ、明るい笑みを交わすことが出来た。

 

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暫く話していると、門を通る時間が来た。

 

三界を繋ぐ門は、常に繋ぎ合ってはいるのだが、

繋ぎあう部分は、いわば激流の川のようなものだ。

 

それを数年の研究の末、誰もが安全に通れる門が完成したのだ。

門を通り他世界渡る時は、例えるなら荒れ狂う川の上、

激流が届かない安全な高さに端を架けるような作業を行うことで、

安全に渡ることが出来るのだ。

その橋がかけられる時間、魔界から人間界または神界へ渡れる時間は定時毎に変わる。

 

まずは一般の利用者、次いで所謂上流階級の利用者、

そして最後に王家関係者が門を渡る。

これは警備上の問題で、門の入出時に設ける警備が配置につく為だ。

 

 

いよいよ門を渡ろうとしたその時、

ルビナスは微かにだが、何かを感じ取る。

 

「どうしたの、ルビナス?」

 

立ち止まったルビナスにマオが問いかける。

周囲を見回し、少し鼻をひくつかせながら、ルビナスは告げる。

 

「…なんだろう、何かを感じるんだけど…

 マオ達は咲に行って。私はちょっと辺りを見てくる」

 

「え…でも、もう時間が」

 

「別にこれで終わりじゃないんでしょ?

 次の時間に一番に渡るから」

 

「…わかったわ」

 

そう言って渋々ながらマオは門を潜る。

その後姿がだんだんと暗くなり、やがて消える。

無事人間界へ渡ったのだ。

 

 

暫し門付近をうろうろし、特にこれと言ったものが見つからず、

時間はギリギリ人間界につながれていた為門を渡ろうとし、

やはり何かあると思い、門の前で周囲を見回す。

 

そんなルビナスに係員が君は渡らないのか?と問いかけてくる。

本来ならば、時間が来たら即バッタンなはずだが、

魔王関係者であるらしいとのことで特別に待ってくれていたらしい。

 

それに対して、気にせずどうぞ、と返そうとしたその時、

ルビナスは感じた。

 

自分に向け近付く気配に…自分に向けられる…敵意に。

 

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「急いで人間界への門を閉じて!警備員、警戒して!!」

 

門の眼前にたたずんでいたルビナスの突然の大声に何事かと思っていると、

今度は一人の警備員に向いて更に大声で叫んだ。

 

「危ない、上!」

 

自分に向けられた警告にどういうことかと上を向いてみると…異形の腕が振り下りてきていた。

 

「ァァァアアア!」

 

自分に出せる全力で駆け、ルビナスは今にも警備員を切り裂こうとする異形、

森に現れた失敗作を突き飛ばす。

 

一瞬とも呼べる速さで移動したルビナスに皆が驚くが、

次いで聞こえた壁に何かが叩きつけられる音がし、

そちらを見て、更に驚愕する。その失敗作の姿に。

 

現場を取り締まるものが門を閉じ警戒態勢をとるように指示する。

指示に従い全員が動く中、

 

「皆、気をつけて!来るわ!!」

 

最初に警告を発し、警備員を助け、失敗作と対峙していたルビナスが叫ぶ。

何が来るのかを警戒する中。それれは来た。

壁や天井、物陰から失敗作が次々と出て来た。

 

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人間のものでも、動物のものでもない異声を発しながら失敗作は襲い掛かる。

あるものは門の利用客を、あるものは係員や警備員を、あるものはルビナスを、

そしてあるものは門を目指す。

 

係員達は門を潜らせてはなるまいと作業を急ぎ、

警備員は総出で客と係員を守る為失敗作と対峙し、

そして、それらの全てを守ろうとルビナスは駆け回る。

 

こいつ等なんかに、誰も傷つけさせない…

 

人間界に行かせはしない…

 

ハリーを、マオを、ネリネを、おじ様を、セージお姉様を、

 

稟を…私は…絶対に守る!

 

決意し、ルビナスは獣人形態となり、

自分に出せる全力を解放する。

 

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獣人姿のルビナスに驚く者もいたが、彼女は自分達の味方であると、

ルビナスを信頼し、警備員は自分達の目の前の敵と対峙する。

 

幸い失敗作の速さは、以前と同じくルビナスには劣り、

全員が全員訓練されていた警備員であり、

彼等の助けもるので、これなら行ける!

