【創作百合】ジュスティーヌは何をもたらすか
[全8ページ]
-1ページ-

前書きなど

 

・この話はフィクションです

・年齢制限が必要ないと思われる程度ですが、性的な行為の仄めかしや首輪や鎖などそのような要素が含まれます

 

次ページから本文です

-2ページ-

 南フランスの某所に佇むとある伯爵家の城の前に、黄金色の首輪をつけた少女が伯爵家の侍女に連れられてやってきた。少女は伯爵の子息に慰み者として売られることになっていた。面目上は少女をその子息の両親の養子、つまりその子息の義理の妹にし、子息が援助金を彼らに渡すことになっていた。

 これはまだフランスの通貨がリーヴルやらエキュだった時代のことではない。通貨はフランですらなく、ユーロになっていた。

 それゆえ人身売買などありえなかった。しかし彼女は子息によってユーロで買い取られた。建前は援助金という名目で。

 少女の名はジュスティーヌといった。きらめく黄金色の髪は絹糸のように風になびき、南国の海のような明るい青い瞳はどこか焦点が合っていなかった。肌は雪のように白く、背はフランス人女性としては小柄で百六十センチに達していなかった。少女は花嫁衣裳のような令息に隷属をあたかも誇示するかの純白のドレスを着ていた。侍女が黄金色の首輪に鎖を取り付けたが、ジュスティーヌは顔色一つ変えず侍女に連れられて城の中に入っていった。

-3ページ-

「ドミニク様、ジュスティーヌを連れてまいりました」

 侍女はジュスティーヌをドミニクと呼んだ人物の前まで連れて行くと、失礼しましたと言って鎖を外して部屋から出て行った。

「そなたがジュスティーヌか」

 ジュスティーヌを見つめていたのは二十代半ばほどの女性だった。髪は黒曜石のように黒く、細かいウェーブがかかっていた。肌は陶磁器のように白かった。実際はジュスティーヌと同じくらいの白さであったが、漆黒の髪のおかげでジュスティーヌよりはるかに白く見えた。瞳は灰色に近い、橄欖石のような緑色だった。

「はい。ドミニクさんはどちらですか」

「私だ。私がドミニクだ」

 ジュスティーヌはドミニクによって買い取られることになっていたが、伯爵の子息というのはドミニクのことで、少女の目の前にいる女性こそドミニクだった。

 ジュスティーヌはドミニクの慰み者にもなることになっていた。そのため、ジュスティーヌはドミニクという伯爵の子息のいわば愛人のようなものになることを覚悟していた。そしてドミニクは確かに実在し、ジュスティーヌの前に現れた。しかしドミニクは女性だったのである。

 フランス語はすぐに人物の性別が分かってしまう言語であるはずなのに、何故ドミニクが女性だと分からなかったのか。なぜならばやり取りは全て英語で取り交わされ、性別が断定できる言葉は極力排除されていたからである。

 ドミニクという名前はフランス人の名前としては男女ともにある名前だ。しかし、ジュスティーヌを愛人とするということは男性としか想定しようが無かった。

「あなたのお父様の愛人になるのですか」

 伯爵の当主なら、愛人の一人や二人いてもおかしくはない。もしかしてこの女性、ドミニクの父親の名もまたドミニクというのかもしれない、とジュスティーヌは考えた。

「書面のとおり、私につかえてもらう」

 女性は「私に」と言った。つまり書面に書いてあったドミニクとは彼女のことで間違いなかった。

「ええと、書面にはドミニクさんの一切のお世話を、時には性的な慰み者にもと書いてありましたが……あの」

「そなたが言ったとおりだ」

「あの、どういう意味ですか」

「だからそなたが言ったとおりの意味だ」

「ドミニクさん、あなた……女性ですよね」

 どうやらジュスティーヌにとってその考えは想定外だったようだ。

-4ページ-

「相手の仕方が分からないのか。そんなもの教えてやるといいつつ、私も処女なわけでね……まあ、想像だけは熟練しているよ」

「つまり、要約すれば、あなたはサッフォー的な趣味をお持ちということで」

 サッフォーとは古代ギリシャの女詩人で、レスボス島(現在ではミティリニ島ともいう)で少女たちを囲んでいた人物であり、いわゆる「レズビアン」の語源になった人物である。つまりドミニクは男ではなく女性を好んでいた。

