輪・恋姫†無双 六話
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「陣地の南方に曹孟徳と名乗る官軍らしき軍団が現れ、あっしらの指揮官に会いたいと…」

 

「うん、じゃあ連れてきて。」

 

「祐一!お前が決めるな!!」

 

いまいち敬語が使いこなせてない太郎からの報告を聞き、即答した祐一。怒鳴る愛紗。

 

ナイスツッコミと心の中で賛辞を送りながら親指を突き立て素敵な笑顔を愛紗に向けてみれば、完全に火に油な状態に突入した。

 

「…官軍らしき…ってどういうこと?」

 

「えと…通常官軍が掲げている旗ではなくて、曹と書かれた旗を掲げていたんです。」

 

桃香でさえチラチラと視線を送り気にしていながらも二人を置いておき尋ね、それに三郎が返事をする。

 

「おそらくですが、官軍の旗を使っていないのなら、官軍に黄巾党討伐を請われた諸侯でしょう。曹孟徳といえば許昌を中心に勢力を伸ばしている曹操さんで間違いはないと思いますし」

 

「それなら曹操さんって味方なんだよね?じゃあ挨拶はしておいた方がいい?」

 

「しかし…諸侯であると言うなら我らの手柄を横取りするということも考えられるのではないか?」

 

「あわ、愛紗さん……えと、普通の官軍ならともかく、曹操さんが噂で聞く通りの方ならそんな恥知らずなことをするとは思えません。」

 

「曹操ってどんな子なのだ?」

 

「器量、能力、兵力、財力、そのすべてを兼ね備えたような誇り高き覇者…そんな方だと聞いています。」

 

「ほわー…なにその完璧超人さん。」

 

「なあ、用件とかは何も言ってなかったのか?」

 

「お頭…えと、特に何も言ってなかったんだな。」

 

「用件なんて会って聞いてみればいいのだ!」

 

ね!お姉ちゃん!ではなくて、ね!お兄ちゃん!と祐一に目を向けてきたのは果たして何ゆえか。

 

「じゃあ曹操さんに、歓迎しますって伝えてくれる?」

 

「あの、た、大将?出向いていかなくていいんですか?」

 

「わざわざ向こうから面会を願い出てきたんだから此処で会えばいいんだよっ!……本来なら俺たちが面会させてくれと言う側ではあるんだけど。」

 

後半は聞こえないように言ったが、目的もわからぬ不確定要素、大集団を無視して放置するなんてことをする軍師たちではないだろう。朱里も雛里も。

 

「わかりやした!ではっ!」

 

 

「曹操さんか〜…朱里ちゃんたちが知ってる噂ってどんなの?」

 

「そうですね…詩をたしなみ、治世においては能臣であり、なにより乱世を生き抜く奸雄でもあるという噂でした。」

 

「治世の能臣、乱世の奸雄か…善悪定かならずといったところだな……」

 

「(乱世の奸雄、か。本当にそうなら…)」

 

チラリとたった今三人が出て行った方を窺う。

 

「そして、自分は勿論、他者に対しても誇りを求めるということと、もうひとつ…」

 

「誇り?誇りってどういう?」

 

「自分自身の存在を、自分自身で誇れるものがあるかどうかっていうようなことだろ?俺が最初に桃香に聞いた“信念”と同じような意味合いだと思うけどな。」

 

天の御使いが従っているという噂もある、と雛里が言いかけた言葉は二人の言葉と、

 

「なあ?曹操さん?」

 

「あら、わかっているじゃない。誇りとは天に示す己の存在意義。誇り無き人物は能力如何を問わず、人として下品の下品。そんな下郎は我が覇道には必要ない。……そういうことよ。」

 

一人の覇王の登場によって。

 

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「そ、曹操さん!?え、でもさっき呼びに行ってもらったばっかりなのに…」

 

「他者の決定を待ってから動くだけの人間が…」

 

「乱世を生き抜く英雄だなんて呼ばれるわけないだろ?なあ、曹操?」

 

「っ!あなた、曹操様になんて口を!」

 

「やめなさい、桂花。」

 

「は…はい…」

 

さも面白いものを見つけたという顔で眼を向ける。

 

「ふふふっ…あなた、面白いじゃない…名前はなんて言うのかしら?」

 

混乱している桃香に思考の時間をあげようと思って口をはさんだ祐一だが、予想外に食いつかれた。

 

「相沢だ。字はないから好きなように呼んでくれ。」

 

「そう、(……変わった名前ね…)それじゃあ私たちも紹介しましょうか。我が名は曹操。そして…こっちが我が軍の夏侯淵、荀ケ、それから北郷よ。」

 