と思い、ルビナスが失敗作の一体に止めをさそうとした所で、

予想外のことが起こった。

 

繰り出した拳が、失敗作の身体に当たる直前、

その拳が魔法障壁に阻まれた。

 

障壁を張られたことに驚き距離を取ると、

今度は魔力弾が放たれた。

 

ルビナスは失敗作に対する、奴らは襲うしか考えないただの異形という認識を改める。

奴らは元魔族の人間であり、魔法を使ってくる頭もあるのだと。

 

数体の失敗作が魔法を使い出してからは圧倒的に劣勢になった。

ただでさえ常人では視界に捕らえるのも困難な程の速度なのに、

魔法まで使われると対処も難しくなる。

 

それでも諦めずに皆が戦う中、

人間界への繋ぎを絶ち終えた係員が叫ぶ。

 

「そ、そいつらを早く抑えてくれ!

 こんな所で魔法でドンパチしてたら、門が不安定になる!」

 

と、言われるも非常に困難だ。

魔法を使ってこないものは倒すことが出来たが、

それでも残りの数は少なくない。

 

相手は遠慮容赦なく魔法を使ってくるので、危険と知りつつもこちらも使わざるを得ない。

 

だが、その攻防も終わりを告げられる。

先の言葉通り、門が不安定になった。

 

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ビチバチと感電するような音、ゴゴゴゴと地震のような音を発しながら、

門が唸りを上げる。

 

唸りはやがて嵐と成り、その場を掻き乱し始めた。

物が吹き飛ばされ、或いは門に吸い込まれていく。

これは人にも言えたことだ。

 

一般客係員は何とか安全圏まで非難できていたが、

戦闘していたルビナス・警備員・失敗作は違った。

 

警備員は単独ではなく複数人でチームを組んでいたので、

なんとか踏みとどまることが出来ていた。

 

失敗作は、沈黙していたものは抵抗することも無く門に引き擦り込まれ、

未だ意識のあるものは魔法と体力で踏みとどまる。

 

ルビナスは体力のみで踏みとどまっていた。

 

流されまいとする中でも、失敗作は襲い掛かって来、

爪で、豪腕で、牙で、魔法で傷つけ、または吹き飛ばそうとする。

嵐と、竜巻となっている不安定な門は、

引き込まれたら何が起こるか分らない。

少なくとも無事無傷ではいられず、むしろ命に関わることは確かだ。

と言うより、世界規模の力である門、無事でいられるわけが無い。

 

警備員は障壁を張り、可能ならば魔力弾を放って失敗作に対処しながら、

門に引き込まれまいとチームで耐えているが、

ルビナスは自身の身体強化しか魔法が使えないため体力体術で対処し耐えている。

 

今やほとんど一対多で、その上引き込まれないようにしながら移動し、

警備員を助けながら戦うルビナスは、傷をどんどん増やしていく。

 

それでも一体、また一体と遅々としたペースで数を減らしていく中、

ルビナスの耳に絶叫が響いた。

 

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声の元を見ると、一組のチームが散らされ、その内の一人が飛ばされ、

門に引き擦り込まれそうになっていた。

 

自分も引き込まれるかもしれないのを承知でルビナスは駆ける。

何とか引き込まれる前にその上を掴み、もう片方の腕の爪を床に突き立て踏みとどまる。

 

その場から離れるには両手足を使わねばならなかったので、

警備員に自分にしがみついてもらい移動する。

 

だが、そんな隙だらけなルビナスを失敗作が逃すはずが無い。

引き込まれないようにしながらでも放てる魔力弾を、ルビナスに向け放ってくる。

 

ある程度は、しがみ付く警備員が張る障壁が守ってくれたが、

それを逃れて、数個の魔力弾がルビナスを叩いてくる。

 

傷つきながらも何とか支柱にたどり着くことが出来た。

支えを得られたことに安心したのか、ルビナスは油断した。

 

ルビナスが寄りかかる支柱、その上から失敗作が降って来た。

気付くのが遅れ、碌な反応が出来ずに入るルビナスは、

未だ接近に気付かない脇にいる警備員を押し倒し、庇うように被さった。

その無防備な背中を、失敗作は容赦なく切り裂く。

 

「ッ!…ガァァアア!」

 

苦し紛れの反撃は、障壁に阻まれること無く失敗作に当たり、

身体を吹き飛ばされ、手を付く床も壁も無い空中に浮かばされた失敗作は、

そのまま門へ引き込まれていった。

 

さては魔力切れで後は力押しで来るのかと考え、周囲を見る。

見た限り魔法を使う失敗作はおらず、

その異形の身体を振るって暴れている。

 

それならば…

 