「まあ、そうだ。予想だにしていなかったのか」

 しかし「サッフォー的な趣味」と口にしたところからするとそのような女貴族が出てくる類の小説は読んだことがあるらしい。

「ですが、どんな手荒なことでも受ける覚悟はしていました」

「もし私がエリザベート・バートリのようなことをしたいと言ったらどうする」

 エリザベート・バートリとは六百人以上少女を自らの美貌のために虐殺した、ハンガリーの女貴族だ。ドミニクの漆黒の髪、陶磁器のような白い肌、ややつりあがった目つきや同じように黒ずくめの豪華なドレスは残虐なハンガリーの女貴族を連想させた。

「ええと」

「冗談だよ。でもそこまでいかないけどお前さんをみっしり調教してやるよ。まあ殺したりしないから安心していい。まあお前さんは男相手を想定していたわけのようだが、女の私相手でもちゃんと従えるのか」

「はい。あなたにでしたら身も心も捧げていいと、今思いました」

 ジュスティーヌの目の光は消えかけていた。ドミニクの一族にはいわゆる催眠の力が先天的に備わっており、狙った相手をある程度催眠術にかけることができる。目の光がうつろになったジュスティーヌにドミニクが唇を近づいてくると、少女はむさぼりついてきた。

「もう催淫が効いたか」

 催眠術には望めば催淫効果も併用することができる。少女は息を荒くしていた。

「お好きにどうぞ」

 少女がそう言うとドミニクは黄金色の首輪に鎖をつけ、反対側を壁に固定した。しかし少女は先ほど侍女にされた時のように少しも反抗しようとしなかった。

「本気か」

「はい」

 ジュスティーヌはそのままベッドの上に投げ飛ばされるが、動揺した様子は全く無かった。

「遠慮なく純潔の証を奪ってください」

-5ページ-

「貴様は人形か。従順なのもいいが、無感情というものも困るのだよ。このままだと人形を相手にしているのと変わらん。少しは反抗くらいしたらどうだ」

 ジュスティーヌのしゃべり方は異様なくらい機械的だった。ドミニクの持つ催眠の力は強く、猛獣さえも大人しくしてしまうほどであるため、ジュスティーヌをここまで服従させてしまうのも無理は無かったがドミニクは自身の催眠の力の強さに未だ気づいていなかった。

「私は、あなたの忠実な奴隷です」

「では命令だ。反抗してみろ」

 反抗しろ、という命令は奇妙に聞こえるかもしれないが、ドミニクは反抗する少女を屈服させることを望んでいた。しかし実際はあっさりと少女は屈服どころか服従してしまった。