「…ほんごー……あの、天の御使いのですか!?」

 

その単語に桃香が食いついた。そして、

 

「天の御使いって何?」

 

「私、説明しましたよ!?」

 

その質問をこっそりと朱里にするあたり、地味に残酷である。

 

「え?何?なんで天のってやつこんなに知られてるの?お、おい華琳?」

 

「…適当に噂を流してはおいたけど、こんなに反応されるとは思ってなかったわね…」

 

「勘弁してくれよぉ……」

 

質問のために朱里のところまで下がった祐一。北郷が着ている服がどう見ても白ランだとは思ったが、とくにツッコまずとりあえず朱里の説明に集中する。

 

そして、やはり二人を置いて話は進む。

 

「え、えと、私は劉備といいます…」

 

「そう、あなたがこの軍を率いていたの?」

 

「はい、そうですけど…」

 

「そう……なら劉備、あなたがこの乱世に乗り出したその目的は何?」

 

「私はこの大陸を、みんなが笑って暮らせる平和な国にする。それが、私の理想です。」

 

何か納得いったのか、桃香の言葉にゆっくりと一つ頷き、

 

「ならば劉備よ。今は黄巾党を殲滅するために力を貸しなさい。独力で乱を鎮める力はないでしょう?」

 

「………わかりました。申し出を受けさせていただきます。」

 

しばらく悩んだ桃香だが、静かに頷いた。

 

「そう、それじゃあこれで。共同作戦の詳細については軍師同士で話し合いなさい。そ…「ちょっとまった〜」…何?」

 

はいは〜い、と手を挙げながら呼びとめる。祐一である。

 

「あんたじゃない。俺は天の御使いに質問がある。」

 

「ゆ!?祐一しゃん!?」

 

「お、俺に?」

 

見つめる。否。睨みつける。

 

「お前の中身を、想いを見せてみろ。」

 

一刀は気圧されていた。祐一から発せられる気配に。

 

華琳を前にしたような覇気に、ではない。

 

春蘭を前にしたような闘気に、でもない。

 

だが、身に覚えのあるものであった。

 

「(ああ、そうか。)」

 

理解した。唐突に。これが何なのかを。

 

 

祖父を前にしたような、言葉にできない何かに気圧され、ウソをつくことを許さない精神状態にされていた。

 

 

それが具体的に何であるのかは、一刀にはまだ理解することができていなかったが…。

 

 

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曹操は面白そうだとばかりに静観を決め、夏侯淵と荀ケは主の意向に従うのみとばかりに何も口にはしなかった。

 

むしろ、慌てたのは劉備陣営の面々。特に朱里であった。

 

天の御使いについて祐一に二回目の説明をかなり手短にしながらも、曹操と桃香の会話も聞き漏らさないようにし、

 

提案された共同戦線の利益と不利益に意識をめぐらし、桃香の目くばせに了承の意味を込めた首肯を返し、曹操との対話が収まったことに安堵した瞬間に祐一の、ちょっと待った発言である。

 

しかも天の御使いに。こんなことなら質問を無視すれば良かったとか考えてしまいながらも、二人の会話に興味を持ってしまうのは何故か。

 

そんなのは決まっている。祐一に説明で「世に太平をもたらすと噂の天の御使い」といった時、確かに顔をゆがませたことに気づいたから。

 

何故そんな顔をしたのかを知りたかった。

 

「お前は、どうしてここに居る?」

 

「…此処って?」

 

「どうして、武器も持たずに戦場に居る?軍師か?」

 

「どうしてって…それは…」

 

「軍師か?武人か?王か?答えろ。」

 

「え、えと…警備隊長?」

 

………間。

 

「…細かいことはいいや。回りくどい聞き方じゃあわからないみたいだし、直球で聞こう。」

 

「え?…っ!!?」

 

普通の人間なら震え上がるような殺気を思いっきり叩きつけ、そして、再び問いを発する。

 

「お前の代わりなんて掃いて捨てるほどいる。俺がこの場でお前の首を吹っ飛ばしたところでその輝く白い服さえあれば【“天の御使い”は死なない】んだ。」

 

「……え?」

 

「曹操とともに戦場に立つ、光り輝く白い衣を纏った男であれば、中身なんて関係なくそいつは“天の御使い”になれるんだよ。そんなことを誇り高い曹操がするのかどうかは別にして。」

 

「ど、どういう…」

 

「お前の居た世界と違って、此処には正確な情報なんて流れない。だいたいの特徴でしか天の御使いは認知されない。だから、お前はこの瞬間にでも使い捨てられるかもしれないんだよ。」