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ルビナスは、襲い掛かってきた一体を捕らえ、

共に門の前に踊り出て、捕らえていた失敗作を門に向けてブン投げる。

 

踏みとどまれば大丈夫だが、気を抜けば門に引き込まれる位置にいるルビナスに、

チャンスと思った残りの失敗作が飛び掛ってくる。

それこそがルビナスの狙いだ。

 

この位置ならば倒せなくとも、飛ばせば門に引き込まれる。

踏みとどまってその場から動かずに対処したために傷は増えていったが、

警備員の援護もあって、やがて襲い掛かってくる失敗作はいなくなった。

 

だが、ルビナスの負った傷は多く大きく、もはや立っているのもやっとであった。

 

ここにいては自分も引き込まれてしまうと、

殆ど無いに等しい力を出し、一歩踏み出そうとして、

傷の痛みに力が抜けてしまい、踏み外しルビナスの身体が門に引かれる。

 

爪を突き立てようとするも、獣人でいることもできないほどに力を消費してしまっていたらしく、

ルビナスは狼形態になってしまっていた。

 

門に引き込まれながら薄れていく意識の中、

ルビナスの頭には一人の少年のことしか浮かばなかった。

 

「り…ん…」

 

その呟きを最後に、ルビナスは門に引き擦り込まれ、

その姿が消えた…

 

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「魔界の門はどうなっている!?」

 

ルビナスを除く魔王一行が門を渡り終えた直後、

何者かの襲撃により、人間界と魔界のつながりが絶たれてから数時間、

フォーベシイ達は未だにその場を離れずにいた。

 

襲撃者の正体が失敗作であり、しかも大勢と知った時、

狙いはルビナスであると考え付いた。

 

ハリーとマオは戻ろうとするが、セージとネリネによって止められた。

 

僅かに繋がる門からは、時々スプらッたな状態の失敗作が出てきたが、

今はそれも無い。

 

「…報告によりますと、未だ門は不安定な状態にあります。

 襲撃者は全員沈黙または門に引き込まれました。

 警備員は、負傷者多数ですが死者はありません。

 利用客係員にも負傷者は出てしまいましたが、こちらも同じく死者はなし」

 

失敗作がいなくなり一先ず安全になったことにフォーベシイは落ち着けたが、

ハリーとマオは違った。

 

「ルビナスは…ルビナスはどうなったの!?」

 

娘を想って詰め寄るが、それに言いよどむ様を見、まさかと不安になり、

 

「…襲撃者と奮闘してくださっていた女性は…最後に狼の姿になり…

 門に…」

 

「「っ!?」」

 

その言葉にハリーとマオが絶望した。

顔から血の気がうせ蒼白になり、力が抜け膝を付く。

 

「…ルビナス…ルビ、ナス…うっ…ぅぅぁあああーーーー!!」

 

人間界の門の在る遺跡にハリーとマオの悲鳴が響き渡った…

 

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第13話『門にて…』いかがでしたでしょうか?

 

いやはや、反魔王派の連中、やってくれましたね…

 

今正に幸せに近付こうとしているルビナスにこの仕打ち。

 

あんた等、ルビナスに恨みでもアンのか!#

 

って、ぶっちゃけテロ組織でした。愚問ですね…

 

さて、実際はどうかは分りませんが、

 

 

門のシステムについて自分なりの設定を作っちゃいました。

 

実際はどうなんでしょう?

 

 

 

それでは、この辺で…

 

不安定な門に引き擦り込まれ、だが人間界の門にはその姿が現れず、

 

ルビナスはどうなってしまったのか?

 

次回『再会』、お楽しみに。

 

タイトルから展開が読めてしまうかもですね…

説明
…試験勉強をしなければならないのに、
次々と沸いてくる執筆欲。どうしてくれよう…

無理はいけない、我慢はいけない…
では書いてしまえ!

てなわけで、どうぞ
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コメント
MiTiさん そうでしたか、いやしかしこのまま再会の流れなんですね、よかったです(masterVEKKY)
masterVEKKYさん ぅおわ!?普通にまちがえてた!誤字報告どもです…期待させてスマソン(MiTi)
再会じゃなくて再開!? 意味深だなあ 続き待ってます(masterVEKKY)
寝覚めたら、稟のベットの中みたいなオチないかな〜(稟が「なんじゃこりゃ〜!!」と叫んだ後に楓ちゃんが「どうしたんですか稟君!!」と言って乱入、事態は更なる展開に・・・)(偽黄金戦闘士)
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