「私の身体を使え」

 恐る恐るジュスティーヌはドミニクの耳に舌をいれてちろっと舐めてみたが、ドミニクはびくりともしなかった。

「もっとだ」

「それ以上は」

 実際は身体が冷たくなり、少女は舌をうまく動かすことができなかったのだが、ドミニクはそれに気づくことはなかった。

「できないのか」

「いや、分かりません」

「そうか、お前さんも生娘か!」

「あの、男性相手にしか知識が無いもので。今までの勉学の成果、全てが台無しです」

「何だと」

 ドミニクの脳内に、少女が男性に向けて性的な奉仕をするために本などをたくさん読んで熱心に学んでいる姿が浮かぶ。

「いえ、あなたが男性だとずっと思っていましたので」

「他の男とお前が交わっている姿がこびりついた……くそっ!」

 平民などに、この少女を渡してたまるか。いつの間にかドミニクは平民の男を相手に一人戦っていた。

「どうぞ罰を与えてください」

「では、こんな暖かいところで純潔を奪うのはやめておこう」

 ドミニクは右手の中指と人差し指をかぎ状にまげて、少女に呟く。

「まさか」

「屋内だよ。いくら私だってそこまでしないよ」

-6ページ-

 ジュスティーヌは地下牢に連れられ、下着を脱がされた状態で鎖に繋がれていた。無論ドレスの下に身につけられているはずのブラジャーも脱がされ、ドレスの下には何も見につけられていなかった。

「食べな」

 地下に戻ってきたドミニクは、マカロニチーズを盛り付けた皿を少女の前に差し出した。

「これは」

「お前の夕食だ」

「あの、フォークは」

「無いよ。これをつけて食べるんだ」

 ジュスティーヌは太腿と手首が鎖で繋がっている枷、いわゆる太腿枷を装着された。ドレスの丈は膝丈だったため、めくれ上がれ太腿どころか臀部の一部さえも見える状態になっていた。

「無理です」

「口だけで食べな」

「罰はこれだけですか」

「そうだよ……早く食べな」

 少女は食べ始めるがすぐに眉を顰めていた。ドミニクが出したマカロニチーズは料理人手作りのものなどでは到底無くアメリカ産の安価なインスタント食品で、味も粗悪なものだった。ドミニクはそれを分かってわざと少女にそれを差し出した。

「全て食べるんだ」

「私の食事は毎日こんなにまずいものですか。家でだって私、もっとましなものを食べていました」

「今日は罰だよ。本当はちゃんとしたものを出すつもりだったし、罰を与えるとき以外はちゃんとしたものを出すよ。今は全て食べるんだな」

 少女は食べ続ける。しかし口に広がるのは唾液の味と美食の国民フランス人にとっては到底我慢できない奇妙な味だけだった。

「胡椒を、胡椒を少し振りかけていただけませんか……ええと」

 ジュスティーヌはドミニクのことをどう呼んでいいのか戸惑っていた。

「私はお前の主人だ」

「お願いします、ご主人様」

「鞭一発と引き換えだ、どうする」

「お願いします」

 すかさずドミニクはバラ鞭を取り出した後少女の臀部を叩き、派手な打撃音が響き渡った。しかしバラ鞭は派手な打撃音の割には痛みが少ないため、深い傷を残すことはない。

 その後もジュスティーヌは何度かドミニクに胡椒を請いだ。その度にジュスティーヌはドミニクにバラ鞭で臀部を打たれた。

-7ページ-

(やりすぎたか)

 ドミニクはマカロニチーズを食べ終えたジュスティーヌに口付け、口腔を弄る中そう思った。せめてフランス産のオートミールあたりにしておくべきだったか。

 しかし他の男が脳裏を横切った衝撃には耐えられなかった。気づけばバラ鞭とはいえ鞭まで握っていたのだから。

 ドミニクが口を離した後、ジュスティーヌが鎖が繋がれた状態でそのまま二人の身体は重なった。ジュスティーヌが青い瞳を見開いたとき、ドミニクの右手にはルビーのような真紅の血が微かに見えた。

「どうして、私を買ったのです」

「お前の両親を『貴族』に戻すためだよ。お前たちの家柄は元々は下級貴族だったけれど、お前の先祖さんが納税を怠っていたから私の先祖がお前の先祖さんを平民にしてしまったんだよ。でも今なら金さえ出せば買える貴族の姓もある。でもそれだけでは『貴族』とはいえないから、貴族に戻す手配にかかる諸々の費用を私が出すかわりにお前を買ったのだよ。まあ面目上は経済援助だけどさ。そしてジュスティーヌ、お前は運がいいことに一日にして伯爵令嬢だよ! まあお前さんを一目見てからこれは違いないと思ったけれど……という訳だ」