 

「そんなことっ…」

 

「戦場でお前だけは助かるとか助けてくれるなんて都合のいいこと考えてるんなら、それか本陣に居れば安全だなんて考えで此処に居るなら、今すぐに城に帰れ。」

 

「なんっ…!?」

 

「その危険を承知しているなら、覚悟をしろ。人を殺す覚悟を。連中をケダモノなんて呼んで自分を騙すな。血を流し、断末魔の声をあげているのは紛れもなく人間だ。それも、誰にも救いの手を差し伸べられてこなかった、な。」

 

「……」

 

「そして理解しろ。お前はその、生きる人間を選ぶなんて傲慢な罪を犯す代償に、自分の命がいつでも簡単に奪い去られる場所にいるということを。」

 

「……」

 

「もう一度聞く。お前は、どうして此処に居る?」

 

「おれは…」

 

「答えろ。天の御使い。」

 

「俺は……」

 

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「俺は、華琳の覇業を支えるために。どんなところでも、いつでも華琳の隣にいる。天の御使いとして、それが今の俺にできることだから。」

 

「雑草を引き抜くようにあっさりと、お前の命が奪われるようなことがあるとしてもか?」

 

「それでも、それが俺にできることなら。他人任せにして、みんなが戦場で傷ついているときに、一人だけ城で待ってるなんてしたくない。」

 

黙る。北郷の目を、祐一の目を互いに見つめあう。

 

その場にいたほとんどがその二人の会話、いや、祐一の言葉に圧倒されていた。例外は曹操くらいだろうか?

 

その曹操さえも、二人のやり取りに驚愕に近い感情を、知らず表に出していた。

 

数秒間見つめあっていたが、不意に祐一が笑みをこぼす。

 

「俺は祐一だ。真名な、これ。好きに呼んでくれ。」

 

「い、いいのか?そんな簡単に…」

 

「ああ、答えの内容は俺としては若干微妙だったが、その“思い”は確かみたいだしな。信頼に値する。」

 

先ほどまでの雰囲気を霧散させて悪戯っぽさ全開の笑顔を見せ手を差し出す。

 

「そっか…じゃあ、俺は真名がないから、一刀って呼んでくれ。これが俺にとっての真名みたいなものだから。」

 

「ああ、じゃ、今はよろしくだな、一刀。」

 

二人は堅く手を握り合った。

 

 

これが、【覇王・曹操】と【義王・劉備】の、そして【天の御使い・一刀】と【異国の奇人・祐一】の最初の出会いであった。

 

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北郷一刀

 

    言わずと知れた天の御使い。舞い降りた先は曹魏。

    基本設定は原作と変化なし。東京浅草出身。

    でも能力は原作+α。呉の一刀が一番近いかも。

    種馬スキルの開眼はもう少し先。

    使用武器は、普段は木刀。戦場では一応兵に支給されるものと同じ真剣。

    警備隊再編案の提出に伴って華琳により警備隊長にされて一か月。

    今は黄巾党討伐のために転戦してる。

 

説明
六話投稿です。
今回は曹操、一刀との対面。

今回の最後のページは一刀についてです。
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コメント
レイン様 一刀と祐一はなんとかいい感じの出会いに出来ました。朱里があのポジションに納まってしまったことは、僕自身結構ビックリしてます。フラグを立てるのは……誰でしょうねぇ…(笑)(柏葉端)
朱里ちゃん弄りはほどほどに(笑)…祐一君にとっての『誰かさん』ポジションですし、逆に祐一君の『主人公』スキルが生かせないじゃないですか(そこ問題?!)さてさて、主人公『達?』の邂逅も今のところ良い方向で進んで良かった×2。…さ〜て祐一君とフラグを立てるのは誰かなぁ(ニヤニヤ)(レイン)
自由人様 朱里は……あれがデフォになりつつあります。祐一にいじめられて、図らずも他の娘たちが追い打ちをかけるかたちになって、それでもけなげに頑張る朱里が執筆時の僕の脳裏にいつも浮かんでいます。本当、朱里に関しては書いてる自分自身こんなはずじゃなかったのにと思う扱いになってますね。(柏葉端)
桃香からも精神的ダメージを受けるとは…朱里がちょっと可哀想に(涙)それと今回の祐一君は以前桃香にも問うた様に一刀君にも覚悟を問いかけると…これにより一刀君の意識改革も促す訳ですね。今は手を握り合うこの二人がいずれは敵対する運命をどう受け止めるのか気になります。(自由人)
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真恋姫無双 祐一 朱里 雛里 愛紗 桃香 鈴々 唐三兄弟 一刀 

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