「私が貴族、ですか」

「言っておく。鎖を握っているのは私ではなく、ジュスティーヌ、お前だということを」

 ドミニクは鎖を揺らして言った。

「お前のその姿は私を狂わせる。そして私はこれ以上狂わないようにお前を調教するだけだ」

「私が、あなたを狂わせるのですか」

「私だけだったらかまわない。もしお前が能力を開花させれば、フランスが滅びてしまう」

「フランスが、滅びるですって」

「今の話は忘れろ。そのくらいお前は魅惑的ということだ。今の話は忘れるんだ。さもないと、ずっとアメリカ産のインスタント食品を出すからな。さっきの話は、貴族の末裔で魅惑的なお前がいたら有力貴族たちが血みどろの争いを繰り広げてフランス全土を舞台に戦争が勃発するかもしれないということだ。私は伯爵令嬢だから、それを阻止する権限くらいはあるんだ!」

「はい、ご主人様」

-8ページ-

(ジュスティーヌが強制進化の波動を封印した者の子孫などと知れたら、どうなることか)

 それは百年戦争の末期のことだった。ジャンヌ・ダルクが神のお告げに従ってフランスを勝利に導いたのもその時だった。その時、触手を持つあらゆる生物が生んだ子供達が次々と人々を襲う怪物へと進化した。その原因は地中から湧き出た特殊な波動の力であったが、真相は謎のままであった。そこに女性が現れ、波動を封印したが封印は六百年ほど後に解かれることになっていた。その触手生物の存在はその女性の能力より一部の貴族を除いて極秘事項とされ、人々の記憶からはすっかり消えており公的な記録も消し去られていた。政治家の上層部もその一部の貴族に当たる人物に当たらなければ知らない。封印はその子孫の年齢の割に異常な若さを持った女性が、封印した跡を踏むと解放される。ジュスティーヌは十八で高校を卒業していたというのに、見た目はそれよりいくらか幼く見えた。

 その場所は、現在のパリのシテ島にあるノートルダム寺院の最奥であった。ジュスティーヌはパリに何回か出かけたことがあるが、決してシテ島には行かせてもらえなかった。何故ならノートルダム寺院に赴き、波動の封印を解いてしまいフランスを滅ばせるこということがあってはならなかったからだ。

 ドミニクがジュスティーヌを『買い』、ジュスティーヌの一族を貴族に戻したのは単なる暇つぶしや快楽だけが目的なのではなかった。無論ドミニクが女性を好み、ジュスティーヌに惚れたのは事実だが、実際は波動の封印が解かれることを防ぐことが真の目的だった。最初からドミニクの一族がジュスティーヌを買うことが決まっていたわけではなく、パリから遠く離れている南フランスの中でも最南端に住んでいる者がジュスティーヌを監視することになっていた。そしてドミニクの家が偶然にも昔から深い関係があったことが分かり、ドミニクもジュスティーヌに一目ぼれし、さまざまな特権を得られるのでドミニクはジュスティーヌを手に入れることにした。

 フランスという国のためと私欲のためという、相反するものが絶妙に交じり合った結果であった。ジュスティーヌの一族を監視している貴族たちは内容は違うがドミニクのように全員特殊能力を継承していた。ドミニクのようにその能力が著しく強い者もいる。しかし彼らもドミニクと同じように真の力には気づいていなく、また真の力の半分も発揮していなかった。

 彼らの力もまた、強制進化の波動とともに封印されていた。

 そのようなことを知らない全国のフランス国民が、ノートルダム寺院を今日も訪れている。

説明
南フランスの伯爵家の子息に少女ジュスティーヌは買い取られた。その子息は実は女性で、少女に服従を求めた。彼女が少女を買い取ったのは美しい姿に惚れたからと言うが、実は少女に重大な秘密があったからであった。百合ものです。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
452 389 0
タグ
百合 オリジナル 西洋 

Henri-Francoisさんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。


携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com